みーんみんみんみーん(迫真)
蝉の鳴き声が反響する竹林を、アリスは歩いていた。当然竹林の中は明るさ控えめで、涼しい。
彼女がここを歩いているのは、勿論永遠亭に用事があるからではなかった。
筍掘りをやってみたくなったからだ。
彼女の友人に、キノコ女がいる。研究のため、毎日毎日キノコばかり漁っている。ここまで聞くとただのイカレた女か、田舎の山持ちお婆ちゃんのように思えるかもしれないが、何気に最近成果を出すようになった。キノコ女は努力の人なのだ。そのため変な目で見ていた彼女も考えを改め、真似してみることにした。
筍収集を。
「……無いわねぇ」
だがどこを見ても無い。魔法の森では、キノコはそこらじゅうに腐るほど溢れているのに。
流石に歩き回って疲れたので、アリスは丁度良い大きさの岩の上に腰を降ろした。
どうしてないのだろう?
アリスは考えを巡らせた。そして辺りにニョキニョキと生えて、立派に天高くのびている竹を見て気付いた。
――――そうだ! 土を掘れば出て来るのかも知れない。
だってこんなに細いのに、長く高く立っていられるのだ。そのためには生命の勢いが大事だろう。故にきっと、地中に一気に飛び出す前の芽が潜んでいるのかもしれない。
思い立つと彼女は早い。
上海人形(ドカタ仕様)を取り出すと、土を掘らせ始めた。ドリルを使い、まるでボーリング調査のようにサクサクを土を掻き分けて行く人形たち。静かな竹林はまるで、昼間の道路調査のような状況を呈した。その時――――
「あー煩いなぁ!! 何してんのよ!! 」
てゐが騒音に負けじにと、声を張り上げながら乱入して来た。
アリスは手を止めると、ニッコリと笑顔を浮かべて振り返った。
「あら、てゐ。こんにちは」
「こんにちは、じゃねえ!!! 人が飯食ってる最中に何してんのよ!! 」
「何って――――」
アリスは困惑した表情を浮かべると、上海人形たちを見渡して一言。
「筍掘り」
「はぁ? 」
「いえ、実験材料用に集めようと思って」
「はぁ? 」
はぁ?と言う顔をするてゐ。突っ込みどころは色々あったが、まあとにかく彼女は常識的なところから突っ込むことにした。
「いや、季節違うけど」
「へ」
「筍は春だけど」
「え」
アリスは唖然とする。そして急に顔を真っ赤にして項垂れると、きゅっとスカートを握り締めた。そんな彼女を前に、てゐは溜息を吐くとヤレヤレと首を振った。
「はぁー。あんたは魔法の森に生えてるキノコと筍を一緒にしてないかい? そりゃまあ、某villageなお菓子のお陰でやたら似たもん同士な印象持たれてるけど、筍は植物だし。菌じゃないし」
「そ、そうなの……」
たらりとアリスの顎から汗が滴り落ちる。てゐの言葉が心に刺さっていた。やってしまった。
しかしてゐはシアワセウサギ。出会ったからには幸運をプレゼントする。小学生並みの筍知識はそれに該当しない。てゐもその日は機嫌が良かった。なんか可哀想になって来た。
「ほら。こっち来な」
そう言うと歩き出す。アリスも何となくその後に続いた。
そして竹藪の開けたところに出た。そしてその中心で、土鍋が火をくべられて湯気を上げていた。
そして、その隣に――――
「あら、筍あるじゃない!! 」
アリスは甲高い声を上げた。大きな筍が2つばかり立っている!
「永遠亭の冷蔵庫から拝借して来てね。まあ座って」
二人は土鍋の前に腰掛けた。そしててゐは蓋を摘んだ。
「炊けたかな? 」
土鍋の蓋を開ける。すると、もわっと白い湯気が立ち上った。そして甘そうな香りも……
「危ない薬でも作ってたの? 」
「この流れでなんでそうなる」
そう言うと、てゐは「ほら」と中を指差した。その中は、黄金色を帯びた筍ご飯。しかしアリスはそれがなんだか分からない。彼女は都会派なのだ。故に栗御飯だと思った。
「はぇ~すごく美味しそう」
「でしょー? あ、あんた知らないでしょ? これは筍ごはんと言うのさ」
筍程度に気を利かされる魔法使い。そしててゐは、ふふんと自慢げに鼻を鳴らすと、置いてあったお椀に筍ご飯を山盛りにする。アリスは目を丸くする。太りそう。
「大丈夫だって。ヘルシーだから」
そう言って、てゐはお椀を差し出した。
「ホント?」
「もちろんさ。それにほら、この香り。堪らないでしょ? 」
ぱたぱたと手を振るてゐ。甘い香りがアリス目掛けて漂い、彼女の食欲を刺激する。ごくり、唾を呑みこんだ。
「……うん、まあ」
「じゃあ食べる!! ささ、どーぞ! 」
アリスはお椀を受け取ると、箸が無いので、手で掴んで食べてみた。するとどうだろう、実に美味しいのだ!! 仄かな甘みと、筍のコリコリした触感が実に良かった。
「あら美味しい」
アリスは手で口元を押さえた。するとてゐは満足の笑みを浮かべることなく、急に真面目腐った顔をする。
「良い? アリス。筍は怪しい薬に使う様なもんじゃない。こうやって美味しいご飯に化けるのさ。それだけじゃない、筍は食物繊維が豊富で便通に効果がある。ホントさ。試しにこの筍を2つばかりくれてやるから――――」
どうやらてゐは暇だったようだ。彼女の健康談議が始まる。
翌日。
「おや、アリスこれはなんだぜ? 」
魔理沙は目の前に出された筍メニューに、目を丸くした。
「筍よ。さしずめ、貴女のライバルね」
アリスは魔理沙の向かい側に腰掛けるとそう言った。魔理沙は身を乗り出して、メニューを眺める。
「おおお……これが、あの。初めて見たぜ」
流石キノコ系女子と言ったところか。偏ってるなとアリスは思った。けれど今の彼女も、正反対だが同じようなモノだった。
「コイツも、何かに使えるかな?! 」
魔法使いの思考は揃いもそろってそれらしい。しかしアリスはノンノンと手を振った。
「貴方には無理よ。筍は私にしか使いこなせないわ」
料理の上手いアリスにこそ、筍は相応しいと言えるのだ。
「そうなのか? 」
「ええ。貴女がキノコ系女子なら、私はタケノコ系女子だから」
そして2人の晩餐が始まる。
キノコタケノコ論争の話かと思ったらタケノコの食べたくなる話だったんだよね
かわいい
筍の旬が待ち遠しい、そんな感想を覚えました。なにはともあれ、面白かったです。
サクサク読めたんですが、地の文の描写がちと物足りない気がしました。
そして筍ご飯の描写がたまらない。
腹減ってきた(迫真)
>>3 キノコタケノコ論争は大分出尽くした感がありますからね……。ま、多少はね?(意味深)
>>4 作品最高の萌場のつもりです
>>5 その前に、僕はこれからの花粉の季節を生き残れる気がしません
>>6 せやろー?!
>>8 ありがとうございます。元は文トレ作品なのですが、楽しんで頂けるとてれますねw
>>12 これは反省点ですね……。読んでくれてありがとう!
>>17 僕もお腹減りました……。お金があったら筍ご飯も良いかもしれませんね
>>24 俺も混ぜてくれよ~(幻想郷入り)
筍食べたくなってきた
書き主は百合好きってはっきりわかんだね