Coolier - 新生・東方創想話

ミステリーは話の種に

2012/08/11 00:59:55
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暗闇の館に、驚きの声が走る……

そして、”彼女”は心の中でほくそ笑んだ。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




――魔法の森、アリス邸宅。



そこで、彼女はいつものように、朝食をとっていた。


テーブルにはチェックのクロス。
端には知人に貰った花を活けた花瓶。
中央にはこんがり焼けたパン。
その横にはじっくりと煮込んだシチュー。
反対にはハーブをブレンドした紅茶。


それを優雅に、ゆっくりと食べるアリス。
その横で主の食事が終わるのを待っている(用に見える)人形。



――それは、紛れもなく彼女にとっての日常的な朝であった。

そこに――



「よう、邪魔するぜ」




白と黒の服を身にまとう、魔法使い然とした少女が来客するのも――


――また、日常だった。





「……で、何の用?」
「ん?特に何も」

嘘だ。魔理沙はよく見ると少し困った顔をしていた。

「ふふ……嘘ね、顔に書いてあるわ、相談がある、と」
「正解。流石だなアリス」


「で、何を聞きに?」
「ああ、昨日の事なんだが、変な事があってな…」

その一言に、研究家のアリスの眉が僅かに動いた。

「へぇ、貴女がに変なんて言われるなんて、相当ね」


そういうと魔理沙は苦笑いをしながら、言った。
「……ああ、そうだな。まあ聞いてくれ。それは昨日の午前10時頃、私が霧の湖を通りかかった時の事だった。その時――」




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




絹を裂くような悲鳴が聞こえたんだ。


どこからかって?……紅魔館さ。
驚いた私は急いでそちらに向かう。

あれは、小悪魔の声だった。
いつも聞いている声だから忘れるはずもない。……そうだろう?
それで、眠っている門番の横を抜けて地下の図書館に向かった。そうしたら……

無いんだ。本が。一冊たりとも。
あったのは…そうだな、役割を果たせていない本棚と呆然と立ち尽くす小悪魔。それと、むすっとした顔をしたパチュリーだった。

え?そりゃ驚くって。何百冊……いや、下手すると何千、何万冊もの本があったあの図書館に、落書き一枚置いていない。
空間をゆがめて部屋を広げなければならないほど大量にあった本が、だ。
……どう考えてもおかしいだろ?

まあそれで、私は聞いたんだ。
「どうしたんだ、一体何があったんだ」
ってな。
そうしたら小悪魔が
「分かりません……無いんです、本が……」
なんて言うんだ。

あれだけの本が一気に消えたんだ、誰かに盗まれたと考えるのが妥当だろう。
私はその時そう思った。
そして同じことを考えてる奴も居た。
パチュリーだよ。
「いらっしゃい魔理沙。早速だけど、一体どこに本を隠したの?」


あいつはそう言った。無理もない、私が同じ状況だったら真っ先に客人を疑うだろう。
とはいえ……全く、人を泥棒みたいに言わないでほしいぜ。

……なんか言ったか?
まあいい、続けるぞ。


それで、私は必死に弁明したんだ。
私は小悪魔の悲鳴に驚いてきただけで、私が盗んだわけじゃない。
本が誰に盗まれたかももちろん知らない、ってな。



で、しばらくして、ようやく認めてくれたんだよ。


それでだ。



その後紅魔館のメンバーを全員集めてアリバイを言い合ったんだ。
アリバイが無かったのは私、レミリア、美鈴、それにメイド妖精4名だ。



だが、レミリアは漫画やファンタジー以外には興味は無いし、美鈴も同じだ。
メイド妖精にいたっては文字さえ読めるかも怪しい。


――あの中で、全ての本を盗みかねないのは私しかいなかったんだよ。


パチュリーはやや表情を緩め、言ったんだ。
「あそこの本は大部分が魔導書よ。ほとんどの本は内容もタイトルも記憶しているわ、それを自動書記で書き写せばいい」


だが、再び険しい表情に戻って続けた。
「でも、私の魔法で補助した記憶も、完全ではない。一度も読んでない本もあれば、読んだのが昔すぎて記憶に無い物もある。……その一つ一つが貴重な物なのよ」

ってな。


それで、私はパチュリーはこう言った。
「それじゃあ、私の家を探せ。それで無かったら、私は犯人じゃない、だから、捜査に協力する……これでどうだ?」


ああ、もちろん私は犯人じゃないぜ。
パチュリーは少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻って言った。
「いいわ。……その間、咲夜達は紅魔館館内をお願い。小悪魔はしばらく休んでなさい。レミィ、フランはいつもどおりでいいわよ」




そして、私達は紅魔館を出て、魔法の森の私の家に向かった。




30分ぐらい飛んだかな。家についた私は、玄関を開け、パチュリーを迎えた。



「……げほっ、汚いわね。埃まみれじゃない。げほげほっ、ごほっ。ぐ……」
「うるさいやい。ほっといてくれ」

「……げほっ、そっちは健康でも、げほっ、こっちは喘息、埃は死活問題なのよ……げほっ。浄化魔法を使っても?」
「お好きにどうぞ。掃除の手間が省ける」
「じゃ、遠慮なく……『木の精、水の精よ、この地の大気を清めよ。』……」


パチュリーがそういうと埃や瘴気やキノコの胞子が吹き飛んで、空気が綺麗になったのを私でも感じ取れた。


「へぇ、便利だな。今度からやってみよう」
「何ヶ月もかけて学んだ魔法を『今度からやってみよう』でやられちゃたまんないわよ」
「見て学ぶのは私の特技だぜ」
「……否定はしないわ。あんたなら魔法を使った痕跡だけで種類まで分析しそう」
「……まさか。種類どころか使用者まで分かるぜ」
「呆れるわ。貴女本当に人間?」
「もちろん。――さあ、お目当てのものを探すといいぜ」


「そうするわ。まずはこっちの部屋……」
そう言うとパチュリーは再び奥に向かって歩き始め、一冊の本を手に取り、パラパラ、っとめくった。

「これ…じゃないわね。」

パチュリーは次々本を手に取り、返し、続ける。

「これ…でもない。これ…も違う。こっち…でもない。……というか、ほとんどが元々私のところのじゃない!」
「あー。まあ、あれだ、借りてるぜ。」
「全く……まあ今日の件で盗まれたものじゃないみたいね。……ここの部屋は全部調べたかしら。じゃ、あちらの部屋に行きましょう」
「お好きにど~ぞ~」


まあそうして探したんだが……、結論から言うと、借り物の本はあっても、盗まれた本は一冊も無かった。

「……どうやら私の誤解だったようね。すまなかったわ」
「わかればいいんだ。……まああれだけの事があれば仕方ないって」
「……ありがとう。手ががりも無かったし、紅魔館に戻りましょう」
「そうだな」




それで、私達は紅魔館に戻った。
だが、そこには思いもよらない結末が待っていた。

門を開くと、小悪魔が居た。
「大変です!」
そう叫ぶ小悪魔に、疑問を抱き、聞いたんだ。

「何があったんだ」

と。
そうしたら……

「ほ、本、本が……」
「本が?どうしたんだ?見つかったのか?」

「全部元に戻っているんです!」

「……え?」




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「以上だ。その後私は無事に帰してもらった。だが真相は闇の中だ」

「……へぇ。なるほど……」
「なあ、アリスはこの事件の真相、掴めそうか?」
「そうねぇ……」

アリスは数秒間の沈黙入った。
静かに頭の中で魔理沙の話を思い出し、噛みしめ、そして一つの結論に達した。


「……分からないわ。幻想郷には興味本位でそれが出来る人間や妖怪がごまんと居るもの」
「そうだよなぁ……。まあ、仕方ないか。あれだけの話で全部分かるわけが無いもんな」

アリスはため息をつきながら言った。

「力になれなくて残念だわ」
「良いよ別に。話をきいてもらえただけですっきりした」

そう言言われても、アリスはすっきりしない顔を変えない。

「そう?……ならいいけど」

「ああ。……話も済んだし、私は帰るぜ」


魔理沙はそういうとゆっくり席を立った。

「丁度いい。私も出かけようと思っていたところなの」

アリスも後を追うようにその席を立つ。

「……へぇ、珍しいな、普段はあんまり外出しようとしないのに」
「……それもそうね。ふふっ、……あ、そういえば」

「?、なんだ?」
「いや、確か……2ヶ月ぐらい前かしら。貴女に『貸した』本、まだちゃんと持っている?」

「えーっと、……ああ、『物質遠隔操作魔法の初歩』だな。ちゃんとあるぜ」
「そう。それは良かった」

アリスは静かに微笑みながら、玄関に歩き出した。

「それじゃ、行ってくるわね」
「邪魔したぜ」




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「おや、アリスさん。外出とは珍しいじゃないですか」

彼女の足を止めたのは、颯爽と現れた少女――
――射命丸 文だった。


「はいはい、今日も新聞の押し売り?それとも取材?」
「今日は取材です。何か面白いネタは無いですか?」
「……無いわね。あ、新聞一つ頂戴」

文は少し驚き、すぐに腰のカバンから新聞を一部取り出した。
「珍しいですね、貴女が新聞なんて。御代は30銭で」

「はいこれ」
そう言うとアリスはどこからとも無く取り出した銅貨を数枚渡した。
「毎度っ」
「買ったのは初めてだけどね……何々。……『核融合エネルギー、実用化に一歩前進』、『永遠亭の医療機械、開発に成功』……めぼしいものは無いわね」

そう言われて、文は肩を落とした。
「そうですか?これでも頑張って集めたんですけどね……」

「ああ、じゃあ昨日の取材について詳しくお願いできる?」

そう言われ、
「……え?まあいいですけど……どうしてですか?」
「いや、ちょっとこの記事に引っかかる事があってね」

「ああ、良いですよ。あれは確か――





――以上です」
話を終えた文に、アリスは言った。
「ありがとう。参考になったわ」
「何をしてるのかは知りませんが、力になれたのなら光栄ですよ……ところで今日はどちらへ?」

「ああ、言っていなかったかしら――」
文に問われ、アリスは答えた。



「――紅魔館よ」




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




――紅魔館、大図書館
幻想郷の全ての英知が集う場所だ。


アリスはその一角に立ち、そこの主の名を呼んだ。
「パチュリーは居るかしら?」

「ここよ、何の用?」

そちらを見ると幾多の本にうずもれるようにしてパチュリーが居た。


「いや、探している本があるんだけれど」
「分かったわ。小悪魔、ちょっと」

パチュリーがそう言うと、本棚の奥からもう一人の住人が現れた。

「はい、何でしょう?」
「探している本があるそうよ。お願い」
「分かりました、どのような本ですか?」

アリスは少し考え、言った。
「マリア・ディレクトガロ、と言う人物の本で。綴りは「Maria Directgalo」よ」

それを聞いた小悪魔は、了解です、と言いそのまま走り去っていった。

「用事はそれだけ?」

パチュリーにそう聞かれ、アリスは言う。
「いえ、もう一つ。昨日ここであった事件の事なんだけど……」

「あら、探偵ごっこ?こっちとしては別にどうでもいいわよ。本さえ戻ってくればそれで」
興味なさそうに言うパチュリーにアリスは言い放つ。


「いえ、犯人はもう分かってるのよ」


その言葉に、驚きを隠せない様子でパチュリーは言った。
「……ふむ。一応聞いておこうかしら」

数拍置いて、アリスは一人の人物の名前を告げた。

「実行犯は、十六夜咲夜。「短い時間のうち」に盗み、かつ「大量の本を隠せる」人物は幻想郷にもそうはいない」

それを聞き、パチュリーは笑い始めた。
「フフフ、なるほど、確かにそうかも知れないわね。でも、動機はどうなの?彼女は本を盗んだところで何の得もしないのよ?」
「そうねぇ。でも私の言ったのはあくまで『実行犯』。首謀者は別にいる」

「へぇ、それは誰かしら?」

そう聞かれ、アリスは涼しげな顔をして言った。
「その前に、もし実行犯が咲夜だとしたら、外部からの命令では動かないでしょう。となるとやはり、首謀者はここの住人となる」
「まあ、そうでしょうねぇ」
「そして彼女に命令を下せる立場にあるのは『館の主人』である『レミリア・スカーレット』、『主人の妹』である『フランドール・スカーレット』、あるいは――」

アリスは少し置いて、最後の容疑者の名を言った。


「『主人のゲスト』である『パチュリー・ノーレッジ』、貴女が犯人よ!」


そう言われたパチュリーは、眉一つ動かさず、言い放った。
「なによそれ。私が犯人?自分の本を隠させて、何の得があるの?」

アリスは淡々と言った。
「魔理沙が居る時に本を隠し、魔理沙に疑いをかけたふりをして家に潜入、以前『貸した』本を複製して取り返す。どう?」
「わざわざそうしてまで潜入する理由は?こっそり忍び込めばいいじゃない」
「ふっ……魔理沙の家は散らかっていてしかも埃まみれ。喘息の貴女が耐えられるの?」
「じゃあ、浄化魔法でも防護魔法でも使えばいい」

「あの魔理沙が、自分の家で使われた魔法の痕跡を見逃がすと?他人の魔法の分析はあいつの十八番なのに?」
「……なるほど。理屈は通らなくも無い。でも、証拠が無いわ。」

アリスは未だ淡々と、語っていた。
「証拠、ね。まずは、『魔理沙が目当て』と言う証拠。
 あの時間、魔理沙は文の言伝で『霧の湖』に向かっていた。彼女に言伝をしたのは貴女じゃないの?
 しかも、その時間は文も『ある人物』からの垂れ込みで白玉楼に向かっていた。これは小悪魔の悲鳴を聞かれたら困るから注意をそらした。違う?
 もともと紅魔館や霧の湖周辺は人も妖怪も余り寄り付かない。来るのは頭の悪い妖精と巫女に魔女。それにゴシップ好きのブン屋位よ」
「なるほど。そうして魔理沙をおびき寄せた。ふむ…辻褄が合うわね。では『咲夜が本を盗んだ』証拠は?」

パチュリーは冷静を装っていたが動揺を隠しきれていなかった。

「残念ながらそれは無いわ。でもまぁ、『貴女が消えた本を探しに行ったわけではない』証拠ならあるわ」
「へぇ。それは?」

アリスは僅かに微笑んでいた。

「ここにある魔導書を全部隠したりしたら、魔力がダダ漏れで、いちいち読まなくてもどこにあるか分かるわ。この量では、空間ごと隠したりしない限りはほぼ確実にね」
「……」
「それなのに貴女は魔理沙の家にまで出向いて、一冊一冊調べ始めた。魔法で探せばすぐなのに」

「………余りの事に動揺して大規模な魔法を使う集中力が無かったのよ」
そういうパチュリーの顔は苦しい。

「今出せる証拠はこれだけね、どうだった?」

そういうとパチュリーの顔に僅かに安堵が見えた。
「証拠不十分ね。ここでゆっくり真犯人でも探すといいわ」

そういうと、アリスが笑ってこういった。
「『今出せる証拠は』と言ったのよ、私は。もうそろそろよ」

「……?」
アリスの言葉の真意が分からず、パチュリーは混乱しているようだった。


その時だった。


「アリスさーん!見つけましたよー!」
小悪魔だった。

小悪魔は軽快に走りながら、一冊の本をアリスに手渡した。

パチュリーには未だアリスの行動の意図が分からなかった。
「……!?」

「とりあえず一冊ですが、見つかりましたよ!」
「ありがとう。引き続き、頼めるかしら?」

「ええ!」
小悪魔は爽やかに笑い、再び本を探しに行った。


そして。

「……さて。この本が最後の証拠よ。準備は良い?」
「聞かせて貰うわ」


アリスはゆっくりと口を開いた。

「この本……『物質遠隔操作魔法の初歩』は私が書いた本なのよ。一冊だけね」
「……え?」

アリスは紙を一枚取り出し、すらすらと説明を始めた。

「単純なアナグラムよ。『maria directgalo』は『alice margatroid』。
 これは本来私が魔理沙に『貸した』ものなの。貴女が魔理沙の家に向かった理由が貴女の本を探すためなら、私の本がなぜここにあるのかしら?
 答えは簡単。貴女が魔理沙の家で見た本を手当たりしだい写したから、違う?」



「…………」
そう言われ、パチュリーは。

言葉を返す事が出来なかった。


「どうなの?」
「……全部、正解よ。……昨日の出来事は全部私が仕組んだの。全部ね。私をどうする?魔理沙に突き出す?」

投げやりに言うパチュリー。だが、アリスの返答は意外なものだった。
「まっさか。そんな事をして、何になるの?」
「………え?」
「そんな事しないわよ、何の得にもならないし……それに、この本の著者が私だって、魔理沙には言って無いのよ。それをバラされたら恥ずかしいしね」

唖然として、パチュリーは口を開いた。
「じゃあ……何のために?」

するとアリスは冗談めかして言った。
「んー……。あえて言うなら……知的好奇心、とか探究心、って奴?謎があると解きたくなるでしょ?」

「えーっと、じゃあ……」
「私は貴女をどうこうするつもりは無いわ。これっぽっちもね」

パチュリーは胸を撫で下ろして、大きく息を吐いた。
「ふぅ……良かった」

それを見てアリスは無邪気に笑いながら言った。
「あ、やっぱり言っちゃおうかしら?」

「え、それは困るわ」
急に言われ驚くパチュリー。


「冗談よ、ふふっ。じゃあ代わりに―――」
いたずらに成功した妖精のような顔をしながら、彼女は言った。



「空気浄化魔法を教えてくれる?」




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




暗闇の館に、小さなため息が漏れる。

そして、”彼女”は子供っぽくほくそ笑んだ。
まみあな氏にインスピレーションを受けて作ってみましたミステリー。
難しいですね、やっぱり。展開がめちゃくちゃ。
まだまだ精進しないと。

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幻想狂騒曲
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コメント



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上手くまとまっていてサクッと読むことができました。
ただ、まとまりすぎて事件の謎や解決の魅力がやや欠けるかと。