春告精が春を告げてからしばらくが過ぎたある日の昼下がり。
霧雨魔理沙は上機嫌で春の空を飛んでいた。
「へっへー、大量だぜ」
箒の先に括り付けられた籠には、春の山菜がこれでもかとばかりに満載されている。
「ウドにゴマナ。蕨に薇、タラの芽。忘れちゃいけない春シメジ」
本日の戦利品の名前を呼びながら華麗に空中スラロームを決める。
籠の中身を落とすようなへまはしない。
「今日出かけて正解だったな。後回しにしてたら全部取られてるところだったぜ」
事の始まりは今から遡ること数時間前。
朝、自宅のベッドの上で目覚めた魔理沙はふと思い立った。
「今日は山菜取りをしよう」
思い立ったが吉日。
すぐさまベッドから起き上がって身支度を整えると、勢いよく春の空へと飛び立った。
道中、同じく山菜取りに出かけていた紅魔館のメイド長と白玉楼の庭師に遭遇したり、春の陽気に浮かれる妖精や妖怪達に道を阻まれることもあった。
時には平和的に、時には弾幕勝負も辞さず、また時には協力を結び、採取ポイントへの道を切り抜けた。
やはり咲夜と妖夢の二人と争わず、手を組んだのが正解だった。
おかげで道中かなり楽することができたと思っている。
特に咲夜は時間を止めてしまえば自分だけ好き放題に採取することも簡単だったろうに。
あれでなかなか面倒見がいいのだ、あのメイド長は。
そして、三人で戦利品を山分けした結果がこの籠の中身である。一人で食べるには多すぎる程の量。
そんなわけで霊夢に自慢がてらおすそ分けしてやろうと考え、現在博麗神社を目指して飛んでいる最中である。
あわよくばそのまま山菜料理を作ってもらおうという算段だ。
霊夢が調理した摘み立ての山菜を食べながら一杯やる。考えただけで涎が出る。
そうこうしている内に博麗神社が見えてきた。
高度を下げて境内に降り立ち、そのまま裏手に向かう。
縁側を覗き込むと、いつものように縁側で座る霊夢の姿が視界に入った。
「おーい霊夢、見てくれ。すごいだろこの大量の山菜を――って」
ぶんぶんと手を振りながら霊夢に近づく途中、違和感に動きを止める。
「あら、魔理沙じゃない」
魔理沙の存在に気づいた霊夢がちらりと眼を向ける。
いつもと変わらない様子の霊夢。
ただし、霊夢の腹部から下に見えるものを除いて。
「あー、霊夢。お前はいったい何をやってるんだ」
わざとらしく頭を掻きながら霊夢に訊ねる。
手にした籠から山菜がいくつか零れ落ちたが、気になどしていられない。
今はこの目の前の疑問を解決するのが先決だ。
「何って、見れば分かるでしょう」
「いや、まあ、見れば分かるけどさ」
やはりいつもと変わらない様子の霊夢に、魔理沙は落ち着かないように視線を泳がせる。
このまま流してしまった方がお互いに良いような気がしたが、やはり指摘しないわけにはいかない。
「なんでお前が早苗を膝枕しているんだ」
魔理沙が指差す先には、霊夢の膝の上に頭を乗せた守矢神社の風祝、東風谷早苗の姿があった。
早苗は眼を閉じて静かな寝息を立てている。
寝息に合わせて規則正しく上下している大きめな胸がなんとも嫉ましい。
「なんでって、早苗が眠そうにしてたからだけど」
何でもないというように答える霊夢。
しかし、魔理沙としてはそうは問屋が卸せない。
早苗が霊夢を膝枕しているなら分かるのだ。
魔理沙の中では、早苗が霊夢を膝枕する光景は容易に想像できても、その逆はまったく想像することができなかった。
見た目的にも、性格的にも、早苗はお姉さんっぽいオーラが出ている。
対して霊夢は早苗よりも一つくらい年下で、見た目的にも早苗と比べて色々と差がある。どこがとは言わない。
霊夢と早苗、どちらが膝枕をする側かと訊ねられれば、おそらく幻想郷のほとんど全ての者が早苗と答えるだろう。
無論、自分もその中の一人である。
そもそも膝枕をするという行為は、母性溢れるお姉さん気質の者にのみ許される行為だと思うのだ。
故に、霊夢みたいなのが早苗を膝枕するのは何か違う。否、断じて違う。
「今何か失礼なこと考えなかった」
「考えてない考えてない」
今にも針でも飛ばしそうな雰囲気の霊夢を見て、魔理沙は慌てて頭を横に振る。
毎度のことながら勘の良い奴だと心の中でぼやく。
「いや、でもなんていうか普通逆じゃないか。早苗がお前を膝枕するなら分かるんだが」
「大体いつも私が早苗を膝枕してるけど」
「まじでか」
「代わりに夜は早苗の胸を枕にしてるけどね」
「そーなのかー、ってちょっと待て。今なんか聞き捨てならない言葉を聞いた気がするぞ」
「気にするな。私は気にしない」
「私が気にするわ!」
うがーっと叫ぶ魔理沙の声に反応したのか、霊夢の膝の上の早苗がもじもじと身じろぎをする。
霊夢は早苗の頭をあやすようにそっと撫でると、魔理沙へとまっすぐに視線を向けた。
「魔理沙、騒ぐならもう帰りなさい」
霊夢の口から紡がれる静かな声。
淡々とした口調とは裏腹に、その内に込められた強い感情に魔理沙は思わず気圧される。
「分かった分かった。邪魔して悪かったな」
籠から山菜の束を一つ取り出すと、霊夢の横に投げてよこす。
そしてそのまま箒に跨り、空へと浮かび上がる。
「じゃあな。早苗によろしく言っといてくれ」
魔理沙は軽く手を上げると勢いよく大空へと飛び去って行った。
小さくなっていく魔理沙の姿を見送り、霊夢は小さく嘆息する。
「……れいむさん……?」
耳に届いた舌足らずな声に、霊夢が視線を膝の上に向けると、うっすらと眼を開けた早苗がこちらを見つめていた。
夢と現の境界をたゆたうように、翡翠色の瞳がゆらゆら揺れる。
「何でもないわ」
そっと囁いて、霊夢は早苗の髪をゆっくりと梳いてやる。
早苗は気持ちよさそうに霊夢の手に頬を摺り寄せると、また静かに寝息を立て始める。
安らかに眠る早苗の寝顔を見つめながら、霊夢は早苗の髪を優しく梳き続けた。
「ちぇっ、結局山菜食べ損ねたぜ」
自宅へと戻る途中の上空で魔理沙は独りごちる。
目論みが外れたばかりか、予想もしなかった出来事に出くわしてしまい、なんとも胸がすっきりしない。
とはいえ、あのままあの場に残ってもお邪魔虫なだけである。
人の恋路を邪魔する奴は、夢想封印されかねない。
「それにしても、霊夢が早苗を膝枕ねえ」
頭に浮かぶのは、先ほどの仲睦まじい霊夢と早苗の姿。
某烏天狗に目撃されたらきっと一面記事を飾ることは間違いない。
しかし、今まで新聞を読んでいてそのような記事を読んだ覚えはない。
いつも霊夢が早苗を膝枕しているのであれば、もうとっくに新聞の記事になっているはずではないか。
まあ、そもそもしょっちゅう博麗神社に足を運んでいる自分ですらさっき初めて見た光景なのだが。
もしかすると、某烏天狗はカメラのレンズの前に映る現実を受け入れることができず、記事を書くことができなかったのではないだろうか。
おそらく、彼女も膝枕は母性溢れるお姉さん気質の者がするべき行為という認識の持ち主だったのだ。
つまり、彼女もまた霊夢は早苗に膝枕されるよ派の一員。
「んなわけないだろ」
思い浮かんだ自身の考えに一人突っ込みを入れる。
我ながらわけの分からないことを考えているというのは重々承知している。
しかし、どうにも釈然としない気持ちを打ち消すことのできない自分がいる。
このままでは今夜は安らかに眠れそうにない。
「よし」
魔理沙は飛行進路を変更すると、そのまま勢い良くスピードを上げた。
「というわけで膝枕してくれ」
「帰れ」
開口一番そうのたまった魔理沙に、アリスは即座に玄関の扉を閉め、そのまま錠を下ろした。
その間僅かゼロコンマ5秒。見事な早業である。
慌ててドアノブを引っ掴んでがちゃがちゃと回しながら、魔理沙は扉の向こうのアリスに向かって声を張り上げる。
「ちょ、話ぐらい聞いてくれたっていいじゃないか!」
「聞いたじゃない。そして返事をしたわ。帰れって」
「そういうディスコミュニケーションは良くない!そんなんだから友達いないとか言われるんだぞお前は!」
「大きなお世話よ!それに友達くらいいるわよ!家に招待するくらいには!」
「だからそこで私という友達がわざわざ家までやってきたんじゃないか!ここはもてなしてしかるべきだろう!私とアリスの仲じゃないか!」
「そうね、犬猿の仲ですものね私たちは!だから扉を開ける必要なんて無いわよね!」
なんということだ。友人だと思っていたのはどうやら自分だけだったらしい。
犬猿の仲とは口では言いつつも、一緒に異変解決に出かけたり、魔法の研究をしたり、家に泊めてもらったりと、むしろとっくに友人以上の関係になっていたと思っていたのに。
彼女なら、自分のこの胸に居座る釈然としない気持ちをなんとかしてくれると信じていたのに。
「ひどいぜアリス!私の心を裏切ったな!謝罪と膝枕を要求する!」
「事実でしょう!人聞きの悪いこと言わないで!」
「いいから中に入れろー!」
「絶対に嫌!」
魔法の森に響き渡る二人の少女の姦しい声。
二人の声は森の入り口にある古道具屋の店主の耳まで届いたとかなんとか。
結局、それから数十分に渡る押し問答の末、最後にアリスが折れたのであった。
「つまり、霊夢に膝枕してもらっていた早苗が羨ましくなってやって来たというわけね」
「違う」
だいたい分かったわ、と呟くアリスの胸元に突っ込みを入れる。
手の裏から伝わる柔らかな弾力が実に嫉ましい。ちくしょうお前もか。
慰謝料代わりにあとで胸枕も要求しようと心に決める。
それはさておき。
「なんていうかさあ、間違ってると思うんだよ。見た目的にというか、気質的にというか、というか主に発育的に」
「まあ、たしかに早苗は結構お姉さんっぽいところがあるものね」
わざわざ博麗神社までやってきて、甲斐甲斐しく霊夢の世話を焼いている早苗の姿を見るとそう思う。
仲睦まじい早苗と霊夢の姿はまるで姉妹そのものだ。
(まあ、時々ものすごく子供っぽくなることもあるんだけど)
いつぞやの異変やゴリアテ人形を見た時のハイテンションな早苗の様子を思い出しながらアリスは心の中で付け加える。
「だろ。早苗は膝枕をする側であるはずだ。される側はなんか似合わない。そしてそれ以上に似合わないのが霊夢だ。正直、あいつが早苗を膝枕する姿なんて想像すらできなかった」
「うーん、まあ」
一方の霊夢はお姉さんという感じではない。
性格は無愛想というか、冷めているというか、どこか達観している感じである。
そういう意味では大人びていると言えるのかもしれないが、彼女が膝枕をする側であるかと問われるとまた違うような気もする。如何ともし難い。
「要するに、お姉さんっぽい人は年下っぽい人を膝枕するのが正しい姿だということだ。そんなわけで私を膝枕してくれ」
「待ちなさい」
一人で勝手に結論付ける魔理沙に、アリスはすかさず待ったをかける。
「なんでそこで私が魔理沙を膝枕しなければならなくなるのよ」
「なんでって、アリスもお姉さんって感じじゃないか。一方の私はアリスより年下だ。そんなわけでアリスは私を膝枕すべきなんだよ」
「なにそれ意味が分からない」
仰々しく両手を広げながら断言する魔理沙。
相変わらず言っていることがあまりに強引過ぎる。
やはり、霊夢に膝枕してもらっていた早苗が羨ましくなって来ただけではないのかこいつはと、アリスは呆れたように溜息をつく。
「嫌よ。私だって忙しいんだから」
「えー。いいじゃないか減るもんじゃないんだし」
「減るわよ。時間とか労力とか私の精神衛生とか色々と」
眦に力を入れて、アリスは強い視線を魔理沙に向ける。
ここで彼女を甘やかしてはいけない。
彼女のペースに呑まれたら最後、色々と面倒なことになるのは目に見えている。
今ここが最終防衛ラインだ。
「いいだろー。なんでダメなんだよー」
「うっ」
こちらをまっすぐ見つめながら懇願してくる魔理沙に、アリスは思わず狼狽する。
すがるように揺れる大きな瞳。耳をくすぐる甘えるような声。
それらがアリスの心を激しく揺らす。
なにこのチート。いきなり最終防衛ライン突破の危機。
なるほどこれが年下オーラというものか。こんなの浴びたらお姉さんイチコロですね分かります。
「なあなあ、いいだろー、アリスー」
「ううっ」
あっさり最終防衛ラインを突破されたアリスは視線を逸らしながら、ぼそぼそと喋り出した。
「最近、研究でずっと夜更かししてたからすごく眠いのよ。今日はもう寝るつもりだったの」
「お前、捨食の法使ってるはずなのになんでそうなるんだよ」
「つい習慣でずっと夜に眠るようにしていたら、眠らないとうまく頭が動かなくなって」
幻想郷に来る以前、アリスは過保護な母から常々夜は早く寝るよう言われていた。
たしかに夜更かしは美容の大敵であるし、母の言うことは間違ってはいないだろう。
とはいえ、年頃の、しかも魔法使い志望である少女に対して夜8時までに寝ろというのは正直無理がある。
「たくさん寝ないと大きくなれないわよ、アリスちゃん」という言葉と共にサムズアップする母の幻影が眼に浮かぶ。
明らかに子供扱いである。このまま家にいたら魔法使いになれるはずがないと思った。
故に、自分は捨食の法を習得して魔法使いになり、母の元から出て行ったのだった。
しかし、習慣とは恐ろしいもので、幻想郷に来てからも夜8時にはベッドに入ってしまっている自分がいた。
それから活動時間を夜半過ぎまで変えていくのにどれだけ苦労したことか。
「魔理沙、悪いことは言わないわ。今のうちに夜更かしする癖をつけておきなさい」
「お前はいったい何の為に魔法使いになったんだ」
魔理沙は呆れた眼でアリスを見る。
睡眠は魔法使いを駄目にする。とりあえずよく覚えておくことにする。
しかし、そうだとするとアリスの大事な睡眠時間を邪魔してしまったようで何だか申し訳ない気分になる。
「悪かったな」
珍しく殊勝な様子の魔理沙に、アリスはそっと嘆息する。
そして傍らのソファーに座ると、ぽすんと自身の膝を叩いた。
「ほら、いいわよ」
「え、いいのか?」
「少しだけなら、ね」
「おう、ありがたく堪能させていただくぜ」
言うが早いが魔理沙はソファーに横になると、アリスの膝の上にこてんと頭を乗せた。
(おお)
頭を包み込む柔らかい感触と体温の温かさ。
家のベッドに置いてある枕とはまるで別次元のそれに、魔理沙はうっとりと頬を緩ませる。
(やばい、気持ち良い)
正直、侮っていた。
まさか膝枕がここまで気持ち良いものだったとは。
もっとこの感触を堪能しようと顔を太腿に摺り寄せると、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
(アリスのにおい)
眼を閉じて顔を太腿に埋める。
アリスは普段香水をつけることをしない。
なのにこんなにも甘い香りがするのは何故なのだろう。
(アリスのだからかなあ)
アリスの柔らかな感触、体温、香り、その全てが魔理沙の心を安らかにしていく。
心地良い。
心地良くて意識を手放したくなる。
心地良さに包まれながらそのまま微睡に沈んでいく。
「魔理沙」
不意に肩を掴まれ、上体を起こされる。
離れていく温もりに、待ってくれと手を伸ばしたい気分になる。
「いきなり何すんだよ」
せっかく膝枕を堪能していたところを邪魔されて、不満げに唇を尖らせる。
まだ膝枕をしてもらってから10分も経っていない。たったこれだけでおしまいではあんまりである。
そんな魔理沙を覚束ない瞳で見つめながら、アリスは囁くように告げる。
「ごめん。私、もう限界」
そのままアリスは糸の切れた人形のようにパタリと横に倒れた。
自身の頭を魔理沙の膝の上にしっかりと乗せて。
「ちょ、アリス」
膝にかかる重みと温かな感触。その両方に魔理沙はうわずった声を上げた。
「お、おいおいおいおいおい起きろって」
いつになく狼狽しながら意味も無く手をばたつかせる。
一方のアリスは既に眼を閉じ、膝の上で静かな寝息を立て始めていた。
「まじかよ、まったく」
呆れたように溜息をつく。
一瞬で眠りに落ちるほど眠たかったのか。
「まったくしょうがないなあ」
ぼやきながらそっとアリスの頭に手を添え、太腿の真ん中辺りに移動させる。
「……ん」
具合の良いところに落ち着いたのか微かに声を漏らすアリス。
形の良い唇から漏れる吐息に、思わず頬が熱くなるのを感じた。
(やばっ……)
アリスの安らかな寝顔に、その唇に、視線が釘付けになる。
瑞瑞しくて、ぷっくりとした、美しい桜色の唇。
触れたらいったいどんな感触がするのだろうか。
「いかんいかん私は何を考えているんだ」
ぶんぶんと頭を振り、妙な考えを追い払う。
そこから伝わる振動に、アリスがくぐもった声を漏らす。
慌てて動きを止め、アリスの頭を具合の良い位置に戻してやる。
すると彼女は再び安らかな寝息を立て始めた。
「やれやれだぜ」
ほっと嘆息が漏れる。
結局、膝枕をしてもらうつもりが、自分が膝枕をする羽目になってしまった。
これは絶対自分には似合わないと思うんだけどなあと一人ごちる。
しかし、なんだろう。この心地良さは。
先ほど、アリスに膝枕をしてもらった時と同じようで違う心地良さ。
膝にかかる重みと温かさが全身に伝わってくるような感じ。
ふと、先ほど見た博麗神社での情景が眼に浮かぶ。
膝の上で眠る早苗の髪をそっと梳きながら、その寝顔を見つめる霊夢。
その表情は今まで見たことのないものだったように思える。
膝の上のアリスの頭にそっと手を伸ばす。
綺麗な金色の髪を梳くと、まるで金糸のようにさらさらと零れ落ちる。
「……んぅ……」
微かに声を漏らし、魔理沙の膝に頬を摺り寄せるアリス。
その寝顔は普段彼女が自分に見せたことのないもの。
純真無垢で、あどけない表情。
どきりと胸がはねる。
同時に、胸の中に温かいものが溢れ出してくる。
声にならない。言葉にならない。全身が温かさで満ちていく。
この温もりが、アリスの存在を伝えてくれる。
「へへっ」
自然、笑みが零れる。
なんとなく、分かったような気がしたのだ。
「霊夢もこんな気持ちだったのかな」
あの時見た霊夢の表情。
愛しさに満ち溢れた、やわらかな表情。
「膝枕する側も、案外悪くないな」
眠れる少女の寝顔を見つめながら、魔理沙はそっと微笑んだ。
霧雨魔理沙は上機嫌で春の空を飛んでいた。
「へっへー、大量だぜ」
箒の先に括り付けられた籠には、春の山菜がこれでもかとばかりに満載されている。
「ウドにゴマナ。蕨に薇、タラの芽。忘れちゃいけない春シメジ」
本日の戦利品の名前を呼びながら華麗に空中スラロームを決める。
籠の中身を落とすようなへまはしない。
「今日出かけて正解だったな。後回しにしてたら全部取られてるところだったぜ」
事の始まりは今から遡ること数時間前。
朝、自宅のベッドの上で目覚めた魔理沙はふと思い立った。
「今日は山菜取りをしよう」
思い立ったが吉日。
すぐさまベッドから起き上がって身支度を整えると、勢いよく春の空へと飛び立った。
道中、同じく山菜取りに出かけていた紅魔館のメイド長と白玉楼の庭師に遭遇したり、春の陽気に浮かれる妖精や妖怪達に道を阻まれることもあった。
時には平和的に、時には弾幕勝負も辞さず、また時には協力を結び、採取ポイントへの道を切り抜けた。
やはり咲夜と妖夢の二人と争わず、手を組んだのが正解だった。
おかげで道中かなり楽することができたと思っている。
特に咲夜は時間を止めてしまえば自分だけ好き放題に採取することも簡単だったろうに。
あれでなかなか面倒見がいいのだ、あのメイド長は。
そして、三人で戦利品を山分けした結果がこの籠の中身である。一人で食べるには多すぎる程の量。
そんなわけで霊夢に自慢がてらおすそ分けしてやろうと考え、現在博麗神社を目指して飛んでいる最中である。
あわよくばそのまま山菜料理を作ってもらおうという算段だ。
霊夢が調理した摘み立ての山菜を食べながら一杯やる。考えただけで涎が出る。
そうこうしている内に博麗神社が見えてきた。
高度を下げて境内に降り立ち、そのまま裏手に向かう。
縁側を覗き込むと、いつものように縁側で座る霊夢の姿が視界に入った。
「おーい霊夢、見てくれ。すごいだろこの大量の山菜を――って」
ぶんぶんと手を振りながら霊夢に近づく途中、違和感に動きを止める。
「あら、魔理沙じゃない」
魔理沙の存在に気づいた霊夢がちらりと眼を向ける。
いつもと変わらない様子の霊夢。
ただし、霊夢の腹部から下に見えるものを除いて。
「あー、霊夢。お前はいったい何をやってるんだ」
わざとらしく頭を掻きながら霊夢に訊ねる。
手にした籠から山菜がいくつか零れ落ちたが、気になどしていられない。
今はこの目の前の疑問を解決するのが先決だ。
「何って、見れば分かるでしょう」
「いや、まあ、見れば分かるけどさ」
やはりいつもと変わらない様子の霊夢に、魔理沙は落ち着かないように視線を泳がせる。
このまま流してしまった方がお互いに良いような気がしたが、やはり指摘しないわけにはいかない。
「なんでお前が早苗を膝枕しているんだ」
魔理沙が指差す先には、霊夢の膝の上に頭を乗せた守矢神社の風祝、東風谷早苗の姿があった。
早苗は眼を閉じて静かな寝息を立てている。
寝息に合わせて規則正しく上下している大きめな胸がなんとも嫉ましい。
「なんでって、早苗が眠そうにしてたからだけど」
何でもないというように答える霊夢。
しかし、魔理沙としてはそうは問屋が卸せない。
早苗が霊夢を膝枕しているなら分かるのだ。
魔理沙の中では、早苗が霊夢を膝枕する光景は容易に想像できても、その逆はまったく想像することができなかった。
見た目的にも、性格的にも、早苗はお姉さんっぽいオーラが出ている。
対して霊夢は早苗よりも一つくらい年下で、見た目的にも早苗と比べて色々と差がある。どこがとは言わない。
霊夢と早苗、どちらが膝枕をする側かと訊ねられれば、おそらく幻想郷のほとんど全ての者が早苗と答えるだろう。
無論、自分もその中の一人である。
そもそも膝枕をするという行為は、母性溢れるお姉さん気質の者にのみ許される行為だと思うのだ。
故に、霊夢みたいなのが早苗を膝枕するのは何か違う。否、断じて違う。
「今何か失礼なこと考えなかった」
「考えてない考えてない」
今にも針でも飛ばしそうな雰囲気の霊夢を見て、魔理沙は慌てて頭を横に振る。
毎度のことながら勘の良い奴だと心の中でぼやく。
「いや、でもなんていうか普通逆じゃないか。早苗がお前を膝枕するなら分かるんだが」
「大体いつも私が早苗を膝枕してるけど」
「まじでか」
「代わりに夜は早苗の胸を枕にしてるけどね」
「そーなのかー、ってちょっと待て。今なんか聞き捨てならない言葉を聞いた気がするぞ」
「気にするな。私は気にしない」
「私が気にするわ!」
うがーっと叫ぶ魔理沙の声に反応したのか、霊夢の膝の上の早苗がもじもじと身じろぎをする。
霊夢は早苗の頭をあやすようにそっと撫でると、魔理沙へとまっすぐに視線を向けた。
「魔理沙、騒ぐならもう帰りなさい」
霊夢の口から紡がれる静かな声。
淡々とした口調とは裏腹に、その内に込められた強い感情に魔理沙は思わず気圧される。
「分かった分かった。邪魔して悪かったな」
籠から山菜の束を一つ取り出すと、霊夢の横に投げてよこす。
そしてそのまま箒に跨り、空へと浮かび上がる。
「じゃあな。早苗によろしく言っといてくれ」
魔理沙は軽く手を上げると勢いよく大空へと飛び去って行った。
小さくなっていく魔理沙の姿を見送り、霊夢は小さく嘆息する。
「……れいむさん……?」
耳に届いた舌足らずな声に、霊夢が視線を膝の上に向けると、うっすらと眼を開けた早苗がこちらを見つめていた。
夢と現の境界をたゆたうように、翡翠色の瞳がゆらゆら揺れる。
「何でもないわ」
そっと囁いて、霊夢は早苗の髪をゆっくりと梳いてやる。
早苗は気持ちよさそうに霊夢の手に頬を摺り寄せると、また静かに寝息を立て始める。
安らかに眠る早苗の寝顔を見つめながら、霊夢は早苗の髪を優しく梳き続けた。
「ちぇっ、結局山菜食べ損ねたぜ」
自宅へと戻る途中の上空で魔理沙は独りごちる。
目論みが外れたばかりか、予想もしなかった出来事に出くわしてしまい、なんとも胸がすっきりしない。
とはいえ、あのままあの場に残ってもお邪魔虫なだけである。
人の恋路を邪魔する奴は、夢想封印されかねない。
「それにしても、霊夢が早苗を膝枕ねえ」
頭に浮かぶのは、先ほどの仲睦まじい霊夢と早苗の姿。
某烏天狗に目撃されたらきっと一面記事を飾ることは間違いない。
しかし、今まで新聞を読んでいてそのような記事を読んだ覚えはない。
いつも霊夢が早苗を膝枕しているのであれば、もうとっくに新聞の記事になっているはずではないか。
まあ、そもそもしょっちゅう博麗神社に足を運んでいる自分ですらさっき初めて見た光景なのだが。
もしかすると、某烏天狗はカメラのレンズの前に映る現実を受け入れることができず、記事を書くことができなかったのではないだろうか。
おそらく、彼女も膝枕は母性溢れるお姉さん気質の者がするべき行為という認識の持ち主だったのだ。
つまり、彼女もまた霊夢は早苗に膝枕されるよ派の一員。
「んなわけないだろ」
思い浮かんだ自身の考えに一人突っ込みを入れる。
我ながらわけの分からないことを考えているというのは重々承知している。
しかし、どうにも釈然としない気持ちを打ち消すことのできない自分がいる。
このままでは今夜は安らかに眠れそうにない。
「よし」
魔理沙は飛行進路を変更すると、そのまま勢い良くスピードを上げた。
「というわけで膝枕してくれ」
「帰れ」
開口一番そうのたまった魔理沙に、アリスは即座に玄関の扉を閉め、そのまま錠を下ろした。
その間僅かゼロコンマ5秒。見事な早業である。
慌ててドアノブを引っ掴んでがちゃがちゃと回しながら、魔理沙は扉の向こうのアリスに向かって声を張り上げる。
「ちょ、話ぐらい聞いてくれたっていいじゃないか!」
「聞いたじゃない。そして返事をしたわ。帰れって」
「そういうディスコミュニケーションは良くない!そんなんだから友達いないとか言われるんだぞお前は!」
「大きなお世話よ!それに友達くらいいるわよ!家に招待するくらいには!」
「だからそこで私という友達がわざわざ家までやってきたんじゃないか!ここはもてなしてしかるべきだろう!私とアリスの仲じゃないか!」
「そうね、犬猿の仲ですものね私たちは!だから扉を開ける必要なんて無いわよね!」
なんということだ。友人だと思っていたのはどうやら自分だけだったらしい。
犬猿の仲とは口では言いつつも、一緒に異変解決に出かけたり、魔法の研究をしたり、家に泊めてもらったりと、むしろとっくに友人以上の関係になっていたと思っていたのに。
彼女なら、自分のこの胸に居座る釈然としない気持ちをなんとかしてくれると信じていたのに。
「ひどいぜアリス!私の心を裏切ったな!謝罪と膝枕を要求する!」
「事実でしょう!人聞きの悪いこと言わないで!」
「いいから中に入れろー!」
「絶対に嫌!」
魔法の森に響き渡る二人の少女の姦しい声。
二人の声は森の入り口にある古道具屋の店主の耳まで届いたとかなんとか。
結局、それから数十分に渡る押し問答の末、最後にアリスが折れたのであった。
「つまり、霊夢に膝枕してもらっていた早苗が羨ましくなってやって来たというわけね」
「違う」
だいたい分かったわ、と呟くアリスの胸元に突っ込みを入れる。
手の裏から伝わる柔らかな弾力が実に嫉ましい。ちくしょうお前もか。
慰謝料代わりにあとで胸枕も要求しようと心に決める。
それはさておき。
「なんていうかさあ、間違ってると思うんだよ。見た目的にというか、気質的にというか、というか主に発育的に」
「まあ、たしかに早苗は結構お姉さんっぽいところがあるものね」
わざわざ博麗神社までやってきて、甲斐甲斐しく霊夢の世話を焼いている早苗の姿を見るとそう思う。
仲睦まじい早苗と霊夢の姿はまるで姉妹そのものだ。
(まあ、時々ものすごく子供っぽくなることもあるんだけど)
いつぞやの異変やゴリアテ人形を見た時のハイテンションな早苗の様子を思い出しながらアリスは心の中で付け加える。
「だろ。早苗は膝枕をする側であるはずだ。される側はなんか似合わない。そしてそれ以上に似合わないのが霊夢だ。正直、あいつが早苗を膝枕する姿なんて想像すらできなかった」
「うーん、まあ」
一方の霊夢はお姉さんという感じではない。
性格は無愛想というか、冷めているというか、どこか達観している感じである。
そういう意味では大人びていると言えるのかもしれないが、彼女が膝枕をする側であるかと問われるとまた違うような気もする。如何ともし難い。
「要するに、お姉さんっぽい人は年下っぽい人を膝枕するのが正しい姿だということだ。そんなわけで私を膝枕してくれ」
「待ちなさい」
一人で勝手に結論付ける魔理沙に、アリスはすかさず待ったをかける。
「なんでそこで私が魔理沙を膝枕しなければならなくなるのよ」
「なんでって、アリスもお姉さんって感じじゃないか。一方の私はアリスより年下だ。そんなわけでアリスは私を膝枕すべきなんだよ」
「なにそれ意味が分からない」
仰々しく両手を広げながら断言する魔理沙。
相変わらず言っていることがあまりに強引過ぎる。
やはり、霊夢に膝枕してもらっていた早苗が羨ましくなって来ただけではないのかこいつはと、アリスは呆れたように溜息をつく。
「嫌よ。私だって忙しいんだから」
「えー。いいじゃないか減るもんじゃないんだし」
「減るわよ。時間とか労力とか私の精神衛生とか色々と」
眦に力を入れて、アリスは強い視線を魔理沙に向ける。
ここで彼女を甘やかしてはいけない。
彼女のペースに呑まれたら最後、色々と面倒なことになるのは目に見えている。
今ここが最終防衛ラインだ。
「いいだろー。なんでダメなんだよー」
「うっ」
こちらをまっすぐ見つめながら懇願してくる魔理沙に、アリスは思わず狼狽する。
すがるように揺れる大きな瞳。耳をくすぐる甘えるような声。
それらがアリスの心を激しく揺らす。
なにこのチート。いきなり最終防衛ライン突破の危機。
なるほどこれが年下オーラというものか。こんなの浴びたらお姉さんイチコロですね分かります。
「なあなあ、いいだろー、アリスー」
「ううっ」
あっさり最終防衛ラインを突破されたアリスは視線を逸らしながら、ぼそぼそと喋り出した。
「最近、研究でずっと夜更かししてたからすごく眠いのよ。今日はもう寝るつもりだったの」
「お前、捨食の法使ってるはずなのになんでそうなるんだよ」
「つい習慣でずっと夜に眠るようにしていたら、眠らないとうまく頭が動かなくなって」
幻想郷に来る以前、アリスは過保護な母から常々夜は早く寝るよう言われていた。
たしかに夜更かしは美容の大敵であるし、母の言うことは間違ってはいないだろう。
とはいえ、年頃の、しかも魔法使い志望である少女に対して夜8時までに寝ろというのは正直無理がある。
「たくさん寝ないと大きくなれないわよ、アリスちゃん」という言葉と共にサムズアップする母の幻影が眼に浮かぶ。
明らかに子供扱いである。このまま家にいたら魔法使いになれるはずがないと思った。
故に、自分は捨食の法を習得して魔法使いになり、母の元から出て行ったのだった。
しかし、習慣とは恐ろしいもので、幻想郷に来てからも夜8時にはベッドに入ってしまっている自分がいた。
それから活動時間を夜半過ぎまで変えていくのにどれだけ苦労したことか。
「魔理沙、悪いことは言わないわ。今のうちに夜更かしする癖をつけておきなさい」
「お前はいったい何の為に魔法使いになったんだ」
魔理沙は呆れた眼でアリスを見る。
睡眠は魔法使いを駄目にする。とりあえずよく覚えておくことにする。
しかし、そうだとするとアリスの大事な睡眠時間を邪魔してしまったようで何だか申し訳ない気分になる。
「悪かったな」
珍しく殊勝な様子の魔理沙に、アリスはそっと嘆息する。
そして傍らのソファーに座ると、ぽすんと自身の膝を叩いた。
「ほら、いいわよ」
「え、いいのか?」
「少しだけなら、ね」
「おう、ありがたく堪能させていただくぜ」
言うが早いが魔理沙はソファーに横になると、アリスの膝の上にこてんと頭を乗せた。
(おお)
頭を包み込む柔らかい感触と体温の温かさ。
家のベッドに置いてある枕とはまるで別次元のそれに、魔理沙はうっとりと頬を緩ませる。
(やばい、気持ち良い)
正直、侮っていた。
まさか膝枕がここまで気持ち良いものだったとは。
もっとこの感触を堪能しようと顔を太腿に摺り寄せると、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
(アリスのにおい)
眼を閉じて顔を太腿に埋める。
アリスは普段香水をつけることをしない。
なのにこんなにも甘い香りがするのは何故なのだろう。
(アリスのだからかなあ)
アリスの柔らかな感触、体温、香り、その全てが魔理沙の心を安らかにしていく。
心地良い。
心地良くて意識を手放したくなる。
心地良さに包まれながらそのまま微睡に沈んでいく。
「魔理沙」
不意に肩を掴まれ、上体を起こされる。
離れていく温もりに、待ってくれと手を伸ばしたい気分になる。
「いきなり何すんだよ」
せっかく膝枕を堪能していたところを邪魔されて、不満げに唇を尖らせる。
まだ膝枕をしてもらってから10分も経っていない。たったこれだけでおしまいではあんまりである。
そんな魔理沙を覚束ない瞳で見つめながら、アリスは囁くように告げる。
「ごめん。私、もう限界」
そのままアリスは糸の切れた人形のようにパタリと横に倒れた。
自身の頭を魔理沙の膝の上にしっかりと乗せて。
「ちょ、アリス」
膝にかかる重みと温かな感触。その両方に魔理沙はうわずった声を上げた。
「お、おいおいおいおいおい起きろって」
いつになく狼狽しながら意味も無く手をばたつかせる。
一方のアリスは既に眼を閉じ、膝の上で静かな寝息を立て始めていた。
「まじかよ、まったく」
呆れたように溜息をつく。
一瞬で眠りに落ちるほど眠たかったのか。
「まったくしょうがないなあ」
ぼやきながらそっとアリスの頭に手を添え、太腿の真ん中辺りに移動させる。
「……ん」
具合の良いところに落ち着いたのか微かに声を漏らすアリス。
形の良い唇から漏れる吐息に、思わず頬が熱くなるのを感じた。
(やばっ……)
アリスの安らかな寝顔に、その唇に、視線が釘付けになる。
瑞瑞しくて、ぷっくりとした、美しい桜色の唇。
触れたらいったいどんな感触がするのだろうか。
「いかんいかん私は何を考えているんだ」
ぶんぶんと頭を振り、妙な考えを追い払う。
そこから伝わる振動に、アリスがくぐもった声を漏らす。
慌てて動きを止め、アリスの頭を具合の良い位置に戻してやる。
すると彼女は再び安らかな寝息を立て始めた。
「やれやれだぜ」
ほっと嘆息が漏れる。
結局、膝枕をしてもらうつもりが、自分が膝枕をする羽目になってしまった。
これは絶対自分には似合わないと思うんだけどなあと一人ごちる。
しかし、なんだろう。この心地良さは。
先ほど、アリスに膝枕をしてもらった時と同じようで違う心地良さ。
膝にかかる重みと温かさが全身に伝わってくるような感じ。
ふと、先ほど見た博麗神社での情景が眼に浮かぶ。
膝の上で眠る早苗の髪をそっと梳きながら、その寝顔を見つめる霊夢。
その表情は今まで見たことのないものだったように思える。
膝の上のアリスの頭にそっと手を伸ばす。
綺麗な金色の髪を梳くと、まるで金糸のようにさらさらと零れ落ちる。
「……んぅ……」
微かに声を漏らし、魔理沙の膝に頬を摺り寄せるアリス。
その寝顔は普段彼女が自分に見せたことのないもの。
純真無垢で、あどけない表情。
どきりと胸がはねる。
同時に、胸の中に温かいものが溢れ出してくる。
声にならない。言葉にならない。全身が温かさで満ちていく。
この温もりが、アリスの存在を伝えてくれる。
「へへっ」
自然、笑みが零れる。
なんとなく、分かったような気がしたのだ。
「霊夢もこんな気持ちだったのかな」
あの時見た霊夢の表情。
愛しさに満ち溢れた、やわらかな表情。
「膝枕する側も、案外悪くないな」
眠れる少女の寝顔を見つめながら、魔理沙はそっと微笑んだ。
アリスは食べてるけど。
まあ、アリスが可愛ければそれでいいんですが。
2424させていただきました
あなたの書くレイサナのお話など是非読ませていただきたいですね
読み進めるうちに頬が緩むいい話でした。
愛が感じられる。
マリアリとレイサナが備わり最強に見えます
姉属性を備えた霊夢、魔理沙は良いものだ。
次回作も期待してます。
お姉さんじゃなければ膝枕をしてはいけない? 違う、膝枕をする少女はすべからくお姉さんなのだ。
幻想少女達の膝枕風景二幅、まことに眼福でありました。
ちょっとでも触れたら壊してしまいそうなくらい繊細。こいつは取り扱い注意だぜ。
初投稿おめでとうございます。そしてありがとうございます。
アリスは可愛いけど可愛いから可愛いし可愛いので。ちなみに捨虫の法が睡眠不要になるですよ。
人に冷たい感じの霊夢が早苗を膝枕して優しい表情を浮かべていたり、
少年のように快活な魔理沙がアリスの頭を動かさないようにじっと耐えていたりする光景に心が滾ります。これがギャップ萌えという奴か。
心がほっこりするような文章、雰囲気がとても良かった。
というかもっと粘れよアリス(笑)。
アリスと早苗の寝顔、見てみたいなあ...
あまりに素敵すぎてうめき声しかあげられないのが悔やまれます