「魔理沙。魔界温泉旅行三泊四日の旅に出ましょう」
魔理沙の部屋の扉を開け放ったアリスが言った。
「ちょ、いま着替えてるから待てって!」
魔理沙は半脱ぎだった。
「いいのよ魔理沙。魔理沙がどんな下着を着ていようが気にしないから」
「そういうことじゃない!」
「魔界の温泉はすごいのよ。ちょっとずつ色が変わるから脳にいいの」
「待て」
「はい」
魔理沙が魔女になるまでアリスは座して待った。
「それで?」
「魔界の温泉に入ったものは最高になるわ」
最高ってなんだよ。という問いを魔理沙は飲み込んだ。
「行くのか?」
「ええ」
「ふーん。そんなにすごい効能があるのか。でもそういうとんでもない秘湯って、入るまでに幾つも険しい関門があるんじゃないか」
一般的に、秘湯というのはあの手この手で入ろうとするものを拒むのである。
効能の強さに比例して入浴難易度は上がっていくのだ。
「平気よ。私と魔理沙なら」
「…………へっ、そうかい」
魔理沙はちょっと照れた。
「それで、どうやって魔界に行くんだ」
「さあ」
「あ?」
「確かに前は魔界に住んでたけど、幻想郷から魔界に行く方法なんて知らないわよ。魔理沙、たしか以前行ったことあるでしょう?ほら、飛行物体を追いかけたとき。わからないの?」
どうやら宝船騒動のときのことを言っているようであった。
「以前は船に乗ってただけだし、あれも結界をぶち破って行ったからなあ」
魔界まで聖輦船に同行したとはいえ、あくまで魔理沙が魔界に行ったのはなりゆきであった。
同じことをまたやろうとしたら霊夢に叩きのめされてしまうだろう。
「やっぱり霊夢を誘うわ。さよなら」
「おい!なんだったんだよさっきのいい雰囲気は!」
「そんなのあったかしら」
「うがーー!私も誘えーー!」
二人は霧雨魔法店を飛び出していった。ドアにかけられた表示は開店中のままであったが、どうせ問題ないに違いなかった。
「そういうわけだ。霊夢、魔界に行こう。結界を開けてくれ」
「は?ダメに決まってるでしょ」
神社についた二人を待ち構えていたのは仏頂面で石畳を掃く霊夢だった。
「賽銭」
「そういうのはもうやめたから」
「アリスが人里で神社を宣伝する人形劇をやる」
「そういうことなら考えてやらんでもない」
「ちょっと、勝手に演目決めないでよ」
「博麗の巫女が妖怪を退治する話をやったほうが、いつものわけわからん話よりよっぽど面白くなるだろ」
ある日のアリスの人形劇の内容は以下の通り。
序章、延々と太陽を見上げながら円周率をつぶやく上海、すると逆立ちした蓬莱がやってくる。蓬莱はロングスカートで逆立ちしているので、頭のところまでスカートがめくれてしまってドロワーズが丸出しだ。上海は、突然蓬莱を引き倒すと一心不乱に足を愛撫し始める。蓬莱のロングスカートは頭にかかったままである。蓬莱の頭は果たして存在するのだろうか……腕と足とスカートだけの存在だけなのだろうか……
「私の真実の人形劇はわかる者にのみわかればいいの」
「一人もいないだろ」
「ねえ、その温泉ってそんなにいいの」
「ええ、効能は胆のう炎、胆石症、慢性便秘、肥満症、糖尿病、痛風と広範囲に渡るわ」
「私、べつにどれにも縁がないんだけど」
「私もだぜ」
「私も」
「じゃあ行かないでいいじゃない」
「そうね」
初夏にやられて、木の葉が一枚落ちた。
「…………えっ、せっかく神社来たのにどうするんだよ」
「……どうしましょう」
アリスが提案した。
「鍋でもやる?」
「夏鍋!」
霊夢の目が見開かれる。
夏の鍋。季節感のミスマッチが魅力的な修行メニューだ。
「鍋!」
魔理沙が腕を振り上げた。
その手には八卦炉があった。
「なんとここに鍋が」
アリスが鍋を取り出す。
「具材あれ」
霊夢が鍋の神を降ろして具材を召喚した。
三人は縁側鍋パをした。
おわり。
魔理沙の部屋の扉を開け放ったアリスが言った。
「ちょ、いま着替えてるから待てって!」
魔理沙は半脱ぎだった。
「いいのよ魔理沙。魔理沙がどんな下着を着ていようが気にしないから」
「そういうことじゃない!」
「魔界の温泉はすごいのよ。ちょっとずつ色が変わるから脳にいいの」
「待て」
「はい」
魔理沙が魔女になるまでアリスは座して待った。
「それで?」
「魔界の温泉に入ったものは最高になるわ」
最高ってなんだよ。という問いを魔理沙は飲み込んだ。
「行くのか?」
「ええ」
「ふーん。そんなにすごい効能があるのか。でもそういうとんでもない秘湯って、入るまでに幾つも険しい関門があるんじゃないか」
一般的に、秘湯というのはあの手この手で入ろうとするものを拒むのである。
効能の強さに比例して入浴難易度は上がっていくのだ。
「平気よ。私と魔理沙なら」
「…………へっ、そうかい」
魔理沙はちょっと照れた。
「それで、どうやって魔界に行くんだ」
「さあ」
「あ?」
「確かに前は魔界に住んでたけど、幻想郷から魔界に行く方法なんて知らないわよ。魔理沙、たしか以前行ったことあるでしょう?ほら、飛行物体を追いかけたとき。わからないの?」
どうやら宝船騒動のときのことを言っているようであった。
「以前は船に乗ってただけだし、あれも結界をぶち破って行ったからなあ」
魔界まで聖輦船に同行したとはいえ、あくまで魔理沙が魔界に行ったのはなりゆきであった。
同じことをまたやろうとしたら霊夢に叩きのめされてしまうだろう。
「やっぱり霊夢を誘うわ。さよなら」
「おい!なんだったんだよさっきのいい雰囲気は!」
「そんなのあったかしら」
「うがーー!私も誘えーー!」
二人は霧雨魔法店を飛び出していった。ドアにかけられた表示は開店中のままであったが、どうせ問題ないに違いなかった。
「そういうわけだ。霊夢、魔界に行こう。結界を開けてくれ」
「は?ダメに決まってるでしょ」
神社についた二人を待ち構えていたのは仏頂面で石畳を掃く霊夢だった。
「賽銭」
「そういうのはもうやめたから」
「アリスが人里で神社を宣伝する人形劇をやる」
「そういうことなら考えてやらんでもない」
「ちょっと、勝手に演目決めないでよ」
「博麗の巫女が妖怪を退治する話をやったほうが、いつものわけわからん話よりよっぽど面白くなるだろ」
ある日のアリスの人形劇の内容は以下の通り。
序章、延々と太陽を見上げながら円周率をつぶやく上海、すると逆立ちした蓬莱がやってくる。蓬莱はロングスカートで逆立ちしているので、頭のところまでスカートがめくれてしまってドロワーズが丸出しだ。上海は、突然蓬莱を引き倒すと一心不乱に足を愛撫し始める。蓬莱のロングスカートは頭にかかったままである。蓬莱の頭は果たして存在するのだろうか……腕と足とスカートだけの存在だけなのだろうか……
「私の真実の人形劇はわかる者にのみわかればいいの」
「一人もいないだろ」
「ねえ、その温泉ってそんなにいいの」
「ええ、効能は胆のう炎、胆石症、慢性便秘、肥満症、糖尿病、痛風と広範囲に渡るわ」
「私、べつにどれにも縁がないんだけど」
「私もだぜ」
「私も」
「じゃあ行かないでいいじゃない」
「そうね」
初夏にやられて、木の葉が一枚落ちた。
「…………えっ、せっかく神社来たのにどうするんだよ」
「……どうしましょう」
アリスが提案した。
「鍋でもやる?」
「夏鍋!」
霊夢の目が見開かれる。
夏の鍋。季節感のミスマッチが魅力的な修行メニューだ。
「鍋!」
魔理沙が腕を振り上げた。
その手には八卦炉があった。
「なんとここに鍋が」
アリスが鍋を取り出す。
「具材あれ」
霊夢が鍋の神を降ろして具材を召喚した。
三人は縁側鍋パをした。
おわり。
「考えてやらんでもない」「具材あれ」が妙にツボだった