ある日、私は鼻をなくした。境内より縁側へ登ろうとした際に、足を踏み外して、すってんころりん。私の鼻は、消えてしまったのだった。
「困ったわね。」
鏡を見つめながら、自分の鼻があった場所に向けて、そう呟いた。眉間から人中にかけて、すとんとまっすぐ平になっている。穴さえない。くりくりと顔を回して印象を確かめる。鼻がないと、なんだかぽやっとした印象になる。案外これで、里の子供たちに怖がられなくなるかもしれない。
「今のところ不便はなさそうね。」
それよりも、縁側に強かに打ち付けた脛を治療しようと、救急箱を引っ張り出した。消毒液に綿球を浸したとき、そういえば消毒液臭くないことに気が付いた。ガーゼを当てて、包帯も巻いた。私は意外と軽い足取りで、片づけをして土間へ向かった。
「鮎……しかないわよね。」
昨日の晩に買って、そういえば楽しみにとっておいたのだった。私はしようがなく、七輪を出すことにした。炭を起こしている間、たくあんを切っていた。火種が燃え広がるのを横目で見て、ぎゅ、ざく、と包丁越しにたくあんの感触が伝わる。炭の準備ができたので、縁側に移動した。塩を振った鮎を網に乗せ、居間のちゃぶ台に食器を並べた。団扇で扇ぐたび、炭は怒ったように赤くなって、煙もぱたぱたと揺れる。鮎の脂がぽたぽた滴り落ちて、太い身が輝いている。欠伸をする。
日は赤く傾いている。突然に夕立が降り出した。赤色に透き通った軌跡を空に残しながら、雨は降った。太陽の熱を押しのけるように、冷やされた空気が居間に流れ込んでくる。雨の匂いは、勿論感じ取ることができなかった。
鮎の身を拾い上げて、口に入れる度にやはりその物足りなさを覚える。つつがなく食事も終わったころ、夕立も止んでいた。そろそろ買い出しに出かけなくてはならない頃合いだった。日が暮れてしまえば、大抵の店は暖簾を下ろしてしまう。準備という準備もない。袋を持って、飛び上がるだけである。けれど、なんだかそわそわしていけない。袋を開いて、たたんで。二三繰り返して、ようやく決心が付いて、縁側から空へと飛びあがった。先ほどまでのそわそわが嘘のように、空は涼しかった。私は人里目掛け、夕焼けの中を突っ切って行った。
上白沢慧音に出会った。酒屋から出た先で、彼女はなぜか佇んで、こちらを見ていた。その直立不動ざまは、人里の往来でやけに目立っていたし、目はどこか虚ろだった。
「なにか用?」
私は多少、ぶっきらぼうに尋ねた。
「脚、怪我したのか?」
慧音は途端に先ほどまでの妙な気配をなくして、そう聞いてきた。
「……えぇ、縁側に突っかかっちゃったのよ。」
「ははっ、やはりお前は見かけによらずドジだな。」
「うるさいわね。」
ぱっと花開くような笑みを浮かべる彼女を見ていると、どうやら先ほどの光景は、なにか私の白昼夢のようなものであったのだろう。私はだんだんそう思い始めていた。
「なぁ霊夢。ものは相談なんだが。」
慧音は、耳打ちをするために寄ってきて、その際に揺れた白い髪が夕日に映えた。
「もう二度と、里の子供たちに関わらないでくれないか?」
彼女のうなじが見えた。汗をかいているらしい。また髪がふわりと揺れた。視線が定まっていないし、つま先で地面を掘っている。やはり見間違えではなかったのだ。
「あくまで頼み事だ。だが、なるべくそうしてもらえると有難い。」
慧音は去って行った。その後ろ姿を、ずっと眺めていた。遠くの辻で角に消えて、見えなくなるまで、私はそこに佇んでいた。
「帰らなくちゃ。」
空の下の方では、すでに夜が交じりだしている。買い物袋を抱えなおして、私は藍色の空へと舞い上がった。
煮干しを齧る。苦みがじっとりと舌に残って、透き通った日本酒と合う。傍の行灯がゆらゆら光っている。玉砂利を蹴り飛ばすと、夜の隅の方に飛んで行って消える。草履をつっかけて、賽銭箱の方へ向かった。箱の淵の方に行灯を置いて、中身を確認する。空っぽだった。
「不信心ね。」
鼻があった場所を撫でる。ぶにぶにとした皮膚の感触を覚える。酒を飲み干す。熱いため息が出る。酒器を片付けて、布団を用意した。最後に手元の行灯を消そうとしたとき、吹き消すのがとても惜しくなった。
「油がもったいないわ。」
最後の明かりが消えて、私は布団に潜り込んだ。
翌朝目が覚めると、縁側に魔理沙が腰かけていた。
「早いわね。」
腰まで届く金髪が、朝日を跳ねて眩しい。早朝の澄んだ気配の中で、彼女は物憂げに居て、その存在がどこか希薄に見える。
「この神社は、客に茶の一つも出さないのか?」
私は腰ひもを解きながら、彼女の声を聴いていた。
「せめて着替えくらいさせなさいよ。」
巫女服に袖を通している間、彼女はなにかをかちゃかちゃと弄っていた。土間に行く際に、彼女の傍を通ると、どうやら膝の上で八卦炉を弄っているのが分かった。桶に水を張って顔に叩きつける。手ぬぐいで顔を拭うと、その違和感がどうしても際立つ。
「はい。」
鉄瓶に水を汲んで、魔理沙に手渡した。八卦炉を床に置いて、鉄瓶を被せる。じき湯も沸くだろう。
「なぁ霊夢。アリスが人里で人形劇をやるらしいんだが、一緒に見に行かないか?」
「子供が見るものでしょ、行けないわ。」
「おい、そんな言い方無いんじゃないか?」
眉根に皺を寄せて、彼女はそう言った。私は何故こんなことを言ったのだろうか。大して断る理由など、ないではないか。
「用はそれだけだ。またな。」
魔理沙はそれだけ言うと、境内に降りて箒に腰かける。体はこちらを向いているのに、彼女は明後日の方向を見ている。結局彼女は飛び上がって、そのまま空へと消えていった。
八卦炉から降ろされた鉄瓶は、もくもくと蒸気を吹いている。茶を入れて飲んだ。体が温まると同時に、着替えたばかりの巫女服がやけに馴染まないと思った。服を着替えたばかりのときの、心が締まる感覚が未だ残っている。
また茶を飲んだ。
###
あの日以来も、魔理沙は時たまやってきては、人形劇だの、新しい甘味だのと言って、私を里へと引っ張り出そうとしていた。ひと月ほどして、とうとう根負けした私は、里の甘味処で団子を食んでいた。
「やっぱりここの団子は格別だな。」
もちもちと、団子を頬張る魔理沙はとてもご機嫌だった。
「この胡麻のかかったやつが気に入ったわ。」
里は賑わっていた。窮屈なほどではないが、そこここに往来があって、普段混み合う時間を避けていた分、少し新鮮だった。
「なっ、美味いだろ。」
魔理沙が笑顔でそう言うと、私は何故だか気まずくなってしまう。返答を避けて、団子を食む。胡麻の落ち着いた甘味が広がって、それでいて胡麻臭くないから気に入った。それだけのことだった。
「おばちゃん、お茶二つ!」
あいよ、と威勢のいい返事が聞こえた。少しして、店の奥の方から、七、八才ほどの女の子が湯呑を乗せたお盆を持って、よたよた歩いてきた。目線がお盆に釘付けで、危なっかしい。見ている私も体に力が入ってしまう。
「おまちどう、さまです。」
女の子は伏し目がちにお盆を置くと、なんだか泣きそうな目で、私を見つめていた。目のちょうど上で揃えた前髪から覗くその視線が、私の心を固くする。
「ありがとう。お仕事頑張ってね。」
ひとつ回って無味乾燥なくらいに、そう言っていた。それでも女の子は、パッと笑顔を華やがせて、奥へと引っ込んでいった。その様子を横目で見ていた魔理沙は、どこか怪訝そうに眉を困らせていた。
「私、そろそろ霖之助さんの所に行かないと。お代、置いてくわね。」
お茶を早々に飲み干して、私は団子屋を離れた。最後まで魔理沙のあの顔が頭から離れなくて、少々難儀した。
その夕方、私は帰りがけに再び里を訪れていた。昼頃からは往来も減って、買い物をするのにもちょうどよかった。しばらく歩いていると、小さな男の子が二人、往来を走り回っているのが見えた。木の枝のようなものを振り回して遊んでいる。
彼らが私に近づいてきて、ちょうどすれ違うときに、片方の振り回す枝が私のスカートの辺りを打った。ぱん、乾いた音が響いて、途端、周囲が静かになった。ぶつけた方の男の子は、愕然とした表情で凍り付いて立ち尽くす。
「こら、危ないでしょ。そんなもの振り回して!」
屈んで、その子と目を合わせ、頭を撫でる。
「ほら、お友達行っちゃったわよ。男の子なんだから、追っかけっこでもして元気に遊びなさい。気を付けるのよ。」
うん!と元気よく返事をして、その子は駆けていった。私は、嫌な静寂の中に取り残されてしまった。けれど威勢よく胸を張って歩き出した。
「霊夢!先ほど里の寄り合いで決定したんだが―」
それからひと月ほど経って、神社に慧音が現れた。寺子屋にて教鞭を取って欲しいと打診を受けたのはそのときだった。
###
それは、鼻をなくしてから、半年ほどが経った頃のことだった。冬が明け、緑が芽吹いていた。そんな心晴れやかな夜に、私は魔理沙と酒を飲んでいた。
「この魔導書が良いんだよ。ついこないだ見つけたばかりなんだが、なんだか私に合ってるような気がする。もう妖怪共に遅れは取らないぜ。」
酒を開けてからというもの、彼女はずっとその魔導書のことばかり話している。
「妖怪共、ねぇ。」
「お前を追い抜くのも、もう時間の問題だな。」
魔理沙の頬が仄かに上気している。私は、何か胸に引っかかるものを感じた気がして、酒を一口に煽った。
「良い飲みっぷりだな。」
「そうね。」
そのとき、彼女の瞳に陰りが見えた。大きく一呼吸を置いて、彼女も酒を飲んだ。手元の魔導書をぱらぱらやって、居間には砕けた静寂が散らばっていた。
「最近は異変もないし、だから宴もない。やることといやぁ、魔法の研究くらいだな。まったく、人の一生は短いってのに。」
「何が言いたいのよ。」
緊張が満ちる。その発端を作ったのは私なのに、私はただその成り行きを眺める他なく、それはだんだんと大きくなってゆく。
「別に、大したことじゃないさ。」
魔導書をめくる音が、やけに響く。彼女の指先がページをめくる度に、その内容を咀嚼して、自分のものとしようとする度に、私の鼓動は早まる。
「大したことかどうか、決めるのは私だと思うけど。」
魔理沙はようやく魔導書から顔を上げる。けれど、その視線は私を見てはいなかった。私の奥に居る誰かを、彼女は見ていたのだ。
「邪魔したな、今日はもう帰るよ。」
魔導書を仕舞い込んで、魔理沙は立ち上がった。そのとき私は、肥大化して居間を埋め尽くした静寂に押さえつけられて、身動きが取れなかった。
「それ、やるよ。じゃぁな。」
自分の持ってきた酒瓶を指してそう言った後、箒に跨って彼女は行ってしまった。
「……ずるいわ。」
静寂が解けて、彼女の痕跡さえ消え去った後になって、私はようやく一言そう呟いた。
それからまた二週間ほど経った。朝、私は鈴奈庵で借りてきた小説を読んでいた。どうやら外の世界からやってきた、昔の本らしい。鼻を打つ檸檬の香りというのを読んで、私は久々に鼻の存在を、匂いを覚えないという感覚を思い出した。
私は少しぶりに、香霖堂へと出かける用事があったので、支度も早々に魔法の森へと向かった。幻想郷には春が訪れていた。
「やぁ霊夢。久しいね。」
帳場の奥で椅子に腰かけて、彼は作業を中断して顔を上げた。
「霖之助さん、遅くなってごめんなさい。この間頼んだ服、もう出来上がってる?」
「……あぁ、もちろん。」
眼鏡をかけ直すと、彼は少し自信なさげにそう言って、奥の部屋に引っ込んでいった。彼の戻る間、私は店の中を見物していた。到底ガラクタの様にしか見えないものが積み上がってはいても、ここは彼のれっきとした店であった。
「待たせたね。」
彼が紙袋を携えて帳場に戻ってきたとき、私は帳場の上に広げられた魔道具を見ていた。多少分解されているが、私には魔理沙の八卦炉の様に見えた。
「それが気になるかい?」
「えぇ。」
「魔理沙に頼まれてね。近頃、彼女の力にこれが耐えられなくなってきているんだよ。」
どこか誇らしげに言った後、私の反応がないのを確認して、彼は遠くを見るような目をした。
「そう、頑張っているのね。あの子も。」
お代を払って、私は店を出た。魔法の森の浅瀬にあるこの店からは、魔理沙の住まいもほど近い。霖之助さんの視線を、扉越しにも感じる。少し、森を歩くことにした。
あの酒席から、魔理沙には会っていなかった。あれほど足繫く神社に通っていたというのに、あれ以来ぱたりと往来は途絶えている。森を歩きながら、そう考えていた。すると奥の方で、茂みがガサゴソと揺れた。緑を分け入って現れたのは、団子屋の女の子だった。赤黒い着流しを纏い、朗らかな笑顔を湛えていた。真っすぐ切りそろえられた黒髪から覗く瞳が、私を見据えている。
「助けて!妖怪が……!」
「止まりなさい。」
掌で彼女を制止させる。そこに意識を集め、光球を形作る。
「演技が下手ね。あまり博麗の巫女を舐めないで頂戴。」
押し出されるように光球は飛び出して、彼女の胸の辺りを通り過ぎる。その後光球はすぐ霧散して、妖怪は緑の床に倒れた。まだ少し息があるようだった。
「人間として静かに暮らしていれば良いものを、どうしてそう死に急ぐのよ。」
彼女の頭上から、私はそう問うていた。
「ふふ、巫女さん、ありがと……。」
結局、彼女は私の質問には答えないで、死んでしまった。私はしばらく彼女の死体を眺めていた。辺りには、血の匂いが充満しているはずだった。今朝感じた閉塞感が、再び戻ってきていた。また散歩を再開した。結局家に帰りついたのは、日が暮れかけた頃だった。
###
目が覚めた。布団を跳ねのけ、息を整える。酷い悪夢を見ていたという感覚だけが、残っている。行灯に火を灯した。体中汗ばんでいて、寝間着がしっとりしている。お湯を沸かして、体を拭いた。湯を沸かしている間、体を拭いている間、髪が乾くのを待っている間、常に同じ記憶が頭を支配していた。あの妖怪の黒髪から覗く瞳が、夜空に浮かんでいた。
「ありがとう、ね。」
箪笥の前に立ったとき、幾ばくかの迷いが生じた。普段着を一度手に取って、結局私は、霖之助さんの用意した新しい巫女装束を纏った。お札の枚数を揃えて、大幣に瑕疵がないかを確認し、深夜の空へと飛び立った。春に差し掛かったばかりのこの季節の空は、やはりまだ寒い。顔に叩きつけられる冷たい風を感じながら、私は真っすぐ魔法の森を目指した。
森に入ると、その目的の場所にはすぐにたどり着いた。霧雨魔法店と看板を掲げた、魔理沙の自宅だった。窓から光が漏れている。扉の前で立ち止まって逡巡する。
「魔理沙、入るわよ。」
私は勢い勇んで扉を開けた。居室の床一面は物で溢れている。その奥、部屋の隅の方で魔理沙は机に向かって、しきりに魔導書をめくっている。
「こんな時間に人の家を訪ねるなんて、博麗の巫女ってのはずいぶん非常識らしいな。」
魔導書を閉じて、魔理沙はこちらを向いた。部屋には魔力が満ちている。発生源はもちろん彼女だ。くせ毛の金髪が、魔力の律動に乗って揺らめいている。私は自分の掌を見つめた。酷く青白くて、血のめぐりを感じられない肌をしていた。扉の前で考えていた言葉たちが、喉に突っかかって出てこない。
気が付くと、私はその場に座り込んでいた。白色の明かりが、部屋をくっきり照らし出している。魔理沙は、まだ椅子に座ってこちらを見つめている。彼女の目がだんだん哀れみに向かうのが分かって、私は立ち上がって、開きっぱなしの扉から飛び出した。深夜の空は来たときよりも、暗さを増していた。私はその闇に隠れる様に、空へと消えていった。
翌日、昼頃に目が覚めた。居間に出ると、いつかの日の様に魔理沙が縁側に腰かけていた。私はちゃぶ台から、自分の湯呑を拾い上げる。
「誰かさんが冷たいからな、今日は自分で茶を入れさせてもらったぞ。」
左手の湯呑を揺らしながら、彼女はこちらを見る。箒を右手に持ったまま、湯呑を傾けた。腰の辺りにベルトが巻かれていて、そこから八卦炉がぶら下がっている。私は寝間着のまま縁側に出て、彼女の隣に腰かけた。彼女は湯呑を置いて八卦炉に手を掛けた。
「ちょうだい。」
自分の湯呑を彼女に差しだして、私はそう言った。
「はぁ?お前……ったく、しょうがねぇな。」
魔理沙は不承不承といった態度で急須を傾け、私の湯呑にお茶を注ぐ。一口飲み下すと、食道に熱いものが流れるのが分かる。体が内側から暖かくなる。そして、春先の風に吹かれ涼しさを感じる。その温度差のせいだろう。
「はっくしょん!」
体の底から頭へ突き抜ける何かがあった。魔理沙は当惑したような表情をしていたが、それからすぐに口を大きく開けて笑い出した。
「ははは!おっ、お前、そりゃないぜ。」
「悪かったわね。」
私は恨みがましく魔理沙をねめつけてそう言った。
「ははっ、傑作だな。そう怒るなよ。ほら、ちり紙。」
魔理沙からちり紙を受け取って、私は勢いよく鼻をかんだ。詰まっていたものが、すっきり抜けたような心地よさだった。
「はー、笑った笑った。」
「いい加減にしなさい!仕舞には怒るわよ!」
「おっと、巫女に成敗されちゃたまらないな。」
そう言うと、魔理沙はすぐさま箒に乗って上空に舞い上がった。少しの間そこに留まって、その後、彼女は人里の方角へ消えていった。
幻想郷は、そろそろ桜の咲く時期だった。桜が咲けば、花見が盛大に開かれる。あの酒宴を思い出すと、鼻孔をくすぐる酒の匂いに思わず笑みがこぼれる。私は着替えるために縁側を後にし、寝室へと歩みを向けたのだった。
「困ったわね。」
鏡を見つめながら、自分の鼻があった場所に向けて、そう呟いた。眉間から人中にかけて、すとんとまっすぐ平になっている。穴さえない。くりくりと顔を回して印象を確かめる。鼻がないと、なんだかぽやっとした印象になる。案外これで、里の子供たちに怖がられなくなるかもしれない。
「今のところ不便はなさそうね。」
それよりも、縁側に強かに打ち付けた脛を治療しようと、救急箱を引っ張り出した。消毒液に綿球を浸したとき、そういえば消毒液臭くないことに気が付いた。ガーゼを当てて、包帯も巻いた。私は意外と軽い足取りで、片づけをして土間へ向かった。
「鮎……しかないわよね。」
昨日の晩に買って、そういえば楽しみにとっておいたのだった。私はしようがなく、七輪を出すことにした。炭を起こしている間、たくあんを切っていた。火種が燃え広がるのを横目で見て、ぎゅ、ざく、と包丁越しにたくあんの感触が伝わる。炭の準備ができたので、縁側に移動した。塩を振った鮎を網に乗せ、居間のちゃぶ台に食器を並べた。団扇で扇ぐたび、炭は怒ったように赤くなって、煙もぱたぱたと揺れる。鮎の脂がぽたぽた滴り落ちて、太い身が輝いている。欠伸をする。
日は赤く傾いている。突然に夕立が降り出した。赤色に透き通った軌跡を空に残しながら、雨は降った。太陽の熱を押しのけるように、冷やされた空気が居間に流れ込んでくる。雨の匂いは、勿論感じ取ることができなかった。
鮎の身を拾い上げて、口に入れる度にやはりその物足りなさを覚える。つつがなく食事も終わったころ、夕立も止んでいた。そろそろ買い出しに出かけなくてはならない頃合いだった。日が暮れてしまえば、大抵の店は暖簾を下ろしてしまう。準備という準備もない。袋を持って、飛び上がるだけである。けれど、なんだかそわそわしていけない。袋を開いて、たたんで。二三繰り返して、ようやく決心が付いて、縁側から空へと飛びあがった。先ほどまでのそわそわが嘘のように、空は涼しかった。私は人里目掛け、夕焼けの中を突っ切って行った。
上白沢慧音に出会った。酒屋から出た先で、彼女はなぜか佇んで、こちらを見ていた。その直立不動ざまは、人里の往来でやけに目立っていたし、目はどこか虚ろだった。
「なにか用?」
私は多少、ぶっきらぼうに尋ねた。
「脚、怪我したのか?」
慧音は途端に先ほどまでの妙な気配をなくして、そう聞いてきた。
「……えぇ、縁側に突っかかっちゃったのよ。」
「ははっ、やはりお前は見かけによらずドジだな。」
「うるさいわね。」
ぱっと花開くような笑みを浮かべる彼女を見ていると、どうやら先ほどの光景は、なにか私の白昼夢のようなものであったのだろう。私はだんだんそう思い始めていた。
「なぁ霊夢。ものは相談なんだが。」
慧音は、耳打ちをするために寄ってきて、その際に揺れた白い髪が夕日に映えた。
「もう二度と、里の子供たちに関わらないでくれないか?」
彼女のうなじが見えた。汗をかいているらしい。また髪がふわりと揺れた。視線が定まっていないし、つま先で地面を掘っている。やはり見間違えではなかったのだ。
「あくまで頼み事だ。だが、なるべくそうしてもらえると有難い。」
慧音は去って行った。その後ろ姿を、ずっと眺めていた。遠くの辻で角に消えて、見えなくなるまで、私はそこに佇んでいた。
「帰らなくちゃ。」
空の下の方では、すでに夜が交じりだしている。買い物袋を抱えなおして、私は藍色の空へと舞い上がった。
煮干しを齧る。苦みがじっとりと舌に残って、透き通った日本酒と合う。傍の行灯がゆらゆら光っている。玉砂利を蹴り飛ばすと、夜の隅の方に飛んで行って消える。草履をつっかけて、賽銭箱の方へ向かった。箱の淵の方に行灯を置いて、中身を確認する。空っぽだった。
「不信心ね。」
鼻があった場所を撫でる。ぶにぶにとした皮膚の感触を覚える。酒を飲み干す。熱いため息が出る。酒器を片付けて、布団を用意した。最後に手元の行灯を消そうとしたとき、吹き消すのがとても惜しくなった。
「油がもったいないわ。」
最後の明かりが消えて、私は布団に潜り込んだ。
翌朝目が覚めると、縁側に魔理沙が腰かけていた。
「早いわね。」
腰まで届く金髪が、朝日を跳ねて眩しい。早朝の澄んだ気配の中で、彼女は物憂げに居て、その存在がどこか希薄に見える。
「この神社は、客に茶の一つも出さないのか?」
私は腰ひもを解きながら、彼女の声を聴いていた。
「せめて着替えくらいさせなさいよ。」
巫女服に袖を通している間、彼女はなにかをかちゃかちゃと弄っていた。土間に行く際に、彼女の傍を通ると、どうやら膝の上で八卦炉を弄っているのが分かった。桶に水を張って顔に叩きつける。手ぬぐいで顔を拭うと、その違和感がどうしても際立つ。
「はい。」
鉄瓶に水を汲んで、魔理沙に手渡した。八卦炉を床に置いて、鉄瓶を被せる。じき湯も沸くだろう。
「なぁ霊夢。アリスが人里で人形劇をやるらしいんだが、一緒に見に行かないか?」
「子供が見るものでしょ、行けないわ。」
「おい、そんな言い方無いんじゃないか?」
眉根に皺を寄せて、彼女はそう言った。私は何故こんなことを言ったのだろうか。大して断る理由など、ないではないか。
「用はそれだけだ。またな。」
魔理沙はそれだけ言うと、境内に降りて箒に腰かける。体はこちらを向いているのに、彼女は明後日の方向を見ている。結局彼女は飛び上がって、そのまま空へと消えていった。
八卦炉から降ろされた鉄瓶は、もくもくと蒸気を吹いている。茶を入れて飲んだ。体が温まると同時に、着替えたばかりの巫女服がやけに馴染まないと思った。服を着替えたばかりのときの、心が締まる感覚が未だ残っている。
また茶を飲んだ。
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あの日以来も、魔理沙は時たまやってきては、人形劇だの、新しい甘味だのと言って、私を里へと引っ張り出そうとしていた。ひと月ほどして、とうとう根負けした私は、里の甘味処で団子を食んでいた。
「やっぱりここの団子は格別だな。」
もちもちと、団子を頬張る魔理沙はとてもご機嫌だった。
「この胡麻のかかったやつが気に入ったわ。」
里は賑わっていた。窮屈なほどではないが、そこここに往来があって、普段混み合う時間を避けていた分、少し新鮮だった。
「なっ、美味いだろ。」
魔理沙が笑顔でそう言うと、私は何故だか気まずくなってしまう。返答を避けて、団子を食む。胡麻の落ち着いた甘味が広がって、それでいて胡麻臭くないから気に入った。それだけのことだった。
「おばちゃん、お茶二つ!」
あいよ、と威勢のいい返事が聞こえた。少しして、店の奥の方から、七、八才ほどの女の子が湯呑を乗せたお盆を持って、よたよた歩いてきた。目線がお盆に釘付けで、危なっかしい。見ている私も体に力が入ってしまう。
「おまちどう、さまです。」
女の子は伏し目がちにお盆を置くと、なんだか泣きそうな目で、私を見つめていた。目のちょうど上で揃えた前髪から覗くその視線が、私の心を固くする。
「ありがとう。お仕事頑張ってね。」
ひとつ回って無味乾燥なくらいに、そう言っていた。それでも女の子は、パッと笑顔を華やがせて、奥へと引っ込んでいった。その様子を横目で見ていた魔理沙は、どこか怪訝そうに眉を困らせていた。
「私、そろそろ霖之助さんの所に行かないと。お代、置いてくわね。」
お茶を早々に飲み干して、私は団子屋を離れた。最後まで魔理沙のあの顔が頭から離れなくて、少々難儀した。
その夕方、私は帰りがけに再び里を訪れていた。昼頃からは往来も減って、買い物をするのにもちょうどよかった。しばらく歩いていると、小さな男の子が二人、往来を走り回っているのが見えた。木の枝のようなものを振り回して遊んでいる。
彼らが私に近づいてきて、ちょうどすれ違うときに、片方の振り回す枝が私のスカートの辺りを打った。ぱん、乾いた音が響いて、途端、周囲が静かになった。ぶつけた方の男の子は、愕然とした表情で凍り付いて立ち尽くす。
「こら、危ないでしょ。そんなもの振り回して!」
屈んで、その子と目を合わせ、頭を撫でる。
「ほら、お友達行っちゃったわよ。男の子なんだから、追っかけっこでもして元気に遊びなさい。気を付けるのよ。」
うん!と元気よく返事をして、その子は駆けていった。私は、嫌な静寂の中に取り残されてしまった。けれど威勢よく胸を張って歩き出した。
「霊夢!先ほど里の寄り合いで決定したんだが―」
それからひと月ほど経って、神社に慧音が現れた。寺子屋にて教鞭を取って欲しいと打診を受けたのはそのときだった。
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それは、鼻をなくしてから、半年ほどが経った頃のことだった。冬が明け、緑が芽吹いていた。そんな心晴れやかな夜に、私は魔理沙と酒を飲んでいた。
「この魔導書が良いんだよ。ついこないだ見つけたばかりなんだが、なんだか私に合ってるような気がする。もう妖怪共に遅れは取らないぜ。」
酒を開けてからというもの、彼女はずっとその魔導書のことばかり話している。
「妖怪共、ねぇ。」
「お前を追い抜くのも、もう時間の問題だな。」
魔理沙の頬が仄かに上気している。私は、何か胸に引っかかるものを感じた気がして、酒を一口に煽った。
「良い飲みっぷりだな。」
「そうね。」
そのとき、彼女の瞳に陰りが見えた。大きく一呼吸を置いて、彼女も酒を飲んだ。手元の魔導書をぱらぱらやって、居間には砕けた静寂が散らばっていた。
「最近は異変もないし、だから宴もない。やることといやぁ、魔法の研究くらいだな。まったく、人の一生は短いってのに。」
「何が言いたいのよ。」
緊張が満ちる。その発端を作ったのは私なのに、私はただその成り行きを眺める他なく、それはだんだんと大きくなってゆく。
「別に、大したことじゃないさ。」
魔導書をめくる音が、やけに響く。彼女の指先がページをめくる度に、その内容を咀嚼して、自分のものとしようとする度に、私の鼓動は早まる。
「大したことかどうか、決めるのは私だと思うけど。」
魔理沙はようやく魔導書から顔を上げる。けれど、その視線は私を見てはいなかった。私の奥に居る誰かを、彼女は見ていたのだ。
「邪魔したな、今日はもう帰るよ。」
魔導書を仕舞い込んで、魔理沙は立ち上がった。そのとき私は、肥大化して居間を埋め尽くした静寂に押さえつけられて、身動きが取れなかった。
「それ、やるよ。じゃぁな。」
自分の持ってきた酒瓶を指してそう言った後、箒に跨って彼女は行ってしまった。
「……ずるいわ。」
静寂が解けて、彼女の痕跡さえ消え去った後になって、私はようやく一言そう呟いた。
それからまた二週間ほど経った。朝、私は鈴奈庵で借りてきた小説を読んでいた。どうやら外の世界からやってきた、昔の本らしい。鼻を打つ檸檬の香りというのを読んで、私は久々に鼻の存在を、匂いを覚えないという感覚を思い出した。
私は少しぶりに、香霖堂へと出かける用事があったので、支度も早々に魔法の森へと向かった。幻想郷には春が訪れていた。
「やぁ霊夢。久しいね。」
帳場の奥で椅子に腰かけて、彼は作業を中断して顔を上げた。
「霖之助さん、遅くなってごめんなさい。この間頼んだ服、もう出来上がってる?」
「……あぁ、もちろん。」
眼鏡をかけ直すと、彼は少し自信なさげにそう言って、奥の部屋に引っ込んでいった。彼の戻る間、私は店の中を見物していた。到底ガラクタの様にしか見えないものが積み上がってはいても、ここは彼のれっきとした店であった。
「待たせたね。」
彼が紙袋を携えて帳場に戻ってきたとき、私は帳場の上に広げられた魔道具を見ていた。多少分解されているが、私には魔理沙の八卦炉の様に見えた。
「それが気になるかい?」
「えぇ。」
「魔理沙に頼まれてね。近頃、彼女の力にこれが耐えられなくなってきているんだよ。」
どこか誇らしげに言った後、私の反応がないのを確認して、彼は遠くを見るような目をした。
「そう、頑張っているのね。あの子も。」
お代を払って、私は店を出た。魔法の森の浅瀬にあるこの店からは、魔理沙の住まいもほど近い。霖之助さんの視線を、扉越しにも感じる。少し、森を歩くことにした。
あの酒席から、魔理沙には会っていなかった。あれほど足繫く神社に通っていたというのに、あれ以来ぱたりと往来は途絶えている。森を歩きながら、そう考えていた。すると奥の方で、茂みがガサゴソと揺れた。緑を分け入って現れたのは、団子屋の女の子だった。赤黒い着流しを纏い、朗らかな笑顔を湛えていた。真っすぐ切りそろえられた黒髪から覗く瞳が、私を見据えている。
「助けて!妖怪が……!」
「止まりなさい。」
掌で彼女を制止させる。そこに意識を集め、光球を形作る。
「演技が下手ね。あまり博麗の巫女を舐めないで頂戴。」
押し出されるように光球は飛び出して、彼女の胸の辺りを通り過ぎる。その後光球はすぐ霧散して、妖怪は緑の床に倒れた。まだ少し息があるようだった。
「人間として静かに暮らしていれば良いものを、どうしてそう死に急ぐのよ。」
彼女の頭上から、私はそう問うていた。
「ふふ、巫女さん、ありがと……。」
結局、彼女は私の質問には答えないで、死んでしまった。私はしばらく彼女の死体を眺めていた。辺りには、血の匂いが充満しているはずだった。今朝感じた閉塞感が、再び戻ってきていた。また散歩を再開した。結局家に帰りついたのは、日が暮れかけた頃だった。
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目が覚めた。布団を跳ねのけ、息を整える。酷い悪夢を見ていたという感覚だけが、残っている。行灯に火を灯した。体中汗ばんでいて、寝間着がしっとりしている。お湯を沸かして、体を拭いた。湯を沸かしている間、体を拭いている間、髪が乾くのを待っている間、常に同じ記憶が頭を支配していた。あの妖怪の黒髪から覗く瞳が、夜空に浮かんでいた。
「ありがとう、ね。」
箪笥の前に立ったとき、幾ばくかの迷いが生じた。普段着を一度手に取って、結局私は、霖之助さんの用意した新しい巫女装束を纏った。お札の枚数を揃えて、大幣に瑕疵がないかを確認し、深夜の空へと飛び立った。春に差し掛かったばかりのこの季節の空は、やはりまだ寒い。顔に叩きつけられる冷たい風を感じながら、私は真っすぐ魔法の森を目指した。
森に入ると、その目的の場所にはすぐにたどり着いた。霧雨魔法店と看板を掲げた、魔理沙の自宅だった。窓から光が漏れている。扉の前で立ち止まって逡巡する。
「魔理沙、入るわよ。」
私は勢い勇んで扉を開けた。居室の床一面は物で溢れている。その奥、部屋の隅の方で魔理沙は机に向かって、しきりに魔導書をめくっている。
「こんな時間に人の家を訪ねるなんて、博麗の巫女ってのはずいぶん非常識らしいな。」
魔導書を閉じて、魔理沙はこちらを向いた。部屋には魔力が満ちている。発生源はもちろん彼女だ。くせ毛の金髪が、魔力の律動に乗って揺らめいている。私は自分の掌を見つめた。酷く青白くて、血のめぐりを感じられない肌をしていた。扉の前で考えていた言葉たちが、喉に突っかかって出てこない。
気が付くと、私はその場に座り込んでいた。白色の明かりが、部屋をくっきり照らし出している。魔理沙は、まだ椅子に座ってこちらを見つめている。彼女の目がだんだん哀れみに向かうのが分かって、私は立ち上がって、開きっぱなしの扉から飛び出した。深夜の空は来たときよりも、暗さを増していた。私はその闇に隠れる様に、空へと消えていった。
翌日、昼頃に目が覚めた。居間に出ると、いつかの日の様に魔理沙が縁側に腰かけていた。私はちゃぶ台から、自分の湯呑を拾い上げる。
「誰かさんが冷たいからな、今日は自分で茶を入れさせてもらったぞ。」
左手の湯呑を揺らしながら、彼女はこちらを見る。箒を右手に持ったまま、湯呑を傾けた。腰の辺りにベルトが巻かれていて、そこから八卦炉がぶら下がっている。私は寝間着のまま縁側に出て、彼女の隣に腰かけた。彼女は湯呑を置いて八卦炉に手を掛けた。
「ちょうだい。」
自分の湯呑を彼女に差しだして、私はそう言った。
「はぁ?お前……ったく、しょうがねぇな。」
魔理沙は不承不承といった態度で急須を傾け、私の湯呑にお茶を注ぐ。一口飲み下すと、食道に熱いものが流れるのが分かる。体が内側から暖かくなる。そして、春先の風に吹かれ涼しさを感じる。その温度差のせいだろう。
「はっくしょん!」
体の底から頭へ突き抜ける何かがあった。魔理沙は当惑したような表情をしていたが、それからすぐに口を大きく開けて笑い出した。
「ははは!おっ、お前、そりゃないぜ。」
「悪かったわね。」
私は恨みがましく魔理沙をねめつけてそう言った。
「ははっ、傑作だな。そう怒るなよ。ほら、ちり紙。」
魔理沙からちり紙を受け取って、私は勢いよく鼻をかんだ。詰まっていたものが、すっきり抜けたような心地よさだった。
「はー、笑った笑った。」
「いい加減にしなさい!仕舞には怒るわよ!」
「おっと、巫女に成敗されちゃたまらないな。」
そう言うと、魔理沙はすぐさま箒に乗って上空に舞い上がった。少しの間そこに留まって、その後、彼女は人里の方角へ消えていった。
幻想郷は、そろそろ桜の咲く時期だった。桜が咲けば、花見が盛大に開かれる。あの酒宴を思い出すと、鼻孔をくすぐる酒の匂いに思わず笑みがこぼれる。私は着替えるために縁側を後にし、寝室へと歩みを向けたのだった。