「幽々子様〜、お月見の用意が出来ました。」
縁側に置かれたお団子の側で、私は主である西行寺幽々子様を呼んだ。
今宵は中秋の名月。お月見をするにはもってこいの天候で幸いだ。
「は〜い妖夢。今行くわ〜」
幽々子様の返事が聞こえた。音の方角からして台所だろうか...?食材を荒らして無いと良いのだけれど。
「待たせちゃったわね妖夢。いつもご苦労様。」
「いえ、これが私の務めですので。」
そう言って幽々子様にお団子を差し出す。幽々子様へのお団子は普通のよりも3倍のサイズがある。そうは言っても、幽々子様の前ではおやつにもならないだろう。
以前は2人で同じ器で団子を食べていたのだが、いかんせん殆どを幽々子様に持ってかれてしまうので、幽々子様には別枠で作る事にした。そうでもしないと一瞬にして私の分が無くなってしまう。
❇︎
「月が綺麗ですね」と言った、有名な言葉がある。これは有名な文豪である夏目漱石が、「 I love you 」という英語を日本語に訳した時に生まれた言葉だ。「あなたを愛しています」って言う意味だったはず。
私は、幽々子様の事が好きだ。
幽々子様の整った顔はいつ見ても美しいと思う。それだけじゃ無い。幽々子様は声も素敵だし、普段は何考えてるか分からないような人だけれど、実際は非常に思慮深く、優しいお方だ。
私は幽々子様が好きなのと同時に、幽々子様に憧れてもいる。
今日、私はこのお月見の最後に、幽々子様に告白するんだ...!月が綺麗ですねって言えば、幽々子様は絶対に勘付く筈...!
「あら、妖夢ったら、お団子全然食べて無いじゃない。そんなんじゃ私が頂いちゃうわよ〜?」
「あっ!ちょっ、ダメですよ幽々子様!これは私のですよ!」
少し目を離しただけで私のお団子が食べられそうになった。恐るべき食欲。というかこの短時間であの大きさのお団子を3つも食べたのか。砲丸くらいの大きさはあったのに。
「うふふ〜、妖夢は欲張りねぇ〜。」
「...幽々子様には言われたく無いです。」
❇︎
「妖夢、ちょっとお手洗いに行ってくるわね〜」
「っ!」
その言葉に、私は思わず反応してしまう。ちょっと、そろそろ言おうと思ってたのに。
そのような私の反応に、幽々子様は私の考えを読み取ってくれたのか、
「あら、何か懸念する事でもあったかしら?」
なんて言ってくれた。
「い、いえ!そういう訳では無いのですが...」
そうして私がどうしようか考え込んだ途端、
「じゃ行ってくるわね〜」
「あっ!ちょ、幽々子様ぁ!」
行ってしまった...
❇︎
幽々子様みたいな上位の霊は、自らの意思で人間体へと体を変えられる。幽々子様は人間の体を気に入ってるので、いつでも人間体だ。
人間の体になる事にはメリットが多いが、2つだけ難点がある。
1つは壁を通り抜けられなくなること。人間の体では、幽霊の代名詞でもある壁抜けが出来なくなってしまうのだ。
そしてもう一つ。人間の体になっていると、急所が生まれてしまう。首だ。
長時間首を絞められると消滅してしまうのだ。
......あ〜あ、行っちゃった。
幽々子様はお手洗いに行ってしまい、私は1人で綺麗な満月を見ながら、お団子を食べていた。
幽々子様を待ってる間に食べていたお団子は、少し苦い味がした。
❇︎
ちょっと遅すぎじゃない...?
幽々子様がお手洗いに行ってから既に20分経過。おかしい、幽々子様は大であったとしても基本的に10分前後では出てくるはずだ。
......全身が危険を知らせている気がする。
動け。
後悔するぞ。
半霊にそう言われた気がして、私は白玉楼の廊下を駆け出した。
幽々子様に何かあったのかもしれない...!
あのお強い幽々子様が危険に晒されるなど中々無い事だとは思うが、0ではない。
でも、幽々子様が敵わないのに、私が太刀打ち出来るのだろうか...?
❇︎ 幽々子視点
あまり妖夢を1人きりにするのも悪いし、さっさと済まして帰らないとね。
亡霊だって人間らしい現象は起こる。勿論お手洗いに行きたくなる事も多々あるのだ。
「折角のお月見だし、妖夢と一緒にいないと悪いわねぇ。......あら怨霊。」
お手洗いを済ませて妖夢の元へ帰ろうとすると、目の前に1体の怨霊がいた。
死後、怨霊になった奴は、大半が罪人として裁かれた者だ。
白玉楼は冥界だが、基本的に存在する幽霊はただの幽霊か亡霊だけ。
つまり目の前の奴は、ここにいてはいけない存在___
「あなたがどうしてここにいるのかは分からないし、咎めないわ。でも、あなたはここにいてはいけない。お帰りなさい。罪人がいるべき地獄へ。」
『死を操る程度の能力』__これが幽々子の操る能力なのだ。
生者は亡霊へ。幽霊なら冥界へ。 怨霊だったら......地獄へ。
この能力は幽々子の生前の能力が発展した物だが、地獄の閻魔である四季映姫とある契約をした事で、生者を死に追いやる為だけの能力では無くなったのだ。
「西行寺幽々子。あなたの能力はあまりに危険すぎる。その気になれば幻想郷の人々を抹殺する事など造作も無いでしょう。」
「あら、閻魔様は私がそんな事をするような邪悪な亡霊だって言いたいのかしら?」
と、私がワザと言うと、閻魔様は「そう言いたい訳では無い」という意味を込めて、ワザとらしい咳払いをした。
「...別にこれは建前でしかありません。表向きはあなたの武力行使を封じるための契約です。実情はお願いに過ぎ無いのですが。悪い話では無いはずです。この表向きの契約をすれば、あなたの能力が進化を遂げる訳でもあります。」
「ふぅん。別に良いわよ。そんなに良点を持ち上げなくても。ここにずっといるだけってのも退屈だしね。そのくらいの仕事なら請け負うわ。」
「ご厚意に感謝致します。西行寺幽々子。」
この契約のおかげで、幽々子の能力は更に生前よりも発達した。今まで使った事は数回しかない。とはいえ、対象が変わっただけでやろうとする事は変わらない。
面倒臭いが、怨霊が白玉楼に住まわれてもたまったもんじゃない。今のうちに地獄へ戻しておこう。
膨大な霊力と妖力が私の元へ集まっていく。私はこの自分の能力を使う時、自分の口の前で勢いよく扇を開く癖がある。といっても、別に不便でも何でも無いのでその流れのまま扇を開こうとした瞬間、向こうの怨霊が突然私の方へと素早く動き出した。
「!?無駄よ、死になさい。」
が、既に霊力も妖力も十分な程溜まっていたので、怨霊へと実態すら無いその攻撃を向けた。
その攻撃は間違いなく怨霊に命中したのた。
いつもならそれで終わりなのだ。
が、
ガッ!!
「ぐっ!?く.......」
何故だか怨霊には全く効かなかった。
まさかそんな事が起こるとは思わず、私は動けぬまま怨霊に首を絞められた。
「くっ......この...」
苦しい。首を絞めている怨霊の手をどけようともがくが、私の腕力は全然無い。少しも離れようとせず、なすがままに絞められ続ける。
そんな時、怨霊から声がした。
「うふふ、1000年以上の恨みを晴らすときが来たわ!幽々子、私の事を覚えているかしら?」
意識が弱まっていく中、必死に目を開けて怨霊の顔を改めて見ると、確かに見覚えのある顔だった。
「あなたまさか...!架瑠奈...!?」
目の前の怨霊は、私の生前の数少ない知り合いである架瑠奈だった。
「その通りよ。忘れはしないわ...あなたは生前、その能力で私の親友を自殺に導きやがったんだから!ようやくあの日の恨みを晴らす事が出来るわ!」
「あぁ......その事ね...それであなたは怒っているのね......」
確かにそうだ。私が自殺へと導いた友奈という子がいた。でも、あの子は、
「あの子は...!自ら望んで私にお願いしたのよ...!あなたがとやかく言う筋合いは無いわ...!」
「うるさい!殺した事に変わりは無いんだ!私の唯一の友達だったのに!」
「ぐっ.....がぁ.......」
首を絞める力が強くなる。マズい、このままじゃ消滅しちゃう。
「この......離しなさいッ!」
なんとか力を振り絞って弾幕を放つ。 が、架瑠奈に届く瞬間にそれは消えてしまう。そんな馬鹿な。私と架瑠奈の距離はほぼゼロ距離だっていうのに。
「あはは、無駄無駄。特別な護符を貼ってるからね!アンタの攻撃は通用しないわ!」
攻撃は効かない、腕力じゃ勝てない。なす術がなく首を絞められていく。
あぁ........妖夢........ごめんなさい........まさかこんな形であなたと別れる事になるなんて......
もう意識が無くなる寸前のところで、私の耳は慌ただしい足音を聞きつけた。
「幽々子様! ッ!貴様、幽々子様から離れろ!」
私の真上を何かが横凪に振るわれる音と共に首を絞められる感覚が無くなった。
「ぐっ、ゲホッ、ゲホッ......」
咳き込みながらも、ぼんやりした意識を無理やり起こし、状況を確認する。
どう言うわけか、妖夢が来てくれたのだ。どうやって私の危険を察知してくれたのだろう。
それは分からないが、最早そんなことはどうでもいい。妖夢は架瑠奈へ楼観剣を突きつけ、強い攻撃の意思を示していた。
「幽々子様、大丈夫ですか!?」
「えぇ...大丈夫よ。ありがとう妖夢。助かったわ。」
「なんの是式です。アイツは斬り捨てて問題無いですか?」
アイツ の部分で顎を架瑠奈に向け、私に問う。
私は一瞬躊躇った後、
「...えぇ、お願い。妖夢。」
私のこの答えには架瑠奈が驚き、
「幽々子アンタ、昔の知人を辻斬りに売る気?」
「...悪いけど、生前の事とは出来るだけ縁を切りたいの。今の私は亡霊としての私。亡霊としての私は昔の知人であるあなたに対しても何の感情も沸かないわ。」
私の返事に架瑠奈の顔が引き攣る。
「...くっ!こうなったら2人とも殺してやるわ!喰らいなさい私の弾幕を!」
そう言い彼女が出した弾幕は、まさかのたった一球だった。
が、その速度は驚異的な速さ。ドリームエクスプレスなんてもんじゃ無い。
既に妖夢は突進をしかけ、相対速度は時速1000kmを超えたであろうその球を妖夢は、迷う事なく斬り捨てた。
「!? そ、そんな!私の初見殺し用の弾幕が!」
架瑠奈は目の前の銀髪の少女の強さを痛感し、慌てて逃げようと背を向けたが時既に遅し。
「がっ......‼︎」
音をも置き去りにする速さで突進し、そのまま架瑠奈の背後を斬り裂く。
「妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど...あまりない!」
架瑠奈はそのまま徐々に消滅していって、最後には消えてしまった。
❇︎
「妖夢、ありがとう...助かったわ...」
幽々子様は改めて私にお礼を言って下さった。
「いえ、これも私の務めですので。ところで、幽々子様...」
「?どうしたの?妖夢。」
今こそ、言うべきだと思った。当初の予定とは違いお月見の最中では無かったが、これは良いチャンスかもしれない。
「私は、幽々子様がとっても大切です。剣士としても、人としてもまだまだ未熟者ですが、幽々子様を守りたいという気持ちだけは誰よりも強いと思っています。例えこの身を削ろうとも、幽々子様を守るためなら己を盾にも剣にも変える覚悟は持っているつもりです。...ですからその......なんていうか......今日は月が...綺麗ですね...」
最後の方は自信を無くして俯きがちに言葉を発する事になっていた。結局言いたい事が纏まらなすぎて全然要領を得なかった気がする。幽々子様は私が言いたい事を分かってくれただろうか?
不安に思いながらも顔を上げてみると、
「...うふふっ...妖夢ったら...ふふっ。」
幽々子様は笑っていた。
「な、なんで笑うんですかぁ...!私は真面目なんですよ...!」
涙目になりながらも幽々子様に抗議する。
「うふふ...ごめんなさいね...妖夢、その言葉はもっとスマートに使うものよ?飾りの言葉なんていらないわ。あなたがそう言ってくれて嬉しい。そうね...」
そう言って幽々子様は一瞬考えた後、
「ふふっ。死んでもいいわ。妖夢。と言っても、もう死んでるけど。」
と言ってくれた。思えばこの返し方、凄い幽々子様らしいですよね。
それからの白玉楼は今までよりもにぎやかになったとの話。
縁側に置かれたお団子の側で、私は主である西行寺幽々子様を呼んだ。
今宵は中秋の名月。お月見をするにはもってこいの天候で幸いだ。
「は〜い妖夢。今行くわ〜」
幽々子様の返事が聞こえた。音の方角からして台所だろうか...?食材を荒らして無いと良いのだけれど。
「待たせちゃったわね妖夢。いつもご苦労様。」
「いえ、これが私の務めですので。」
そう言って幽々子様にお団子を差し出す。幽々子様へのお団子は普通のよりも3倍のサイズがある。そうは言っても、幽々子様の前ではおやつにもならないだろう。
以前は2人で同じ器で団子を食べていたのだが、いかんせん殆どを幽々子様に持ってかれてしまうので、幽々子様には別枠で作る事にした。そうでもしないと一瞬にして私の分が無くなってしまう。
❇︎
「月が綺麗ですね」と言った、有名な言葉がある。これは有名な文豪である夏目漱石が、「 I love you 」という英語を日本語に訳した時に生まれた言葉だ。「あなたを愛しています」って言う意味だったはず。
私は、幽々子様の事が好きだ。
幽々子様の整った顔はいつ見ても美しいと思う。それだけじゃ無い。幽々子様は声も素敵だし、普段は何考えてるか分からないような人だけれど、実際は非常に思慮深く、優しいお方だ。
私は幽々子様が好きなのと同時に、幽々子様に憧れてもいる。
今日、私はこのお月見の最後に、幽々子様に告白するんだ...!月が綺麗ですねって言えば、幽々子様は絶対に勘付く筈...!
「あら、妖夢ったら、お団子全然食べて無いじゃない。そんなんじゃ私が頂いちゃうわよ〜?」
「あっ!ちょっ、ダメですよ幽々子様!これは私のですよ!」
少し目を離しただけで私のお団子が食べられそうになった。恐るべき食欲。というかこの短時間であの大きさのお団子を3つも食べたのか。砲丸くらいの大きさはあったのに。
「うふふ〜、妖夢は欲張りねぇ〜。」
「...幽々子様には言われたく無いです。」
❇︎
「妖夢、ちょっとお手洗いに行ってくるわね〜」
「っ!」
その言葉に、私は思わず反応してしまう。ちょっと、そろそろ言おうと思ってたのに。
そのような私の反応に、幽々子様は私の考えを読み取ってくれたのか、
「あら、何か懸念する事でもあったかしら?」
なんて言ってくれた。
「い、いえ!そういう訳では無いのですが...」
そうして私がどうしようか考え込んだ途端、
「じゃ行ってくるわね〜」
「あっ!ちょ、幽々子様ぁ!」
行ってしまった...
❇︎
幽々子様みたいな上位の霊は、自らの意思で人間体へと体を変えられる。幽々子様は人間の体を気に入ってるので、いつでも人間体だ。
人間の体になる事にはメリットが多いが、2つだけ難点がある。
1つは壁を通り抜けられなくなること。人間の体では、幽霊の代名詞でもある壁抜けが出来なくなってしまうのだ。
そしてもう一つ。人間の体になっていると、急所が生まれてしまう。首だ。
長時間首を絞められると消滅してしまうのだ。
......あ〜あ、行っちゃった。
幽々子様はお手洗いに行ってしまい、私は1人で綺麗な満月を見ながら、お団子を食べていた。
幽々子様を待ってる間に食べていたお団子は、少し苦い味がした。
❇︎
ちょっと遅すぎじゃない...?
幽々子様がお手洗いに行ってから既に20分経過。おかしい、幽々子様は大であったとしても基本的に10分前後では出てくるはずだ。
......全身が危険を知らせている気がする。
動け。
後悔するぞ。
半霊にそう言われた気がして、私は白玉楼の廊下を駆け出した。
幽々子様に何かあったのかもしれない...!
あのお強い幽々子様が危険に晒されるなど中々無い事だとは思うが、0ではない。
でも、幽々子様が敵わないのに、私が太刀打ち出来るのだろうか...?
❇︎ 幽々子視点
あまり妖夢を1人きりにするのも悪いし、さっさと済まして帰らないとね。
亡霊だって人間らしい現象は起こる。勿論お手洗いに行きたくなる事も多々あるのだ。
「折角のお月見だし、妖夢と一緒にいないと悪いわねぇ。......あら怨霊。」
お手洗いを済ませて妖夢の元へ帰ろうとすると、目の前に1体の怨霊がいた。
死後、怨霊になった奴は、大半が罪人として裁かれた者だ。
白玉楼は冥界だが、基本的に存在する幽霊はただの幽霊か亡霊だけ。
つまり目の前の奴は、ここにいてはいけない存在___
「あなたがどうしてここにいるのかは分からないし、咎めないわ。でも、あなたはここにいてはいけない。お帰りなさい。罪人がいるべき地獄へ。」
『死を操る程度の能力』__これが幽々子の操る能力なのだ。
生者は亡霊へ。幽霊なら冥界へ。 怨霊だったら......地獄へ。
この能力は幽々子の生前の能力が発展した物だが、地獄の閻魔である四季映姫とある契約をした事で、生者を死に追いやる為だけの能力では無くなったのだ。
「西行寺幽々子。あなたの能力はあまりに危険すぎる。その気になれば幻想郷の人々を抹殺する事など造作も無いでしょう。」
「あら、閻魔様は私がそんな事をするような邪悪な亡霊だって言いたいのかしら?」
と、私がワザと言うと、閻魔様は「そう言いたい訳では無い」という意味を込めて、ワザとらしい咳払いをした。
「...別にこれは建前でしかありません。表向きはあなたの武力行使を封じるための契約です。実情はお願いに過ぎ無いのですが。悪い話では無いはずです。この表向きの契約をすれば、あなたの能力が進化を遂げる訳でもあります。」
「ふぅん。別に良いわよ。そんなに良点を持ち上げなくても。ここにずっといるだけってのも退屈だしね。そのくらいの仕事なら請け負うわ。」
「ご厚意に感謝致します。西行寺幽々子。」
この契約のおかげで、幽々子の能力は更に生前よりも発達した。今まで使った事は数回しかない。とはいえ、対象が変わっただけでやろうとする事は変わらない。
面倒臭いが、怨霊が白玉楼に住まわれてもたまったもんじゃない。今のうちに地獄へ戻しておこう。
膨大な霊力と妖力が私の元へ集まっていく。私はこの自分の能力を使う時、自分の口の前で勢いよく扇を開く癖がある。といっても、別に不便でも何でも無いのでその流れのまま扇を開こうとした瞬間、向こうの怨霊が突然私の方へと素早く動き出した。
「!?無駄よ、死になさい。」
が、既に霊力も妖力も十分な程溜まっていたので、怨霊へと実態すら無いその攻撃を向けた。
その攻撃は間違いなく怨霊に命中したのた。
いつもならそれで終わりなのだ。
が、
ガッ!!
「ぐっ!?く.......」
何故だか怨霊には全く効かなかった。
まさかそんな事が起こるとは思わず、私は動けぬまま怨霊に首を絞められた。
「くっ......この...」
苦しい。首を絞めている怨霊の手をどけようともがくが、私の腕力は全然無い。少しも離れようとせず、なすがままに絞められ続ける。
そんな時、怨霊から声がした。
「うふふ、1000年以上の恨みを晴らすときが来たわ!幽々子、私の事を覚えているかしら?」
意識が弱まっていく中、必死に目を開けて怨霊の顔を改めて見ると、確かに見覚えのある顔だった。
「あなたまさか...!架瑠奈...!?」
目の前の怨霊は、私の生前の数少ない知り合いである架瑠奈だった。
「その通りよ。忘れはしないわ...あなたは生前、その能力で私の親友を自殺に導きやがったんだから!ようやくあの日の恨みを晴らす事が出来るわ!」
「あぁ......その事ね...それであなたは怒っているのね......」
確かにそうだ。私が自殺へと導いた友奈という子がいた。でも、あの子は、
「あの子は...!自ら望んで私にお願いしたのよ...!あなたがとやかく言う筋合いは無いわ...!」
「うるさい!殺した事に変わりは無いんだ!私の唯一の友達だったのに!」
「ぐっ.....がぁ.......」
首を絞める力が強くなる。マズい、このままじゃ消滅しちゃう。
「この......離しなさいッ!」
なんとか力を振り絞って弾幕を放つ。 が、架瑠奈に届く瞬間にそれは消えてしまう。そんな馬鹿な。私と架瑠奈の距離はほぼゼロ距離だっていうのに。
「あはは、無駄無駄。特別な護符を貼ってるからね!アンタの攻撃は通用しないわ!」
攻撃は効かない、腕力じゃ勝てない。なす術がなく首を絞められていく。
あぁ........妖夢........ごめんなさい........まさかこんな形であなたと別れる事になるなんて......
もう意識が無くなる寸前のところで、私の耳は慌ただしい足音を聞きつけた。
「幽々子様! ッ!貴様、幽々子様から離れろ!」
私の真上を何かが横凪に振るわれる音と共に首を絞められる感覚が無くなった。
「ぐっ、ゲホッ、ゲホッ......」
咳き込みながらも、ぼんやりした意識を無理やり起こし、状況を確認する。
どう言うわけか、妖夢が来てくれたのだ。どうやって私の危険を察知してくれたのだろう。
それは分からないが、最早そんなことはどうでもいい。妖夢は架瑠奈へ楼観剣を突きつけ、強い攻撃の意思を示していた。
「幽々子様、大丈夫ですか!?」
「えぇ...大丈夫よ。ありがとう妖夢。助かったわ。」
「なんの是式です。アイツは斬り捨てて問題無いですか?」
アイツ の部分で顎を架瑠奈に向け、私に問う。
私は一瞬躊躇った後、
「...えぇ、お願い。妖夢。」
私のこの答えには架瑠奈が驚き、
「幽々子アンタ、昔の知人を辻斬りに売る気?」
「...悪いけど、生前の事とは出来るだけ縁を切りたいの。今の私は亡霊としての私。亡霊としての私は昔の知人であるあなたに対しても何の感情も沸かないわ。」
私の返事に架瑠奈の顔が引き攣る。
「...くっ!こうなったら2人とも殺してやるわ!喰らいなさい私の弾幕を!」
そう言い彼女が出した弾幕は、まさかのたった一球だった。
が、その速度は驚異的な速さ。ドリームエクスプレスなんてもんじゃ無い。
既に妖夢は突進をしかけ、相対速度は時速1000kmを超えたであろうその球を妖夢は、迷う事なく斬り捨てた。
「!? そ、そんな!私の初見殺し用の弾幕が!」
架瑠奈は目の前の銀髪の少女の強さを痛感し、慌てて逃げようと背を向けたが時既に遅し。
「がっ......‼︎」
音をも置き去りにする速さで突進し、そのまま架瑠奈の背後を斬り裂く。
「妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど...あまりない!」
架瑠奈はそのまま徐々に消滅していって、最後には消えてしまった。
❇︎
「妖夢、ありがとう...助かったわ...」
幽々子様は改めて私にお礼を言って下さった。
「いえ、これも私の務めですので。ところで、幽々子様...」
「?どうしたの?妖夢。」
今こそ、言うべきだと思った。当初の予定とは違いお月見の最中では無かったが、これは良いチャンスかもしれない。
「私は、幽々子様がとっても大切です。剣士としても、人としてもまだまだ未熟者ですが、幽々子様を守りたいという気持ちだけは誰よりも強いと思っています。例えこの身を削ろうとも、幽々子様を守るためなら己を盾にも剣にも変える覚悟は持っているつもりです。...ですからその......なんていうか......今日は月が...綺麗ですね...」
最後の方は自信を無くして俯きがちに言葉を発する事になっていた。結局言いたい事が纏まらなすぎて全然要領を得なかった気がする。幽々子様は私が言いたい事を分かってくれただろうか?
不安に思いながらも顔を上げてみると、
「...うふふっ...妖夢ったら...ふふっ。」
幽々子様は笑っていた。
「な、なんで笑うんですかぁ...!私は真面目なんですよ...!」
涙目になりながらも幽々子様に抗議する。
「うふふ...ごめんなさいね...妖夢、その言葉はもっとスマートに使うものよ?飾りの言葉なんていらないわ。あなたがそう言ってくれて嬉しい。そうね...」
そう言って幽々子様は一瞬考えた後、
「ふふっ。死んでもいいわ。妖夢。と言っても、もう死んでるけど。」
と言ってくれた。思えばこの返し方、凄い幽々子様らしいですよね。
それからの白玉楼は今までよりもにぎやかになったとの話。
ただのラブストーリーで終わりにせず間にひと悶着あったところが特によかったです
幽々子対策が完璧すぎて歯が立たないのは原作ではあまりない感じの設定なので新鮮でした〜。
お気に入り登録してしまいました。この様なお方が、この用な私にご指摘して頂くなんて、とても光栄なものです。どうか、これからも見にいらして下さい!!
あと、ゆっくりAの拡散お願いします!!