Coolier - 新生・東方創想話

友人以上。

2010/08/26 10:28:37
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「椛、あんた髪ずいぶん切ってないでしょ?ほら、すっごいボサボサ。」


自称清く正しい新聞記者こと文は、ある事無い事書き込みまくった彼女のアイデンティティである文々。新聞の取材の為に紅魔館に突撃取材をしてきた帰りに、今日も今日とて後輩兼使い走り兼その他の家に上がりこんで夕食を頂戴していた。

椛もいつもの事だと割り切っているので、もう何も言わなくても二人分の夕食を用意するようになってしまった。普段不摂生な文が夕食をちゃんと食事を取ってくれるのならば、と椛も悪い気はせず寧ろ一緒に食事を取る相手がいるという喜びの方が上回っており、毎日二人分の夕食を作るという作業も苦に感じなくなっていた。


おかげで文は山の仕事なり新聞の取材なりで出かけて帰りが遅くなってしまったとしても、毎日温かい夕食にありつけている。全くもって有難い事だと文自身、可愛い後輩に感謝しても感謝しきれない。今、まさにその感謝の念を込めつつも、譲るわけには行かないと干し肉を大根と一緒に煮たのの入った器を目の前に持ってきてひたすらに白米と交互に口に入れて咀嚼している訳であるが。




「そういえばここ最近切った記憶が無いですねー。確かに言われてみればうっとおしいかも。あ、その煮物食べたいんで取って貰えます?」

「ストレートがいい、フォークがいい?」

「何でおかず取ってもらうだけなのに球種の話になるんですか、もうフォークだろうがスプーンだろうが何でもいいんで取って下さいって。しかもそれ、今日にとりから貰ったばっかなのにもう残り少ないじゃないですか・・・」


 涙目になりつつも、最初の頃と比べると自分が殆ど食べていないにも関わらず残り二割程度となってしまったそれを椛は受け取って、半分涙目になりつつも口に運び咀嚼する。


「で、髪の毛どうするの?また自分で切っちゃうの?」

「え、そのつもりですけど・・・って文さん、その目の輝きは何なんですか。嫌な予感しかしないんですが」


 危険人物の如く、ハァハァと息を荒くしながら片手を握ったり開いたりしもう片方の手では箸をシャキンシャキンと開閉している様子は、椛じゃなくても常識を投げ捨てでもしない限り一般人にとってとても危険な人物にしか見えなかった。


 「私にもみもみの、柔らかいその銀色の綺麗な髪の毛をモフモフした後に切らせて欲しいってだけなんだけど?いや、もうさせろ。」

「もう切らせてあげますから身を乗り出してこないで下さいって!ああもうまずご飯食べましょうよ!!」

「それもそうね」


ひょい、ぱくっ。




「あっ」


 まるで最初から計画していたかの様に開閉していた箸の矛先を急に変更して、見事ラスト一匹の小魚の焼いたのを攫っていった文の手際に椛は開いた口が塞がらなかった。


「全く、本当に手癖が悪いんだから・・・」

「いいじゃない、尊敬する先輩におかずの一品や二品あげる位のゆとりある心を持ちなさいって」

「そんなんだから烏のブン屋だのパパラッチ天狗だのうぜえ丸だの言われるんですよ」

「嫌だなあ椛さん、新聞記者としての私こと射命丸は清く正しいをモットーに取材しているのですよ?そんなマイナスイメージの付くような呼び名が付いている筈も無い」

「ああもうその話し方止めてくださいよきもいですって。丁寧語を使う文さんとか文さんじゃない他の生命体ですって」

「きもい言われた!?もうお嫁に行けない・・・あやややや」

「はいはい嫁になら貰ってあげますからとっととご飯食べて下さいよ」
「あや?」
「嘘です」

「あやややや、乙女の純情を弄ぶだなんて椛ったら酷い・・・」

「あやも文もあややも無いでしょ、まあ髪の毛切ってくれるのはありがたいです。」

「ああ、そういえばそんな話だったわねー」

「自分から目を輝かせていた癖に、全く・・・」


 会話の応酬を繰り広げながらも、椛はご飯茶碗に煎茶を注いで米粒を剥がして飲んでいった。対する文はまだ卓上の漬物や、ジャガイモの煮っ転がしに箸を付けていた。家の食べ物を食い尽くす気ですか、との椛の呟きはその暴力的なまでの食欲の前にかき消されてしまったのであった。






「よーし、天狗一のカリスマ美容師こと、この射命丸文がバッサリさっぱり切ってあげるからね!」

「カリスマ云々は置いといてバッサリってなんですかバッサリって!お願いですからそのままじゃ表に出ることが出来なくなりそうな髪型にするのだけは止めてくださいよね。」

「それはそれでいいじゃない、この機会に被り物デビューしちゃいなよ!」

「個性、ZUN帽・・・ごくり。って、それって私の髪型が悲惨な目に合うの前提じゃないですか!」

「まあまあそうならないように努力するって。さ、家の中だと汚れるから表出ましょ?」

「本っ当、お願いしますよ・・・」


 そもそも目の利く妖怪である彼女達にとっては些細なことであったのかもしれないが雲一つ無い空だったのも幸いして表は夜にしては明るい。月明かりをバックにして椛を椅子に座らせた文は、彼女の銀色の髪をそっと摘む。傍から見ると更に良く分かる、ツンツンのくせっ毛であった。


「あんた、いつも思うけど髪の毛どうやって手入れしているの?家の風呂場って石鹸一つと桶だけで他に何も置いていなかったと思うんだけど・・・」


椛の髪をわしゃわしゃと弄くりながら、彼女の風呂場の風景を思い出して文は尋ねた。


「石鹸だけですねー」

「もう、枝毛多いしくせっ毛であっちこっちに跳ねまくってるしで大変。髪の毛は大事にしなさいよ、一応女の子なんだし。」

「うーん気をつけますー」


 触り心地の良い銀糸のような髪の毛を手櫛で梳きながら、もう片方の手の人差し指でくるんくるん、と髪の毛を巻き付けてみて、引き抜いてみる。文の手に何も刺激を与えること無くすっ、と指から離れていくそれの感触を再度楽しむ為に文は再び指に巻きつける作業を始める。


依然として髪の毛を弄くられている椛は、どこか恍惚そうな表情を浮かべていた。間の抜けた顔を上から眺めて、やっぱこいつ狼というより犬なんじゃないかと文は改めて認識した。






「おーい、椛―、寝ちゃ駄目だよー。首が急にカックンと倒れたりしたら文さん手が滑ってうっかりざっくり髪の毛切っちゃうかもしれないよー」


椛の眼前で手をひらひらさせてみるも、既に半分夢の世界の住人になりつつある彼女の目にそれは映ってないようである。


「起きてます起きてまふぁあ・・・」

「大きな欠伸しながら言われても、説得力無いわよ・・・」



肩をすくめて、それから何回か文は椛の頬をぺしぺし、と軽く叩いてみるも相変わらず彼女は船をこぎ続けていた。つねってこねくり回してもみた。「いひゃいいひゃいあやひゃんひゃめれ」といいつつも目を閉じてるあたり本気で眠いんだろうし、そっとしておいてちゃっちゃと髪を切ってあげて寝かせてあげよう。とは全く思っていないらしい文は、小考してから今度は違ったアプローチで椛を弄ろうと試みた。


「ねぇ、椛。貴方の大切なモノ、教えて欲しいんだけど。いいかな?」

「ふぁい、なんれすか?」

「えっと、ね・・・」


寝ぼけている後輩に対して誘導尋問を行なっているという背徳感を感じつつも、無事に事が進みそうだと確信した文は、怪しい微笑を纏いながら尋ねた。






「あ・・・私寝てたのかぁ。文さん布団引いて、寝かせてくれたんだ。髪の毛・・・うん、綺麗に短く揃ってる。ちゃんとやってくれたんだ、よかったよかった」


 家の中の布団で目を覚ました椛は家の中に誰も居ないのを確認して、少し寂しい気持ちになりつつも外の空気を吸いたいと思い、表に出た。月の様子を見る限り、散髪を始めた時からまだ一刻ほどしか経っていない様であった。そんな直ぐに帰らなくてもいいのになぁ、と我がままな独り言を呟いている椛の背中に対して声が掛けられる。


「お、起きた起きた。おそよう!こんないいものを前にして帰る訳無いでしょ、天狗の名折れよ!」




家の方を振り返ると、家の隣にある樫の大木の高く、太い枝の所に文が腰掛けていた。片手に湯呑みを持っており、中身を一気に呷っている。その傍らには、椛にとって見覚えのある一升瓶が。


「あー!!な、な何でそれ持ってるんですかー!それ文さんが持ってきた筈が無いから動考えても私のじゃないですか、どうやって見つけた!」

「あー、流石天狗の里一番の酒蔵の大吟醸。10年に一度しか売らないだけあっておいしー!本当にこれ、米から作ったのが嘘みたいな香り。杯が進むわー」


ぐびりぐびりと呑んでいるのは、椛が一年以上前から予約をしてようやっと手に入れた天狗の大吟醸。すっきり爽やかで、フルーティーな香りは若い女性天狗に大人気で発売当日に売り切れる程の大人気期間限定商品なのである。美味しい酒に目の無い椛の事だからどうせ手に入れているだろう、と推測した文のヤマは当たっていたのであった。


「いや、まーね。寝ぼけてる貴方に聞いてみたら床下に隠してあるって言ったからつい・・・」

「うわああああ私のばかばか!」


わしゃわしゃと切ったばかりの髪の毛を弄くる椛を見ながら、折角櫛で整えてあげたのになぁ。と呟きながら、また一口ぐびりと。たちまち笑顔になった文は叫ぶ。


「はやく上がってこないと、無くなっちゃうわよ!椛、おいで!一緒に呑みましょ!」

「言われなくても!」


まあどうせ遅かれ早かれ、何かの機会で誰かと一緒に呑むつもりだったものだ。こうやって呑むのも悪くは無い、と椛は思った。


「何か肴はあるんですか!?」

「こっち来てからのお楽しみ!とっておきを用意してきたんだから!」
仲の良い友人、もしくはそれ以上の文と椛を書いてみました。読み返すと甘々ですね、この二人早くくっつけばいいのに・・・


ここまで読んでくださってありがとうございました。
フェンリル
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コメント



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14.70名前が無い程度の能力削除
なんだこのノロケ話は!いいぞ!もっとやれ!
16.100名前が無い程度の能力削除
貴方のあやもみは大好きです!!