マリアリです。主にマリ→アリ風味です。
苦手な方は戻るボタンを押して戻ってください。
魔理沙が乙女です。
「よっ」
「……ドアから入ってきなさいよ」
「これが私流だぜ」
「はぁ……」
派手にガラスが割れた窓から侵入した私は、椅子に座って作業していたアリスに微笑んだ。アリスはそんな私を見て溜息をついていたけど。
ずれた帽子の位置を直しながら部屋を見回す。相変わらず私の部屋と違い整理整頓が行き届いている。綺麗に整えられた家具と人形。そこにいるアリス。まるで一つの絵画のような美しさだ。
ぼんやりとしていると、アリスが不思議そうにこちらを見てくる。
「どうしたの、魔理沙」
「あ、いや。何でもないぜ」
「そう」
もう私に興味を無くしたのか作業に戻ってしまった。それにムッとしたけど、何を言っても冷たい言葉しか出てこなさそうなので、荒々しくアリスの目の前に椅子に座り帽子を机に投げ出した。
ちらりと咎めるように睨んできたけど、すぐに手元へ目線を映す。
何となく面白くない。
「なぁ、お茶は出ないのかよ」
「自分で入れなさいよ。神社では自分で入れてるでしょう?」
「嫌だぜ。アリスが入れたお茶が飲みたいんだ」
「……もう、我儘なんだから」
先ほどより深い溜息をついて、作業していた手を止めてキッチンへと向かっていった。奥からカチャカチャとお茶を用意する音が聞こえる。私のために何かをしてくれることが嬉しくて、知らず頬が緩む。
「日本茶がいいぜ」
「ここには紅茶しかないわ」
「じゃ、今度持ってくる」
「いらないわ」
「ちぇ」
テーブルへと目線を移すと、レースと人形用の服が置かれているのが見えた。新しい人形用なのだろうか。とても丁寧に作り込まれていて可愛らしい。
触ろうとしたところでアリスが戻ってきた。手にお盆を持ってこちらを睨んでくる。
「触らないで頂戴。壊されたら堪ったものじゃないわ」
「近くで見ようとしただけだぜ」
「だから触らないでって。ほらお望みの紅茶よ」
「お、さんきゅ」
人形の服を置いてティーカップを手に取った。うまい。
アリスは人形の服を作る作業に戻っていて、もう私を見ていなかった。
「なぁ、それは新しい人形用なのか?」
「……いえ、上海にと思って」
「ふぅん、可愛いな」
「あら、貴女もこういう服に興味があるの?」
そこで表情が意地悪そうに微笑んだ。
「む、私だって女の子なんだぜ」
「そうだけど。でも貴女こういうの興味なさそうじゃない」
「あるってば」
楽しそうに笑うアリス。今日初めての笑顔だ。アリスの笑顔を見ていると嬉しくなる。笑っている理由
は置いておいて。
「何なら作ってあげるわよ」
「え?」
「貴女用のヒラヒラの洋服」
アリスが、作ってくれる。私に洋服を?
「え、ほ、本当?」
「ええ、いいわよ。後で寸法を測らせてちょうだい」
心臓がばくばくと暴れ出す。アリスに洋服を作ってもらえるなんて!それだけで私の心は有頂天に達していた。
「か、可愛らしく頼むぜ」
「ふふ、もちろんよ。色は白黒でいいかしら」
「ああ!」
「分かったわ」
嬉しくて頬が緩む。今私はきっとだらしない表情になっていることだろう。でも、そんなこと気にならないくらいに嬉しい。
にやにやしている私に気がついたのか、アリスが苦笑した。
「貴女、すごくだらしない表情してるわよ」
「う、し、仕方ないだろ!う、嬉しいんだから……」
くすくすと笑うアリスに不貞腐れる。恥ずかしいやら嬉しいやらで、顔は真っ赤だ。
しばらくいじけていると、アリスが席を立った。
「よし、完成したわ。ちょっと待っていて」
「ああ」
手に上海の服を持ったまま奥へ。アリスの姿が見えなくなってから、私は思わずガッツポーズをしていた。
「うん、まぁ、こんなものかしらね」
「お、もう終わりなのか」
「ええ、お疲れ様」
私の寸法を紙に書き写し、その紙を人形へと渡した。
「期待していてちょうだい。人形のように可愛らしい洋服を作ってあげるわ」
「はは、期待してるぜ」
そこで箒を手に取り、帽子を被り直した。
「あら、もう帰るの?」
「ああ、もうすぐ夕刻になるしな。邪魔になったぜ」
「ええ、お邪魔だったわ」
「ひどいぜ」
笑いながら軽口を叩き合い、私はドアに手をかけた。
「魔理沙」
「ん」
「おやすみ」
「おやすみだぜ」
アリスの声を耳に焼きつけながら私は家を出た。
空を飛びながら私は先ほどのことを思い出して笑った。
「アリスの手作りかー」
今までアリスの手作りのクッキーや料理など色々作ってもらって食べさせてもらったけど、それは全て私の中で消えていってしまい残らないものばかり。嬉しいけれど、悲しくもあった。でも今度はちゃんと残るもの。それも、私のために作ってくれる。
「はは」
嬉しい。アリスが私のために何かを作ってくれるという事実が。
いつだってアリスは誰に対しても平等に冷たい物言いをする。それが私にとってとても辛いことだった。私はアリスにとって特別な存在ではないのではないかと。
気まぐれかもしれない。でも、そんな気まぐれでも私を気にかけてくれることが嬉しい。
「楽しみだなぁ」
緩む頬をそのままに私は宙を一回転した。
それから一週間。
「ほら、できたわよ」
「お、おおお」
ひらりとアリスが手に持っている洋服を見つめる。黒と白を基調にしたレースがふんだんに使われているドレス。胸元と背中部分に編み上げのリボン、5段のスカート、そして端々には白いレースで彩られている。本当に人形が着ているような洋服。
「す、すごく可愛い……」
「当然よ、私が作ったんだもの」
誇らしげに胸を張るアリスが可愛らしく見えた。そしてそのドレスを私にかざす。
「ね、着てみてくれるかしら」
「え、い、今か?」
「ええ、今よ。貴女が着ている姿見てみたいし」
「う、わ、分かった」
柔らかな生地でできたドレスを受け取り、奥へと向かおうとすると呼び止められた。
「あ、待って」
「ん、何だよアリス」
「これも履いてみて」
渡されたのは黒いシューズと白い二―ソックス。
それを受け取り、今度こそ着替えるために部屋を出た。
「あら、可愛いじゃない」
「何だか恥ずかしいぜ……」
顔が真っ赤なのが分かる。自分の作品を見てとても嬉しそうに笑う彼女の笑顔が眩しい。
「貴女もこうしてお洒落すると可愛らしく見えるわね」
「私はいつだって可愛らしいぜ」
「はいはい」
アリスが指を鳴らすと数体の人形が姿身を手にやってきた。
それを私の前に置く。
「おお、これは…」
「どうかしら…?」
その場でくるくる回ってみる。ひらひら、ひらひら、スカートとレースが揺れる。
「な、何だか私じゃないみたいだぜ…」
そう言うとアリスが笑った。
「可愛らしいお人形さんね」
おどけた様子で私に近づいてきて髪に触れた。
どきりと心臓が跳ねる。
「わ、わ」
そのまま髪を梳いてくる。アリスの手の暖かさに思わず目を閉じた。
「上海、櫛と黒のカチューシャとってきて」
こくりと上海が頷いて飛んでいく。
「帽子は今は外すわね」
「あ、ああ」
目を開けるととても優しい笑顔のアリスが見えた。
心臓が破裂しそうだ。
「あ、アリス」
「ん、何かしら」
「あの、さ」
ぱくぱくと口を金魚のように開け閉めしながら、お礼を言おうとした。と、そこへ櫛とカチューシャを持った上海が戻ってきた。……タイミング悪すぎ。
「ん、上海ありがと。魔理沙ちょっと待ってね」
「う、ああ…」
優しく櫛で私の髪を梳き、黒いカチューシャを私の髪につけた。
もう一度鏡へと目を移す。そこには、アリスが仕立てた洋服を着た私。
まるで、まるで――アリスの人形になったみたいだ。
「魔理沙?」
「へ?え?」
「いえ、何だか嬉しそうにしていたから気になって」
「あ、いや別に…。あ!服ありがとな!」
「ふふ、どういたしまして」
満足そうなアリスに私の胸は一杯だ。
嬉しくて嬉しくて再びくるくると回ってみる。
そんな私の様子を見ていた上海も同じように空中でくるくると回っているのが見えた。
「魔理沙がこんなに喜んでくれるとは思わなかったわ」
満足そうな表情のままアリスはそう言った。
「だって、嬉しかったんだ。こんなに可愛い服あまり着たことがなくてさ」
「そう。じゃ、また作ってあげる」
「……え?」
驚いて思わず止まってアリスを見た。
「い、いいのか?」
「もちろんよ。こんなに喜んでくれると嬉しいし。作りがいもあるしね」
また私のために作ってもらえる!
こんなに嬉しいことが今まであっただろうか、いやない。
「じゃ、また頼むぜ!」
「ええ、任せておいて」
「あ、何か欲しいものがあるか?お礼くらいはしたいぜ」
「あら、珍しいわね」
心底驚いたといった様子のアリスにムッと膨れた。
「失礼な。私だって礼儀くらいは弁えてるぜ」
「じゃ、今まで私から盗んだ本を返してちょうだい」
「う」
最も難題なお礼を吹っ掛けられた。
パチュリーから借りた本なら返してもいいが、アリスから借りた本はなるべくなら返したくない。……好きな人の物を持っていたいというのは至極当然の欲だと思う。…アリスは迷惑だろうけどさ。
「うー」
「はぁ……もう。じゃ、魔理沙が作ったお菓子が食べてみたいわ」
「え?」
私が作ったお菓子?そんなものでいいのか?
そんな私の心中を察したのかアリスが頷いた。
「だって、貴女が作った料理は食べたことあるけど、お菓子はないんだもの。だからお礼はそれでいいわ」
「わ、分かったぜ。何でもいいのか?」
「ええ、魔理沙が作りたいものでいいわ」
「ん、分かった」
どんなお菓子を作ろうか。あ、でもあまりお菓子作ったりしないから簡単なものにしないと。クッキーなんかどうだろう。あれなら私でも作れそう。何味にしようかなぁ。
うんうん唸っていると、またアリスが笑う。
「な、何だよ」
「いえ、もし妹がいたらこんな感じかなって」
「い、妹……」
妹って。その評価にがっくりくる。
で、でもまだ挽回の余地はあるはず!……多分。
「そ、それじゃ、そろそろお暇するぜ!」
「ええ、分かったわ」
「服本当にありがとな。あ、靴とソックスは?」
「それもあげるわ。それもお揃いで作ったんだし」
「すごいなアリスは……」
「そ、そうでもないわよ」
照れてそっぽを向いてしまったけど、その赤い顔は隠しきれてない。
やっぱりアリスは可愛い。
「じゃ、またな!」
「ええ、またね」
帽子をかぶろうとして、カチューシャをしているのに気がついてやめた。手に持ったままで箒を手に取り、ドアノブを握る。そしてアリスを見てウィンクしてみせた。
「じゃあな!」
「ええ」
ドアを開け、素早く箒に跨り飛び上がる。すぐに地上は離れていきアリスの家が遠くなる。
もう一度アリスの家を見て、帽子を持った手で手を振った。
今度はどんな服を作ってくれるのかな。
アリス、私の手作りクッキー楽しみに待ってろよ!
苦手な方は戻るボタンを押して戻ってください。
魔理沙が乙女です。
「よっ」
「……ドアから入ってきなさいよ」
「これが私流だぜ」
「はぁ……」
派手にガラスが割れた窓から侵入した私は、椅子に座って作業していたアリスに微笑んだ。アリスはそんな私を見て溜息をついていたけど。
ずれた帽子の位置を直しながら部屋を見回す。相変わらず私の部屋と違い整理整頓が行き届いている。綺麗に整えられた家具と人形。そこにいるアリス。まるで一つの絵画のような美しさだ。
ぼんやりとしていると、アリスが不思議そうにこちらを見てくる。
「どうしたの、魔理沙」
「あ、いや。何でもないぜ」
「そう」
もう私に興味を無くしたのか作業に戻ってしまった。それにムッとしたけど、何を言っても冷たい言葉しか出てこなさそうなので、荒々しくアリスの目の前に椅子に座り帽子を机に投げ出した。
ちらりと咎めるように睨んできたけど、すぐに手元へ目線を映す。
何となく面白くない。
「なぁ、お茶は出ないのかよ」
「自分で入れなさいよ。神社では自分で入れてるでしょう?」
「嫌だぜ。アリスが入れたお茶が飲みたいんだ」
「……もう、我儘なんだから」
先ほどより深い溜息をついて、作業していた手を止めてキッチンへと向かっていった。奥からカチャカチャとお茶を用意する音が聞こえる。私のために何かをしてくれることが嬉しくて、知らず頬が緩む。
「日本茶がいいぜ」
「ここには紅茶しかないわ」
「じゃ、今度持ってくる」
「いらないわ」
「ちぇ」
テーブルへと目線を移すと、レースと人形用の服が置かれているのが見えた。新しい人形用なのだろうか。とても丁寧に作り込まれていて可愛らしい。
触ろうとしたところでアリスが戻ってきた。手にお盆を持ってこちらを睨んでくる。
「触らないで頂戴。壊されたら堪ったものじゃないわ」
「近くで見ようとしただけだぜ」
「だから触らないでって。ほらお望みの紅茶よ」
「お、さんきゅ」
人形の服を置いてティーカップを手に取った。うまい。
アリスは人形の服を作る作業に戻っていて、もう私を見ていなかった。
「なぁ、それは新しい人形用なのか?」
「……いえ、上海にと思って」
「ふぅん、可愛いな」
「あら、貴女もこういう服に興味があるの?」
そこで表情が意地悪そうに微笑んだ。
「む、私だって女の子なんだぜ」
「そうだけど。でも貴女こういうの興味なさそうじゃない」
「あるってば」
楽しそうに笑うアリス。今日初めての笑顔だ。アリスの笑顔を見ていると嬉しくなる。笑っている理由
は置いておいて。
「何なら作ってあげるわよ」
「え?」
「貴女用のヒラヒラの洋服」
アリスが、作ってくれる。私に洋服を?
「え、ほ、本当?」
「ええ、いいわよ。後で寸法を測らせてちょうだい」
心臓がばくばくと暴れ出す。アリスに洋服を作ってもらえるなんて!それだけで私の心は有頂天に達していた。
「か、可愛らしく頼むぜ」
「ふふ、もちろんよ。色は白黒でいいかしら」
「ああ!」
「分かったわ」
嬉しくて頬が緩む。今私はきっとだらしない表情になっていることだろう。でも、そんなこと気にならないくらいに嬉しい。
にやにやしている私に気がついたのか、アリスが苦笑した。
「貴女、すごくだらしない表情してるわよ」
「う、し、仕方ないだろ!う、嬉しいんだから……」
くすくすと笑うアリスに不貞腐れる。恥ずかしいやら嬉しいやらで、顔は真っ赤だ。
しばらくいじけていると、アリスが席を立った。
「よし、完成したわ。ちょっと待っていて」
「ああ」
手に上海の服を持ったまま奥へ。アリスの姿が見えなくなってから、私は思わずガッツポーズをしていた。
「うん、まぁ、こんなものかしらね」
「お、もう終わりなのか」
「ええ、お疲れ様」
私の寸法を紙に書き写し、その紙を人形へと渡した。
「期待していてちょうだい。人形のように可愛らしい洋服を作ってあげるわ」
「はは、期待してるぜ」
そこで箒を手に取り、帽子を被り直した。
「あら、もう帰るの?」
「ああ、もうすぐ夕刻になるしな。邪魔になったぜ」
「ええ、お邪魔だったわ」
「ひどいぜ」
笑いながら軽口を叩き合い、私はドアに手をかけた。
「魔理沙」
「ん」
「おやすみ」
「おやすみだぜ」
アリスの声を耳に焼きつけながら私は家を出た。
空を飛びながら私は先ほどのことを思い出して笑った。
「アリスの手作りかー」
今までアリスの手作りのクッキーや料理など色々作ってもらって食べさせてもらったけど、それは全て私の中で消えていってしまい残らないものばかり。嬉しいけれど、悲しくもあった。でも今度はちゃんと残るもの。それも、私のために作ってくれる。
「はは」
嬉しい。アリスが私のために何かを作ってくれるという事実が。
いつだってアリスは誰に対しても平等に冷たい物言いをする。それが私にとってとても辛いことだった。私はアリスにとって特別な存在ではないのではないかと。
気まぐれかもしれない。でも、そんな気まぐれでも私を気にかけてくれることが嬉しい。
「楽しみだなぁ」
緩む頬をそのままに私は宙を一回転した。
それから一週間。
「ほら、できたわよ」
「お、おおお」
ひらりとアリスが手に持っている洋服を見つめる。黒と白を基調にしたレースがふんだんに使われているドレス。胸元と背中部分に編み上げのリボン、5段のスカート、そして端々には白いレースで彩られている。本当に人形が着ているような洋服。
「す、すごく可愛い……」
「当然よ、私が作ったんだもの」
誇らしげに胸を張るアリスが可愛らしく見えた。そしてそのドレスを私にかざす。
「ね、着てみてくれるかしら」
「え、い、今か?」
「ええ、今よ。貴女が着ている姿見てみたいし」
「う、わ、分かった」
柔らかな生地でできたドレスを受け取り、奥へと向かおうとすると呼び止められた。
「あ、待って」
「ん、何だよアリス」
「これも履いてみて」
渡されたのは黒いシューズと白い二―ソックス。
それを受け取り、今度こそ着替えるために部屋を出た。
「あら、可愛いじゃない」
「何だか恥ずかしいぜ……」
顔が真っ赤なのが分かる。自分の作品を見てとても嬉しそうに笑う彼女の笑顔が眩しい。
「貴女もこうしてお洒落すると可愛らしく見えるわね」
「私はいつだって可愛らしいぜ」
「はいはい」
アリスが指を鳴らすと数体の人形が姿身を手にやってきた。
それを私の前に置く。
「おお、これは…」
「どうかしら…?」
その場でくるくる回ってみる。ひらひら、ひらひら、スカートとレースが揺れる。
「な、何だか私じゃないみたいだぜ…」
そう言うとアリスが笑った。
「可愛らしいお人形さんね」
おどけた様子で私に近づいてきて髪に触れた。
どきりと心臓が跳ねる。
「わ、わ」
そのまま髪を梳いてくる。アリスの手の暖かさに思わず目を閉じた。
「上海、櫛と黒のカチューシャとってきて」
こくりと上海が頷いて飛んでいく。
「帽子は今は外すわね」
「あ、ああ」
目を開けるととても優しい笑顔のアリスが見えた。
心臓が破裂しそうだ。
「あ、アリス」
「ん、何かしら」
「あの、さ」
ぱくぱくと口を金魚のように開け閉めしながら、お礼を言おうとした。と、そこへ櫛とカチューシャを持った上海が戻ってきた。……タイミング悪すぎ。
「ん、上海ありがと。魔理沙ちょっと待ってね」
「う、ああ…」
優しく櫛で私の髪を梳き、黒いカチューシャを私の髪につけた。
もう一度鏡へと目を移す。そこには、アリスが仕立てた洋服を着た私。
まるで、まるで――アリスの人形になったみたいだ。
「魔理沙?」
「へ?え?」
「いえ、何だか嬉しそうにしていたから気になって」
「あ、いや別に…。あ!服ありがとな!」
「ふふ、どういたしまして」
満足そうなアリスに私の胸は一杯だ。
嬉しくて嬉しくて再びくるくると回ってみる。
そんな私の様子を見ていた上海も同じように空中でくるくると回っているのが見えた。
「魔理沙がこんなに喜んでくれるとは思わなかったわ」
満足そうな表情のままアリスはそう言った。
「だって、嬉しかったんだ。こんなに可愛い服あまり着たことがなくてさ」
「そう。じゃ、また作ってあげる」
「……え?」
驚いて思わず止まってアリスを見た。
「い、いいのか?」
「もちろんよ。こんなに喜んでくれると嬉しいし。作りがいもあるしね」
また私のために作ってもらえる!
こんなに嬉しいことが今まであっただろうか、いやない。
「じゃ、また頼むぜ!」
「ええ、任せておいて」
「あ、何か欲しいものがあるか?お礼くらいはしたいぜ」
「あら、珍しいわね」
心底驚いたといった様子のアリスにムッと膨れた。
「失礼な。私だって礼儀くらいは弁えてるぜ」
「じゃ、今まで私から盗んだ本を返してちょうだい」
「う」
最も難題なお礼を吹っ掛けられた。
パチュリーから借りた本なら返してもいいが、アリスから借りた本はなるべくなら返したくない。……好きな人の物を持っていたいというのは至極当然の欲だと思う。…アリスは迷惑だろうけどさ。
「うー」
「はぁ……もう。じゃ、魔理沙が作ったお菓子が食べてみたいわ」
「え?」
私が作ったお菓子?そんなものでいいのか?
そんな私の心中を察したのかアリスが頷いた。
「だって、貴女が作った料理は食べたことあるけど、お菓子はないんだもの。だからお礼はそれでいいわ」
「わ、分かったぜ。何でもいいのか?」
「ええ、魔理沙が作りたいものでいいわ」
「ん、分かった」
どんなお菓子を作ろうか。あ、でもあまりお菓子作ったりしないから簡単なものにしないと。クッキーなんかどうだろう。あれなら私でも作れそう。何味にしようかなぁ。
うんうん唸っていると、またアリスが笑う。
「な、何だよ」
「いえ、もし妹がいたらこんな感じかなって」
「い、妹……」
妹って。その評価にがっくりくる。
で、でもまだ挽回の余地はあるはず!……多分。
「そ、それじゃ、そろそろお暇するぜ!」
「ええ、分かったわ」
「服本当にありがとな。あ、靴とソックスは?」
「それもあげるわ。それもお揃いで作ったんだし」
「すごいなアリスは……」
「そ、そうでもないわよ」
照れてそっぽを向いてしまったけど、その赤い顔は隠しきれてない。
やっぱりアリスは可愛い。
「じゃ、またな!」
「ええ、またね」
帽子をかぶろうとして、カチューシャをしているのに気がついてやめた。手に持ったままで箒を手に取り、ドアノブを握る。そしてアリスを見てウィンクしてみせた。
「じゃあな!」
「ええ」
ドアを開け、素早く箒に跨り飛び上がる。すぐに地上は離れていきアリスの家が遠くなる。
もう一度アリスの家を見て、帽子を持った手で手を振った。
今度はどんな服を作ってくれるのかな。
アリス、私の手作りクッキー楽しみに待ってろよ!
乙女魔理沙とお姉さんアリス好きだw
とても甘々でした。GJ!
なんというジャスティス