御注意。
本作中に巫女は出ません。
巫女好きには大変申し訳ない仕様になっております。
「霊夢さん。これちょっと、どうかと」
「温かいでしょう?」
「えぇ、まぁ」
「ならいいじゃない」
ここは博麗神社。その一室に敷かれた一組の蒲団。
その蒲団に、寝間着姿の霊夢と、かなり温かそうなポンチョを羽織った私服姿の早苗が足を突っ込んでいた。
なぜこんなことになったのかを説明すると長くなるが、それを端的に説明すると。
遊ぶ約束をした早苗が神社に来たら霊夢がまだ寝てて、寒かったので足突っ込んだら霊夢がのそっと起きた。という次第である。
そんなわけで、現在二人は蒲団に両膝まで突っ込んでまったりしていた。
「お蒲団には愛があるわ」
「落ち着きますけど、ねぇ、出掛けようよー。どっか往くって約束したじゃないですかー」
約束の内容『今度遊ぼう』
「したっけ?」
「しましたよー」
多分、霊夢に非はない。
しかし、万事この調子なので、別段どちらも悪くもない。
霊夢は大あくび。早苗はちょっと寒くなったので蒲団に腿まで入れる。
「今日は寝ない?」
「えー、紅魔館往きましょうよ。紅茶とクッキーご馳走になりたい」
ノーアポなのは言うまでもない。
だけど咲夜ならやってくれるに違いない。彼女は持て成すことが趣味になりつつあるのだから。
ちなみに早苗の中での他の候補地は中有の道と香霖堂だったが、今はお八つな気分だった。まだ午前ですが。
霊夢の肩をぐらぐら揺すりながらどう起こそうかと早苗は思案する。
そこでふと浮かぶ。寝間着は寝る服だと。
そこでふと浮かぶ。じゃあ別の服着せようと。
そこでふと浮かぶ。はだけた寝間着がセクシーと。
「着替えましょうか」
「なんで鼻血?」
「心の壁にぶつかりました」
ハンカチで拭ってから運良くポケットに入っていたガーゼを詰める。
「そうだ、ちょうど好い。霊夢さんに似合いそうな服見繕って来たんですよ。それ着ていきましょう」
と、早苗は蒲団から出ると、立ち上がりスカートの中から紙袋を取り出す。三つほど。
「さぁ」
「なにそれ?」
「服です」
「下着が見える」
「も入ってます」
「や、早苗の」
「きゃー、めくれてたぁ!」
紙袋出した時にめくれたらしい。
何かガッツを感じる布地でした。
スカートを戻し、ぐだぁっとした霊夢の袖を引っ張る。
すると霊夢は身を振っていやいやする。
「着替えましょうよー」
「まだ寒い」
その理論で言うと、来年まで起きられそうにない。
更にしばらく引っ張っていたが、根負けして、早苗は蒲団に足を差し込んだ。
「仕方ないですね。じゃあ朝ご飯食べに行きましょう」
どこを妥協したのか。
「作って」
「材料の買い置きがないのは先刻承知です」
「じゃあ買ってきて」
「寝惚けてるとどんなわがままも通ると思わないように」
「うー」
実は昨日、夕飯に博麗神社で霊夢と魔理沙と早苗とアリスで鍋をしたのである。そしてその際に、霊夢は食材を切らした。
鍋にパンやドライフルーツまで放り込んでしまったのが原因なのは間違いない。
買ってくる気はないので、どこに往って何を食べようかと、早苗はそんなことを考える。
「うー。寒い」
その隙を狙って、霊夢はもぞもぞと蒲団に潜った。
「わぁ!? 何してるんですか!」
「眠い」
「そこ進入禁止というか行き止まりです!」
もぞもぞとスカート内の領域侵犯して来た足を、両手で掴んでどかす。
それでも進軍を続ける霊夢。早苗は一旦蒲団を離脱すると、霊夢に蒲団の上から馬乗った。
「うお」
少し腹が圧迫されて苦しかったご様子。
「もう、起こしますよ」
「起こしてー」
「うり」
蒲団を引っぺがす。
霊夢が震えた。
「なんてことを」
「神の裁きです」
「おそるべし」
畏怖するかのように縮こまり微振動。
でも単に寒いだけなの。
「まだ起きませんか」
「起きるから蒲団かけて」
「これは駄目だ」
従ったら馬鹿を見るのは火を見るより明らかだ。
ふふふと早苗は笑う。
「神の子孫を甘く見ると、こうです!」
いつか使おうと温存していた奥義。それを早苗は、今、解き放つ。
「必殺! KISS【誕生-BIRTH-】」
接吻がおこなわれた。
頬なんてちゃちなものじゃねぇ。もっと色付いた何かだったぜ。
霊夢の頭を抱え口付ける。そして十秒ほど緊張やら「やっちまった!」的な思いやらで硬直すると、ハッと身を離した。
「……危なかった」
何がだろうか。
「すごいことするわね」
表情は普段と変わらないが、少し頬が赤くなっていた。
それを可愛いなと思った直後に、早苗は首を大きく振るう。
「HoneyとBabyの寝顔にキスしたくなる年頃なんです」
それは年齢的にもっとずっと上でないといけない気がする。
「確かに目はさめたけどね」
「それは何より」
衝撃は有効であった。
「しかしこの外国風の挨拶、眠気覚ましにも使えるなんて。びっくりしたわ」
「しみじみ言わないで~」
悪戯した方が恥じらっているという不思議な現象。
ちなみにこのアメリカナイズな挨拶についてだが、かつて紫から習いそういう知識はあった。
「だって、霊夢さん赤ちゃんみたいで可愛いんだもん」
「反応に困る評価だわ」
一瞬振り切った理性に肩を叩かれ、羞恥が復活した早苗は顔を赤らめきゃっきゃとはしゃぐ。落ち着きはしない様子。
しかしこほんと小さく咳をして、頬を冷ます。
「というわけで、これ着ましょう」
話が結構前まで戻った。
「なにこれ?」
広げる。
薄いピンク色でひらひらした、ドレスにも近いワンピース。
「……下着?」
「普通の服です!」
「薄っぺらい」
「上着もありますよ?」
「なにこれ」
「カチューシャです。ネコミミつきもありますよ」
とりあえず、それは上着じゃない。衣服でもない。
次々と飛び出す服の数々。
早苗の持ってきた紙袋が宇宙だった。
その服の数々に驚いた一瞬の隙を突き、早苗は霊夢を蒲団から取り出した。
「おぉ!?」
「じゃあ、まずはこれね」
繰り広げられる弾幕。そしてそれにまさかの連続被弾。霊夢は見事に着せ替え人形されてしまった。
そしてこの耐久スペル、実に30分の間作動し続けたのである。鬼である。
霊夢の衣装セレクトは、最終的に地味めな白と紺の衣服に落ち着く。
「……これ咲夜の服っぽい」
「確かにエプロンドレスちっくです」
何故か丁寧にヘッドドレスまで備えていた。
ちなみにアリス手製である。
早苗の鼻に詰めたガーゼが、この着せ替えに際して十回ほど取り替えられたが、どうも今のガーゼも血を抑えられなくなりつつあった。
「霊夢さん。うち来ません? 泊まって好いですよ」
「この紙袋に入ってるの、早苗の家の服の約何割?」
「一厘」
「私、睡眠時間が大切なの」
「もてなすのに……」
地味に暴走していた。
「そうだ、朝食私が作りましょう。だから神社往きましょう」
「ここ神社」
「食材のある神社に往きましょう」
「あう」
目は覚めたばかりのはずなのだが、連続着せ替えでの疲労が色濃い。
その霊夢の手を引いて、早苗は守矢神社へと飛んでいく。
押しつ押されつ、二人の巫女は賑やかに今日も飛んでいた。
大変美味しゅうございました
続きが見てみたいです。
布団を剥がす神の前に畏怖する霊夢がかわいいです
あら、ガーゼを取り替えないと
さすが早苗さん!
良い雰囲気です
本当にありがとうございました
もっとやれwwww
何だか視界もぼやけてきt……
……せめて俺が生きてるうちに……守矢神社での二人が見たかった……
ファッションショーのチケットはおいくらでしょうか
てゐ蔵さんは尾崎世代か!!
ここからの起承転結に吹いたwww