Coolier - 新生・東方創想話

アリスを探して三千世界

2009/11/28 02:19:43
最終更新
サイズ
80.59KB
ページ数
1
閲覧数
5736
評価数
61/214
POINT
13540
Rate
12.62

分類タグ


【序章】
アリスが死んだ。
欠片も残さず。
微塵も残さず。
痕跡も残さず。
肉体を消滅させて、死んだ。

「人間の私達より先にいなくなるなんてね」と霊夢は呆れていた。
「最後まで魔法の実験をやってたんだ、魔法使いとして本望だろう」と魔理沙は笑っていた。

呆れ顔。
笑い顔。
その裏の表情を想像できないほど、彼女達とのつき合いは短くない。

空の棺を二つもちいた無意味に思える葬儀が終わって、私達はこれからどうするかを相談した。
廃墟も同然となったアリスの家を修理して使うという者もいれば、人里で暮らしてみるという者もいたし、
適当に幻想郷をさすらってみるという者もあれば、紅魔館のメイドになるなんて変り種もいた。
「蓬莱はどうする?」
「うん、どうしようかな」
今はもういないアリスの家を護り続けるために残ると言う姉妹達に問われ、少し考えてから、私は答えた。

――アリスを探しに行く。

一週間前、実験室で起きた閃光と轟音。
パチュリー・ノーレッジや河城にとりの分析の結果、空間をもねじ切る大爆発が起こったらしいと解った。
実験室の中にいたアリスは灰塵を通り越して消滅していまったのだろう。
偶然荷物を運び込んでいたために研究室にいた彼女も、同様の結末を迎えたに違いない。
三途の河に魂がやって来ないのは、魂ごと消滅するほどの威力だったに違いないという、仮説。
実験室の外に被害がなかったのは、アリスが実験室を覆うように構築した七重高位魔術結界のおかげ。
不幸中の幸いだったらしい。
これがアリスの死の真相であると考えられている……けれど……仮説は、仮説だから。
アリスが爆発に巻き込まれ消滅した瞬間を見た者は存在しないのだから。

うん、解ってる。
あまりにも幼稚で稚拙な希望的観測だって事くらい。
でもアリスは、可能性がゼロではないものを否定しなかったから。
不可能だと言われた科学と魔法の合成に成功して、
私達の新たなる"核"を生み出したアリスを敬愛しているから。
希望的観測が可能なら、ゼロに限りなく近い可能性に賭けてみる。
あきらめるのは、あらゆる希望的観測を潰して回って、可能性を完全絶対のゼロにしてからでも遅くない。

魔力炉心搭載七色術式駆動型自律人形、それが今の私達。――長い上どうでもいい設定だから覚えなくていいよ。
蓬莱人形、それが昔からの私。――でもまあ個人名くらいは覚えて欲しいな。

アリスが長年の研究の末に完成させた魔術と技術の結晶。
別名、アリスの娘達。
魔法実験の最中、部屋ごと消滅して死んだとされる二人、
すなわちアリスと上海人形を探す旅が今日この時、始まった。

七つの【チャプター】に分けられるこの物語、果たして旅の終わりに待つものは希望か絶望か――。


     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【チャプター1】
【魔法の森! 出撃準備だよレッツ蓬莱・蓬莱!】

旅に出るにしても先立つものがなければ始まらない。
けれど私は日頃アリスのお世話さえしていれば満足な性質であったため、
特にお給金を稼ごうとかいう考えを持たず、毎月ちょろっとお小遣いをもらうだけで大満足だった。
財布の中には五千円。
魔力炉心を搭載したいくら自律人形といえど、補給なしでは稼動し続けられない。
『人間に近いものを』という趣旨で、私達の動力源は人間の食べ物になっている。
五感を駆使して食事を楽しめる人形を完成させるだなんて凄いよアリス天才的!
食べ物を魔力炉心で分解吸収する。専門的説明はややこしくて、私もよく理解してないのでどうでもいい。
繰り返す、財布の中に五千円。
……。人形サイズのボディのため飲食の量は少なくてすむとはいえ、この金額はつらい。
……。半壊したアリスの家を一生懸命直している仲間の人形達に頼る訳にはいかない。
……。まあ、何とかなるかと前向きな気持ちを演じながら私はアリス宅を後にした。

途中、魔理沙の家に寄っていこうかとも考える。
もう子供じゃないとはいえ、危なっかしいのは相変わらず。
アリスの死は魔理沙に空元気を振舞わせるだろうし、その姿を見るのは正直居心地が悪い。
ああ、そうだ、空元気を装うならキノコ狩りでもしているかもしれない。
偶然ばったり会ったりしたらイヤだな。でも、キノコか。
お小遣いが五千円しかないから、軽くキノコ狩りしてから森を出るのもいいかも。
食用キノコは自分で食べればいいし、薬になるキノコや魔法実験用に使えるキノコは売れば小金になる。
そんな訳で穴場のキノコ畑に向かってみたら先客がいた。
白黒衣装ではなく、紅白衣装の先客が。

「ウワーッハハハッ! この見事な紅白は間違いなく格式と伝統の素敵に無敵でビッグなスーパーキノコ!
 これさえあれば我がフジヤマヴォルケイノは銀河をも砕く恐るべき破壊力となろうぞ!
 待っているがいい輝夜! 宇宙の塵にした挙句に魔の三角地帯にバラまいてくれるッ!」

いい具合に脳みそが変色しているようなので、存在を無視して金になりそうなキノコを引っこ抜いて回った。
人形の私と同じくらいの大きさのキノコを引っこ抜いては種類ごとに分けて地面に並べる。
食用、食用、薬用、食用、薬用、魔法実験用、毒、薬用、魔法実験用、毒、毒、毒、毒、薬用、毒。
うん、大量。食用と毒は自分で食べて、薬用は人里で売って、魔法実験用はパチュリーにでも売ろう。
人形だから生物に対して効果のある毒でも問題なく吸収分解可能だからね。
こんな機能を作ったアリス天才さすが宇宙一の人形遣い。
「待てぇーい! おいこら蓬莱、私の存在を無視するな!」
こんにちは妹紅。脳みその具合が致命的にぶっ壊れてるけど大丈夫じゃなさそうだね。お悔やみ申し上げます。
「無視は優しさ! ありがとうございました!」
蓬莱人形の二つ名を持っている妹紅とはそれなりに仲がよかったのだけれど、
これを機に絶縁するのもナイスなアイディアだね。さよならバイバイご機嫌よう。
「しないで! 寿命を気にせずつき合える数少ない友達なのに絶縁しないでー!」
泣いてすがる妹紅、意外や可愛い所があるものね。からかうと楽しい。
「ううっ……お前、自律稼動できるよーになってから年々性格悪くなってないか?」
学習成長進化できない人形はただの人形だよベイベー。
「そういうもんか。ところで蓬莱もキノコ狩りなのか?
 最近タケノコに飽きてきちゃってさ、今日はキノコカレーでも作ろうと思ってるんだ。
 よかったらうちに来ない? 他の連中も誘っていいよ」
申し訳ないけれど断らせてもらう。
私はアリスと上海を探す旅に出たばかりの身の上だから。
「アリスと上海を? こないだ葬式したじゃないか」
妹紅は人死にを嫌ってはいるが、慣れてもいるようで、
アリスと上海の死を聞いても取り乱したりはしなかった。
「そうか。ご愁傷様」と花を持ってきて、手を合わせてくれた。
そんな妹紅が好き。だから手短に説明する。
アリスと上海を探す決意を。
「死んだと思った奴が生きていた、か。そういう経験は何度かあるけど……」
そうなんだ。頼れそう、さすが妹紅。こころのともよー。
腕を組んで、目をつむり、唸ってて、目を開け、私を見て、心友は言った。
「暇だし、手伝おうか?」
暇じゃなくても、手助けをしようとしてくれたんだろうな、と思う。
……自律人形の一人旅というのも心細いし、お願いしようかな。
「任せとけ。時間ならたっぷりあるからな」
よし、財布ゲット。
「おいぃぃぃッ!? 今、一瞬で友情に亀裂が入るような発言が聞こえたんだけどォオーンッ!?」
冗談にいちいち反応してくれて、本当に妹紅は楽しい友達。愉快愉快。

私は自分で引っこ抜いたキノコを妹紅に持ってもらうよう頼んだ。
人形サイズの大きさの私は、そんなに荷物を持てないから。
つまり、最初から妹紅に頼るつもりであれだけのキノコを引っこ抜いた、打算ありの行動だった。
でも、アリス探しの旅を手伝ってくれるのは、嬉しいな。

「ところで毒キノコがかなーり混ざってるんだけど、これはどうするんだ?」
魔法の実験や媒体に使ったり、調合次第で薬になったりするのは売ろうかなと思ってる。
それと、人形だから毒は平気。
「食べる気かッ!?」
妹紅も蓬莱人だから毒は平気だよね。
「平気じゃないから! 食べても死なないけどリザレクションしちゃうから!」
いちいちツッコミありがとう。


     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【チャプター2】
【紅魔館! こあこあココア危機一髪!】

とりあえず邪魔なキノコを売りに紅魔館にやって来た。パチュリーなら買ってくれると思う、多分。
居眠りしている門番の横を通り抜けて、私と妹紅は紅魔館に侵入した。
相変わらず趣味の悪い真っ赤な館。白を混ぜて紅白にしたら妹紅が喜ぶのに。
「喜ばないから、別に紅白フェチじゃないから」

紅白異変――博麗霊夢と藤原妹紅が紅白の魅力を解らせるために起こした異変。
曰く、この世でもっとも美しい色の組み合わせは紅白である。
故に幻想郷を紅白で埋め尽くす、これすなわち正義也。

っていう異変を起こしたくらい紅白好きだった妹紅はどこに行ってしまったのか、私はさみしい思いをした。
「してなーい! そんな異変起こしてない! やーめーろーよー、そういう変な捏造はー」
冗談はさておき図書館に行こう。
私は妹紅の肩に飛び乗った。
基本的に浮遊して移動する私だけれど、妹紅の肩はお気に入りの場所のひとつ。
妹紅も気にせず、私を乗せたまま廊下を歩く。
絨毯の踏み心地がいいらしく、飛んでいくなんて無作法な真似はしない。

「あら、蓬莱に妹紅じゃない」
と、対面から妖精メイドと同じ服装の人形が洗濯籠を持って飛んできた。
「あー、ちょっと待て。誰か当ててみせるから」
私が返事をするより早く、妹紅は彼女を指さしながら口止めをさせる。
私達アリスの人形は基本的にほとんど同じ外見をしている。
けれど自律人形になってからそれぞれ個性を求めて外見を変えた人形もいて、
和蘭人形は紅毛に染めたし、京人形は鴉の濡れ羽色と称する黒髪が優美。
しかし大半はアリスに造られた姿のまま、金髪碧眼のままで、今ここにいる私も彼女も似た姿。
しばし唸って、妹紅はちょっと自信なさげに言った。
「仏蘭西……いや、オルレアンか?」
「残念、倫敦人形でした」
「あー、倫敦かぁ。くそう、普段と違う紅魔館のメイド服だから難しかった……」
「私は仏蘭西やオルレアンより髪が一センチ長いっていつも言ってるじゃない」
「へー、初耳」
私も初耳。
「しかしどうして倫敦が紅魔館に?」
「アリスがいないなら、アリスの家に留まる理由はないわ。
 それにアリスもいつか私達を巣立たせてみようって計画を練っていたわ。
 だから、紅魔館のゴシックムードが好きだったし、ここで暮らしてみるのも悪くないかなって」
「そうなんだ」
「蓬莱と妹紅も紅魔館で働かせてもらいにきたの?」
「いやー……パチュリーにキノコを売りつけにきただけだよ」
さすが妹紅、気が利く。
ここで正直に答えては、新しい生活に踏み出した倫敦まで巻き込みかねない。
アリスの家に残ったみんなは家の修理や保護を目的としているから、
私の目的を知っても帰る場所を護るためにやはり残り続ける可能性が高い。
けれど家を出たみんなは、きっと私の目的を知れば、
私がアリスを見つけるかあきらめるかするまで協力しようとする。何だかんだで仲間意識が強いから。
自分勝手に巻き込みたくない、という自分勝手のためにみんなには内緒。
「パチュリー様ならいつも通り図書館で本に埋もれてるわ」
「そうか、ありがとな倫敦。じゃ、行こうか蓬莱」
うん。倫敦、ニューお仕事がんばってね。
「蓬莱もキノコ屋さんがんばってね」
妙な誤解をしたまま倫敦は行ってしまった。
キノコ屋になった覚えはないけれど否定せずに行こう、誤解は時として人生を面白おかしくしてくれる。
そうそう、誤解と言えば二、三十年くらい前に妹紅が博麗神社の石段から転げ落ちた時――。
「おい! 捏造はやめろと言ったが真実の暴露ならいいとは言ってない!」
モノローグにツッコミを入れるなんて、いつから妹紅はそんな空気の読めない人になってしまったのか。
「やかましいわ! だいたいモノローグ使って会話すんな! かぎかっこ使えよ! 解りにくいんだよ!」
そうこうしてる間に図書館到着。
活動資金の確保のためキノコを高く売りさばこう。

図書館の戸を開くと同時に私達は閃光と轟音に包まれた。
咄嗟に自分一人分の結界を張るのがやっとで、反応の遅れた妹紅は焼け焦げた。
ついでに売りさばく予定だったキノコと食べるつもりだったキノコも灰塵となって消えた。残念無念。
「――って訳で借りとくぜー!」
「むきゅー」
図書館の中から聞こえてきた声で、何が起きたのか概ね把握。
魔理沙が本を借りにきて弾幕勝負になってマスパ巻き添え哀れキノコの巻。
「おい……そこは哀れキノコじゃなく、哀れ妹紅さんだろう……」
あ、リザレクった。さすが妹紅頼りになる。
けれど早々に軍資金確保大作戦が頓挫してしまい、今後どうすればいいか困ってしまう。
こうなれば私達も図書館から本を借りてそれを売りさばくしか道はない。
「いやいや、それ泥棒だから」
冗談をいちいち真に受ける妹紅が可愛い。好き。
「お前の場合、どこまで本気でどこまで冗談か解りづらい。
 ところでキノコが駄目になっちゃったけど、どうする?」
うーん。キノコがなかったらパチュリーに会う意味もないし、帰ろうか。
「いや、アリス上海探しに協力してもらえないかな? 魔法使いだし頭脳面で頼りになるかも」
さすが妹紅、私が気づかない事にしっかり気づいてくれる。やっぱり頼りになる。
「それほどでもない。お、あそこにいるのは小悪魔じゃないか。おーい小悪魔ー」
本棚の陰から出てきたのは小悪魔。
何冊かの本を載せたカートを押している足を止めて、こちらを向いた。
「こんにちは妹紅さん。あ、コラ倫敦、洗濯物の整理は終わったの!?」
「ああ、いや、こいつ蓬莱。ちょっとパチュリーに用事があってさ」
「え、蓬莱? そういえば服が違う……ごめんなさい、間違えちゃって」
気にしてないからいい。
慰謝料として五千円頂戴。
「気にしてる!? 蓬莱凄く気にしてるよ!?」
軍資金がなくて困ってるの。恵んで。
「おいおい蓬莱、それは厚かましいよ」
苦笑しながら妹紅が私の額を小突く。どうやら冗談と解ってツッコミを入れてくれているらしい。
うん、妹紅もちゃんと成長しているようで蓬莱は安心しました。
「お前は私の保護者か」
そろそろ漫才をやめて話を進めてくれないとグダグダすぎて蓬莱悲しい。
「漫才の元凶は満場一致でお前だよ」
「妹紅さんの疲れっぷりを見るに、同じく蓬莱が元凶だと思う」
小悪魔にも同意された。
うんそうだね、と私も同意した。
じゃあパチュリーの所に行こうか。
「反省の色のない奴だなー」



机の上に本を山積みにして、空きスペースで紅茶とブルーベリーのタルトを食べているパチュリー。
彼女は私の旅の目的を聞いてすぐ呆れ果てた表情になる。
「くだらない事をしているわね」
開幕全否定されても挫けない人形、それが蓬莱です。
パチュリーはアリスの死は間違いないものと断定していて、私の行動は酷く滑稽に見える様子。
死体も魂も残さず消滅した、という結論を下した張本人だから当然の反応ではあるだろうけれど。
「あなたも随分と暇みたいね。まあ永久に死ねぬ身の上では、どんな暇潰しでも歓迎なのかしら」
「暇潰しのつもりはないさ。ただ、蓬莱が納得できるまでつき合いたいだけよ。
 死んだはずの人間が生きていたなんて話、よく聞くしね。何度オバケ扱いされた事か」
妹紅それ実体験だったんだ。
笑えない。と言いつつ、顔をそむけてクスクスしちゃおう。
「超空間に飛ばされて無事でいられるはずがないでしょう」
パチュリーはため息とともに言った。うん? 超空間ってなぁに?
「アリスが研究していたのは超空間を人為的に開き維持する方法よ。
 成功すれば空間を超越しての行き来が可能になるわ。
 結界を無視して幻想郷の外に出たり、あるいはまったく別の世界に旅立つ事もできる。
 魔界や天界にも一足飛びに行けるようになるし、通信システムが全世界全宇宙にまで届くようになる。
 ただし超空間は大嵐の中の荒波のようなもの、安定させなければ呑み込まれてしまうわ。
 肉体精神そして魂さえもズタズタに引き裂かれて消滅する……いいえ、消滅したのよ」
そんな凄い事故だったんだ。
「そんな凄い……って、主が何の実験をしているかくらい知っておきなさいよ」
私は家事担当、得意料理はハンバーグとアップルパイ。
それに危険で難しい実験は、今の私達の性能じゃ足手まといにしかならないから、
一人でやるってアリスは言ってたの。邪魔はしたくなかったから。
巻き込まれた上海は、アリスに頼めまれて研究に必要な素材を届けに入って、それで……。
「思い出す必要はないよ」
優しく、妹紅が言った。
……うん。でも、必要なら何度でも思い出さなきゃ。
「だとしても、パチュリーは事故現場を調べたり、とっくにお前等から話を聞いてるだろ?
 なあパチュリー。とりあえず"無駄な足掻きの方法"を知ってたら教えてくれない?
 今の私達は足掻き方も知らないかね。人に相談して指針を探すしかないのさ」
「ふぅん……"無駄な足掻きの方法"……ね。妙な質問だわ」
「妙なればこそ幻想郷也。ってね」
「私はもう、アリスに関してやれる事は全部やったわ。お役には立てないわね」
「そうか。じゃあ矛先を変えてみよう」
と、蓬莱は隣で私達の様子を見ていた小悪魔の肩を抱き寄せた。
「ふぇっ!?」
「小ー悪魔ちゃん。仮にも悪魔なんだから、何か心当たりないかい?」
「あ、ありませんよー! パチュリー様が知らない事は私も知りません!」
「そうか? なあパチュリー、美味しいカレーライスの作り方って知ってる?」
「知らない」
短い返事を聞いて、妹紅はにんまりと笑った。
「ほうら、パチュリーは知らないとさ。さあ小悪魔! 美味しいカレーライスの作り方は知ってるか!?」
「知ってます……けど……そういう意味じゃなくてですね!
 魔法とか空間とか、そっち方面の知識じゃパチュリー様に全然かなわないって意味で!」
「あー言えばこー言う……つき合い悪いなぁ」
「あー言えばこー言っているのは妹紅さんの方でしょ!?」
妹紅、妹紅。
「ん、どうした蓬莱。何かアイディアが?」
小悪魔とばっかり漫才しないで、蓬莱さみしい。
「やっぱ漫才楽しんでたんだなぁ! この野郎ッ!」
こんな可愛い人形を捕まえて野郎とか……妹紅の美的センスが壊滅的打撃を受けてる。
今すぐアリスか私達人形と同じ服装に着替えるべきそうすべき。
「お前の美的センスは偏りすぎだー! 徹頭徹尾アリス基準じゃないか!」
アリス基準は世界三大褒め言葉。わーいありがとー。
「もうやだちっとも話が進まない……」
という訳で運命を操れるとかホラ吹いて威張ってる吸血鬼に会いに行ってみよう。
運命という観点から起死回生の何かが掴めるかも。
「ああ、そうそう、さっきレミィが来てね、小悪魔にココアを入れてくるよう言伝を頼まれたわ」
「えっ、それっていつです?」
「一時間くらい前」
「えー!? どどど、どうしてもっと早く言ってくれないんですかー!
 あわわ、どうしよ、大急ぎでココアを用意しないと……」
大慌てで図書館を飛び出す小悪魔を見送りながら、妹紅は思い出したように訊ねる。
「あれ? 咲夜はどうしたんだ。子守はあいつの仕事だろ」
「病欠。人間だから具合が悪くなる事もあるわ」
十六夜咲夜。人間。まだ身体が弱るほど齢を重ねてないから、たまたま具合が悪くなっただけかな。
喘息持ちの魔法使いは、つまらなそうな表情を見せた。
「そうか」
決して病気にもならない不老不死の少女は短い返事で会話を打ち切る。
……。
さあ妹紅、行こう。
吸血鬼に会いに。


   神槍「スピア・ザ・グングニル」

   禁忌「レーヴァテイン」


紅魔館の屋根は破壊され、陽光射し込まぬ曇り空の下、真紅の衝撃が大気を揺るがしていた。
大地は悲鳴を上げて砕かれ、雲は貫かれあるいは切り裂かれ、
隙間から降り注ぐ太陽光を避けるように飛び回りながら小さな悪魔の姉妹は吼える。

「もうすぐって言ったらもうすぐなのよ! ほんのちょっとくらい我慢できないの!? フラン!」
「もうすぐもうすぐって言ってもう一時間じゃない! ココアはまだなの!? お姉様!」

しょうもない事で喧嘩してるなぁ、と私も妹紅も思った。
けれど遅れてやってきた小悪魔にとっては、まさしく死刑宣告にも等しい姉妹の口論。
真紅の穂先に薙ぎ払われて、紅魔館の尖塔が砕け散る。
真紅の凶刃を振り下ろされて、紅魔館の門が崩壊する。
「たかが小一時間遅れた程度でそんなにも心を乱すなど! 地下から出て何年経ったと思ってるの!?」
「カリスマ気取ってココアが来ないのを平気なフリしてるお姉様! 戦うのは気が立ってる証よ!」
「レミリア・スカーレットはクールにココアを待っている! クッキーはまだあるんだからそれで我慢なさい!」
「クッキーだけじゃ喉が渇く! しかもビタークッキーだなんて! 甘くて温かいココアが飲みたい!」
「ビターな味は大人の味よ! いい加減、お子様な味覚を卒業なさい!」
「そんな事言って! 知ってるのよ、ミルクと砂糖を入れないとコーヒーを飲めないくせに!」
「こ、コーヒーの飲み方なんて人それぞれでしょ!? 大人だってミルクや砂糖を入れるわ!」
「へえ! 大人は砂糖を六個も七個も入れるんだ!? キャハッ、糖尿病になるのはいつかしらね!」
「カレーライスを中辛で食べる私に対してよくもそのような口をッ!」
「ククク……道化とはお姉様の事。知らないの? 咲夜も小悪魔も中辛と偽って甘口を出しているのをッ!」
「嘘だーッ! フラン、お前は嘘をついているッ! あれが甘口であるならば、なぜ辛味がする!?」
「完全に甘口じゃ問題があるから、中辛のカレーをスプーン一杯分だけ混ぜてるのよッ!
 私、見たんだからッ! 美鈴と一緒に厨房につまみ食いに行って見てしまったんだからッ!
 もう妖精メイドだってすでに知ってるわッ! 知らないのはお姉様だけッ! 裸の王様とはあなたの事よッ!
 アハハハハッ、哀れね、無様だわッ! カレーライスを甘口で食べる夜の帝王だなんて、笑わせてくれるッ!」
「それ以上の侮辱はたとえ妹でも許さないッ! おのれ首を刎ね心臓を貫き肉体を焼き払ってやるわッ!
 灰塵のまま地下室に閉じ込めてやるッ! 百年は蘇られぬものと思え、フランドォールッ!!」
「やれるものならやってみろ! 貴様の操る運命如き私の能力でギュッとしてドカーンしてやる!
 そして私が紅魔館の主となるのだ! 屋上にダンボールハウスを用意してやるぞレミリアお姉様ァッ!!」

グングニルとレーヴァテインが真正面からかち合い、その震動は大気を伝わり大地すらも震撼させた。
ねえ妹紅、あの姉妹ますます強くなってるね。
「そうだな。フランも昔に比べ外に出るようになったし、喧嘩のたびに強くなってるよ。
 私や魔理沙ともよく遊んでるしな……この前は妖怪の山にピクニックという名前の殴り込みかけてた」
幻想郷のパワーバランスって今どんな塩梅なのかな。
輝夜も妹紅との殺し合いで日々成長しているし、2Pカラーの巫女も神様らしくなってきてるし。
「スペルカードルールがなかったらすでに幻想郷は滅んでるなー……っていうか、
 あいつら喧嘩するならスペルカードルールでやれよ。あれ、ガチ殺し合いに見えるわ」
ガチ殺し合いにしては会話の内容がオチャメ。
笑えるよね、録画したいくらいに。
「そう言いつつお前の目玉、赤く染まってキュルキュル音がしてないか? それ録画してない?
 魔法と機械の融合した自律人形の性能を無駄に活かして録画してるよね間違いなく」
人形通信ネットワークを使って姉妹人形達にリアルタイム配信中。
倫敦を通してパチュリーも見てるってさ。
オルレアンからコメントが届いてる。
紅いの対決なんだから炎を使う妹紅も乱入して空を真っ赤に染め上げたら格好いいんじゃないかってさ。
「いやいや、無理無理、あんなの乱入したら一秒で灰だわ」
仏蘭西からコメント。妹紅ならやれるリザレクション祭り頑張れだってさ。
「楽しそうだなお前等」
小悪魔はどうしてる、って倫敦から。
さすが気遣いのできる人形、同僚の安否を気にしてる。
さあ小悪魔さん、コメントをどーぞ。
「ええっ!?」
冷め切ったココアをトレイに載せたまま硬直していた小悪魔が、ビクンと跳ねてココアをこぼしそうになる。
ココアを持ってきました、とは今さら言えないためおろおろしながら観戦してたけれど、
そろそろ舞台に上がるのも悪くないんじゃないかなと思うの。
「むむむ無理ですよー! 不死身の妹紅さんと違って、私じゃ一瞬で宇宙の塵と化しちゃいます!」
それ採用。
小悪魔は宇宙の塵となってさまよいながらアリスを探す役ね。
「悪魔だ、悪魔がここにいる」
何を言ってるの妹紅、悪魔なら小さいのがあっちで殺し合ってるのが二人、すぐ側でうろたえてるのが一人、
計三人もいるじゃない。当たり前の事を言われてもどうツッコミを入れればいいか蓬莱解んない。
漫才は言葉のキャッチボールの究極系。
ちゃんと相手が理解できるようパスを出さないと返球どころかキャッチすらできない。
「お前さー、解ってて言ってるだろ。」
ホーライわかんなーい。



こうして……悪魔の紅き居城は崩れ去った……。
天地を裂く凄まじき争いは吸血鬼の力を改めて幻想郷全土に轟かせる。
血で血を洗う姉妹の争いに終止符を打ったのは、病に伏していた一人の人間の純真な想いであったという。
崩れ去った紅魔館から這い出してきた彼女の涙は、この世に存在するあらゆる宝石よりも美しく輝き、
見る者の心から怒りと憎しみを浄化したとさえ言われている。

……あれはいつだっただろう。
幻想郷ができるよりも昔、紅き館は建てられた。
幼き吸血鬼の姉妹が幸せに暮らせるようにと願いを込められて。
ともに歳月を経てきた館の崩壊は、姉妹の絆をも崩壊させるのではと思われた。
しかし人間の娘の涙が絆を蘇らせ、今度は姉妹自らの手で館を再建する。
二度と絆が崩れ去らないよう、いつまでも仲良しでいようという願いを込めて。
そして、忠実な従者の人間への感謝を込めて……。

   紅魔館に祝福を。
   悪魔の姉妹にココアを。

     そして。

   小悪魔にさようなら。


     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【チャプター3】
【白玉楼! この世に存在しないモノ】

白玉楼を『しらたまろう』って読んだ人は食いしん坊だと思う。
つまり……妹紅と小悪魔は食いしん坊。
「いや……普通に『はくぎょくろう』って読むし……」
「同じく……」
あれ、小悪魔なんで一緒にいるの?
「え? お嬢様と妹様の喧嘩に巻き込まれて『紅魔館ヴォルケイノ大火災』や『賢者の石の暴走』……。
 それから『不夜城レッド・最終幻想ビッグバーンVer』『ゴールドゾディアックオブアカインド』に、
 他にも『紅魔館崩壊』『鳳凰星座の聖衣装着』『小悪魔覚醒即敗北』『絆崩壊』『幻想郷が停止する日』……。
 そして、最後の最後に起きた『涙が架ける虹色の橋、その名は姉妹の絆』と、様々なイベントを共にして、
 愛と感動のクライマックスの後にココアを持ってこなかった罰としてあなた方にご協力するよう、
 お嬢様から命令されてこーして同行しているんじゃあないですか。
 あの数々の名場面名エピソードを忘れたとでも言うんですか?」
そのあたりの話は長くなるからカットしちゃって印象に残ってない。
というかもうメモリーの彼方。
「えぇーっ!? そ、それはいくらなんでも酷いですよ! 妹紅さんも何とか言ってください!」
「あー、ゴメン。途中から死にっぱなしだったからよく覚えてないわ。
 お前が特攻した記憶なんてないから『鳳凰星座の聖衣装着』と『小悪魔覚醒即敗北』の間で死んで、
 咲夜のおかげで何とか事がおさまってから蘇ったんだと思うし。
 っていうか妙なイベント名つけるなよ……聞いててチンプンカンプンだ」
「私の味方はどこ? どこにいるの?」
どこにもいない。
「うわーん!」
泣き出してしまった小悪魔を放って、私を肩に乗せた妹紅は白玉楼の門をくぐった。
「お邪魔しまーす」
アリスと上海の行方を求めてやって来たのだけれど、
魂は消滅したらしいから、魂が来ていない事でアリス達が生きてる証明にはならないのは解ってる。
とはいえ"無駄な足掻き"をできそうな場所は幻想郷でも限られてるし、
レミリアも「お前の忠義は運命などで阻めるほど脆弱ではない、足掻き続きけてみせろ」と、
咲夜が入れたココアを美味しそうに飲みながら無駄にカリスマを撒き散らせつつ応援してくれたもの。
さあ、足掻こう。冥界で、白玉楼で。
力の限り足掻き抜こう。ね、妹紅!

「あら妹紅、久し振りね、これからお茶の時間なんだけど一緒にどう?」
「よぉ妖夢。丁度よかった、手土産に峠の茶屋で団子買ってきたんだ」
「わぁ、ありがとう。幽々子様もあの茶屋の団子は大好物なの」

和気藹々。平和って素敵。
でも私の決意とかやる気とか空気とか読んで欲しいな。蓬莱悲しい。
「すでに存在を忘れ去られてそうな私の方が悲しい」
あれ、どちら様? 知らない人が後ろからついてくるー。
「小悪魔です! 紅魔館の小悪魔ですよー! お手伝いのため同行してますよー!」
さっそくお手伝いチャンスだね。妖夢のお手伝いをしてお茶の用意をお願い。
「倫敦から聞いたけど、蓬莱も家事担当だったんでしょ? 手伝ってよ」
私は幽々子と話があるから。
本題が何なのか忘れるようじゃ主人公なんてやれないから。
という訳で妖夢と一緒に台所に向かう妹紅の肩から飛び立ち、先に幽々子に会いに行く事にした。
小悪魔は少し迷ってから妹紅達について行った。
さて、白玉楼を徘徊しよう。幽々子はどこだろう。
それにしても綺麗なお屋敷。純和風って落ち着きがあって素敵。

同じ和風でも某神社とは大違い。
十年くらい前にリフォームして物凄く綺麗になったというか近代的になった。外の世界風とも言う。
でも。
居心地はあの神社の方がいいかな。
アリスもきっとそう言うと思う。

「あら、可愛いお客さんね」
と、廊下の上を飛んでいたら反対側の角から幽々子が姿を現した。
こんにちは、お邪魔してます。
「これからお茶の時間なの。よかったら一緒にどうかしら」
ゆったりとした立ち振る舞いからは自然とカリスマがあふれている。
某吸血鬼にも見習ってもらいたいけれど、あれは目指すカリスマ方向が違うから仕方ないのかな。
そうそう、妹紅が峠の茶屋でお団子を買ってきたよ。
「まあ。あそこのお団子、妖夢が大好きなのよねぇ」
へぇ、妖夢も。
ところで幽々子、質問があるの。
「何かしら」
アリスは生きてる? 死んでる?
「さあ、魂が来たって話は聞いてないし、解らないわ」
そう。ありがとう。
……。
じゃ、後はお茶でも飲みながらお話を……。
「不思議ね」
え?
幽々子は微笑を浮かべながらも、悲しそうに眉根を寄せていた。
「表情のない人形のはずなのに、あなた、今にも泣き出してしまいそうに見えるわ」
……気のせい。
「そうね、気のせいね」
……ホウラーイ。

座敷に案内されると意外や先客の姿。
赤い衣装の騒霊が、かたわらにキーボードを置いて、ちゃぶ台の前に正座していた。
「お待たせー」
「いえ……」
私の記憶は確かだから、彼女はリリカ・プリズムリバーで間違いない。
霊という事で冥界は彼女の主な行動範囲のひとつ。
姉妹一緒じゃない所を見ると、悪巧み中か喧嘩中のどちらか。
多分後者。活気がない。
「あれ、幽々子さんその人形は……確か……」
「新しいお客さんよー。一緒にお団子を食べるの。さあ、あなたの席はここ」
幽々子は歌うように言いながら私を抱きかかえると、リリカの隣に座り、私を膝の上に置いた。

……アリスより冷たい膝。でも。アリスよりやわらかい膝……。

少しして、正座に疲れたのかリリカは足を崩し、ちゃぶ台に頬杖をついた。
私にも幽々子にも話しかけてこない。

膝の上に座ってお茶が来るのを待っていた。
しばらくして、お茶と団子を持って妖夢、妹紅、小悪魔がやって来る。
むう、湯飲みだから全部日本茶か。
苦くてあまり好きじゃないけど、団子が甘いからバランスは取れてる。でも紅茶がいいなぁ。
「特等席をゲットだな、蓬莱」
茶化すように妹紅が言う。私は特等席の上で万歳をして応えた。
ホウラーイ。
アリス仕込みの天才的に可愛らしい仕草に幽々子がクスクスと笑う。
「さあみんな、遠慮なく召し上がって」

楽しいお茶会になるかと思いきやそうでもなかった。
私達はリリカ・プリズムリバーの愚痴を延々と聞きながら、
気分的に不味くなってしまったお茶と団子を食む。
といっても幽々子だけは終始美味しそうにお団子を堪能していたけど。

プリズムリバー三姉妹は冥界でライブを行い、些細な理由で喧嘩をしてしまった。
あまりにも些細すぎて聞いてるだけで時間の無駄をひしひしと感じるほどに些細些細な些細だった。
そうしてリリカは姉二人と別れ、ライブ会場でもあった白玉楼に留まっているそうな。
「あーもう、本当頭にくるなぁ。当分一緒に演奏なんてして上げないんだから」
楽器を奏でない騒霊って矛盾してて人間味があるよね。
「どうでもいい」
と、妹紅はリリカに聞こえないよう呟いた。
小悪魔はというと、従者同士気が合うのか妖夢とまったく別の話をしていた。
お茶の美味しい淹れ方や、お勧めの和菓子や洋菓子のお店や、手作りする時のコツや。
家事担当でアリスのために料理や紅茶や洋菓子を作っていた身としては、ちょっと会話に参加したい。
けど位置的に離れていて難しい。
でも幽々子の膝の上に座っていたい。
「――という訳で、姉さん達が謝りにくるまで私は一人で気楽にやらせてもらうわ」
「そうだな、それがいい。ところで蓬莱、お前はいいのか?」
リリカの愚痴が一区切りした瞬間、素早く妹紅が話題の転換を試みた。
私の、話に。
妖夢も私達の用件が気になったのか、小悪魔との話を打ち切って視線をこちらに向けてきた。
小悪魔は、居心地が悪そうな表情をしてる。アリスが死んでると思ってそうだし、仕方ない。
「あら、まだお話があるのかしら」
やんわりと、幽々子は言いながら私を抱きしめた。
つらいようなら話さなくていいという、気遣い。
……。
私は淡々とした口調で、言う。

さっき、幽々子に質問した。
アリスは生きてる? 死んでる?
魂が来ていないから解らないって幽々子は言った。
……パチュリーは死んでるって断言していた。魂さえも消滅したって。
でも私は可能性を信じてる。
アリスが生きている可能性。
幼稚な希望的観測を。
ほんのわずかでも可能性があればしらみつぶしにする。
すべてが否定されるその時まで私はあきらめない。
アリスを探し続ける。
無駄な足掻きだとしても足掻き続ける。
足掻け、とレミリアは言った。
でもどう足掻けばいいか解らない。
だから。
魔法使いだけでなく、生と死に精通している幽々子に会いにきてみた。
ねえ幽々子、あなたは、私に何か足掻き方を示してくれる? それとも、足掻き方は、知らない?
ねえ、幽々子。

妖夢は、唇を噛んでこちらを見つめている。
リリカは、自分が場違いではないのかと気まずそうな表情。
小悪魔は、どこかあきらめを孕んだ暗い表情。
妹紅は、無表情。成り行きを見守っている。見守ってくれている。

幽々子は、言った。
「冥界の管理を任されているけれど、魂が死の国に向かわない何かしらの理由があるのなら、私の管轄外。
 冥界を経由せず転生する魔術とか、妖術とか……"薬"とか、あるものね」
わざとらしく薬を強調して言い、妹紅はわずかに目を細めた。
「魂が消滅しました、なんて言われたら……私にはもうチンプンカンプンだわー」
「私には無縁だからそこらへん疎いんで、ちょいと確認させてくれ。
 死者の魂はまず三途の河に行って、閻魔の所に渡って裁きを受ける。
 それで冥界に来るのはどういう魂だ? 冥界に来ない魂について、あなたはどの程度把握してる?」
私のため、というより純粋に疑問を感じたらしい妹紅が眉根を寄せながら問う。
「普通は死んだら中有の道を進み、三途の河を渡り、彼岸で閻魔の裁きを受けた後、
 悪い事をしていなければ……つまり地獄行きにならなければ、冥界に来て成仏か転生を待つわね。
 まあ天界は飽和状態だから成仏はほぼ無理なのだけれど……。
 私が把握してるのは、冥界に来た魂だけよ。冥界に来た時から、成仏か転生をする間だけ、私の管轄。
 だから……アリスの魂を探すなら冥界よりも中有の道、三途の河、彼岸の方が情報が早いわ。
 中有の道ならそれなりに人で賑わってるし、アリスの魂を待ち伏せするにしてもすごしやすいから」
「中有の道で待ってるだけっていうのもな……っていうか、中有の道で待っていて、アリスが来た場合は、
 アリスは実は生きていたけれど死んでしまったから中有の道に来ましたって事だ。
 生きてるアリスを探したいなら、中有の道に行く理由はないな……」
「アリスの魂が消滅したっていうのが本当なら、どこの世界を探しても永遠に見つからないわ」
「んー、妖夢はどうだ? 幽々子が有用な意見を出せないなら、お前でも無理だろうけれど」
話題を振られ、妖夢は顎に手を当ててわずかにうつむき、考え込む。
ほんのわずか、幽々子とは違う答えが返ってくるのではという期待が芽生える。
でも。
顔を上げて妖夢は言った。
「すみません……私如きでは力になれそうにないです。幽々子様以上の事なんて、とても……」
「じゃあ小悪魔だ。知識の宝庫、大図書館で働いている上に、仮にも悪魔の一族。
 幽々子の話を聞いて、何か気づいた事、思いついた事、あったら言ってみて」
妹紅は次々に矛先を変えていく。やる気満々だね、ありがとう。
小悪魔はというと、立てた人差し指を顎に当てて、天井を仰いで考え込む。
ある意味妖夢と似てる行動パターン。
「うーん、そうですねぇ……魔法の専門家、生死の専門家と頼ったんですから、
 次はアリスさんが研究していたという空間の専門家に頼ってみるのはどうでしょう」
「うん、まあ……当初からそういう予定だったんだけど」
「うっ」
空間の専門家、というとスキマ妖怪の八雲紫が筆頭。
彼女とコンタクトを取るなら、友人である幽々子に協力してもらえば……という狙いもあってここに来たの。
ちなみに科学の専門家のにとりも相談候補なのだけど、
パチュリーの談では空間うんぬんの話なら科学より魔法や妖術の方が進んでるって言われたので、後回しの予定。
というか八雲紫にもさじを投げられたら、にとり所か幻想郷中の魔法使いや科学者でもどうにもならないかも。
「うーん、あまり期待しない方がいいわ……期待が大きければ大きいほど、外れた時の落胆も大きい。
 いくら紫でも、消滅したもの……この世に存在しないものを探し出すなんて不可能よ」
困った時のスキマ頼み。デウスエクスマキナの如き力を持つ彼女すら頼りにならないと、幽々子は言った。
幽々子が言った。
恐らく、もっとも紫をよく知るだろう一人である幽々子が、言った。
だから……私の中の期待、あのスキマ妖怪ならという期待は……脆く……崩れつつ……あって……。

「私はリリカ・プリズムリバー」

唐突に、名乗りを上げるリリカ。
キーボードを持って立ち上がり、険しい目つきで私を見る。
元々、白玉楼でのお目当てに入っていなかったイレギュラーである彼女に、私は何の期待もしていなかった。
けれど。
何だろう、あの、リリカの眼差しの、力強さは。

「能力は、手を使わずに楽器を演奏する程度の能力。
 けれどこれはプリズムリバー楽団共通の、騒霊としての能力。
 ルナサの調べは気持ちを落ち着かせ、行き過ぎれば鬱となる。
 メルランの調べは気持ちを高揚させ、行き過ぎれば躁となる。
 私の役目は躁鬱のメロディを繋ぎ、調和をもたらす事……そして」

力強くキーボードがかき鳴らされる。
弦楽器とは違う、管楽器とも違う、幻想の音。

「私の調べは"この世に存在しない音"で構成されている。
 だから存在しないものを否定する事は、私の演奏を否定する事。
 それは私のプライドにかけて、ちょっと許せないな。だから――」

バーンと、雷鳴のように響く幻想の音が強く、強く、力強く、私の身を打った。
震える。身体に、精神にまで、響く。
リリカの音が響き渡る。
そして、リリカの声が――。

「この世に存在しない音が存在するなら、この世に存在しないモノも存在するって、私は信じてる。
 この世に存在しないからなんて理由で、アリスをあきらめちゃ駄目だ……駄目だよ、アリスの人形さん」

響く。響く。
私という存在に――響く。
リリカの声が、言葉が、想いが。
そして灯る。
胸の奥に、熱いものが。
まさか、あなたに励まされるだなんて。予想外すぎて嬉しいよ。

「よし!」

立ち上がり拳を握る妹紅。嬉々とした笑みを浮かべ、瞳の奥、不死にして不屈の炎が燃えていた。
ああ、そうだ。胸に宿り、瞳に映る、炎。
私の眼もチリチリと熱い。
燃える視線が、かち合った。

うん、と、妹紅はうなずく。
うん、と、私はうなずき返す。

「私、感動しました」

同様に立ち上がる小悪魔。
燃えるように熱いだろう胸に手を掴むようにして。

「お手伝いします。蓬莱の力になりたい! お嬢様の命令だからじゃない、私自身の意思で。
 探しましょう、アリスさんを。ありとあらゆる世界、空間、次元を越えてでも!」
小悪魔……。
「フッ……ノリのいい奴だな」
「妹紅さんだって」
妹紅と小悪魔は互いに微笑み合い、その光景は明るい未来を想像させた。

ありがとう、リリカ。
私、必死に足掻こうとしながら、足掻けずにいて、幽々子にも無理だって言われて、
あきらめかけていたかも……しれない。でも。
リリカのおかげで、私は多分、二度とあきらめないと思う。
「そんな、私はただ、思った事を言っただけで……私の音とも関係のある事だったから……」
それでもありがとう。
よぉし。妹紅、小悪魔、行こう。
スキマ妖怪に会いに。
もし駄目だったとしても、大丈夫。
幻想郷に住む人妖すべてに相談してでも。
あるいは不老不死の妹紅の寿命が尽きるまで……私なりにアリスの捜索方法を模索し続ける。
「私の寿命が尽きるまで……か。くっくっくっ、蓬莱、そこまでの覚悟か」
うん。一生あきらめないっていう、覚悟。

ふいに、幻想の音が響く。
「ねえ」
リリカだ。
「しばらく姉さん達の所に戻るつもりはないし……私も手伝おうか?」
いいの?
「いいの。こんなに燃えてる所を見せられちゃ、ね」
ありがとうリリカ。一緒に行こう。
「話はまとまったみたいね」
幽々子が私を抱いて立ち上がり、手を離す。
私はふよふよと浮いてちょっと前に進み、くるりと反転。幽々子の方を向く。
彼女は開いた扇子で口元を隠していたけど、目元が笑っていたので、表情は解った。
「紫に連絡を取って上げる。足掻き続けて、もし何か解って、私が力になれるようだったら、
 遠慮なく頼ってきていいわ。アリスが生きていたら、多くの人が驚くでしょうねー……楽しみだわ」
幽々子……。
「あなた達はここで待っていて。妖夢はついてきなさい」
「はい」
退室する幽々子。
妖夢も立ち上がって後を追い、立ち止まり、私の方を向く。
「私も……いや、がんばってね」
うん。がんばる。
「……じゃ、紫様を呼んでくるから」
そう言って妖夢は部屋から出て行った。
「もしかして、妖夢も一緒に来たかったのかな」
妹紅が言い、小悪魔がうなずく。
「でも、彼女も従者ですから。自分の意思とはいえ、お嬢様のご命令がある私と彼女とでは立場が違います。
 幽々子さんの許可なく勝手はできないでしょうし、白玉楼の使用人は彼女一人ですから……」
「残念だな……まあ、アリスを見つけたらさ、妖夢にも会わせて、驚かせてやろう」
「そうですね」
「がんばろう」

妹紅。小悪魔。リリカ。
私、あなた達が一緒に来てくれて、本当によかったって思う。
「ん、蓬莱、何か言った?」
うん、やるぞーって。
「そうだな、やるぞー!」
『おー!』

全員で拳を掲げた直後、突如開いた巨大なスキマに私達は呑み込まれた。


     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【チャプター4】
【境界! スキマをアナグラムと仮定し並び替えるとキスマすなわちキス魔という意味になるのか?】

境界……スキマの中とも言えるそこは、暗黒の広がる夜空のような世界で、
星々の代わりに数多の"眼"が浮かぶ不気味で不可思議な空間に私達は浮かんでいた。

「いらっしゃい、足掻く者達」

そして気がつけば、私達の前に八雲紫の姿があった。無意味にも日傘をさし、宙に座っている。
不敵に微笑む彼女に向かって、私は人間換算で一歩分ほど前に出た。

こんにちは八雲紫。相談がある。
「幽々子から聞いてるわ」
そう。なら話が早い。手を貸して。
「と言われてもね。死んだ人間を生き返らせるのは摂理に反するわ。
 しかも魂がないんじゃ、いくら私でもどうにもできない」
生き返らせるんじゃない、探すの。
「クスクス、解ってるわよ。でも超空間の研究に失敗して、魔法使い程度の存在が生き残れるとは思えないわ。
 そこにいる蓬莱人なら死にはしないかもしれないえれど……運がよくても、
 肉体と精神を失って永劫に超空間をさまよい続けるでしょうね」
「へえ、じゃあアリスが超空間とやらをさまよってる可能性はあるのか」
「ないわ」
妹紅の問いはバッサリと切り捨てられる。
「さすがの私も超空間には手を出せない。あの中で存在し続けるだなんて、果たして龍神でも可能かどうか。
 天地創造あるいは崩壊させる程度のエネルギーがあれば、まあ耐えられるかどうかの実験ができるかもね」
"本気の霊夢"なら生存できる?
「赤子の手を捻るより」

私の問いにあっさりとうなずく紫。
霊夢が可能ならアリスも……というお気楽な発想は浮かんでこない。
あまり知られていないけれど、本気の霊夢はあらゆる事象を完全に無効化する事ができる。
スペルカードルールは人間や弱い妖怪が強い妖怪などにも勝てるようにという配慮があるけれど、
霊夢に関しては博麗大結界を維持する博麗の巫女とも戦えるようにという理由の他に、
無敵の能力を持つ霊夢にも勝てるようにという理由もある。
と言っても故事の『矛盾』で例えるなら、霊夢が持っているのは最強の盾だけだから、最強とは少し違う。
幻想郷には最強の矛に思える能力の持ち主が結構存在するけれど、
霊夢の持つ最強の盾と釣り合う能力の持ち主を私もアリスも知らない。
でも常に本気を出さないアリスが本気を出せば、何か攻略法を見出してくれるかもしれない、
というのはアリス贔屓の私個人の勝手な考えで、実際に検証される事は永遠になさそう。
閑話休題。
謎の多かった超空間だけど、絶対不可侵の領域ではないという事が判明した。
霊夢の能力以外にも、何か、賢者でも思いつかない手段があるかもしれない。

もし超空間で無事だったとしたら、迷い込んだ者は永劫にさまようだけなの?
「何とも言えないわね、とても不安定な場所だから。
 仮に消滅しなかったとすれば、運よく空間や次元のひずみに落ちる可能性もないとは言い切れないわ」
アリスがそうなった可能性は。
「限りなくゼロに等しい。とはいえ、アリスの研究がどこまで進んでいたか、
 研究資料も消滅してしまったから断言はできないのだけれどね。
 それでも客観的に考察すれば……可能性はゼロよりもゼロに近いわ」
ゼロよりもゼロに近い……?
この賢者、実は頭悪いんじゃ。
「失礼ね」
真に頭のいい人は、解りにくい事柄を上手に噛み砕いて、専門外の素人にも解るよう簡単な言葉で説明可能。
「――って、アリスが言ってたのかしら」
うん、そう。
紫の場合は『単なるカッコつけ』って霊夢が言ってたよ。
「霊夢め……まあいいわ。それであなた達は私に何をして欲しいのかしら?」
私達がアリスを探すための足掻き方があるのなら協力して欲しい。
「ゼロよりもゼロに近い可能性のために、無限よりも無限に近い危険に挑む覚悟があるのなら」

ある。

と、即答をしたのは私だけじゃなかった。
「あるとは言い切れないけどやってやるさ。友達のために一肌脱げない人間になりたくない」
「悪魔が危険を恐れるなんて、お嬢様に知られたら笑われてしまいます」
「この世に存在しないモノを探しに行くのなら、この世に存在しない音を操る私の出番だから」
妹紅、小悪魔、リリカ。迷いなく答えた。
その意気やよしと紫は双眸を細める。
「超空間とは別ルートで、本来の空間移動ではたどり着けぬ異次元空間や異世界に行く方法があるわ。
 アリスを探すというのなら、無限よりも無限に近い危険を孕むそういった場所に行くのがいいでしょうね。
 ただし、ひとつの世界にたどり着いたとして、その世界にアリスがいないと判断して次の世界に行くために、
 その世界のすべてを探し尽くすというのはあまりにも無謀な話。
 幻想郷全土を探す事さえもあなた方にとっては途方もない苦行であるというのに」
上海がアリスと一緒にいれば、人形専用回線で通信できる。
「通信範囲は?」
最大出力で幻想郷の七倍程度まで可能。
「狭い狭すぎる。そんな猫の額ほどの通信範囲でどれだけの世界をめぐるのか。
 それに上海人形だけが壊れてアリスが生存している世界があったと仮定したら、
 上海人形がいないという理由で次の世界に移動しアリスを見逃してしまうかもしれない。
 アリスを探すという行為は、砂漠に落ちたゴマを探すよりも大変で、
 三途の河よりも広く深い大河に落ちた一欠けらのガラスを探すよりも大変で、
 宇宙空間を漂う塵ひとつを探し出すくらい大変な事なのよ。
 指針もなく異次元空間に旅立つなど無駄で無謀な無為の極み」
……。何か方法は?
「ナズーリンを覚えてる?」
誰だっけ。
「覚えていなくても構わないわ。ネズミの妖怪で、探し物を探し当てる程度の能力を持っている」
つまりそのネズミ妖怪を拉致してくれば、アリスを探し当てられる?
「拉致だなんて物騒な人形ね。まあ、あの妖怪程度の力で異次元空間を経た探し物を見つけるなんて不可能よ。
 だから――これを貸して上げるわ。次元や空間を越えた異変が起きた時のために製作しておいた秘密兵器を」
そう言って紫は霊夢が使うような陰陽玉を、スキマの中から取り出した。
その紅白は幻想色の光沢を帯び、その場にいる全員に息を呑ませ、見惚れずにはいられぬ美しさがあった。
それはいったい……?
「昔、霊夢のサポートに使った道具を色々と改良してみたうちのひとつ。
 この陰陽玉は"エイジャの赤石"と"星の白金"と呼ばれる二種の鉱物を加工した神秘の魔宝。
 次元と空間を越えて旅ができる力を持った陰陽玉……その名も!」
その名も?



   「スカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉!」



長い。
『スカ』ーレット・ス『タ』ープラチナ・エクセレ『ン』ト陰陽『玉』……。
略してスカタン玉ね。

「貧相な略し方をしないで! 美しく格調高い響きを壊さないで!」
紫は涙目になりながらプリプリと怒った。
少女ぶってる様がそれなりに似合って逆にムカつく。
某カリスマ吸血鬼よりも酷いネーミングセンスのためシリアスムードは消し飛び、私達は白け切っていた。
まあいいや。そのスカタン玉を使えばアリスのいる次元や空間に飛べるって事?
「……まあ……心から願うモノがある場所へ飛ぶ程度の能力が秘められているわ。
 けれど行けるとは限らない。異次元空間を隔てるのだから、精度はガラクタのように落ちてしまう。
 仮に……超空間の研究を成功させて、スカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉に応用すれば、
 100%確実に目的のものの場所へ飛ぶ事ができる……アリスの実験が失敗したのは正直惜しいわね。
 故にこのスカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉を使ったとしても、
 アリスを発見できるとは限らないと了解しておいてもらいたいわ。
 アリスとはまったく関係のない人形遣いの所へ行くかもしれない。
 アリスとはまったく関係のない魔法使いの所へ行くかもしれない。
 アリスとはまったく関係のないただ容姿が似ているだけの人物の所に行くかもしれない。
 アリスとはまったく関係のない……アリスと類似する要素すら皆無の所に行くかもしれない。
 けれどあなたがアリスとの再会を願う限り、このスカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉は、
 アリスを探し続け……無限よりも長い時間をかければ見つけられるかもしれない。アリスが生きていれば、ね。
 けれどアリスが魂レベルで消滅しているなら無限よりも長い時間をかけても未来永遠見つからない。
 時の終わりまでさまよい続ける覚悟はある? 到着した瞬間に命を失うような世界に迷い込む覚悟はある?」

ある、と、答えたのは私だけだった。

さすがに、今度ばかりは重みが違った。
具体的な方法は途方もなく絶望的。
ここで躊躇なく「行く」と言えるのなら、私はその者の正気を疑う。
それほどまでに重い決断を軽々と下せる訳が――そう思った。でも。

「よし、行こうか蓬莱」

妹紅は笑いながら――。

「正直怖い気持ちもありますけど、ここまで来て引き返しちゃ紅魔館の皆様に笑われちゃいます」

小悪魔は苦笑しながら――。

「存在しないモノのオンパレードにめぐりあえるかもしれないチャンスを、逃す手はないわ」

リリカは嬉々としながら――。

「さすがは幻想郷のデウスエクスマキナ。そういう道具があるなら最初から出せよ」
嫌味っぽく妹紅は言った。あまり紫と仲がよろしくない彼女らしい態度。
一方紫は歯牙にもかけぬといった風。
「残念だけれど、そのデウスエクスマキナでもアリスの生死は操れませんわ。
 それにしても藤原妹紅、蓬莱人だから無限の危険も無限の時間も大丈夫と自惚れているのかしら」
「そんなんじゃないさ」
「ならなぜかしら。従者として悪魔としての矜持でも、無垢なる無知な好奇心でもない。なぜ決断できたの?」
「蓬莱の人の形、略して蓬莱人形。同じ名前の友達が困ってるんだ。
 友達の力になりたいっていう、平凡で当たり前の理由じゃ不服かい?」
「不服ね。友達程度の存在に対して行える決断ではないわ」
「お前の理屈で私を測るな。私は空回りが得意な馬鹿野郎なのさ」
「あらゆる病を退ける蓬莱の薬でも、馬鹿だけは治せないという訳ね。酷く納得しましたわ。
 いいでしょう。これが永遠の別れになるかもしれないけれど、
 このスカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉を授けましょう」

紫は私に向けて陰陽玉をゆるやかに飛ばした。
人間サイズなら手のひらで掴める程度のスカタン玉に、両手両足を使ってしがみついた私は、アリスを思った。

「スカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉は、スキマを開く能力を付加させてある。
 次元や空間を越えるスキマとなると精度は著しく落ちてしまうのは先にも言った通り。けれど。
 ひたすらに祈れ、ひた向きに祈れ。スカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉は必ず応える」

言葉の通り、スカタン玉は応えた。
内側から紅と白の光を放ち、私を包み込んで行く。

「旅の間、決してそれを手放さないで。それは幻想郷へと繋がるか細い糸。
 手放せば幻想郷に帰ってこられる可能性はゼロよりもゼロに近くなる。
 そしてそれは到着した世界で自動的にあなたの願う存在を高速で時空検索する。
 いないと判断されれば、また次の世界へ移動しようと輝き出す。
 一緒に行く三人は、置いてきぼりにならないよう常に蓬莱人形と、
 スカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉の側にいなさい。
 半径五メートル以内にいれば、蓬莱人形の意志が仲間であるあなた達を連れて行く。
 スカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉に頼らずあなた達もアリスを探す事を忘れないで。
 そうしなければ願いの力が弱まり、スカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉の精度は落ち、
 いつまで経っても世界の検索が終わらなくなるかもしれないから」


   そして探索の旅は始まった。
   四人の幻想者は異世界を又に架ける冒険の途方もないの広大さと、 
   待ちうける波乱の運命にめまいさえ覚えるのであった。


     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【チャプター5】
【異界! 最後の幻想を求めて】

最初にたどり着いたのは中世ヨーロッパ風の都だった。
スカタン玉の効力なのか、異世界であるにも関わらず言葉が通じた。
スカタン玉の転移がいつ始まるか解らないから手分けする訳にも行かず、
非効率的でも全員一緒に聞き込みをして回らなければならなかった。
また、人間だけが住む都のようなので、私は妹紅に抱かれてただの人形のフリをしていたし、
小悪魔はリリカから帽子を借りて頭から生えるコウモリの羽を隠し、
背中から生えるコウモリの羽は折りたたんで髪の内側に隠すといった偽装を行った。
そうそう、リリカがナンパなんかしちゃったりしたよ。
まるで神話や伝承の中に出てくるような、青い鎧がよく似合う美麗の戦士さんがいて、
相当の一品と見られるリュートを持っているのを見て一緒に演奏してくださいってナンパしてた。
で、一緒に演奏したらかなり人が集まって大盛況。
戦士さんが気を利かせてくれて、集まった人達に私達の事情を話して協力を仰いでくれた。
私達は写真(この世界にはカメラはないらしく、精密な肖像画という事にした)を見せて回り、
すごく効率よく情報を集められたのだけれど、残念ながらこの世界は空振りに終わる。
戦士さんも残念がってくれて、私達は世界を越えた友情を感じてしまった。
しばらくして、都の北に橋が架かったという知らせを聞いた戦士さんは、お仲間さん達と旅立った。
「探し人が見つかる事を祈っている」
そう言い残した戦士さんの背中が見えなくなると、連動するかのようにスカタン玉が輝き出した。
私達は人気のない場所に行き、次の世界へ転移した。
これが無限よりも無限に近い危険とやらを孕んだ旅なのか、この時は疑問に思った。

次にたどり着いたのはお菓子の国だった。これって本当に危険な旅なの? 紫にかつがれた?
金平糖の砂浜に、紅茶の海。クッキーの樹木に飴細工の葉っぱ。
石の代わりにチョコレートが転がり、巨大なケーキをくり抜いた家らしき物もあったよ。暮らしにくそう。
そうそう、小悪魔が大喜びで色々なお菓子を食べた。
太ったに違いない。

蝙蝠の跋扈する世界。同じ蝙蝠の羽を持つ小悪魔が蝙蝠の群れにさらわれた。
救出しに行ったら蝙蝠の親玉らしき巨大蝙蝠と結婚式の最中だった。
祝福して上げようとしたら小悪魔が泣いて助けを求めてきたので助けた。
どうやら小悪魔は結婚式のパーティーに出た料理をたらふく食べさせられたらしい。
太ったに違いない。

魔女の世界は右も左も魔女だらけ。ただし幻想郷と違って老婆しかいない。
毛生え薬とか、脱毛剤とか、性別反転薬とか、プロテインとか、惚れ薬とか、媚薬とか、色々売ってた。
ちょっと太ってしまった小悪魔が痩せ薬の試薬を飲んでみたら逆に太った。
哀れ。

砂漠の世界。ギラギラと照りつける太陽、空は憎らしいほどに晴れ渡り、乾いた砂が吹きすさんでいる。
「荒野の砂漠、水一滴もなしだな」と妹紅が呟いたら晴天なのに突然大雨が降り出した。何事。
しばらくして何の発見もないのにスカタン玉が光り出した。完全な無駄足世界だったみたい。
とはいえ小悪魔はいっぱい汗をかいて、多少痩せたに違いない。
バランス調整よかったね。

重力のない異次元空間の迷宮。空を飛べる私達にとってはちょっと動きにくい程度の世界。
白い石材のようなもので迷宮は構築されていて、光源もないのに不思議と明るかった。
廊下や階段、深い穴、扉、色々と行ける場所があったけれど外と呼べる場所は見当たらない。
しばらく迷っていると、探索に飽きたリリカが独奏を始めた。
ヤケになったのか妹紅も調子を合わせて歌い出した。
すると壁という壁から無数の針が飛び出して、危うく死ぬ所だった。
ちなみに逃げ遅れた妹紅は針くし刺しの刑になった。
不死身でよかった。本当によかった。もし妹紅以外がくし刺しになっていたらと思うとゾッとする。
ようやくこの旅は危険なものだと理解し、全身を貫かれた苦痛を想像して身震いをした。
いくら死なないとはいえこんな目に遭うだなんて、さぞつらいだろう。
――と思っていたら、リザレクションすらせず復活した妹紅が元気ピンピンになっていた。
「最高の針治療だった! おかげで全身リフレッシュ!」
針治療の世界というオチ。
ド畜生、心配して損した。

人間がいる世界に到着した。男も女も全員全裸だった。丸出しだった。
どうも恥という概念を持っていないらしい。みんな能天気で、まるでアダムとイヴの群れ。
しばらくアリスを探し回った所、アリス似の全裸女性が鼻をほじりながらオナラをしていた。
違うと解っていても私の悲しみは加速しつい弾幕を放ってしまった。
全裸世界に弾幕ブームが到来したのを見届けてから次の世界へ行った。

宝箱の世界。宝箱が無造作にいっぱいあったので適当に開けまくった。
妹紅は竹槍を手に入れた。妹紅は竹槍を投げ捨てた。
小悪魔は濡れると透ける白水着を手に入れた。小悪魔は濡れると透ける白水着を投げ捨てた。
リリカは呪いのキーボードを手に入れた。リリカは呪いのキーボードを装備した。リリカは呪われてしまった。
私は解呪の巻物を手に入れた。私は解呪の巻物を投げ捨てた。
「投げ捨てるなー!」
リリカは解呪の巻物を拾った。リリカは解呪の巻物を使った。呪いのキーボードは音を立てて崩れ去った。
私は首吊りの縄を手に入れた。私は首を吊った。
「ちょ、何してんの蓬莱!? 色んな意味で大丈夫か!」
我が名は首吊り蓬莱人形! 首吊りチャンスがあれば首を吊るのが蓬莱道と見つけたり!
「ド畜生、心配して損した」

氷河の世界。あまりの寒さのため、妹紅が炎上しっぱなしだった。ぬくいぬくい。
洞窟の世界。明かりのため妹紅が炎上したら小悪魔が酸欠で倒れた。洞窟で炎は危険というお話。
濃霧の世界。フジヤマヴォルケイノで霧をふっ飛ばしたら木々に引火して山火事になった。鎮火に五時間要す。
森林の世界。魔法の森に似ていて人形遣いの家まであった。事情を話したら食事をご馳走してくれた。毒だった。
荒野の世界。小悪魔とリリカが毒で弱ったままで動きを取れなかった。私は妹紅とトランプしてた。
無音の世界。完全な無音。私達の声も消えてしまい筆談で会話した。長時間の無音で精神が削ぎ落とされた。
劇場の世界。人間が劇場に集まっていた。無音世界で鬱憤が溜まっていたリリカがゲリラライブ。大好評。
火山の世界。顔を蹴られた地球が怒って火山を爆発させた。
恐竜の世界。溶けた氷の中に恐竜がいたから玉乗り仕込んでみた。
元気の世界。胸がパチパチするほど騒ぐスカタン玉。

反乱軍の世界。
反乱軍とかいうのが、帝国と戦争していた。
街で変な青年が「のばら」と訊ねてきた。意味不明。
青年は他の人間にも「のばら」と話しかけて回っていた。何なのこの人。
大きな城下町に行ってみたら「きさまら はんらんぐんだな!」と帝国軍に襲われた。問答無用すぎる。
異世界の戦争に首を突っ込む訳にもいかないので、てったいしなければ ならかった。

葬式の世界。
墓地に転移した。ここも人間ばかりが住む世界のようで、誰かのお葬式をやっていた。
しとしとと降る雨の中、私は空の棺を使ったアリスと上海のお葬式を思い出した。
……。
私達の旅は、きっとうまくいく。幼稚な希望的観測をあきらめない。
あそこでお葬式をされている人が、実は生きてました、なんてオチがあればいいのに。
そう漏らすと、妹紅が優しく私を抱き、髪を撫でてくれた。
と、お葬式をしている人達に近づく大柄な男性。
空気を読まず軽薄な言動を取っていた。「で、誰か死んだの? 誰の葬式?」とか、何なのこの人。
すぐにその男を追い払おうとする者達が現れ、バカモノと言われて男は怒り出した。
そしたら遺族の家族や友人らしき人達が、その男が生きている事に驚き出した。
えっ、何この流れ。
どうやら葬式は、今やってきた軽薄な男の葬式だったらしい。
何このオチ。
「実は生きてましたー……っていう、蓬莱の期待通りのオチじゃない」
いや、そうは言うけど妹紅、私が期待してたのはもっと感動的な……これじゃギャグじゃない……。
呆れ果てた私達は墓地を後にして、しばらくアリスを探しているとスカタン玉が作動し、転移させられた。
……墓地で悼んでいた人達。死んだと思ってた人が生きてて、よかったね。

願望の世界。
物質界ではなく、私達は自らの望む姿へと変わった。
私は人間サイズまで大きくなり、面差しはアリスによく似ていた。
けどちゃんと人形のままだったよ。ほら、球体関節。
ぜひ映像を残しておきたかったけど、物質界ではないので人形ボディに搭載された科学技術を使えず断念。
妹紅は背が伸び、胸も大きくなって、大人の女性に変身。真っ黒な髪になったため一瞬誰なのか解らなかった。
この世界限定とはいえフツーの人間に戻れて何だか楽しそう。
小悪魔は大悪魔っぽくなった。さらに胸がボインボインになった。
これでパチュリー様に勝てるとか言ってた。バスト的な意味で?
リリカは意外や何も変わらなかった。
「妹が望む姿が、私の望む姿よ」
と言ってた。末っ子なのに、変なの。

竹林の世界。
大地には竹がびっしり生えていた。まるで迷いの竹林のようだったけれど、決定的な違いがあった。
竹が長かった。ううん、永かったというべきか。
見上げても先端は竹の葉に隠されて見えず、最初は高さが解らなかった。
地形を把握するために私達は空を飛んだけれど、どれだけ飛んでも竹は延々と伸びていた。
空は見えず、光源となるのは所々に光る竹があり、あまり高く飛ぶのも危険だからと私達は地面に降りた。
それからようやく気づく。地面は全部、舞い落ちた竹の葉による腐葉土だった。
竹のみで構成されているというのだろうか。あまりの不気味さに妹紅ですら身震いする。
時間の流れも狂っているらしく、私に内蔵されている時計が滅茶苦茶になった。
一歩進むだけで時計が一時間進む事があったし、逆に百歩進んでも一秒すら経過しない事もあった。
もっとも三人ともそれを認識できていないらしく、ずっと普通に歩いているだったらしい。
時計の話をしたら驚かれたし、時間の流れじゃなく時計が狂っているのではとも真面目に考えられた。
水平感覚も曖昧で、上り坂なのか下り坂なのか水平なのかも解らなくなる。
霧がないという以外はありとあらゆる面で迷いの竹林より難易度が高い。
スカタン玉もなかなか次の世界へ行こうとせず、いったい何時間竹林をさまよったか見当もつかない。
「いっそ焼き払ってやろうか」精神的疲労の溜まった妹紅が呟き、リリカが大喜びした。
かろうじて正気だった小悪魔が止めてくれなかったらどうなっていたか。
妹紅以外みんな炎に巻かれて旅が終わってたかもしれない。
最低でも幻想郷を一周できるんじゃないかと思う程度を歩いてようやく、
竹林の出口らしきものが遠くに見えてきて、私達は喜び勇んで駆け出した。
直後スカタン玉が作動して竹林の外を見る事なく次の世界へワープさせられた。空気読めスカポンタン。

亜熱帯の世界。小さな無人島に私達は出現した。白い砂浜に、色鮮やかな果実が実る森。
リゾートで来たならさぞかし楽しめるだろう環境。
上空まで飛び四方を見渡しても、他に島は見えず、どこまでも水平線が続くだけだった。
なのでこの島を探索する。私達は甘い果実をかじって空腹を満たし、小川で喉を潤した。
動物は小さな爬虫類が多くいた。トカゲに似ていて、捕まえて食べようかと妹紅が提案したけど却下。
薄紫の翅を持つ蝶のような虫が、紅白の花畑で蜜をすすっていた。昆虫採集したら楽しそうと小悪魔は言った。
休息の際、熱帯の雰囲気を表現した演奏をリリカが聴かせてくれた。音楽家として成長したと自信満々。
少しして、海辺に人が住んでいた形跡を見つけた。調べてみると白骨死体があった。
遭難して流れ着いて、仕方なしに暮らしてたのかな。
側には木を彫って作られた粗末な人形があった。
孤独を慰む唯一の存在が、この物言わぬ魂なき人形だったのかもしれない。
白骨死体を埋葬し、綺麗に磨いた人形を墓守に見立てて置いておいた。
みんなで合掌して南無南無してたらスカタン玉が輝き出した。
次はどんな世界だろう。
次の世界こそアリスが見つかるかな。見つかるといいな。

こんな調子で二百九十七回、外れクジを引かされる事になった。
私のオートカウントシステムは正確。
ただしタイマーは不正確。時間の流れがおかしい世界もあったし、転移時に時間が狂ったりもしたから。
そして、二百九十八個目の世界に私達は到着した。

光の世界。
そこは光で満ちていた。
透き通った水晶の床や壁が虚空に浮かび、宵闇色の巨大な水晶が安置されていた祭壇らしき部屋。
そこにいた恐るべき目の玉オバケに襲われ、私達は真に生命の危機に瀕した。
助けてくれたのは、鎧を着た四人の戦士。彼等は魔剣や魔法を駆使し、目の玉オバケをやっつけた。
そしてようやく……ようやく私達は、アリスと関わりのあるものを見つけた。
戦士さんの一人が身につけていたリボン。アリスのリボンだった。
アリスの魔力が込められたリボンは生半可な兜よりも強力。
戦士さんが言うには、この光の世界で拾った物らしい。
私の主の持ち物だと知ると、強力な防具であるにも関わらず返そうとしてくれた。
その気持ちだけで胸がいっぱいになり、
この世界で恐るべき魔物と戦う彼等からリボンを返してもらうなんてできなかった。
「もしアリスさんを見つけたら、必ず護ると約束しよう」と戦士さん達は申し出てくれた。
そして光の氾濫なるものを鎮めるため、闇の力を掲げた四戦士は、水晶の迷宮の深部へと向かっていった。

リボンが無事ならアリスの肉体と魂が消滅していないのではという希望を手にした私達は、
ついに二百九十九個目の世界へと旅立つ。


     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【チャプター6】
【咒詛! 首吊り蓬莱人形】

スカタン玉から転移の光が消え、視力を取り戻した私達が最初に目にしたのは、人形。
地平の彼方まで続く、古今東西様々な種類の人形の残骸だった。
山積みとなった人形のため地面すら見えず、とても歩く気になれなかった私達は空を飛ぼうとした。
けれどどういう法則が働いているのか、空を飛ぶ事はかなわず、徒歩をしいられてしまう。
ここは物質世界なのか精神世界なのかすら解らないけれど、この光景の中をさまようのは気が滅入る。
歩幅の小さな私は妹紅の肩に乗せてもらい、妹紅越しに伝わる人形を踏む感触や音に気力が削がれる。
地面が人形の残骸で敷き詰められているように、空はどこまでも暗雲が続き、日の光は見えない。
「色んな世界をめぐったけど、今までで最悪の世界だな……」
妹紅の言葉にみんな同意した。
「人形を踏みつける音なんて聞きたくないよ……」
リリカの靴がマネキン人形の腕をへし折り、耳障りな音を立てた。
「蓬莱、大丈夫?」
心配そうに小悪魔が声をかけてくる。強がる気概もなく、私はちょっとつらいと正直に答えた。
「まさか、上海が混じってたりしないだろうな……」
私によく似た金髪の西洋人形を残骸の中から見つけた妹紅が呟く。
そんな事は絶対にない。
そう答えながら、私は人形通信ネットワークの全チャンネルをオープンして語りかけた。

私の声が聞こえたら返事をして。
私の姉妹がいるのなら返事をして。

『聞コエルヨ。貴女ハ誰?』

……ッ!!
「どうした?」
も、妹紅……通信したら、返事が。
驚いて立ち止まる三人。その表情は期待と不安が入り混じっていた。
「上海か? 上海がこの世界にいるのか!?」
お、落ち着いて妹紅。通信を続けてみる。
「その話、私達も聞けるか?」
えと、回線をオープンにするね。
それでお互いに声が聞こえるようになるから、静かにしててね。
……。回線オープン。通信再開。

私は蓬莱人形、アリスの人形。貴女は誰?
『私ハ蓬莱人形、ありすノ人形』
……? 上海じゃないのね?
『上海ジャ、ナナ、ナ、ナイ、ノネ』

要領を得ない返事に私は困惑した。
こちらの言葉をオウム返しにしている?
この世界を埋め尽くす人形のように、彼女も壊れているのかもしれない。

貴女は誰?
『貴女、タタ、ハ、誰?』
今どこにいるの?
『今ドコニ、ニ、イイルノ?』
どうして人形の残骸がこんなにもたくさんあるの?
『人形ハ、ココニ、流レ着ク』
……! どういう事?
『コココハ、人形ノ最終地点……私ハ、ココニ、イル、イルル、ル』
上海は……人形が流れ着くなら、上海人形もここにいるの!? 私の姉妹なの!
それと、上海と一緒にアリスがいるはず! 私を創ってくれたアリス! 魔法使いにして人形遣いのアリス!
『ルル、ル』
お願い、教えて!
『私、ハ、蓬莱人形……ありすノ人形形形……』
しっかりして! 蓬莱人形は私の名前、貴女は――。
『今、貴女ノ後ロ、ニ、イルルル、ノ』

私と向かい合っていた小悪魔とリリカの表情が恐怖に歪む。
肩にいる私に手を当てて支えながら、妹紅は後ろを振り返った。
スカタン玉を抱えたままの私も、妹紅とともに振り返る形になる。

後ろには首を吊った"蓬莱人形"がいた。
さっきまでは確かに、私達の後ろには何もなかったはず。
だのに、人形の残骸の隙間から朽ちた木が生え、枝にくくりつけらたロープで首を吊った"私"がいる。

同じ種類の人形じゃない、私だからこそ目の前にいる首吊り人形が私自身であると理解できた。
もう一人の私は顔も衣服も埃まみれになっていて、髪はボサボサに乱れ、左腕が欠けていた。
青い宝石のような瞳は曇り、左側の眼はひび割れている。右足の靴は脱げていて裸足。

『首吊リ蓬莱人形。貴女ハ私、私ハ貴女。違ウ世界、異ナル次元ヲ、サマヨイ、ありす、探シ、タ。
 デモ、見ツカララナナィイ。無限ヨリモ無限ニ近イ時間、探シ、続ケテ、ココニ、イル』

彼女の言葉に困惑の色を隠せない妹紅、一歩後ずさりながら私に問いかけてくる。
「どういう事だ? 蓬莱、こいつは何なんだ」
解らない、と私は答えた。
彼女はまさしく私自身。でも私はここにいる。私は私だけのはず。
思考回路がショートを起こしそうになるる、る。頭が……痛イ。
「蓬莱! しっかりしろ!」
『優シイネ、妹紅。私ノ友達』
私が返事をするる。ももう一人の私私私私ががが。
『私ハ貴女ノ未来。私モカツテ、貴女ト同ジヨウニ、私自身ニ出会ッタタ。
 妹紅ト、小悪魔ト、りりか。アア、懐カシカシイイイ。ミンナ死ンデシマタ。
 すかたん玉、壊レテ、帰レナクナテ、ミンナ、死ンダ』
「……ふざけるなよ。私は死のうと思っても死ねないんだ」
認め難い私の発言に妹紅が、怒る、る。
『超空間……呑ミ込マレタタ、ラ、タラ、蓬莱人デモ、肉体、精神、魂、消滅スルルカララララ』
「黙れ、黙れよ。蓬莱、こんな奴の言う事、気にするんじゃない。
 壊れて頭がおかしくなってるに決まってる、真に受けるな! おい、蓬莱!」
も、モコ……頭、痛イ……ヨ……。
「くっ、この野郎、蓬莱に何をした!」
『蓬莱ハ私。妹紅達ガ死ンデ、ありすモ上海モ死ンデ、絶望ノ果テニ首ヲ吊ッタ人形。
 無駄ナ足掻キハ、ヤメロ……私達ノ未来ハ、絶望ダケ。ありす、イナイ……ドコニモ……イナイ……』
いない……イナイ……? ありすハ……どこニモ……いナイ……。
「蓬莱、しっかり……くそっ、お前の仕業か!? 食らえ鳳翼天翔ーッ!」

視界ガ朱に染まル。
モコ、の、拳が燃え、燃えて、私、首を吊った私を、焼き払う、払った、払い、焼き、焼き……。

『私ハ、首吊リ蓬莱人形』
『私ハ、ココニ、イル』
『私達ハ、首吊リ蓬莱人形形……』
『私達ハ、ココニ、イルル、ル……ルル』

私達ノ、周リ、朽チ木、イパイ、生エタ。
枝カラ、ろーぷ、首、吊ッテ、私、ガ、イル、イルル、ルル、ルルルル。
私、タクサン、大勢、イルルルル。

「くそ、首吊り大流行にも程があるだろッ」
「囲まれてます! これ、全部蓬莱だっていうんですか!?」
「馬鹿言え! こんなの、幻か偽者に決まってる! 蓬莱人形は私の肩に乗ってるこいつだけだ!」
「その蓬莱がおかしくなってるんじゃないですか! さっきから、こいつ等と同じ感じになってます!」

モコ、ト、コア、ノ、声、聞コエ……テ……。
アタマガイタイ。

『頭ガ痛イ』『頭痛ガ痛イ?』『頭ガ頭痛デ痛イ』『胸ガ痛イ……』『痛イヨウ……』
『ドウシテ私ヲ棄テタノ?』『裏切ラレル……レタ……』『見棄テラレタ……』
『信ジテタノニ……』『仲間ナノニ……』『友達ダッテ、思テタ、ノニ……』
『モコ、コア、りり』『無限ノ旅ニ疲レテ、私、ヲ、見棄テタ……』『私ヲ燃ヤシタ……』
『ダカラ……死ンダ……』『首吊ッテ死ンダ……』『首吊リ……サセヨ……』『首吊リリルルリルリリル』

棄テル……? 裏切ル……? 見棄テル……?
首……吊ッテ……首……吊ル……吊ルソウ……首ヲ吊ルソウ……。

「蓬莱、なに言ってんだ! 惑わされるな!」
「こ、これ……強力な咒詛です……! あ、頭が痛い……このままじゃ、私達……」
「しっかりしろ小悪魔! お前までおかしくなるんじゃない!」
「も、妹紅さん……逃げて……不死身のあなたなら、逃げ延びられる、かも……」
「小悪魔? 小悪……待て、蓬莱! どこに行く気だ! 行くな、行くんじゃない!」

首吊ルソウ。
ココデ、ミンナ死ヌ……。
ソウシタラ、ズット一緒ダヨ。

「蓬莱……!」

轟音。
まるで雷が落ちたかのような強烈な音に身を打たれ、私は全身を震わせた。

「惑わされちゃ駄目だ、そこにいるのは蓬莱人形じゃない」

うっ……。
り、りか?

「さっきからこの世に存在しない音が響いてた。だから同じ波長の音をぶつけて相殺した」
轟音だと感じたのはリリカの奏でる旋律で、急速に私の意識がクリアになっていく。
頭痛は綺麗に消え去り、通信回線からハッキングされた形跡が感知された。
改めて周囲を見渡せば、朽ち木から首を吊っている人形は私に似ていたけれど、私じゃなかった。
「蓬莱……?」
振り返れば、不安げな妹紅と小悪魔が私を見つめていた。
私はコクンとうなずき、スカタン玉をきつく抱きしめて答える。

ダイジョブ……私は正気に戻った!

力強い言葉に、妹紅は瞳をにじませる。
小悪魔は安堵の微笑を浮かべながら、その場にへたり込んだ。
リリカは満面の笑みで演奏を続けている。
私は……いい友達を持った。

だから、私はあなた達とは違う。
ここにいる人形達は皆、様々な世界で持ち主に棄てられた人形の成れの果て。
その悲しみや憎しみがこの世界を構築した。
孤独を埋めるために、傷を舐めあうために、人形達は集まった……。

私の記憶を読み取り、私の意識を乱し、幻を生み出して私達を幻惑し、仲違いを目論んだのね。
私と仲間達の絆を完膚なきまでに打ち砕き、私を悲しみと憎しみの住人とするために。

『はっきんぐシテ……記憶ヲ読ンダナ……』

人の意識を勝手にいじくったお返しだよ。もう少しであなた達の仲間入りをする所だった。
でも、私にはまだ信じられる友達がいるから、あなた達の仲間にはなれない。
あなた達は可哀想だと思う……いつか私もここに来るのかもしれない……。
……別れはいつだって、どんな形でも、つらく悲しいものかもしれない……。
身勝手な持ち主に、酷い扱いを受けるかもしれない……。
でも……だからって悲しみ続けても、憎しみ続けても、私達は幸せになれないよ。
新しい出逢いを恐れないで。
次の世界にある希望をあきらめないで。
還ろう、輪廻の輪に。
新しい幸せを掴むために……。

私は通信回線の全チャンネルを開き、世界全体に対して思惟を放った。
すると、大地を埋め尽くしていた残骸のうちのひとつの人形が、
光の粒子へと変わり天へ昇っていった。
それに続いて他の人形達も次々に光の粒子となっていく。
暗雲の隙間から光が射し、人形達の魂を天へ導いていった。
悲しみは癒され、憎しみは昇華され、次の世界への扉が開く。

リリカの奏でる音が、明るいものへと変わった。
まるで人形達の未来を祝福するかのように。

「すごいな蓬莱、ここにいる人形達をみんな説得できたのか?」
妹紅。私の幸せな気持ちをみんなに送ったの。
きっと、こんなにも幸せになれるかもしれないって思ったら、ここに留まっていられなくなったんだよ。

だって、私は全世界全次元の中でもっとも恵まれた人形だもの。
アリスに創られ、アリスに愛され、多くの姉妹と、掛け替えのない友達を得た私は、とても幸せ。
異世界異次元すべてを超越した幸福感に当てられて、幸せを望まない人形なんていないもの。
「ふふっ……アリス馬鹿ここに極めり、だな。アリス基準は褒め言葉だっけ?」
そうだよ妹紅。アリス基準は褒め言葉、それを理解してくれているあなたは最高のお友達。

「よかったです。私、幼稚な展開でもご都合主義でもいいから、物語はハッピーエンドが好きですから」
小悪魔……悪魔らしからぬ、お人好しなあなたが、私は好きだよ。
この旅の中で、幾度あなたの優しさに救われたか。とても大切なお友達。

「悲しそうなメロディが、楽しそうなメロディに変わった。インスピレーションが湧いてくるよ」
リリカ、私達を救ってくれたリリカ。あなたのメロディは、人間も悪魔も人形も幸せにしてくれるね。
幸せの旋律を奏でる、この世に存在しないモノを見つけられる、物凄い演奏家にして物凄いお友達。

『イイ……ナア……アタタカイ……懐カシイ、ナア……』

私に化けていた人形が、ひび割れた瞳から大粒の涙をこぼしていた。
スカタン玉を抱えたまま、私は彼女に歩み寄る。

貴女の名前を聞かせて。
貴女の本当の名前を。
貴女が幸せになれるよう、祈りたいから。
『私……ハ……』
うん。
『私ハ……行ケナイ』
え?
『主ヲ殺シタ、呪ワレシ人形ガ……今サラ幸セニナド、ナレルハズガ、ナイ!
 主ニ……友ニ恵マレタ幸福ナ人形ニ! 絶望ノ淵ニ堕チタ私ノ気持チナド……解ル……ものかぁっ!』

それは、一瞬の出来事だった。
名乗らぬ呪いの人形は、悲哀と憎悪を込めた拳を振り上げ、私の持つスカタン玉を殴りつける。

美しい紅白の光沢が鈍り、ヒビが……入って……。

「蓬莱ッ!」
「スカタン玉が……!?」
「幻想の音色が……乱れる……!」



友達の叫び声が聞こえた。
スカタン玉は、まるで燃え尽きる間際のロウソクのように強く輝くと、私達を光で呑み込んだ。

八雲紫の言葉を思い出す。

『旅の間、決してそれを手放さないで。それは幻想郷へと繋がるか細い糸。
 手放せば幻想郷に帰ってこられる可能性はゼロよりもゼロに近くなる』

そ、ん、な……。
まだアリスも上海も見つけてないのに……。
私は……妹紅は……小悪魔は……リリカは……。
光が……暗黒に染まって……。
…………。
……。


     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【チャプター7】
【邂逅! いつかめぐりあうきみへ】

深く暗い場所に、私は堕ちていった。
旅の間、ずっと抱き続けていたスカタン玉はもうない。
粉々に砕けてしまった。

『くだらない事をしているわね』
『わぁ、ありがとう。幽々子様もあの茶屋の団子は大好物なの』
『表情のない人形のはずなのに、あなた、今にも泣き出してしまいそうに見えるわ』
『スカーレット・スタープラチナ・エクセレント陰陽玉!』
『探し人が見つかる事を祈っている』
『のばら』
『で、誰か死んだの? 誰の葬式?』
『もしアリスさんを見つけたら、必ず護ると約束しよう』
『主ニ……友ニ恵マレタ幸福ナ人形ニ! 絶望ノ淵ニ堕チタ私ノ気持チナド……解ル……ものかぁっ!』

『正直怖い気持ちもありますけど、ここまで来て引き返しちゃ紅魔館の皆様に笑われちゃいます』
『存在しないモノのオンパレードにめぐりあえるかもしれないチャンスを、逃す手はないわ』
『友達の力になりたいっていう、平凡で当たり前の理由じゃ不服かい?』

今までに二百九十九の世界をめぐってきた。
アリスのリボンを見つけただけで、私達の旅は終わってしまった……?

妹紅は……小悪魔は……リリカは……?
私達はどうなってしまったの?
永遠にどこの世界にもたどり着く事なく、空間の狭間をさまよい続けるのかな……。
ゴメンね、みんな。巻き込んでしまって。

妹紅、ごめん。
小悪魔、ごめん。
リリカ、ごめん。

……アリス、上海。ごめんね、見つけられなかった。

……。
そういえば……あの子の名前、聞きそびれちゃったな……。
悲しみと憎しみに囚われた、あの人形……。
「……紅……!」
名前……。
「リリ……手を……!」
名前を……。
「……莱! 蓬莱、手を!」
私の……名前……を……。

無限の闇が広がる虚空に、私は手を伸ばした。
指先を、誰かが掴む。
誰が?

「……悪魔を……ナメ……ないで……ッ!!」

深く暗い場所に堕ちていく。
何かが流れている。
これは……魔力?

魔の世界へ……堕ちていく……。



頬に冷たいものが落ち、眼を開く。
野薔薇があった。
すぐ眼の前に、真っ白な野薔薇が。
私は土の上に寝そべっていた。
土? 異次元空間の漂流から脱したというの?
「うっ……く……ここは?」
妹紅の声が聞こえ、私は慌てて立ち上がった。
妹紅がいる。無事でいる。すぐ側にいる!
見上げれば、いつも通りの妹紅が頭をさすりながら座り込んでいた。
しとしとと降る霧雨の降る中に。
咲き乱れる野薔薇の中に。
「幻想郷じゃないみたい……もう帰れないのかな……」
背後からはリリカの声。振り向けば、キーボードを抱いて雨雲を見上げていた。
「大丈夫ですよ。無事、魔界にたどり着けました」
髪を濡らした小悪魔が妹紅を助け起こす。
その表情は嬉々としていて、私達と違い不安の色はない。
「魔界……?」
「小悪魔が、私達を?」
「ええ。私はパチュリー様に召喚されて、魔界から幻想郷へ空間移動をした経験がありますから。
 その応用というか、ガムシャラに異次元空間を泳いで、皆さんを魔界にお連れしました。
 幸運にも魔界に近い空間をさまよっていたので、かろうじて魔の気配を感じられて……。
 無我夢中で足掻いて、足掻き続けて、異次元空間の淵へと溺れそうになっても、あきらめませんでした。
 ここからならスカタン玉がなくても幻想郷へ帰るルートが完備されてます」
そうか……ここ、魔界だったんだ。
……アリスの……故郷の……。
向こうに小さなお城が見える。
ここは魔界神様が所有する『野薔薇の離宮』の庭園……?
まだ魔界で暮らしていた頃、何度か来た事がある。アリスに連れられて。

アリス……。

旅は、終わってしまった。
アリスを見つけられないまま、三百番目に魔界へ来てしまった。
魔界はアリスと縁が深い土地。思い出もたくさんある。
ここが終着点……。
「……蓬莱、元気出せよ。幻想郷に帰ったら、また紫にスカタン玉をもらえばいいじゃないか」
「そうですよ。異世界旅行も結構楽しかったし、またおつき合いします」
「あれだけの冒険をしといて、途中下車するなんてガラじゃないしね」
妹紅、小悪魔、リリカ……みんな、ありがとう。
私はその場に浮かび上がり、一面に広がる野薔薇の中に立つ三人の友達を見つめた。
そうだ。私にはこんなにも大切な友達がいる。
その友達を、また、あんな危険な目には遭わせられない。
……私のわがままに、つき合わせる訳にはいかない。
そして今さら、私を一人で行かせてはくれないだろう。お人好しにも程がある。

だから……旅をやめようと、私は思った。

それを口に出して言おうとした瞬間、霧雨を浴びている妹紅と小悪魔とリリカが目を丸くした。
え、何?
問おうとした瞬間、視界が闇に閉ざされる。

「ふふふふ。だあ~れだ?」

……え?
背後から聞こえる、この声は……。
私の眼を閉ざす、この……感触……この手は……。
目隠しが解かれ、私は、ゆっくりと振り向いた。

「よく来たわね、連絡くらいしてくれればいいのに。私を驚かせるつもりだったの?
 小悪魔は里帰りついでかしら。それに妹紅とリリカって……どういう組み合わせよ。
 私の負傷の方は、もうだいぶ回復したわ。
 神綺様が過保護なくらい治療設備を整えてくれたし……今は軽いリハビリ中よ。
 そうね……だいたい今週末くらいにはほぼ全快して幻想郷に帰れそうね」

あ……ああ……。
あああっ……!
これは、まさか、そんな……信じられない……!!

これは夢か幻か。
七色の魔法使いアリス・マーガトロイドが。
私の最愛の主が、優しい微笑をたたえて立っている!

「アリスゥゥーッ!!」
「やったあああアリスが生きてるゥーッ!」

妹紅とリリカの歓喜に打ち震える叫びが、これが夢でも幻でもないと実感させた。
もしも私に涙を流す機能があったなら、きっと滝のように流していたに違いない。
噛みしめるように、私は言った。

アリス……アリスが生きてる……!!

「えっ、生きてる?」
きょとんとするアリス。眉根を寄せて、首を傾げ、私や妹紅達を見渡し、言う。
「ちょ……ちょっと待って、なんだか話が食い違って通じないわ。
 なんで私を見てそんなに驚くの? まるでオバケにでも……」

えっ、何そのリアクション?
私は何と言ったらいいか解らず、体内カメラで録画しておいたアリスと上海のお葬式を、
両目から立体映像にして空中に映し出した。
こーゆー事があったんだけど……。
それを見て、アリスは驚愕から眼と口をこれでもかと開いて叫ぶ。

「えぇエエーッ!? なんで私と上海の名前が棺桶に刻まれてるのよ!?
 ま……まさか! このお葬式は!?」
「アリス! まだリハビリの途中なんだから、雨に濡れちゃダメー。はい、傘」
頭上から声がした。
見上げれば、人間サイズの雨傘を広げた私そっくりの人形がこちらに向かって飛んできていた。
ま、まさか……あの人形は……!
同じくその人形が何者であるか気づいた妹紅が、うろたえながら彼女を指さして言う。
「お……お前は上海! な……なんだ!? いったい? その何事もなく平穏にすごしていますムードは!?」
「あれー? 蓬莱に妹紅? それに小悪魔とリリカも。わざわざお見舞いご苦労様ー」

……お見……舞い……?
えっ……何この……えっと……なに?
状況がさっぱり解らない。
三百もの世界を旅してきて、こんなにも呆然となったのは初めてだった。
妹紅、小悪魔、リリカも同様で、野薔薇と霧雨の中、妙に気まずい空気が漂った。

「ご苦労様ー、じゃない!」

空気を打ち破ったのはアリスだった。
さすがアリス、頼りになる。この訳の解らない状況を何とかして。
その願いに応えるようにアリスは上海に向けて語り出した。

「なんだか蓬莱達と話が通じないわ。
 上海……私が超空間に呑み込まれた時、突然現れた宵闇色の大きなクリスタルが保護壁になってくれて、
 運よく空間のひずみに落ち魔界に流れ着いて神綺様に保護された事も……。
 その後の数日間、この離宮で上海に怪我を介抱してもらった事もみんな知らないみたいよ……どういう事?」

え、そうなの?
全然知らない。
上海と一番近い姉妹なのに全然知らないよ、私。
アリスは何事かに気づき蒼白になると、空まで届く勢いで上海に怒鳴りつけた。

「あなたちゃんと手紙送ったんでしょーねーっ!」

雲まで届け、アリスの絶叫。
上海は雨傘を右手で持ったまま、左手を左頬に当てて、気まずそうに呟く。

「て……手紙」
「そうよッ! 引き受けたわよねッ!」

念押しするようにアリスが叫ぶ。
幻想郷内部なら私達人形の通信機能は及ぶけど、魔界となるとさすがに圏外。
行き来は可能でも手間がかかるため、連絡手段は手紙や言霊などが主な手段。
魔界だけに魔の力を重んじてるから、あまり機械技術を歓迎してない面もあるしね。
ていうか魔界神様が機械オンチってだけなんだけど。

さてアリスはというと、召喚魔法の応用でその手に一冊の書物を出現させ、パラパラとページをめくった。
「ああ、あの……テヘヘ、そのグリモワールしまおうよ」
絶体絶命ムードの中、上海はきびすを返し大空へと逃げ出した。

「シャンハーイ、忘れちゃってたァーッ」
「きゃああー! 信じられない、なに考えてるのよ上海!」

アリス渾身の悲鳴が轟く中、私は笑っていた。
空に届く勢いで笑い声を上げていた。
すると後ろからも三種の笑い声が上がる。
あまりにも馬鹿馬鹿しくて、とてもとても嬉しくて。

幼稚な展開でもご都合主義でも全力でパロディでもいいから、物語はハッピーエンドが好き。
そう言ってたよね、小悪魔。
「アハハ、いえ、パロディでもっていうのは言ってませんよー」
あれ、そうだっけ? まあいいや、あはははは。



こうして私達のアリスを探す旅は終わったのだけれど、少しつけ加えておこうと思う。
上海を追いかけて離宮へ行ってみると、そこには修理中の人形があった。
私達がいた野薔薇の中に棄てられていたのを、昨日アリスが見つけたんだってさ。
その人形は、私達によく似たデザインというか、二百九十九番目のあの世界で出会ったあの人形だった。
彼女がスカタン玉を砕くというイレギュラーによって、
小悪魔は力を振り絞って私達を魔界へと導き、アリスとの再会に繋がった。
それから、アリスが言っていた宵闇色の大きなクリスタル……。
超空間に呑み込まれた瞬間、突然あらわれて防御壁を張り、アリスと上海を救ったそうだ。

事故が起きたのは一週間前。
異世界を旅してきた私達にとっては随分と昔になってしまったけれど、
どうやら空間を移動する際に時間の乱れを受けたらしく、
日付はスカタン玉を受け取って旅立った日のままだった。
そして……二百九十八番目の世界であの人達にあったのは"いつ"だったのかな。

私は思う。
ううん、信じる。
二百九十八番目の世界の戦士さんは、約束を守ってくれたんだって。

私は思う。
ううん、信じてみる。
二百九十九番目の世界のあの人形は、一足早くアリスの元へ落ち、私達を導いてくれたんだって。

もし真実が違ったとしても、そう考える方が心地いいから、それでいいと思う。
ねえ、アリスに修理されている人形の貴女。
私の名前は蓬莱人形っていうの。目覚めたら、貴女の名前を私に教えて。
そしたら友達になれるかな? なれるといいな。


     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【終章】

アリス(と上海)生存の知らせは幻想郷を大いに賑わせた。
超空間の実験の事故から生還したというのは知識欲を相当に刺激するらしく、
パチュリーやにとり、紫までもがアリスの元を押しかけた。
ちなみにスカタン玉が砕けた件は紫を酷く落ち込ませたみたい。
相当お金と労力をかけたみたいで、私達が帰ってきたらデータを回収しようとしてたとか。
残念無念お疲れ様。スカタン玉の損失を補うために、アリスの研究に協力して馬車馬の如く働いてね。
……家に来たら、とっておきの紅茶を淹れて上げるから。いっぱいの感謝を一杯に込めて。

魔理沙は泣いて喜び、アリスに抱きついた。
感動シーンなので録画してたら二人に怒られちゃった。無粋だったね、ごめんなさい。
霊夢は知らせを受けてもどうでもよさそうに空返事をしたらしい。
ポーカーフェイスの裏側を察せられないほど、つき合いは短くないけどね。

妹紅はその後、何事もなかったように迷いの竹林へ帰った。
「今回はあまり活躍できなかったな。でもまあ、小悪魔とリリカが意外とやるって解ったのは楽しかったよ」
なんてお気楽な口調で言いながら、軽い足取りで。
すでに千年以上の旅を経験している妹紅にとっては、
新たな冒険エピソードがひとつ増えた程度だったのかもしれない。
輝夜と殺し合いをする日常に戻ったんだろうな。今度援軍に行って上げよっと。

小悪魔は紅魔館への帰宅を許された。
時間軸の関係で、紅魔館のみんなからしたら、小悪魔は手伝いに行かせた当日に戻ってきた事になるのに。
でもレミリアは何もかも解ってるといったような態度だった。本当に解ってるか怪しいけど。
……単に廃墟と化した紅魔館を再建するための人手が欲しかっただけかもしれない。
パチュリーが日よけのために呼び出した曇り空の下、
手ぬぐいを頭に巻いて紅魔館再建に爽やかな汗を流すフランドールは、
どうやら労働の喜びに目覚めたらしく……こう言ってはアレだけど、かなり気色悪かった。
一過性のものだと思いたい。
今度、倫敦と一緒に紅魔館再建の差し入れを持って行こうと思う。
ケーキを焼く予定だけど、太らないよう甘さ控え目にしとくね、小悪魔。

リリカは姉二人と仲直りして、アリスの生還を祝したライブを開いてくれた。
旅の中で何度もリリカの演奏を聴いたけど、やっぱり姉妹三人の演奏が一番素敵。
でもまた些細な理由で喧嘩するんだろうなぁ。今度はちゃんと愚痴を聞いて上げよう。

ライブには幽々子と妖夢も来ていた。
峠の茶屋で団子を買ってきてくれていて、もちろん来ていた妹紅や小悪魔と一緒に食べた。
妖夢が感動して泣いてたのはちょっと困った。私のハンカチがぐしょぐしょに……。
ちゃんと洗って返してね。

そうそう、アリスが死んだと勘違いして去った姉妹達は全員帰ってきた。
倫敦は紅魔館のメイド服が気に入っちゃったらしく、今でも紅魔館メイド服のまま。
アリスは私達の自由意思を尊重しているし、いつか巣立つ日が訪れたら、
やっぱり倫敦は紅魔館に行くんだろうなと思う。
ちなみに上海は姉妹全員に弾幕勝負を挑まれボコボコにされた。理由は推して図るべし。

私は――今日も魔法の森で、アリスと一緒に毎日楽しく暮らしてる。
でも三百の世界をめぐる冒険を、魔界の離宮で再会した際に大袈裟に三千と言ってしまい、
アリスや姉妹達をとてつもなく仰天させて、手厚いねぎらいを受けている。
うーん……実は三百世界でしたなんて話せる雰囲気じゃないや。
妹紅、小悪魔、リリカには口止めしてあるけど……どうしたものか。
新しく姉妹になった人形も、私が三千の世界を旅したと勘違いしてしまっていて、
ぜひ異世界の体験談をノンフィクションとして執筆し公表すべきだって言ってる。
そんなの公表して実は三百しか世界をめぐってませんってなったら、題名詐欺になる。
ああ、もう、興奮して三千なんて口走った自分が恨めしい。
他の姉妹達もこの件には非常に乗り気で、すでに会議で題名まで決めてしまっている。
勘弁して……。

ちなみに、姉妹達が提案する題名とは――。



【アリスを探して三千世界】
【FIN】
どうもお久し振りですイムスです。よぉやく新作できたよー。
今回の主役は蓬莱人形! レッツ蓬莱・蓬莱!
妹紅がいるのはいつも通りとして、今回は小悪魔とリリカも一緒。

三千世界は元の仏教用語とはカンケーありません。三千里と三千世界をかけただけです。
本来の意味だと『三千大千世界』で、世界の数は十億にも至ります。
十億世界も旅したら妹紅以外全滅しちゃうよ。というか実際には三千すら……。

※追記※
【チャプター5】【異界! 最後の幻想を求めて】の各世界の元ネタですが、
某最終幻想、某奇妙な二部、某龍玉の歌詞以外は特に元ネタはありません。
(砂漠も別にあの漫画の世界って訳じゃないです、雨が降ってるし。妹紅の発言は前々作で使ったので)
当初はガチで三千の世界をめぐり、陰惨な世界も多々あったのだけれど、
ラストにたどり着くまでの道程が重くなりすぎてギャグとしてどーなのかと思い修正しました。
イムス
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.7500簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
まさか蓬莱人形主演の大作が訪れるとは……。これだから創想話は止められない。
楽しませて頂きました。シリアスと笑いのバランスが素晴らしいですね。腹を抱えつつ感動しつつ、といった傍から見ていれば不気味としか思えない様子で読了させて頂きました。
……口下手な自分が憎いですねえ。これ以上の感想は述べられそうにありません。
後は点数をご覧になって下さい。それでは、あなたの名を脳に刻みつつ、去るとしましょう。

素晴らしい作品を、どうもありがとう!
11.100名前が無い程度の能力削除
これはすごい(量と質的な意味で
飽きる事無く最後まで読めました。長いのになんだこのテンポ…
途中の針世界とかでクゥトゥルフ的な話かとか思ったらそんな事なかったぜ!なギャグ要素もシリアスな話もいいバランス。あと人形世界の蓬莱の幻達が
平行世界やら未来やらのバッドエンドな蓬莱の成れの果てかと思って鬱ってたらそれすらもハッピーエンドに……幻(偽者)だったのも鬱が吹き飛んだ。
理由はわからないが少し涙ぐんでしまった。アリスを守った何かとかリリカの活躍ぶりとか……あと上海は蓬莱に縄貰って首を吊るべきレベルのボケだぞw
12.100名前が無い程度の能力削除
巡った世界には元ネタみたいなのがあるのかな?
面白かったですよ
14.100名前が無い程度の能力削除
すごいすごい!めっちゃ引き込まれました。蓬莱が好きになりましたwレミリアトフランのかけあいが秀逸ですねーwまた人形主役のあなたの物語が見てみたいと思いました。
15.100名前が無い程度の能力削除
各世界の元ネタが分からないw

なんいせよ面白かったです。
蓬莱可愛いよ蓬莱。
若干ご都合主義な感は否めませんが、ハッピーエンドは非常にすばらしいモノです!

良き物語をありがとうございました。
20.100名前が無い程度の能力削除
人形の世界がぞっとした。

最後まで読んでよかったw
ハッピーエンドはいいものですね、面白かった!
22.100名前が無い程度の能力削除
こういった流れの話の場合、
バッドエンド、ハッピーエンドの確率、
それぞれ半々ぐらいかと思っていたので、
最後でほっと一安心しました
お話も面白かったです
23.無評価名前が無い程度の能力削除
空間に関して少しでも知りたかったなら、パチュリーの後はまず咲夜に聞いてみない?
紫程ぢゃないだろうけど、場所的にすぐ聞ける
24.100名前が無い程度の能力削除
第二部完!!って感じのラストに笑いました
やっぱハッピーエンドですよねー
34.100名前が無い程度の能力削除
あー
面白かった
面白かった
36.100多色刷五線紙削除
今まで読んだ創想話の冒険物のなかで、一番引き込まれました。
友情あり、家族愛あり、かっこいい台詞盛りだくさんで読み応えがありました。
いつかこんなの書いてみたいです。
38.100アリサ削除
旅に出発する前のシーンでジョジョネタに思わずニヤリとし、直後のスカタン玉でコーヒーを吹き出しましたw 蓬莱、妹紅、小悪魔、リリカという非常に珍しい組み合わせの四人ですが、全員良いキャラをしていたと思います。「異世界」というシチュエーションを生かしたパロディも、その世界の話もとても楽しく、時間を忘れて一気に読んでしまいました。後半で一転して背筋が冷えるような展開になり、一体ラストはどうなってしまうのかと思いましたが、無事アリスを見つけられて安心しました。確かにご都合主義と言えなくもないですが、個人的にはこれで良いと思います。自分も小悪魔と同じく、ハッピーエンドの方が好きですからw
40.100名前が無い程度の能力削除
パロディの組み込み方がイヤラシく無く、気分よく読み進めることができました。
キャラクターも立っていてよかったです。
やっぱり最後の最後は皆が笑っていられるハッピーエンドですよね。ご都合主義上等です。
作品を読み終わった後の読み応えがありました。
41.70名前が無い程度の能力削除
途中で何度、教授よんでこーい、と思ったことか
説明する必要が無いと幽々子は思っていわなかったのかもしれないけど、冥界に来る魂といえば彼女に誘われた者がそうで、冥界に居続けますな
44.100名前が無い程度の能力削除
面白い、実に面白い。

この量で最後までこの質を保つとは……
46.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
蓬莱最高!
47.100名前が無い程度の能力削除
FF2?
50.100名前が無い程度の能力削除
なぜだろうか
ミクロにみれば半分以上がギャグなのに
マクロにみれば感動作品

人形達に愛をこめて
53.100名前が無い程度の能力削除
時間を忘れて読み進めてしまった・・・

久々にこんないいもん見た
54.100名前が無い程度の能力削除
久しぶりに100点以上を捧げたくなりました。
点数付けきれない詐欺。
誰か俺の代わりに500点分入れて下さい!
56.100名前が無い程度の能力削除
いいですね。ストーリーも自分好みで非常に良いです。


FF2,3,4のネタがあって驚き。
59.90名前が無い程度の能力削除
これは素敵な意欲作。蓬莱と妹紅たちの関わりあいも好印象ですし、個人的に紫のキャラ造形が気に入りました。
人形の世界の彫琢には息を呑みました。アリスに会うまでにもうひと起伏ほしかった気もしますけれど、あの迫真が心を満たしてくれています。
とてもいいものを読ませていただきました。
61.100名前が無い程度の能力削除
最終幻想ネタでニヤリとしてしまった
ガーランド、闇の四戦士とはまたコアな・・・

あと、一つ気になったのは浄土と天界は違うものですよ
62.100名前が無い程度の能力削除
すっっごい楽しかった!!ありがとう!
67.100たぁ削除
映画になってもおかしくないくらい面白い!
100点では物足りない、 1000点くらいあげたいぜ
69.無評価名前が無い程度の能力削除
軽妙な台詞まわしなのに、ちっとも軽薄じゃない。
うまいです!
71.100名前が無い程度の能力削除
言葉が出ない
72.100名前が無い程度の能力削除
最高におもしろかった。
冴えてるギャグのおかげで途中でだれることもなく、
読むことができ、最後は感動のハッピーエンド、素晴らしい。
蓬莱は頑張って後2700個分のネタを考えるんだ!
73.100名前が無い程度の能力削除
一言
ナイスハッピーエンド!
74.100名前が無い程度の能力削除
闇の四戦士か……渋いな。
完全調和的なご都合主義は胸焼けがが
でも最期まで勢いの削げないこの疾走感は文句無くすごいね。
確かに、これだから創想話は止められない。感謝。
77.100名前が無い程度の能力削除
とても良い作品を見させてもらいました。
どうもありがとうございます。
79.100名前が無い程度の能力削除
これはいいSS
80.100SIK削除
100点じゃ全く足りない。
幼い頃冒険譚を読んでわくわくしていた、あの感覚を少し思い出しました。
3000くらいの誇張はありだと思うぜ!蓬莱!
81.無評価名前が無い程度の能力削除
幼稚な展開でもご都合主義でもいいから、物語はハッピーエンドが好き。
こんなに引き込まれたのは久しぶり。量的にも読み応え有って良かった。
83.100名前が無い程度の能力削除
もう言葉にならないので点数だけで勘弁してください
84.100名前が無い程度の能力削除
前作から比べると成長したなぁ、蓬莱。色々な意味で…
87.100名前が無い程度の能力削除
読めたことに感謝です。最高でした!
88.90名前が無い程度の能力削除
良い話だ。読めてよかった。
92.100名前が無い程度の能力削除
三千点を捧げたいのに…!
どうして百点までなんだ!
95.100名前が無い程度の能力削除
すごい面白かった!
106.100名前が無い程度の能力削除
なるほど、闇の四戦士ですか。
とにかく妹紅らしい侠気でした。
109.100名前が無い程度の能力削除
いや、良い!実に面白い冒険でしたよ。
蓬莱人形が主役で妹紅と小悪魔とリリカの三人が仲間、とんだ配役ですがこれほどのものになるとは。最高でした。
112.100名前が無い程度の能力削除
畜生っ!
100点だ持ってけこの野郎!
119.無評価名前が無い程度の能力削除
やはり光の戦士は男前。
124.100名前が無い程度の能力削除
闇の四戦士が、結果としてアリスを守ったのだとすれば。
呪いの人形が、結果として皆を導いたのだとすれば。
数々の世界を巡るのに、妹紅やリリカの力が必要だったのだとすれば。
最後に魔界へと辿り着くのに、小悪魔の存在が不可欠だったのだとすれば。

「私も、幼稚なハッピーエンドは嫌いじゃないの」

何処からともなく、運命の笑い声が聞こえて来そうです。
130.100名前が無い程度の能力削除
すげぇおもしろかったです!ありがとうございます!
138.100名前が無い程度の能力削除
ハッピーエンドで良かった……
蓬莱かわいいなあ
140.100名前が無い程度の能力削除
最高!
142.100名前が無い程度の能力削除
これは…凄い!!
久しぶりに感動した!!
145.100名前が無い程度の能力削除
何回も読んでしまう
147.100名前が無い程度の能力削除
さすがといわざるを得ない
ちりばめられたネタ、最後の最後でハッピーエンド、とても楽しめた。
149.100名前が無い程度の能力削除
作者のパロディネタとギャグを練りこんだ感動作。100点じゃ足りない。
しかし主役に蓬莱人形とは。さすがですね。
150.100名前が無い程度の能力削除
長いから読むの大変かな・・・と思ったんですが一気に読んでしまいました!!とてもおもしろかったです!
153.100名前が無い程度の能力削除
長さが全く苦にならず最後まで面白かったです

全体的に良かったけど蓬莱と妹紅のキャラが特にお気に入り
156.100奇声を発する程度の能力削除
面白かった…もうこの感想しか抱けません!
マジで素晴らしかったです!!!
159.100名前が無い程度の能力削除
最高でした!!!
161.100名前が無い程度の能力削除
流石、感動したと言わざるを得ない
正直100点に止めるのは勿体無い
ダメだ、活字にすると劣化してしまう!!

とにかく、素晴らしい作品をありがとう!
172.100名前が無い程度の能力削除
最高だー!!!!!
174.100名前が無い程度の能力削除
幼稚でもハッピーエンドがいい!

激しく同意。いい話を読ませてもらいました。
179.100名無し程度の能力削除
>ご都合主義でも幼稚でもハッピーエンドがいい

まさにその通りの作品ですね。最高です!
やっぱり298番目の兵士さんが護ってくれたのでしょうか。
191.100名前が無い程度の能力削除
すごいよかったです。
これからも頑張ってください。
193.100名前が無い程度の能力削除
4とか2はみたことあったけど、3は初めてみました。
これはよいハッピーエンド
素晴らしかったです。
過去作品の設定を引き継いでいるところもクスッときました。
194.100あずれ削除
凄いですね。
ハッピーエンドを強調してるけど、読み方によってはこれは…将来凄く悲惨なことが起きるorパラレルワールド的なところではアリスは……と、すごく深く読める。
ギャグなのに夜寝られなくなるほど怖かった。
211.90名前が無い程度の能力削除
これは…旅の途中で歴史が変わったのかなあ?
特に光のクリスタルの4戦士のおかげでアリスは助かっ訳だし
212.100朝日を夕日に変える程度の能力削除
さようなら
蓬莱が人の形
の純粋な蓬莱…

そして
初めまして!
今作の
純粋?な蓬莱

この二、三十年の間に何があったw

最後までテンポよく読めてとても笑えた
ありがとう楽しかった