自称、普通の魔法使い―――霧雨魔理沙はほぼ日課となっている楽天巫女に茶を集りに行く為、幻想郷最東端を目指して飛んでいた。
季節はもうレティが現れる頃となり、里辺りではすっかり冬支度をしている。
魔理沙も霖之助に今年の新しい冬着を作ってもらった。なんでも魔術的な繊維を組み込んでいるらしい。今から年中腋出しっ放しの友人に自慢しようとしていたところだった。
―――博麗神社。
「おーい。ヤクザ巫女ー」
境内に降り立った魔理沙は大声で腋巫女を呼んだ。
返事が無い。
「まだ寝てんのか?」
もう昼時だ。そんなはずは無いとは思うが。
普通の魔法使いは勝手知ったる他人の家、いや神社の勢いで障子を開けた。
中で何をしているかも確認せずに……
* * * * * * * * * * * * * * * *
「寒いねぇ」
「ええ……で、神奈子様は何時まで寝てるんですか」
「……布団から出たくないって」
一方、『山』山頂付近守矢神社。
幻想郷の中でも特に寒い此処で風祝―――東風谷早苗は修行の準備をしていた。今回の指導は二柱が一方―――八坂神奈子の予定。
スキマ妖怪が綿月の妹に刺激されたらしく、『とある』会議で博麗霊夢及び東風谷早苗に『降ろし』の修行させることが決定した。
無論、神奈子は乗り気では無かったが早苗は「是非に!」と目を輝かせていた。何でもシャーマン○ングみたいでカッコいいらしい。そこはZだろう……
「そういえばいつものケロちゃん帽子は?」
「スキマに貸してくれって」
「はあ?」
「はぁ……しょうがない。私が早苗のサポートするよ」
二柱が他方―――洩矢諏訪子はやれやれと頭を掻いた。
「いいんですか?」
「いいよ。でもなぁ……符使った方が私ら的には楽なんだけど」
「そうですね……あ、そろそろ時間です」
「仕方ないね……やるよ。あっちの神社行こうか」
「はい」
早苗と諏訪子は外へ出た。
この時、神奈子が起きていれば何も問題無く事は進んでいたのだが……
* * * * * * * * * * * * * * * *
博麗霊夢は修行嫌いだ。
正直、努力というものが苦手だった。その点、努力家の友人を凄いと思うし尊敬もする。きっと良い師……ではないと思うけど、それなりに効率の良いやり方をしてきたのだろう。
自分には到底無理だ。
「霊夢。時間よ」
空間に歪み、そしてスキマが開く。中から導着服を着たスキマ妖怪―――八雲紫と、九尾の妖狐―――八雲藍が出て来た。
「はぁ……気乗りしないなぁ」
「我儘言わない。やればできる子なんだから」
「子供扱いすんな」
「子供ですわ。それに負けっぱなしでいいの?」
「む」
それは、嫌だ。
「紫様それくらいに……今日は私もサポートするから、余程のイレギュラーが無い限り大丈夫だ」
「そう。藍が一緒なら安心ね」
「ちょ! ゆかりんショックだわ……」
「なにがゆかりんよ。とりあえず準備はしといたわ」
そう言って、霊夢は横の変な形をした帽子を被る。諏訪子の帽子だ。
「……どうやら来たようね」
「ん? あれ、早苗達も?」
境内に二つの影。諏訪子と早苗だ。
「合同でやるって言っといたじゃない」
「だっけ?」
「はぁ……」
紫は頭を抱えた。この調子では何時アイツラに勝てるかわからない……
「やっほ。寒いねぇ」
「おはようございます。皆さん」
迷彩カラーのダウンを着、黄色い目玉雪洞が付いたニットを被った諏訪子。そしてカシミアのコートを羽織った早苗が上がって来た。
紫と藍はあら?と首を傾げた。
「神奈子は?」
「……起きる気配が無い。いいよ放っといて」
「まったく、もう」
やれやれと首を振った。諏訪子も苦笑しか出ない。
「仕方ないでしょう。私達だけでやりましょう。紫様、そろそろ結界を」
「そうね。二人ともいいかしら? 説明するわよ」
今日のプランはこうだ。
神降ろしをする際に、まず藍が擬似封鎖結界を張る。これの範囲は神社の境内ほど。次に紫が大結界に数秒スキマを開ける。神霊を通すためだ。最後に霊夢が儀式を開始する。
成功、終わり。
「簡単でしょ?」
「知らないわよ。本は読んどいたけどさぁ」
「大丈夫、合図は送るよ」
「藍がいるなら、まぁ……」
「……私って信頼無いのね」
紫がorzのポーズ。
「あの、私達は?」
「え、ああ、そうね。今日は見学よ。次回貴女にやってもらうから要領を覚えて頂戴」
「あ、はい」
「諏訪子にはちょっと頑張ってもらうけど」
「あいよ」
ダウンを脱ぎながら諏訪子は頷いた。
「では、二人とも……いいかしら」
「うい」
「はいはい」
そう言って紫は人一人分のスキマを開いた。その中に……諏訪子が入っていく。
「なんで移動させるのよ」
「実際の神降ろしは外の世界から神霊を呼ぶのよ。いくら訓練だからといって手は抜けないわ」
「はいはい……じゃ、宜しくね。諏訪子」
「はいな。んじゃ、ほいっと」
ぴょこっとスキマの中へ入っていった。
「さて、藍お願い」
「はい。早苗、この札を持っていてくれ」
「わかりました」
藍から札を受け取り、早苗は部屋の隅に正座した。一方、藍は胡坐をかきブツブツ唱え出した。
「さて、最終確認。霊夢、今日の降霊対象は?」
赤い巫女は溜息をして―――
「はぁ……曲神(まがりかみ)、洩矢諏訪子さまさまでしょ」
「OKよ。でも曲神と侮らないこと。アレでも土着神の頂点だからね」
「さらっと酷いこと言ってますね……」
やれやれと霊夢は部屋の中央で半座を組んだ。そして……詠唱を始める。
「……凄い」
「ええ。これで素人ですもの……真面目に練習したらどうなる事やら。恐ろしい」
「はい……」
高速詠唱。
無論、彼女は大した修行はしていない。昨晩、書簡を一読しただけだ。
天才。
まさにそれなのだろう。
「あら、もう最終章ね……私も準備しないと……」
「あ、はい。お気をつけて」
「ふふ、気をつけて、ね。了解。終わったら温かい汁粉で一杯やりましょ」
「……」
早苗は今の一言が……フラグに思えて仕方なかった。
「――――――、―――。紫!」
霊夢が叫ぶ。
「はいよ!
八雲立つ、『博麗』八重垣、 妻ごみに、 八重垣外る、 その八重垣を……!」
瞬間。空気が変わった。
「うっ!」
「早苗! 札に霊力を込めろ! 持ってかれるぞ!」
「は、はい!」
藍の一声が無ければ、早苗は魂をスキマに持って行かれただろう。部屋の中央に大きな穴が開く。いつものスキマとは違う、『気孔』。
「いくわよ! 霊夢!」
「ッ!! こ」
* * * * * * * * * * * * * * *
「おーい。霊夢いないのか?」
「な! 魔理沙さん?!」
「え!?」
儀式中の部屋に、魔理沙が……
「ッ! 藍! 何をやってるの!?」
「わ、わかりません! レーダーには引っ掛からなかった!」
「早苗! 魔理沙を掴みなさい!」
「え、あ、はい!」
「お前ら何やってんだ?」
その時だった。
紫のスキマが揺れ、霊夢の詠唱が止まった。流石の鬼巫女にもイレギュラーがあるらしい。
「霊夢! 今止めないで! 続けなさい!!」
「ッう! ――――――あ」
……トんだ。
霊夢の頭の中で最後の部分が飛んだのだ。たった一言。一言だった。
乾?
坤?
どっちだ?!
「霊夢! 速く! 弾ける!!」
「クソっ……」
やけくそだ!
「乾坤!!」
瞬間、部屋が真っ白に染まった――――――
* * * * * * * * * * * * * * *
―――ピチュリー―ンッ!!
「ッ!! この圧力(プレッシャー)!? まさか?!」
神奈子寝た姿勢から背筋だけで、三メートル飛び起きた。
* * * * * * * * * * * * * * *
「痛つつ……なんだ?」
「どうなったの?」
早苗に掴まれた魔理沙はヨイショと腰を上げた。紫は藍に抱え込まれ、守られていた。
「……藍?」
「大丈夫、です、か?」
「藍!? しっかり!」
「だい、じょぶです。少し、休みます……それより、れい、むを……」
「喋らないで!」
藍はそのまま倒れた。紫は早苗に藍を頼み、霊夢の下へ向かった。
「霊夢! 大丈夫!?」
「……」
返事は無い。
「おいおい……何がどうなってるんだ……」
「魔理沙さん! 至急、永琳先生を呼んで来てください!」
「え?」
「早く!!」
「お、おう」
魔理沙は早苗の睨みに気落とされ、竹林へと急行した。一方、霊夢はまだ起きない。
数秒後……むくっと、立ち上がった。
「痛いなぁ、もう……あれ?」
諏訪子が。
「……どうなったの?」
「え? 諏訪子? 霊夢に降りたんじゃ……」
「いやさぁ、途中までは上手くいきそうだったんだけど……その子最後ミスってない?」
「……わかりませんわ」
しかし、早苗は聞いていた。霊夢は最後に『乾坤』と言ったのを。
「霊夢さん、最後……」
「早苗?」
「乾坤、って……」
途端、諏訪子の顔が真っ青になった。
「ヤバい!!」
「何が……!?」
「スキマ! 『ソレ』から離れr」
―――ドンッ……
「ぐッ!!」
紫は霊夢に蹴られた……いや、霊夢の身体を借りた『何か』に蹴られた。
「早苗!! 逃げろ!!」
「え?!」
「狐とスキマを連れて行きなさい! そして、神奈子を叩き起こして!!」
「諏訪子様!?」
『霊夢』がゆらりと立ち上がる。諏訪子は構えた。弾幕なんかじゃない。両手に鉄の輪(チャクラム)を。
「コイツは……」
辺りを見渡す。
「コイツは……」
そして、諏訪子を見て、一言。
「あ、諏訪子。久しいね」
「神奈子の旦那だッ!!」
……
「はいぃ!!?」
* * * * * * * * * * * * * * *
魔理沙は一体何が起こったのか不思議に思いながらも、永遠亭へ急いでいた。兎角、思考が追いつかない……ただ何か拙そうな臭いがする。
「見えた!」
常人じゃ見つけられないであろう、竹林の奥。和風の御屋敷。永遠亭。魔理沙は玄関からではなく中庭へ急行した。
「永琳ッ! いるか!?」
ザワザワと妖怪兎達が見上げてくる。
「どうしたの? 騒がしいわね」
「輝夜! 永琳は?」
「永琳なら……さっき部屋に入っていったわ」
「急いでくれ! 神社がヤバそうなんだ……」
輝夜は、フムと首を傾げた。
「それはこの圧力と関係あるの?」
「は?」
「……わからないならいいわ。イナバ、因幡! どっちかいないの?」
「何言ってんだ?」
ドタドタと廊下を走る音が聞こえた。
へにょりだ。
「姫様、それじゃどのイナバかわかりませんよ……あら魔理沙。どうしたの?」
「あ、そうだ! 永琳は?」
「此処にいるわ……」
「師匠?!」
「永琳?!」
何時の間にやら、永琳がいた。いつもとは違う……重々しい服装で。鈴仙と輝夜は目を丸くした。
「その、装備……」
「師匠!? 何が?」
「聞かないで……もしもに備えてよ。魔理沙、これを持って」
「お、おう」
医療キットを渡される。
永琳は銀の胸当て、籠手、背中に数十本の矢、そして腰にいつもと違う大弓を装備していた。
輝夜と鈴仙を見て、静かに告げた。
「二人とも、絶ッッッ対に、亭内から出てはなりません」
「え?」
「……」
更に、てゐ、と呟いた。
「あいさ」
「警戒度をマックスに。『杵』を使ってもいいわ」
「……そんな大そうなことにはならんと思うけどねぇ」
「事後策に回るつもりは無いの。二人をお願い」
「任された」
そして、魔理沙と永琳は博麗神社へと向かった。
* * * * * * * * * * * * * * *
諏訪子は焦っていた。まさか、コイツが来るとは……輪を握る掌には汗。一瞬たりとも気を抜けない。せめて増援が来るまでは!
「おーい、諏訪子ちゃーん。聞こえてる?」
「ッ!! でやぁッ!!」
チャクラムを投げる。うわッと『霊夢』は避けた。
「お、い。話、を!!」
「クソっ!!」
「この子の身体に傷が付くぞ!!」
「ッ!!? なんて卑怯な……」
「あのねぇ……俺だって好きで此処着たんじゃないって。てか此処何処?」
「ふざけるなぁッ!!」
諏訪子が接近した。狙うは顎。一気に意識を刈り取る。
ところが―――
「だから、待てと言うに。チビ蛙」
「うわぁ!!」
「す、諏訪子様!!」
足を掴まれる。そのまま宙吊りにされた。早苗は驚いた。いくら幼児体型とはいえ諏訪子は神。その蹴りを人の身で受けきるなんて。
自分はどうすべきだ……
「放せ!!」
「ダメ。放したら攻撃するだろ、お前。しかも……相変わらずガキっぽいパンツ穿いてるなぁ」
「ッ!! や、やめろぉ! 見るなぁ!!」
「あいよ」
『霊夢』は刹那、諏訪子の足を離し、両手を羽交い絞めにした。そして、早苗の方を向いた。
「嬢ちゃん」
「え、あ、はい!」
「質問、していい?」
「え?」
「いやさ、諏訪子(コイツ)頭に血上っちゃっててまともな思考できないからさ」
「あ、どうぞ」
何故だろう。このヒトは……無論霊夢ではなく、神霊は何処か懐かしい。
「まず、此処どこ?」
「え、博麗神社です……幻想郷の」
「博麗……幻想郷……ああ、なるほど」
ふむ、と何か納得したようだった。
諏訪子をドサッと降ろし人差し指を向け、拘束(バインド)、と呟く。すると諏訪子の身体に何やら蔦が絡まった。
「次の質問いい?」
「……はい」
「一体、何やってたの? 君ら」
「何って……」
諏訪子を見る。
「言うな! ウグッ」
「諏訪子様!」
「話進まないから、黙ってて。で、何してたの?」
どうするべきか。話すべきではないのだろうが……このままでは諏訪子が……
「わかりました。話します」
「ん」
「早苗!」
「その代わり、諏訪子様から足を離してください……」
「ああ、はいよ」
『霊夢』の足が諏訪子の顔から離れる。で、と早苗を向いた。
「私達は、神降ろしの練習をしていました」
「……ほう」
「それで本来諏訪子様を降霊するはずが、彼女のミス……だと思うのですが、それで『貴方』を降ろしてしまったのです」
「なるっほど……わかった。つまり、俺どうすればいいの?」
「……わかりません」
やれやれ、と頭を掻く『霊夢』。何を思ったのか神社の外へ向かい出した。
「……ここが幻想郷ねぇ」
「あ、あの」
「ん?」
「先程、神奈子様の旦那様って……」
「ああ、それね。うーんと……ッ!!」
瞬間、『霊夢』は空を見上げた。
―――ピチュリー―ンッ!!
早苗にも感じられる巨大な圧力。
「誰だ……」
「おーい! 早苗! 連れて来たぞ!」
「魔理沙さん!」
「ん? 霊夢、一体何があ」
―――ストン。
「「え……」」
二人は、目の前の光景が信じられなかった。
『霊夢』の胸に、矢が刺さってる。
魔理沙は横に目を動かした……矢を構える……永琳。
「おい……何してんだァ! テメェ!!」
「落ち着いて、魔理沙……すぐわかるわ」
「お前何言って……え?」
漸次、霊夢の身体が発光した。そして―――
「うをっ!?」
「……」
二つの影が飛び出した。
一つは霊夢。もう一つは……
「痛ぇ……何すんだ!?」
スーツにネクタイ、ガタイのいい男。
「魔理沙、早苗。気絶している連中を神社内に並べておきなさい」
「え」
「早く!!」
「おう……」
言われて渋々、霊夢を担ぎ二人は社へ向かった。永琳はそれを確認し、改めて男に向き直った。
「さて……どうして幻想郷(ここ)へ来たの?」
「どうしてって、てかお前誰だ?」
「……名乗るほどの者では無いわ。ただ『神様』関係はちょっと御遠慮願いたいのよ」
「ふーん……おめぇ、強いな?」
「……」
男はニヤニヤ微笑みだす。スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めた。
「征服しに来たって言ったら?」
「本気なら……」
弓を握る。
「射るッ」
「ふふふ……面白いじゃないの。じゃあ、俺は今日此処を征服しに来た、ってことで」
「……」
矢を取る。二つをクロスさせた。
「おいおい、名乗れよ。試合前だぜ?」
「……永琳」
「エイリン? 何処かで訊いた名だ」
「御託は結構。すぐに片を、」
「待てよ、姉ちゃん。名乗らせろって」
男は上半身裸になって、腕と首を回しながら言った。
「大和軍神・建御名方。推して参る」
* * * * * * * * * * * * * * *
「紫さん! 大丈夫ですか?!」
「うぅ……一応、わ。アイツは?」
「今、永琳さんが相手を……諏訪子様!!」
「クソっ! 解けない!」
諏訪子は両手両足を縛っている蔦を引き千切ろうとジタバタしたが無意味だった。神の蔦。たとえ神であろうと易々と切れはしない。
紫は目を覚ましたが、藍と霊夢はまだ気絶したままだった。
「なあ……一体何が起こったんだ? 私の所為なのか?」
魔理沙が心配そうに尋ねる。
「過ぎたことはもういいわ……兎角、まともに動けるのは貴女と早苗だけ。
二人を見ていて頂戴。私が行く!」
「おい、スキマ! お前一人では敵わん! 増援が来るまで、」
「遅い! そんなの宛てにならないわ! 閻魔か神奈子が気付くまで勝負よ!」
「おい!」
諏訪子の制止も聞かず、紫は境内に向かった。畜生とウネウネする諏訪子。そして二人に向かって言い放った。
「早苗! 魔理沙!」
「は、はい!」
「急ぎ神奈子を呼んできなさい」
「お、おう」
二人は飛び立った。今自分らにできることはそれしかない。本能がわかっていた。
これは弾幕ごっこ『じゃない』と……
「さて……う、飛ぶのもシンドイ」
「だから言ったじゃない。無理すんなって」
紫はゆっくり立ち上がった。そしてある場所へ向かった……裏の池だ。
「玄さん……」
池からニュルリと顔が伸びて来た。亀の。
「おお、八雲の。久しいな」
「挨拶は良いから……この圧力、わかるでしょ?」
「ああ。拙いのが入って来たか……」
ノソリノソリと池から這い出す亀。
「お願い。足になって」
「やれやれ……貸し一じゃぞ」
「ありがとう」
一匹の老亀―――玄爺が空を飛んだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
永琳は数十の矢を放った。しかも、全てをコントロールしながら。奴の先手先手を封じるが……限が無い。
策が無くも無いが場所が悪い。博麗神社(ここ)で大技を出せば結界を損傷させかねない。
「ほう。思考性を持った矢か? いや、姉ちゃんが操ってんのか?」
「……」
「けっ。ノリ悪いなぁ」
建御名方は先程から一切攻撃を仕掛けてこない。何か罠を張るわけでもなく、ただ避けているだけだ。
おかしいと思い永琳は攻撃を止める。
「お? どうした」
「……何故、攻撃しないの?」
「いや、特に意味は無いさ……していいの?」
「……ふざけないで」
軽く頭にきた。永琳は弓を背負い、今度は接近した。
「うを! 白兵戦もできんのかい!?」
「嘗めないでッ!」
縮地、そして蹴上を入れる。建御名方はうわ、と胸の前で両手をクロスさせた。神は後ろへ蹴り飛ばされる。永琳は手を休めない。
両手に矢を掴み、それを刺しにかかった。狙いは芯の臓。
「このッ……!?」
建御名方はこれは拙いとバック転で避ける。が、永琳は素早く弓を構え放ってきた。
「チィ……てぇ、ヤられるかよ!! 来いッ!! 御柱共!!」
「何……!?」
空から柱が降ってきました。
「……伊達に、諏訪大社の御神をやってないようね」
「ああ、それにしても……やっぱ姉ちゃんどっかで見たことあるなぁ……」
「他人の空似でしょ」
「……うーん」
まあいいか、と建御名方は御柱の一つをぺシぺシ叩いた。そして、さてと永琳を睨んだ。
「んじゃ、そろそろ……俺ん番ね」
「ッ!?」
「カモーン! オン・バ・シーラ!!」
コイツ何言ってんだ……永琳は呆れた目で上半身裸のガッチリ男を見る。
だが、侮ってもいられなかった。
建御名方が浮かんだと思うと、どこぞから八本の御柱が飛んで来て彼の背中にひっついた。
「……どっから持ってきたの、そのキャノン砲は?」
「違え! お前もガ○キャノン扱いする口か!? コイツはな……」
「は?」
何を言ってるのかよくわかんないが、奴は少々キレてる様だ。
「ファン○ル・ミサイルだよ! 行けッ!!」
「クッ……」
無論、永琳が○クスィガン○ムを知ってるわけも無い。が、八本の御柱は永琳に向かって突撃してきた。
すかさず矢を放つものの、圧倒的な物質量に敵うわけがない。矢は弾かれて落ちていく。
「ハハハ! 逃げろ逃げろ!!」
今度は永琳が逃げに回る番だった。今はただ飛び回るしかない……その時だった。
「御止め下さい!」
「ん?」
「……紫?!」
突如、戦場に女性が現れた。
「……誰? アンタ」
「私は幻想郷(ここ)の管理人、八雲紫です。貴女を此処に降ろしてしまったのは私の責任です。
どうか鉾をお納め下さい。謝罪は致します!」
「んー……アンタ、妖怪?」
「え?」
男は腕を組んでそう聞いた。
「はい。スキマ妖怪です」
「ふーん……あの有名な。下の亀は守護獣か。そういえばそっちの姉ちゃんは? 妖怪?」
「……違うわ」
「何?」
「……」
永琳は答えない。答えられるわけがない。
答えてしまえば、自分達が幻想郷(ここ)にいる意味が無くなってしまう。
『神々』だけには、教えられない。
「曰くつき、ね……いいや。ユカリっつったっけ?」
「はい」
「ちょっと待ってて」
「え?」
「この姉ちゃんと決着付けてからじゃないと止めらんないから」
再び、永琳の方を向く。
「俺が勝ったら……『真名』教えてね」
「……いいでしょう。八雲、下がってて」
「やれやれ、バトルマニアのようですのぉ」
玄爺の皮肉が痛かった。
「ごめん……なるべく早く神奈子を連れてくるから」
「お願い……」
さて、と二人は睨み合う。男は楽しそうに笑い、女は真剣な眼で弓を構えた。
「第二ラウンドと行きますか」
「嘗めるないで……糞餓鬼……」
矢を、柱を放った。
* * * * * * * * * * * * * * *
あの後、魔理沙と早苗は守矢神社へ向けて飛んでいた。途中、文や椛に何事か尋ねられたが無視って急行した。そして……
「ん、あれ神奈子じゃないか?」
「はい! 神奈子様!!」
前方から向かってきた神奈子に声をかける。
どうやら、正装及びフル装備らしい。
「状況は?」
「はい。神奈子様の『旦那』を名乗る神様が降霊された模様」
「……最悪だ」
神奈子は頭を抱える。魔理沙はふと、疑問に思った事を聞いてみる。
「なあ。神奈子の旦那って誰なんだ?」
「私も見たことありません」
「……飛びながら話す。乗って!」
そういって、神奈子は一本の御柱を掴んだ。これに乗れというのか……
「行くぞ! 舌噛むなよ!」
「はい!」
「大丈夫か?! これ?」
神奈子は思いっきり柱を投げた。
「「きゃあああああああああぁッ!!」」
「そおい!」
それに飛び乗る神。しがみ付く人間。
「結界貼りな。魔理沙は防風魔法」
「おう……」
なんとかなったらしい。魔理沙は再び神奈子に聞いた。
「で、旦那って」
「……私が何の神だか知ってるか?」
「たしか『タケミナカタ神』じゃないの?」
魔理沙の答えに、フムと返事をする神奈子。
「半分正解だ」
「「え?」」
「正確には八坂刀売神(ヤサカトメノカミ)。建御名方神の妻だ」
「で、でも!」
今度は早苗の質問。
「私のスペルの『サモン・タケミナカタ』は神奈子様の御加護ですよね」
「ああ……まあ、旦那の口座を使ってネットショッピングする奥様っているだろ。あんなもんだ」
「……はぁ」
「でもよ、霊夢は最終詠唱でミスって『乾坤』って言ったんだろ? そしたらお前が来るはずじゃないのか?」
「ああそのことか……」
魔理沙が早苗から聞いた話によると、多分『乾坤』と言ってしまったことにより先の『乾』が優先されてしまったのだろう。
ただその理屈だと『乾を創造する程度の能力』の神奈子が降ろされるはずである。
何故、旦那が来たのか……
「昔の人間は古いからね、夫婦の能力や役職なんかをゴッチャにしてたのさ。
勿論、私の能力は『乾を創造する程度』だが……そこは先の早苗のスペルと同じ。あっちも私の口座でキャッシュ使ってたの」
「……例えで一気に下らなくなりましたね」
「神様なんてそんなもんだよ」
「外の例えで言われてもわからねぇ……」
魔理沙は首を傾げた。
「わかる必要はないよ。とりあえず……二人は現場に着いたら、安全な場所に身を隠して」
「神奈子様は?」
「……説得するさ」
それから数分して、巨大な柱と弾幕の閃光が見えてきた。
* * * * * * * * * * * * * * *
永琳は困っていた。
通常弾幕や矢を放つ事、御柱を避けることは簡単だが今一つ決定打に欠ける。符を使えば、或いは奴を黙らせることができるかもしれないが何分正体がばれるやもしれない。
接近しようにも、そこは男と女。美鈴や藍ほどの体術があればまだしも、自分はそこまで肉体派ではない。
「どうした? こないのか?」
「……」
この神(おとこ)、口は飄々としているが戦いなれている。流石軍神といったところか。
「じゃあ……こんなのはどうだ?」
神は柱を円柱の様に纏め、此方に向けて来た。
「御柱大砲(コ○ニーレーザー)ってね!」
「ッ!! 拙い!」
破ッ、という掛け声と共にマスタースパークほどのレーザーが飛んできた。無論、非殺傷なんかでは無い。
回避は不可能―――
「さて、お終いっと……ん?」
神はレーザーの先を見た。
女は、耐えていた。凄まじい妖力。いや魔力か……
「ハハハ! 大した女だ! レーザー(これ)を気合で防いだのはアテナと月読姫以来だぞ!」
「……嘗め、るなァ!!」
レーザーが弾け飛んだ。
永琳は息を荒げる。神は豪快に笑った。
「ますます名前が知りたくなった!」
「……絶対教えない」
永琳は三本の矢を指に挟み、弓で放った。
「そんなモノ……?!」
軌道がおかしい。全て在らぬ方向へ飛んでいった。
「なんだ?」
「キツネ狩り……いや、風神狩りといきましょう」
「ん?」
更に一本、矢を構える。
「……スタート!」
「ッ!?」
その一本は自分に直進してくる。
それが合図だったのか、先に飛ばした三本も神に向かって飛んできた。
「何……オンバシラッ!!」
八本の柱で矢を叩き落としにゆく。しかし、先程とは違いこの四本は全く落ちる気配が無い。
「本来、私が完璧にコントロールできるのは四本まで」
「何を……?」
「避けて御覧なさい。末席の神さま」
「嘗めるなッ」
柱を掻い潜って矢は飛んでくる。神は避けた、が一本避ければまた一本、そしてまた一本。限が無い。
「なら!」
飛んだ。風神の如く。いや風神なのだ。風を纏い目に見えぬ速さで空を駆ける。
されど永琳は逃がさない。矢は何処までも何時までも追従する。神はこれでは拙い、と振り返り―――
「でやァッ!!」
神風を起こした。流石に、それには矢も耐えきれず地面にボトリと落ちていった。
「ふぅ……!?」
「終わりよ」
一瞬だった。
神が目を離した隙に、永琳は矢を振り上げていた。男は堪らず急所をガードする。
「クッ……」
「腕で庇ったのね……でも、意味は無い」
「何!? 毒、か……」
「正解。なに、殺しはしないわ。少し眠ってて」
「……ふ」
神はフラフラと境内に降りていった。永琳も共に降りていき、縄をかけようと―――
「ふふふ、はははっはははっはははッ!! 残念!」
「ッ!!?」
神は大笑い。
ありえない、致死性の無い毒とはいえ諏訪子を速攻で眠らせることができる睡眠毒だぞ……永琳は己の目を疑った。
「いや、アンタは天才だよ。他の神なら例えイザナギ爺さんでも眠ってたさ」
「……」
「俺は、別だ」
そう言って神は……両腕をパージした。
「……義手」
「そう! しかし……もう使い物にならんな。どうしてくれんだ、アマ」
「義手ならいくらでも作ってやるわ」
「ほう……オマエ本当に何者だ?」
「……さあ」
冷静を保ってはいたものの、永琳は困り果てた。
毒はもう無い。残るは符しかないが……使ったら『我々』が幻想郷に隠れていることがばれる。
「待ってろ……ほらよっと」
神は御柱を二本、腕に押し当てた。ガチンッ、とジョイント音。
「ビック・タケミナカタ、ショータイム。ってね!」
柱の中から巨大な手が出て来た。行くぞ、と両手を永琳に向ける。
「ロケット・パーンチ!」
「ッ! 冗談でしょ!?」
高速の鉄拳が飛んでくる。美鈴の乾坤圈なんかよりもずっと速い。
「ガードが間に合わn」
―――ドンッ……
* * * * * * * * * * * * * * *
三人は境内に降り立った。
永琳が……倒れていた。
「え、永琳!!」
魔理沙が駆け出そうとしたが、神奈子が止めた。
神(おとこ)は永琳の髪を掴んで持ち上げた。
「おい。俺の勝ちだ」
「……ふふ」
「なにが可笑しい」
永琳は血を流しながら、笑っていた。
「私の、勝ち、よ……」
「は? 何言ってんだ?」
永琳は神(おとこ)の後ろの三人……いや、神(おんな)を指差した。神(おとこ)は振り返る。
「あん?」
「……」
「……」
「ね? わた、しの、勝ち……」
永琳の息が途絶えた。神(おとこ)はブルブル震えだした。
「か、カナ! えっと、これは、その……」
「タケル……まず、その女いい加減離しな」
「ハイっ!!」
神(おとこ)は永琳を地面に寝かせ、御柱の腕をパージさせた。
神(おんな)は一歩一歩、神(おとこ)に近づいた。
「なんでこんなことになってる」
「えっとね……色々事情が……あ! そうそう、諏訪子がまず仕掛けてきて!」
「そんなのいつものことでしょ……私が聞いてるのは何故彼女と交戦してたかってこと」
「え、ええっと……」
死人に口無し。ここは出鱈目言ってもばれはしない。
「コイツが矢を放ってきたの! 問答無用に! 俺は紳士的に止めたんだけどさぁ」
「ふーん……どうなんだい、八意?」
何を言って……
「ああ、久しぶりに死んだわ……何時以来かしら」
「……え?」
確かに、死んだはずじゃ……
「おい! エーリン! 早苗がリザレクション見て気絶したぞ!」
「あら、その子もまだまだ常識的ね……魔理沙、神社に寝かせてきなさい」
「ったく……おっさん。後で境内直さないとオッカナイのにやられるぜ」
え……
「で、八意」
「あ、そうね……彼が幻想郷を征服するっていうから、相手したの」
「へー……タケル。こう言ってるが?」
「ん、んなバナナ! 俺とその化け物どっち信じるってんだ! カナ!」
「……」
神(つま)相手に必死になる神(おっと)。
「八意」
「オイィ! 俺お前の旦那さまよ!」
「アンタが付いた嘘の数を数えるの止めたの……五〇〇年前よ」
「……スイマセンデシタ」
「ゼッタイニユルシマセン」
境内に一柱の叫び声が響いた……
* * * * * * * * * * * * * * *
「皆さん。旦那が御迷惑おかけしました」
「ずびばぜんでじだ」
神奈子―――八坂刀売は頭を下げた。旦那―――建御名方(以降、建)も頭を下げる。一同は苦笑、もしくは溜息しか出なかった。
「ま、まあ此方の不手際から始まったことですし、神奈子もそれくらいに」
「八雲の、すまないね……特に九尾殿、大丈夫だったか?」
「ええ、まあ。幸い軽傷ですし」
一応境内が滅茶苦茶になった以外大した被害は出なかった。霊夢と早苗も目を覚まし、この場に立ち会っている。
「八意、お前には一番迷惑かけたな」
「いいのよ別に。旦那さんも喧嘩は程々にね」
「はい……」
終始腰が低い神様(おっと)だった。
「てか、早く蔦解けよ!」
「諏訪子……解いたらコイツの事攻撃するでしょ」
「当り前だ! 早く殺らせろ!」
「はぁ……」
無理も無い。建(タケル)は諏訪子にとって天敵だ。
「で、どうしてくれんの? うちの神社」
「ふぎゅ」
霊夢が土下座(腕無し)している建の頭を踏みつける。神を足蹴にする巫女、これ如何に。
「直しゃいいんだろ、直しゃ……キャッシュでいい?」
「あのねぇ、お金で解決できるはず」
「ホイ」
ゴトリ。陰陽玉ほどの何か。
「何よ、これ?」
「金塊」
「は? 真黒じゃない」
「削れば出てくるよ……現金にして五千万くらい」
「みんな! もう許してあげて! 彼こんなに謝ってるじゃない!!」
……まさに、霊夢。
「ま、まあとりあえず……これからどうしますの?」
「そうだなぁ……丁度月から帰って来て仕事無かったから暇なんだよね。来年の頭まで」
「はぁ」
「幻想郷観光していい? どうせ腕直るまで帰れないし」
「私は構いませんが……」
紫は一人ブちぎれている諏訪子を見る。
「ああ、アイツは気にせんでいいよ。いつもああだし」
「そうですか……神奈子と永琳が良ければ私は何も」
二人を見る。永琳は微笑んで頷いた。神奈子は……
「まあ、別にいいんじゃない。ただ守矢神社(ウチ)には置けないよ。諏訪子いるし」
「いいよ。ブラブラしてる。ただ宿が欲しいな……」
「流石に人里は拙いなぁ」
外来の神様を里に置けない。加え、毘沙門天関係の御寺ができてしまった。まさか建をそんな場所に泊めるわけにもいかない。
「いいとこがあるぜ」
魔理沙が手を挙げた。
「却下」
「何でだよ」
紫が即行却下する。
「霖之助さんとこ、とか言うんでしょ?」
「おう」
「絶対ダメ」
「何でだよ!」
魔理沙には言えないが……軍神に、草薙乃剣がある家を紹介するわけにはいかない。ばれたら、色々拙いことになる。彼も、幻想郷も……
「あ、じゃあ、あっちならいいわよ」
「あっちって何だ?」
「天ちゃん」
* * * * * * * * * * * * * * *
―――『山』、滝付近。3LDKペットOK洞穴(マンション)。
「で、なんで俺の家に神様が?」
天魔・天満は困っていた。まさか自分の家が軍神の塒になろうとは……
「天ちゃん、ごめーん! そのうち、お詫びするから!」
「紫さんよぉ……オレ何処で寝ればいいんだ」
「文ん家」
「ざけんなッ!!」
ギャーギャー騒ぐ二人を見ながら建は神奈子に話しかけた。
「その、なんだ……相変わらずで良かったよ」
「ん、ああ……そうだね。そっちは?」
「まあ月への出張が面倒だっただけだ……肩書き上『中佐』だからな」
「そう」
一方、天満は渋々納得して「どーぞ……」と洞穴から出ていった。紫もやれやれ、と肩を降ろし神奈子をチラリと見た。
「まあ……ゴユックリ」
スキマへ消える。あの女郎、ニヤニヤしやがって……
「とりあえず、飯食べる?」
「ん、おう」
神奈子は勝手知ったる他人の家、天満の冷蔵庫を適当に荒らした。
「何も無えぞ……アイツどうやって生活してんだ……」
その時、コンコンと洞窟の入り口を叩く音がした。
「神奈子様ぁー」
「お、早苗。どうしたの?」
「夕飯持ってきました」
なんとも、気の利く子だ。居間に上がりタッパーを開けお皿に盛っていく早苗。建はほう、と声を挙げた。
「早苗ちゃんっていったか?」
「あ、はい……初めまして? でいいでしょうか?」
「ああ、たぶん……だろ? カナ?」
建は神奈子に聞く。神奈子は、はあ?とジト目で睨んだ。
「タケル……アンタその子抱いた事あるよ」
「なんと! 知らんぞ! 俺はお前一筋だと何度言えば!」
「違う阿呆……赤子の時だよ」
「ん……ああ! あの時の末裔か!」
建は驚嘆し、早苗の顔をジロジロ眺めた。
「ん、確かに似てる……似てるか?」
「まあ、あの子(諏訪子)には似てないね。どっかで血が混ざったんでしょ」
「そうか。まあ、早苗ちゃん。神奈子のこと宜しくね」
「い、いえ! 滅相も無い! 私がお世話されてる立場ですし!!」
早苗はアタフタした。
「そ、それでは建御名方様。神奈子様……ゴユックリ」
一礼し、洞窟から出ていく早苗。勿論……ニヤニヤと。
「「……」」
気まずい。
どのくらい気まずいかというと、単身赴任の旦那が帰って来てさっきまでパーティーやってたのに、参加者が旦那と奥さんに気を使いニヤニヤ出ていって、二人ポツンと残された夫婦くらい気まずい……
「とりあえず、飯食うか」
「え、ええ」
二人は箸に手をつけた。
* * * * * * * * * * * * * * *
「はい。諏訪子様、あーん」
「ううぅ。あーん」
守矢神社。一人と一柱は夕餉を取っていた。
「早く蔦解けよ、莫迦軍神が」
「まあまあ。諏訪子様が攻撃しなきゃ建御名方様も解いてくれますよ」
「ヤダ! 私はアイツの事許さないもん!」
神様が両手拘束され巫女(風祝)に、ご飯を食べさせてもらっている。
しかも悔しそうに目を真っ赤にして、語尾にもんとか付けて。
早苗は終始ニヤニヤしていた。
「それでは仕方ありませんね。私が何から何まで『お世話』しましょう!」
「うっ……早苗、黒いよ」
「ふふ、冗談です」
冗談に聞こえないから、困る……諏訪子は溜息をついた。
「しかし……何故そんなに彼を嫌うのですか?」
「決まってるだろ……」
「あ……スイマセン」
そうだ……
歴史書などでしか知らないが……諏訪子は彼に侵略された身。
きっと大切なモノや、人々を彼の手によって……奪われてきたのかもしれない。それは、許せないはずだ。
「アイツがいると……」
「はい……」
諏訪子は目に涙を溜めて、ボソッと言った。
「神奈子が、女っぽくなる……」
「はい。て、は?」
こいつ、何言ってんだ……
「え、積年の恨みとかそういんじゃないんですか?」
「は? なんで?」
「いや、その……諏訪を侵略されたとか、大切な人達を、とか」
「なんでさ。そんなもの今更だよ。きちんと穴埋め貰ってるし、和解だってしてる。
戦争一つで悲しみな明けくれてたら神様なんて勤まんないよ」
言葉が無かった。
「で……神奈子様が女っぽくって」
「まんまだよ。見て来たんだろ、あいつらを」
「え、まあ」
「どうだった」
「え?」
涙目で訴えてくる諏訪子(かみさまようじょ)。なんと言っていいものか……
「その……」
「ヤリソウダッタカ?」
「ッ!? 私の口から言わせないでください!!」
「そうか……はぁ」
そのままゴロゴロと転がって寝室に入っていく。早苗は一人、どうしようと呟いた。
「そういえば……建様、永琳先生が神だとかなんとかって」
「気にしちゃダメよ」
「にょわ! ゆ、紫さん!!」
壁に耳あり、障子にマエリバリー、スキマにゆかりん。
「はーい、早苗ちゃん」
「紫さん。驚かさないでください!」
「ああ、いいわそのリアクション。最近藍も霊夢も驚いてくれないのよねぇ」
「はあ……で、何用で」
「そうそう」
紫は小包を早苗に渡した。
「今月の仕送り。御家族からの手紙も入ってるわ」
「あ。そっか、ありがとうございます」
早苗は月に一度外からの仕送りを受け取っている。そろそろ仕送り無しでもやっていけそうだが……まあ、貰えるものは貰っておこうという魂胆だ。
「そうそう、あとこれ」
はいと二つのモノを渡される。MDとプレイヤーだ。
「あ、充電ありがとうございます」
「いいのよ……幻想郷に勝手に電気を流されるよりはマシだから」
「あはは……」
私じゃなくて、二柱に言ってくれ。
「MD(こっち)は?」
「ああ、それね」
紫はスキマからCDを引っ張り出す。
「これ」
「あ! H・Y・メリーの新作だ!」
宛ら女子高生のテンションでCDを受け取った。
H・Y・メリー。
外の世界で『歌姫』と称されるほどの世界的歌手。八カ国語の曲を作り、全世界で人気のある謎の女性だ。
ライブ等の類いは決してやらない。CDのジャケットも顔を隠したまま。それでも歌一つで業界トップへ昇りつめた人物らしい。
早苗は昔から彼女の大ファンだった。
「あ……今お金無いです……」
「いらないわ」
「え?」
紫は微笑んだ。普段見る胡散臭い含みのある笑みではなく、純粋な笑顔で。
「きっと、彼女(メリー)もアナタみたいなファンに聞いて貰いたいでしょ」
「でも……」
「いいの。じゃあ、そうね……ファンレターでも書いてあげなさい」
「ファンレターですか? 書いても見てもらえないんじゃ」
「大丈夫。貴女のならきっと見てくれるわ」
ポンと早苗の頭に手を乗せ、じゃあねとスキマに消えていく紫。
「明後日は貴方の神降ろしだから……きちんと休んで」
「はい! CDありがとうございました!」
「ふふ。一応、言っておくけど貴女も初めは諏訪子を『降ろす』から。
さて、今から魔理沙に『お仕置き』しないとねぇー……」
早苗は早速イヤホンを耳に付けた。新曲は『ブルーローズ』。バラードだ。
なんとも、自分と同じ『奇跡』の花か。不可能から可能へ……
明後日はきっと奇跡が起こってくれる、そんな気がした。
「―――~~♪ 諏訪子さまー♪ 明後日はよろしくでーす♪」
「……あいよ」
(続く)
季節はもうレティが現れる頃となり、里辺りではすっかり冬支度をしている。
魔理沙も霖之助に今年の新しい冬着を作ってもらった。なんでも魔術的な繊維を組み込んでいるらしい。今から年中腋出しっ放しの友人に自慢しようとしていたところだった。
―――博麗神社。
「おーい。ヤクザ巫女ー」
境内に降り立った魔理沙は大声で腋巫女を呼んだ。
返事が無い。
「まだ寝てんのか?」
もう昼時だ。そんなはずは無いとは思うが。
普通の魔法使いは勝手知ったる他人の家、いや神社の勢いで障子を開けた。
中で何をしているかも確認せずに……
* * * * * * * * * * * * * * * *
「寒いねぇ」
「ええ……で、神奈子様は何時まで寝てるんですか」
「……布団から出たくないって」
一方、『山』山頂付近守矢神社。
幻想郷の中でも特に寒い此処で風祝―――東風谷早苗は修行の準備をしていた。今回の指導は二柱が一方―――八坂神奈子の予定。
スキマ妖怪が綿月の妹に刺激されたらしく、『とある』会議で博麗霊夢及び東風谷早苗に『降ろし』の修行させることが決定した。
無論、神奈子は乗り気では無かったが早苗は「是非に!」と目を輝かせていた。何でもシャーマン○ングみたいでカッコいいらしい。そこはZだろう……
「そういえばいつものケロちゃん帽子は?」
「スキマに貸してくれって」
「はあ?」
「はぁ……しょうがない。私が早苗のサポートするよ」
二柱が他方―――洩矢諏訪子はやれやれと頭を掻いた。
「いいんですか?」
「いいよ。でもなぁ……符使った方が私ら的には楽なんだけど」
「そうですね……あ、そろそろ時間です」
「仕方ないね……やるよ。あっちの神社行こうか」
「はい」
早苗と諏訪子は外へ出た。
この時、神奈子が起きていれば何も問題無く事は進んでいたのだが……
* * * * * * * * * * * * * * * *
博麗霊夢は修行嫌いだ。
正直、努力というものが苦手だった。その点、努力家の友人を凄いと思うし尊敬もする。きっと良い師……ではないと思うけど、それなりに効率の良いやり方をしてきたのだろう。
自分には到底無理だ。
「霊夢。時間よ」
空間に歪み、そしてスキマが開く。中から導着服を着たスキマ妖怪―――八雲紫と、九尾の妖狐―――八雲藍が出て来た。
「はぁ……気乗りしないなぁ」
「我儘言わない。やればできる子なんだから」
「子供扱いすんな」
「子供ですわ。それに負けっぱなしでいいの?」
「む」
それは、嫌だ。
「紫様それくらいに……今日は私もサポートするから、余程のイレギュラーが無い限り大丈夫だ」
「そう。藍が一緒なら安心ね」
「ちょ! ゆかりんショックだわ……」
「なにがゆかりんよ。とりあえず準備はしといたわ」
そう言って、霊夢は横の変な形をした帽子を被る。諏訪子の帽子だ。
「……どうやら来たようね」
「ん? あれ、早苗達も?」
境内に二つの影。諏訪子と早苗だ。
「合同でやるって言っといたじゃない」
「だっけ?」
「はぁ……」
紫は頭を抱えた。この調子では何時アイツラに勝てるかわからない……
「やっほ。寒いねぇ」
「おはようございます。皆さん」
迷彩カラーのダウンを着、黄色い目玉雪洞が付いたニットを被った諏訪子。そしてカシミアのコートを羽織った早苗が上がって来た。
紫と藍はあら?と首を傾げた。
「神奈子は?」
「……起きる気配が無い。いいよ放っといて」
「まったく、もう」
やれやれと首を振った。諏訪子も苦笑しか出ない。
「仕方ないでしょう。私達だけでやりましょう。紫様、そろそろ結界を」
「そうね。二人ともいいかしら? 説明するわよ」
今日のプランはこうだ。
神降ろしをする際に、まず藍が擬似封鎖結界を張る。これの範囲は神社の境内ほど。次に紫が大結界に数秒スキマを開ける。神霊を通すためだ。最後に霊夢が儀式を開始する。
成功、終わり。
「簡単でしょ?」
「知らないわよ。本は読んどいたけどさぁ」
「大丈夫、合図は送るよ」
「藍がいるなら、まぁ……」
「……私って信頼無いのね」
紫がorzのポーズ。
「あの、私達は?」
「え、ああ、そうね。今日は見学よ。次回貴女にやってもらうから要領を覚えて頂戴」
「あ、はい」
「諏訪子にはちょっと頑張ってもらうけど」
「あいよ」
ダウンを脱ぎながら諏訪子は頷いた。
「では、二人とも……いいかしら」
「うい」
「はいはい」
そう言って紫は人一人分のスキマを開いた。その中に……諏訪子が入っていく。
「なんで移動させるのよ」
「実際の神降ろしは外の世界から神霊を呼ぶのよ。いくら訓練だからといって手は抜けないわ」
「はいはい……じゃ、宜しくね。諏訪子」
「はいな。んじゃ、ほいっと」
ぴょこっとスキマの中へ入っていった。
「さて、藍お願い」
「はい。早苗、この札を持っていてくれ」
「わかりました」
藍から札を受け取り、早苗は部屋の隅に正座した。一方、藍は胡坐をかきブツブツ唱え出した。
「さて、最終確認。霊夢、今日の降霊対象は?」
赤い巫女は溜息をして―――
「はぁ……曲神(まがりかみ)、洩矢諏訪子さまさまでしょ」
「OKよ。でも曲神と侮らないこと。アレでも土着神の頂点だからね」
「さらっと酷いこと言ってますね……」
やれやれと霊夢は部屋の中央で半座を組んだ。そして……詠唱を始める。
「……凄い」
「ええ。これで素人ですもの……真面目に練習したらどうなる事やら。恐ろしい」
「はい……」
高速詠唱。
無論、彼女は大した修行はしていない。昨晩、書簡を一読しただけだ。
天才。
まさにそれなのだろう。
「あら、もう最終章ね……私も準備しないと……」
「あ、はい。お気をつけて」
「ふふ、気をつけて、ね。了解。終わったら温かい汁粉で一杯やりましょ」
「……」
早苗は今の一言が……フラグに思えて仕方なかった。
「――――――、―――。紫!」
霊夢が叫ぶ。
「はいよ!
八雲立つ、『博麗』八重垣、 妻ごみに、 八重垣外る、 その八重垣を……!」
瞬間。空気が変わった。
「うっ!」
「早苗! 札に霊力を込めろ! 持ってかれるぞ!」
「は、はい!」
藍の一声が無ければ、早苗は魂をスキマに持って行かれただろう。部屋の中央に大きな穴が開く。いつものスキマとは違う、『気孔』。
「いくわよ! 霊夢!」
「ッ!! こ」
* * * * * * * * * * * * * * *
「おーい。霊夢いないのか?」
「な! 魔理沙さん?!」
「え!?」
儀式中の部屋に、魔理沙が……
「ッ! 藍! 何をやってるの!?」
「わ、わかりません! レーダーには引っ掛からなかった!」
「早苗! 魔理沙を掴みなさい!」
「え、あ、はい!」
「お前ら何やってんだ?」
その時だった。
紫のスキマが揺れ、霊夢の詠唱が止まった。流石の鬼巫女にもイレギュラーがあるらしい。
「霊夢! 今止めないで! 続けなさい!!」
「ッう! ――――――あ」
……トんだ。
霊夢の頭の中で最後の部分が飛んだのだ。たった一言。一言だった。
乾?
坤?
どっちだ?!
「霊夢! 速く! 弾ける!!」
「クソっ……」
やけくそだ!
「乾坤!!」
瞬間、部屋が真っ白に染まった――――――
* * * * * * * * * * * * * * *
―――ピチュリー―ンッ!!
「ッ!! この圧力(プレッシャー)!? まさか?!」
神奈子寝た姿勢から背筋だけで、三メートル飛び起きた。
* * * * * * * * * * * * * * *
「痛つつ……なんだ?」
「どうなったの?」
早苗に掴まれた魔理沙はヨイショと腰を上げた。紫は藍に抱え込まれ、守られていた。
「……藍?」
「大丈夫、です、か?」
「藍!? しっかり!」
「だい、じょぶです。少し、休みます……それより、れい、むを……」
「喋らないで!」
藍はそのまま倒れた。紫は早苗に藍を頼み、霊夢の下へ向かった。
「霊夢! 大丈夫!?」
「……」
返事は無い。
「おいおい……何がどうなってるんだ……」
「魔理沙さん! 至急、永琳先生を呼んで来てください!」
「え?」
「早く!!」
「お、おう」
魔理沙は早苗の睨みに気落とされ、竹林へと急行した。一方、霊夢はまだ起きない。
数秒後……むくっと、立ち上がった。
「痛いなぁ、もう……あれ?」
諏訪子が。
「……どうなったの?」
「え? 諏訪子? 霊夢に降りたんじゃ……」
「いやさぁ、途中までは上手くいきそうだったんだけど……その子最後ミスってない?」
「……わかりませんわ」
しかし、早苗は聞いていた。霊夢は最後に『乾坤』と言ったのを。
「霊夢さん、最後……」
「早苗?」
「乾坤、って……」
途端、諏訪子の顔が真っ青になった。
「ヤバい!!」
「何が……!?」
「スキマ! 『ソレ』から離れr」
―――ドンッ……
「ぐッ!!」
紫は霊夢に蹴られた……いや、霊夢の身体を借りた『何か』に蹴られた。
「早苗!! 逃げろ!!」
「え?!」
「狐とスキマを連れて行きなさい! そして、神奈子を叩き起こして!!」
「諏訪子様!?」
『霊夢』がゆらりと立ち上がる。諏訪子は構えた。弾幕なんかじゃない。両手に鉄の輪(チャクラム)を。
「コイツは……」
辺りを見渡す。
「コイツは……」
そして、諏訪子を見て、一言。
「あ、諏訪子。久しいね」
「神奈子の旦那だッ!!」
……
「はいぃ!!?」
* * * * * * * * * * * * * * *
魔理沙は一体何が起こったのか不思議に思いながらも、永遠亭へ急いでいた。兎角、思考が追いつかない……ただ何か拙そうな臭いがする。
「見えた!」
常人じゃ見つけられないであろう、竹林の奥。和風の御屋敷。永遠亭。魔理沙は玄関からではなく中庭へ急行した。
「永琳ッ! いるか!?」
ザワザワと妖怪兎達が見上げてくる。
「どうしたの? 騒がしいわね」
「輝夜! 永琳は?」
「永琳なら……さっき部屋に入っていったわ」
「急いでくれ! 神社がヤバそうなんだ……」
輝夜は、フムと首を傾げた。
「それはこの圧力と関係あるの?」
「は?」
「……わからないならいいわ。イナバ、因幡! どっちかいないの?」
「何言ってんだ?」
ドタドタと廊下を走る音が聞こえた。
へにょりだ。
「姫様、それじゃどのイナバかわかりませんよ……あら魔理沙。どうしたの?」
「あ、そうだ! 永琳は?」
「此処にいるわ……」
「師匠?!」
「永琳?!」
何時の間にやら、永琳がいた。いつもとは違う……重々しい服装で。鈴仙と輝夜は目を丸くした。
「その、装備……」
「師匠!? 何が?」
「聞かないで……もしもに備えてよ。魔理沙、これを持って」
「お、おう」
医療キットを渡される。
永琳は銀の胸当て、籠手、背中に数十本の矢、そして腰にいつもと違う大弓を装備していた。
輝夜と鈴仙を見て、静かに告げた。
「二人とも、絶ッッッ対に、亭内から出てはなりません」
「え?」
「……」
更に、てゐ、と呟いた。
「あいさ」
「警戒度をマックスに。『杵』を使ってもいいわ」
「……そんな大そうなことにはならんと思うけどねぇ」
「事後策に回るつもりは無いの。二人をお願い」
「任された」
そして、魔理沙と永琳は博麗神社へと向かった。
* * * * * * * * * * * * * * *
諏訪子は焦っていた。まさか、コイツが来るとは……輪を握る掌には汗。一瞬たりとも気を抜けない。せめて増援が来るまでは!
「おーい、諏訪子ちゃーん。聞こえてる?」
「ッ!! でやぁッ!!」
チャクラムを投げる。うわッと『霊夢』は避けた。
「お、い。話、を!!」
「クソっ!!」
「この子の身体に傷が付くぞ!!」
「ッ!!? なんて卑怯な……」
「あのねぇ……俺だって好きで此処着たんじゃないって。てか此処何処?」
「ふざけるなぁッ!!」
諏訪子が接近した。狙うは顎。一気に意識を刈り取る。
ところが―――
「だから、待てと言うに。チビ蛙」
「うわぁ!!」
「す、諏訪子様!!」
足を掴まれる。そのまま宙吊りにされた。早苗は驚いた。いくら幼児体型とはいえ諏訪子は神。その蹴りを人の身で受けきるなんて。
自分はどうすべきだ……
「放せ!!」
「ダメ。放したら攻撃するだろ、お前。しかも……相変わらずガキっぽいパンツ穿いてるなぁ」
「ッ!! や、やめろぉ! 見るなぁ!!」
「あいよ」
『霊夢』は刹那、諏訪子の足を離し、両手を羽交い絞めにした。そして、早苗の方を向いた。
「嬢ちゃん」
「え、あ、はい!」
「質問、していい?」
「え?」
「いやさ、諏訪子(コイツ)頭に血上っちゃっててまともな思考できないからさ」
「あ、どうぞ」
何故だろう。このヒトは……無論霊夢ではなく、神霊は何処か懐かしい。
「まず、此処どこ?」
「え、博麗神社です……幻想郷の」
「博麗……幻想郷……ああ、なるほど」
ふむ、と何か納得したようだった。
諏訪子をドサッと降ろし人差し指を向け、拘束(バインド)、と呟く。すると諏訪子の身体に何やら蔦が絡まった。
「次の質問いい?」
「……はい」
「一体、何やってたの? 君ら」
「何って……」
諏訪子を見る。
「言うな! ウグッ」
「諏訪子様!」
「話進まないから、黙ってて。で、何してたの?」
どうするべきか。話すべきではないのだろうが……このままでは諏訪子が……
「わかりました。話します」
「ん」
「早苗!」
「その代わり、諏訪子様から足を離してください……」
「ああ、はいよ」
『霊夢』の足が諏訪子の顔から離れる。で、と早苗を向いた。
「私達は、神降ろしの練習をしていました」
「……ほう」
「それで本来諏訪子様を降霊するはずが、彼女のミス……だと思うのですが、それで『貴方』を降ろしてしまったのです」
「なるっほど……わかった。つまり、俺どうすればいいの?」
「……わかりません」
やれやれ、と頭を掻く『霊夢』。何を思ったのか神社の外へ向かい出した。
「……ここが幻想郷ねぇ」
「あ、あの」
「ん?」
「先程、神奈子様の旦那様って……」
「ああ、それね。うーんと……ッ!!」
瞬間、『霊夢』は空を見上げた。
―――ピチュリー―ンッ!!
早苗にも感じられる巨大な圧力。
「誰だ……」
「おーい! 早苗! 連れて来たぞ!」
「魔理沙さん!」
「ん? 霊夢、一体何があ」
―――ストン。
「「え……」」
二人は、目の前の光景が信じられなかった。
『霊夢』の胸に、矢が刺さってる。
魔理沙は横に目を動かした……矢を構える……永琳。
「おい……何してんだァ! テメェ!!」
「落ち着いて、魔理沙……すぐわかるわ」
「お前何言って……え?」
漸次、霊夢の身体が発光した。そして―――
「うをっ!?」
「……」
二つの影が飛び出した。
一つは霊夢。もう一つは……
「痛ぇ……何すんだ!?」
スーツにネクタイ、ガタイのいい男。
「魔理沙、早苗。気絶している連中を神社内に並べておきなさい」
「え」
「早く!!」
「おう……」
言われて渋々、霊夢を担ぎ二人は社へ向かった。永琳はそれを確認し、改めて男に向き直った。
「さて……どうして幻想郷(ここ)へ来たの?」
「どうしてって、てかお前誰だ?」
「……名乗るほどの者では無いわ。ただ『神様』関係はちょっと御遠慮願いたいのよ」
「ふーん……おめぇ、強いな?」
「……」
男はニヤニヤ微笑みだす。スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めた。
「征服しに来たって言ったら?」
「本気なら……」
弓を握る。
「射るッ」
「ふふふ……面白いじゃないの。じゃあ、俺は今日此処を征服しに来た、ってことで」
「……」
矢を取る。二つをクロスさせた。
「おいおい、名乗れよ。試合前だぜ?」
「……永琳」
「エイリン? 何処かで訊いた名だ」
「御託は結構。すぐに片を、」
「待てよ、姉ちゃん。名乗らせろって」
男は上半身裸になって、腕と首を回しながら言った。
「大和軍神・建御名方。推して参る」
* * * * * * * * * * * * * * *
「紫さん! 大丈夫ですか?!」
「うぅ……一応、わ。アイツは?」
「今、永琳さんが相手を……諏訪子様!!」
「クソっ! 解けない!」
諏訪子は両手両足を縛っている蔦を引き千切ろうとジタバタしたが無意味だった。神の蔦。たとえ神であろうと易々と切れはしない。
紫は目を覚ましたが、藍と霊夢はまだ気絶したままだった。
「なあ……一体何が起こったんだ? 私の所為なのか?」
魔理沙が心配そうに尋ねる。
「過ぎたことはもういいわ……兎角、まともに動けるのは貴女と早苗だけ。
二人を見ていて頂戴。私が行く!」
「おい、スキマ! お前一人では敵わん! 増援が来るまで、」
「遅い! そんなの宛てにならないわ! 閻魔か神奈子が気付くまで勝負よ!」
「おい!」
諏訪子の制止も聞かず、紫は境内に向かった。畜生とウネウネする諏訪子。そして二人に向かって言い放った。
「早苗! 魔理沙!」
「は、はい!」
「急ぎ神奈子を呼んできなさい」
「お、おう」
二人は飛び立った。今自分らにできることはそれしかない。本能がわかっていた。
これは弾幕ごっこ『じゃない』と……
「さて……う、飛ぶのもシンドイ」
「だから言ったじゃない。無理すんなって」
紫はゆっくり立ち上がった。そしてある場所へ向かった……裏の池だ。
「玄さん……」
池からニュルリと顔が伸びて来た。亀の。
「おお、八雲の。久しいな」
「挨拶は良いから……この圧力、わかるでしょ?」
「ああ。拙いのが入って来たか……」
ノソリノソリと池から這い出す亀。
「お願い。足になって」
「やれやれ……貸し一じゃぞ」
「ありがとう」
一匹の老亀―――玄爺が空を飛んだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
永琳は数十の矢を放った。しかも、全てをコントロールしながら。奴の先手先手を封じるが……限が無い。
策が無くも無いが場所が悪い。博麗神社(ここ)で大技を出せば結界を損傷させかねない。
「ほう。思考性を持った矢か? いや、姉ちゃんが操ってんのか?」
「……」
「けっ。ノリ悪いなぁ」
建御名方は先程から一切攻撃を仕掛けてこない。何か罠を張るわけでもなく、ただ避けているだけだ。
おかしいと思い永琳は攻撃を止める。
「お? どうした」
「……何故、攻撃しないの?」
「いや、特に意味は無いさ……していいの?」
「……ふざけないで」
軽く頭にきた。永琳は弓を背負い、今度は接近した。
「うを! 白兵戦もできんのかい!?」
「嘗めないでッ!」
縮地、そして蹴上を入れる。建御名方はうわ、と胸の前で両手をクロスさせた。神は後ろへ蹴り飛ばされる。永琳は手を休めない。
両手に矢を掴み、それを刺しにかかった。狙いは芯の臓。
「このッ……!?」
建御名方はこれは拙いとバック転で避ける。が、永琳は素早く弓を構え放ってきた。
「チィ……てぇ、ヤられるかよ!! 来いッ!! 御柱共!!」
「何……!?」
空から柱が降ってきました。
「……伊達に、諏訪大社の御神をやってないようね」
「ああ、それにしても……やっぱ姉ちゃんどっかで見たことあるなぁ……」
「他人の空似でしょ」
「……うーん」
まあいいか、と建御名方は御柱の一つをぺシぺシ叩いた。そして、さてと永琳を睨んだ。
「んじゃ、そろそろ……俺ん番ね」
「ッ!?」
「カモーン! オン・バ・シーラ!!」
コイツ何言ってんだ……永琳は呆れた目で上半身裸のガッチリ男を見る。
だが、侮ってもいられなかった。
建御名方が浮かんだと思うと、どこぞから八本の御柱が飛んで来て彼の背中にひっついた。
「……どっから持ってきたの、そのキャノン砲は?」
「違え! お前もガ○キャノン扱いする口か!? コイツはな……」
「は?」
何を言ってるのかよくわかんないが、奴は少々キレてる様だ。
「ファン○ル・ミサイルだよ! 行けッ!!」
「クッ……」
無論、永琳が○クスィガン○ムを知ってるわけも無い。が、八本の御柱は永琳に向かって突撃してきた。
すかさず矢を放つものの、圧倒的な物質量に敵うわけがない。矢は弾かれて落ちていく。
「ハハハ! 逃げろ逃げろ!!」
今度は永琳が逃げに回る番だった。今はただ飛び回るしかない……その時だった。
「御止め下さい!」
「ん?」
「……紫?!」
突如、戦場に女性が現れた。
「……誰? アンタ」
「私は幻想郷(ここ)の管理人、八雲紫です。貴女を此処に降ろしてしまったのは私の責任です。
どうか鉾をお納め下さい。謝罪は致します!」
「んー……アンタ、妖怪?」
「え?」
男は腕を組んでそう聞いた。
「はい。スキマ妖怪です」
「ふーん……あの有名な。下の亀は守護獣か。そういえばそっちの姉ちゃんは? 妖怪?」
「……違うわ」
「何?」
「……」
永琳は答えない。答えられるわけがない。
答えてしまえば、自分達が幻想郷(ここ)にいる意味が無くなってしまう。
『神々』だけには、教えられない。
「曰くつき、ね……いいや。ユカリっつったっけ?」
「はい」
「ちょっと待ってて」
「え?」
「この姉ちゃんと決着付けてからじゃないと止めらんないから」
再び、永琳の方を向く。
「俺が勝ったら……『真名』教えてね」
「……いいでしょう。八雲、下がってて」
「やれやれ、バトルマニアのようですのぉ」
玄爺の皮肉が痛かった。
「ごめん……なるべく早く神奈子を連れてくるから」
「お願い……」
さて、と二人は睨み合う。男は楽しそうに笑い、女は真剣な眼で弓を構えた。
「第二ラウンドと行きますか」
「嘗めるないで……糞餓鬼……」
矢を、柱を放った。
* * * * * * * * * * * * * * *
あの後、魔理沙と早苗は守矢神社へ向けて飛んでいた。途中、文や椛に何事か尋ねられたが無視って急行した。そして……
「ん、あれ神奈子じゃないか?」
「はい! 神奈子様!!」
前方から向かってきた神奈子に声をかける。
どうやら、正装及びフル装備らしい。
「状況は?」
「はい。神奈子様の『旦那』を名乗る神様が降霊された模様」
「……最悪だ」
神奈子は頭を抱える。魔理沙はふと、疑問に思った事を聞いてみる。
「なあ。神奈子の旦那って誰なんだ?」
「私も見たことありません」
「……飛びながら話す。乗って!」
そういって、神奈子は一本の御柱を掴んだ。これに乗れというのか……
「行くぞ! 舌噛むなよ!」
「はい!」
「大丈夫か?! これ?」
神奈子は思いっきり柱を投げた。
「「きゃあああああああああぁッ!!」」
「そおい!」
それに飛び乗る神。しがみ付く人間。
「結界貼りな。魔理沙は防風魔法」
「おう……」
なんとかなったらしい。魔理沙は再び神奈子に聞いた。
「で、旦那って」
「……私が何の神だか知ってるか?」
「たしか『タケミナカタ神』じゃないの?」
魔理沙の答えに、フムと返事をする神奈子。
「半分正解だ」
「「え?」」
「正確には八坂刀売神(ヤサカトメノカミ)。建御名方神の妻だ」
「で、でも!」
今度は早苗の質問。
「私のスペルの『サモン・タケミナカタ』は神奈子様の御加護ですよね」
「ああ……まあ、旦那の口座を使ってネットショッピングする奥様っているだろ。あんなもんだ」
「……はぁ」
「でもよ、霊夢は最終詠唱でミスって『乾坤』って言ったんだろ? そしたらお前が来るはずじゃないのか?」
「ああそのことか……」
魔理沙が早苗から聞いた話によると、多分『乾坤』と言ってしまったことにより先の『乾』が優先されてしまったのだろう。
ただその理屈だと『乾を創造する程度の能力』の神奈子が降ろされるはずである。
何故、旦那が来たのか……
「昔の人間は古いからね、夫婦の能力や役職なんかをゴッチャにしてたのさ。
勿論、私の能力は『乾を創造する程度』だが……そこは先の早苗のスペルと同じ。あっちも私の口座でキャッシュ使ってたの」
「……例えで一気に下らなくなりましたね」
「神様なんてそんなもんだよ」
「外の例えで言われてもわからねぇ……」
魔理沙は首を傾げた。
「わかる必要はないよ。とりあえず……二人は現場に着いたら、安全な場所に身を隠して」
「神奈子様は?」
「……説得するさ」
それから数分して、巨大な柱と弾幕の閃光が見えてきた。
* * * * * * * * * * * * * * *
永琳は困っていた。
通常弾幕や矢を放つ事、御柱を避けることは簡単だが今一つ決定打に欠ける。符を使えば、或いは奴を黙らせることができるかもしれないが何分正体がばれるやもしれない。
接近しようにも、そこは男と女。美鈴や藍ほどの体術があればまだしも、自分はそこまで肉体派ではない。
「どうした? こないのか?」
「……」
この神(おとこ)、口は飄々としているが戦いなれている。流石軍神といったところか。
「じゃあ……こんなのはどうだ?」
神は柱を円柱の様に纏め、此方に向けて来た。
「御柱大砲(コ○ニーレーザー)ってね!」
「ッ!! 拙い!」
破ッ、という掛け声と共にマスタースパークほどのレーザーが飛んできた。無論、非殺傷なんかでは無い。
回避は不可能―――
「さて、お終いっと……ん?」
神はレーザーの先を見た。
女は、耐えていた。凄まじい妖力。いや魔力か……
「ハハハ! 大した女だ! レーザー(これ)を気合で防いだのはアテナと月読姫以来だぞ!」
「……嘗め、るなァ!!」
レーザーが弾け飛んだ。
永琳は息を荒げる。神は豪快に笑った。
「ますます名前が知りたくなった!」
「……絶対教えない」
永琳は三本の矢を指に挟み、弓で放った。
「そんなモノ……?!」
軌道がおかしい。全て在らぬ方向へ飛んでいった。
「なんだ?」
「キツネ狩り……いや、風神狩りといきましょう」
「ん?」
更に一本、矢を構える。
「……スタート!」
「ッ!?」
その一本は自分に直進してくる。
それが合図だったのか、先に飛ばした三本も神に向かって飛んできた。
「何……オンバシラッ!!」
八本の柱で矢を叩き落としにゆく。しかし、先程とは違いこの四本は全く落ちる気配が無い。
「本来、私が完璧にコントロールできるのは四本まで」
「何を……?」
「避けて御覧なさい。末席の神さま」
「嘗めるなッ」
柱を掻い潜って矢は飛んでくる。神は避けた、が一本避ければまた一本、そしてまた一本。限が無い。
「なら!」
飛んだ。風神の如く。いや風神なのだ。風を纏い目に見えぬ速さで空を駆ける。
されど永琳は逃がさない。矢は何処までも何時までも追従する。神はこれでは拙い、と振り返り―――
「でやァッ!!」
神風を起こした。流石に、それには矢も耐えきれず地面にボトリと落ちていった。
「ふぅ……!?」
「終わりよ」
一瞬だった。
神が目を離した隙に、永琳は矢を振り上げていた。男は堪らず急所をガードする。
「クッ……」
「腕で庇ったのね……でも、意味は無い」
「何!? 毒、か……」
「正解。なに、殺しはしないわ。少し眠ってて」
「……ふ」
神はフラフラと境内に降りていった。永琳も共に降りていき、縄をかけようと―――
「ふふふ、はははっはははっはははッ!! 残念!」
「ッ!!?」
神は大笑い。
ありえない、致死性の無い毒とはいえ諏訪子を速攻で眠らせることができる睡眠毒だぞ……永琳は己の目を疑った。
「いや、アンタは天才だよ。他の神なら例えイザナギ爺さんでも眠ってたさ」
「……」
「俺は、別だ」
そう言って神は……両腕をパージした。
「……義手」
「そう! しかし……もう使い物にならんな。どうしてくれんだ、アマ」
「義手ならいくらでも作ってやるわ」
「ほう……オマエ本当に何者だ?」
「……さあ」
冷静を保ってはいたものの、永琳は困り果てた。
毒はもう無い。残るは符しかないが……使ったら『我々』が幻想郷に隠れていることがばれる。
「待ってろ……ほらよっと」
神は御柱を二本、腕に押し当てた。ガチンッ、とジョイント音。
「ビック・タケミナカタ、ショータイム。ってね!」
柱の中から巨大な手が出て来た。行くぞ、と両手を永琳に向ける。
「ロケット・パーンチ!」
「ッ! 冗談でしょ!?」
高速の鉄拳が飛んでくる。美鈴の乾坤圈なんかよりもずっと速い。
「ガードが間に合わn」
―――ドンッ……
* * * * * * * * * * * * * * *
三人は境内に降り立った。
永琳が……倒れていた。
「え、永琳!!」
魔理沙が駆け出そうとしたが、神奈子が止めた。
神(おとこ)は永琳の髪を掴んで持ち上げた。
「おい。俺の勝ちだ」
「……ふふ」
「なにが可笑しい」
永琳は血を流しながら、笑っていた。
「私の、勝ち、よ……」
「は? 何言ってんだ?」
永琳は神(おとこ)の後ろの三人……いや、神(おんな)を指差した。神(おとこ)は振り返る。
「あん?」
「……」
「……」
「ね? わた、しの、勝ち……」
永琳の息が途絶えた。神(おとこ)はブルブル震えだした。
「か、カナ! えっと、これは、その……」
「タケル……まず、その女いい加減離しな」
「ハイっ!!」
神(おとこ)は永琳を地面に寝かせ、御柱の腕をパージさせた。
神(おんな)は一歩一歩、神(おとこ)に近づいた。
「なんでこんなことになってる」
「えっとね……色々事情が……あ! そうそう、諏訪子がまず仕掛けてきて!」
「そんなのいつものことでしょ……私が聞いてるのは何故彼女と交戦してたかってこと」
「え、ええっと……」
死人に口無し。ここは出鱈目言ってもばれはしない。
「コイツが矢を放ってきたの! 問答無用に! 俺は紳士的に止めたんだけどさぁ」
「ふーん……どうなんだい、八意?」
何を言って……
「ああ、久しぶりに死んだわ……何時以来かしら」
「……え?」
確かに、死んだはずじゃ……
「おい! エーリン! 早苗がリザレクション見て気絶したぞ!」
「あら、その子もまだまだ常識的ね……魔理沙、神社に寝かせてきなさい」
「ったく……おっさん。後で境内直さないとオッカナイのにやられるぜ」
え……
「で、八意」
「あ、そうね……彼が幻想郷を征服するっていうから、相手したの」
「へー……タケル。こう言ってるが?」
「ん、んなバナナ! 俺とその化け物どっち信じるってんだ! カナ!」
「……」
神(つま)相手に必死になる神(おっと)。
「八意」
「オイィ! 俺お前の旦那さまよ!」
「アンタが付いた嘘の数を数えるの止めたの……五〇〇年前よ」
「……スイマセンデシタ」
「ゼッタイニユルシマセン」
境内に一柱の叫び声が響いた……
* * * * * * * * * * * * * * *
「皆さん。旦那が御迷惑おかけしました」
「ずびばぜんでじだ」
神奈子―――八坂刀売は頭を下げた。旦那―――建御名方(以降、建)も頭を下げる。一同は苦笑、もしくは溜息しか出なかった。
「ま、まあ此方の不手際から始まったことですし、神奈子もそれくらいに」
「八雲の、すまないね……特に九尾殿、大丈夫だったか?」
「ええ、まあ。幸い軽傷ですし」
一応境内が滅茶苦茶になった以外大した被害は出なかった。霊夢と早苗も目を覚まし、この場に立ち会っている。
「八意、お前には一番迷惑かけたな」
「いいのよ別に。旦那さんも喧嘩は程々にね」
「はい……」
終始腰が低い神様(おっと)だった。
「てか、早く蔦解けよ!」
「諏訪子……解いたらコイツの事攻撃するでしょ」
「当り前だ! 早く殺らせろ!」
「はぁ……」
無理も無い。建(タケル)は諏訪子にとって天敵だ。
「で、どうしてくれんの? うちの神社」
「ふぎゅ」
霊夢が土下座(腕無し)している建の頭を踏みつける。神を足蹴にする巫女、これ如何に。
「直しゃいいんだろ、直しゃ……キャッシュでいい?」
「あのねぇ、お金で解決できるはず」
「ホイ」
ゴトリ。陰陽玉ほどの何か。
「何よ、これ?」
「金塊」
「は? 真黒じゃない」
「削れば出てくるよ……現金にして五千万くらい」
「みんな! もう許してあげて! 彼こんなに謝ってるじゃない!!」
……まさに、霊夢。
「ま、まあとりあえず……これからどうしますの?」
「そうだなぁ……丁度月から帰って来て仕事無かったから暇なんだよね。来年の頭まで」
「はぁ」
「幻想郷観光していい? どうせ腕直るまで帰れないし」
「私は構いませんが……」
紫は一人ブちぎれている諏訪子を見る。
「ああ、アイツは気にせんでいいよ。いつもああだし」
「そうですか……神奈子と永琳が良ければ私は何も」
二人を見る。永琳は微笑んで頷いた。神奈子は……
「まあ、別にいいんじゃない。ただ守矢神社(ウチ)には置けないよ。諏訪子いるし」
「いいよ。ブラブラしてる。ただ宿が欲しいな……」
「流石に人里は拙いなぁ」
外来の神様を里に置けない。加え、毘沙門天関係の御寺ができてしまった。まさか建をそんな場所に泊めるわけにもいかない。
「いいとこがあるぜ」
魔理沙が手を挙げた。
「却下」
「何でだよ」
紫が即行却下する。
「霖之助さんとこ、とか言うんでしょ?」
「おう」
「絶対ダメ」
「何でだよ!」
魔理沙には言えないが……軍神に、草薙乃剣がある家を紹介するわけにはいかない。ばれたら、色々拙いことになる。彼も、幻想郷も……
「あ、じゃあ、あっちならいいわよ」
「あっちって何だ?」
「天ちゃん」
* * * * * * * * * * * * * * *
―――『山』、滝付近。3LDKペットOK洞穴(マンション)。
「で、なんで俺の家に神様が?」
天魔・天満は困っていた。まさか自分の家が軍神の塒になろうとは……
「天ちゃん、ごめーん! そのうち、お詫びするから!」
「紫さんよぉ……オレ何処で寝ればいいんだ」
「文ん家」
「ざけんなッ!!」
ギャーギャー騒ぐ二人を見ながら建は神奈子に話しかけた。
「その、なんだ……相変わらずで良かったよ」
「ん、ああ……そうだね。そっちは?」
「まあ月への出張が面倒だっただけだ……肩書き上『中佐』だからな」
「そう」
一方、天満は渋々納得して「どーぞ……」と洞穴から出ていった。紫もやれやれ、と肩を降ろし神奈子をチラリと見た。
「まあ……ゴユックリ」
スキマへ消える。あの女郎、ニヤニヤしやがって……
「とりあえず、飯食べる?」
「ん、おう」
神奈子は勝手知ったる他人の家、天満の冷蔵庫を適当に荒らした。
「何も無えぞ……アイツどうやって生活してんだ……」
その時、コンコンと洞窟の入り口を叩く音がした。
「神奈子様ぁー」
「お、早苗。どうしたの?」
「夕飯持ってきました」
なんとも、気の利く子だ。居間に上がりタッパーを開けお皿に盛っていく早苗。建はほう、と声を挙げた。
「早苗ちゃんっていったか?」
「あ、はい……初めまして? でいいでしょうか?」
「ああ、たぶん……だろ? カナ?」
建は神奈子に聞く。神奈子は、はあ?とジト目で睨んだ。
「タケル……アンタその子抱いた事あるよ」
「なんと! 知らんぞ! 俺はお前一筋だと何度言えば!」
「違う阿呆……赤子の時だよ」
「ん……ああ! あの時の末裔か!」
建は驚嘆し、早苗の顔をジロジロ眺めた。
「ん、確かに似てる……似てるか?」
「まあ、あの子(諏訪子)には似てないね。どっかで血が混ざったんでしょ」
「そうか。まあ、早苗ちゃん。神奈子のこと宜しくね」
「い、いえ! 滅相も無い! 私がお世話されてる立場ですし!!」
早苗はアタフタした。
「そ、それでは建御名方様。神奈子様……ゴユックリ」
一礼し、洞窟から出ていく早苗。勿論……ニヤニヤと。
「「……」」
気まずい。
どのくらい気まずいかというと、単身赴任の旦那が帰って来てさっきまでパーティーやってたのに、参加者が旦那と奥さんに気を使いニヤニヤ出ていって、二人ポツンと残された夫婦くらい気まずい……
「とりあえず、飯食うか」
「え、ええ」
二人は箸に手をつけた。
* * * * * * * * * * * * * * *
「はい。諏訪子様、あーん」
「ううぅ。あーん」
守矢神社。一人と一柱は夕餉を取っていた。
「早く蔦解けよ、莫迦軍神が」
「まあまあ。諏訪子様が攻撃しなきゃ建御名方様も解いてくれますよ」
「ヤダ! 私はアイツの事許さないもん!」
神様が両手拘束され巫女(風祝)に、ご飯を食べさせてもらっている。
しかも悔しそうに目を真っ赤にして、語尾にもんとか付けて。
早苗は終始ニヤニヤしていた。
「それでは仕方ありませんね。私が何から何まで『お世話』しましょう!」
「うっ……早苗、黒いよ」
「ふふ、冗談です」
冗談に聞こえないから、困る……諏訪子は溜息をついた。
「しかし……何故そんなに彼を嫌うのですか?」
「決まってるだろ……」
「あ……スイマセン」
そうだ……
歴史書などでしか知らないが……諏訪子は彼に侵略された身。
きっと大切なモノや、人々を彼の手によって……奪われてきたのかもしれない。それは、許せないはずだ。
「アイツがいると……」
「はい……」
諏訪子は目に涙を溜めて、ボソッと言った。
「神奈子が、女っぽくなる……」
「はい。て、は?」
こいつ、何言ってんだ……
「え、積年の恨みとかそういんじゃないんですか?」
「は? なんで?」
「いや、その……諏訪を侵略されたとか、大切な人達を、とか」
「なんでさ。そんなもの今更だよ。きちんと穴埋め貰ってるし、和解だってしてる。
戦争一つで悲しみな明けくれてたら神様なんて勤まんないよ」
言葉が無かった。
「で……神奈子様が女っぽくって」
「まんまだよ。見て来たんだろ、あいつらを」
「え、まあ」
「どうだった」
「え?」
涙目で訴えてくる諏訪子(かみさまようじょ)。なんと言っていいものか……
「その……」
「ヤリソウダッタカ?」
「ッ!? 私の口から言わせないでください!!」
「そうか……はぁ」
そのままゴロゴロと転がって寝室に入っていく。早苗は一人、どうしようと呟いた。
「そういえば……建様、永琳先生が神だとかなんとかって」
「気にしちゃダメよ」
「にょわ! ゆ、紫さん!!」
壁に耳あり、障子にマエリバリー、スキマにゆかりん。
「はーい、早苗ちゃん」
「紫さん。驚かさないでください!」
「ああ、いいわそのリアクション。最近藍も霊夢も驚いてくれないのよねぇ」
「はあ……で、何用で」
「そうそう」
紫は小包を早苗に渡した。
「今月の仕送り。御家族からの手紙も入ってるわ」
「あ。そっか、ありがとうございます」
早苗は月に一度外からの仕送りを受け取っている。そろそろ仕送り無しでもやっていけそうだが……まあ、貰えるものは貰っておこうという魂胆だ。
「そうそう、あとこれ」
はいと二つのモノを渡される。MDとプレイヤーだ。
「あ、充電ありがとうございます」
「いいのよ……幻想郷に勝手に電気を流されるよりはマシだから」
「あはは……」
私じゃなくて、二柱に言ってくれ。
「MD(こっち)は?」
「ああ、それね」
紫はスキマからCDを引っ張り出す。
「これ」
「あ! H・Y・メリーの新作だ!」
宛ら女子高生のテンションでCDを受け取った。
H・Y・メリー。
外の世界で『歌姫』と称されるほどの世界的歌手。八カ国語の曲を作り、全世界で人気のある謎の女性だ。
ライブ等の類いは決してやらない。CDのジャケットも顔を隠したまま。それでも歌一つで業界トップへ昇りつめた人物らしい。
早苗は昔から彼女の大ファンだった。
「あ……今お金無いです……」
「いらないわ」
「え?」
紫は微笑んだ。普段見る胡散臭い含みのある笑みではなく、純粋な笑顔で。
「きっと、彼女(メリー)もアナタみたいなファンに聞いて貰いたいでしょ」
「でも……」
「いいの。じゃあ、そうね……ファンレターでも書いてあげなさい」
「ファンレターですか? 書いても見てもらえないんじゃ」
「大丈夫。貴女のならきっと見てくれるわ」
ポンと早苗の頭に手を乗せ、じゃあねとスキマに消えていく紫。
「明後日は貴方の神降ろしだから……きちんと休んで」
「はい! CDありがとうございました!」
「ふふ。一応、言っておくけど貴女も初めは諏訪子を『降ろす』から。
さて、今から魔理沙に『お仕置き』しないとねぇー……」
早苗は早速イヤホンを耳に付けた。新曲は『ブルーローズ』。バラードだ。
なんとも、自分と同じ『奇跡』の花か。不可能から可能へ……
明後日はきっと奇跡が起こってくれる、そんな気がした。
「―――~~♪ 諏訪子さまー♪ 明後日はよろしくでーす♪」
「……あいよ」
(続く)
そこがなんか凄くひっかかります。儚月抄ではあっさりしてたし…
星蓮組は…日常話的なのを読んでみたいです。
なんだかんだいって神奈子様も人妻なんだなあ…あ、神妻か。
重箱の隅ですがあとがきの
かな、すわ、たけ、は~ですが
かな、さな、たけ、は、では?
天ちゃんで、天魔じゃなくて天子が出てきちゃったww
てんま×あやだと?・・・天ちゃんのヘタレ!w
そういえばこの世界での天子や衣玖さんってどんな感じなんだろう・・・
5番様・・・実際、神様ですからねぇ。ハードかなぁと。
星組の日常練っときます。
8番様・・・卍・解ッ!!と閻魔党、どっちがいいでしょう?
10番様・・・やっちまったZE☆
11番様・・・金本質制巫女。神奈子様は……解釈の仕様だと人妻ですね。
13番様・・・かな、すわ、たけ、はVまでの会議。早苗はV若しくはGからの会議で入ります。
16番様・・・男は女に『いろいろ』勝てませんよw
天満(天魔)を堂々とオリキャラとして使う愚かなSS書きなんて私くらいですねぇ……
衣玖さんのキャラは決めてましたが、天子が難しいですねぇ。案があれば是非!
以上! ……誰も『メリー』につっこまなかった。悲しい。 ←ざまぁwww
大和の神様じゃないのだけれどもね
神奈子が八坂刀売神なら、綿月姉妹の姉妹である可能性もあるわけですよね?
こりゃあワクワクしてきましたよ。
・20番様> いやぁ、このコメントのおかげで設定が練れました。感謝!
・22番様> 『H・Y・メリー』は完璧オリ設定ですが、重要です!
・23番様> 『カナさん』って言うと人妻っぽいですねw