注意
このSSには以下の内容が含まれています。
・作者は地霊殿をゆかれいむでクリア
・百合のような表現
・ほんの少しの自己設定
・やまなし、意味なし、おちなし
以上のことについて駄目な人はブラウザをクリック。
大丈夫だという人はスクロールをして、SSをお楽しみください。
それではっ。
ここ幻想郷には四季がある。もちろん春、夏、秋、冬、の四つの季節がめぐる事である。
現在はその中で最も生命が減少し、厳しい季節である、冬、が到来しその威力をいかんなく発揮しているところであった。
2月中旬だというのに大雪が降り、つもりにつもってほとんどのものが真っ白に染まってしまっているのだ。
そんな見渡す限りの大地が真白に染まった幻想郷の空を、とてつもないスピードで飛ぶ影が一つ。
清く正しくをモットーに、今日も特ダネを探し飛びまわる伝統の幻想ブン屋、我らが射命丸文である。
この寒さにはふさわしくない、いつものミニスカートは相変わらずの鉄壁ぶりで、その中身が見えないように守っているのは残念極まりない。
いやしかし、真下からでも見えないってどういうことよ(河童談)。
彼女の首元には、いつもは見られない赤い毛糸で丁寧に編まれた手編みのマフラーが巻かれており、その部分だけは非常に暖かそうである。
そんな射命丸が向かっているのはいつもの神社。ネタを見つけるときはまずはここから、と自分で作ったルールのためだ。
それは数々の人間や妖怪が気兼ねなく訪れる場所故、行けばかなりの確率で誰かに会うことができ、そこから情報を得ることができるのだ。
先の間欠泉怨霊事件(文文。新聞ではこう記載された。)の細やかな詳細は、ちょうど神社に遊びに来ていた八雲紫に会うことができ、
彼女を乗せに乗せた結果、聞き出すことに成功し記事にすることができたのだ。自分ルールさまさまである。
そんな彼女も今日は早く神社に行こうとそれだけを考えている。もちろんネタのためもあるが、どちらかというと大きくはこの寒さのせいだ。
異常大寒波といえるものがこの幻想郷には到来していた。氷精やその保護者は大喜び、そうでない方は家に引きこもっており、秋の神様は鬱になっている。
本当に寒い、そうとしか言えないような気象だった。暖冬のために忘れられた大寒波が幻想の世界に入ってきたのだとか。
雪はもう止み、太陽の光が降り注いではいるが、それが雪原に反射しとても眩しく、さらに気分も太陽が出ているのにかかわらずこの寒さ、と気が萎えてしまう。
ネタよりも暖を取る事、それだけが現在の彼女の脳内の天秤の傾きであった。
=================================================================================================================================
射命丸が博霊神社に着くと、他の景色と同じ様に真っ白に染まっていた。というより真っ白に埋もれていた。
腰にまで達する雪が境内につもり、屋根の上には押しつぶさんとばかりの量の雪がのっている。
雪かきの道具であるスコップなどが軒先に見えるが、どうやら使用される前にここの家主が雪に対して無条件降伏したらしい。
打ち捨てられたスコップはどこか哀愁を誘っていた。
「やれやれ、あの巫女もこの雪には勝てませんか。まあしょうがないんですけどね」
誰に言うでもなくひとり呟くと、射命丸は縁側に着地し、靴を脱いで神社に入る。
とても静かである。しんと静まり返った神社は射命丸が歩く音以外に何も聞こえない。
「誰もいないんですかね。でもあの巫女がこの寒い中外出するとは思えないんですが。すいませーん誰かいませんかー」
この問いかけも答える人がいない。そうこうしている間に神社の真ん中に位置する居間の前までたどり着いた。
そして、その居間の障子を思い切り開ける。
「文文。新聞の射命丸です。取材に来ましたー」
居間の中には炬燵に体を埋もらせ、顔だけを出しこちらを睨んでいる楽園の素敵な巫女、博麗霊夢の姿があった。
「寒いから早く閉めて。できればあんたもそのまま帰ってくれたら、もっと嬉しい」
ぶっきらぼうに霊夢はそう言うと、もぞもぞと炬燵から腕だけを出し、目の前におかれたせんべいをぼりぼり食べ始めた。
「初めの注文にはこたえられますが後のは拒否します。せっかくここまで来ましたからね」
後ろ手で障子を閉めて、炬燵に入る。炬燵の中はとてもあったかく、冷え切った手足には染みいるようにその温かさが伝わる。
「ああ、やっぱり炬燵はいいですね。外はすごく寒くて堪えましたから」
「こら。何勝手にくつろいでんのよ。第一、足丸出しでこの寒空の中来るなんて馬鹿じゃないの」
「腋を出してるよりましです」
「なんだとこの野郎」
「冗談ですよ」
「というか、あんたの足があたって、馬鹿みたいに冷たいんだけど」
「あててんのよ」
「いやがらせかこの野郎」
「冗談ですよ。冗談」
「喧嘩売ってるわね。よし買った。弾幕ってやるから表出ろ」
「外はすごく寒かったですよ。それこそ妖怪も凍えるくらいに」
「今日のところは勘弁してやる」
「ありがとうございます」
いつもの通りのやりとりである。
「っていうか何しに来たのよ。暖取りにきたのか取材しにきたのか、それとも私の幸せな炬燵御煎餅タイムを邪魔しにきたのか、どれよ。返答によっては殴る」
「3対7対0ですね。おもに取材をしについでに暖を取ろうかと。この間の異変の追加調査と地下の妖怪についていろいろ聞きに来ました」
「めんどいからパスよ。他当たりなさい。そして帰れ」
取りつくしまもないのはいつも通り。しかし射命丸は落ち着いていた。そしてゆっくりと次の言葉を繋いだ。
「そうですか、せっかく熱いお茶によく合う羊羹を買ってきたんですが、無駄になりますね」
羊羹と聞いてがばっと炬燵から体を起こす霊夢。その顔はさっきとは違い、笑みを浮かべている。
「それを先に言いなさいよ。羊羹があれば話は別よ。取材、受けてあげる」
「本当ですか、いやいやありがとうございます。なんか悪いですね」
「思ってないことを言わないの、言葉が棒読みになってるわよ」
「そんなことはないですよ。じゃあこちらが羊羹になります」
「どうもどうも。こっちこそなんか悪いわね」
「思ってもないこと言わないで下さいよ。棒読みですよ」
「そんなこともあるかもね。じゃあお茶入れてくるから少し待ってて。あんたにも出してあげる」
そう言うと霊夢は炬燵から出て、「寒い寒い」と言いながら台所に入っていった。
うまくいった、と射命丸は思った。
この羊羹も射命丸の自分ルールであり、作戦でもある。差し入れ、特にお茶受けとなるお菓子類を持ってくれば霊夢は十中八九取材に応じてくれるのだ。
大きなネタを仕入れる際は、必ず差し入れ作戦を行い成功してきた。『霊夢に差し入れ』はある意味、射命丸の中で方程式にすらなっている。
ひとり居間に残された射命丸は誰に言うでもなく
「ちょろいですね」
と呟いた。
================================================================================================================================
「・・・なるほど、嫉妬の心を読んだ地獄鴉が、神様の力でフュージョンしましょ、ですか」
「半透明スカートの鬼が、猫に向かって桶と蜘蛛を怪力乱神、が抜けてるわよ」
いったいどんな取材をすればこのような答えが出てくるのだろうか。霊夢も面白がって止めていないようである。
「そして最後に、常識と無意識をミラクルフルーツ、ですか。なるほど。ふむふむ。これだけネタがそろえば次の新聞はばっちりですね。いやいや、それにしても地下は面白そうですね。話だけを聞いていると」
「まあ、確かに住んでるやつらは面白いわよ。いろんな意味でね」
そういってお茶をすする。羊羹は二人ですでに食べ終わっていた。
霊夢は、ふむふむと呟ながらさっきの取材の内容をメモした手帖をみる射命丸を横目でちらっと見る。
取材を受けている時から霊夢には気になっていることがあった。射命丸の首に巻きついている赤いマフラーである。
彼女がこの冬にこのマフラーをしていたという記憶はないし、真赤なその色合いも見覚えがない。良く見れば手作りらしきものである事もわかった。
気になってしょうがなくなった霊夢は射命丸に尋ねることにした。
「ねえ、ところでさっきから気になっていたんだけど、そのマフラーいつもしてたっけ?」
それに対し、
「へ?」
と答える射命丸。
「いや、そのマフラーよ。見覚えがないなと思って気になっちゃって。そんなのしてたかなって」
その言葉に一瞬固まる射命丸。その動作に霊夢の勘は反応した。これは面白い予感がする。からかうとかそういった的な方向で。
直感的にそう思った霊夢は続けた。
「なんか手作りっぽいし、真っ赤だし。とても気になるのよね、それ。いったいどうしたの」
「ええっとですね、これは、その・・・ですね」
いつもの歯切れはどこへやら。何やらどもり、はっきりとしない態度である。
ふと霊夢はカレンダーに目をやる。今は2月中旬、16日である。そこから導き出される答えは、この巫女にとっては至極簡単なものだった。
「そういえば一昨日はバレンタインデー、だったわね。そういえば」
その言葉にびくっとなる射命丸。これはもう間違いない。
「へえ、貰ったんだ、それ。バレンタインデーに」
「そ、そうですけど、それがなにか・・・」
これはまずい。そう直感が射命丸に告げる。目の前の巫女はもう、いいお茶受けの話の足をつかんだ、と言わんばかりにニヤついている。
他人の話を聞くことは職業上慣れている。が、その反面自分の話をするということには慣れていない。さらにバレンタインデーの貰いものについてのことである。
色恋沙汰は新聞のいいネタではあるが、自分の話となれば別だ。他人に知られるということについて、これ以上に恥ずかしいことはない。
さらに、自分の話を聞いて、楽しもうとしているということが、霊夢の顔を見れば明らかである。話をずらそうとした射命丸に、霊夢が逃げ道を潰しにかかる。
「では、いつもと趣向をずらして逆取材と行きましょうか。文文。新聞の記者、射命丸さんにそのマフラーについてを語っていただきましょう」
「・・・拒否します。プライベートなことについてですので」
「へえ、そう。じゃあ別にいいのよ。ただ、あなたの取材の相手が一人消えるだけだから。だってプライベートって言えば取材受けなくて済むんでしょ?」
「ひ、卑怯ですよ~、それは」
「いつも強引な取材をしてきたつけよ。さあ、話してもらいましょうか。まずはそのマフラーの送り主について」
「ど、どうしてもですか?」
「さあ、そこはあんたの意思次第よ。まあ、さっき言ったように取材相手が減るでしょうけどね~」
楽しそうな霊夢に対し射命丸はもう逃げられないと悟った。この巫女相手に感づかれた時点で負けだったのだ。
うかつだった。そんな思いが支配する中射命丸は重々しく口を開いた。
「部下に・・・貰いました」
「部下?天狗の?」
「そうです。あくまで部下です」
「ふうん。もしかして、この前妖怪の山で攻撃してきた、あの狼の天狗?」
「うぐっ。なぜそれを」
「へえ、そうなんだ。言ってみるものね」
「あぐ、しまった。・・・でも、あくまで部下からの贈り物ですよ。そう、社交辞令的な物ですよ」
「じゃあ、どうしてさっきあんなに話すのを嫌がったのかしら」
「それはですねぇ・・・」
「それに、そんな手のかかる手編みのマフラーなんて、社交辞令で送ってくるかしら」
「あう、えっと、なんというか」
「では、次の質問です」
「まだあるんですか!?」
「あたりまえよ。根掘り葉掘り聞いてやるんだから、覚悟しなさい。もらうときにその、狼の天狗・・・名前は何?」
「・・・椛です」
「そう、その椛っていう子は、何って言いながら渡してきたのかしら」
「・・・それを、聞きますか」
「もちろん。さあ、どうなの」
「う~。それはですね、えーと、そうですねえ」
「ふむふむ、愛してますって渡してきたのね」
「そこまでいきませんっ!!!」
「そこまでってことは、そういった方向で渡してきたのね」
「それはっ」
「それじゃあ、好きです、くらいかしら。どうなんですか?射命丸さん?」
「・・・・・・・・・」
「はい、なるほどね。分かったわ。じゃあ次。その椛って子に対しての、あんたの返事を聞きましょうかね」
「も、もうこれくらいにしてくれませんかっ。自分でも、顔が赤いってわかるくらい顔が熱いんですよ」
「だめよ、だめだめ。今日はとことん聞くって言ったでしょ。あんたの記者魂はいま私の中で燃えているの。さあ、返事は何ていったの」
「も、もう、勘弁してくださいよ~」
「ふふふ、お顔がもみじ色。なんてね」
「---------っ!!!!!」
この時、射命丸は霊夢の勘の恐ろしさを嫌というほど味わうことになる。そう、博霊の巫女はちょろくなんかないのだ。
=========================================================================================================================
20分ほど逆取材が続き、終わった時には射命丸は『満身創痍』状態、霊夢は『ニヤつきエクステンド』状態であった。
「・・・なるほどね。だから真っ赤なマフラーなんだ」
「もういやだ。取材を受けることがこんなに嫌な事だったなんて」
炬燵の台に顔を突っ伏している射命丸がそう呟く。この場合は取材を受けた相手が悪かった、というべきなのだが。
それに対しニヤニヤ全開の霊夢はおいしそうにお茶をすすっている。お茶受けが極上ものだったのだ。当然である。
「ほんと、惚気話を聞かされて口の中が甘くなったわ~。お茶が美味しいこと美味しいこと」
「聞かされたって、聞いてきたのは霊夢さんじゃないですか」
「あんたの意思で話せって、最初に言ったじゃない。そうでしょ」
「ほ、本当にちょろくなんかない。むしろ、手強すぎる」
「私をあんまり甘く見ないことね。いやあ、それにしても面白かった」
「・・・あーうー」
「あら、諏訪子の真似?」
「現実逃避です」
そう射命丸が言うと同時に、ガラっという音とともに障子があき、外気が入ってきた。もちろん外気だけでなく、障子をあけた人物も一緒にだ。
その来訪者は、黒い衣に白のエプロンを重ね、あやしげなとんがり帽子を被った、見るからに魔女という格好の、普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。
魔理沙は居間にいる二人を見るなり、
「おお、珍しいな。文屋がいる。今日はどうした、取材か?あと霊夢、遊びに来てやったぜ」
といった。
「あのね、話す順番が逆でしょ。まず私に挨拶しなさいよ」
「すまんすまん。いや、珍しかったからな」
へへへ、とはにかみ霊夢の左隣りに座る。射命丸から見れば真正面になる。
「どうした文。何やらお疲れのようだが、何かあったのか?」
炬燵に顔を突っ伏している射命丸を見て魔理沙が問いかける。
「いえ、別段何もございませんよ」
「なんだよその口調は。何かあったな、そうだろ霊夢」
「ええ、大ありよ。特ダネが入りましたよ~、魔理沙さん」
その言葉にニヤリと笑う魔理沙。顔を突っ伏している射命丸にもその顔が浮かび、冷汗が背中を伝った。
(もしやこの巫女、言うつもりではあるまいか。いや、絶対に言う。面白おかしく脚色して言う!!)
「ほうほう、特ダネですか霊夢さん。詳しく聴かせていただいても?」
「もちろん喜んで。口の中が甘くなるから気をつけなさい」
「カロリーが高いのは遠慮しとくぜ。で、何があったんだ」
そんな二人のやり取りを聞いて、射命丸はがばっと顔をあげる。
「ちょっと霊夢さん!後生ですから、それだけは~」
その射命丸の顔は一言で言うと必死。いつもの飄々とした雰囲気はどこへやら。
「おう、そんなに嫌なのか。それは是非聞かないとな。後あとのいい酒の肴になりそうだ」
「じゃあ、説明するわね。二日前なんだけどね」
「うう、ひどい。あんまりだ~」
少女説明中。
その間、射命丸は自分のバレンタインデーを詳細を事細かに説明されるということを、ただただ聞いているという半ば拷問のような仕打ちを受けることになった。
「ふうん。そんなことがねえ」
「妬けちゃうわよねえ」
さらに追い打ちを掛けられた射命丸はもう言葉を発することさえ億劫になっていた。
「さて、魔理沙さん。どう思いますか」
霊夢が魔理沙に問いかける。もちろん自分と同じように射命丸をからかうようなものを期待したものだったが、帰ってきたのは予想に反したものだった。
「・・・いや、いいんじゃないか。せっかくのバレンタインだからな」
ほえ?と霊夢が。へっ?と射命丸が魔理沙に返す。
おかしい。いつもならここで追い討ちをかけるがごとく、軽口やら皮肉やらが一つや二つは飛んでくるはずだ。
「なんだよ、その反応は。なに呆けてんだ二人とも」
何やら、思うことがあるかのような魔理沙の様子。不思議に思う二人。
(いつもなら霊夢さんと一緒になってからかってくるはずなのに)
(いつもなら私と一緒にからかうはずなのに。もしかして・・・)
そう思って考える二人。からかえない状況にあるということはどういった状況なのだろうかと。
射命丸はあることに気付いた。魔理沙も自分と同じなのではないか、だから私の状況に突っ込めないのではないかと。
霊夢は勘が働いた。これはまたからかうとかそういった方向で、面白いことが起きそうだと。
射命丸が霊夢に視線を送ると、すでに霊夢は自分の方向を見ていた。
(これはおもしろいことになりそうですよ)
(そうね。でも魔理沙が相手。ここは慎重にいかないと)
(私に考えがあります。お先にいっても?)
(分かったわ。うまくやりなさい)
(了解!)
以上はアイコンタクトでのやりとりである。無駄に息がぴったりである。
二人でうなずき合って、おもむろに射命丸が口を開いた。
「そういえばこの前、アリスさんに取材に行ったとき、何か用意していましたね。たしかチョコレートだったはずですが。」
その言葉にびくっとなる白黒。
「へえ、そうなの。だれに渡したのかしら。ねえ魔理沙、気にならない?」
もう一度びくっ。
にやりと笑う霊夢と射命丸。
「ほうほう、貰ったのは魔理沙さんのようですね。」
「・・・なんでそんなことがいえるんだよ」
反論をする魔理沙。しかしその様子はおかしく、なにか焦った印象を与える。
「あれ、違いましたか。アリスさんに取材したときに普通の黒いチョコとホワイトチョコを作っていたから、白黒の魔理沙さんにかと」
「なっ!あいつ取材なんて受けてたのか」
「どうでしたかホワイトチョコの味は?」
「・・・黙秘だぜ」
「ほう、本当にホワイトチョコと普通のチョコだったんですね。当てずっぽうでも言ってみるもんですね、ねえ霊夢さん」
はっとする魔理沙。ニヤつきが増している目の前の二人に今の状況を悟る。
「・・・担いだな、文」
「はい、取材なんてアリスさんが受けてくれるはずないじゃないですか。さて、どうして魔理沙さんはアリスさんが用意したチョコが2種類ある事を知っているんでしょうか、霊夢さん」
「それはおそらく、魔理沙が貰ったからじゃないかしら。アリス特製の、魔理沙の色をイメージしたチョコレートをね」
自分がはめられたことに気付いた魔理沙。うまくいったとニヤついている目の前の二人は、もうこれ以上面白いことはないかのように言葉を続ける。
「さあて、さっきまで何があったのかしら、文?」
「私が霊夢さんから取材を受けていましたね~。バレンタインデーについて」
「そうそう、でもそれはさっき終わっちゃったのよね」
「そうです。でも霊夢さん、安心してください。新しい取材対象があらわれましたよ」
「それが魔理沙ってわけね」
「そうですとも。さて霊夢さん、先ほどまで燃え上っていた記者魂は現在どのような様子ですか?」
「ふふふ、もっと燃え上っちゃってるわよ~。それこそ、チョコレートも溶かしそうなくらいにね」
自分の眼前で繰り広げられる茶番に魔理沙は直感的にさとった。
(こいつら私で遊ぶ気だ)
相手が悪すぎると理解した魔理沙は、この場は逃げるしかないと思い、
「よ、用事を思い出したから帰るぜっ!じゃあなっ!」
と、がばっと立ち上がると障子に手をかけ、飛びだすつもりで思い切り開こうとした。
しかし、障子は開かなかった。そしてよく見ると、障子と障子の間にお札が貼られていた。
その札には、『開けること叶わず』と、自分がよく見たことのある、ミミズがのたくったような文字がでかでかと中央に書かれてていた。
さらにそのお札には、『博麗特製』と律儀に製造元まで書いてある。
(こんな適当な感じのお札で効果があるのかよっ!)
と、冷静に心の中で突っ込んだが、このように効果は絶大であった。
逃げ場を失くし次の手を考える魔理沙に、とどめがやってくる。
「どこにいこうというのかね」
霊夢が静かな声でそう声をかける。
「逃げようったってそうはいきませんよ~」
射命丸が明るい声でそう声をかける。
「「では取材を開始しましょう。」」
そんな二人のニヤついた顔を見つめながら、魔理沙は今日は自分にとって厄日だということを、今更になって理解した。
そのあと、恥ずかしそうに顔を伏せながらバレンタインデーの詳細を話し、自分で言ったことに自分で悶え真っ赤に顔を染めているかわいらしい白黒や、
その様子を見ながらニヨニヨ、ニヤニヤしている少し気持ちのわるい巫女と天狗が神社で目撃されたらしいが、それは別のお話である。
==========================================================================================================================
「ところで霊夢さん。部屋の隅に転がっている紅白饅頭の空き箱はいったい」
「ああ、一昨日紫に貰ったのよ。なんかあれ置いてすぐ帰っちゃったけど、いったいなんだったのかしら」
(・・・・・・気づいてやれよ、この鈍感巫女)
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ここ幻想郷には四季がある。もちろん春、夏、秋、冬、の四つの季節がめぐる事である。
現在はその中で最も生命が減少し、厳しい季節である、冬、が到来しその威力をいかんなく発揮しているところであった。
2月中旬だというのに大雪が降り、つもりにつもってほとんどのものが真っ白に染まってしまっているのだ。
そんな見渡す限りの大地が真白に染まった幻想郷の空を、とてつもないスピードで飛ぶ影が一つ。
清く正しくをモットーに、今日も特ダネを探し飛びまわる伝統の幻想ブン屋、我らが射命丸文である。
この寒さにはふさわしくない、いつものミニスカートは相変わらずの鉄壁ぶりで、その中身が見えないように守っているのは残念極まりない。
いやしかし、真下からでも見えないってどういうことよ(河童談)。
彼女の首元には、いつもは見られない赤い毛糸で丁寧に編まれた手編みのマフラーが巻かれており、その部分だけは非常に暖かそうである。
そんな射命丸が向かっているのはいつもの神社。ネタを見つけるときはまずはここから、と自分で作ったルールのためだ。
それは数々の人間や妖怪が気兼ねなく訪れる場所故、行けばかなりの確率で誰かに会うことができ、そこから情報を得ることができるのだ。
先の間欠泉怨霊事件(文文。新聞ではこう記載された。)の細やかな詳細は、ちょうど神社に遊びに来ていた八雲紫に会うことができ、
彼女を乗せに乗せた結果、聞き出すことに成功し記事にすることができたのだ。自分ルールさまさまである。
そんな彼女も今日は早く神社に行こうとそれだけを考えている。もちろんネタのためもあるが、どちらかというと大きくはこの寒さのせいだ。
異常大寒波といえるものがこの幻想郷には到来していた。氷精やその保護者は大喜び、そうでない方は家に引きこもっており、秋の神様は鬱になっている。
本当に寒い、そうとしか言えないような気象だった。暖冬のために忘れられた大寒波が幻想の世界に入ってきたのだとか。
雪はもう止み、太陽の光が降り注いではいるが、それが雪原に反射しとても眩しく、さらに気分も太陽が出ているのにかかわらずこの寒さ、と気が萎えてしまう。
ネタよりも暖を取る事、それだけが現在の彼女の脳内の天秤の傾きであった。
=================================================================================================================================
射命丸が博霊神社に着くと、他の景色と同じ様に真っ白に染まっていた。というより真っ白に埋もれていた。
腰にまで達する雪が境内につもり、屋根の上には押しつぶさんとばかりの量の雪がのっている。
雪かきの道具であるスコップなどが軒先に見えるが、どうやら使用される前にここの家主が雪に対して無条件降伏したらしい。
打ち捨てられたスコップはどこか哀愁を誘っていた。
「やれやれ、あの巫女もこの雪には勝てませんか。まあしょうがないんですけどね」
誰に言うでもなくひとり呟くと、射命丸は縁側に着地し、靴を脱いで神社に入る。
とても静かである。しんと静まり返った神社は射命丸が歩く音以外に何も聞こえない。
「誰もいないんですかね。でもあの巫女がこの寒い中外出するとは思えないんですが。すいませーん誰かいませんかー」
この問いかけも答える人がいない。そうこうしている間に神社の真ん中に位置する居間の前までたどり着いた。
そして、その居間の障子を思い切り開ける。
「文文。新聞の射命丸です。取材に来ましたー」
居間の中には炬燵に体を埋もらせ、顔だけを出しこちらを睨んでいる楽園の素敵な巫女、博麗霊夢の姿があった。
「寒いから早く閉めて。できればあんたもそのまま帰ってくれたら、もっと嬉しい」
ぶっきらぼうに霊夢はそう言うと、もぞもぞと炬燵から腕だけを出し、目の前におかれたせんべいをぼりぼり食べ始めた。
「初めの注文にはこたえられますが後のは拒否します。せっかくここまで来ましたからね」
後ろ手で障子を閉めて、炬燵に入る。炬燵の中はとてもあったかく、冷え切った手足には染みいるようにその温かさが伝わる。
「ああ、やっぱり炬燵はいいですね。外はすごく寒くて堪えましたから」
「こら。何勝手にくつろいでんのよ。第一、足丸出しでこの寒空の中来るなんて馬鹿じゃないの」
「腋を出してるよりましです」
「なんだとこの野郎」
「冗談ですよ」
「というか、あんたの足があたって、馬鹿みたいに冷たいんだけど」
「あててんのよ」
「いやがらせかこの野郎」
「冗談ですよ。冗談」
「喧嘩売ってるわね。よし買った。弾幕ってやるから表出ろ」
「外はすごく寒かったですよ。それこそ妖怪も凍えるくらいに」
「今日のところは勘弁してやる」
「ありがとうございます」
いつもの通りのやりとりである。
「っていうか何しに来たのよ。暖取りにきたのか取材しにきたのか、それとも私の幸せな炬燵御煎餅タイムを邪魔しにきたのか、どれよ。返答によっては殴る」
「3対7対0ですね。おもに取材をしについでに暖を取ろうかと。この間の異変の追加調査と地下の妖怪についていろいろ聞きに来ました」
「めんどいからパスよ。他当たりなさい。そして帰れ」
取りつくしまもないのはいつも通り。しかし射命丸は落ち着いていた。そしてゆっくりと次の言葉を繋いだ。
「そうですか、せっかく熱いお茶によく合う羊羹を買ってきたんですが、無駄になりますね」
羊羹と聞いてがばっと炬燵から体を起こす霊夢。その顔はさっきとは違い、笑みを浮かべている。
「それを先に言いなさいよ。羊羹があれば話は別よ。取材、受けてあげる」
「本当ですか、いやいやありがとうございます。なんか悪いですね」
「思ってないことを言わないの、言葉が棒読みになってるわよ」
「そんなことはないですよ。じゃあこちらが羊羹になります」
「どうもどうも。こっちこそなんか悪いわね」
「思ってもないこと言わないで下さいよ。棒読みですよ」
「そんなこともあるかもね。じゃあお茶入れてくるから少し待ってて。あんたにも出してあげる」
そう言うと霊夢は炬燵から出て、「寒い寒い」と言いながら台所に入っていった。
うまくいった、と射命丸は思った。
この羊羹も射命丸の自分ルールであり、作戦でもある。差し入れ、特にお茶受けとなるお菓子類を持ってくれば霊夢は十中八九取材に応じてくれるのだ。
大きなネタを仕入れる際は、必ず差し入れ作戦を行い成功してきた。『霊夢に差し入れ』はある意味、射命丸の中で方程式にすらなっている。
ひとり居間に残された射命丸は誰に言うでもなく
「ちょろいですね」
と呟いた。
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「・・・なるほど、嫉妬の心を読んだ地獄鴉が、神様の力でフュージョンしましょ、ですか」
「半透明スカートの鬼が、猫に向かって桶と蜘蛛を怪力乱神、が抜けてるわよ」
いったいどんな取材をすればこのような答えが出てくるのだろうか。霊夢も面白がって止めていないようである。
「そして最後に、常識と無意識をミラクルフルーツ、ですか。なるほど。ふむふむ。これだけネタがそろえば次の新聞はばっちりですね。いやいや、それにしても地下は面白そうですね。話だけを聞いていると」
「まあ、確かに住んでるやつらは面白いわよ。いろんな意味でね」
そういってお茶をすする。羊羹は二人ですでに食べ終わっていた。
霊夢は、ふむふむと呟ながらさっきの取材の内容をメモした手帖をみる射命丸を横目でちらっと見る。
取材を受けている時から霊夢には気になっていることがあった。射命丸の首に巻きついている赤いマフラーである。
彼女がこの冬にこのマフラーをしていたという記憶はないし、真赤なその色合いも見覚えがない。良く見れば手作りらしきものである事もわかった。
気になってしょうがなくなった霊夢は射命丸に尋ねることにした。
「ねえ、ところでさっきから気になっていたんだけど、そのマフラーいつもしてたっけ?」
それに対し、
「へ?」
と答える射命丸。
「いや、そのマフラーよ。見覚えがないなと思って気になっちゃって。そんなのしてたかなって」
その言葉に一瞬固まる射命丸。その動作に霊夢の勘は反応した。これは面白い予感がする。からかうとかそういった的な方向で。
直感的にそう思った霊夢は続けた。
「なんか手作りっぽいし、真っ赤だし。とても気になるのよね、それ。いったいどうしたの」
「ええっとですね、これは、その・・・ですね」
いつもの歯切れはどこへやら。何やらどもり、はっきりとしない態度である。
ふと霊夢はカレンダーに目をやる。今は2月中旬、16日である。そこから導き出される答えは、この巫女にとっては至極簡単なものだった。
「そういえば一昨日はバレンタインデー、だったわね。そういえば」
その言葉にびくっとなる射命丸。これはもう間違いない。
「へえ、貰ったんだ、それ。バレンタインデーに」
「そ、そうですけど、それがなにか・・・」
これはまずい。そう直感が射命丸に告げる。目の前の巫女はもう、いいお茶受けの話の足をつかんだ、と言わんばかりにニヤついている。
他人の話を聞くことは職業上慣れている。が、その反面自分の話をするということには慣れていない。さらにバレンタインデーの貰いものについてのことである。
色恋沙汰は新聞のいいネタではあるが、自分の話となれば別だ。他人に知られるということについて、これ以上に恥ずかしいことはない。
さらに、自分の話を聞いて、楽しもうとしているということが、霊夢の顔を見れば明らかである。話をずらそうとした射命丸に、霊夢が逃げ道を潰しにかかる。
「では、いつもと趣向をずらして逆取材と行きましょうか。文文。新聞の記者、射命丸さんにそのマフラーについてを語っていただきましょう」
「・・・拒否します。プライベートなことについてですので」
「へえ、そう。じゃあ別にいいのよ。ただ、あなたの取材の相手が一人消えるだけだから。だってプライベートって言えば取材受けなくて済むんでしょ?」
「ひ、卑怯ですよ~、それは」
「いつも強引な取材をしてきたつけよ。さあ、話してもらいましょうか。まずはそのマフラーの送り主について」
「ど、どうしてもですか?」
「さあ、そこはあんたの意思次第よ。まあ、さっき言ったように取材相手が減るでしょうけどね~」
楽しそうな霊夢に対し射命丸はもう逃げられないと悟った。この巫女相手に感づかれた時点で負けだったのだ。
うかつだった。そんな思いが支配する中射命丸は重々しく口を開いた。
「部下に・・・貰いました」
「部下?天狗の?」
「そうです。あくまで部下です」
「ふうん。もしかして、この前妖怪の山で攻撃してきた、あの狼の天狗?」
「うぐっ。なぜそれを」
「へえ、そうなんだ。言ってみるものね」
「あぐ、しまった。・・・でも、あくまで部下からの贈り物ですよ。そう、社交辞令的な物ですよ」
「じゃあ、どうしてさっきあんなに話すのを嫌がったのかしら」
「それはですねぇ・・・」
「それに、そんな手のかかる手編みのマフラーなんて、社交辞令で送ってくるかしら」
「あう、えっと、なんというか」
「では、次の質問です」
「まだあるんですか!?」
「あたりまえよ。根掘り葉掘り聞いてやるんだから、覚悟しなさい。もらうときにその、狼の天狗・・・名前は何?」
「・・・椛です」
「そう、その椛っていう子は、何って言いながら渡してきたのかしら」
「・・・それを、聞きますか」
「もちろん。さあ、どうなの」
「う~。それはですね、えーと、そうですねえ」
「ふむふむ、愛してますって渡してきたのね」
「そこまでいきませんっ!!!」
「そこまでってことは、そういった方向で渡してきたのね」
「それはっ」
「それじゃあ、好きです、くらいかしら。どうなんですか?射命丸さん?」
「・・・・・・・・・」
「はい、なるほどね。分かったわ。じゃあ次。その椛って子に対しての、あんたの返事を聞きましょうかね」
「も、もうこれくらいにしてくれませんかっ。自分でも、顔が赤いってわかるくらい顔が熱いんですよ」
「だめよ、だめだめ。今日はとことん聞くって言ったでしょ。あんたの記者魂はいま私の中で燃えているの。さあ、返事は何ていったの」
「も、もう、勘弁してくださいよ~」
「ふふふ、お顔がもみじ色。なんてね」
「---------っ!!!!!」
この時、射命丸は霊夢の勘の恐ろしさを嫌というほど味わうことになる。そう、博霊の巫女はちょろくなんかないのだ。
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20分ほど逆取材が続き、終わった時には射命丸は『満身創痍』状態、霊夢は『ニヤつきエクステンド』状態であった。
「・・・なるほどね。だから真っ赤なマフラーなんだ」
「もういやだ。取材を受けることがこんなに嫌な事だったなんて」
炬燵の台に顔を突っ伏している射命丸がそう呟く。この場合は取材を受けた相手が悪かった、というべきなのだが。
それに対しニヤニヤ全開の霊夢はおいしそうにお茶をすすっている。お茶受けが極上ものだったのだ。当然である。
「ほんと、惚気話を聞かされて口の中が甘くなったわ~。お茶が美味しいこと美味しいこと」
「聞かされたって、聞いてきたのは霊夢さんじゃないですか」
「あんたの意思で話せって、最初に言ったじゃない。そうでしょ」
「ほ、本当にちょろくなんかない。むしろ、手強すぎる」
「私をあんまり甘く見ないことね。いやあ、それにしても面白かった」
「・・・あーうー」
「あら、諏訪子の真似?」
「現実逃避です」
そう射命丸が言うと同時に、ガラっという音とともに障子があき、外気が入ってきた。もちろん外気だけでなく、障子をあけた人物も一緒にだ。
その来訪者は、黒い衣に白のエプロンを重ね、あやしげなとんがり帽子を被った、見るからに魔女という格好の、普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。
魔理沙は居間にいる二人を見るなり、
「おお、珍しいな。文屋がいる。今日はどうした、取材か?あと霊夢、遊びに来てやったぜ」
といった。
「あのね、話す順番が逆でしょ。まず私に挨拶しなさいよ」
「すまんすまん。いや、珍しかったからな」
へへへ、とはにかみ霊夢の左隣りに座る。射命丸から見れば真正面になる。
「どうした文。何やらお疲れのようだが、何かあったのか?」
炬燵に顔を突っ伏している射命丸を見て魔理沙が問いかける。
「いえ、別段何もございませんよ」
「なんだよその口調は。何かあったな、そうだろ霊夢」
「ええ、大ありよ。特ダネが入りましたよ~、魔理沙さん」
その言葉にニヤリと笑う魔理沙。顔を突っ伏している射命丸にもその顔が浮かび、冷汗が背中を伝った。
(もしやこの巫女、言うつもりではあるまいか。いや、絶対に言う。面白おかしく脚色して言う!!)
「ほうほう、特ダネですか霊夢さん。詳しく聴かせていただいても?」
「もちろん喜んで。口の中が甘くなるから気をつけなさい」
「カロリーが高いのは遠慮しとくぜ。で、何があったんだ」
そんな二人のやり取りを聞いて、射命丸はがばっと顔をあげる。
「ちょっと霊夢さん!後生ですから、それだけは~」
その射命丸の顔は一言で言うと必死。いつもの飄々とした雰囲気はどこへやら。
「おう、そんなに嫌なのか。それは是非聞かないとな。後あとのいい酒の肴になりそうだ」
「じゃあ、説明するわね。二日前なんだけどね」
「うう、ひどい。あんまりだ~」
少女説明中。
その間、射命丸は自分のバレンタインデーを詳細を事細かに説明されるということを、ただただ聞いているという半ば拷問のような仕打ちを受けることになった。
「ふうん。そんなことがねえ」
「妬けちゃうわよねえ」
さらに追い打ちを掛けられた射命丸はもう言葉を発することさえ億劫になっていた。
「さて、魔理沙さん。どう思いますか」
霊夢が魔理沙に問いかける。もちろん自分と同じように射命丸をからかうようなものを期待したものだったが、帰ってきたのは予想に反したものだった。
「・・・いや、いいんじゃないか。せっかくのバレンタインだからな」
ほえ?と霊夢が。へっ?と射命丸が魔理沙に返す。
おかしい。いつもならここで追い討ちをかけるがごとく、軽口やら皮肉やらが一つや二つは飛んでくるはずだ。
「なんだよ、その反応は。なに呆けてんだ二人とも」
何やら、思うことがあるかのような魔理沙の様子。不思議に思う二人。
(いつもなら霊夢さんと一緒になってからかってくるはずなのに)
(いつもなら私と一緒にからかうはずなのに。もしかして・・・)
そう思って考える二人。からかえない状況にあるということはどういった状況なのだろうかと。
射命丸はあることに気付いた。魔理沙も自分と同じなのではないか、だから私の状況に突っ込めないのではないかと。
霊夢は勘が働いた。これはまたからかうとかそういった方向で、面白いことが起きそうだと。
射命丸が霊夢に視線を送ると、すでに霊夢は自分の方向を見ていた。
(これはおもしろいことになりそうですよ)
(そうね。でも魔理沙が相手。ここは慎重にいかないと)
(私に考えがあります。お先にいっても?)
(分かったわ。うまくやりなさい)
(了解!)
以上はアイコンタクトでのやりとりである。無駄に息がぴったりである。
二人でうなずき合って、おもむろに射命丸が口を開いた。
「そういえばこの前、アリスさんに取材に行ったとき、何か用意していましたね。たしかチョコレートだったはずですが。」
その言葉にびくっとなる白黒。
「へえ、そうなの。だれに渡したのかしら。ねえ魔理沙、気にならない?」
もう一度びくっ。
にやりと笑う霊夢と射命丸。
「ほうほう、貰ったのは魔理沙さんのようですね。」
「・・・なんでそんなことがいえるんだよ」
反論をする魔理沙。しかしその様子はおかしく、なにか焦った印象を与える。
「あれ、違いましたか。アリスさんに取材したときに普通の黒いチョコとホワイトチョコを作っていたから、白黒の魔理沙さんにかと」
「なっ!あいつ取材なんて受けてたのか」
「どうでしたかホワイトチョコの味は?」
「・・・黙秘だぜ」
「ほう、本当にホワイトチョコと普通のチョコだったんですね。当てずっぽうでも言ってみるもんですね、ねえ霊夢さん」
はっとする魔理沙。ニヤつきが増している目の前の二人に今の状況を悟る。
「・・・担いだな、文」
「はい、取材なんてアリスさんが受けてくれるはずないじゃないですか。さて、どうして魔理沙さんはアリスさんが用意したチョコが2種類ある事を知っているんでしょうか、霊夢さん」
「それはおそらく、魔理沙が貰ったからじゃないかしら。アリス特製の、魔理沙の色をイメージしたチョコレートをね」
自分がはめられたことに気付いた魔理沙。うまくいったとニヤついている目の前の二人は、もうこれ以上面白いことはないかのように言葉を続ける。
「さあて、さっきまで何があったのかしら、文?」
「私が霊夢さんから取材を受けていましたね~。バレンタインデーについて」
「そうそう、でもそれはさっき終わっちゃったのよね」
「そうです。でも霊夢さん、安心してください。新しい取材対象があらわれましたよ」
「それが魔理沙ってわけね」
「そうですとも。さて霊夢さん、先ほどまで燃え上っていた記者魂は現在どのような様子ですか?」
「ふふふ、もっと燃え上っちゃってるわよ~。それこそ、チョコレートも溶かしそうなくらいにね」
自分の眼前で繰り広げられる茶番に魔理沙は直感的にさとった。
(こいつら私で遊ぶ気だ)
相手が悪すぎると理解した魔理沙は、この場は逃げるしかないと思い、
「よ、用事を思い出したから帰るぜっ!じゃあなっ!」
と、がばっと立ち上がると障子に手をかけ、飛びだすつもりで思い切り開こうとした。
しかし、障子は開かなかった。そしてよく見ると、障子と障子の間にお札が貼られていた。
その札には、『開けること叶わず』と、自分がよく見たことのある、ミミズがのたくったような文字がでかでかと中央に書かれてていた。
さらにそのお札には、『博麗特製』と律儀に製造元まで書いてある。
(こんな適当な感じのお札で効果があるのかよっ!)
と、冷静に心の中で突っ込んだが、このように効果は絶大であった。
逃げ場を失くし次の手を考える魔理沙に、とどめがやってくる。
「どこにいこうというのかね」
霊夢が静かな声でそう声をかける。
「逃げようったってそうはいきませんよ~」
射命丸が明るい声でそう声をかける。
「「では取材を開始しましょう。」」
そんな二人のニヤついた顔を見つめながら、魔理沙は今日は自分にとって厄日だということを、今更になって理解した。
そのあと、恥ずかしそうに顔を伏せながらバレンタインデーの詳細を話し、自分で言ったことに自分で悶え真っ赤に顔を染めているかわいらしい白黒や、
その様子を見ながらニヨニヨ、ニヤニヤしている少し気持ちのわるい巫女と天狗が神社で目撃されたらしいが、それは別のお話である。
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「ところで霊夢さん。部屋の隅に転がっている紅白饅頭の空き箱はいったい」
「ああ、一昨日紫に貰ったのよ。なんかあれ置いてすぐ帰っちゃったけど、いったいなんだったのかしら」
(・・・・・・気づいてやれよ、この鈍感巫女)
ただできれば顔真っ赤な椛の描写も欲しかった・・・w
文と魔理沙がバレンタインのことを詳しく聞きだされて顔を赤くしている姿とか良かったです。
姦しい、とは本当によく言ったものですね。
あまあまなお話ごちでした。
2月なら当たり前だと思うのですが(笑)
気付いてもらえないゆかりんが不憫すぐるww
それにしても文かわぇぇ・・・
最後の三行で紫が全部持っていったww
さすが胡散臭…(スキマ逝き~