Coolier - 新生・東方創想話

フュージョンは正しい指導の元で気持ち良く行いましょう

2009/08/09 23:53:53
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地下深い図書館には魔女が棲む。
ページをめくる手以外は動かない、まるで据え付けられたオブジェのような少女。
少女──パチュリー・ノーレッジは、その名が表すとおり日がな一日ここで知識を追い求める。
顔色も優れず病弱な様は儚げで、着替えも面倒だと言わんばかりの寝巻のような服装はパンツもはかなげであった。

「これだわ」

読んでいた本を閉じ、パチュリーは大きく息を吐いた。
そこに描かれていたのはまさに魔法。世界の終末にすら抗しうる力と言っても過言ではあるまい。
ならばそれを体現してみせるのが幻想の住人、そして魔法使いたる自分の意義であろう。
使命感に駆られたパチュリーは意を決して立ち上がった。

「小悪魔、しばらく籠もるから」
「またですか。いい加減にしないとお体にさわりますよ」

パチュリーは魔法の研究に移る際、それだけ告げて一室に籠もる。
小悪魔もそんなことはもう慣れたもので、あれしろこれしろと言われずとも適切なサポートを行うのだ。
食わせ者揃いの紅魔館において、食えそうで食えないお菓子の中のシリカゲルのような存在である小悪魔だが、パチュリーには必須の従者なのである。

「……で、どうして私は遠慮のカケラもなくお尻揉まれてるのかしら」
「ちゃんと触るって言いましたし。
 このまロい(まるくてエロい)お尻が座りっぱなしで固くなりでもしたら国家的損失ですので、そりゃもうねっちり丁寧に揉みほぐしませんと」
「……じゃ、後よろしく」

ごぅ、と火柱に包まれる小悪魔に後を任せ、パチュリーは研究室へと入っていった。
こんな桃色の脳細胞の持ち主ではあるが、それでもサポートは必要なのである。
迂闊に放っておかれると、うっかり力尽きて死にかけたりするので。





そして、そのまま一ヶ月ほどが経ったある週末。


「──咲夜」
「ここに」

つぶやくような声すら逃さず、パチュリーの右斜め後ろに音も無く咲夜が出現する。
十六夜咲夜。メイドの鑑である彼女は紅魔館の中ならば呼べばどこにでも現れる。
紅魔館、そして地下の図書館は咲夜の能力によって拡張されている。
すなわち館内は咲夜の支配する世界、咲夜の体内であると言っていい。
その支配下において、咲夜は針が落ちる音ですら聞き漏らすことはないのである。
──もちろんプライベートは完全に守られております。メイド長はかく語りき。

「あの二人を連れてきて」
「あの、とはどのでしょうか」
「やたらいちゃいちゃしてるくせに見てるとイライラするくらい進展の無い輩のことよ」
「まな板と鯉ですね、わかります。もとい、承知しました」

一礼すると、その場から咲夜の姿がかき消える。
それと同時にテーブルの上にはティーセットが出現していた。どこまでも気の回るメイドである。
せっかくなので紅茶をすすりつつ待つことに。

「さて、どっちが上なのかしらね」

鯉の上のまな板かもしれないが。
尻に敷いてるという意味でならまな板の上に載っているか。


程なくして、二人の姿がパチュリーの前に現れた。

「おわっ!? ってて……」
「へ? きゃあっ!?」

体勢からして椅子に座り掛けていた魔理沙が派手に尻餅をつき。
ワンピースを脱ぎかけていたアリスは声を上げ、とっさに腕で自らを抱くように体を隠す。
トンネルを抜けたら雪国で、服から頭を抜いたら図書館だった。何を言ってるかわからないと思うが咲夜の仕業だ。
しかし咲夜も着替えた後で連れてくればいいものを。
まあこれはこれでよろしい。まな板は見るものではないが鯉は観賞して楽しむ部分がある。

「状況からして咲夜に拉致られたのか。……一体何の用だ?」
「わざわざ時間を止めて連れてきたってことは、一分一秒を争う火急の用ってわけ?」

魔理沙が埃を払って立ち上がる間に、アリスも服を着直して身なりを整える。
さすがに二人とも飲み込みが早い。慣れたものである。

「……にしても、せめてちゃんと服着てる時にしてもらいたいもんだわ」
「入浴中とかもっとアレな時とかでなかっただけ感謝することね」
「ぐっ、そう言われると感謝するしかないじゃない……。ありがとう」
「やな会話だな」


二人に向いたパチュリーはごほんと空咳を一つ打ち、切り出した。

「私の実験に付き合ってもらおうと思って」
「じゃあなー」

「実験」のあたりできびすを返した魔理沙はすでに逃げ出していた。
即座に呪文を唱えたパチュリーから触手がにゅるりと伸び、逃亡者を追いかける。
透明な腕が逃げる魔理沙に絡み付き、ぐるぐる巻きにして動きを封じてしまう。
ジェリーフィッシュプリンセスのちょっとした応用である。用途も様々、実に便利。
クラゲの足が戻っていくと、簀巻きになった魔理沙もずるずると引きずられて元の場所へと戻された。

「どこへ行くの。あなたには拒否権も黙秘権も弁護士を呼ぶ権利も無いわ」
「えらく凶悪犯になったものね、あんた」
「生きてるだけで罪ってか。人気者はツラいな」

にべもなく言うアリスに、魔理沙がふてぶてしく返す。

「寝言はさておき、逃げなくてもいいじゃない。あなただって私の魔法には興味もあるでしょう」
「無くもないが、アリスはともかく私を実験に立ち会わせるってのが怪しさ大爆発だぜ。
 あいにく今日の占いは大人しく家に籠もってろ、だったんでね」

ふん、と唯一動く顔だけ背けて抵抗の意を示す魔理沙。
その気にさせようと説得するのは時間の無駄だし、本の延滞を盾にしてもいつも通りのらくら言い逃れるだけだろう。
アリスや霊夢と違ってパチュリーは今ひとつ魔理沙の扱いに得手が無い。

「……あなた、確かツチノコ飼ってたわよね」
「それが何だよ」
「ツチノコは大食らいで雑食らしいわ。うっかり無味無臭の毒が混入された物でも口にしたら大変ね。
 もがき苦しみ、のたうち回って痙攣したあげく無惨な屍を──」
「だああああっ! やめろよ!?」
「なぜ狼狽するの。私はごく一般的な雑食生物の生態とその行動についての推測を述べただけよ。
 あら、そう言えば今日は小悪魔に魔法の森まで薬草を取りに行かせる予定だったっけ」
「わーったよ、やりゃいいんだろやりゃ! ……ちくしょう、鬼かお前は」
「魔女が鬼ほど公明正大な生き物だとでも思ってたの? おめでたいわね」

下ぼ……協力者一人確保である。
続いてもう一方の説得に移る。こちらは魔理沙と違って逃げる様子も無い。
遣り取りの一部始終を自業自得とでも言いたげな目で眺めていた。

「あなたは手を貸してくれるかしら」
「内容次第じゃ乗らなくもないけど。いくら興味あることでもリスクと釣り合わないならお断りだし」

整然と話すアリス。
基本的に魔法使いは自らの研究を秘匿する。
完成した成果を公開することはあるが、その研究過程、ノウハウは断固として秘密。商売と同じである。
それでも、どうしても手が足りないときは同業者に協力を仰ぐことはある。
その場合は限られた情報からどれだけ盗めるか、それをどれだけ防げるかのせめぎ合いになる。
中には終われば秘密を守るために協力者を始末するような輩もいるだろう。
そして魔法の実験に危険が付きものなのは魔法使いならば誰しも承知の上。
アリスもパチュリーが直接命に関わることをしてくるとは思っていないが、事故の可能性までは否定できない。
故に自分の研究に繋がる要素が無い、もしくはデメリットの方が上回ると思えば、アリスはリスク回避も含めてすぐに断るだろう。
しかし適当に誤魔化したところで、実際に実験が始まればアリスは魔法式を読み解いて見破ってしまう。
ならば嘘を付くメリットは無く、素直に話した方がまだ頼みやすいと言える。

「……今回の実験は、二つの存在を融合して数段上の力を持った存在を生み出す魔法よ」
「私パス。帰りましょ、魔理沙」
「まあ待ちなさい」

転がったままの魔理沙に巻き付いた触手が枝分かれし、にゅるにゅるとアリスの両足に絡み付く。
動けないアリスは憮然とした表情でパチュリーを見やる。

「どっちが取り込まれるのか知らないけどお断りよ。誰が好き好んで自分を投げ出すって言うの」
「いいじゃない、どうせ夜は合体してるんだし」
「してないわよ!?」

顔を真っ赤にしてむきーっと激昂するアリス。
ムキになるところが……と言いかけたが、今回はいじるのが目的ではない。
なおも「一緒に寝てるだけよ! ベッドが一つしか無いのに泊まりに来るんだから仕方ないでしょ!」
などと言い訳らしき戯言を吐き出すアリスの脳天にチョップを落として黙らせる。

「最後まで聞きなさい。本によれば効果時間は三十分ほど。
 存在を作り替えるような魔法を永続させるのは極めて困難だもの」

魔法というのはそもそも歪んだもの。世界はその歪みを修整する方向へ動いていく。
だから錬金のように物質を作り替える魔法は難度が高い。
今回組んだ魔法は生物に干渉するだけにさらに難度も高く、時間制限を付けざるを得なかったのだ。

「私からも質問いいか」
「どうぞ。疑問があるなら早い内の方がいいわ」

アリスの説得の間、ずっと黙っていた魔理沙が口を開く。

「何でわざわざ私たちなんだ。協力って言ってもただの実験台だろ、これ」
「そうね。さっきの言いようなら、融合する二つの存在は別に魔法使いである必要は無さそうだし。
 ここには咲夜や門番だっているし、メイドの妖精だって山ほどいるじゃない」

魔理沙の疑問にアリスも同意する。
確かに、妖精のような魔法に疎い者を連れてきて適当に誤魔化した方が面倒はない。

「あなた達を選んだ理由もちゃんとあるわ。
 第一に、この魔法は同じくらいの体格、同じくらいの力を持った者同士でないとダメとあったこと」
「それこそおかしい話だ。体格はともかくとして、私とアリスの間にゃ人間と妖怪の壁があるぜ」

それも魔理沙の言う通りだ。
弾幕ごっこの戦績ならば魔理沙とアリス、パチュリーはほぼ五分だ。
しかし、こと「魔力」自体を比べれば人間と妖怪には覆しがたい差が厳然として存在する。

「そもそもまったく同じ力を持つ他者なんて存在しないわ。そこはアリスに任せるから」
「私?」
「ええ。魔力のコントロールは得意でしょ」

アリスは若い魔法使いだが、魔力のコントロールにおいては卓越した手腕を持っている。
自身の力を抑え、繊細な調整を行うことも楽にこなすだろう。

そしてもう一つの理由はこの二人の相性の良さ。
通常、魔力を重ねると波が打ち消し合うように相殺される部分が出てくる。1+1が2を下回ることが多いのだ。
しかし、この二人の場合は波長が似ているのか、1+1が3にも4にもなると言う極めて稀なケースである。
力を相乗させるこの魔法の実験にはうってつけの人材と言える。
そのことを伝えると、二人は「危険を感じたらすぐに中断、そして身──特に人間である魔理沙──の安全最優先」を条件に渋々ながら了承を返した。



「────セット」

パチュリーの魔力に応え、床に直径四メートルほどの魔法陣が描かれる。
指示に従い、魔理沙とアリスの二人がそれぞれ陣の両端に立つ。
まずは二人の力を均衡させる作業からだ。

「魔理沙は自然体で。心を落ち着けて凪のような状態を保ってちょうだい」
「……こんなもんか」

至極あっさりと平静を保つ魔理沙。
魔理沙は直情型に見えて、その実、小賢しく立ち回るタイプだ。
精神状態の調整くらいはお手の物である。

「次はアリス、ゆっくりと魔力を抑えて。
 ……落としすぎ、少し上げて……そう、そんなところね。二人とも、その状態を覚えておいて」
「……ふぅ、りょーかい」

こちらも問題なく終了。
とりあえず準備段階はOK、本題はここからである。

「で、実験台は立ってるだけでいいのか?」
「融合がどうのってわりにはずいぶん離れてるけど」
「これから説明するわ」

二人の前に立ち、パチュリーはごほんと一つ咳払い。

「まずは距離を置いた状態で二人が並んで立つ。そして──」

左腕を水平に上げ、右腕を沿わせるように左側へ向ける。

「フュー……」

ちょこちょことカニ歩きをしながら、両腕は頭上を通る半円を描いて逆側へ。

「ジョン!」

右側に行った腕を素早く左側に振り戻し、拳を握り込む!
同時に右足でつま先立ちしつつ、左膝を曲げて腕と逆方向へ突き出すように。

「はっ!」

曲げた左足をぴーんと伸ばして着地させ、指を伸ばした両腕とともに体を右へ倒す!
指先からつま先まで流れるような美しいラインである。

「はぁ、はぁ……この動きを左右対称にやって、最後のところでお互いの指を合わせれば完了よ……」

気合の入った動きで疲れたのか、ぜぇはぁと息を乱すパチュリー。
しかし動き自体は完璧だったと自負するパチュリーは、むふぅと鼻息を荒らげ、きらりと光る目を二人に向けた。
マーベラス! と惜しみない賞賛と拍手が……おや。
二人は眉間に皺を寄せ、異世界の生物でも見るような目をしていた。

「何でそんな恥ずかしいマネしなきゃいけないんだ……?」
「え? だって本にそう書いてあったもの」
「そんなの適当に式をアレンジして組めばいいじゃない!」
「もう組んじゃったから。一ヶ月かかったのに作り直すのも面倒だし」

二人は無言でくるりと背を向けた。

「さて、今日の夕飯どうしよっかな」
「和風ハンバーグがいいな。大根おろし載せて」
「いや別にあんたの希望を聞いたわけじゃないんだけど。
 まあいいか。お醤油切らしてるから持ってきなさいよね」

「……口約束とは言え、魔女との契約を破ってタダで済むと思わないことね。呪うわよ」

二人はぴたりと足を止めて振り向き、元の位置へと戻っていく。
あのまま帰っていたら強烈な呪いも辞さない方向であった。それこそ一週間くらいトイレから動けなくなるようなキッツいヤツを。

だってポーズ自体はカッコいいと思って魔法を組んだのだから。




「では、術式を始めるわ」

パチュリーが詠唱を開始すると、魔法陣がひときわ強く輝きを増し、その外周に薄い光の壁が現れる。

「はぁ……、仕方ないからやりましょ。少しでも早く終わらせたいわ」
「……そだな。天狗の目が無いことを祈るぜ」

若干顔を赤らめた二人が、左右対称に腕を上げる。

「フュー……ジョン!」

ぶっつけ本番だと言うのに、鏡写しのようにぶれの無い対称の動き。
無駄に息が合っている。さすが幻想郷のゴールデン(金髪)コンビ。
アリスが岬君なことには異論は無いとして、魔理沙がどう見ても日向小次郎なのがネックだ。

「はっ!」

掛け声とともに二人の指がぴたりと合う。
そして、それと同時にパチュリーの呪文が完成する。
ごそごそと懐から取り出されたカードの山。その一番上をぺらりとめくる。

「デッキから融合の魔法スペルカードを発動」
「やっぱこのポーズ必要無いだろ!?」

魔理沙の悲痛な叫びが光の中にこだまする。
魔法陣が中心部へと集束していき、ひときわ強い白光の中に二人の影が飲み込まれた。

ごう、と風が吹く。

「むきゅ……っ」

室内、しかも地下なのに吹き荒れた強風にたたらを踏むパチュリー。
あふれ出た魔力の波が物理的な力となってパチュリーの体を圧したのだ。
そして、収まった光の中に立つ姿は一つ。ここに賢者の魔法は完成した。

現れた『少女』は閉じていたまぶたをゆっくりと開く。
その向こうにあった瞳は魔理沙の金、アリスの蒼を混ぜたような碧色。
翡翠の瞳をパチュリーに向け、『少女』は魔理沙のように口の端をゆがめてにやりと笑う。

「言うだけのことはあるなー。何もしてないのに力があふれてくるみたいだ」
「予想以上に上手く行ったようね。自賛はシュミじゃないけど完璧と言わざるを得ないわ」

『少女』の姿をざっと上から下まで見渡してみる。
足下はブーツで服はエプロンドレス、ただし色は黒ではなく青。肩にはアリスのケープを巻いている。
二人とも金髪だが、背中にかかる長さと一房垂らした三つ編みは魔理沙。
少し薄い色合いとややウェーブがかった髪質、それをカチューシャでまとめているところはアリスか。
しかし、二人の要素が混じっているのに驚くほどに違和感がない。
どちらかが「ちょっとイメチェンしてみました」とでも言えば通りそうだ。
目の前で融合した二人だが、実は元々は一人だったのが何かの切っ掛けで二人に分かれていたのではないのか。
それぞれが正義と悪の心に……、正義はないか。この二人なら陰と陽とかで。
そんなことを考えている内に、パチュリーの眼前から『少女』の姿が消えていた。

「あれ?」

不意に消えた姿を探して視線が往復する間にどかん、と盛大な音が。
その方向へと目をやれば、『少女』が天井に外まで通じる大穴を開けていた。

「ちょいとばかし試運転してくる」
「ダメよ。勝手な行動しないで」
「昔の人は言ったぜ。かわいい子には旅が似合うってな」

などと言いつつ、『少女』は金色のオーラをまとって矢のようにすっ飛んで行ってしまった。
誰だ、そんなアバウトなこと言い残したのは。
残った穴からはスポットライトのように日の光が差し込んでいる。
見上げていた首が痛くなり、パチュリーは視線を戻した。

「……中身はほとんど魔理沙なのかしら」

上手くいっているなら効果時間は三十分。
こういうときにあの鉄砲玉を御せるのは人形遣いなのだが、それは今し方文字通り一緒になって飛んでったばかり。
まあアリスの要素も入っているなら時間いっぱい遊び回るようなこともないだろう。
どうせ追いかけてもあのスピードでは追いつけるわけもないし。


ごぉぉ……ん


遠雷か何かだろうか。雨に降られると開いた穴から入ってきそうだ。
それはそれとして、ポーズ指導と魔法で疲れたのでパチュリーはお茶でも飲みながら待つことにした。




それから五分と少々。
パチュリーがハーブティを飲み終える頃に『少女』は図書館へと帰還した。

「早いわね。思ってたよりずいぶんと」
「ああ、あっと言う間に幻想郷を一周だ。物理的な意味で音速が遅いぜ」

わははと笑う『少女』。
やはり口調も性格も魔理沙がやや前面に出てるのだろうか。
魔理沙の我の方が強いのか、アリスが普段からサポートっぽい立ち位置に身を置いているからか。


ごぉぉ……ん


またか。さっきより音が近いようだ。
天井の修復もしなければならないが、時間に限りがある方が優先だ。

「融合している内にいくらか話を聞いておきたいわね。
 えっと……何て呼べばいいのかしら。名前は?」
「アリサ」
「わかりやすくて助かるわ。
 ……まず意識はどんな感じになってるの? 口調からして魔理沙がメイン?」
「うーん、口で説明するのも難しいんだが……。
 魔理沙もアリスもちゃんと意識はあるんだけど、考えてることは一緒でな」

通常ではあり得ない感覚のため、例示して説明するアリサ。
例えば「右手を挙げよう」と考えたとき。
魔理沙もアリスもそれを同時に思考し、かつ互いが同じことを考えていることまで同時に認識している。
そしてそれにまったく違和感を感じないと言う。
一つの体を二人で使っていながらまったく対立が無い。完全な同調と言うべきか。


「……ふむ。なかなか興味深いけど、突っ込んで考えるのは後ね。三十分しか無いんだからきりきり行くわよ」
「あいよ。次はどうする?」
「そうね……。実際どれくらいの力になってるのか、この目で見たいわ。
 とりあえず外に出て魔砲の試し撃ちでもしてみましょうか。くれぐれもチャージで三十分とかかけないように」
「どんだけ効率悪いんだよ」


「パチュリー様ぁぁっ!」


悲鳴のようなけたたましい叫び声とともに門番をしていたはずの美鈴が転がり込んできた。

「どうしたの、騒々しい。あなたお昼寝中じゃなかったの」
「それが突然強烈な殺気で目が覚めまして。
 すわ一大事かと様子を見に行ってみれば、妹様が暴れ出していて……」

殺意の波動で目覚めた美鈴。やたら格好良さげな字面だがただの寝起きだ。

パチュリーは眉をひそめる。
霊夢や魔理沙と会って以降、フランドールはだいぶ落ち着きを見せていた。
ここ最近では館の中を出歩き、レミリアや美鈴と仲良く遊ぶくらいになっていた。
それなのに。よほどのことがあったに違いない。

「一体何があったの」
「どうやらお嬢様がうっかり妹様のぶんのプリンを食べてしまったとかで」
「ッ! レミィも愚かなことをしたものだわ……」

これでは紅魔館の半壊程度は覚悟しなければならない。
先ほどから響いていたのも雷などではなく館が内から崩壊する音だったようだ。
悔恨の表情を見せるパチュリーに、事情を飲み込めないアリサが突っ込む。

「仰々しいと思えばプリンかよ」
「滅多なことを言うものじゃないわ。ただのプリンじゃないからこうなってるのよ」
「責任取ってお嬢様が咲夜さんと一緒に買いに行ったんですけど、凄い行列でしばらく帰れそうにないみたいです。
 私一人じゃどうにもならないので、パチュリー様にも応援願おうかと」

それもむべなるかな。
ここ紅魔館で「プリン」と言えばただのプリンではない。ただのプリンならば咲夜が作る方がずっと上等なのだから。
それは里の洋菓子店が提供する、守矢のスイーツ巫女も絶賛の一品である。
牛ではない乳を使っているところがミソらしいのだが、それの正体や入手先を知る者はいない。
里の事情に通じている慧音をして「いや、知らないから。ほんとに」と言わしめる原料は、同量の銀に匹敵すると言われるほどの価値。
そして販売されるプリンは数量限定、週末のみの販売となっているため、熱戦どころか燃え尽きるほどの超激戦が展開される。
もちろん一人一限、八雲の大妖や花の妖怪と言えど割り込みは許されないのだ。

「……仕方ないわね。妹様が外に出る前に雨で足止めを」

館が壊れただけなら修理すればいいが、外で暴れられては取り返しが付かない。ぐーたら巫女が出張る事態にまでなると非情にまずい。
とにもかくにもフランを館内に釘付けにしておくのが先決である。
パチュリーは館の周囲のみに雨を降らせるべく、呪文を唱え始める。

──その瞬間、入り口の鉄扉がひしゃげて吹き飛んだ。

爆風でもうもうと舞い上がる埃を切り裂き、フランドールが現れる。
その眼を狂気に彩らせたフランが、目に留まった標的めがけて猛烈な勢いで突進を開始。
虹色の宝石輝く翼がはためき、無数の弾幕が降り注ぐ。

「──ッ!」

その先にいたパチュリーはまったく反応できないでいた。
長大な儀式魔法に取り掛かり、意識をそちらに向けていたため、降り注ぐ弾丸が目に入ってはいるが体が動かない。
スローモーションのように見える弾幕に、半ば諦観するかのようにパチュリーは目を閉じる。
完全に無防備なまま、パチュリーのいる空間は破壊の雨に晒された。

「……え?」

来るはずの衝撃──体をズタズタにするほどの──が来ない。
ゆっくりと目を開けると、最初に目に入ったのは背中まである金の髪。
フランの弾幕を障壁で弾き、続いて繰り出された破壊の爪をその手で掴み取っていた。

「……まり! ……さ?」

眉をひそめて語尾が疑問形。
事情を知らないフランにはパッと見、魔理沙に見えたが何だか微妙に違う人。

「ふふん。残念だが魔理沙じゃない、お前を倒す者だぜ」
「魔理沙じゃないならいいや! 壊れちゃえ!」

もう片方の腕が振るわれる前にフランを振り払い、小さくバックステップして距離を取る。

「アリサ様の閃光の魔法を食らいな!」

床を蹴った一瞬でアリサがフランの懐に潜り込む。
反射的に振るわれた爪を横にまわって回避しつつ、放った膝蹴りがフランのこめかみを容赦なく抉る。
一瞬遅れて襲ってきた爆発的な衝撃でフランの小さな体は壁まで吹っ飛んでいった。
壁を砕くほどに強かに打ち付けられ、がらがらと瓦礫に埋もれるフラン。

「どっかーん!」

気合一発、弾けた魔力で瓦礫が吹き飛び粉微塵に砕け散る。
瓦礫の中から飛び出し、天井近くに現れたフランは──四人。

フォーオブアカインド。その名の通り、フランが四人に分身する術である。
もちろん分身したからと言って、一人の力が四分の一になったりするダメっぽい技ではない。

「禁弾「スターボウブレイク」っ!」

そして四人になったフランが一斉に弾幕を展開する。
降り注ぐ弾幕はまさに一枚天井。抜ける隙間などありはしない。

「隙間の無い弾幕は御法度だぜ!」

アリサは薙ぎ払うような一人マリス砲で弾の壁に風穴を開け、そこからフランへと突っ込んでいく。
残った弾は消えることなく降りかかり、その範囲にはパチュリー達も。
石造りの床を砂糖菓子のように穿つ弾幕を、パチュリーは何とか魔法障壁で耐え凌ぐ。

弾の雨が止んだ図書館天井では、アリサがフラン四人を相手に互角に渡り合っていた。
時間差で、あるいは同時に振るわれる爪や弾幕を、スピードでやや上回るアリサがかわし、受け止めている。
妖怪の中でも上位に入る吸血鬼の速度と力、それを四人分まとめて相手にしているのだ。
にわかに信じがたい光景にパチュリーは息を呑む。

「うーん。何かあの人、妹様が動く前に動いてますね」
「動く前に……?」

攻防を見つめていた美鈴がぽつりとつぶやく。

その言葉で得心がいった。
融合したアリサは二人で一つの体を使っている状態。意識もそれぞれあると言っていた。
つまり魔理沙の意識は攻防に集中し、アリスの意識は周囲に張ってフランの挙動に集中している。
そしてアリスは次に来る行動を予測し、その情報を魔理沙へと伝える。
脳を共有しているため思考はそのまま伝わり、伝達のラグすら起こらない。
その一手先を取った猶予で手薄になる方へと動いて、相手の行動を一歩遅らせているのだ。

これはすごい。
実は「宴会芸になるかな」とか適当な動機で組んだ魔法なのに、えらいことになってしまった。


「……にしても速すぎて私にはよく見えないわ」

もともと薄暗い中での読書のせいで目はあまり良い方ではないパチュリー。
それに加えての高速戦闘で姿がぶれて残像がおぼろげに見える程度だ。

「もっと目に気を集中して! 私には見えてまふぎゃん!」
「ヤム……メイリーン!」

流れ弾が直撃してぶすぶすと美鈴が煙を上げる。
……美鈴はきっと嫌な予感がしていたのだ。
こういう時にババ引くのは自分だと。お約束、あるいはマーフィーの法則とも言う。
まあ一発もらった程度で死にはしないから大丈夫である。

「うぅ……、お嬢様ーっ! 早く帰ってきてーっ!」
「重要なのはレミィじゃなくてプリンだけどね」

派手な破砕音に目を向ければ、天井に開いた大穴へ消えたアリサをフラン達が追っていくところだった。
戦いの場所を広い図書館上空から、障害物の多い館内部へと移したのだ。
穴の向こうから弾幕が、振るう拳が、壁や柱を粉砕する嫌な音が聞こえてくる。

ここから先は時間との勝負だ。
レミリア達がすぐに戻ってくることを期待するのは分が悪い。
となれば、融合の制限時間が過ぎるのが先か、それまでにフランを撃ち落とせるか。
融合が解けてしまえば、あの二人とてフラン四人には敵うべくもない。

「──どちらにしても」

天井の穴を見つめてパチュリーはため息を吐く。
遠くで響く、雷のように激しい音が耳を打つ。

どうやら紅魔館の崩壊はそれよりも先のようだ。







「うぁぁ……」
「……これはまた派手にやったものね」

ひときわ巨大な破壊音の後、紅魔館ホールまで出てみると惨憺たる有様であった。
八割方瓦礫になった館内を、どこか遠くを見るような目で呆然としているレミリア。
その横、ボロボロになった赤絨毯の上で、アリスはつぶれた芋虫のようにうごめいていた。

制限時間ギリギリ、必殺のドラゴンメテオスマッシュでフランを撃墜。
そのすぐ後に戻ってきたプリンのおかげでフランは機嫌を直し、咲夜が部屋へ連れていったところでちょうど三十分が経過。
アリサは元の二人へと戻ったわけなのだが。

「体……いたい……ひぐ、らめぇ……」

天狗を超えるような速度で飛び回り、吸血鬼との全力戦闘をしたせいでアリサの体には相当のダメージや疲労が蓄積されていた。
融合していた間はその強靱な身体能力に支えられていたが、元に戻った二人に半分ずつ分けられたダメージは甚大なものであり。
妖怪に分類されてはいても、身体能力は大して高くないアリスはこうして身動き一つできなくなっているのであった。
ちなみに、さらに体力的に劣る魔理沙は融合解除した瞬間に白目をむいてぶっ倒れてしまっている。
一応呼吸はしているので死んではいないようだ。まあ気絶していた方が楽かもしれない。

「とりあえず、次の課題は見えたわね。術式を組み直すから、完成したらまた手伝ってくれないかしら」
「絶対……イヤ……」

何とか首だけ動かし、パチュリーをにらむアリス。

「あら、信用無いわね。
 大丈夫、解決の目処だってある程度立ってるわ。融合前にも身体強化をかけてダメージの緩和を──」
「そういうことじゃ……なくて……」

説明しかけたところを遮り、しかし途切れ途切れにアリスが続ける。

「……これ、融合してる間は何もかも共有してるのよ……」
「そりゃそうでしょ。体は一つなんだから」
「……脳も共有してるから、記憶とか、考えてることとか……色々ダダ漏れで……」

なるほど。
脳を共有したおかげで思考の高速伝達が可能になった反面、思考だけでなくそこに刻まれている記憶から何からすべて伝わってしまう。
知ろうとするまでもなく、当然のこととして知ってしまうのだ。
それこそ3サイズや昨日の夕食から、下着の枚数やいつまでおねしょしていたかまで、お互いプライバシーを全部ぶちまけたことになる。

「ふむ、わずか三十分で史上まれに見るくさい仲になったわけね」
「うう……だから、魔理沙が誰をどう思ってるかとか……何をどうしたいのかとか……。
 知っちゃいけないようなことまで全部わかっちゃって……」
「……」
「こんな状態でこれからどう顔合わせればいいのかわかんなくて……」
「…………」
「考えてることもやましいって言うか、やらしいって言うか……。
 あ、いや、だからって拒絶するわけじゃなくて、ちょっと困るって言うかむしろ嬉──」
「てや」
「あふん」

惚気くさくなってきたところでパチュリーの手刀を首後ろに落とされ、ぱたりとアリスも気絶した。



「咲夜」
「ここに」

いつものごとく、咲夜が出現する。
呼べばどこでも現れる。もはや「咲夜」は召喚の呪文か。

「この二人、無事な客室のベッドにまとめて放り込んでおいて。消耗してるだけだから特に手当はいらないわ」
「了解です。では翌朝にねぎらいも兼ねてこっそりコーヒーのサービスでも」

ああベッドの中は覗きませんからご安心をと一礼し、二人を両脇に抱えた咲夜の姿が消える。
気が回るのか下世話なのかどうにも判断しかねる。

まあそれはそれとして。
パチュリーは何だかすっきり晴れやかな心持ちにひたっていた。
それはもう歯に詰まった裂きイカが取れたくらいにすっきりと。
期せずして幻想郷の問題を一つ片付けてしまったようだ。

……よし決まりだ。
疲労うんぬんもだが、まずはもっと融合の制限を緩められるように組み直そう。
そして次のターゲ……協力者は巫女二人あたりにでもお願いすることにしよう。
この方法でどんどん幻想郷の煮え切らない問題を解決していくのだ。

「じゃ、小悪魔。例によってまた籠もるから」
「了解です! 次はもちろん私とパチュリー様ですよね!」
「いやそれはない。て言うか鼻息荒いわ」
「不肖小悪魔、魔界仕込みの知識を子細漏らさずダイレクトにお伝えしたいと思います!
 さぁパチュリー様、レッツフュージョン! コンゴトモヨロシク!」

テンション上がってきた、と小刻みに震える小悪魔。
何を流し込んでくるつもりだこいつは。
心も体も熱い炎で燃えさかる小悪魔を残し、研究への思索にふけるパチュリーであった。




──やっぱこあチュリーはないわ。
オッス、オラパチュリー!
ヒャー! フュージョンした二人のパワーにはオラぶったまげたぞ! でもまだまだ油断はできねぇな。
みんな、オラが[P]を回収するまで何とか踏ん張ってくりぇ!
次回 TOHOBALL 乙 「常識を超えた二人の巫女! オレの新しいワキを見せてやる!」
へへっ、こんなやべぇ時だってのにオラむきゅむきゅしてきたぞ!
───────────────────────────────────────────────
せっかくなのでドラゴンボール再ほ……リメイクの放送中にひとつ。
東方脳内メーカーを本名で試したところ、頭の中は魔理沙53%アリス35%と。残念、割合が逆。
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コメント



0.5430簡易評価
8.80名前が無い程度の能力削除
アリサ良いな
二人ともおめでとうw
9.90名前が無い程度の能力削除
過去からいくつかフュージョンネタはありましたが、これも秀逸な作品の1つだと思います、ええ。
何がいいって一番下世話なのがパチュってのがいいですよね。
12.90名前が無い程度の能力削除
巫女コンビも是非みたい
ええ、是が非でもみたいです

それにしてもマジックカード融合はダメだろwww
13.100名前が無い程度の能力削除
パチェさん!いいぞもっとやれww
14.90名前が無い程度の能力削除
早苗と霊夢はあわせにくいなぁ・・・
んー・・・だめだ上手くまとまらん誰か考えてー
15.100名前が無い程度の能力削除
巫女二人にも非常に期待w
なんか二人を足して割るとすっごく普通な巫女になりそな気がするww
20.90名前が無い程度の能力削除
続編待ってます。
21.90名前が無い程度の能力削除
これは続きが見たい。
しかしこの小悪魔と融合したら、無表情で子供に見せられないセクハラかます魔女ができそうだw
24.100名前が無い程度の能力削除
これはいいパッチェさん。
マリアリの関係もいい感じで、にやにやできました。
面白かったです。
29.90名前が無い程度の能力削除
何故マリスではなくアリサなのか?
それはともかく、夜の融合についてkwsk
30.80名前が無い程度の能力削除
「みんなー!オラにPを分けてくれー!」なのかww
アリサは元から金髪だがスーパーウィッチになったらどうなるんだ?
31.100名前が無い程度の能力削除
おおー!
これはいいw
もっと見たかったですw

続きが見たい!
40.90灰華削除
ここまでまロいについて突っ込みなしか…

それにしてもプリンの原料が気になるな~、ねぇ慧音先生。
46.100名前が無い程度の能力削除
むきゅむきゅで我慢の限界がw
47.無評価名前が無い程度の能力削除
次回予告に吹いたwwwwwwwwww
48.70名前が無い程度の能力削除
あとがきw
50.100名前が無い程度の能力削除
合体解除後のくさい仲となったマリアリの反応も見てみたかった
あとその後書きは巫女コンビ編に期待していいってことですねっ!
52.100名前が無い程度の能力削除
本編、あとがき両方にふいたwww
続編期待
54.100名前が無い程度の能力削除
テンポよく読めました!
素晴らしく楽しかったです!
59.100名前が無い程度の能力削除
いいぞ、もっとやれ、いややってください
60.100名前が無い程度の能力削除
やられた美鈴はヤムチャポーズですね分かります。
72.100名前が無い程度の能力削除
すごく面白かったです
次回の東風霊さん(仮)編も期待してますね
77.90名前が無い程度の能力削除
アリサなのにマリス砲なのね。
80.100名前が無い程度の能力削除
30分チャージwww
子供の頃の悪夢が蘇るようです。
81.100名前が無い程度の能力削除
めっちゃおもしろかったです。
次合体した時は是非合体スペルを・・・w
85.100名前が無い程度の能力削除
何故誰もパンツもはかなげに突っ込まないのか…
非常に面白かったです!この後二人がどうなったかきになる…
86.90名前が無い程度の能力削除
レッツメルトダウン!

1・2・3、ハイwww
99.90名前が無い程度の能力削除
後書きwwww
いろいろ感想考えてたけど全部もってかれたwwwww
115.100名前が無い程度の能力削除
慧音の乳を使ったプリンか……
117.100名前が無い程度の能力削除
菓子屋に何の弱みを握られてるんだ、慧音は。
126.100幻想削除
あとがきすごおもろい
144.100ミスターX削除
レイマリ合体希望
レリム「ファイナル夢想スパーク!!!」