Coolier - 新生・東方創想話

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2009/08/05 21:56:47
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どんな出来事でも、きっときっかけは些細な事なのだ。
それが、後でどんなに大きな出来事になったとしても。

大空を飛びたいと願った。
手の届かない星達を掴みたかった。
霧雨魔理沙はそういう性格の魔法使いだった。
正確にいえば、まだ人間なので『半人前』という事になるのかもしれないが、
本人は自分を大魔法使いだと言って、そして信じて疑わなかった。

初めて彼女を見た時から、胸の鼓動はずっと早まっている。
私はもう立派な魔法使いだから、心臓が何回動こうと平気だけど。
もし、この想いが貴女に届くのなら、私は迷わずその魔法を覚えるのに。
どんな苦しみも、どんな犠牲も払って、迷わず知ってもらうのに。

私は、魔理沙の事が大好きだから。

ある日、彼女はいつもそうする様に私の家に来て魔術書を読み漁っていた。
大体の所に目を通して、めぼしい魔術を見つけたらその本を持って帰るつもりなのだろう。
だけど私は、それをわかっていて彼女の横にいつも紅茶の入ったカップを置く。
いつも彼女は飲んではくれないのだけれど。
そんなやり取りが何回あったのだろう。
私はいい加減、自分の心の中の焦燥を抑えきれない所まで来ていた。
痛いから、苦しいから。
そっと、私は彼女の隣に座った。彼女はそれには気付かず、読書に夢中な様だ。
「ねえ、魔理沙」
返事は無かった。そう、大雑把にページを捲っているように見えて、彼女はとてつもない集中力で魔術書に目を通しているのだ。
その純粋に何かを求める瞳で、私の方を向いて欲しいといつも思っているのに。
「魔理沙……」
もう一度、もう一度だけ。想いを込めて私は名前を呼んだ。
この言葉が通じたら、こっちを向いてもらえたら、私は――。

そして、それが、きっかけ。

「うーん、特に目新しい物は見つからなかったなー、おいアリス、悪いけど今日はこれで帰るぜ」
あれからどれ位の時間が経ったのだろう。一通り読み漁って満足したのか、魔理沙は本を棚に戻しながらそう言った。
「もう、だから私の家は本屋じゃないっていつも言ってるでしょう」
「へへへ、でも最近は紅魔館の警備が厳しくてよ、なかなかパチュリーの所に行けないんだ」
私は、うまく笑えているだろうか。
「全く、そんなに飢えているなら魔術書の一つや二つ手に入れなさいよ」
私は、うまく話せているだろうか。
「あーもう小言はうんざりだぜー!!じゃあなアリス。また来るぜ」
私は、うまく送り出せただろうか。
「馬鹿、ね。私も、貴女も」
そこからの事はあまり覚えていない。ただその日は、ちょっと長い間涙が止まらなかっただけで。

何故だかはわからなかったが、別段私は何か感傷に耽る訳でも無く、至って穏やかに時を過ごしていた。
心がたまにチクリと痛む事はあったが、そう気に留める事も無かった。
天気がいい時は散歩に出かけ、上海と話したり、一日中部屋に閉じこもって魔法の研究をしてみたりもしていた。
ただ、前と違うのは。
「おいアリス、居ないのか?」
魔理沙が家を訪れた時だけは、彼女に見つからないように居留守を使ったり、家から出て行くようにしている。
「何だ、今日も留守か……アイツ」
ごめん、魔理沙。

――だけど、もう決めてしまったから。

「イイノ?アリス、ソレデイイノ?」
上海が心配そうに私を見ている。
「ありがとう上海。でも大丈夫よ。私は……平気だから」
私は、上海と一冊の本を抱えて、その場を飛び去った。
覚悟なら、もう決めた。そしてそれがどれだけエゴイズムの塊で、どれだけ醜いものなのかも理解していた。
だけど、私はもう耐えられない。この心の中に渦巻くドロドロとした感情も、胸が締め付けられる程の爽やかな恋心も。

私は自分の家に帰る事も忘れて、一人森の中である本を読み漁っていた。
ふとした時に見つけてしまった禁書。
その中にある、私の願いをかなえる魔法。
狂っているのはこの魔法を作った者か、それともそれを使おうとする私か。
時間の感覚も上海の声も辺りの生物の声も風の音も何もかも忘れて、私はその魔法を習得した。
達成感など無かった。習得した日の晩に私は何も食べていないのに嘔吐した。
それがおそらく私の最後の良心だったのだろう。

深夜の呼び出しにもかかわらず、魔理沙はそれに応じてくれた。
待ち合わせ場所の丘からは、奇麗な星空と幻想郷が一望でき、私を不思議な感覚に陥らせた。
「よう、待たせたか」
「いえ、今来た所よ」
傍から見ればまるで恋人の様な会話だな、と思った。
不思議と頭は冴えている。
そして私は魔理沙の方へと振り向いた。

「アリス――なのか?」
魔理沙は驚き、私の方へと駆け寄ってくる。本当に心配している顔だ、どうしたんだろう。
「お前、どうしたんだ!!何でこんなにやつれてるんだよ!!」
大丈夫、大丈夫よ魔理沙。
もうあまり声も出ないけれど、私は大丈夫だから。
私は自分の出来る精一杯の笑顔を魔理沙に見せた。
そして、右手の人差し指でそっと彼女の首筋に血文字を書く。

「魔理沙、――愛しているわ」

人形遣いの最高位にあたる禁術……人を人形にする魔法。
私は、たくさんの物を失って、たった一つの大切なものを手に入れた。

   ●

「さ、魔理沙、今日は何して遊ぶ?」
「うーん、ちょっと髪の毛をとかしてあげましょうか」
「魔理沙はどっちの魔法が素敵だと思う?」
「はい魔理沙。あーん。どうしたの?あ、もしかして恥ずかしいのかしら?」
「魔理沙」
「魔理沙」
魔理沙魔理沙魔理沙。
どうしてかしら。
私はこんなにも貴方の事を想っているのに。
そのために一生懸命覚えた魔法だったのに。
何日経っても、上海みたいに喋ってくれない。
何日経っても、私の名前を呼んでくれない。
隣で、上海は心配そうに私の顔を見ている。
「大丈夫よ上海。もうすぐ魔理沙も喋ってくれる。そしたら上海のお友達になって貰おうね」
上海は、少し悲しそうに私の傍に居た。私が魔理沙の傍にいる間、ずっと。

ああ、魔理沙。どうして?
私はもうこんなにも貴方の為に生きているのに。
寝る間も惜しんで貴女に話しかけているのに。
私の何がダメなのかしら。
どこが?なにが?どうして?
どうして――。

私の家の扉が、大きな音を立てて開いた。
「――ここに、居たのね」
久しぶりに開かれた扉から、新鮮な空気が入ってくる。
その気持ちの良い風に紅白を靡かせ、そこに立っている巫女はこう言った。
「馬鹿な事を」
私はその一言で、もう頭に血が昇っていた。
「何しに来たのよ!!勝手に入ってこないで!!私の邪魔をしないで!!」
ありったけの魔力を振り絞って、私は威圧的に叫んだ。
しかし目の前に居る巫女にはそれも全く意味の無い事の様で、彼女は至って冷静に口を開いた。
「貴女、自分で何をしているかわかっているの?」
ぴしり、と音がする。
私は、何と口に出せばいいのかわからなかった。
「全く、自分の罪も認められない程に狂ったのなら――いいわ。面倒だけど」
頬に嫌な汗が流れる。
いやだいやだいやだ。
こいつは私と魔理沙の仲に嫉妬してるんだ。だからこうして嫌がらせに来てるんだ。
だったら大丈夫。
私には魔理沙が居る。それだけで私は無敵だから。
「待ってて魔理沙。すぐ終わるわ」

外は風も吹いていない。
私は汗で体中気持ち悪いのに、あいつは、博麗霊夢は眉ひとつ動かさずに立っている。
それだけで私は酷く腹が立った。
「邪魔しないでって言ったのに。霊夢、もうあんた、殺すわ」
ひとりでにパラパラと本がめくれていく。私は自分の中に魔力が充実しているのを感じた。
「大丈夫?いくら貴女が博麗の巫女だってちょっと今の私には手を焼くんじゃないかしら?」
「自信たっぷりの割には、よく吠えるのね」
その言葉が、合図だった。

「お人形遊びは楽しかったかしら?」
「うるさい!」
美しく辺りを彩る光弾と、それに照らされて七色に身体を染める人形達のダンス。
しかし一度それに触れたなら、爆風が吹き荒れるギリギリの舞い。
「貴女の気持ちを押し付けるだけの人形遊びに付き合わされてる馬鹿が可哀想に思えてきたわ」
「だまれ!!お前に私の気持ちがわかるか!?恋い焦がれ胸が焼け爛れた私の涙が見えるか!!」
おかしい。私は全力で戦っている。
だからこんな邪魔な奴はものの数秒で排除できると思ったのに。
身体が熱い。胸が食い破られるような感覚。
「そろそろ間違いを認めなさい。じゃないと、本気でやらないといけなくなるわ」
何を言ってるんだ、こいつは。
今まで本気を出していなかったと言うのか。
でも、その言葉に嘘や強がりを言っているような感じは見受けられない。
単純に今の状況を淡々と説明しているその素振りに、私は恐怖を覚えてしまったのだろう。
私は、その両手を力なく降ろした。

「危ない!!」
瞬時に私の魔力は解かれ、私の守りを固めていた人形達も消える。
そして眼前には、霊夢の放った光弾が迫っていた。

私は目を閉じる。これで良かった。
取り返しのつかない事をしてしまう所だったのだから。

爆風が頬を掠める。しかし衝撃は無かった。
恐る恐る目を開けると、そこには魔理沙が立っていた。
「魔……魔理沙?」
「おいおい、やりすぎだろ霊夢」
しっかりと霊夢の攻撃を受け流し、いつもの笑顔で魔理沙はそこにいた。
不敵な笑顔の、私の大好きな魔理沙がそこにいた。
「仕方ないでしょ、こうでもしないと」
霊夢は少しふくれた顔になると、私の方に向って
「ま、面倒な事になる前にあんたが踏みとどまってくれて助かったわ」
と言い残し、飛んで行ってしまった。
「アリス、疲れてるだろうけど、ちょっといいか」
魔理沙は少し真剣な顔で、私にそう言った。
私は頷く事しか出来なかった。

   ●

「私も流石に驚いたぜ。まさかお前がそんなに私の事を想ってくれていたなんてな」
「……」
魔理沙に着いて行った先は、私が魔理沙に魔術をかけたあの丘だった。
何故か今は、あの時よりも星空が奇麗に見える。
魔理沙は暫く、何も話そうとはしなかった。
もちろん私から何かを話せる筈も無く、暫くの間無言の時間が流れる。
「なあ、アリス」
「え?」
私は急に名前を呼ばれて顔を上げた。
「私はさ、嬉しかったぜ」
魔理沙は少し照れくさそうに笑って言った。
「驚いたけど、嬉しかった。お前のそう言う気持ちが聞けてよかった。だけど、お前のやった事はちょっと、おかしかったかな」
「そう、ね」
私は彼女に許されなくても仕方の無い事をした。だからこんな言葉が聞けるだけで嬉しかった。
もちろん、素直に喜べる立場では無いのを理解はしていたけど。

「私はお前のした事を責めるつもりはないぜ。だけどお前の想いに答えてもやれない」
魔理沙は私から目を星空へ向けると、しっかりとした口調で言った。
「私は人間であり続ける。お前の居る所に人間のまま辿り着く。それは確かに難しい上に、時間も無いけれど、私はきっとやってみせる。
 それは一瞬の事かもしれないけど、私はそういうのが好きなんだ」
私は、そこまで聞いても前の様にショックを受けたりはしなかった。そう、これが私の好きな魔理沙だから。
たとえ叶わなくても、想いは報われるのだとわかったから。

魔理沙が飛び去ってからも、私はその丘に腰かけて、星を眺めていた。
壊れかけた私が最後まで壊れずにいられて、本当に良かったと思う。
相変わらず独りよがりな考えなのはわかっていたけど、それでも魔理沙が魔理沙でいてくれた。
ならば私がする事は何だろう。
ならば私が貫く想いは何だろう。

どんな出来事でも、きっときっかけは些細な事なのだ。
それが、後でどんなに大きな出来事になったとしても。
けれどどうにもならない訳でもない。
だってきっかけは些細な事なのだ。

私は星空を見上げる。一粒だけ、涙が流れた。
満点の星空は美しく輝いていて、心が満たされていく感じがした。

それは、まるで。
彼女の魔法の様に。

End
今作が2回目の投稿となります、Sanryuです。
今回は前回と違ってちょっと思うがままだらだらと書いてみました。
ヤンデレになりきれないヤンデレを、という中途半端さが好きだったりします。
相変わらず拙い文ですが読んで頂ければ幸いです。
Sanryu
http://koti.0web.cjb.net/
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コメント



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1.30削除
展開が早足すぎる。
6.20名前が無い程度の能力削除
……荒いなあ。
9.無評価名前が無い程度の能力削除
とりあえず頭が狂って気持ち悪いヤンデレキャラというのを書いてみたかったんだなという感じ
12.無評価名前が無い程度の能力削除
文が荒いためキャラがただの「テンプレのヤンデレ」になってしまっているような
心理描写や展開をしっかり丁寧に書きこまないことにはキャラを活かせないと思います