ある冬の日。
「あー、寒かった寒かった。死ぬかと思ったぜ」
「もう、きちんと雪落としときなさいよ」
アリスの家に着いた私達は、ブーツを脱いで濡れた上着を脱ぎ、体を温める準備をはじめた。
今日は満月。あんまりきれいだから、と言う理由でアリスを遊覧飛行に連れ出したのは私のほうだ。
しんとした良い月見だったが、あいにく帰る途中で大雪になってしまい、慌てて家に戻ってきたのだ。
アリスは手早く暖炉の支度を始めたので、私は湯を沸かすことにした。
勝手知ったる他人の家。もうどこに何があるかなんてのは聞くまでも無い。
「浴槽にキノコ入れたらだめよ」
「わかってるって」
信用は無いようだが。
浴槽に水を張った後に、八卦炉で熱した石を入れてやる。
これをこのまま置いておけば、すぐに湯が沸くだろう。
浴室から出て暖炉のほうに目をやると、アリスは手馴れた様子で灰をかき混ぜている。
手持ち無沙汰なのもなんなので、雪に濡れた防寒具を干すことにした。
私は冬と言ってもケープとマフラーぐらいしかつけないからたいした量は無い。
懐に八卦炉を入れて暖めたり、高速移動用の風避けの魔法を工夫したりといったところで十分なのだ。
よくアリスには「子供は体温が高いんでしょう?」
と馬鹿にされるが、私はあくまで魔道技術の差だと思っている。
そういうアリスは外に出るときにはがちがちに防備を固めている。
上着はもちろん、帽子にマフラー、ハイソックスに手袋。
あれだけ着込んでいる割に、ダルマにならないのはある意味凄い。
そんなことを思いながら暖炉のそばに防寒具を持っていくと、もう火がついていた。
暖かな空気にほっとため息が漏れる。
台所からガチャガチャと音がするから、アリスはそちらにいるのだろう。
濡れて重くなった上着を干し終わったところで、私はアリスの手袋から糸くずがはみ出していることに気がついた。
アリスの手袋はミトン型。白いふわふわの綿毛がかわいらしい、女の子っぽいものだ。
人形遣いの癖に指をフリーにしなくていいのか、と一度聞いたところ、どうせ戦闘になったら脱ぐのだから
脱ぎやすい方が良いじゃないと答えが返ってきた。
けっこう殺伐とした理由で選んでいる割には、結局アリスらしい少女趣味なものに落ち着いているあたり、あの理由はどこまで本当だか。
そう考えながら出てきた糸を引っ張ると、切れずにズルズルと伸びてきた。どうやら元を断たねばならないらしい。
暖炉前のソファーに腰を落ち着けて、手袋の片方を裏返す。
ふわり、と懐かしい匂いがした。
普段のアリスの匂いとは違う、不思議な匂い。
アリスが普段使っているのは、花の香りをいくつか混ぜた、アリスオリジナルの香水だ。
どうも、風見幽香と取引をしているらしく、私の知らない材料も混ぜているらしい。
その匂い自体はもう嗅ぎ慣れたものとなっているのだが、この手袋からは、もっと別の匂いがする。
そう、昔どこかで嗅いだことのある匂いが……。
「ていっ」
「うひゃっ」
背中に氷を突っ込まれたような感触に、私は思わず悲鳴をあげた。
「人がお茶を入れている間に手袋で遊んでいるような奴にはこれがお似合いね」
「あひゃひゃひゃひゃっ」
そのままわきわきと背中をまさぐられて、私はばたばたと暴れる。
「ていていていっ」
「うははははははっ」
「んっ、はぁ、あ、アリス、もう、やめてくれ、んぅぅっ」
つーっと背筋を撫でられて、アリスの制裁は終わった。
最後の方になると、なんだか変な声が出ていたような気がして、恥ずかしい。
背中から手を抜いて、向かいに座ったアリスも若干顔が赤い気がする。
気を取り直して上海から受け取った紅茶を口に含んだところで、アリスはまた爆弾を投げてきた。
「んで、なんでまた私の手袋をふがふがしてたの?」
正直、アリスに紅茶を吹きかけなかった自分を評価したい。
「ふがふがって、お前なあ」
「ふふ、まるで犬みたいだったわよ。
どっかの一週間少女に見せたらきっと高得点の犬度をつけてくれるわ」
「ほっとけ。……まあ、なんか覚えのある匂いがしてな」
「あら、ほんとに犬?」
「もうそれは置いとけ。……どっか記憶に残ってる匂いなんだけどな。
ずいぶん懐かしい感じで。ここ最近のことじゃないと思うんだが。
最近なんか特殊な薬品でも扱ったか?」
「別にいつもどおりだと思うけど」
「ふーん。そうすると手袋の方がポイントなのか?」
頭の中で心当たりを検索する私に、つい、と腕を上げたアリスがまたとんでもないことを言い出した。
「それじゃあ直で嗅いでみればいいんじゃない?」
「んなっ」
「生の手と汗のこもった手袋だったらまた違うでしょう?
確かめれてみれば良いと思うんだけど」
「いやまあそれはそのとおりなんだが」
「別に良いわよ?減るもんじゃないし」
アリスはなんでもないように言うが、こちらとしては大問題だ。
あの繊手はある意味、私の理想でもあり、憧れだ。
器用でくるくる動き回る指先が好きな私としては、ちょっと気後れする。
私がまごまごしているうちに、アリスは席を立って私の左に座ってしまった。
ひょいと目の前に右手を差し出されたので、こっちも反射的に手で払おうとする。
その手をうまいことつかまれてそのまま私の鼻先に突き出された。
「はい、さっさとする」
「あ、ああ」
もはや私じゃなくてアリスのほうが主導権を握っているような、と思いながらアリスの手の匂いをかぐ。
こちらに差し出された手の甲から香るのは、確かに私の知っている匂いだった。
手袋に移った香りよりも、こちらのほうが匂いが強い。
思考を記憶に飛ばしながら、私はその香りを追いかけるのに没頭した。
どこか枯れたような、しかし不快ではない不思議な香り。
秋の森深くを思わせる、角の落ちた古木のような……。
「ああ、これは魅魔さまの匂いだ」
「魅魔?」
「そう、私の師匠の。そうか、魅魔さまの手もこんな匂いをさせていたんだな」
頭を撫でてもらったときに感じる、あの落ち着いた香り。
私の頭の片隅にしか残っていない、懐かしい香りだ。
きっと魅魔さまもアリスのように、自分用の香水を作っていたのだろう。
それと魔法薬なんかが反応するとこんな匂いになるのかもしれない。
しばらく顔を合わせていない師匠に思いを馳せていると、アリスが居心地悪そうに声をかけてきた。
「ねえ、もういいかしら」
「ん、ああ悪いな」
いつのまにか強く掴んでいたアリスの手を離す。
アリスはその手を胸の前にもっていって、ひしと抱きしめた。
「もう、あんた途中から完全に私の言うこと聞いてなかったでしょ」
「すまんすまん。なんだかもーちょっとで思い出せそうってところが長くてなあ」
「途中からなんだか目が真剣になるし、掴む力が強くなるし。
ああもうまったく!」
アリスは耳を赤くして言った。
「犬だ犬だとは言ったけど、舐めて確かめるとこまでしなくてもいいじゃない!」
ばたばたと慌てて魔理沙が去って行った居間でアリスがひとりごちる。
「風呂に入ってくるって、もう泊まりは決定なのかしら。
まったくもう。」
指を鼻に近づけて、スンスン鳴らす。
手の甲の、魔理沙の跡にちゅっとくちづけて、
「やりすぎちゃったかしらね」
赤い顔で呟くアリスだった。
めちゃくちゃいや、
くちゃくちゃ甘すぎる!!!
そしてパッチュさんが相変わらずで安心した。
次は是非ともお尻ラブなパッチェさんが主役のやつを見てみたいw
いい、マリアリでした。
いいマリアリだ。
そして相変わらずパッチェさんは素晴らしい。
尻フェチメインで書いてもらいたいw
いい話だー。
2828をもてあます
フェチしかいないのか!
極甘でした。