Coolier - 新生・東方創想話

紅魔人形

2009/05/08 21:22:39
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 初夏と呼ぶにはまだ少し早いだろうが春,と呼ぶには少し陽気が過ぎるだろう,そんな季節の話だ。
「暇なんだぜ」
 勝手な客は勝手に窓際に座り勝手にそんなことを言ってくる。
「暇だったら神社にでも行ってきなさいよ,私は暇じゃないんだから」
 人の研究中に押し掛けて紅茶を半ば無理やり用意させた後の言葉とは思えず,私の言葉に棘があったとしても仕方のないことだろう。しかし,魔理沙は気にした風でもない。
「おいおい,最近は神社に行っても茶すら出してくれんからな。信じられるか?霊夢の奴客人をもてなそうって気が微塵もないんだぜ?この前なんて『お茶が欲しければお賽銭でも入れなさい。額によって玉露でも何でも入れてあげるわよ』だってよ。それじゃあ御馳走になる甲斐がないってもんだぜ」
 などと言ってくる。
 珍しく私も霊夢に同意見だった。ほんとに珍しい。例えるならばあの神社に参拝に来る人間くらい珍しい。
「ここもお代取るって言ったら来なくなるの?」
 研究の合間の休憩の時ならいざ知らず,四六時中自宅兼研究室に来られてはたまったものではない。
 そう言うと魔理沙は一瞬キョトンとした顔をしてからけらけらと笑った。
「妖怪がお金を貰って何をするつもりなんだよ」
 そりゃごもっとも。
 唐突だが私,アリス・マーガトロイドは人間では無い。姿形こそ人間とほぼ同一のものだが魔法使いであり,人間とは一線を画すものだ。だからと言ってお金の使い道が無いかと言われれば厳密には零ではないが,使うためには人の里に降りねばならず,人の里に妖怪が近づくのを良くは思わない人間や半妖や妖怪もいる(そして当然そいつらの強さは並ではない)。そしてそんな危険を冒してまで人間の里までお買い物に出かけるほど私は困窮していないので更に厳密に言えば零と言えるのかもしれない。
「暇なら鞄に入ってる本でも読んでなさいよ,どうせあの魔法使いの書庫から盗ってきたんでしょうけど」
 吸血鬼の魔城,紅魔館に住まう魔女パチュリー・ノーレッジ。同じ魔女として何度か彼女の書庫に行ったことはあるが,初めて入った時には圧倒されてしまった。一体,何代何十代の時間をかけて収集したものなのか見当もつかない。
「大体,今度持ってきたのはあなたの読める本なの?前みたいに魔道書の暴走とかは止めてよね」
 その本を無断で拝借してくるなんてものは殺されても文句の言えない程の暴挙なはずなのだが何故だか盗られた本人が本気で怒っているという話も聞かない。 その恩恵に少なからず与っている者に言う資格はないかもしれないが。
「今度は大丈夫だぜ,何たって魔道書じゃないからな」
 そう言うと魔理沙は鞄から一冊の本を取り出した。なるほど確かに魔力の欠片も感じないただの本だ。
 その本のページをパラパラと捲りながらふむふむと唸り始める。(ページを捲るスピードからするとどうせ斜め読みだろう)
 長い休憩になってしまった。私は人形に命じて紅茶の後片付けをさせる。
「何でも良いわ。それじゃ,私は部屋に籠るから勝手に帰ってね」
 そう言って立ち上がりドアに向かうと魔理沙が急に大声を上げた。
「おおお!!!」
 前までの自分ならば間違いなくそのままドアに向かっていただろう,私も甘くなったものだ。苦笑して魔理沙に向き直る。
「どうしたの?楽なダイエットの方法でも載っていたの?」
 最近大人気らしいのだが私には縁の無い話だ。
「違う違う。アリス,吸血鬼退治に行こうぜ!!」
 ………………………………。
 気になって魔理沙の読んでいる本を見てみると題名こそ掠れて読めないものの著者「ブラムストーカー」とあった。

「良いかアリス,この本に依ると吸血鬼ってのは白木の杭を打ったり銀の武器で攻撃することで倒せるみたいだ。こっちの本では日光やら大蒜やら十字架でも良いみたいだな。弱点だらけだ。これで勝てない方がどうかしてる」
 目の前の人間魔法使いは何を言っているのだろうか?私には理解が難しい。
「おぉ,でも身体能力は高く人間の比ではないらしい。怖いな。それに乱喰歯が生えてるし,人を襲って同族を増やすとか書いてあるぜ。ま,大丈夫だよな」
 既に昼過ぎから夕方に差し掛かっていると言うのに今日のノルマは欠片も進んでいない。自分に課しただけのノルマとはいえ明日からの帳尻合わせを想うと憂鬱になろうというものだ。
「なぁ,アリスってば,聞いてる?」
 急に名前を呼ばれ体がビクッと震えた。
「え?あぁ…………………そんなの知ってたでしょ?そもそも吸血鬼なんてどこに―――」
「今さっき会ってきたぜ!」
 いるんだった。そう言えば。その本の持ち主の住まう城の主。夜の王レミリア・スカーレットが。
「またやっつけるの?一度霊夢とやっつけたんでしょ?霧の異変の時に」
 この幻想郷が紅い霧に覆われたあの事件,私は家から出なかったので気づいてはいたが傍観を決め込んでいたのだが暇な巫女と魔理沙で退治に行ったとか。
「あん時は弾幕勝負だったからな。特に不死身でも吸血でも大蒜でもなかったんだよ。せっかく吸血鬼と戦ったってのにそれはあんまりじゃないか?」
「せっかく,で戦うもんじゃないでしょ,弾幕勝負じゃ無かったらあなた今頃は消し炭か眷族よ」
 今でこそ浸透しているがあの時幻想郷の結界を管理している霊夢はともかく魔理沙相手にあのルールが適用されるかどうか危うかっただろうに。
「細かいことは置いといて,だ。白木の杭?良く分からないからアリス,頼んだぜ!」
「何で私がそんなもの用意しなくちゃいけないのよ。大体白木ってなによ,白い木なら魔法の森にたくさん生えているでしょうけど」
「うん!じゃあそれでよろしく。次は,十字架か。十字架って言ってもあれだぜ?おどろおどろしいのは止してくれよ?ファンシーで可愛くてプリティ―な十字架で頼む」
「十字架?しかも,何よ、ファンシーでプリティ―で可愛い?………………って!!何で私がそんなもん用意すんのよ!!」
 勢い余って机を叩いてしまう。少し,痛い。
 それに比べ魔理沙の表情は何故私がその頼みを拒むのかが分からないとでも言う風だ。
「だって,アリスも一緒に退治に行くんだぜ?」
 頭が痛くなってきた。この魔法使いは人間の分際で弾幕勝負でも無く吸血鬼に本気で挑もうとでも言うのか?
「あっと,そうだ,私はちょっくら銀の武器を調達してくるから!また明日な!」
 そう言うと魔理沙は風のように去っていった。
 呆然と佇む私を人形が心配そうな眼で見てくるのでカラ元気で笑いかけてやる。
「何なのかしらね,まったく」

 あの白黒魔法使いが私の家に来だしたのはいつ頃からだっただろうか?
 最初に会ったのは冬の異変。霧程度ならともかく春が来ないのは私も少し困っていたので春度を集めていた。そしてその途中で出会ったのだ。あの時も魔理沙は異変解決に乗り出しており私達の利害は対立した。今思うと何故共闘という選択肢が浮かばなかったのか不思議だ。人間程度,という驕りがあったことも否定はしない。慣れない弾幕勝負だったとはいえ私が人間の魔法使いに敗北したことは確かだ。
 次は何だったか,そうだ。月の異変だ。人形を使っての戦闘ならともかく弾幕勝負では不覚を取ることが有り得るのでまた暇そうにしていた魔理沙を使って異変を解決した。
 そうだ,月の異変が契機だった気がする。あれ以来更に馴れ馴れしく私に接するようになっていった。
 今日なんてその中でも群を抜いた馴れ馴れしさだ。しかし,まぁ。特に異変を起こしているわけでもない吸血鬼を退治しようだなんて冗談の域を出ないだろう。魔理沙のことだ,明日には忘れているに違いない。

 結果から言ってしまえばそれこそが私の読みの甘さだったってことだ。
「やっぱり弱点を狙わないとな,吸血鬼退治は昼間に限る」
 新たなギミックを備えた人形の製作が一区切り付き午後の紅茶を楽しんでいた時に白黒はやってきた。何をしにって?当然私の優雅な午後を潰しにだろう。
 もはや溜息すら出ず私は天井を見上げる以外に出来ることなんて何もなかった。
「ん?アリス,十字架はどこにあるんだ?」
「十字架………?あぁ」
 口に出してから思い出す。そういえば昨日十字架だの白木の杭だの用意しろなんて妄言を吐いていたっけ。
 当然そんなもの用意しているわけもなく,何故か魔理沙は期待満面な顔で私を見ている。まるで私が昨日から嬉々として準備をしていることを前提としているかのようだ。
 ………………………………はぁ。
 昨日から何度目になるのか分からない溜息を吐きだす。幸せが逃げるとは言うけれど,幸せじゃないから溜息が出るのよねぇ。
「ちょっと待ってなさい」
 まずは数体の人形に白い木の枝を切ってくるように命じ,私は十字架の制作に取り掛かる。製作とは言うもののただの十字架だ。いや,違ったっけ,ファンシーでプリティ―で可愛い十字架とか言ってたわね。どちらにせよ,人形に比べれば動く必要もなく,一欠片の意志も持たないオブジェを作ることなんて―――――――雑作もない。
「出来たわよ。可愛いかどうかは貴女に判断を任せるわ」
「おぉ!!凄えぜ!!…………………でも,アリス的にはこれが可愛いのか?」
「十字架でしょ?少しダークなくらいが丁度良いわよ」
 製作時間実に一分程のわりにはそこそこの出来栄えだろう。魔理沙の言うとおり一般的な可愛さからは少し離れているかもしれないなとは思うけれど。
「白木の杭はもうすぐ持ってくると思う,で?それが銀の武器?」
 実は魔理沙が来た瞬間から気になってはいた。魔理沙は魔女はやっぱり箒だぜ!とでも言いたげなほど空を飛ぶ時に箒を使用し,いつでも箒を持ち歩いているのだが,その箒の柄が銀色の何かで覆われているのだ。
「あぁ。昨日香霖堂で銀の武器を探してたら薄い紙状の……………アルミホイル?とかいうのがあってそれを巻いてみたんだぜ。銀色だし問題はないだろ」
「問題あるわよ。大体アルミホイルって名前からしてアルミじゃない。銀とは違うわ,仮にも魔法使いを名乗るならこの世界を作る要素くらい知ってなさい」
 これだから人間の魔法使いは,と思うものの私自身魔女になってから長いわけではないのでそれは言わないでおこう。
「へぇ,銀色なのに銀じゃないとは不思議なこともあるもんだぜ。まぁ,銀の武器くらい無くたってどうにかなるぜ」
 そんなことは欠片も不思議でも何でもない。魔理沙のその思考の切り替えの方がずっと不思議だ。
 その時,白木の杭を作らせていた人形が戻ってきた。手には白木の杭と言われればそうなのだろうが白い杖と言われればそうであると納得してしまう程度の杭がある。
「駄目ね,まだまだこういう細かい作業は直接命令しないと精度が低いわ」
 元々白木の杭なんてどうでも良いが中途半端なものを作ることは私の心が良しとしない。直接人形を操り杖から杭と呼べるものまで昇華させる。自分の手では無く人形の手で削るのは人形使いとしての矜持だろう。強度を失うことなく,尚鋭さを讃えるギリギリのバランスを創り出し,表面の凹凸を無くしその上で装飾として紋様を刻む。
「七十点って所かしら。自分に点数をつけるなら,だけど」
 一部始終を見ていた魔理沙がニヤニヤと笑う。
「乗り気じゃなかったのに,急にどうしたんだよ、アリス」
「さぁ,ね。そんなことより,十字架も白木の杭もある。そろそろ紅魔館に向かいましょう」
 確かに乗り気どころか行く気も無かったのだけど自分で作った物が吸血鬼に通用するかには少し興味が湧いてきた。十字架も,白木の杭も,人形も,私の制作物には違いない。何より,命を吸い取り,そして与える。吸血鬼の生命のあり方は私の研究対象にもなり得るだろう。
 最低限の準備をして魔理沙を促して銀色の箒の後ろに乗るのだった。

 わざわざ空を飛んでいるのに門を通るのは馬鹿馬鹿しいという私の提案により裏口からひっそりこっそり紅魔館の玄関口に下りたつ。外側からでは精々豪奢な紅い屋敷と言うことくらいしか分からないが中は空間を操作するメイドの手によって何倍にも拡張されているので実に広大な屋敷だ。
 まぁ,広さなんかよりこの澱んだ空気が私には不快で堪らない。いくら吸血鬼の城とはいえどうにかならないのかしら。
「まずはパチュリーだな,もしくは咲夜」
 到着一番魔理沙はそう言った。
「何で?そのままレミリアの所に行くんじゃないの?」
「昨日あの本の続きを読んでたんだが、どうやら吸血鬼には流れ水なる弱点も存在するらしい。せっかくだし全部の弱点を試してみたいじゃないか,私もアリスも水を使う魔法なんて知らないだろ?そこでパチュリーに手伝ってもらおうと思ってさ」
 実はも何も私が水の魔法が使えないなんていうのは魔理沙の中の私のイメージでしかない。得意不得意こそあるものの人ならざる魔女に使えない属性なんて存在しない。勿論その誤解をわざわざ解いたりはしない。過小評価?望むところだ。全ての手の内を晒すなんてことは余程頭の悪い奴か,言葉通りに無敵な奴だけの特権だ。
 となると咲夜は銀の武器のためなのか?恐らくそうだろう。
 …………………………………紅魔館の住人がその主を退治するのに協力することなんてあるのだろうか?
「だから最初は図書館だな!!」
 どこのポケットより取り出したのか大蒜を鷲掴みにしながらドアを開けていく魔理沙を追いかけながら,どうやって自分の目的を達成するかをじっくりと吟味するのだった。

「と,言う訳なんだ」
 地下図書館へ着くといつも通り読書に耽っているパチュリーに魔理沙が今までの経緯を説明する。必然に当然の結果として突然そんなことを言われても全然分かる筈もなく憮然とした態度で私へと視線を投げかけてくる。そんな視線を向けられても困る。残念ながらパチュリーの困惑は理解するがそれを解消することは出来そうにもない。数十年来の友人を退治するのを手伝ってくれと言われているのだ。しかも同じく友人から。
「……………………私にレミィを倒す手伝いをしろ,と?」
「話が早くて助かるぜ」
「いやよ」
「合図をしたらレミリアに向けて水鉄砲的な魔法を頼むぜ」
「だから,い,や,よ」
 私は黙って不毛なやりとりを聞いていたのだがコンコンと,ノックの音が割り込んできた。
「パチュリー様。お嬢様がお出でになっております。お部屋に失礼致しますね」
「魔理沙!!」
「分かってるって。あーあ。銀の武器は試せそうに無いなー。残念。それじゃ私達はちょっと隠れるからパチュリー,よろしくな」
 ここに至っても無駄口を叩く魔理沙を引っ張って適度に離れた物陰に隠れる。幸いな事に本棚が森のように生い茂っているので隠れる場所には困らない。念のため気配遮断の魔法も張っておく。
 張り終わると同時に私達も通ってきた重厚なドアが軋みながら開く音がして二つの足音が聞こえてくる。一つはこの館の主,レミリア・スカーレット。五世紀近く生きているとかどうとか、という噂の吸血鬼。だが見た目は羽の生えた少女以外の何物でもない。だがこの幻想郷で見た目通りの人物なんて私は未だかつて見たことが無く,当然この吸血鬼もその範疇だ。そして何よりも重要なのは彼女こそが今回のターゲットとでも言うべき存在であると言うことだ。
 そしてその後ろに付き従うように歩いているのが咲夜。こちらは人間らしいがどうにも人間を超越しているように思えて仕方がない。何故かと言うと、このメイド服をナチュラルに着こなす人間は時間の操作を得意とするからだ。時間の停止や加速なんて魔女だって軽々しくは使えない部類の魔法である。ちなみに銀のナイフを沢山持っていて、時間を止めて大量にブン投げてきたりするので正直関わり合いにはなりたくない。私にとって関わり合いたい人物なんているのだろうか?という疑問は置いておくとしよう。
 その二人はというと別段こちらに気づいている素振りもなく、パチュリーの傍の椅子に座る。座ったのはレミリア一人だが。
 ここからでは少し距離があり二人の会話を全て聞き取れない。
「もう少し近づく?」
 声を潜めて魔理沙に話しかけると魔理沙は少し考えてから首を横に振った。
「せっかく弾幕勝負じゃないんだ。夜討ち朝駆け奇襲に人質なんでもありなんだから、まだ気付かれたくない。ここからでも聞こえなくはないだろ?」
 それはそうだけど。まぁ,ここで言い争っていてもしょうがない。私は二人の会話に耳を向けることに集中する。
「――――――――――――でね?もう酷いったらないわ」
「―――――そ――――――い―――」
「これは―――――――――思い知らせ―――――私が――――」
 多少声のトーンの高いレミリアの声はギリギリで聞こえるがそれに応えるパチュリーの声は聞こえない。見た目と声色からするとレミリアが何かを愚痴っているようにも聞こえる。それに対して苦笑いを浮かべるパチュリーという図式だろう。咲夜は二人の会話に一切の口を挟まず紅茶の準備をしている。
「それで?そう言えば細かいこと何も決めてはいなかったけど,どうするの?」
「まずはコイツを使う」
 自信満々にさっきも取り出したニンニクを目の前に突き出してくる。
 当然臭いので止めろと手で遮った。
「実は中に小型の爆弾を仕込んであるんだよ。こいつを投げてレミリアの付近で爆発させりゃあ全身ニンニク汁まみれって寸法だぜ」
「絶対私が近くにいる時に使わないでね。使ったら殺すから」
「そっからは各自が思うままにレミリアを襲うって感じでどうだ?」
 作戦とも呼べない作戦だったが良しとしよう。奇襲をかけること自体には賛成だしね。首だけで頷き投げろ,と合図を送る。
「三,二,一」
 放物線を描き飛んでいくニンニク。見た目だけだととてもシュールな光景だった。巻き添えは何があっても嫌なので体を本棚の影に完全に隠れるように移動する。
「零」
 小さな破裂音がしてパチュリーの悲鳴が聞こえそれから濃厚なニンニクの臭いが漂ってくる。これは,吸血鬼でなくても嫌かもしれない。パチュリーごめんなさい。と心の中だけで謝っておく。
 しかしその場に留まっている訳にもいかず,先程まで二人が談笑していた場所まで駆ける。そこにはパチュリーと―――――――――。パチュリーしかいない!?
 身を翻してメイドと吸血鬼の位置を探す。念のため十字架を取り出しておくのも忘れない。たかがニンニクだ,当たっただけで致命傷になるとは考えづらい。当たってから逃げた?いや,悲鳴はパチュリーだけだった。弱点ならば何かしらの反応が合って良いだろう。最初からこちらの行動が読まれていた?ならばパチュリーがここで気を失っているわけがない。他の可能性は――――。
「あら,ニンニクだなんて古臭いものを持ち出すのね」
 一際大きな本棚の上から声がする。見ると無傷な吸血鬼とメイドがこちらを楽しそうに見下ろしている。どうやらあれだけ離れていればニンニクの効果はないらしい。
「その割にはそちらのメイドさんに頑張って助けてもらったみたいですけどね?」
 時を止められちゃあ奇襲もなにもあったもんじゃ無い。精一杯の虚勢を張りつつ十字架を構える。そういえば十字架ってどう使うのかしら?見たら目が焼けるのかしら?それとも触れたら?そこまで魔理沙には聞いていないのが少し悔やまれる。
「次は十字架?懐かしいったらありゃしない。昔はこんなんばっかだったのにねえ。楽しくなって来たわ。咲夜,下がってなさい」
「しかしお嬢様」
「しかしも透かしも無いのよ,下がれって言ったら下がりなさい」
 そうレミリアが言った瞬間咲夜の姿が消える。また時を止めたらしい。
 なんのつもりかは知らないが,これは,チャンス。
「後,十字架なんて何の意味もないわよ,私のボムの形知ってる?」
 全然知らないが恐らく十字架の形でもしているんだろう。まぁ,効かない物もあるだろうとは思っていたから別に動じはしない。それに,逆に言えばニンニクは効くってことでなんだから。しかし,残ってるものは白木の杭しかない。そしてこんな近接武器、身体能力が決して高い方でない私が吸血鬼相手に刺せるはずもなく。さて,どうしたものかしらね?
「十字架くらい効いときなさいよ!」
 言いながら十字架を投擲する。目標は当然レミリアだ。
 避けるまでもないと軽く受け止めるが,それが瞬間の隙を作り出す。
「くらええ!!シルバー…………ん?箒って何だろう?ま,何でも良いか。シルバーカーボンアターーック」
 背後から魔理沙が飛び出す!その手には銀では無くアルミを巻いた箒が握られている。
「後ろ!?」
 今度は避けるまでもないのではなく避ける暇がなく手で受け止める。その間に私はレミリアから見えない位置に身を隠し,移動を始める。
「ウッッッッギギギギギギギギギギ――――――――――ってあれ?別に溶けて無いわね。それ,銀?」
「実は銀色だけど銀じゃないぜ。確か,アルミとかって言ってたな」
「…………………せめて,銀くらい用意してきなさーい!!!!」
 箒ごと力任せに投げられる魔理沙だったが空を飛べるので投げにはあまり意味はない。
「今だ!パチュリー,スプラッシュ的な魔法を使うんだ!」
 合図って叫ぶだけなの!?というよりパチュリーは気絶してたはずでは?
いや,目を覚ましている。それでも意識が曖昧なのか普段の彼女では絶対拒否するようなそんな戯言に反応して魔法を起動させる。
 水の竜が奔る!その速度は流石としか言いようがない程で、ギリギリで右にかわしたレミリアを更に追尾する。
「ッこんっの!!」
 かわし切れないと判断したレミリアは右腕で水竜を打ち砕く。あっけなく霧散した水竜だったが効果は絶大だった。レミリアの右腕が肘の辺りから途切れているのだ。なるほど,流れ水に弱いと言うのは本当らしい。
「もうっ,懐かしくて楽しかったから付き合ってあげたのに!!結構痛いのよコレ!!っていうか何でパチェが私を攻撃するのよ!!」
 吸血鬼の目に火が灯る。しかし,その非難を向けられるべき本人はまたあの爆心地で気絶しているようだった。
「まだまだ!!くらえ!!屈曲太陽光線!!って日の光がないんだぜ」
 魔理沙が鏡を構えて(鏡を構えるというのも十字架を構えるのと同じくらい変な話だが)レミリアに攻撃を宣言した揚句に失敗している。弾幕勝負が忘れられないのかしら?
「魔理沙!!」
 吸血鬼の圧倒的なまでの身体能力!!数十メートルあった彼我の距離を一瞬で零に変えて魔理沙に肉薄する。
「あら,捕まっちゃったわね。うふふふふ,一体どうしようかしら?たまには人間の血でも吸ってみようかしら?眷族になる?でもあなた血気盛んなようだし私に吸いきれるかしら?」
 魔理沙に馬乗りになって無意味に脅すレミリア。私は背後からその背中を目指して駆けだす。当然このまま突っ込んだって避けられるのがオチだ。
「あら?恐怖で声も出ない?これ,弾幕勝負じゃないから殺したって良いのよね?無様よねぇ,ニンニクは避けられ,十字架は効かず,銀に至っては用意も出来ず,わざわざ昼間なのに地下で戦って,流れ水に至ってはパチェ頼み?うふふふふふふ。沢山のヴァンパイアハンター共と戦ったけど,あなた達程間抜けなのはいなかったわ」
 だが!まだ策は残っている。魔理沙が持ってきているニンニクが一つであるなんて誰が言った!!
 ハァっと。魔理沙が行ったのは息を吐く,という行為だけだ。たったそれだけ。
 つい数十秒前にニンニク一つ噛み砕いた口でね!!
「伏せなさい!!魔理沙」
 それだけで十分だ。それだけでは致命傷には至らないが白木の杭を持たせた人形がレミリアの心臓を貫くくらいの隙は作れる!!
 人体を貫いたとは思えないほど軽い手ごたえが人形を通して伝わってくる。
 レミリアは少しの間ボー然と自らの胸から生える杭を見ていたようだが,突然体が弾けてドロドロとした液体となってしまった。後には服と帽子が残るだけだ。
 私は素早くガラス管にその液体を掬って蓋をするとそれをポケットに忍ばせる。
「知らなかったわ。吸血鬼って死ぬ時液体になるのね」
「私も知らなかった………ぜ。気持ち悪い」
 弾けたレミリアの真下にいた魔理沙は当然真っ赤っ赤だ。
「服くらい自分でどうにかしなさいよ,浄化の魔法くらい使えるでしょ?」
「いや,そっちじゃなくて。ニンニクをそのまま食ったもんだから…………」
 それは。想像するだけで気持ち悪い。
「確かに臭いわね,あんまり近寄らないでよ」
「そりゃねえぜ。………っん?」
 魔理沙に付着していたレミリアの血液(そう呼んでも差支えないだろう)が……………動いている?
 紅く染まっていた魔理沙の服が元の色を取り戻すと同時に飛び散った飛沫までもが残された服に集まってきている!
 それは,段々と集まり紅い水溜りから隆起し,人を形作る。
 液体となって飛び散ってから数分の内に,レミリア・スカーレットはまた,姿を取り戻したのだ。身体能力の高さ,そして不死性!
「おはよう二人とも,楽しかったわよ。まさか殺されるとは思わなかったけど。んんーー。何だか新鮮な気分だわ,いや,それにしてもホント何百年ぶりかしら,私を吸血鬼として殺してくれたのは。しかもこんな法儀礼もしてないような杭で」
 床に落ちていた白木の杭を手に取り,簡単にへし折る。
「最近霊夢の奴もなんだか私のこと吸血鬼だと思わなくなってるし,昼間に行ったら『あら,早いのね』ですって。吸血鬼が昼間に出歩いてるんだからもうちょっと反応あっても良いと思わない?思うわよね。ホンっと失礼しちゃうわ。そんなわけで私は気分が今最高に良いわ。だから殺さないでおいてあげる。というか,眠いわ。。昼間起きてるもんじゃないわね。それじゃ,おやすみ」
 そう言うと館の主は私の脇を通り過ぎて行く時にぼそりと「ま,それもあげるわ」と言って扉の向こうに消えていった。
「………………帰るか」
「………………帰りましょう」
 後に残されたのはニンニク臭の漂う図書館と,暴風雨の後のような惨状と,その中心で失神している魔女だけだった。

 その次の日,歯をしっかりと磨いた魔理沙がまた,私の家にやってきた。
「また来たの?」
「また来たぜ」
 悪びれるわけでもなく言う。しかし,今日の私は気分が良い。
「紅茶でも淹れるわ,何が飲みたい?」
「へぇ,随分機嫌が良いんだな」
「一つ,人形が完成したのよ。この子,って言っても影からは出てこないから見づらいかもしれないけど」
 専用の小さな小屋の中に入っている人形を指し示す。
「他の子と違って私が命令を与えなくても自分の意志で半永久的に動き続けるはず。理論上は」
「それは。凄いのか?」
「はぁ,あなたにはこれの凄さが分からないの?人形遣いなら狂喜する程の成功の,はずなんだけどね」
「なんだか歯切れが悪いな,欠点でもあるのか?」
「分かる?この子は昨日持ち帰った吸血鬼の血液を元に核を作ってあるの。吸血鬼は血液を生命と同等として扱っているから,その仕組みの応用で人形に生命を吹き込むことが出来るんじゃないかって思ったんだけど,まず,たまに栄養補給,つまりは血液が必要ってこと。それに吸血鬼の変な性質を受け継いじゃって極度に日光を恐れるわ。とてもじゃないけど完璧とは呼べないわね」
「って言うか血液なんて持ち帰ってたのか?なんだよ,それじゃ私だけ骨折り損じゃないか。私も何か盗んでこれば良かったかな?」
 完璧とは呼べないものの私の研究が一歩進んだのは間違いない。普通に行って血液を採取させてもらえる相手でも無いし,弾幕勝負では血が流れない。そういう意味では今回魔理沙の提案に乗る価値はあったということだろう。
 さて,この子の名前はどうしようか。レミリア・スカーレットの血液を使っているわけだし。吸血人形?いや,可愛くないな。
 そうだ,紅魔人形とでも名付けよう
 紅魔人形を見ていると更に研究がしたくなってきた。
 さて,どうやってこの魔理沙を追い出そうかしら?
 そんな事を考えながら人形に用意させた紅茶を飲むのだった。
イメージとしては
研究熱心なアリスと、厄介ごとを運んでくる魔理沙。
弾幕ごっこではない東方、吸血鬼としてのレミリア。
って感じですね。
明日壱
[email protected]
http://kamiyake.sankinkoutai.com/
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コメント



0.1180簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
アリスの一人勝ちでしたねw
読みやすく面白いストーリーでした。
9.80名前が無い程度の能力削除
蝙蝠一匹でもいれば復活する不死性を持つ吸血鬼
7日以内に死んだ後の灰を浄化したり流水に流さなければ復活すると言われる吸血鬼

さて、アリスの研究が今後どうなっていくのか気になるな
17.100名前が無い程度の能力削除
確かにこの後も気になる…
18.70煉獄削除
吸血鬼であるレミリアの血液を材料にした人形ですかぁ。
その紅魔人形は、どの程度のことができるのかが気になりますね。
面白かったですよ。

後、ちょっと読みづらく感じたので、もう少し改行されていれば良いかなと思いました。
誤字というか疑問ですが『 , 』ではなく『 、』ではないでしょうか?
23.10名前が無い程度の能力削除
本読んでいきなりレミリア殺しに行こうとする魔理沙とそれに乗るアリス、
吸血鬼への知識の無さも相まって二人がバカにしか見えませんでした。
まあ作者の東方以前の知識の無さと文章のヘタさでそう見えるだけかも知れませんけどね。
27.20名前が無い程度の能力削除
 キャラが違いすぎませんか?正直この馬鹿なキャラたちは誰って感じです。性格が違うというのは壊れギャグでもよくありますが、性格も知能もかけ離れると別人としか思えません。全部ネタと無理やり納得しても冗長的で無駄に長いので、1/3ぐらいまで容量削った方がいいと思います。
30.50名前が無い程度の能力削除
これってレミリアが死ななかったから良かったけど、魔理沙のした事って洒落にならないほど危かったんじゃない
いきなり殺しにかかるなんて、どんな危険人物なんだw
31.70名前が無い程度の能力削除
「グングニール」な紅魔人形が幻視できましたw
32.40名前が無い程度の能力削除
原作では確かに人を食うとかそういう会話もあるけど
さすがに知人をいきなり殺そうとするのはあり得ないかと。
あれでレミリアが死んでたら魔理沙、アリスの二人とも
紅魔館住人に殺されていただろうし。
36.90名前が無い程度の能力削除
ブラックな感じがとても良かったです。