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「わわわ! 霊夢さんタイムタイム~!」
「いいえ、待たないわ! 境界『二重弾幕結界』!」
捩れる空間を飛び交う弾幕に、東風谷早苗は慌てふためく。
博麗神社の上空で展開されている弾幕ごっこは、いよいよ佳境にさしかかっていた。
暇つぶしとお互いの切磋琢磨と称して始めた弾幕ごっこ5本勝負。
現在は霊夢が2勝で早苗が1勝と、早苗の方は後の無い状況だ。
やはり霊夢の方が一枚上手なのだろうか、緑の少女は赤と青の結界、そして紅白の檻に追い詰められ、遂に勝負が決しようとしていた。
「うわ、きゃ~!」
「甘いわね、早苗。ふ~、私の勝ちっと」
いかに緻密で難解な弾幕と言えど、必ず隙間を作ってある。
そこを法則に従って通っていけば必ず避けれる。
弾幕とは一瞬の判断力と度胸なのだ。
避ける事が完璧ならば、あとは自らのスペルカードの美しさを磨けば良い。
もちろん、それは机上の理論。
知っていたところで、避けれる物と避けられない物がある。
「うぅ、私、それ苦手です~」
「あれ、そうだったの? じゃ、次にやる時は無しにしとくわ」
霊夢はスペルカードを取り出すと、「二重弾幕結界」の符をピンと弾く。
「む、それでは勝負になりません。次にやったら避けれますから、正々堂々と勝負ですっ!」
それでは納得いきませんとばかりビシッと指差す早苗に、
「まるで負け犬の遠吠えみたいよ」
と、霊夢は言い放ち、フラフラと地上へと降りていった。
「ま、負け犬……ちょっと、酷いです霊夢さん!」
早苗は霊夢を追いかけるように地上へと降り立った。
~☆~
事の始まりは二日前の早朝。
神社の掃除をしていた霊夢は上空を行く東風谷早苗と八坂神奈子を見かけた。
相手もこちらに気づいたのだろう、二人は霊夢の元に降り立つ。
「おはようございます、霊夢さん」
「おはよう、霊夢」
「おはよう。こんな朝早くから布教活動? 大変ね」
それが信仰の為なら平気です、と早苗は息を吐く。
霊夢としてはそんな早苗の様子に苦笑するしかなく、それを見習おうという気は微塵も起こらない。
「なんだったら、今すぐにでもこっち側に来るかい?」
「遠慮するわ。フレンドリィ過ぎる神様ってどうなのよ」
「諏訪子なんかもっと親しみやすいわよ」
神奈子の言葉に、今度は早苗が苦笑した。
神様にも多少は威厳が必要だ。
それは信仰にも関わる。
例えば、一緒にお手玉やおはじきをして遊んでる少女が神様だ、と言われても子供には何も通じないだろう。
子供が最も信仰するのは、遊び相手ではなく畏怖であり恐怖の対象である。
例えば、ガゴゼと呼ばれる妖怪がいる。
元興寺の鬼という元はあるが、『子供を怖がらせる為の妖怪』なのだ。
いわゆる『勿体無いオバケ』である。
もちろん幻想郷には存在しない。
だが、子供にはそれが一番良いのだ。
良い事と悪い事、それにはそれぞれ見返りがある事を教えてくれている。
良い事ならば、それが神様。
悪い事ならば、それが妖怪。
全てのモノに存在する意義を見つけた。
それがかつての人間だった。
「で、その諏訪子は?」
「家で朝ごはんを作ってくださってます。私達は朝ごはんの前の活動です」
なるほどね、と霊夢は頷く。
奇妙な帽子をかぶった少女よりは、注連縄を背負った神奈子の方がよっぽど神様らしい。
この注連縄もただの飾りらしく、悪く言えばハッタリらしい。
一応は蛇を表してるそうなのだが、本当か嘘かも分かったもんじゃなかった。
なにせフレンドリィだから。
「うらやましい話ね。帰ったらご飯が出来てるなんて」
「霊夢さんはずっと一人なんですか?」
「しょっちゅう宴会なんかがあるけど、基本的には一人ね。変な妖怪とかが入り浸るけどねぇ」
なかば諦めた様に霊夢はため息を吐いた。
そんな霊夢を早苗は寂しそうと感じたのだろうか、人差し指を立ててにこやかに言う。
「あ、それだったら明後日に、霊夢さんとこに泊まりに来てもいいですか?」
「はい?」
「いえ、明後日の夜に神奈子様と諏訪子様が天狗さん達と呑み会なんですよ」
「早苗も参加すればいいじゃない」
霊夢の言葉に早苗は、ブンブンブンという音が聞こえるくらい勢い良く首を振った。
「とんでもありません! 私には無理ですよ!」
「いやね、この子。この前の呑み会に連れて行ったんだけどヘベレケに酔っちゃってね。脱いじゃうわ、吐くわで大変だったのよ」
証拠写真見る? と、懐から写真を出そうとする神奈子に早苗は飛び掛った。
「バカね、天狗の呑み会なんかに参加するからよ。ウチに泊まるんだったらいつだっていいわよ」
「本当ですか、よろしくおねがいします」
「良かったじゃないか、早苗。良い言い訳ができて。天狗の長から是非連れて来いって言われてんのよ」
早苗と神奈子は答えながらもまだ懐から取り出そうとする写真に悶着していた。
「はぁ……ほんっと、平和よね」
かつては博麗神社を乗っ取ろうとした者達の前で、霊夢は陽気に暢気に笑顔を零した。
~☆~
そして本日。
早苗が博麗神社に着いたのはお昼前で、霊夢が昼食の献立を考えている時だった。
「こんにちは霊夢さん。お土産です。ふきのとうがもう出てましたよ」
「へぇ~、もう出てるのね」
霊夢はふきのとうを受け取ると、ちょうど良いと小麦粉を水で溶き、早苗のお土産を天ぷらにした。
低めの温度で揚げるのがコツで、揚げているうちに蕾が開き苦味がとれると早苗に説明してやる。
「へぇ~、そうなのですか」
「あんた料理しないの?」
「いえ、これでも現代っ子にしては出来る方ですよ」
現代っ子? と霊夢は首を傾げるがどうでもいいのでふきのとうを熱した油に放り込み続ける。
ふきのとうの天ぷらは美味しいのだが、流石にこれだけでは物足りないかと天ぷらうどんを作る事にした。
早苗は野菜のかきあげを作り、霊夢はその間にうどんの生地を作る。
「あ、踏む作業やりたいです」
「じゃ、そっちお願いね」
神社で巫女が二人で生地を踏み踏み。
何とも滑稽だが、それはそれで仕方がない。
少女達には、見た目よりも昼食の方が重要なのだ。
そんな乙女達の熱意と体重に屈した小麦粉を前に、早苗は楽しげに口を開く。
「うどん作りって結構楽しい物ですよね。あとはこれを寝かせればいいんですよね?」
「ん~、面倒だから寝かさないでもう切っちゃいましょう」
「へ?」
早苗がマヌケな表情を浮かべている間に霊夢は手早くうどんの生地を折りたたみ、ざくざくと切り始めた。
「ほらほら、そっちの生地もかして」
「は、はぁ」
切り終わったうどんを霊夢はザバザバとゆがき、いつの間にやら作られた出汁に放り込み、味付けをしてしまった。
「ご、豪快ですね、霊夢さん」
「急に面倒になってきた。まぁ、食べれない事はないでしょう」
そして食卓に並ぶのは、ふきのとうの天ぷらと天ぷらうどんのセット。
霊夢は早苗の分の湯飲みを渡し、急須から緑茶を注ぐ。
「いただきま~す」
「い、いただきます」
霊夢は自分の適当な調理法方を気にした風でもなく、平気そうにずぞぞぞぞぞぞっとうどんを啜っていく。
それとは対照的に、早苗はおっかなびっくりとうどんをちるちると啜っていった。
「あれ、なんで? どうして美味しいんだろう……」
「早苗の能力って何だっけ?」
急に霊夢に話を振られ、多少はうろたえたが、早苗は答える。
「え、っと……奇跡を起こす程度の能力と言われています」
早苗が自信なくそう答えると、霊夢は行儀悪くも、「ん!」と早苗を箸で差した。
つまり、奇跡と。
「おいしいわね、ふきのとう」
「そ、そうですね、美味しいですよね、ふきのとう」
なんだか納得出来ないまま、早苗はちるちると一本づつうどんを啜っていった。
お昼が済めば、特にやる事はない。
二人は食器を洗いながら午後からの予定を相談する。
特に霊夢などは何もしたくないと言ったが、
「弾幕ごっこしません?」
という早苗の一言にニヤリと笑い、彼女の挑戦を受ける事にした。
~☆~
「ま、負け犬……ちょっと、酷いです霊夢さん!」
早苗は霊夢を追って地上に降り立ち、彼女に向かって不満そうに口を開く。
「負け犬は酷いですよ」
「じゃ、負け猫?」
「三毛猫の親戚みたいな響きです」
「じゃ負け狸ね」
「狸!?」
「嫌だったら負け犬に収まりなさい」
「はい、わかりました……」
「返事はワンよ」
「わお~~~ん」
「それが負け犬の遠吠え」
という適当なやりとりを終えると、もう話は無いとばかりに霊夢は台所へと引っ込む。
早苗はそんな霊夢を見送り、ため息を吐いてから縁側に座った。
何気なく空を見上げると、流れていく雲と太陽しか見えない。
「妖怪でも飛んでた?」
早苗は不意に掛けられた声に振り返ると、煎餅と急須と湯飲みが乗ったお盆を手にした霊夢が背後に立っていた。
「あんまりいいお茶じゃないけど」
「いえいえ、緑茶は好きなので」
霊夢から湯飲みを受け取り、早苗は一口だけ口の中を潤す。
そして、いただきます、と煎餅を齧る。
霊夢もポリポリと煎餅齧り、お茶を飲んで、ホッと一息ついた。
そんな情景に、早苗はクスリと笑みを零す。
「なに?」
「いえ、外の世界ではこんな事してるのおばあちゃんでもいないなぁと思いまして……」
縁側でお茶を飲みながら、煎餅を齧る。
絵に描いた様なおばあちゃんだ。
早苗のいた外の世界の現代において、そんな風にのどかな雰囲気等そうそう存在してなかった。
科学に纏われ、常識が横行し、隣人を隔絶した、どこまでも平和な国。
老人は疲れている。
大人は疲れている。
青年は疲れている。
少年は疲れている。
世界に愛と希望だけを見ているのは、赤ん坊だけだ。
それは言い過ぎだろうか。
過言だろうか。
そんな事も分からない位に、現代人は世界をみる。
「だいぶ慣れたものだと思ってたけど、まだ未練があるみたいね」
「……そんなものがあったら幻想入りは出来ないと思うんですが……私も人間ですね」
そんなんじゃ神様に成れないわよ、という霊夢の言葉に早苗は苦笑する。
「霊夢さんは、これからもず~っと博麗の巫女をやるんですよね?」
「そうね。もう博麗の巫女だし、これからも博麗の巫女ね。名前も博麗霊夢だし。いまさら東風谷霊夢にも八坂霊夢にも洩矢霊夢にも八雲霊夢にも霧雨霊夢にも霊夢・スカーレットにも成りたくはないわ」
「全員女性じゃないですか。結婚できませんよ?」
「じゃ、森近霊夢」
「霖之助さんですか? 確か半人半妖の」
「ん~、確実に私が先に死ぬってのはシャクにさわるわね」
霊夢はバリバリと煎餅を齧った。
いったい何を想像したのだろうか、早苗には予想もつかない。
「他に男性の知り合いはいないんですか?」
「う~ん……そうねぇ、あんまり人間の里に行かないしね。酒屋の主人とか、八百屋の主人とか、肉屋の主人とか、御菓子屋のおばあちゃん」
「全員既婚者ですし、最後おばあちゃんじゃないですか」
「略奪?」
「しないでください。不倫や浮気は不幸しか生まないです」
早苗は両手を振り上げ抗議する。
何かトラウマでもあったのだろうか、と思いながら霊夢はお茶を啜った。
「そういう早苗の方はどうなのよ?」
「私ですか? う~んと、天狗の呑み会で出会った方と、河童の人と……妖怪の男性ばっかりですね」
「人間の里には行かないの?」
「それこそ八百屋の主人と酒屋の主人と肉屋の主人と駄菓子屋のおばあちゃんです」
「全員既婚者だし、最後はおばあちゃんじゃない」
「浮気は罪です」
「知ってるわ」
はぁ~、と大きくため息を吐いて早苗はお茶を啜る。
「これでも外の世界では……昔は男の子とも仲が良かったんですから」
「へぇ~」
「夕方の5時になると、子供は帰れってサイレンがなるんです。う~~~~~~~って。子供達の間では暗黙の了解みたいな感じで。それでも、私なんかはもっと遊びたいって、男の子と一緒にキャーキャー遊んでました」
「外の世界の遊びね。どんなの?」
「小さい頃は幻想郷と変わりませんでしたよ。学校の休み時間は鬼ごっことかかくれんぼとか。独楽もありましたし、凧揚げもやりました」
「小さい頃は……ね」
霊夢の言葉に早苗は笑う。
いつから、日本は変わったのだろうと。
自分の小さい頃は携帯ゲーム機なんか無くって、みんな外で遊んでいた。
公園には子供がいて、道路にも子供がいて。
そこに親の姿は無かったし、必要もなかった。
子供達は子供達でルールを作り、世界を創っていたのだ。
5時のサイレンで帰らなければならないのも、世界のルールだった。
「懐かしいなぁ」
早苗は思い出す様に空を見上げた。
小さい頃は、晴れの日に空を見上げる事なんか無かった。
晴れていようが雨が降っていようが、子供には関係はない。
晴れていれば、運動靴で。
雨が降っていれば、長靴で。
汚れたり、ズブ濡れになったら靴を脱いで裸足になって。
それで良かったのだ。
「小さい頃は無敵だったんですよ」
「ん?」
聞き返す霊夢に早苗は、何でもないです、と手を振った。
~☆~
夕飯のメニューは鍋となった。
材料をざっくりと切るだけでいいので、準備に時間はかからない。
これも霊夢が二人分は面倒だという事で決定したメニューである。
ふきのとうが出たといっても、まだまだ春は遠い。
太陽が陰れば、気温はさがり、冷え込んでしまう。
そんな寒さを吹き飛ばすためにも鍋という訳だ。
早苗は炭に火を起こし、鍋の準備をする。
「外の世界ではもっと便利なんでしょ?」
材料を持ってきた霊夢は、炭と格闘する早苗を見て声をかけた。
まだまだ要領を得てないのか、手は真っ黒だった。
「洗ってきなさい」
「あはは、申し訳ないです」
手を洗い、戻って来た頃には、炭は赤くなり準備はバッチリだった。
「はいはい、お客さんは座って」
「あ、はい、すいません」
「じゃ、お鍋の前に一杯」
霊夢は早苗にぐい飲みを渡すと問答無用で酒を注いだ。
「え、や、え?」
「強制はしないわ。礼儀よ礼儀。私だけ飲んでたら変じゃない」
そういうものでしょうか、と早苗は霊夢に返杯する。
「じゃ、乾杯」
「乾杯」
霊夢はくいっと一杯、一気に飲み干した。
早苗はちびっと飲んでみる。
「あ、呑み易い」
「八海山っていうお酒よ。外の世界のお酒なんだけど、霖之助さんから貰ってきたの」
にひひ、と霊夢は笑った。
「これなら、私でもお付き合いできそうです」
「天狗や鬼が呑んでる馬鹿みたいな度数の酒じゃ、お酒の楽しみは生まれないわね」
「あはは」
度数が高いイコール馬鹿みたいな酒、ではないのだが、霊夢はやはり自分に合った度数の酒を呑むのが一番だと思っている。
喉が焼ける様なお酒も一興だと思うが、所詮は『一驚』という事だ。
「そろそろいいかしら」
霊夢の言葉で早苗は鍋の蓋を開ける。
ホワンと浮かび上がる湯気。
そしてグツグツと煮える具材。
「美味しそうですね」
「簡単で美味しいのが鍋よね。いただきま~す」
「いただきます」
シメジやエノキらの茸鍋。
白菜もたっぷり入っていて健康にもバッチリだ。
「あぁ、たまにはお酒を呑みながらお鍋というのも良いものですね~」
「呑まなきゃ人生の半分は損をしているわ。その代わり酒に呑まれたら、人生の大半を損するけど」
「酒乱ですか」
「妖怪じゃなきゃ、生きていけないわ」
はぁ、と生返事する早苗に霊夢は苦笑する。
「早苗は大丈夫よ。その位で赤くなるようじゃね」
「へ?」
早苗は思わず頬に手を当てる。
もちろん、それで赤くなっているかなんて分かるはずがない。
霊夢はおかしそうに笑った。
「早苗、あんた中々にマヌケね」
「負け犬の次はマヌケですか。ひどいですよ、霊夢さん」
霊夢はケラケラと笑った。
「まぁまぁ。それよりも呑め、若人よ」
そう言って、霊夢は早苗のぐい飲みに酒を注いでいった。
~☆~
「そう言えば、昼に小さい頃は、て言ったじゃない。今はどうなのよ」
鍋はすっかりと空っぽになっていた。
瓶にはまだ少しだけ液体が残っており、早苗はそれを手酌する。
すこし瞼が重い様だが、まだ意識は大丈夫なようだ。
そんな中、床にごろんと寝っころがった霊夢は昼間の話を思い出した。
普段は外の世界に興味など一切ない霊夢だが、酒によって興が乗ったのだろうか、早苗に外の世界を聞かせてくれと頼んだ。
「ん~、そうですね。現代の子供達は大変です」
「大変?」
はい、と答える早苗。
「まず、安全じゃないです。外の世界は危険がいっぱいです」
「妖怪なんかほとんどいないんじゃないの?」
「人間です。外の世界では、いつだって人間の敵は人間です」
戦争とか色々あるんですよー、と早苗は人差し指を立てながら説明する。
「子供達は、まず学校で……あ~、慧音さんの寺子屋ですね、そういう所でまず人を疑う事を教えられます。名札は裏返し、親以外の存在を疑う様に教えられます。親戚だろうが、親の友人だろうが、疑う様にと」
「何よ、それ」
「それから、親が子供を殺す事が増えてきました。子供が親を殺す事も増えてきました。私には実際に増えているのかどうかはよく分からないんですが、みんな増えたっていうんです」
「……酷い世界ね」
「まぁ、極論ですけどね。『このろくでもなき素晴らしき世界』という言葉もありました」
「へぇ、含蓄ありそうな言葉ね。誰の言葉?」
「宇宙人ジョーンズです」
「輝夜の知り合いかしら?」
「さぁ?」
早苗は、クピッとぐい飲みの中身を飲み干した。
「大人からは、よくあの頃は良かった、なんて言葉を聞きますね」
「へぇ~」
「急速に発展しちゃいましたから。土も無いし、空も狭いし。それから、みんな忙しいみたいです」
残業時間がどうのこうの。
給料が割に合わない。
上司と不仲。
鬱憤を晴らす暇もなく、爆発すれば、解雇。
聞こえてくる言葉は全てマイナス。
「だから、昔は良かったな~って」
小銭を握り締めて駄菓子屋へ。
やっと買ってもらえた玩具。
探検ごっこで山の中へ。
みんなで作った秘密基地。
台風の中、外へ飛び出してケラケラと笑って。
雪の中、かまくらを作って。
すべり台で滑って。
ブランコを漕いで。
シーソーで跳ねて。
おまじないをして。
ケンカして。
仲直りして。
毎日、全力で遊んで。
毎日、全力で笑って。
毎日、全力で生きた。
「私も、いつの間にか長靴を履かなくなりました」
かっぽかっぽと、不思議な音をする長靴。
雨の日には、必ず履いていた長靴。
あれさえあれば、水溜りに飛び込んだって平気なのだ。
長靴は、無敵だったんだ。
「でもなんで、無敵だったのに履かなくなったんだろう」
小学校の時?
中学校の時?
いったいどうして、無敵だった長靴を脱いでしまったのだろう。
早苗がため息を吐くと、霊夢がむくりと起き上がった。
「もちろん、早苗が大人に成ったからよ」
半眼で、霊夢は早苗を見た。
「いいじゃない。長靴は履けないけど、傘は差すでしょ? 足元も気にして歩くでしょ? 必要がないから履かなくなったんじゃない。長靴を履かなくても、あんたは無敵なのよ」
ニヤリと霊夢は笑った。
つられて早苗も笑う。
そうか。
霊夢の意見とは違うが、分かった。
大人に成ったんだ。
もう、無敵じゃいられなくなったんだ。
無敵でいられる子供が終わったから、長靴を履けなくなったんだ。
子供は無敵だから、無条件で愛されるんだ。
無条件で守られ、無条件で保護され、無条件で愛され、無条件で笑うんだ。
あぁ、そうか、そういう事だったんだ。
「さて、お風呂に入るわよ」
「こんなへべれけで入ったら危ないのでは?」
「早苗、あんたの能力は?」
「奇跡を起こす程度の能力です」
「死にはしないわ」
「奇跡的に死ななかった、とか嫌ですよ」
博麗神社のお風呂に巫女二人。
お風呂から昇る湯気は、すぐに立ち消えては霧散していく。
それでも、次から次へと諦める事がない様に、湯気は昇り続ける。
人が成長するが如く。
世界が成長するが如く。
幻想入りするが如く。
「ちょ、ちょっと霊夢さんどこ触って。わきゃー!」
「大人しくしなさい、早苗、私が洗ってあげるんだから感謝しなさい、こらー!」
特に意味もなく終わり☆
<br>
早苗の現代の話でちょっとしんみりともしましたが、
霊夢との会話がまた静かな雰囲気を出していたように思います。
賑やかな部分もあったのに全体的に静のイメージで読むことができました。
面白かったですよ。
一字余計なのを見つけたので報告です。
>私には実際に増えているのかどうかはよく分からないんですが、みんな増えたっていうんです」」
この部分の終わりに、」」となってしまっています。
何かが急激に変化してるんでしょうねぇ。
その何かがわかりませんが。
殺伐とした世界になったものです。
上とは関係なく、レイサナはジャスティス。
ここはジョーンズさんの愛するコーヒーでも飲んでゆっくり考えてみよう。
都会は便利だけど疲れるし、荒んでる。
田舎にいけばまだ幻想郷のような暢気な日本はあるんです。
本当に。
現代社会にも幻想郷のような暢気さがあるといいんですけどね
は、おいておいて、よかったです、雰囲気が良かったわ
「雨降り」ですね分かりますwwwゆき嬢いいですよねwwwそもそもネイティブフェイスいいですよねwww
そういえばいつ子供を止めてしまったのか曖昧ではっきり覚えてないな…。
田舎はのんびりとしてるといいますが、日本の場合未だに部落だとかが残ってる地域が多いので余所者はハブられるんですよね
科学技術による便利な世の中を得た代償に我々は時間を失った
世界が回るにはどうしても時間が足りない
果たして、科学技術を享受する代わりに時間を失う世界か
便利なものは存在しないが、有意義に生きられる世界か
どちらが幸せなんでしょうかね?
良かったです。
作者にじゃないですけど恩恵無視して悲観したりケチつけるのなら誰にでも出来るんですよ。
私の実家は田舎なので、ふきのとうやタラの芽などが近場で取れました。天ぷらにすると美味しいですよ。個人的に日本酒が合いますねw
昔が、幼い頃が懐かしい。
地の文の時点で何の曲か分かりました。私あの曲好きでして。
あぁ、良いSSをありがとうございます。
でも今さら便利な世界を捨てられるわけもなく、昔を見ながら前に進むしかないんだと思います。
どう進むかは自分次第
長靴のフレーズで あぁ って思った俺は末期
このろくでもなき素晴らしき世界・・・
貴方の作品を見た後だと、考えさせられますね
手元に氷結しかないが、幻想郷とれいさなに乾杯
ゆきさん最高!
↑私も牛乳で乾杯。
ちょうど飲んでいただけで名前とかけたわけではないですよー
そういえば、小学生の頃は暇さえあれば外で遊んでたなぁ。
暗くなるまで遊んで、親に怒られて…でも毎日遅くまで遊んで。
なんか、子供の頃が懐かしくなるお話でした。お見事。
確かに子供の頃はいつも怒られるまで遊んでたなあ・・・
今でも雪が積もったりすると、年甲斐もなくはしゃいでしまいますが・・・w
嗚呼、時間って戻らないんだよなぁorz
それはともかく、レイサナはジャスティス。レイマリとレイレミもジャスティス。でもレイアリが一番ジャスティス。
つまり霊夢総受けが(私の)世界の真理
しんみりして昭和の時代を思い出しました。