Coolier - 新生・東方創想話

キリサメロン 中編

2009/01/22 18:43:09
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七色の人形遣いと悪魔の妹



「あら?お久しぶりね」
そう言って、アリス・マーガトロイトは紅魔館の長い廊下の中央で立ち止まった。
「えぇ、今までパチュリーの処にお邪魔させてもらってたわ」
そして彼女は、目の前でふよふよと浮かんでいる上海人形の頭を優しく撫でた。
「これからフランドールの所に遊びに行くのよ」
お菓子を持ってね、と付け加えて、持っていた白い箱を掲げた。
その箱からは、甘く香ばしい臭いが漂ってくる。
「え?これも何かの縁だから、取材をさせて欲しい?あぁ、なるほど。そういえばさっきパチュリーがあなたの事を言っていたわね。魔理沙の事を聞いて回っているんですって?だからそんなもの持ってるんだ・・・・・・」
指差しながら彼女はそれに視線を向ける。
「ま、いいけどね。あなただって何か縁だからなんて言ってるけど、本当はこれが目当てなんでしょ?」
ウインクをしながら、先ほどの白い箱を再び掲げるアリス。
「朝から何も食べていない?はぁ、熱心なのもいいけど程々にしなさいね。さ、フランドールも待ってるわ。行きましょう」
そしてアリスは薄暗い廊下の奥へと向かってゆっくりと歩き始める。
その後を追うようにして上海人形、そして彼女が続いたのだった。



「あ!アリスだ♪」
そう言ってフランドール・スカーレットは、それまで座っていた椅子から飛び立つようにしてアリスに抱きついた。
彼女を抱きとめたアリスは、微笑を浮かべながらフランドールの頭を撫でる。
先ほどまで彼女が座っていたテーブルの上には、作りかけの人形と共に裁縫道具が置かれていた。
「あれ?今日は他の人もいるんだ?」
アリスから離れ、今度は上海人形を捕まえて、人形の頭をグリグリと撫でながらフランドールは不思議そうに答える。
撫でられている上海人形は手足をバタバタさせる。
その様子は嫌がっているようにも見えた。
「ほら、フランドール。挨拶は?」
「あ、そうだね。こんにちは」
アリスに促されるままに、子供のような笑顔を浮かべてフランドールは挨拶をする。
「・・・・・・なに笑ってるの?」
フランドールに挨拶を返し、その後クスクスと笑い出した彼女を訝しげに見つめながら、アリスは問いかけた。
「はぁ?まるで私がフランドールのお母さんみたい、ですって!?」
返された答えに、呆れと怒り、そしてほんのすこしの恥ずかしさが入り混じった表情で声を上げるアリス。
「あはは、アリスはお母さんみたいだけど違うよ」
上海人形を手放してフランドールは笑いながら言葉を続けた。
やっと開放された上海人形が、逃げるようにしてアリスの肩へと移動する。
「アリスはね、友達。壊しちゃいけない大切な友達だよ♪」
そんな彼女の暖かい言葉に、アリスもまた笑顔を浮かべる。
「ねぇねぇ、それより早く早く!」
アリスの袖をぎゅっと掴んで、フランドールは急かすようにテーブルの方へと彼女を引っ張る。
「あら、せっかちね。でも、もう少しで人形も完成のようだし。まずはお茶をしてからでも遅くはないんじゃないかしら?」
そう言ってアリスは、持っていた白い箱を開ける。
「えー」
最初は不満の声を上げていたフランドールだったが、開かれた白い箱の中身を見て、すぐに機嫌良さそうにテーブルの上を片付け始めた。
そしてすぐに三人分の紅茶と、生クリームがたっぷりのイチゴのショートケーキが並べられ、皆が席に着く。
「お茶でもしながら話しましょうか」
アリスは紅茶を一口啜って答えた。
フランドールは美味しそうにケーキを頬張っている。
よく見れば、彼女の皿にはショートケーキが一つ余分に置かれていた。
「おいしい♪」
ご機嫌な様子のフランドール。
それを見たアリスは、よかった、と嬉しそうに答えた。
どうやらこれは彼女のお手製らしい。
「それで、魔理沙の事が聞きたいのよね・・・・・・」
小さく均整の取れた口に、やはり小さく切ったケーキを放り込んで、アリスは答える。
「ん!んむむ?」
「はいはい、ちゃんと口の中のものを飲み込んでから喋りましょうね」
フランドールの口の周りについたクリームを拭いてあげながら、アリスは苦笑を浮かべて言った。
「ん、もぐもぐ、ごくん。・・・・・・魔理沙の話?」
「えぇ、彼女が聞きたいんですって」
「ふーん」
何かを考えているのか、フランドールは足をブランブランとさせて視線を宙に向ける。
「それじゃぁさ、あの時の話。あの宝探しの冒険の事!」
フォークを掲げて、フランドールは嬉しそうに笑う。
「・・・・・・そうね。せっかくフランドールもいるんだし、ちょっとだけ話がそれるかもしれないけれど、魔理沙が居なくなった後しばらくして起こった、あの時の事について話しましょうか」
懐かしそうにフランドールに視線を投げかけた後、アリスは微笑を浮かべて語り始めた。
あれはそう、満天の星が空に輝く、少しだけ夏の暑さを忘れられた、あの夜の出来事。



Chap.4 Le bonheur de la Vertu



「きゃぁああああああ!」
ドゴ――――――――――――――ン!!!!!!!!!
「な、なにごと!?」
爆音と共に聞こえた突然の叫び声に、私は作業の手を止めて立ち上がる。
人形たちも私につられる様に慌ただしく部屋を飛び交い始めた。
「蓬莱!上海!」
ホラ―――イ!
シャンハ―――イ!
私の呼びかけに答えて蓬莱人形と上海人形が目の前に飛んでくる。
「蓬莱は声が聞こえた外の様子を見てきてちょうだい。でも、危なそうだったらすぐに引き返すのよ。上海は皆を安全な場所に誘導して」
ホラ―――イ!
シャンハ―――イ!
私の指示に従って、蓬莱人形は家の外へ。
上海人形は慌ただしく飛び交う他の人形達を別室へと誘導する。
「一体なんなのよ」
外のやつは誰なのか?
もしかしたら誰かが妖怪に襲われているのかもしれないが、その可能性は低いだろう。
ここは魔法の森だ。
よっぽどの事がなければ迷い込んでくるものはいないし、幻想郷の人間ならば夜に出歩くなんてことはまずしない。
外の世界の人間の可能性もあるが、まず誰かが遣ってきたと思っていいだろう。
少し前なら魔理沙、というより彼女しかいない、あたりですぐに検討がついていた。
しかし今は彼女がいなくなってからというもの、私の家に訪ねてくるものなんて皆無に等しい。
「いや、この場合訪ねてきたなんてわけがないか」
もしかしたら性質の悪い妖怪かもしれない。
とにかくここは蓬莱人形が偵察から帰ってくるのを待つか。
そして私はある程度の人形を用意し、ポケットの中のスペルカードを確認した。



「いたたた」
わたしはお尻をさすりながら立ち上がった。
久しぶりの外で舞い上がってしまったみたい。
ついつい力が入りすぎて、着陸に失敗してしまった。
「ん~、この場所で合ってると思うんだけど」
ポケットから取り出した地図に書かれている魔法の森の小屋は、確かにこの場所を記している。
土煙が収まって、わたしは辺りを見回した。
「あれ?」
そしてわたしは木に隠れて、こちらの様子を伺っているそれに気が付いた。
「あ―――――――――!」
大地を蹴って、わたしはそれに近づいた。
素早く駆け寄って、わたしはそれを空いている右手でがしっと掴む。
「なにこれ?人形?だけど動いてる!?かわいい!」
ホ、ホラ――――――――イ!!!!
「しかも喋る!?」
じたばたとわたしの手の中で暴れだす人形。
なんだか面白くなってわたしはじっとそれを見つめる。
ホ、ホラ~イ・・・・・・。
すると人形の声がドンドン小さくなって、動かなくなった。
壊れちゃった?
まだ何もしてないのに。
「蓬莱!!!」
動かなくなって俯いてしまった人形を見つめていると、急に小屋のドアが開いて誰かが飛び出してきた。
「大人しく蓬莱人形を放しなさい!さもないと私のスペルカードで!って、あなたは確か・・・・・・」
レミリアのところの、と言って小屋から出てきたそれは、掲げたスペルカードをゆっくりと下ろす。
とりあえずわたしは人形から手を離してみた。
すると人形はビューっ、と小屋から出てきたそれのところへ逃げるように飛び立っていった。
胸で人形を受け止めたそれはほっとしたような顔を作る。
「ねぇ」
「なに?」
わたしの問いかけに、それはキッとした視線を向けて返事を返す。
「スペルカード・・・・・・」
わたしはそれが持っているスペルカードを指差した。
「あ、あぁ。これがどうかしたの?」
スペルカードを目の前に掲げて、それは不思議そうに首をかしげた。
「あは♪スペルカードを掲げたって事は、わたしと遊んでくれるんだ?」
「は?」
わたしの言葉に呆けたような顔を浮かべるそれ。
「いいわ。久しぶりだから手加減できないかもだけど・・・・・・」
わたしは嬉しくなって、ポケットから自分のスペルカードを取り出し、代わりに持っていた地図をしまう。
「すぐに壊れちゃダメだよ♪」
「え?え?」
わたしはスペルカードに力をこめて宙を舞った。
本当に久しぶりの弾幕勝負だ。
しかもここには叱るものも、止めに入るものもいない。
思いっきり遊ぶ事が出来る!
そしてわたしは弾幕を、それに向けて思いっきり放った。



冗談じゃない!
私は心の中でそう毒づきながら、とっさに蓬莱人形と共にバリアを張った。
「くっ」
弾幕の一つ一つの威力は相当のもので、しかも密度が濃い。
バリアを張る私の手がピリピリと震える。
これでは五分と持たないだろう。
「あは。ダメだよ。弾幕は避けないと♪」
目の前の女の子は嬉しそうに笑って翼を広げる。
さらに弾幕の密度が増した。
だが私は避けるわけには行かない。
なぜなら私の後ろには人形たちが隠れている家があるんだから。
私はギリッと奥歯をかみ締める。
これじゃぁ遅かれ早かれ詰んでしまう。
どうにかしてこの状況を打破しようと頭をフル回転させた時だった。
シャンハ―――――――――イ!
「うわわ」
私の背中越しに放たれたレーザーが女の子を襲った。
飛んできたレーザーを避けた女の子の弾幕が一時的に止む。
よくやったわ。
内心で上海人形を褒めながら、私はすぐに次の行動に移った。
「戦符・リトルレギオン!!!」
懐に忍ばせていた六体の人形が女の子に向けて突進していく。
レーザーを避けたばかりで体制を整える暇がない女の子は、飛び掛ってきた人形の攻撃を避ける事が出来ずガードする。
すかさず私は家の中から人形たちを呼び寄せる。
「おもしろいじゃない」
女の子が叫ぶと同時に六体の人形が爆ぜるようにして打ち落とされた。
「上海!蓬莱!」
私は二つの人形に指示を送り、後ろへと退かせて、自身は女の子と対峙するように空へと舞った。
「こっちよ!」
とりあえずこの場所を離れる事にする。
これで弾幕を避けても私の家には被害が無いように出来るだろう。
「あはは、追い駆けっこだね♪」
弾幕をこちらに飛ばしながら女の子が後を追いかけてくる。
私はそれを最小限の動きで交わしながら、後々、磐石の布石になるであろう人形を左右へと展開していく。
「こんなものね」
左右あわせて12対の人形を展開し終えて、私は逃げるのをやめた。
「追いかけっこはもう終わり?」
ニコニコと無邪気に笑う女の子。
「えぇ、終わりよ」
私は無表情に女の子を見返す。
「あは♪あなたやるわね。わたしの弾幕がかすりもしなかった」
「おかげで森は大変な事になっているけどね」
そして私は辺りを見回す。
私の瞳には、弾幕の直撃を受けた木々が散々に折れて、地面がむき出しになり隆起している様子が映し出されていた。
「洒落にならないわね」
たった一分ほどの弾幕の嵐がここまでの被害をもたらすとは。
「禁弾・スターボウブレイク!」
ギュオ――――――――――!!!!!
「なっ!」
ほんの少しばかり森に視線を向けていた私の横を、ものすごいスピードの弾幕が駆け抜けた。
「よそ見なんて余裕だね」
女の子の顔から笑みがなくなる。
「今はわたしと遊んでるんだよ?」
遊ぶつもりなんて無いけどね、私は内心で愚痴をこぼしながらも意識を集中させる。
「ねぇ、わたしを見てよ!わたしと遊んでくれるんでしょ!?」
ゴォ―――――――――!
女の子の上げた叫び声に空気が震える。
「壊れないでね?」
そして女の子は弾幕を放つ。
それはさきほどよりも密度が濃く、すこしでも気を抜けば直撃は必死の嵐のような弾幕。
わたしはそれを避けながら、展開している人形に指示を送り、自身もワイヤーを展開していく。
「あんまり調子に乗らないで!」
自身も弾幕を女の子へと飛ばしながら叫ぶ。
「利かないよ!そんなの全然利かない!」
しかし放たれた弾幕は女の子の目の前で爆ぜるようにして消えていく。
そうか、確か彼女の能力はありとあらゆるものを破壊する程度の能力だったはず。
それは高速で飛来する弾幕でさえ同じ事。
「それなら!」
展開していた人形の半分を女の子へと向けて突進させる。
槍を持った人形の突進を、しかし女の子は笑いながら爆発させた。
「えっ!?」
その瞬間、女の子の驚きの声が上がった。
爆発した人形から白い煙が広がり、女の子を包み込むように展開されたからだ。
「前が見えない!?」
女の子の動揺が終わらないうちに、私は二対の人形に煙に向けて弾幕を飛ばすように指示を送る。
グオ―――――――――ン!
そして大爆発が起きた。
先ほど女の子によって爆発された人形に仕込んでいたのは小麦粉だ。
そう、粉塵爆発を利用させてもらった。
私は弾幕を打ち続ける二体を空中に固定させ、残りの四体を女の子を囲むようにして四方へと展開させた。
「こんな事で吸血鬼がくたばるわけがないからね」
ワイヤーを握り閉める手に力を入れようとした瞬間だった。
ザワ
ザワザワ
一層空気が振動して、女の子の狂気じみた笑い声が聞こえてきた。
「あははははははははは!ぁぁあああああああああああああああ!」
瞬間、女の子を囲んでいた煙は掻き消えて、弾幕を撃っていた二体の人形が音を立てて爆発した。
「楽しい!楽しいよ!ひさしぶりの外!こっそり抜け出したかいがあったよぉぉおおおおお!」
女の子の笑い声が空気を振動させる。
「壊れちゃえぇぇええええ!」
そして女の子はスペルカードを掲げる。
「させるかぁあ!」
収束する魔力を感じ取り、わたしは速攻をかける。
「シーカードワイヤー!」
四方に展開された人形を経由して、光線は女の子へと飛来する。
「QED・495年の波紋!」
「きゃあ!」
しかし女の子が宣言したスペルカードによって起こった衝撃波の波紋が、光線のみならず、人形や私さえも吹っ飛ばす。
「禁忌・レーヴァテイン!」
そして追い討ちを掛けるように、女の子から放たれた槍状のそれが一直線に私を襲う。
「ぐぅ!」
私はもう一度シーカードワイヤーを展開し、なんとか高速でこちらに向かってくるそれの横っ腹に光線を当てて、機動をそらす事に成功する。
しかし、あまりにも無理な動きをさせたせいで四体の人形すべてが駄目になり、森へと落ちていった。
「あはは、スゴイスゴイ♪」
自身の放ったスペルカードが逸れるのを見た女の子は、笑いながらこちらへと突進してきた。
「上海!蓬莱!」
そして私は切り札としていた人形に声を掛ける。
それは先ほど、女の子と対峙したときに、退かせたと見せかけて森に隠れながら付いてこさせた二つの人形。
「え?」
ドゴ―――――――――――ン
急に飛来してきたレーザーに、一直線にこちらに突っ込んできた少女は反応する事も出来ずに直撃を受ける。
「はぁはぁ。危なかったわ」
荒い息を整えながら、私は森へと落ちていった女の子に視線を落とす。
「大丈夫よ」
私を心配して、上海人形と蓬莱人形がこちらへと近づいてきた。
シャンハ――――――イ
ホラ――――――イ
「ん、ありがとう」
心配そうに私に声を掛けてくれる人形たちの頭を撫でてやる。
「へぇ、やっぱりその人形ってかわいいね♪」
「え!?」
急に後ろから聞こえた声に、私は驚愕の声を上げて振り返る。
ガシッ!
「かはっ!」
振り返ると同時に私の首が凄い勢いで掴まれ、締め付けられた。
「あはは。面白かったわ」
「な、なんで・・・・・・」
そう、私の視線の先には先ほど撃墜したはずの女の子の姿があった。
「さん、にん?」
「うぅん。本当は四人。ひとりはあなたに撃ち落とされちゃった♪」
何が嬉しいのか女の子は声を上げて笑った。
「あはは。でも危なかったわ。あと少しスペルカードを使うのが遅れてれば私の負けだったかも」
「・・・・・・私をどうするつもり?」
「え?う~ん・・・・・・」
私の言葉に女の子は思案するように視線を宙に向けた。
わたしはこの首を掴まれるという最悪の状況のなかでどうするれば助かるかを考え、必死に頭を回転させる。
しかしすぐに彼女の能力に思い当たり、それが絶望的であることに気付く。
せめて彼女を刺激しないように、人形には大人しくしてもらっている。
「う~ん。あなた結構面白かったし~。もう一度戦いたいたい気もするしな~」
冗談じゃない。
私は彼女の言葉に眉を顰める。
「あ~。でも、そうだよね。うん。そもそもわたしの目的は・・・・・・」
答えが出たのだろう。
女の子は首から手を離して、私を見つめると、私の想像もしないような事を言ってきた。



「で?なんで殺されかけた私があなたにお茶とお菓子を出してあげてるのかしら?」
「んえ?」
「あぁ、いいわよ食べ終わってからで」
はぁ、と溜め息をついて目の前のそれはがっくりと肩を落とす。
わたしは今、それが最初に出てきた小屋の中でテーブルに座り、出された紅茶とケーキを食べていた。
「ご馳走様!おいしかったよ♪」
「お粗末さまでした、って違うでしょ?あぁ、いや、ちゃんとお礼を言うのは悪いことじゃなくて・・・・・・あぁ、もう!」
目の前で座って居るそれは、ころころと表情を変える。
それがちょっと面白かった。
「はぁ。だからね、どうして私の家に来たの?」
「え?この小屋ってあなたの家だったんだ?」
「こ、小屋って。ここはちゃんとした私の家よ。そりゃぁ、あなたの家に比べたらずいぶんと・・・・・・だから違う!私の質問に答えなさい!」
立ち上がったそれはドンっとテーブルを叩いた。
さっきの人形たちがオロオロとうろたえる様にしてそれの周りを飛んでいる。
「む~、だからさっきも言ったじゃない。宝物を見つけるのを手伝って欲しい、って」
「だから、そういう事じゃなくて。それがどうして私の家なのよ」
「だって、ほら」
そう言って私は、ポケットから取り出した地図をそれに差し出した。
「?」
受け取った地図を広げて、それは首をかしげながら質問をしてきた。
「確かにこれは私の家を記しているけれど。私の家が描かれているところにスタート地点って書かれているのは何故?」
「知らない」
「・・・・・・そもそも、この地図はなんなの?あなたは宝の地図とか言っていたけれど」
「あぁ、うん。それはね、魔理沙がわたしに残してくれた手紙に入っていたものなんだ」
私の話を聞いたそれの表情が急に強張った。
そしてすぐに腕を組んで、
「まったく、どういうつもりよ」
と呆れた様子でわたしに地図を返してきた。
「まぁいいわ。詳しく教えて頂戴」
そう言ってそれは再び椅子に腰を掛けた。
「うん。その地図はね。お姉さまが魔理沙からだって言って、昨日の夜に渡してくれた封筒に入っていたものなの。中には手紙が入っていてね、私からお前に宝物を残すぜ、って書かれていただけだった。それで封筒にはもう一枚、この地図が入ってたんだ」
「そう」
「もしかしたらね。宝物を見つけたら、また魔理沙に会えるかもしれないでしょ?みんなは魔理沙が会えなくなるくらい遠くに行っちゃったなんて言ってるけど、だけど・・・・・・きっとこの手紙は魔理沙からの招待状なんだよ!それでわたしが宝物を見つけることが出来れば、もう一度魔理沙に会うことが出来ると思うんだ♪」
わたしが興奮して立ち上がると、目の前のそれは無表情に紅茶に口をつけた。
「そうね。魔理沙がどういうつもりなのかは分からないけれど。わたしはさっきの弾幕勝負に負けて、命を助けるその代償に、あなたは私に手伝って欲しいと言ってきた」
「それじゃぁ手伝ってくれるの?」
「まぁ、興味もすこしだけあるしね」
「やったー!」
わたしは両手を上げて喜ぶ。
「はぁ。私ったら本当にお人よしね」
さっきまで殺されそうになった相手を手伝ってあげるなんて、とそれは付け加えた。
「早く行こ!行こ!」
「あぁ、はいはい。分かったから。それと私の名前はアリス・マーガトロイト。アリスって呼んでくれていいわ。今宵ばかりの付き合いだけど、よろしくね」
そう言ってアリス・マーガトロイトと名乗った彼女は手を差し出してきた。
「うん、私の名前はフランドール・スカーレット!こちらこそよろしくね♪」
差し出されたアリスの手を掴んで、わたしはそのまま引っ張るように彼女を外へと誘った。
ここから、わたしとアリスの宝探しの冒険が始まった。



馬鹿がいた。
「あたいの縄張りになんのようよ!」
そう言ってその馬鹿は私たちを指差して宙に浮かんでいた。
何故か裸で・・・・・・。
水浴びでもしていたんだろうか。
「なによその目は!」
フランドールが私に何あれ?と不思議そうに聞いてきたので、
「ただの馬鹿よ」
と教えてやった。
「馬鹿じゃない!あたいはチルノ!さいきょーのチルノさまと言ったらあたいの事よ」
器用に空中でジャンプしながらチルノは歯がゆそうに叫んだ。
「はぁ、わかったから。とりあえず服を着なさい」
頭痛がする頭を抑える。
チルノは最初はむ~っ、と唸っていたがすぐに草むらのほうへと降りていった。
「ねぇねぇ」
フランドールが私の服の袖を引っ張る。
「地図には霧の湖しか描いてないけど」
そう、私たちは今、地図に沿って最初の目的地の霧の湖に来ていた。
たしかに地図には霧の湖しか描かれていない。
いったいどういう事だろう。
「待たせたわね!」
私たちが思案していると、服を着たチルノが草むらから姿を現した。
「別に待ってなんていないからどっか行っていいわよ」
「むきー!」
地団太を踏むチルノ。
「もう怒った!弾幕ごっこで勝負よ」
そう言ってスペルカードを掲げるチルノ。
「はぁ」
今日はため息が多い。
しかも疲れる。
「ねぇフランドール」
「何?」
「彼女あなたと遊びたいみたい。ほら見て、スペルカードを掲げているわ」
私の言葉にフランの目がキラキラと輝いた。
そして自身もゴソゴソとポケットの中からスペルカードを取り出してチルノのほうへと駆け寄っていく。
まぁ、とりあえずこれで私が相手をする必要はなくなった。
フランドールがチルノの相手をしている間、私はなにかメッセージが隠されているんじゃないかと思い地図に再び視線を落とした。



「まぁ、予想はしていたんだけど・・・・・・」
地図を眺め始めてから一分と経たずに、私は視線の先で地面の上に伸びているチルノを見つめた。
さいきょーのあたいがまさか不覚をとるなんて、と黒くすすけた顔で呟いているチルノ。
「あいつ、つまんない」
フランドールの方はというと、つまらなそうな顔を浮かべて私の元へと戻ってきた。
「あんた!」
いつの間にやら回復したチルノは、びしっとフランドールの方を指差しながらこちらにズンズンと歩み寄ってきた。
「なによ?」
未だ期待を裏切られたことに機嫌が直らないのか、不機嫌そうに問いかけに返事するフランドール。
「あんたはさいきょーのあたいを追い詰めるところまで戦ったわ。あたいも、もしかしたら負けていたかもしれない」
「負けてたかもって、負けてたじゃん」
「負けてない!負けたかもしれないけど、さいきょーのあたいが負けるはずがないじゃない!」
ずいぶんと訳の分からない理屈を述べて、チルノは私たちの目の前で立ち止まった。
「だからあんたをあたいの子分にして、ったぁ。痛いじゃない!」
私の拳骨に、チルノは頭をさすりながら涙目で答える。
「はぁ、一体何なのよもう。地図には何も描かれていないし、かといって何があるわけでもないし。魔理沙ったら、何かあるんならちゃんと記しておきなさいよね。ほらフランドール行きましょ」
結局魔理沙は何を伝えたのかったのか。
私にはそれが理解できず、とりあえずフランドールの手をとって次の目的地に向かうことにした。
「あ、えっと・・・・・・」
「ん?どうかした?」
私に手を引っ張られていたフランドールが急に声を上げたので、私は立ち止まって彼女のほうに視線を向ける。
そこには顔をほんのりと紅く染めたフランドールの顔があった。
「どうかしたの?」
「えっと・・・・・うぅん、なんでもないよ」
私と視線を合わせずに、彼女は俯いてしまった。
まぁ、吸血鬼の彼女がどこか調子が悪いなんて事は無いと思うけど。
「気分が悪くなったら正直に言いなさいね」
「う、うん」
そして私は再び彼女の小さな手をぎゅっと握り締めて歩みを進めた。
暑い夏のせいか、彼女の手はほんのりと冷たくて気持ちがよかった。
「あ!ちょっと!あたいを無視するな!待ちなさーい!」
とりあえず、私たちの後を付いてくるチルノの事は無視することにした。



本格的に夜が訪れ始めて、辺りには夜の帳が落ち始める。
「いらっしゃい♪」
私とフランドール、そして勝手に付いてきたチルノは、夜の闇の中で赤く光る提灯に誘われるようにして、その店に足を踏み入れた。
「ミスティア来たよー!」
「あら、チルノ。それに魔法の森の人形遣いに、え~っと・・・・・・」
「ほら」
私はフランドールに名前を言うように促した。
「あ、えっと。私の名前はフランドール・スカーレット」
「そうフランドール・スカーレットって言うんだ。ん?スカーレット?どこかで聞いたような」
「レミリアの妹よ」
私の言葉にミスティアは、へぇ~、と驚いたように答えた。
「紅魔館のお嬢様がこんなところにくるなんてねぇ」
自分でこんな所なんて言うなよ。
まぁ実際、地図にこの店が描かれていなかったら寄ることもなかっただろうが。
それにしても、あいかわらず地図には店の絵以外、何も描かれていない。
「あっはっは。まぁ、ゆっくりしていってよ。この店にも箔が付くってものさ。はいこれ、サービスだよ!」
私が地図について思案していると、機嫌良さそうにミスティアが焼きあがったばかりの八目鰻を全員に差し出した。
「おぉ!うまそう!」
差し出された八目鰻を受け取ったチルノは、美味しそうにそれを頬張る。
「?」
フランドールはチルノが美味しそうに食べるのを眺めた後、渡された八目鰻に鼻を近づけて匂いを嗅いでいる。
「ありゃ?八目鰻は始めてかい?」
不思議そうに首をかしげるフランドールを見たミスティアが、笑いながら彼女に話しかけた。
「う、うん」
「美味しいよ?八目鰻は鳥目にいいんだ。騙されたと思って食べてみてよ」
それを聞いたフランドールは恐る恐るといった様子で八目鰻に口をつけた。
もぐもぐ
小さな唇がゆっくりと上下に動く。
「・・・・・・美味しい」
「だろ?嬉しいなぁ。タレも自慢の品だからね」
「わたし、こんなもの食べた事なかった」
驚きと、そして喜びを表す笑顔を向けて興奮気味にフランドールが答えた。
「気に入った!どんどんおあがりよ」
そしてフランドールの皿に山盛りの八目鰻が盛られていく。
「あっ!ずるいフランばっかり!とりゃ!」
フランドールのさらに盛られた皿から八目鰻をひったくるチルノ。
それをみたフランドールは、なにするのよ!っと怒っている。
ミスティアは機嫌良さそうに歌を歌い始めた。
私はというと、口の中いっぱいに八目鰻を詰め込んで、
「あたひっひゃらひゃいひょー!」
とか叫んでいるチルノと、負けずに小さい口に八目鰻を詰め込み意地になっているフランドールを見て苦笑しながら、地図を眺める事が馬鹿らしくなって八目鰻に噛り付いた。
ひさしぶりに食べた八目鰻の味は、むかし魔理沙と一緒に食べた、あの時の味そのままだった。



「あたいとあんたは釜の飯ね!」
楽しい食事を終えた私たちは、次の目的地に向かうためにミスティアの店を後にした。
そして店を出た直後にチルノの口から出た言葉は、相変わらず訳の分からないものだった。
「釜の飯?」
それを聞いたフランドールは首をかしげる。
「そうよ、一緒に食べ物を食べると釜の飯になるって、けーねが言ってた」
あぁ、なるほど。
そういうことを言いたいのか。
私は得心して、チルノに言い聞かせる。
「チルノ、それはきっと同じ釜の飯を食う、っていう慣用句で。実際に一緒に食べたからって使うものじゃないのよ。それは同じ場所で過ごしたり、働いたりした仲のいい人たちの事を言うの」
私の説明に口をあんぐりと空けて彼女は立ち尽くしたあと、
「でも結局は友達って事でしょ?そしたらあたいとフランは友達じゃん!」
「とも、だち?」
「そう!あたいとあんたは友達!」
二カッと笑ってチルノが答える。
フランドールはその言葉に、
「とも、だち。ともだち・・・・・・」
と何度か口ずさんだ後、微笑みながら、
「うん。わたしとチルノはともだち!」
と答えた。
「そう、あんたとあたいは釜の飯よ!」
「釜の飯♪」
「いや、だから釜の飯じゃないから」
なんだか可笑しくなって私は笑い出す。
するとフランドールやチルノも私につられるようにして笑い始めた。
ふと目を向けたフランドールの笑顔は、なんだかとても愛らしかった。



「ちんち~ん♪」
「ちんち~ん♪」
「二人とも歌うのはいいんだけど、もっと別の歌にしない?」
私は顔を赤く染めて、仲良く手を繋ぐ二人に声をかけた。
二人が歌っているのは先ほどミスティアが機嫌良さそうに歌っていたものだ。
「ちんち~ん♪」
「ちんち~ん♪」
しかし私の申し出を聞き入れず、二人は歌を歌い続ける。
星の光で森の中は比較的明るいものの、それなりに暗い森の中に響く二人の歌は酷くシュールだ。
「すこし静かにしてもらえないかな」
急に目の前の木陰から聞こえた声に、二人の歌がやむ。
「あっ!」
チルノの声に、木陰から現れた子供は、
「どうも」
と、小さくお辞儀をした。
あぁ、そういえば以前に会った事があった。
彼女は蛍の妖怪だったはず。
「こんばんは」
私が彼女に挨拶を返すとフランドールもそれに習うように挨拶を返す。
「こんなところまで一体何のよう?」
「えぇ、この近くにあるはずの川を探しているんだけど」
「川?確かにあるけど、一体そこに何のようなんだい?」
腕を組み、困ったような顔をして彼女が質問を投げかけてきた。
私は彼女に事情を説明する。
「なるほど。でも、弱ったなぁ」
「どうかしたの?」
「う~ん。今はとても大切な時期なんだ」
「?」
「今は恋の季節なんだよ」
なるほど。
納得した私はひとり頷く。
「恋の季節?」
それまで黙って私たちのやり取りを聞いていたフランドールが口を開く。
「君は?」
「わたしはフランドール・スカーレット」
「スカーレット?うぅん、どこかで聞いたような」
「紅魔館のレミリアの妹さんよ」
わたしの補足に彼女は目をぱちくりとさせる。
「ねぇ」
「な、なに?」
フランドールの問いかけに声が詰まる彼女。
まぁ、確かにそういう反応が当たり前なのかもしれない。
「名前」
「え?」
「だからあなたの名前だよ」
「あ、あぁ、私の名前はリグル・ナイトバグ。蛍の妖怪だよ」
「よろしくね♪」
「!?よ、よろしくお願いします・・・・・・」
差し出された手をぎこちなく握り返して、リグルは困ったように私に視線を向けてきた。
「フランドール。是非、彼女に道案内を頼みましょう」
助けを求めるようなリグルの顔が可愛いらしかったので、私は思わず苛めてしまった。
「えぇ!?」
案の定、彼女は泣き出しそうな顔で、そんなぁ、と呟く。
「いいじゃんリグル。連れて行ってよ」
チルノがリグルに詰め寄ると、彼女は諦めたように、
「はぁ、わかったよ。だけど決して煩くしないでね。私たちにとっては本当に大切な事なんだから」
と、がっくりと肩をおろして言った。
「「やったー!」」
フランドールとチルノの喜びの声が上がる。
「ありがとうリグル」
私のお礼の言葉に、彼女は苦笑しながら次の言葉を発する。
「こっちだよ。私についてきて」
そして私たちはリグルの後に続いた。
道すがら、恋の季節の意味を一生懸命説明するリグルと、その話に耳を傾けて聞き入る二人の様子は、とても仲の良い友達のようだった。



むかし魔理沙が言ってた宇宙って言葉を思い出した。
それはどこまでも星空が続く、とっても広い場所なんだって、手を大きく広げながら教えてくれた。
わたしは、その時はそれがどんなものなのかよく想像できなかったけれど、たぶんわたしが見ている今の光景がそれなんだと思う。
「うわー!」
わたしの目の前に煌く光。
それはどこまでも続いているようで、川を挟んだ向こう岸にも延々と続いていた。
「すげぇ!」
「ほんと、綺麗ね」
チルノやアリスもわたしの隣に立って、じっとその光景を見つめていた。
空に輝く星と地上に煌く星はまったく違うのに、まったくおんなじに見えるのが不思議だった。
「命の光だよ」
リグルがひっそりとした声で呟く。
「空に輝く星も、同胞が放つこの美しい煌きも、すべてが同じ命の光」
「私はずっと見てきたんだ。この命が煌く瞬間を。そして守ってきた。彼らが空へと還るそのときまで。何年、何十、何百年。私はずっとこの場所で多くの同胞の魂の煌きを眺めてきたんだ」
空を仰いで、一度言葉を切った後、リグルは言葉を続けた。
「寂しい時もあるけど。だけど私はそれ以上に誇りに思う。だって・・・・・・」
そしてリグルは目を瞑る。
「彼らは私のなかでいつまでも生きているんだから」
なぜだろう。
彼女の言葉に、わたしの胸がきゅっと締め付けられた。
なんだろう、今まで感じた事のない気持ちが胸の奥でざわつく。
わたしはこの胸のざわつきの正体が分からなくて、川の向こうで煌く蛍の光を眺め、立ち尽くすことしか出来なかった。



「それじゃぁ、私は帰るよ」
「あたいも帰ろっかな」
蛍の光を見終えた私たちにリグルとチルノが手を振って帰っていく。
「じゃ、また遊ぼうなフラン!」
そういい残すチルノの言葉に、惚けたように手を振り返すだけのフランドール。
夜はもう大分遅く、地図に記された目的地もあと一つになっていた。
そしてそのころには、私は魔理沙がフランドールにどんな宝物を残そうとしていたのか気付き始めていた。
「フランドール?」
未だに視線の定まらない様子のフランドールに、私は彼女の手を握りしめながら言葉を投げかける。
「あ、うん」
だけど彼女は生返事を返すだけだった。
「さぁ、最後の場所に行きましょう」
なかば強引に、だけど優しく、彼女の手を引く。
フランドールもまた黙って私の後に続いてくれた。
そう、私たちがこれから目指すのは山の頂。
ゆっくりと、私とフランドールは目的の宝があるその場所に向けて空に舞った。



山の頂には何も無かった。
あるのはただ先ほどよりも近くなった満天の星空だけ。
手を翳せば触れられるような気がした。
だけどそれは決して触れられなくて。
なによりこの山の上には、
「宝物なんてなかった」
わたしが俯いて呟くと、
「そうかしら?」
とアリスが星を眺めながら答えた。
「だって、なにもないよ?」
周りを見回しても宝箱のようなものは何も無い、それに・・・・・・。
「本当に何もない?」
「なにもないよ!それに・・・・・・それに魔理沙だっていない!」
そう言って見上げたアリスの顔はとても優しかった。
「そうね。いないわね」
なぜだろう。
あの時の気持ちだ。
リグルの言葉を聞いたときの、あの胸を締め付けられるような気持ちがわたしを苦しめる。
「あ・・・れ・・・・・・」
おかしいな?
なんでだろう。
視界がゆらゆらと霞む。
「ア・・・リス」
「・・・・・・」
わたしの言葉に、だけどアリスは何も言わずわたしをじっと見つめる。
「おか、しいよ。こんなに星が、ひっく、綺麗なのに。あ、雨が降ってきたみたい」
「違うわフランドール。雨なんて降ってない。それはね、あなたが泣いているからなの」
「え?え?そ、んな、どうして?」
「フランドール」
分かっているんでしょう?そう言って彼女はわたしの頭に優しく手を置いた。
それが限界だった。
胸の奥で何かが決壊する。
とめどなく流れ出したそれに耐えることが出来なくて、わたしはアリスに抱きつき、声を上げてわたしの本当の気持ちを吐き出した。
「わたし、知ってた。知ってたよ。本当はもう、魔理沙はいないんだって事。どこにもいなくて、二度と会えないんだって事。死んじゃったんだよね?だけど、わたし考えないようにしてた。うぅん、忘れようとしてたんだ。だって怖かったから、それを受け止めたら、壊れちゃいそうな気がして」
わたしの口からとめどなく流れる言葉の一つ一つをアリスは受け止めてくれる。
うわ――――――――――ん
わ――――――――――――――――――――――――ん
わたしたち以外誰も居ない山の上で、わたしの泣き声が星空のかなたへと運ばれていく。
「フランドール」
どれくらい泣いていただろう。
すこしだけ泣き声が収まった頃、アリスの声が優しく耳に届いた。
アリスはわたしを抱きしめる力を強めて言葉を続ける。
「確かに魔理沙はもういないけど、二度と会えないなんてことはないわよ」
「え?」
アリスの言葉に、わたしはそれまで彼女の胸に押し付けていた顔をゆっくりと上げた。
アリスの瞳も、ほんのすこしだけ潤んでいるように見えた。
「瞳を閉じてみなさい。胸に手を当てるの。そして魔理沙の事を想えば、ほら。あの憎たらしい笑顔が浮かぶでしょ?」
わたしの体をすこしだけ離して、彼女は笑顔を浮かべる。
言うとおりにして、わたしは瞳を閉じて魔理沙のことを想い浮かべた。
「・・・・・・」
心の奥で魔理沙の笑った顔がふっと浮かんだような気がした。
「いま・・・・・・」
瞳を開いて、わたしはアリスに視線を向ける。
「大丈夫。魔理沙は遠いところに行ってしまったけれど、あなたの中に確かに存在する」
満足そうに頷いたアリスが言葉を続ける。
「わたしの中にも魔理沙は存在する。忘れなければ、彼女はいつまでも私たちのなかで生き続けるわ」
だからね、そう言ってアリスはわたしのことをぎゅっと抱きしめた。
「あなたも忘れてあげないで。あのどうしようもなく強がりで、いつだって一生懸命なおせっかいの偉大な魔法使いを」
「うん、うん」
「ありがとうフランドール」
わたしはいっそう強くアリスに回した手に力を込めた。
もうそのころにはわたしの胸のざわつきは消えていて、かわりに暖かなものが胸いっぱいに満たされていた。
わたし忘れないよ。
絶対に忘れない。
魔理沙のこと。
ずっとずっと永遠に覚えてる。
そのとき初めて、わたしは魔理沙が残してくれた宝物がなんだったのか分かった気がした。



「ねぇねぇ、アリス。ここ難しい」
いつの間にか裁縫を始めていたフランドールは、気難しそうな表情を浮かべて人形と針をアリスに差し出した。
「あら、貸してみて」
人形と針を受け取ったアリスはフランドールに、
「ここをこういう風に返しながら縫っていくの」
とお手本を見せたあと、フランドールに人形と針を返した。
「むむむ」
真剣な表情でアリスに教えてもらったとおりに人形の背を縫っていくフランドール。
「出来た♪」
フランドールはそう言って嬉しそうに人形を掲げる。
「これで全部完成ね」
「うん!」
そういうとフランドールは席を立って、部屋の隅に置かれた棚のほうへと早足で向かっていった。
棚の上に置かれているいくつもの人形を手に取ると、ふたたび彼女はテーブルへと戻ってくる。
「みんな喜んでくれるかな」
テーブルの上に置かれたいくつもの人形。
それはフランドールが一生懸命に作った人形たちだった。
「これはチルノにあげるの。これは美鈴。こっちは咲夜に。あっ、これはお姉さまによ!」
テーブルに置かれたのは、ある一つを除いて、すべてクマの人形だった。
「え?なんで咲夜のだけクマの人形じゃないかって?」
フランドールは首をかしげながら尋ねられた人形を手に取る。
その人形とは咲夜用に特別に作られた、デフォルメされたレミリアの人形だった。
「えへへ。これはね、咲夜に特別に作ってあげた人形なんだよ。ここをこうするとね」
そう言ってフランドールはレミリア人形の背中の辺りを親指で押した。
すると、
れみりあ・うー☆
とか、
ぎゃおー!たべちゃうぞー!
と、人形の中からレミリアの声が背中を押すたびに聞こえてきた。
フランドールは、凄いでしょ?と自慢げに胸を張る。
「あ、あ~。それはまぁ、うん。本人の希望があったのよ」
唇の端を歪めながら、アリスはこれ以上聞かないで、と顔で語っていた。
「ま、まぁとにかく。これでみんなにプレゼント出来るわね」
「うん♪」
嬉しそうに笑うフランドール。
「友達や、日頃お世話になっている人にプレゼントしたいんだって。ちょっと前にね、フランドールが私にお願いしてきたのよ」
機嫌良さそうにクマの人形にリボンをつけているフランドールを眺めながら、アリスは言葉を続けた。
「まぁ、あの宝探しの事があってから、フランドールとはよく会っているわ。時折、私の家に遊びにきたりもするしね。チルノやリグルとも遊んでいるみたいよ?」
ふふふ、と微笑を浮かべて、彼女は最後となったケーキの切れ端を口に運んだ。
「アリス!」
気がつくとアリスの横に立って、彼女の服の袖をひっぱるフランドールの姿があった。
「あら、どうしたの?」
「これ!プレゼント」
そう言ってフランドールは手に持っていたクマの人形を彼女へと差し出した。
「わたしに?」
「うん」
「このクマの柄は見たこと無いわね」
「えへへ、これはアリスに内緒で作ってたやつなんだ♪」
そう言ってフランドールは照れ笑いを浮かべる。
「ありがとうフランドール」
本当に嬉しそうにアリスは人形を受け取った。
「あのね、わたしアリスにお願いがあるの・・・・・・」
「お願い?」
「人形は完成しちゃったけど、その、また遊びに来てくれる?」
俯いて帽子をぎゅっと下に引っ張るフランドールの行為は、きっと真っ赤になった顔を隠すためなのだろう。
「ふふふ、そんなことお願いされなくても、私とフランドールは友達なんだから当たり前じゃない」
「・・・・・・あはは、そうだね、ともだち。うん、アリスとわたしはともだちだからね!」
にっこりと笑いあう二人。
その暖かな光景こそが魔理沙の残した宝物の正体だったのだろう。
そんな彼女たちに別れの言葉を告げた彼女は、そっと部屋を後にしたのだった。



アリスはふっと、クマの人形を見つめながら思い浮かべていた。
まったく魔理沙はおせっかいなやつだ、と。
どうして彼女がわたしの家をスタート地点に記したのか?
きっと魔理沙は私にも残したかったのだろう。
友達という宝物を。
本当に大きなお世話だ。
わたしは魔法と人形以外興味がなかったと言うのに。
それでも・・・・・・。
目の前の人形と笑顔を浮かべるフランドールを見て、私は届かない言葉を心の中で呟く。
――――――――――――――――――――ありがとう、大好きよ魔理沙、と。
後編に続く
阿鯛 斎京
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