「ついかっとなってやった。今では反省しています」
“白黒”
(このお話は同作品集“縞馬男”“短いお話”の続きです)
それはあんたが言われるべき科白であって言うべきもんじゃあないでしょうに。夕暮れも間近の博麗神社境内、疲れた顔で霊夢は頭に手を当てた。
目の前には大きな帽子。正確には帽子を被った人物。であるのだが、決して大柄とも言えぬ体格の上に随分と大きくてごてごてと色々の飾りを付けた目立つ帽子、そんな物を頭に載せてしかも綺麗に九十度腰を折り曲げているものだから、霊夢の目にはどうも帽子ばかりがやけに存在感を持って映ってしまう。
「およ?」
「どうしたのよ霊夢。誰、その人」
正午からずっと、黒い泥棒をやれ湖に沈めるだ磔にして火あぶりだ等と物騒なお喋りに花を咲かせつつ神社に居座っていたパチュリーとアリス。そんな二人の魔法使いが、突然に現れた謎の帽子に目を向ける。
「ボスよ。うちの」
応えたのは帽子の後ろに立つ少女だった。背中に担ぐは独特の波打つ刃を光らせる巨大な鎌。
「貴方は確か、いつぞやの」
パチュリーが細めた目で少女を見遣る。先の夏、不良天人の起こした馬鹿騒ぎの折に幾度か顔を合わせた川霧の気質を持つ死の世界への渡し舟、小野塚小町。
「死神のボス、って言うと」
暫し顎に手を当て考え込み、それからぽんと手を打ち鳴らしアリスが声を上げた。
「総隊長さんかしら」
「いやいや、あたいらんとこは部隊制は採ってないから」
笑って手を振る死神。但しヤマ迄は合っている。
「て言うと、やっぱり」
アリスとしても判ってて言った他愛も無い冗談。思った通り目の前の帽子は、人の道を外れ妖怪となった彼女としては余り顔を合わせたくない人物だった様だ。
「何を言ってるのか判らない」
端から順を追って判り易く丁寧に説明しろ。不満の色を隠しもしない霊夢の声に、帽子の人物はやおら顔を上げた。
「まぁ、その、それが」
手にした悔悟の棒でもって口を隠し、僅かに視線を逸らして恥ずかしそうに頬を染める少女。
四季映姫・ヤマザナドゥ。その名の示す通り幻想郷担当の閻魔様である。
普段であれば誰と顔を合わせても先ず説教から入るというそんな彼女が、物事はっきり白黒付けるのが大好きな筈の閻魔様が、今は何故だかどうにもはっきりしない態度で言葉を濁している。
「白黒、付けてしまったんです」
◆
「だからな。何度も言わせるな。私は生まれてこの方、嘘なんてものはまるで吐いた事がない」
「ですから。貴方が今口にしたそれ。それこそが嘘と言うものなのです」
もうこうした問答もこれで何度目になるのやら。四季は流石に少々の疲れを感じ始めていた。
閻魔として数多くの人間を見守り続けてきた彼女。その中には稀代のペテン師と称された男や神の言葉を持つと畏れられた為政者など、言葉だけで人を思いのままに操れる程の、そんな口達者が何人も居た。
尤も、幾ら口が立つとは言ってもそれは人間が相手の話。地獄の判官たる閻魔を前にすれば、恐怖と緊張でその舌も凍り付きまともに回りはしなくなる。
それがこの少女はどうだ。四季の前に居る十と余年しか生きてはいない小さな小さな人間の少女、霧雨魔理沙。彼女は閻魔を相手にしながらその口の走りを少しも滞らせはしない。何と言う負けん気、何と言う我の強さ。
その逞しい精神力それ自体は四季も素直に素晴らしいと思う。このまま成長すれば、必ずや一角の人物として幻想郷の歴史に大きく名を残す事となるだろう。そうは思う。
思うのだが。
「貴方のその舌、生きている内に一枚は抜いておいた方が良いかしら」
「そうしたら適当な所で三枚目でも見繕っておくさ」
「あら、どうやって」
「ホムンクルスは無理としても、舌だけだったら頑張りゃ何とか作れるだろ。
あんたらの所に行く頃には十枚位になってるかもな。引っこ抜くだけで一手間だ」
神をも恐れぬその強い心を、こうした説教の場面で天邪鬼の気と共に持ち出されては堪ったものではない。いくら言葉を尽くしても暖簾に腕押し、馬耳東風。結局いつも話がこじれて弾幕勝負になってしまう。
魔理沙に悪意が無いのは四季も判っている。判ってはいるのだが、職業柄、それに真面目な性分、そうしたもののせいでこの小さな少女の軽い態度がどうにも黙って見過ごせない。
「どうもやはり、口だけは判ってもらえないみたいね」
「そうだな、判らん。
判らんと言えばあんたの能力もよく判らんな。白黒付けるってそりゃ何だ? 白熊をパンダに変える程度の能力か? 何の役に立つんだ、それ」
話の流れを無視し、特に重要でもない単語を抜き取り殊更に強調、そこから無理矢理に別の話題へ繋げる。話の誤魔化し方としてはさほど珍しくも巧くもない手ではあるのだが、繋げられた先の話題が自身の能力への侮蔑。ついつい話に乗ってしまう四季。
「馬鹿にしないでもらいたいですね。私の力は」
「私の知り合いにゃ七色が居るがその二割八分六厘にも満たないか。情けない」
「私の力はそういう」
「紅白と違ってめでたくもないしな。本当に存在意義が判らん」
相手の言葉を遮り一方的に言いたい事を押し付ける。稚拙な手ではあるが既に挑発に乗ってきている相手を煽るには充分効果的。
「判りました。良いでしょう」
四季の周囲、空気の質が、そこらの人間でもこりゃ何かが不味い、そう理解できる程に、はっきりとした変質を見せ始めた。
それを見て魔理沙はほくそ笑む。研究熱心な彼女、多少の痛い思いは覚悟してでも面白そうな能力はその目で見てその身体で感じてみたい。そう考えての挑発だった。
そうした魔理沙の考え、四季は読んでいた。読んだ上で力を使う。ただの弾幕ごっこでお灸を据えるは最早向こうも慣れてしまっている。なればここは普段とは違った目に遭わせてその捻くれた性根の改善を期待するしかない、と。
「見るがいい、そしてその身体と心に刻み込みなさい! 我が力の真髄をっ」
◆
「でまぁ、結果、その」
己が未熟をこうして自ら晒す。その事に照れを感じているのだろうか。口を隠し視線を逸らし、どうにもはっきりしない口調で四季は言葉を濁す。
「ほらほら四季様、もっとちゃんとして」
上司の弱みを前に嫌味なくらい元気な笑顔で話を促す死神。明らかに調子に乗っている。職場に帰ったら覚えてろ。閻魔は心でそう唸る。
それは兎も角。
「彼女、白黒付いてしまったんです」
「いや、だから」
意味わかんないし。霊夢は手を振り首を振るう。同じく話を聞いていたアリスもパチュリーもまるで理解が出来ていない。そもそも彼女らも、四季の白黒はっきり付ける程度の能力と言うのがどの様なものなのか、まるで知りはしないのだから。
そんな三人を前に、こほんと咳一つ、それから大きくゆっくりと息を吸い、今度ははっきりと前を見つめ力の籠もった声で四季は言った。
「分かれてしまったんです。彼女。白と黒とに」
「はい?」
霊夢とアリスとパチュリー。三人の声がぴたりと綺麗に重なった。
只でさえ判り辛い話が余計に理解不能な事に。間の抜けた顔で固まってしまった三人の少女を余所に四季は小町の方へと顔を向ける。
「こちらへ」
その声に応え、小町の後ろから小柄な一人の少女が静かに歩み出て来た。
頭に被った大きな帽子を含め、上等の舶来人形を思わせる美しいブロンドの髪を除く全身を白一色で纏めた少女。肌の色さえもが儚さを感じてしまう程に、触れば穢れ消えてしまいそうな位に白い。
そんな少女を見て。
「はあっ?」
霊夢が素っ頓狂な声を上げた。
「あの、久し振りと言いますか、初めましてと言いますか、その」
怯えている子猫の様、僅かに揺れている丸く大きな瞳。そうして少し鼻に掛かった、今にも泣き出しそうなその声。
乙女だ。
目の前に現れた白い少女。彼女を形容する為の言葉に乙女以外の何一つ、霊夢達三人には思い付かなかった。そうしてそれ故に。
「きゃっ」
ごつんと一つ、境内に小さく鈍い音が響いた。
「あ。ごめん、その」
分厚い本を手に、自分でも何をしたのか判らない、そんな風で狼狽えるパチュリー。
「何するんですか、パチュリーさん」
頭を手で押さえ目元を涙で濡らし、白い少女が細い声を出したその直後。
「ひゃんっ」
今度は小さな人形が彼女の腰に軽い蹴りを加えていた。
「あ、や、その。つい」
慌てて両手を振るアリス。それと同時に逃げる様にして人形は彼女の手元に戻っていく。
パチュリーにもアリスにも、悪気など少しも有りはしなかった。と言うより、叩こうという意思すら持っていなかった。事に及んだ時点になってから漸く、一体自分は今何をしたのか、そんな事を考え始める様な有様。
何故なのか。目の前の少女が何か気に障るような事をした訳ではない。むしろその柔らかな物腰は良家の子女を思わせるしとやかさに満ち、同性である魔法使い二人ですら思わず目と心とを奪われ、憧れの溜め息を吐かずには居られぬ程。
それなのに。
問題はたった一つ。
「何やってんのよ。気味が悪い」
歯に衣着せぬ霊夢の言葉。白い少女はもう完全に泣き顔になってしまっていた。
問題なのはたった一つの事柄だけ。
少女の顔は、霧雨魔理沙のそれだった。
「彼女は白魔理沙です」
またこいつはいきなり何を言い出すんだ。そんな思いをはっきりと込めた表情で以って四季を睨む霊夢。
「白魔理沙って。それじゃ何、他にも黒魔理沙とか」
「居るんです。そこの、魔女の貴方」
半ば自棄を見せる霊夢の言葉を言い切られるその前にあっさりと首肯し、そのまま今度はパチュリーに話を向ける。
「昨日の話を聞いた限りでは、少なくとも貴方は既に黒魔理沙と出会っている筈です」
「黒って言われても、ねぇ」
言われてパチュリーは思い起こしてみる。ここ数日、急激にその暴挙の度を増してきていた魔理沙。それが閻魔様の言う黒魔理沙とやらなのだろうか。
「違っていた筈です。普段の彼女とは、明らかに」
「って言われても。むう」
言葉を重ねてくる閻魔様を前に、しかしどうにもパチュリーには話がよく見えていなかった。確かにここ最近、魔理沙の行動は異常と言える域にまで達していたかも知れない。
が、それは普段から彼女がとっている行動を単にそのままエスカレートさせただけとも思える。明らかに、等と、そこ迄を言える程の違いなぞあったろうか。
パチュリーだけではない。アリスは早朝に家を襲った魔理沙を、霊夢は朝に神社を訪れた魔理沙を、それぞれに思い浮かべながら、さて明らかな違いとやらは一体何なのか、うんうんと頭を捻ってみせる。
「自分の事を俺とか言ってた筈なんですけど」
「あっ」
三人の声が再び綺麗な調和を響かせた。
「誰でも一発で判る様な、物凄く大きな違いだと思うんですけど、ねえ」
どうにも呆けた様を見せる三人に、思わず四季の口から嘆息が漏れる。
「いやほら、だってあいつ、昔っから偶に口調とか格好とか変えてたし」
「そうそう。今回もまた一種のイメージチェンジとかかなあ、って」
ばつの悪そうな顔で頭を掻く霊夢と、彼女の言葉に慌てて何度も頷いて見せるアリス。
「て言うかぶっちゃけ、私はあいつの一人称が何であろうと興味無いし」
一方パチュリーは動じない。魔理沙が自分の事を俺と言おうが妾と言おうが、語尾におじゃるを付けようがナリを付けようがそんな事は些事も些事。大切なのは、如何にして魔理沙を懲らしめ奪われた本を取り戻すかという、ただそれのみ。
「ま、俺云々は置いといて。
ところでさ、昨日の話を聞いてたって、それどういう事? 他にもあれこれまだ判らない事だらけなんだけど。
結局何なのよ。白魔理沙、黒魔理沙って」
説明はもっと簡潔に判り易く。巫女の、それから魔女と人形遣いの、三者の視線が四季に突き刺さる。
「ご免ねえ。無駄に小難しい話し方を好むってのが四季様の悪い癖だから」
そう言って笑う死神。今回の責は全て自分にあると、それが判っている四季にはこの場で強い反論も出来ない。現在進行形で小町には無理をさせてしまっているという事情もある。
とは言え。彼岸に戻ってからを楽しみにしてろ。
「霧雨魔理沙を精神の白と黒とで分けた。それが白魔理沙と黒魔理沙です」
少し改まった顔になって閻魔様が話を始めた。
彼女の能力を受けた魔理沙は、その精神の白い部分、善き心のみを受け継いだ白魔理沙と、黒い部分、悪しき心のみを受け継いだ黒魔理沙とに分離した。
勿論四季にとってこれはただの脅し、一通り驚かせた後はすぐに元へ戻す。そんな心算であった。
「ですが」
己の浅はかさを思い起こし、閻魔の胸元、悔悟の棒を握るその手に力が入る。
「言い訳は出来ません。正直、彼女を甘く見すぎていました」
黒魔理沙が突如、四季と白魔理沙に向けて魔砲を放ったのだ。
スペルカードルールに慣らされていた事、それに加えて白魔理沙を庇ったという事情もあった。四季の対応は完全に後手に回り、爆風が過ぎ視界が戻った時には黒魔理沙の姿は消え失せていた。見事に逃げられてしまったのだ。
「恐らく彼女は本能で察したのでしょう。自分の採るべき行動を」
悪心のみを持った黒魔理沙は、善心の権化たる白魔理沙との再融合を嫌った。だから逃げ出したのだ。
分離したばかりの二人はまだその間にある境界が曖昧であり、近くに居さえすれば、そこで四季が能力を解除すれば強引に再融合させる事も出来る。だが時が経ち、各々の存在が確かなものとなってしまえば最早四季だけの力では元に戻す事が出来なくなる。
残された時間はそう多くはない。四季と白魔理沙はすぐさま黒魔理沙を捕らえる為の行動を開始した。
「ですが、黒魔理沙は本来の魔理沙から見れば僅か二割にしか過ぎぬ存在でありながら、戦闘に関する能力のみに於いてはオリジナルのほぼ全てを継承しています。そこで我々は」
「いや。いやちょっと待って」
驚愕の表情を貼り付けた巫女が閻魔の話に割って入った。
「有り得ないでしょ、それ。どう考えてもおかしいって」
巫女の言いたい事を即座に読み取り、閻魔は苦い顔で首を左右に振る。
「分離の際、白魔理沙はその善性が故に、他者を傷付けるという行為を、その為の能力を無意識に拒否しました。反対に黒魔理沙は」
「いやいや。そうじゃなくて」
今度は巫女がぶんぶんと首を振る。どうやら閻魔の読みは外れていた様だった。
「黒二白八って、明らかにおかしいですよ、逆ですよそれ」
人形遣いが両手を広げた大仰な身振りで理不尽を訴える。
「どんなに甘く見積もっても黒六白四。白の方が多いとか有り得ないし」
魔女もとてもではないが黙っていられずにツッコミを入れる。白黒に分かたれるそれ以前から、暴力的とは言わぬまでも泥棒行為それ自体はずっと続いていたのだ。あの捻くれた人間がその実白い部分の方が多いなどと。そんな暴論、はいそうですかと認められる訳も無い。
「いやでも彼女、元からそんなに悪い人間でもないと言うか。
まあ、挑発に乗せらてしまった私が言えた立場でもないのですが、天邪鬼なのは表層の部分だけであって内心はむしろ」
「四季様、四季様」
突然に始まった魔理沙の白黒比率議論、乗り掛かろうとした閻魔をしかし死神が呼び留める。その額にはいつの間にやらうっすらと汗。
「なるたけ早めに切り上げてもらえませんかね。ぼちぼちきつくなってきたんで」
「あ。ああ、ごめんなさい、小町」
こほんと小さく咳払い一つ、そうして頭を切り替える。白黒論議については事を治めた後にでも存分にやれば良い。今はそれどころでないのだ。
「兎も角、戦力的に不安がある上に敵の足の速さは折り紙付き。追跡戦では分が悪い」
幾ら黒魔理沙がオリジナルの戦闘能力を全て受け継いでいるとは言え、正面からの単純勝負で四季がそうそう遅れを取る事も無いだろう。だが彼女には常に白魔理沙を連れ、そしてそれを護らねばならぬという大きなハンデがあった。
四季達が黒魔理沙を追うだけではない。黒魔理沙もまた、白魔理沙の事を虎視眈々と狙っているのである。
「分離した二人は自身の手でもう一方の自分を害する事により、相手を吸収し己のみを基盤として完全な一人となる事が出来るのです」
それは四季の能力解除による再融合とはまるで意味が違う。黒魔理沙が白魔理沙を消せば、心の十割が黒で出来た新たな霧雨魔理沙が誕生する事になってしまうのだ。
そんな状況下で何の戦闘力も持たない白魔理沙を連れて飛び回るのは余りに愚策。敵の機動力は高いし、遠距離からの狙撃も警戒せねばならない。よって四季達は追跡戦を放棄し、霧雨魔理沙が頻繁に訪れていた博麗神社に潜り込み、そこで身を隠しながら黒魔理沙が訪れるのを待った。
「ああ、成る程」
得心した表情で巫女が手を打った。ここのところ神社の空気がやけに居辛く感じたのはそのせいか。説教好きの閻魔様、そんなものがずっと神社に取り憑いていたと言うのであれば、肩が凝って仕方が無かったのもそれ道理。
「下手に動くのも得策ではない。そう思い待ち伏せを選んだ、のですが」
四季は話を続ける。
結局二人が潜伏している間、黒魔理沙は一度も神社に近寄らなかった。元は同一の存在である二人の魔理沙。彼女らは近くであれば互いの存在を感知する事が出来たのだ。
当然四季達もその事は知っている。だから最大限気配を殺してはいた。だが相手は用心深く、常に周囲の気配に意識を立て、そうして二人を嘲笑うかの様に神社ではなく紅魔館ばかりを襲撃した。
昨日の昼、神社を訪れた吸血鬼と霊夢の会話からその事を知った四季達は、慌てて紅魔館に向かうも当然そこに黒魔理沙がいつ迄も残っている筈が無い。その後、たまたま留守だった魔法の森に在る人形遣いの家も一応の確認といった感じで覗き込み、それから幻想郷中を飛び回って黒魔理沙を探し続ける。
危険は承知の上だった。しかし時間が無かったのだ。二人の魔理沙の身体が確立してしまう迄あと半日も残ってはいなかった。一か八かの囮作戦。釣られて現れた黒魔理沙が攻撃を仕掛けてくるその前に即行で再融合させる。それを狙った。
けれども黒魔理沙は姿を現さず、無情にも日付は変わり二人の魔理沙の間に在った境界ははっきりとしたものとして確立してしまった。
これにより立場は逆転する。最早四季の能力解除だけでは再融合は為されない。安心して真正面から白魔理沙を襲う事が出来る。追われる立場だった黒魔理沙は狩る側に回った。
追われる立場となった四季と白魔理沙は、黒魔理沙が真っ先に訪れるであろう霧雨邸や博麗神社には戻らず、暫くは身を潜めて過ごした。
とは言えこのまま動かずにいても事態は好転しない。何かしら打開の手口でも見付けられぬものか、そう考えて昼過ぎ、黒魔理沙と遭遇しない様に周囲の気配に神経を尖らせつつ、久しく留守にしていた霧雨邸へと戻って来た。けれども大した物は見付からずじまい。
己が不始末から出た騒動。無関係な者に余計な面倒は掛けられない。全て自分で始末を付ける。そう考えていた四季であったが、事ここに至って最早手段を選んでいる余裕は無くなった。
そうしてそんな四季に、白魔理沙もまた黙って従う他なかった。相手は悪心のみで固まった危険な自分。それなのに他人を巻き込む様な事なんて。そう思っていた。けれども彼女の力では、端から他者を頼みにするしかないのだから。
「そういう訳で」
事の経緯を全て話し終え、そうして四季は改めて頭を下げた。
「黒魔理沙を止める為、霧雨魔理沙を助ける為に、貴女方の力を借りたいのです」
「お願いしますっ」
同時に白魔理沙も深く、深くに頭を垂れる。
「でも、さあ」
必死に頭を下げる白魔理沙を平らな表情で見下しながら、霊夢は問う。
「元の魔理沙に戻ったら、白魔理沙であるあんたは消えちゃうんじゃあないの」
黒魔理沙はそれを嫌った。だからこそ四季を避け、白魔理沙を消す事で自分が唯一完全な霧雨魔理沙になろうとしている。
それなのに彼女は、白魔理沙は己を消す手助けを得る為にこうして頭を下げている。判ってやっているのか、納得はしているのか。それを霊夢は聞きたかった。
そんな、少し意地の悪いとも取れる巫女の問いに。
「大丈夫、ですよ」
白魔理沙は顔を上げ、柔らかい笑顔で応えた。
「消えませんから。私達は」
それは心からの言葉。柔らかな笑顔の下に在るのは固く揺るぎの無い意思。
「私達はそもそも一つの存在の光と闇。それが元に戻るだけ。
だから霧雨魔理沙が生きている限り、その心として私達は存在し続けるんですから」
そこに悲愴は無かった。覚悟と言えるものすら無かった。白魔理沙の魂はそれを当然の事と受け入れていたから。
何故なら白と黒の二人が融合するという事は、そのどちらをも受け入れると言う事。白も黒も否定しないと言う事。
けれどもが二人が分離するという事は、白黒を併せ持っていた霧雨魔理沙という一人の人間の存在を根本から否定する事になってしまう。
白魔理沙が魔理沙なのではない。黒魔理沙が魔理沙なのではない。白黒揃って初めて本物の霧雨魔理沙となれるのだ。
「だから、どうかお願いします。力を貸してください」
そうして再び頭を下げる。己を消す為ではない。白である自分を、対極の存在たる黒を、それらを併せ持った一人の人間を、何一つ否定せずに全てを救う為。
そんな白魔理沙に対する霊夢の答は。
「なら良いわよ。暇だったし」
余りにもあっさりとしていた。
「確かに。それに閻魔様相手に貸しを作れるっていうのも美味しいわ」
そう言ってアリスは波打つ様にして両の指を動かす。
「公認で思う存分あの馬鹿にお灸を据えられるなんて、そんな機会もそうそう無いしねえ」
無表情が常の顔に不敵な笑みを浮かべてパチュリーが呟く。
「それにねえ、そもそも」
笑っている様な、少し困っている様な、そんな複雑な表情で霊夢が小さく息を吐いた。
「こんな、護られるべき可憐なお姫様役なんてやってる魔理沙、いつ迄も見てたら調子が狂って仕方が無い」
「本当ね。あいつに似合うのは悪い魔法使い役よ」
アリスも笑って霊夢の言葉に頷いて見せる。
「本盗らなさそうだし、私は別にこっちの娘でも良いけど。
でもまあ、これだと新魔法の試し撃ちには使えなさそうだし、それなら元の方がまだましかしら」
眠たそうな半開きの眼、意の読み難い平らな表情。いつもの風を纏ってパチュリーが毒を吐く。
知らぬ者が外から見ればどうにも口の悪いその三人。けれども。
優しい人達だな。
霧雨魔理沙であった白魔理沙には判った。霊夢達は彼女の意を汲み、その上で余計な心配をかけまいといつも通りの悪態を見せてくれているのだと。
「さて、話も纏まったところで」
ぽんと軽く手を打ち鳴らし、それからアリスは四季に向き直って言った。
「戦闘に備えて敵の戦力が知りたいわ。閻魔様、黒魔理沙の能力について詳しく教えて下さい」
背筋を伸ばし凛とした声を響かせるアリスの後ろに。
「どうでも良いじゃない。そんなの適当で」
「詳しいデータが無いと怖くてまともに勝負も出来ないのよ。未熟者だから」
チームメイトである筈の二人が早速棘を刺してくる。
「感性だけで生きている人間や耄碌してるお年寄りと違ってね、私は戦いには頭を使う主義なの」
早くも先行きが不安になりそうな三人。けれどもこれこそが彼女達のいつも通りか。そう思い四季は喧嘩を咎める事も無くアリスの問いに答える。
「先程も言った通り、黒魔理沙の能力はオリジナルのものとほぼ同様です」
「何だ。なら楽勝ね」
言って強気を見せるアリスに、事はそれほど単純ではない、そう四季は首を振る。
「能力は同じでも、その行動パターンはオリジナルのそれとはまるで違います」
人は誰しも善き心と悪しき心を持つ。例えどんな悪人であっても、それが人間である限り心の中には必ず幾許かの良心を持つ。いつかは己を省みて、そこに欠片程の善を見出して改心する、そんな余地がある。
だが黒魔理沙は違う。彼女は悪の心の権化。その心に髪の毛の先ほどの良心もありはしない。例え彼女が己を省みる事があったとして、そこにはただ一点の白も存在しない。今の自分が悪であり、そして振り返った己の道にもまた悪しかないのであれば、自省と言う行為ですら彼女にとっては自身の黒を肯定する結果に終わる。
「言うなれば彼女は、時が経つにつれその純度を増していく絶対悪。その思考や行動を、決してオリジナルのそれと同様に考えてはなりません」
黒魔理沙は勝利の為なら手段を選ばない。幻想郷の安定の為に作られたスペルカードルールを嘲笑い、強い敵は避け、弱い標的のみを狙ってくる。
「よって万全を期す為、博麗霊夢、貴方には白魔理沙のすぐ傍で防護の結界を張る役目を担ってもらいます」
それはつまり最後の砦という意味。そんな大役を、動く必要が無くて楽そう、そう言って欠伸を一つ、霊夢はあっさりと了承する。
「パチュリー・ノーレッジ、アリス・マーガトロイド。両名には黒魔理沙の足止めを頼みます」
「二人がかりで足止めって」
不服そうに僅かに頬を膨らませるアリスを前に四季は話を続ける。
「既に言った通り、今や私の能力解除だけでは二人を再融合させる事は出来ません。そこで」
言って懐から取り出す。一枚のお札。
「八雲紫、彼女に作らせたこの札を使います」
時が経ち白と黒の魔理沙がその存在を確立させるに至った今、互いの間に作られた白黒を隔てる境界は強固になってしまっている。けれども境界を操る妖怪、八雲紫。彼女の力を借りればその境界を弱める事が出来る。
「そんな便利な物があるならさっさと使えば良いのに」
しかも紫の札って何か仕込んでありそうで嫌だ。文句を垂れる霊夢だが、当然世の中そう便利には出来てもいない。
「これの力を発揮させるには、ちょっと厄介で面倒なお膳立てが必要になるのよ」
白と黒の魔理沙を再融合させるには、先ず互いの身体を接触させ、その上で四季が能力を解除し、そこに八雲の札を叩き込む。そんな手順が必要であった。
目的の為に手段を選ばない黒魔理沙と、何の戦闘能力も持たない白魔理沙。しかも前者の目的は後者の排除。そんな両者を直に接触させるという事は、わざわざ飢えた獅子の眼前に足を怪我した兎の子を置く様なもの。ほんの僅かの躊躇もミスも許されない。狙えるタイミングは一度のみ。例え万一の事があろうともその機会を絶対に逃さぬ為、四季は戦いに加わらずチャンスを見極めねばならない。
「ですから確実に、黒魔理沙の動きを止めてもらいたいの」
その為には相手と同等以上のレベルを持つ術者が最低でも二人は必要。そう四季は力説する。
その言葉に納得の表情は見せないながらも渋々頷いてみせるアリス。
「で、黒魔理沙は今、何処に居るのかしら」
居場所がわれていないのなら紅魔館からメイド妖精を貸し出しても良い。そんなパチュリーの提案に、それまで黙って話を聞くばかりだった白魔理沙が首を横に振って応えた。
「その必要はありません。彼女は今、この神社に向かって来ているのですから」
霊夢達に助力を頼み決戦の意を固めた今、彼女はその気配を隠す事なく周囲に開放していた。急に大きくなった獲物の匂い、それを嗅ぎつけ飢えた獣が迫って来ているのは確かに白魔理沙は感じていた。
「何だかなあ、それ」
白魔理沙の話を聞いて、唐突にアリスが気の抜けた声を漏らした。
「何だかまた、随分と」
今の今までずうっと長話を続けていた。事態の概略から事の経緯、解決法の提示までしてわざわざ了承を採って、更にその後はのんびり作戦会議まで。必要事項の最初から最後迄をゆっくり全部話し切った所で、さあ終わるまで待っていましたよ、と、そう言わんばかりにタイミングの良い敵の襲来。
別に不満が有る訳でなし、むしろ効率が良くて助かる位なのだが。
「作りの下手なお話みたい」
ついそう思ってしまう。
「いやいやいや。世の中そうそう、理由も無いのに事が上手く運んだりもしないって」
アリスの言葉に、ずっと話題の外に居た筈の小町が急に割り込んできた。
見てみればその身体、一体いつの間にやら大粒の汗にまみれている。
「そっか。サボさんの能力」
「ま、そういう事」
思い当たって声を上げる霊夢と、僅かに乱れた息を吐きながら頷いて見せる小町。
「さっきからずっとね、高速で接近してくる相手を無理矢理神社から遠ざけ続けてるんだ」
正直昨日呑んだ分が逆流してきそう。蒼ざめた顔で小町は唸る。
世の中綺麗な舞台を整えるには、その準備の為に汗を流す縁の下の力持ちが必要となるものなのだ。敵に居場所を知られた状態で必要事項を落ち着いて話したければ、その間の相手役を別に用意しなければならない。
「四季様、もう、ゴールさせちゃっていいですよね?」
「駄目ですあともうちょっと! て言うか小町、今日は大勝負になるから昨晩はお酒は控えておきなさいってあれ程っ」
「いやあほら、戦の前に酒も呑めない様じゃ女がすたると言いますか。
ってか、ほんと、すんません、もう本気で、だいぶ酸っぱいのが口まで」
「吐いても良いからもう少し我慢なさいっ」
人の家で勝手を言うな。慌てて駆け寄る霊夢の背中。
「そう言う事情は先に言う! 良いわよ、もう情報は充分だからっ」
数体の人形に囲まれたアリスと。
「動きの無い解説パートをいつ迄もだらだらとやられてもねえ。話がだれる」
分厚い魔導書を手にしたパチュリー。
二人の魔法使いは既に中空へと飛び出していた。
「待ちなさい、話はまだっ」
大声を張り上げる四季。まだだ、まだ大事な事が話せていない。
「黒魔理沙を決して死なせてはなりませんっ。そうでないと元の霧雨魔理沙には」
「初めからそこ迄をする気も無いから」
開かれる魔本。剣を手にする人形達。
四季の言葉を半ばで流してパチュリーは、そしてアリスも、未だ何者をも現れてはいない宙を睨みながら臨戦態勢を整えていく。
「やっぱ昨日、豚足はやめときゃ良かった……」
昨晩のツマミ、その良い具合に油まみれになった光沢を思い出し死神が両膝を地に付いたのと同時。
「お」
夕焼け空の真ん中に、唐突に真黒な点が一つ現れ。
「やっと見つけたぜ」
「小町っ」
直後、博麗神社は光の奔流に飲み込まれた。
◆
「元から風流を解さない田舎者ではあったけど」
やれやれといった感で頭に手を当てるアリス。
「前口上の余裕も無いなんて」
余裕の無い奴は勝てぬのが道理。呟いて見下ろすパチュリーの視線の先、粉々に消し飛んだ博麗神社。
「ああ、成る程な」
その参道。
遥か遠くに見える赤い鳥居に目を遣りながら、黒の魔法使いは口の端を吊り上げる。
「やけに神社へ着くまで時間がかかると思ったら、そうか、サボタージュの泰斗が来てたか」
一発でケリをつける心算だったんだがな。そう言って黒魔理沙は笑う。
ようやく白魔理沙を見付けた。だから有無を言わさず魔砲を叩き込んだ。確実に狙った筈のそれは、けれども遥か手前、神社の参道半ばを破壊するに留まった。
距離を操る死神、彼女の仕業。やっとのこと神社に辿り着いた黒魔理沙を再び、今度はアリス達と共に一瞬にして神社から遠ざけたのだ。
「先ずは中ボスを倒せって事か。面倒だな、余計な手間ばっかり増えて」
「そう? そんなに面倒が、手間をかけるの嫌なら」
アリスがその両の腕を身体の前で交差させる。指から伸びる目に見えぬ魔力の糸、その一本一本に力が充実していく。
「六騎にて成ります我が小さな軍団(レギオン)」
目の前で回転する一枚のカード。これから行う攻撃をわざわざ宣言。
この無駄こそが真髄、幻想の少女達の美しき決闘法、スペルカードルール!
「見たらさっさと落ちれば早いっ」
◆
「大丈夫? サボさん」
神社を汚されちゃたまんないから。そう声を掛ける霊夢。相手は地面に立てた大鎌を頼みとしてやっと立ってるといった風の死神。
「だいじょぶ。さっき迄に比べればはるっかに楽」
心配してくれて有り難う。軽く手を振って小町は応える。先程迄は接近してくる相手を常に遠ざけ続けていた。一間を近付かれれば一間を離し、また一間を詰められれば更に一間を、と、常時その繰り返し。比べ今はただ単に、一時的に数町程の距離を離したのみ。掛かる負担は遥かに小さくなっている。
「そっちこそ」
今度は小町が巫女に声を掛ける。
大丈夫。一言だけを返す霊夢。彼女と、それから白魔理沙、四季、小町、四人の周囲には半透明の方形を連ねた、光る甲羅の様な結界が形成されていた。
「小町ったら、何でもう少しを待てなかったのっ」
まだ後一つ大事な事が。顔をしかめる閻魔に、大丈夫ですよ、と、ようやく落ち着きを取り戻した死神が応える。
「あの二人だったらすぐに気付きますって」
小さく笑って言う小町だが、どうもこれ心配性なのか、上司は気もそぞろな面持ちで大丈夫か、大丈夫かと呟き続けている。
「何よ。まだ何か面倒があるのかしら」
いつ何時、魔法使い二人を出し抜いて黒魔理沙が光速の魔砲を放ってきても大丈夫な様に、視線を動かさぬまま、意識の大分を結界維持に注力したまま、霊夢が訊ねる。
「んまあ、そうさねえ」
落ち着かぬ様子でうろうろする四季に代わり、少し困った顔の小町が応えた。
「そもそも四季様程の力を持った御方が、幾ら強くて卑怯とは言え人間相手、なのにどうしてここまで後手に回ったと思う?」
「そりゃ足手纏いが居たからでしょ」
戦闘能力を持たない上に敵の標的にもなっている白魔理沙。彼女を連れていたからこそ四季は自由に動き回る事が出来ずに待ち伏せを作戦として選ぶ羽目に陥り、結果今日まで黒魔理沙を捕らえる事が出来なかった。
しかし今は違う。白魔理沙はこうして小町と霊夢の力により護られている。よって戦闘に出ているアリスとパチュリーは後ろを気にせずに戦う事が出来る。
しかも元々一対一でも充分な位の実力を持つその二人、それが二人同時にかかるのだ。これ以上、一体何の不安要素があると言うのだろう。霊夢には理解出来なかった。
「ところがぎっちょん」
しかし小町は首を横に振るう。
「なら四季様だってさ、白魔理沙を何処かに隠して結界でも張って、その上で一人で探しに出りゃ良かったじゃあないか」
「あ」
確かに。霊夢の口から小さく声が漏れた。
足手纏いをわざわざ足と手に纏って行動する。確かにそれからしてそもそも馬鹿げている話だ。小町の言う通り白魔理沙を隠し、その上で動いた方がよっぽど楽だったろうに。そうして黒魔理沙を見つけたら身動きが出来ない程度に痛め付けて、それからゆっくり白魔理沙の元に連れて来れば良かった筈だ。
「閻魔様って意外と頭が悪いのかしら」
「ははは。そりゃまた、どうも」
本人がすぐ傍に居るというのに気にせずそんな事を言う霊夢。否定とも肯定とも言えぬ言葉で軽く笑う小町。
「やらなかったんじゃありません。出来なかったんですっ」
思わず大声を上げる四季。今回は本当に良い所が無い。そう心で愚痴りながら。
「ま、そういう事さね」
言うと同時に小町の顔、そこから笑みが消え去った。
幻想郷でも最高位の力を持つ閻魔、四季映姫。その彼女が判断したのだ。自分の力のみで、黒魔理沙を殺さずに行動不能にするのは不可能だと。
「今頃あの二人も気付いている筈さ。今度の相手が、その戦闘力以上に厄介な奴だってね」
◆
「あ痛っ」
間の抜けた声がアリスの口から漏れていた。後頭部に感じた軽い衝撃、そのせいで集中が乱れ、人形の展開も為されずスペルは不発に終わった。
敵の攻撃か。咄嗟に黒魔理沙を見遣るが、相手は箒に跨って両腕を組んだまま只にやにやと笑っているのみ。何かをしてきた気配は無い。
「ほんと未熟者ね、貴方って」
背後から声が聞こえた。思わず後ろを振り向いてしまう。そこには分厚い本を角を下にして片手で持ち、呆れた顔で溜息をついているパートナーの姿。
「ちょっと、あんた何を」
「先ずは相手をよく見て。それから攻撃の手段を選びなさい」
「何それ。まさか手を抜いたからって怒ってるの」
スペルカードルールを無視する黒魔理沙を相手に敢えてアリスは宣言をした。使ったのも、より上位の戦操ではなく戦符。
それが気に入らなかったと言うのか。真面目にやれと、そう言いたいのか。アリスはパチュリーの無表情を睨みつける。
冗談ではない。アリスは憤る。相手がルールを破って襲い掛かってくるからと言って、こちらまでルールを破ってどうするか。それでは相手と同じの卑怯者に堕してしまう。敵が如何な手段を用いようとも、スペルを宣言し、最初から本気は出さず、そうしたルールに則っての正々堂々とした戦い方でねじ伏せてこそ真の勝利と言えるのだろうに。
「手を抜いたから怒ってる?」
今にも相手を変えてここで一戦交えようかと、そんな勢いのアリスを前に、パチュリーは冷たいままの表情で尖った声を返す。
「逆。貴方、力を入れ過ぎ」
そうして黒魔理沙を指差す。気は一切抜かない。いつ何時相手が襲ってきても対応できるよう、精神を常に緊張させたまま、それでも落ち着いた声でパチュリーは話す。
「もう一度言うわ。感覚の目でよく見なさい」
言われてアリスは精神を集中して目を凝らす。黒魔理沙の周囲、その魔力の流れを見極めようと。
「ちょ、嘘っ」
思わずアリスが甲高い声を上げた。黒魔理沙の見せる魔力の形が、魔法使いの常識を遥かに超えた、馬鹿げていると思う程の在り得ない様相を為していたからだ。
「ったく、ひやっとしたぜ。お前ら、あの閻魔から話を聞いてなかったのか?」
言葉とは裏腹に少しの気後れも感じさせないその声の色。
「最初に言っておく。俺は、かーなーり、弱いっ!」
何を巫山戯た事を言い出すか。魔法戦のいろはを知らぬ者が聞けばそうとしか思えないその科白、しかしアリスとパチュリーには判った。これは冗談でも何でもない。
「俺はオリジナルの二割にしか過ぎない存在。当然、戦闘能力ではない単純な生命力も本来の二割」
パチュリー達には黒魔理沙を死なせてはならないという枷が有る。それなのに相手の生命力は常人の五分の一しかない。しかも。
「巫山戯てる。防御結界の一切を破棄だなんてっ」
アリスの額に汗が滲む。この魔理沙、予想の斜め上をいく性質の悪さ。
彼女は己の周囲に防御の為の魔力を巡らせていなかった。それは常人、弾幕を扱えぬ一般の人間と同等の魔法防御力しかないと、そういう意味ではない。
常人未満なのだ。
普通の人間でも無意識に、ごく自然に纏っている筈の微量な魔力の膜。黒魔理沙はそれをすら意図的に破棄して完全に無防備な身体を晒していた。
「防御に回す分も含め全部の魔力を攻撃の方に注いだんだ」
攻撃は最大の防御って言うだろ。そう笑う魔理沙を見てパチュリーは嫌悪を露に眉をひそめる。巫山戯た事を言って。判ってやっている癖に。
「撃破対象がイコールで人質か。ほんと、面倒」
常人にすら劣る生命威力と防御力。それを見抜いたからこそパチュリーはアリスの攻撃を止めた。
アリスが使おうとしたリトルレギオン。それは直接のダメージを与える為のスペルではない。攻撃力の低い複数の人形で敵の周囲を囲みその行動の自由を封じる術だ。敵を殺さず足止めする。そうしたこの戦闘に於ける目的の上では、本来最善手と言って良い選択。
しかしそうした人形の小さな剣が一本刺さっただけで、今の黒魔理沙にとっては致命傷にもなりかねないのだ。
「向こうは最大限の攻撃力で好き勝手できるのに、こっちは一発でもまともに当てたらアウトだなんて。とんだ制限プレイね」
これなら二人がかりも仕方ないか。状況は理解した。まるで酷い詐欺にでもあったかの様な気分だ。アリスは額の汗を拭う。
「足手纏いにだけはならないでよ」
「言うじゃない。ならお邪魔にならない様、この場は貴方一人にお任せしようかしら」
パートナーの悪態に軽口を返しながらアリスは僅かに後退し、そうしてパチュリーの後ろからその耳元に顔を寄せる。
「幾ら欲しい」
耳でアリスの息吹きを感じ、視線は前にして揺るがさずのまま、小声でパチュリーは問うた。
それに同じく声を小さくして答えるアリス。
「十五、いえ、十分」
「人にものを頼む時は」
「お望みの人形を作って」
「貴方がいつも持ってる本」
「……ちょっと見せるだけなら」
話は纏まった。アリスは軽く指を鳴らす。途端、数体の人形達が黒魔理沙と反対、神社に向けて飛び出した。それに引かれる形でアリスも戦線を離脱する。
「仲間置いて一人でとんずらか」
都会派ってのは冷たいもんだ。逃げ出したアリスを追いかける事もせず、嫌らしく両目を細めて黒魔理沙は臆病者を嘲る。
「人間相手に二人がかりは過当って悟ったんでしょ」
若輩者にしては賢い判断。パートナーの行動に一応の擁護を立て、それからパチュリーはやおら手にした大きな魔導書に魔力を籠める。
決して相手に攻撃を当てない。決して相手を前に進ませない。そうした条件の下で託された六百秒。
悪魔は決して約束を破らない。悪魔の館に住む魔女も、また。
「来なさい黒魔理沙。戦いに於ける年季の違いというものを教えてあげる」
◆
「どうしたんですか、アリスさん!?」
戦闘が始まって間も無いというのに神社へ戻って来たアリス。まさか怪我でも。白魔理沙が泣きそうな顔と声とで駆け寄って来る。
「大丈夫」
視線も合わせず一言だけを返し、それからアリスは両手を前に伸ばし掌を開く。展開する十体の人形。それらは瞬く間に。
「ってちょっと」
思わず霊夢が大声を上げた。人形達は瞬く間に神社の周囲にある森へと潜り込む。それぞれ手には小さな工作道具。がりがりと木を削る音が境内でもはっきりと聞こえてくる。
「ちょっとアリス」
「文句は魔理沙に。正直あいつ予想以上。手は選んでらんない」
霊夢の方へ視線は向けずに短い言葉を繋げて返事とする。気が散るから声を掛けるな。そんな意思が無言のオーラとなって立ち上って見えそうなその様相。
常に本気を見せようとはせず、余裕の態度をこそ良しとするアリス。そんな彼女がここ迄。
見ていて白魔理沙の心に大きな波が立った。黒魔理沙がどれほど危険な相手か、元は同じ霧雨魔理沙だった彼女にはよく判っている心算だった。それでもアリスとパチュリー、この二人ならきっと。そんな希望を持っていた。しかし。
神社に舞い戻り、ただならぬ表情で黙々と人形を操り続けるアリス。そうして今、たった一人で戦っているであろうパチュリー。
自分はこれで良いのか。白魔理沙の心が揺れる。他人にばかり危険な役を押し付けて、自分は安全な場所で只々良い結果がやって来てくれるのを待つだけ。
それで本当に良いのか。箒を掴んでいる手に力が籠もる。自分だって、ここは。
「馬鹿な真似だけはするんじゃないわよ」
思わず上がりかけた脚。それが霊夢の一言によって止められた。霊夢は一歩も動いていない。視線すら動かしていない。それでもその声だけで、心の中を見透かしたかの様なその言葉だけで、白魔理沙は完全に動きを封じられた。
「ナイス霊夢」
固まった姿勢のまま口だけを動かすアリス。
「そんな感じで、ぎりっぎり迄その馬鹿が下手を打たない様に見張ってて」
「了解。ぎりっぎり迄ね」
視線は合わさない。片や人形を操り続けながら、片や結界を維持しながら、顔も見ずにけれども二人は互いの言葉に頷いた。
「閻魔様も」
「判っています」
アリスが声を向けた先、下唇を噛んだ苦い表情で四季は応える。出来れば自分も飛び出したい。だがここは二人の魔法使いを信じ、必ずや訪れるであろう一度きりのチャンスを絶対に逃さぬよう、ただただ堪えている他ないのだ。
◆
「数はこっちの方が多いんだがな」
呟く黒魔理沙の周囲、色取り取りの六つの球体が回転している。
「数だけ多くてもねえ」
対するパチュリーの頭上、五色に煌めく精霊の力が籠められた魔法石。
宇宙儀を模した黒魔理沙のビット群、その一つから渦を巻く様にして無数の星が流れ出しパチュリーに襲い掛かった。
「無駄よ」
手にした魔本を前方に掲げる。開かれたページから噴き出した炎の塊が、魔石の一つ、紅玉に似た光を放つそれから放たれた火の精霊力と一体になって星の海を弾き飛ばした。
が、そこ迄は黒魔理沙の予想通り。
「がら空きだぜっ」
ビットの一つがパチュリーの背後に回り込んでいた。放たれる光の矢。それは無防備を晒す魔女の小さな背中に。
「だから無駄だって」
突き刺さる事もなく。
「ジェリーフィッシュ」
振り向く事もせずに掲げられるカード。瞬間、魔女の全身を巨大な水泡が包んで隠した。その泡に呑まれ消えていく光の矢。
「貴方の魔法は無駄が多すぎる。目を瞑っていたって防げるわ」
それは驕りでもはったりでもなかった。本当に目を瞑ったまま、パチュリーは黒魔理沙の放つ攻撃の悉くを潰していた。
生まれながらの魔法使いとして過ごしてきたこの百年間。目の前の相手とは魔法の研究に費やしてきた時間が文字通りの桁違いなのだ。
「たかだか十年程度の時間でそのレベルに達した事は褒めてあげるけどね、貴方の今いるそこは既に私が百年前に通過した場所なの」
防御に専念し、目を閉じ意識を魔力の流れに集中させれば、大雑把に過ぎる魔理沙の攻撃を全て先読みする事が出来る。そうすればそこに自分の魔法を当てて相殺させる事も容易。黒魔理沙自身には一撃も当てる事なくその攻撃を完全に封じてしまえるのだ。
「格好良いこと言うじゃないか。それも本を読んで得た知識か何かか?
ってか百年ってのは言い過ぎだろ。長生きをし過ぎた弊害でも出たか」
そう言って鼻で笑う黒魔理沙。笑うだけで彼女は一向に前には進まない。
否、進んでいる筈なのに進めていない。彼女の目的はあくまで白魔理沙。パチュリーとの戦いは後回しにしてでも神社に飛び込みたい。ここで立ち止まっている理由など何一つ無いと言うのに。
風だ。魔女の背後から強い風が吹いて黒魔理沙を押し返しているのだ。
「便利でしょ。精霊魔法にはこういう使い方もあるの。貴方も邪道ばかりでなく、少しは基本も学んでみたらどうかしら」
吹く風は黒魔理沙の身体に直接の被害は与えない。攻撃も、その全てを先読みして相殺する事が出来る。行使できる魔力の総量も人間である黒魔理沙より生粋の魔法使いであるパチュリーの方が上。
図書館襲撃時に遅れを取っていたのは、相手の行動の真意が読めず採るべき対応を判断しかねていたが故。だが今は違う。敵が何者なのか、自分が何を為すべきなのか、充分に理解している。なればそこに迷いは無い。
理論上であれば彼女は、相手の魔力が枯渇して無力になるその時まで、この誰も傷つかぬ打ち合いを続ける事だって出来るのだ。
「降参したら」
パチュリーが言った。単純に魔法のレベルで見れば優劣は火を見るより明らか、なら無駄な抵抗はせずさっさと降参したらどうか、と。
それを聞いて黒魔理沙は。
「ぷっ」
思わず笑いが漏れるのを止められなかった。
「こりゃまた、おかしい」
予想通りだったからだ。全ては彼女の予想通り。
「絶対的有利にある筈の奴が、何でわざわざ降伏勧告なんてするんだか」
賢しい奴め。パチュリーは心中で舌を打つ。
先制の一撃を除けば黒魔理沙はここ迄、その最大の武器である筈の魔砲を一度も使用してこなかった。撃ってくるのは魔力消費の少ない小技のみ。相対するパチュリーの身を案じての事かと言えば、無論そんな訳が無い。黒が固まって生まれたこの魔法使いにそんな仏心は存在しない。これは端から時間稼ぎのみを目的とした戦い方。黒魔理沙は判っていたのだ。
「こふっ」
パチュリーの身体が小さく揺れた。
「かっ、ふっ」
水泡の中で身をかがめ、苦しそうに口元に手を当てて、何度も何度もその小さな背中を揺らす。
魔力だけで見るならはっきりと有利。そんなパチュリーが抱える唯一にして最大の弱点。喘息を患ったその身体。
確かに紅霧異変以降、幾多の弾幕ごっこをこなしてきたと言う事もあり、以前の様に上位スペルに至っては唱える事すら出来ないと、そこ迄の不調を感じる事も少なくなってはいた。
それでも今のこの状況、魔力の流れを読み続ける為に一瞬でも精神にかける緊張を緩める事も出来ず、そしてそれは肉体にも過重な負担を強いる事になる。
病に蝕まれた彼女の身体は、僅か数分で既に限界にまで達していた。
「それじゃあな」
黒魔理沙が右手を前方に突き出した。それと同時、彼女の周囲を回っていたビットが光の帯で繋がれ、一つの巨大なリングとなって未だ咳き込んでいる魔女に向かって突進を始めた。
「しまっ」
回避も相殺も間に合わない。身に纏う水泡で直に光輪を受ける羽目になったパチュリー。
「えっ、ふはっ」
喘息の発作は治まらず口からは吐き出され続ける短い息の音。それと同調する様に水泡は弾けて消える。
咄嗟に簡易な防御方陣を前方に展開。しかしそれすらも光輪の勢いを殺しきる事は出来ず、がりがりと嫌な音を立てながら削られていく。
「龍星に呑まれろ」
声が聞こえた。そう思った時は既に遅かった。
反応して上を向いたパチュリーに見えたのは、ただただ眩しいばかりの、有無を言わせぬ圧倒的な存在感で降り注ぐ光の柱のみ。
彼女がその身を護る為に採れる手立てなど、もう何一つ残ってはいなかった。
轟音と共に天から降りそそぐものが大地に叩きつけられる。
光の過ぎ去ったその後、宵闇ももう間近に迫る空の中、魔法の火炉をその手に黒魔理沙の見下ろすは。
「逃げたんじゃあなかったのか」
光の盾を形作る三体の人形。
「狙い過ぎ」
人形の下、蚊の鳴く様な細く弱々しい声で、それでも何とか言葉を搾り出すパチュリー。
「狙ってたわよ。本当ならあと一秒後」
光壁を形成していた人形達がパチュリーの元を離れ飛び去る。その行く先。
「でも今のタイミングで丁度十分たっちゃったから。仕方なく」
七色の人形遣い、アリス・マーガトロイド。
彼女に向け、最後の力で以ってパチュリーは問う。
「準備は?」
「万端」
「勝機は?」
「上々」
「私達って本当」
「お人好し」
やるべき事はやった。言いたい事も言った。もう思い残す事も無い。いつもの無表情の下に満足した笑みを覗かせ、そのままパチュリーはゆっくりと地面に落ちていった。後の全てをパートナーに託して。
「まったく。こんな馬鹿な人間をここまで手間隙かけて助けてあげようとしてるんだから」
約束通りの十分間を守り切ったパートナー。彼女に向けて優しい微笑みを投げかけてから。
「本当、私達も大したお人好しよねっ」
上空を睨みつける。凛とした声を叩きつける。相手は倒すべき悪い魔法使いにして救うべき可憐な姫君。
「って言うかお前ら人じゃないだろ」
「人に好いって意味のお人好しなのよ。私達のは」
「勝手に言葉の意味を増やすな。まったく、最近の日本語の乱れは嘆かわしい限りだぜ」
「貴方が言えた事かしら」
ミニ八卦炉を持つ手に力を籠める黒魔理沙。その細く白い指を波打たせるアリス。
「んで、今度の芸人さんは一体どんな面白い出し物を見せてくれるんだ」
黒魔理沙の声に応える様にしてアリスは大仰な身振りで両腕を広げる。途端。
「これからお客様にご披露いたしますは」
一、二、三、四、アリスの背中から飛び出してくる人形達は。
「何だ、結局いつもの人形劇か。芸の無い」
十、二十、三十、四十、あっと言う間に黒魔理沙を包囲し。
「わたくしアリス・マーガトロイドが用意した一世一代の大舞台」
百、二百、三百、四百、その数を更に増していって。
「おいおい。数だけは多いな。数だけ……は」
千、二千、三千、四千、勢い留まる事も知らずに増えに増え続け。
「一万人の可憐な騎士乙女達が繰り広げる一大戦記ものにて御座います!」
「……あ?」
傍若無人という言葉が手足を生やして服を着た様な黒魔理沙。その彼女すらもが、口を大きく開け放した間の抜けた表情で固まってしまっていた。馬鹿げている。そうとしか思えないほど。幻術か何かか。そう思って目を凝らすも、巨大な壁となって彼女を包囲する人形達の一つ一つが確かに実体を持ってそこに存在している。
「さてさてこの大芝居、その一番の趣向は」
「おい」
「そこでご覧のお嬢様、貴方様にも舞台に上がっていただき」
「おいっおいっ!」
未だ芝居じみた口上を続けるアリス。堪らずツッコミを入れる黒魔理沙。額を濡らしたその表情に今や余裕の色も見えない。
「何よ、五月蝿いわねえ」
「何処に隠し持ってたんだ、こんな大量の。お前は何処ぞのすきま妖怪かっ」
「隠す? そんな訳ないでしょ。作ったのよ、今」
「今って、今の」
「そ。先ずは手持ちの人形十体。一体が神社の木から九体を作るのにかかる時間が大体二分だから、三回繰り返して六分で一万体完成。
ここから神社まで片道一分半ってところだから余裕たっぷりね」
人形作りは人形にはやらせない。それがアリスのポリシー。しかし今この状況で手段も選んでいられない。そうして手段を選びさえしなければ、最早笑うしかない位の、人間の常識を遥かに飛び越えたこんな大業をすら彼女は可能とするのだ。
「参ったな、こりゃ。流石に諦めるしかないか」
黒魔理沙は帽子の鍔に手を当て、そっと下ろして目元を隠す。
「そうね。さっさと諦めなさい」
「ああ。諦めるぜ」
勝ち誇ったアリスの声。それに応え、ゆっくりと鍔を押し上げる黒魔理沙。そこから再び覗く彼女の両の眼は。
「無傷で勝つのは諦めた」
勝利を信じる輝きを僅かも曇らせてはいなかった。
「何を、負け惜しみを」
「なあっアリス」
人形遣いの言葉を切って高らかに叫ぶ。周囲に展開する六つのビット。
「お前、芝居がどうとか言いながらまるで判ってないな。物語構成の基本」
ビットの内の一つのみは頭上に、残りの五つは水平方向に回転しながら黒魔理沙を囲む。胸元には淡い光を放ちながら浮遊するミニ八卦炉。
「お約束ってものがまるで判っちゃいない」
神話という形で人間が物語を創る事を始めてから今に至るまで、脈々と受け継がれてきた不文律。
回転するビットの一つ一つに魔力が充足されてゆく。
「量産された雑魚ってのはな、突出した一騎には決して敵わないもんなんだよっ」
ビットの放つ輝きが増していく。だがアリスは焦らない。今の魔理沙の行動、それは決してアリスの予想の上をいってはいない。
「ノンディレクショナルレーザーかしら。その程度でこの一万の壁を崩し切れるとでも」
強気を見せるアリスの前、しかしビットの輝きは、集められる魔力の量は、留まる事無く膨れ続けていく。
「いや、ちょっと」
アリスの顔から少しずつ勝気の色が引いてゆく。五つの回転するビット群、その一つ一つに宿る光の大きさ、それはまるで。
「ノンディレクショナル」
黒魔理沙は静かにその右手を振り上げる。
「ちょっと、ちょっとおっ」
今や涙声とすら聞こえるアリスの叫び、それを無視して黒魔理沙は。
「マスタースパーク!」
慈悲も無く右手を振り下ろした。
既にその半身を夜の世界に浸けた空の真ん中、真昼をも凌駕する光の暴流が眩しく照らしていく。
回転する五本の極大の光の柱。それを受け止める対象たる一万の人形達。その木で出来た身体は、物質化寸前まで圧縮された魔力の衝突を前にしては余りに脆弱。薄紙をナイフで切裂くかの様に、否、その例えですらまだ固い。水面の一点に集まった木屑を指で散らすかの様に、騎士乙女達は光の侵攻に何の抵抗も出来ぬまま塵になってゆく。
人知を超えた物量の壁は、しかし同じく人知を超えた絶対的な破壊力の前に何の反攻も為せぬまま敗れ去ったのだった。
やがて暴力の光は収縮し、幻想郷の空に静寂が戻る。
「さっ、流石に、こりゃ、きっついな」
全身を大粒の汗まみれにし、蒼ざめた顔で何度も何度も大きく肩を上下させる。
今のは黒魔理沙にとって最大の切り札。防御用に回す筈の魔力を全て攻撃に回す事で初めて使える大技。そうして本来の魔理沙であれば自分の、そして周囲への被害を考えて決して使いはしなかったであろう禁断の術。黒魔理沙だからこそ使えた、正しく悪魔の砲。
とは言え身にかかる負担が大き過ぎる。出来れば使いたくはなかったが、アリスの見せた切り札を前に黒魔理沙もまた切り札を出さざるを得なかった。
全身が鉛の様に重い。ただ息を吸って吐く、それだけの行為に一々疲労を感じずにはいられない。そんな状態で、しかし黒魔理沙はその顔に邪悪な笑みを浮かべた。
「あばよ」
破砕された人形達が粉塵となって視界を不確かにするその中で、彼女の両目は、全身ぼろぼろになって声も出せずに落下していくアリスの姿を確かに捉えていたのだ。
これで、後は。
「解っ!」
それは余りにも唐突な叫びだった。大きな声。それも死神の。
直後。
「黒魔理沙あああっ!」
粉塵を突き破って突撃して来る者。
それは死神ではなく、魔女でも人形遣いでもなく。
「白魔理沙っ!?」
「あああああああっ!」
白と黒、二人の魔理沙の叫びが重なり、そして。
「きゃぶっ」
次に聞こえたのは、何か固いもの同士がぶつかり合った鈍い音。それからどこか可愛らしさすら感じる少女の声。
箒に跨り飛び込んできた白魔理沙。彼女の顔はもう一人の自分に届く一歩手前、黒魔理沙が操るビットにめり込んでいた。
「さよなら。俺じゃない私」
何の躊躇も感傷も、そして高揚すらもなく。
ぽん、と軽く小さな音一つ。
白魔理沙の頭は細い魔力の光に貫かれていた。
「ふ」
魔力の放出を終え、六つ目のビットが空間に溶ける様にして消えていく。
「ふふふふふ」
終わったのだ。これで。
「ははははは」
呆気なかった。最後は。余りにも。物語の終幕としては最悪手と言って良い位に。
「ああっはっはっはっはあっ!」
笑いが止まらなかった。黒魔理沙は、己が腹の底から湧き出してくる黒い笑いと勝利の高揚を、抑える術も知らなければその気も無かった。
「一万体の囮って、そりゃまた確かに豪儀で驚いたけどもさあっ」
アリスは切り札の裏に更に奥の手を隠していた。一万体の騎士乙女と言う、個人の操るものとしては常軌を逸して狂気の域にすら達したその超巨大戦力。しかしながらその実、一万体は只の囮に過ぎなかったとは。大した策士だ。皮肉ではなく心から黒魔理沙はそう思う。聳え立つ異常の度合いが大きければ大きい程、その裏に隠された真の狙いは霞み見え難くなってしまう。
だが。
奥の手を温存していたのは黒魔理沙も同じだった。そもそもパチュリーとアリスの二人を退けたところで、その先にはまだ閻魔と死神、そして霊夢が居る。大技を使い疲弊した身体、それ自体は人質としてより有効に働く。とは言え最低限の戦力は確保しておかねばならない。そう考えて残しておいたビット一つ。
それにしてもまさか、そのビット一つでこうもあっさり決着がつくとは。本当に、もう本当どうしようもない位に、黒魔理沙は笑いを止める事が出来なかった。
「あの死神のお蔭だぜ! ほんと、見事に俺に都合良く!」
正直、白魔理沙本人が直接飛び込んできたのは黒魔理沙にとっても予想外だった。粉塵のせいで視界も悪く、更には力の使い過ぎで意識の集中が為されていないと言う事情もあった。若しあの死神の声、神社と黒魔理沙との距離を離していた能力を解除するあの声が聞こえなければ、或いはぎりぎりのところで白魔理沙の接触を許していたかも知れなかった。
だが現実はどうだ。死神の発した声、それによって黒魔理沙は初動を早める事ができ、結果こうして勝利を手に入れたのだ。黒魔理沙は笑い続ける。敵である筈の死神の行為すら、見事に自分に都合の良く。
「都合、良く」
ぴたりと止まった。黒魔理沙の笑い声。そうして繰り返す。自分で発したその言葉。
「都合良く……」
あの死神の声。それは能力解除の声。
何故能力を解除したか。それは簡単だ。この奇襲を成功させる為、離されていた二人の魔理沙の間を元に戻す、縮める為だ。とても判り易い。とても合理的。
だがあの声は何だ。黒魔理沙は考える。あの声は何だったのだ。
あれは能力解除の声。だが思い返してみれば黒魔理沙が神社に辿り着いたその瞬間、あれもまた、それ迄は能力で彼女を遠ざけ続けていた死神がその術を解いた瞬間だった筈だ。けれどもその時は声なんて聞こえてはいなかった。
それなのに、である。奇襲を狙った今この場面、そんな状況で、やけに大きな死神の声が聞こえてきた。そしてそのお蔭で防御が間に合った。
「都合が良い」
黒魔理沙は繰り返す。余りにも、理不尽を感じる程に都合が良すぎる。そもそも能力解除の、距離を戻す事の必要性も本当にあったのか。何せ白魔理沙の傍には。
(一万体を囮に使った)
声が聞こえた。それは普通のものではない。酷く揺れていて、それにまるで砂でもかかっているかの様、ざらざらと気持ちの悪い耳触り。近くから聞こえている筈なのに何故か遠くを思わせる、そんな奇妙な声。
しかもそれが聞こえてくる先。それは。
(それはちょっとだけ間違いね)
声は止まない。その聞こえてくる先は白魔理沙の頭。
彼女が喋れる筈は無い。頭部を貫いたのだ。人間ならば間違い無く即死。
そう、人間ならば。
(囮に使ったのは、一万と一体!)
まさか。自分と同じ顔に出来た空洞、そこに黒魔理沙が手を突っ込む。
感じるのは肉の柔らかさ、ではない。
感じるのは木材の固さ。
咄嗟に目を下にやる。精神を集中させる。
見えた。大地に向けて伸びる蜘蛛の糸の様にか細い魔力のすじ一本!
「にんぎょ」
言い切る前、白魔理沙の身体が弾けた。何が何とも思う間も無く、黒魔理沙の視界は白一色に塗りつぶされた。
聞こえていたのはアリスの声。相手にしていたのは白魔理沙ではない。その姿を模した人形。そこから溢れ出した強烈な光、それが黒魔理沙の瞳を容赦なく突き刺し、視界と思考の自由とを奪い去った。
「今よっ」
また声がした。突然に、今度は背後から。そしてそれは霊夢の声。同時に現れる複数の気配。
そう、本来死神が能力を解除する必要など無かったのだ。亜空穴。博麗の巫女の前に距離の壁はその意味を為さない。
「黒魔理沙あっ!」
背中に誰かが抱き付いた感触。未だ完全には戻らぬ視界、それでも黒魔理沙には判る。今度こそ間違え様も無い。元が同一存在なのだ。その持つ気を感じるだけで判る。
黒魔理沙の背中に、白魔理沙がしかと貼り付いていた。
「判るんだっ。判る筈だったのにっ」
背中に白魔理沙の気を感じながら黒魔理沙が獣じみた吼え声を上げる。
そう。彼女は判るのだ。白魔理沙の存在を。だから本来すぐに気付いてしかるべきだったのだ。最初に飛び込んできた白魔理沙が偽者であったという事に。
だが。
一万対と言う思考をすら圧迫される程の巨大な物量、ダメーシを覚悟でそれを撃破した安堵、直後に迫る危機、それをすんでの所で見切り勝利を掴んだ高揚感。短時間に強制的に上下へと揺さぶられた黒魔理沙の心は、その正常な判断能力を僅かながらに損なっていたのだ。
それがまともに戻りかけ思考の道に立ったその刹那、揺さぶりを入れる白魔理沙だった物からの声。そして強烈な光。視界は勿論、頭の中までもが一瞬硬直する。その隙に霊夢の術で一気に背後へ。
切り札の後に奥の手を隠し持つ、などと。
アリスの採った手はそんな生易しいものではなかった。一枚目をめくれば二枚目、二枚目をめくれば三枚目、三枚目をめくればまた。
幾重にも張り巡らされた策、それによって黒魔理沙に持てる全てを吐き出させる。身体に一切傷は付けない。けれどもその精神は容赦なく、徹底的に踏み抜き砕き尽くす。そんなアリスの筋書き通りを見事に演じ切ってしまった黒魔理沙。
「白は白とて立ちましょや。
黒は黒とて立ちましょや。
否、白立つ裏には黒の立つ、黒立つ裏には白の立つっ」
ぱん、と手を叩く大きな音。黒魔理沙の背中、もう一人の自分と接する部分が熱くなる。
熱い。そう、まるで溶けてしまいそうな位に。
「俺は俺だ、お前じゃない!」
黒魔理沙が叫ぶ。身体の中に残った力の全て、その最後の一滴まで絞りつくさんとするかの様に。
具現化するビット四つ。これが限度。これがもう、本当に本当の最後の力。
「違う。貴方は私、私は貴方なのっ」
再融合は自分達の存在を否定しない。それを知る白魔理沙は必死になって声を上げる。
だがそれも黒魔理沙には届かない。彼女は己しか肯定しない。だから白い自分を否定する。己のみが己として立つ為に。
四つのビットが走る。白魔理沙という存在を無かった事にしようと。
「漸く裏方から解放されたんだ」
一閃する刃の煌めき。
「少しは良い場面を貰わないと」
迸る裁きの光。
ビットの二つが、四つに別れ直後に砕け散る。残りの二つも、その身に纏う罪と共に光に呑まれ溶け去った。
「ちくしょおお!」
最後の力も使い切り、それでも反抗の気を微塵も衰えさせぬ黒魔理沙。そんな彼女の頭に。
「いいっ加減に」
境界の札を持った霊夢の腕が。
「しなさいっ!」
一切の容赦なく叩き込まれた。
◆
◆
夜の博麗神社。
不可解から始まり丸一日を掛けて面倒と組み合って、そんな騒動にもようやく始末がつき、そうして境内には静けさが。
「待ちなさいー!」
戻って来たりもせず。
「嫌よう。て言うか何で私が怒られなきゃならないのかしらー」
月の光が照らす神社の真上、夜の空でロマンティックな追いかけっこをしている人妖が一組。
追うは巫女の人間、博麗霊夢。追われるはすきま妖怪、八雲紫。
「言われるままに手を貸してえ、こうして事後の様子を視察にも来てあげてえ。
そんな私にこの仕打ち。ああこれ世は末も末。私悲しい。よよよ」
「巫山戯るなー! あんたやっぱ札に何か仕込んでたでしょうっ」
「仕込んでないってばー。使い手が未熟だっただけじゃないのお」
「魔理沙をあんなんにしといて、よくもぬけぬけとっ」
「平気よう。放っとけば七十五日位後には元に戻りますわ。多分。きっと。願わくば」
視線を下ろして地面の上。拝殿の前に立つ三人の少女。パチュリー・ノーレッジ、アリス・マーガトロイド、そしてもう一人は霧雨魔理沙。黒でも白でもない、一人に戻った霧雨魔理沙。
なのだが。
「ええと、だからね。今まで持ってった本を返すのは勿論、黒魔理沙が壊した紅魔館の壁の修理代とか、被害を受けた門番への手当てだとか」
「ええはい。その件につきましては私(わたくし)といたしても真に遺憾に思っておりまして、早急に原状回復の為の手段を講じる事につきましては些かの異論は御座いませんが、ただ先ずは被害の程を充分に見極めた上で、不公平の生じぬ様な補償の仕方を考える必要が生じるのでありまして、その為にはそもそもこの幻想郷内に於きましての貨幣価値を鑑みてそこから補償額の算定をせねばならず、また或いは、と言いますか仮に若し、現物支給や労働奉仕でその代償とみなすのであれば、それはそれでまた不公平の無いよう色々と考えなければならない問題が山積みでして、はい」
「あの、さあ? うちの人形も返してほしいんだけど。あと家の扉も。壊されたし」
「ああはい。その件につきましても勿論善処させていただく事は決して吝かでは御座いませんが、ただ黒かった私が一時の隠れ家として使っていたのが沢に在る洞窟で、まあ誤解を恐れずに申し上げますと非常に湿度の高い、所謂ところの物品の保存には余り適さぬ状況であったものでして、簡潔に申し上げますと保管しておいた人形がマーガトロイド氏の意に沿わぬ状態、つまりは所謂菌類の子実体が発生している恐れも完全に排除できるとのお約束は致しかねる状況でありまして、若し万が一そうなりました場合、また金銭か代替物による補償とあい成る訳で御座いますが、人形、それも自作の品となりますとその価値を推し測るのはまた至難を極めるのでありまして、公平を期す為には第三者の、それも専門家の鑑定を持つ必要があったりとまた様々な難問が山積みでして、はい」
「あんな奴と二月半も一緒で堪るかああっ!」
霧雨魔理沙。人間の魔法使いである。
彼女は外見(そとみ)も内心も、その見せる色はどうにも灰色であった。
正直読み物としての出来は素晴らしいまでいかず凡庸、と言う印象が強かったです。
理由としては話の起伏が全体的に弱いかなと思うのと、
また起承転結の承にあたると思われる短いお話二本が描写不足だったかなと思いました。
そして転結にあたるこのお話の纏まり、インパクトと理由付けが弱かったようにも感じます。
縞馬男のあとがきを見るに、恐らく大根大蛇さんもそう感じたのではないでしょうか?
ですが、作品が投下されるまで色々と想像したりして楽しませて頂けたので
作品の雰囲気や続きが投下されなかった期間のやきもき感も含めた、作品全体の評価でこの点数とさせて頂きます。
次回も楽しませて頂けること、期待しております。
あとこれ、分割投稿する必要あったのでしょうか?
あえて分けて投稿したんでしょうけど、いちいち読後感が悪くてたまらないんですが。
しかもそこまで引っ張った割に落ちが弱いし。
一個の話として出してくれたら、もっときちんと評価できるんですが。
そういう効果を狙ったものだと思いますが、どうにもマイナスのイメージです。
オチも含めてところどころのひねりがなかなか良かったのですが、盛り上がりに少々欠ける気もしました。
ただ、白魔理沙がすっげえ可愛かったので、最終的にこの点数で。
後書きの意味がよく分かりませんが、一番最初のお話って縞馬男のことでしょうか。
だとすると、確かに「前半を変に捻り過ぎている割に後半、特に落ちが弱い。捻りが無い」と言っていますね。
同感です。
作品としては面白かったです。
黒魔理沙は絶対悪としてかっこよかったです。
それに対して白魔理沙はいまいち見せ場がなかったように感じます。
白魔理沙と黒魔理沙の対比がもうちょっとみたかったです。
間違って一撃で殺してしまう可能性もあるのに。
最初の1行とスペースも必要なかったようですし、
少し奇をてらい過ぎたのではないでしょうか。
ただ、これ1作に重要な部分を詰め込みすぎてて、縞馬男・短いお話が蛇足になってる気がします。
トリックの一つとしての分割投稿だったのでしょうが、中身の配分のバランスに失敗してる感が否めません。
点はこれ単品での点数。
連作での評価だとちょっと点数下がります。
手法もこのSSを読んで理解できた。
ただそれぞれの話をひとつの作品を続編として完結させるか、
なんか色々考える余地があると思う。
魔力総量を考えるならマスパドラメテ撃った後にノンディレクショナルマスタースパークなんて撃てるはずが無いと思うんだが
黒2割って話だし、防御分の魔力を使ったっていってもせいぜいが魔砲一発分がいいとこだろう
1万の軍勢をただの一撃で全部撃ち落すってのもよくわからん
ノンディレクショナルはレーザーだから回転させられたが、マスタースパークはゲームで使ってもわかるとおり回転どころか自分の動きすら制限するような大技だ
組み合わせられたとしてもマスタースパークを回転させるには無理がある
そもそもマスパは八卦炉からでないと撃てないので、ビット群から撃てる時点でマスパじゃない
八卦炉による火力増強があってこそのマスパだってことです
自分が弱いと言っていたのに圧倒的に強く描くのはチグハグで納得できないです
もっと黒魔理沙側には制限が欲しかった
予想な→予想の?
ストーリーの強引さによる影響が各所に出ているように感じました。
まずは、戦闘前、戦闘中の状況説明(主に映姫の口上)。「この事件はこうやって解決するしか
ないんだ」という筋道を読者に納得させる為という臭いがかなり鼻につきます。
加えて、戦闘シーンの大味さ。
こっちは1万体の人形を出します。だったら凄い魔砲でそれを消します。はい、消されます。
というのは、正直苦笑しました。
あとは、やっぱりオチが弱いかな。
すっきりしたような、しないような。微妙な終わり方だなぁ、と。
文句ばかり書きましたが、物語をセオリー通りに手堅く纏めているのは流石だと思います。
この作品単体で見ると、むしろ優等生的とすら言えるSSであることに驚きました。
だからこそ一連の作品群としては、何故こんなやり方をしたんだろう? と不思議なんですけど。
点数は作品群としての評価です。
手法や展開は面白かったのですが、連作としては「短いお話」*2のボリューム過少が気になりました。
オチの一文・演出をやりたかった故かとも邪推しますが、描写不足で読者置いてきぼりになっていたように思います。
あらゆる意味での1~3作における不親切さが、読者の心を掴みきれなかった一因かもしれません。
投稿のアイデアはおもしろかったと思います。「何だコレ?」って感じでドキドキしました。90点。
白黒単品も、少年マンガ的バトルものとして個人的にツボでした。90点。
で、90-90で0点て感じです。アイデアと話の内容が致命的に合ってないと感じました。
なんというか、フレンチのコースを食べてたらメインに白飯・漬物・吸い物を出された気分というか、
数学のテストの答案に歴代天皇の名前を書かれた気分というか。
「良い悪い」以前に「まちがってる」という感じ。あの投稿手法なら絶対ミステリにすべきだったと思います。
どうも作者コメ見た限り、おもしろいアイデアを思いついたは良いけどそれに合った話がどうしても思いつかなかった、
そんな感じなのでしょうか?
ただ、この話「だけ」で見れば結構楽しめました。
前半のあまりの「解説パート」っぷりはダレましたけど(セルフツッコミ入ってましたよね?
でもその後は、敵役の悪役ップリが見事でわかりやすいw
魔力は元と同じくらいあるくせに、相手が自分を傷つけられないの知ったうえでわざと防御を減らして
「俺は弱い!」宣言とかフツーにムカツキますw(褒め言葉
ノンディレクショナルスパークはアレ、手元の八卦炉で増幅した魔力をビットで放った、て感じでしょうか?
たしかに緋なんかじゃスパークは直接八卦炉からは打ってないですしね。
回転するのは永4Bを思い起こしました。アレはじめて見た時は「コイツ、動くぞッ!?」ってビビッたもんですw
大技を使って(使わされて)疲弊したのがその後の撃破パートにつながる構成も、少年マンガ的で爽快でした。
ま、色々長く書いてしまいましたが、まとめると
「おもしろくないわけじゃないのに、まちがってた」よって0点。もったいない。