※途中でアリスが一瞬壊れますが、仕様です。
「ふんふふんふふ~ん♪」
「……あれ?」
アリスは、目の前の出来事がうまく理解できませんでした。
目の前でうつ伏せで紙にらくがきをしていて、両足をバタバタさせている少女から目が離せませんでした。
場所は博麗神社の居住スペースである母屋。その居間。
アリスは庭からそれを見ていて、少女は屋内にいました。
暇な時間を持て余し、魔法の研究の続きを。って気分でもなかったアリスは博麗宅までやってきました。
いや、本当にただの気まぐれです。霊夢の顔が見たかったとか、そんな気持ちは無いんです。本当です。
まぁとにかく博麗神社に来てみれば、そこには小さな少女1人しかいませんでした。
いえ、普通の少女じゃないのは一目瞭然でした。
なにせ、霊夢と同じ紅白の巫女装束を着ているのですから。
「えっと、その、お嬢さん?」
「んー? あー、まーがろどろいどちゃんだ!!」
誰だよ。とはつっこみませんでした。
紅白少女はアリスの顔を見るなり、満面の笑みで立ちあがり、庭にいるアリスの元へ駆け寄ります。
そのまま靴も履かずに庭に出てしまう。
というタイミングで横からニュッと手が伸びると、そのまま紅白少女を抱き上げてしまいました。
え? とアリスは顔を向けると、そこには同じく満面の笑みの魔理沙がいました。
「こーら。だめだろ、外でる時はちゃんと靴履かないと~」
「えー。いいじゃん。まーちゃんのいじわる!」
「いじわるで結構だよ。ってアリス。なにしてんだ?」
「……それはこっちの台詞よ」
しまりの無い顔のままアリスを見る魔理沙。
紅白少女は口では文句を言っていますが、魔理沙の腕の中で笑っています。魔理沙も同様です。
なんだこのバカみたいな顔は。と思いつつも、段々とアリスも現実を理解し始めました。
と、同時にアリスはものすごい勢いで魔理沙に近づいていきます。
その顔の距離、約5cm。
「な、なんだよ突然」
「魔理沙。まさか、この子……」
「ん、さすがアリス。理解が早いな」
「……魔理沙の、子供?」
「んー、霊夢の子供だろ」
それを聞いた瞬間、アリスは真後ろに倒れました。
ズドーン! って音がしました。
顔面蒼白とはまさにこういうことか。って顔色です。
「……」
「どうしたんだよアリス。頭大丈夫か?」
「それは中の事? それとも外の事?」
「両方だ」
まさか頭の中まで疑われるとは思っていなかったアリスでしたが、まぁ突然奇麗に真後ろに倒れれば誰でもそう思うでしょう。
アリスはそこでゆっくりと起き上がると、マジマジと紅白少女を観察しました。
確かに、言われてみれば霊夢をそのまま小さくしたような顔をしています。
性格は似ても似つかないものですが、まぁ小さい頃は誰でもそんなものでしょう。
観察されているとは知らない紅白少女は無垢な笑みでアリスに笑いかけます。
思わずアリスの顔にも笑みがこぼれました。
「……って、違う違う。待ってよ魔理沙。おかしいでしょこれ」
「なにが?」
「なにが。じゃなくて。だ、だって霊夢は女でしょ!?」
「当たり前だろ」
「で、でも……あ、あなたも女じゃない!!」
「……」
顔を真っ赤にしながらアリスは言いますが、魔理沙は「はぁ?」と言いたげな顔です。
そのまま少しの間の後、魔理沙は何かが分かったように両手をポンと合わせました。
紅白少女を抱えたままなので動きは小さかったのですが。
「あぁ、バカだなぁアリス。というかエロだなアリスは」
「なっ!! バ、バカ!! 誰がよ!」
「『霊夢と私の子供』じゃなくて、『霊夢の子供』なんだよ」
「はぁ?」
意味が分からない。
そりゃあアリスだって、女同士で子供ができるはずないのは知っています。
でもだったら『霊夢の子供』とは? あの道具屋さんの人との間とか?
「香霖は関係ないって。だから、『霊夢の子供』」
「……だから、それが意味分かんないんだけど」
「ねーねー、まーちゃん」
そこで、やっと魔理沙の胸に抱かれていた紅白少女が声を出しました。
いままで黙っていたところをみると、なかなか空気の読める子供のようです。
少女の声に魔理沙の表情が破顔しました。
「ん~、どうした~?」
「といれ」
「お~そうか~。一人で行ける?」
「うん!」
「よし、じゃあ行って来い!!」
「はーい!!」
魔理沙が紅白少女を廊下に下ろすと、少女はそのまますごい速さで走っていきます。
それを見送り、少女が見えなくなってから急に魔理沙は真面目な顔に戻り、アリスを見ました。
「……で、なんの話だっけ?」
「もういいわよ。それより霊夢はどこよ、霊夢は」
「は? だから、いるじゃないか」
「は?」
なに言ってんだ。みたいな顔をして、魔理沙は少女が消えていった方を指差しました。
理解できないといった顔のアリス。
と、そこに少女が帰ってきました。やけに早い帰還です。
「おいおい、早いな~。ちゃんと流してきたか?」
「うん」
「そっか。じゃあ大丈夫だな」
「……あの~、お嬢さん。名前言える?」
「言えるよ!!」
アリスは自分の中にある疑問を確信へと変えるべく、少女に質問をしました。
少女は満面の笑みで両手をさしだしながら声を上げます。
右手が2本、左手が4本開かれていました。中途半端です。
「はくれいれーむ! 6さいです!!」
疑問が確信へと変わったと同時に、アリスは深い深いため息をもらしました。
やはり、紅白少女が霊夢その人であり、恐らく、いや絶対に魔理沙の仕業によるものだということに気づいたのでした。
そして一言。これだけはどうしても言いたそうでした。
「魔理沙……『霊夢の子供』じゃなくて、『子供の霊夢』って言ってよ」
「え? あぁ、そうかそうか。悪かったな」
なにが悪かったな。だ。全然悪びれてないじゃないか。
と、アリスは眉間にしわを寄せながら思うのでした。
「まさかこんな事になるとは思って無かったんだよなー」
「へぇ、詳しく聞こうじゃないの」
庭先から場所を変え、3人は居間へと移りました。
霊夢(小)は再び紙へのらくがきに夢中になっています。
アリスと魔理沙は机を挟んで座っています。
「詳しくってもな……うちの近くで取れたキノコを霊夢にあげたら、こうなってた」
「……どんなキノコよ」
「毒々しい色だったけど、うまいものって得てしてそういうもんだろ? だからいいかなーって」
舌を出しながらテヘッ☆って感じに笑う魔理沙に1発鉄拳をお見舞いしてから、アリスは霊夢(小)へと視線を移しました。
問題があるとすれば、これが『小さい頃の霊夢そのまま』なのか、『容姿性格共に年相応になってしまっている霊夢』なのかです。
まさか、小さい頃の霊夢がこんな天真爛漫な性格だとは考えられません。
「いてて……なんでお前が怒るんだよ」
「そりゃあ怒るわよ。あなた、いくらなんでも友達を実験台にするなんて」
「実験台じゃない。霊夢がおかずが少ないって嘆いたから、私は親切心であげたんだよ」
「それで、魔理沙はそのキノコ食べたの?」
「え? …………食べてないけど」
もう1発鉄拳をお見舞いすることにしました。
と、そこで霊夢(小)とアリスの視線が合います。満面の笑みが眩しいです。
「まーがろどろいどちゃん! あのね!!」
「あー……その、霊夢、ちゃん。私はマーガロドロイドじゃなくて、アリス・マーガトロイドっていってね」
「うー……ありす、まーが……ろどいどろ?」
「マーガトロイド」
「まー……ろがろろいど?」
「……アリスでいいわ」
「うん! アリスだね!!」
ちょっと頭が痛くなってきました。
でもまぁ、小さい人間っていうのはこういうものだと何かの本に書いてあったので、あまり怒らないようにしようと思いました。
まぁ、そもそもこれが博麗霊夢その人である時点で、アリスは怒ることなどできないのですが。
「あ、そうだアリス! お茶ほしい?」
「え、うん、まぁ」
「れいむがお茶いれてくるから待っててね! いいでしょまーちゃん?」
「ん~、いいぞ。昨日教えた通りにな」
「は~い」
魔理沙の許可を得ると、霊夢(小)はそのままぴゅーっと走っていきました。
それを見送ってから、魔理沙はアリスに視線を戻します。
でも顔はにやけたままなので、正直キモイです。
「……そう言えば、まーちゃんってなに?」
「霧雨魔理沙の魔理沙から取ったみたいだぜ。霊夢が勝手にそう呼んでるんだよ」
「ふーん……」
だったら自分もあーちゃんとか呼んでくれればよかったのに。と思うアリスでした。
「自分もあーちゃんとかって呼ばれたい。って顔してるな」
「なっ!! バ、バカにしないでよ、そんな、まさか……」
「まぁ、うちの娘にはこんな怪しい奴と仲良くさせたくないけどな」
お前の方が仲良くさせたくない性格してるよ。とは思いますが言いません。
「はぁ……それで、治すあてはあるの?」
「ん。パチュリーに頼んで解毒剤、というか、まぁそんな感じのやつは作ってもらってる。あと数日で治る」
「そう……」
「ま、私のせいだしな。治るまでは私がつきっきりで見守っててやるつもりだぜ」
それはそれで残念でもありました。
確かにアリスは今の霊夢に多少。本当に多少、惹かれている部分はありますが、小さな霊夢も悪くありません。
いえ、むしろ元の霊夢に無い可愛さがあってアリス的には嬉しいくらいです。
だからといって、元の霊夢に可愛さが無かったわけではなく、なんというか、元の霊夢には無い無邪気さというか……
「おーいアリス。戻って来い戻って来い」
「はっ! なんだ、妄想か」
「少しは自重してくれよ、頼むから」
「大丈夫よ。現実を受け止めた今。私は全力であの霊夢を愛するわ」
「分かってねーよ」
魔理沙がバシンと頭をはたくと、ちょうどその時霊夢(小)がお盆に3つの湯呑を持って戻ってきました。
湯呑3つが重いのか、多少足元が不安定です。
それを見かねたアリスが立ちあがり、変わりにお盆を持ってあげました。
が、霊夢(小)は頬を膨らませて抗議をしてきます。
「もー! れいむがお茶だすの!!」
「え、ご、ごめん。でも危ないわよ?」
「いいの! もーアリス嫌い!!」
「グ……ッ!!」
言葉の刃にやられて、アリスはお盆を霊夢(小)に手渡した後、部屋の片隅まで行くと体育座りをしました。
その背中からは物悲しさしか感じ取れず、魔理沙はちょっとだけアリスを不憫に思いました。
「はい、まーちゃんお茶」
「お、ありがとな霊夢。じゃあアリスにもあげてやってくれよ」
「えー……だってアリスはれいむの邪魔するんだもん」
「グ……ッ!!」
二の太刀が決まり、アリスは本格的に落ち込み始めました。
なんという博麗主義者。
魔理沙はしかたなさそうに笑顔になると、霊夢(小)の頭をなでてあげました。
「あの時、もし霊夢がお盆の重さに耐えれなくて倒れたらどうなってた?」
「……まーちゃんとアリスに当たってた」
「そうだろ? そうなったら霊夢はどうだ?」
「……やだ。まーちゃんもアリスも風邪ひいちゃう」
「んー、まぁ、風邪はひかないけど、困っちゃうよな」
「……うん」
「そうならないように、アリスは代わりに持って行ってあげようとしたんだ。霊夢の邪魔をしたわけじゃないよ。分るよな?」
「……うん」
「だったら、今自分が何をすればいいかも分かるよね?」
「……はい」
申し訳なさそうな顔をしながら、霊夢(小)はお茶が1つだけ乗ったお盆を持ってアリスに近づいていきます。
そして、魔理沙と霊夢(小)の会話に顔を上げていたアリスの前に湯呑を差し出しました。
「アリス、ごめんなさい」
そして、ちょっと涙目になりながらも、霊夢(小)は謝罪の言葉を述べました。
その様子が可愛かったのか、はたまたもっと違う理由なのか。
アリスは次の瞬間には霊夢(小)を思い切り抱きしめていました。
「う、アリス、痛い。ごめんなさい、ごめんなさい」
「あ、ち、違うよ。怒ってるんじゃないよ?」
ビクビクする霊夢(小)ですが、慌てて引き離し、笑顔で自分を見るアリスを見て、霊夢(小)も笑顔になりました。
魔理沙はやれやれ。みたいな顔をしてそれを見ていますが、抱きしめた衝撃で霊夢(小)の手から落ちた湯呑と、こぼれているお茶を見ながら、そちらにも「やれやれ」と思いました。
その後、すっかり仲良くなった霊夢(小)とアリス。
今はアリスの膝の上に座りながら、霊夢(小)は絵本を読んでもらっています。
魔理沙をそれを見ながらも、机の上になにやら資料やらを並べて魔法の勉強をしていました。
「……めでたし、めでたし。と」
「アリスは絵本読むのうまいね!」
「え、そう?」
「うん! まーちゃんよりうまい!!」
その言葉の瞬間、魔理沙からの鋭い視線をアリスは感じました。
嫉妬丸出しのその視線を背中に受け、振り返ろうにも振り返れません。
あの魔理沙の母性本能をここまで刺激するとは、霊夢(小)は恐ろしい存在です。
霊夢(小)は気付いてないようで、急に汗をかきはじめたアリスの顔を見上げて首をかしげています。
「そ、そうだ霊夢。えーっと……じゃーん」
「……? なにこれ? 人形」
話をすりかえようと、アリスはどこからともなく人形を取り出しました。
俗に上海人形と呼ばれる(というか、アリスが名付けた)その人形を見ながら、霊夢(小)は興味津々です。
「そうよ。シャンハイって言うの。ほら、シャンハイ挨拶は?」
「……シャンハーイ」
「わー!! 動いた! 勝手に人形動いた! すごい!!!」
糸も無しに動くシャンハイを見て、霊夢(小)のテンションが上がります。
そしてそのままシャンハイを手に取り、自分で動かしたりしながら遊んでいます。
それを微笑ましそうに見ているアリスでしたが、ふと後ろを見ると魔理沙が鬼の形相で真後ろに立っていました。
「ひっ……」
「おいアリス……帰る時、後ろを気をつけろよ……?」
それだけ言うと、魔理沙は机の方に戻っていきます。
あれは本気の目でした。かなりやばいです。
まるで本職のような凄味を見せた魔理沙にビビりつつも、アリスはぎこちなく顔を霊夢(小)へ戻します。
「ねぇねぇシャンハイ。シャンハイはどこから来たの?」
「シャンハーイ」
「魔法の森? あっちのやつ?」
「シャンハーイ!」
「へぇ、すごいねシャンハイ!」
「シャンハイハーイ!」
どうやらシャンハイを気にいったようで、夢中で遊んでいます。
というか、一体どうやって人形と意思疎通をしているのでしょうか。
それが博麗的力なのか、子ども特有のものなのかは分りません。
微笑ましそうにそれを見つめるアリスと魔理沙ですが、そこでふと、
グー
「……プッ」
「あー……まーちゃん、お腹減った」
霊夢(小)から特大のお腹の音が鳴りました。
少し笑うアリスですが、霊夢(小)はそれを気にせず魔理沙を見ます。
「ん、そういえばもうそろそろ日も落ちるし、夕飯の時間かな」
「あ、それじゃあ今日は私がなにか作るわよ」
確かに外を見てみれば、日も落ちかけた夕暮れ時です。
アリスはスクッと立つと霊夢(小)に断りをいれ、シャンハイを受け取りました。
「え、いいのかアリス?」
「当たり前じゃない。次は料理で魔理沙よりも上だって言ってほしいし」
さりげないアリスの挑発に魔理沙の眉間にしわがよりましたが、霊夢(小)は少し嬉しそうです。
「わーい、アリスのご飯ー」
「くっ……それじゃあ、作ってもらおうじゃねぇか」
「えぇ、心して待ってることね」
アリスはそのままバッとすごい勢いで台所に向かいます。
前に一度霊夢(大)に料理をつくった時に「味は薄い」と言われており、そのリベンジでもあるのです。
しかも子供の意見となると、素直な気持ちで言われることは必須。
むしろ元の霊夢の時よりも真剣に望まなくてはいけません。
「(そしてさりげなく霊夢の好き嫌いを把握して、ゆくゆくは―――ッ!!!)」
「シャンハーイ」
シャンハイのツッコミがペチンと当たりますが、誰も見ているものがいないうえに、心の中だけで繰り広げられる寸劇には何の意味もありませんでした。
「味が濃ーい」
「……」
絶句しました。
まさか、真逆の感想を言われるとは。
アリスは目の前に広がる献立を見ました。
人参のスープに、ムニエル、肉と野菜のサラダにごはんと漬物。
まさに和洋折衷。ちなみに漬物は冷蔵庫にあった残り物を使ったとか。
「というか、肉がないぜ肉が。人間なら肉食わないと元気が出ないんだぜ!?」
「サラダに使ってるじゃない」
「メインで持って来いメインで!!」
魔理沙の肉論を聞き流しつつ、アリスは霊夢(小)を見ます。
味が濃いと言ってたわりにはそれなりに箸は進んでいるようです。
「ど、どう霊夢。おいしい?」
「んー……人参のはおいしくないけど、後のは、ふつう」
「……そう」
「あ、でも!!」
露骨に落ち込むアリスでしたが、それを見て霊夢(小)は声を上げます。
「アリスががんばって作ってくれたものだからおいしい! すごいおいしい!!」
「……」
「うおっ! ア、アリス鼻血鼻血」
思わず鼻血も出るってもんだろう。あの霊夢が一生懸命にフォローしてくれてる。
もうそれだけでアリス的にはご飯三杯はいけます。比喩とか無しに。
「ったく。本当にアリスはどうしようもないな」
「そうね」
「自覚ありかよ」
むしろ自覚があるからこその暴走です。
もう他人から見てもどうしようもないって分かるくらいなら、いっそ突っ走った方がいいんじゃね? 的な。
だったら相手になんなりのアタックしろよと言われるかもしれませんが、アリスはしません。
なぜなら、臆病だからです、悪く言えばチキンだからです。良くは言えません。
「ごちそうさまでした」
とか考えている間に、霊夢(小)はごはんを食べ終えてました。
しっかりと手を合わせている姿にアリス的にはご飯以下略。
「よ~し、ちゃんと言えたな霊夢」
「うん!」
「それじゃ、先に風呂入っといで」
「は~い」
とてとてとお風呂場へ歩いて行く霊夢(小)。
アリスの箸が止まりました。
「……お風呂? 先に?」
「……なんだよ、その目は」
「まさか、魔理沙……」
「当然だろ? 私は霊夢の母親だぜ?」
魔理沙が笑います。
アリスにはその笑みがどこか自分の優越性を示しているようでいい気がしません。
むしろ、魔理沙が霊夢(小)の母親。という場所にムカムカきます。
「だったら、私は霊夢の父親よ」
「……そ、それでいいのか女として」
「いいのよ」
いいらしいです。
とにかく、この瞬間からアリスは霊夢(小)の父親です。
父親ですから、一緒にお風呂に入っても問題は無いのです。
「でも私も入るんだぜ?」
「大丈夫よ。私は興味の無いものは認識できないから」
「もう病気だそれは」
言うや否や、アリスはすごい速さでご飯を食べ終わり、歩き出します。
「ちょ、お前せめて片付けろよ!」
「お風呂からあがったら片付けるわ!」
残された魔理沙は小さくため息をもらしてから、自分も風呂場へと向かいました。
今のアリスと霊夢を一緒にするのは危険だからです。
「それじゃ、また明日ね」
お風呂シーンはカットです。
なぜならちょっとアレがソレしたり、アリスの鼻血で浴槽が満たされたりしてR-18になりかねないからです。
そんなわけで、体から湯気を出しながらアリスは鳥居の下にいます。
その前には霊夢(小)と魔理沙が同じくホカホカな状態で立っています。
「アリス、本当に帰っちゃうの?」
「うん、ごめんね。私も泊まりたいのは山々だけど、研究の途中だし、家にたくさん残してる人形があるしね」
「うー……」
「だ、大丈夫よ。たまに顔出すし、その時は遊んであげるから、ね?」
「……わかった」
ちょっと涙目だけど、霊夢(小)は力強く頷きました。
お風呂の一件でちょっと血を出しすぎて逆に冷静になれたアリスはそれを笑みで帰して、魔理沙に視線を移します。
「あなたは泊まるのね」
「まぁな。私のせいっていう責任もあるしな」
「……ずるい」
「うるさいな、好きでやってんじゃないんだよ。それより、本当にいいのか?」
ちょっとだけ心配そうにアリスを見る魔理沙ですが、アリスは逆にちょっとすがすがしい感じです。
「うん。あんまりこの子の世話してると、情移っちゃいそうだし。そうすると、霊夢に失礼じゃない」
「……こいつも霊夢だぞ?」
「そうだけど……なんていうか、ちょっと違うでしょ?」
あははと笑うアリスですが、魔理沙はちょっとだけ難しそうな顔で腕を組んでいます。
が、しかたないとばかりにため息をつき、腕を解きました。
「ま、私はどっちでもいいけどな」
「そうね。その方が魔理沙らしいわ」
「どういう意味だよ」
「そう言う意味よ。それじゃあね」
そして、そのままアリスは飛び立っていきます。
しばらく2人に向かって手を振って、2人もアリスに手を振っていましたが、お互いが豆粒くらいにしか見えなくなったところで、アリスは前を向いて飛んでいきました。
残された2人は、暗い中でお互いに顔を見合せます。
「……帰っちゃったな」
「うん」
「……ふー。やっと肩の荷が下りるぜ」
「ねぇねぇまーちゃん」
「……なんだよ」
アリスが帰ったとたん、魔理沙の態度が変わります。
ちょっとだけ煩わしそうにしながら、霊夢の顔を見ました。
「れいむね、といれいきたいの」
「一人で行けよ」
冷たくそう言い放つと、魔理沙はさっさと母屋に向かって歩き出します。
その後ろを慌てて追いかけながら、霊夢は抗議の声を出しました。
「……ちょっと、アリスが帰ったとたんに素っ気ないじゃない」
「あのな、もういいだろ? 疲れるんだよあのテンションは」
さっきまでの霊夢とは違う、『いつもの霊夢』のような口調で喋る霊夢(小)の顔は、どこか大人びています。
そしてちょっと薄い笑みを、怪しい笑みを浮かべています。
「まぁ、今日は許してあげるわ」
「ったく……失敗したよなぁ。なんで記憶は元のままなんだよ」
「私に得体のしれない物を食べさせた、いわば天罰ね」
ふっと笑いながら、霊夢は魔理沙の横に並びます。
ゆっくりとした、小さな霊夢に合わせた歩調で魔理沙は歩いています。
「アリスちょっと可哀そうだろ」
「次に会ったら言うわよ。まぁ、次に会った時に治ってたら言うしかないでしょうけど」
「……(あいつの事だから、明日来るだろうけどな)」
アリスの思いに気づいてない霊夢には言わない方がいいだろうと、魔理沙は心の中で思いました。
ちょっとしたイタズラで霊夢に食べさせた毒キノコ。
その効能は身体の低年齢化ということまでは知っていた魔理沙でしたが、精神には変化が無いという所は盲点でした。
治るには解毒剤が必要で、それは現在パチュリーの頼んであります。もちろん霊夢が。
怪しいものを食べさせたとして、魔理沙には『霊夢が元に戻るまで、年相応の言動をする霊夢の母親役をすること』を義務付けました。
断ればどうなることか。と、そしてそれなりに感じた罪悪感で魔理沙は言う事を聞くほかありませんでした。
「まぁ、今日のアリスも可愛かったからいいじゃない」
「どんな理屈だよ、より一層アリスが可哀そうになったよ」
「今のアリスに情が移っちゃいそう。ってことよ」
ふふふ。と笑って霊夢は家の中に入っていきました。
残された魔理沙は、霊夢の言葉と、アリスの去り際の言葉を思い出していました。
「……やっぱり、アリスが可哀そうだぜ」
それでも両方の友達として、最大限の努力はしてあげようと魔理沙は誓いました。
そうじゃないと、アリスがあの魔性の女に精神的にズタボロにされると思ったからです。
「ねぇねぇまーちゃん」
「……なんだ、霊夢?」
入ったところにいた霊夢(小)は、年相応の笑顔でした。
だから魔理沙も母親の顔で霊夢(小)を見ます。
「今日も一緒に寝てくれる?」
「はぁ……しょうがないなぁ、霊夢は」
こうやって霊夢に遊ばれるのも、天罰として受け入れるか。と魔理沙は本気のため息でした。
もういっそ、明日くるであろうアリスに本当の事を言って、あいつも一緒に気持ちにさせてやろうか。
そんな考えさえ浮かびます。
まぁとにかく。もう夜です。夜だから寝ないといけないんです。
2人は寝室まで行くと、2つの枕で1つの布団にもぐりこみ、川から一画を欠いた字で寝ころびました。
「おやすみ、霊夢」
「おやすみなさい、まーちゃん」
この欠いた一画は、アリスで埋めてやろうと、魔理沙は思うのでした。
地霊殿でアリスをサポートで使えるのは魔理沙だけっぽい気がしないでもないが、俺は諦めない!
アリスがちと気の毒だが……続き読みたいのぜ!と催促してみる。
あと、誤字発見ですっ!
>「自分こあーちゃんとかって呼ばれたい。~~」
自分「も」では?
楽しませてもらいました。
しかしこの霊夢は最強だな~
レイマリだろうがレイアリだろうが出された物はおいしく食べるのが食人の心意気です。どっちも好物ですがw
霊夢の裏の顔を妄想しながらも一回読んでまいります。
>地霊殿でアリスをサポートで使えるのは魔理沙だけっぽい気がしないでもないが、俺は諦めない!
あんたとは良い酒が飲めそうだ
>誤字
こぁーちゃん。ってことで。
嘘です訂正しました。
ものっそい破壊力でした。
なんだかんだで付き合う魔理沙もすげえ!
霊夢の裏の顔を想像しながら読むと、また違った面白さがw
と言いたいところだが、可愛いから許す!
スーパーキノコを食べさせると大きくなる続編希望