空には星々が煌いていた。
すでに日が落ちた幻想郷には煌々と惑星達が彩を放つ。
所々に雲があるものの静かな夜といってもいいだろう。
蟲達の声が静寂を雅なものに彩るなか、魔法の森の一軒家には明かりが灯っていた。
「うわ、こんなの呑めるのか?」
思わず飛び出した言葉が部屋の空気を一変させる。
ごちゃごちゃと散らかった部屋の中、魔理沙は一冊の本を見ながら顔をしかめていた。
雨風に晒されたのだろうか、くたびれたその本は歪に膨れ上がっており、所々の文字が滲んで読めなくなっていた。
昼間、息抜きとばかりに魔理沙が飛んでいる時に無縁塚で見つけた本なのだが、ちょっとした興味と好奇心で読み耽ってしまったのである。
「それにしても色んな酒があるんだなぁ」
頬杖をついて、パラパラと本をめくる。
どうやらお酒を紹介する本のようで、天狗が使う写真機で取られたような絵がついている本だった。
しかも色付きで掲載されており、そこには色とりどりのお酒が紹介されていた。
魔理沙が知っているお酒といえば日本酒のみであり、色も透明、もしくは濁り酒とよばれる白い物しか知らない。
だが、この本に載っているものは、赤から始まり青、緑、黄色などなど、仕舞いには虹の色を模した物まで載っていた。
どうやら外の世界では、もっともっと沢山のお酒があるらしい。
米だけでなく麦や葡萄からもお酒が造れるという記述まであった。
残念ながらその造り方までは載っていなかったが、魔理沙の中で日本酒以外のお酒を呑んでみたいという欲求が膨らんでいく。
「香霖にでも聞いてみるか」
ため息と共にそう呟き、パタンと本を閉じる。
いくら呑みたいと思っても手に入らなければ呑めない訳で、いくら渇望したところで、幻想郷には売っていない訳で。
頼みの綱は知り合いの物好きしかいない。
ちょっとばかりの期待と不安を織り交ぜたため息を吐いた。
二回目のため息か、と数えて苦笑する。
そして星達と世界にオヤスミと挨拶してから布団の中へと潜り込んだ。
~☆~
星が輝いていたからだろうか。
次の日は気持ちの良い位に青空が広がっていた。
幻想郷の空は、鳥の独占場ではない。
妖怪も飛べば、妖精も飛ぶし、天狗が最速で駆け抜ければ、河童だって飛ぶ。
そしてもちろん、魔法使いだって巫女だって飛ぶのだ。
「ふぁ~ぁ~……」
口元を手で隠しながら、魔理沙は大口で欠伸をした。
次いで、雫が浮かんだ瞳を手で拭う。
空を飛んでいるというのに、緊張感がまったく無い。。
どうやら、昨日は就寝時間が遅かったらしい。
だが、太陽はもう真上を通り越して傾きに入っている。
寝不足というより寝すぎだろうか。
睡眠不足は寿命を縮めるが、寝すぎも同じように寿命を縮めるという話を思い出し、魔理沙は自虐的に笑った。
「廻りが長生きばっかりだからな」
今から会う相手もその一人。
ゆっくりと地上に降り立った魔理沙は、その店の扉を無作為に開けて中へと入った。
店内は相変わらずの散らかりよう。
本だけはきちんと本棚へと仕舞われているのに、その他の何に使うか分からない道具がそこら中に溢れ返っていた。
香霖堂とは、そういう店だ。
魔理沙はいつもの場所に腰をかけ、前回来ていた時に読んでいた本をパラパラとめくって続きから読み始めた。
「……ふぅ。魔理沙、一言くらい挨拶したらどうだい?」
「おぉ、居たのか香霖。気づかなかったぜ」
魔理沙の言葉に霖之助は大きくため息を吐いた。
「一度、目があったんだが?」
「冗談言うなよ香霖。私の目はここだぜ。蝸牛じゃあるまいし飛び出さないよ」
「……そうだな。お茶でも入れてこよう」
ん、と頷き、魔理沙は再び本へ視線を落とす。
その様子を見て、霖之助は再び大きなため息をついた。
「ため息が多いな。ため息を一回つく毎に寿命が1年減るっていう噂話を聞いた事あるぜ」
「だったら、僕は去年あたりに死んでそうだ」
その言葉に魔理沙は顔をあげる。
お茶の準備を始めた霖之助だが、その気配に振り返った。
窓からの陽の光が、通りがかる雲によって遮られる。
二人の間に陰が差す。
お互いの表情は、お互いに読み取れない。
「ため息とは『矯め息』とも書ける。『矯め』とは正しく直すという意味を持つ。つまりは、鬱屈した気分や負の感情を正しく直す……ようは、気分を発散させてくれるものだ。それを我慢してたら余計に寿命が減ると思うがね」
霖之助の言葉に魔理沙は笑った。
「更に付け足すなら、憧れや畏敬の念を抱いた時なんかにもため息が出るだろ? 案外、ため息なんてものは悪いものではないよ」
「私はそんなため息を吐いた事がないぜ」
「……そう言うと思ったよ」
魔理沙の言葉に霖之助は笑った。
そして雲が晴れる。
お互いの表情が読み取れる。
それを確認して魔理沙は本へ、霖之助はお茶の準備へと取り掛かった。
~★~
急須にお茶が無くなり、読んでいた本が終わりを迎え、窓から黄昏の光が差し込む頃合。
両腕を天井に向けて大きく伸びをすると、魔理沙は帽子から一冊の本を取り出した。
「香霖、香霖~。これ、持ってるか~?」
湯のみを片付けていた霖之助は一旦手を止めて、その本を覗き込む。
ふむ、と頷いてそのまま台所へと向かった。
「流石は香霖堂だな。無いもの以外は何でもあるな」
「当たり前の事だろう。全然褒めてないよ」
茶色の瓶を片手に戻ってきた霖之助は本の文字と瓶に書かれた文字を確認する。
そして、ふむぅ、と納得するように声をあげた。
「なるほど、これは混ぜて使うお酒なのだな。道理で不味い訳だ」
「不味いのか?」
「不味い」
魔理沙はふ~んと言いながらも、それを受け取る。
「その本を見る限り、僕の口には合いそうにも無い。特別にただでいいよ」
「……不味いのか?」
「不味い」
そんなものを良く取っておいたものだ、と魔理沙は笑って礼を言う。
「じゃな香霖。また来るぜ」
「うん。不味いからな」
「不味いのかー」
ちょっとだけ顔をしかめながら、魔理沙は箒に跨って空へと飛び立つ。
山の向こうへと傾く太陽を眺めながら次の目的地へと向かう事に決めた。
~☆~
その夕焼けに、紅魔館はより一層の存在感を示していた。
黄昏の闇が紅を照らし、誰彼の光が闇を黒くする。
紅と黒で彩られた館の前には、中国風の服装をした門番が立っている。
それは幻想郷では有名な話であり、挨拶をすれば挨拶が返ってくる気さくな門番である事も有名な話。
だが、手荒い挨拶には手荒い返答が待っているのは有名以前に常識である。
なぜなら……彼女は門番なんだから。
「またあなたですか」
門の前に降り立った魔理沙に対して、門番である紅美鈴は眉を立てた。
何度も侵入しては勝手に本を持ち出す盗人その人が堂々と門に現れたのだ。
盗人猛々しいを素で表現している。
まさか、それをいらっしゃいませと通す訳にはいかない。
「名誉を返上し、汚名を挽回するチャンスかい?」
皮肉気な魔理沙の言葉は、美鈴の癇に障ったのだろうか。
美鈴は足幅を大きく広げ構える。
そして弾幕ルールに則り、スペルカードを提示する。
その数、3枚。
華符「彩光蓮華掌」
彩翔「飛花落葉」
彩華「虹色太極拳」
それに対して、魔理沙の提示したカードはたったの1枚。
彗星「ブレイジングスター」
その1枚を提示し、魔理沙はニヤリと笑って宙空へと飛び立つ。
それに疑問符を浮かべながら、美鈴は追いかけるように空へと昇った。
「たった1枚だけとは、どういうつもりですか?」
「今日は客として来たんだ。本を借りに来た訳じゃないぜ。その証拠に、ほら」
魔理沙は箒に結び付けてある風呂敷から茶色の瓶を取り出し、美鈴に見せる。
「土産もある」
その言葉を聴いても、美鈴は構えを解く事はない。
「それは信用しても良いのですか?」
「さぁね。まぁ、弾幕勝負の宣言は済んだんだ。気楽に派手に厳かに、陽気に健気に必死に、悲惨に非情に卑怯に勝負といこうじゃないか」
その言葉を美鈴が理解する前に魔理沙は美鈴へと突っ込む。
弾幕なんか無視した行動に美鈴は虚をつかれるが、そこは歴戦の猛者だろうか。
すぐに落ち着き、スペルカード顕現させた。
「弾幕はパワーなんだが、こういう日もあるってね」
魔理沙は箒に引っ張られるように突っ切る。
箒に跨っているより表面積を減らし、当たり判定を小さくしたのだ。
そして星の形の弾幕をばらまく。
いや、弾幕というには戦法も法則も秩序もない。
ただただランダムに星を飛ばしている。
「ふざけているのですか、魔理沙!」
星を避けながら、美鈴は叫ぶ。
元より風のような人間である魔理沙。
捉えどころのない自由奔放さは彼女の特徴と言える。
だからこそ、美鈴は彼女の影に目を細めて驚愕する。
「……!?」
魔理沙の背中には、今にも山の向こうへと沈もうとしている太陽。
そう、逆光では魔理沙の影を捉えるので精一杯だ。
「弾幕はパワー、だけじゃないぜ」
スペルカード、セット。
顕現させるは、唯一の1枚。
彗星「ブレイジングスター」!
「なんの!この一撃をよければ私の勝ちだ!」
高速で光速な紅速を予想して美鈴は構える。
「それはどうかな」
「へ?」
思わず美鈴はマヌケな声を出してしまった。
前方の太陽に隠れているはずの魔理沙の声が頭上から聞こえてきたからだ。
そして、上を見上げた瞬間、魔理沙が降ってきた。
「受け止めてくれーぃ!」
「な、ななななな!?」
その言葉に美鈴は思わず魔理沙をキャッチする。
「い、い、いったいどういうつもりだ!?」
「まぁまぁまぁ。それより、避けなくていいのか?」
へ?、と再び美鈴のマヌケ声。
そして、魔理沙の指が示す方向を向いた瞬間……スコーンと美鈴の額に箒の柄が突き刺さった。
「必殺、遠隔ブレイジングスター。最初の最後に言っただろ、『卑怯に』って」
魔理沙は箒にぶら下がりながらニヤリと笑った。
もちろん、地面へと突き刺さっている美鈴には聞こえないだろうけど。
~☆~
「よう、パチュリー」
「……魔理沙」
薄暗い地下室の一角。
立ち並ぶ本棚に囲まれた小さな灯りの下に、その少女はいた。
あまり健康そうには見えない白い肌は小さな灯りでも良く目立つ。
自分とは正反対の存在であるパチュリーに、魔理沙は軽く手を上げた。
そんな挨拶に、パチュリーは答える事なく、ん、短く返事をし、読んでいた本を閉じた。
いつも本を読んでいるあたり、香霖みたいだと思ったが魔理沙は口には出さなかった。
パチュリーは霖之助を知っているかどうか分からないし、何より、ここに霖之助の存在は必要ない。
無限の知識と情報が、この図書館にはあるのだ。
まぁ、多少は偏っているが。
「ほんと、本の蟲だな」
「あら、魔理沙だってかなり読んでるじゃない。あと読んだら返しなさいよ。返すんでしょ」
パチェリーの言葉に魔理沙は苦笑しながら、そのうちな、と答える。
そして、机の上に茶色の瓶と白い液体が入った二本の瓶を置いた。
「???」
その瓶を見て、パチュリーは?マークを浮かべる。
近づいて見てみるが、それが何なのか分からない。
白い瓶ならば予想できたのだが、茶色の瓶は初めて見る物だった。
「まぁ、そういう訳で今日はお詫びだぜ」
どこに持っていたのか、パチュリーが振り返ったときに魔理沙はパラパラと本をめくっていた。
「え~っと、あったあった。パチュリー、こんな硝子のコップはあるるか?」
~★~
魔理沙に言われた通りに用意したが、パチュリーは中々に眉根が寄っている。
まぁ、確かに魔理沙は客人で自分は部屋の主だ。
持て成すのは当たり前だが、まるでメイドや使用人の様に使われては不満もある。
これのどこがお詫びなのだろうか。
もっと、こう、いつもより優しくしてくれるとか、ないのだろうか?
「パチュリー、氷も頼む」
「チルノにでも頼めば?」
そんな事を思っていたせいか、自然と言葉は棘を持ってしまった。
その尖った言葉に、魔理沙は振り返る。
パチュリーはフイとそっぽを向いた。
ご機嫌ナナメを表す一番良いサインだ。
「ん~。パチュリー……わたしはさ、ほら、ガサツで自分勝手だろ」
そんなパチュリーに魔理沙は頬を掻きながら言う。
「本も借りっぱなし、収集癖があるけど整理する気なし、感謝の気持ちなし」
魔理沙の言葉に、パチュリーはそっと瞳を向ける。
「っていうふうに思われがちだが、実際は感謝してるんだぜ。人間はさ、食べなきゃ死ぬ、寝なきゃ死ぬ、寒いと死ぬ、暑すぎても死ぬ、首を斬られて死ぬ、腕を斬られて死ぬ、足を斬られて死ぬ、焼け死ぬ、凍え死ぬ、そのうち死ぬ、嫌でも死ぬ。そう、すぐに死んじゃうんだ」
魔理沙は話しながらも、茶色い瓶の液体と白い液体を硝子の茶碗に注いでいく。
赤色に近い茶色の液体は、白と混ざり薄い色へと変化していった。
「生まれて、泣いて、笑って、別れて、子供産んで、怒って、楽しんで、悲しんで、死んでいく。同じように泣いたり笑ったりするなら、出来るだけ笑っていたい」
右手の小指で液体を混ぜ合わせる。
液体は完全に混ざり合い、薄茶色になった。
「はい、かるーあみるく、っていうお酒」
「……ん」
パチュリーは渋りながらも受け取った。
覗き込むとまだグルグルと渦を巻いていた。
「……小指」
「ん?」
自分の分だろうか、同じものを作りながら魔理沙は振り返るが、パチュリーは慌てて何でもないと首を振った。
そして、ちょっとだけ口に含んでみる。
さっきから魔理沙が混ぜてる白い液体……どうみても牛乳なのだ。
お酒に牛乳を混ぜるなんて、どう考えても邪道だ。
ちょっぴり、おっかなびっくり、パチュリーはカルアミルクを呑む。
「あ、美味しい」
「え!?」
パチュリーの漏らした言葉に魔理沙は驚いたような声をあげた。
ちょっぴり疑いの目を向ける。
魔理沙は誤魔化すように自分で作った一杯を呑んだ。
「甘ぇ!」
誤魔化し笑いが途端にしかめっ面になった。
そして、なるほど、と呟く。
「普通の酒呑みには不味い訳だ」
魔理沙には不評だが、パチュリーには好評のようで、ちびりちびりと硝子の中身を減らしていく。
「美味いのか、それ」
「あら、美味しいわよ。牛乳を混ぜてるっていうイメージが先にきて、邪道みたいだけど、甘くて呑み易いわよ」
そういって、幾分ハイペースでグラスの中身を減らしていく。
早くも頬を朱色に染めながら、要らないならそれも頂戴、と魔理沙のカルアミルクも手を出した。
「えへへ……間接ちゅー……」
「ん? どうしたパチュリー」
「なんでもないわ」
そうかい、と笑いながら魔理沙は別の瓶を取り出す。
こちらはただの日本酒のようで、トクトクとぐい飲みに注ぐとちょびっとだけ口に含んでにんまりとした。
「わたしはやっぱりこっちがいいな」
そういうわけで、と魔理沙はぐい飲みを掲げる。
それにあわせてパチュリーも腕を伸ばした。
「「乾杯」」
甲高く鈍い音で、乾杯の合図となった。
~★~
「そういえば、魔理沙。誰か想い人でもいるの?」
不意をつくようなパチュリーの言葉に、魔理沙は思わずぐい飲みの中身を呑み干してしまった。
「や、藪から蛇になんだ?」
「藪から棒ね。さっき、子供産んで、っていったじゃない」
「藪から蛇も結構びっくりするぜ。そうは言ったけど、実際には想い人どころかそんな予定もないぜ」
魔理沙の言葉に、ふ~んと生返事を返すパチュリー。
「そういうそっちはどうなんだ?」
「私?」
「そう、パチュリー」
ニヤニヤと指をさして来る魔理沙に、呪いでもかかえるつもり?と言いながら思案する。
「ん~、今までそんな事なかったし、きっとこれからもないわ」
「他人の事は言えないが、なんか寂しいな。命短し恋せよ乙女っていうじゃないか?」
「外の世界の話でしょ。前に本で読んだわ、その言葉」
要領を得たのか、パチュリーはカルアミルクを自分で作りはじめる。
酔いが廻り始めたのか、魔理沙は幸せそうな笑顔を浮かべる。
薄暗く仄暗い図書館に、少女の言葉が響き渡る。
「なぁ、もし、恋をするとしたら、どんなヤツがいい?」
「そうね。勝手に私の本を持っていかない様な人かな。もしくは妖怪」
「あはは。じゃぁ、私は幾らでも本を貸してくれる人間か妖怪かな」
「じゃぁさ、もし誰かと付き合ったとしたら、デートとかどうするよ?」
「えぇ、そうね~。ここで一緒に本を読むとか」
「うわ、いやらしい」
「ちょ、ちょっと、これのどこがいやらしいのよ?」
「一緒の本を読むんだろ。くっつきながら、こんな風に」
「なんで後ろからなの?ていうか、これじゃ読みにくいじゃない」
「なぁなぁなぁ、じゃぁさ、告白されるとしたら何て言われたい?」
「ん~、魔理沙は?」
「私はやっぱりこれだね。『君の為ならこの本を全部あげてもいい』」
「結局、本なんだ」
「まぁ、私に想いを寄せるような人間はいねぇな」
「そうかしら。案外いるかもよ?」
「あはは」
「うふふ」
少女等は無邪気に笑う。
お互いを批判するけれど、お互いを憎まない。
お互いに信用をおかないけれど、お互いを非難しない。
こんな関係をなんというのだろうか。
パチュリーは考える。
この関係を上手く言葉に言い表したい。
友達?
親友?
なんだか違う。
もっともっと、似合ってる言葉があるはずなんだ。
でも、そんな言葉、幻想郷には、存在してない。
「どうした、パチュリー?」
「……ううん、なんでもないわ」
魔理沙に顔を覗き込まれ、ちょっとだけ頬が紅くなった気がした。
もともとお酒で紅くなってるから分からないけど。
「ん~。さて、そろそろ帰るかな」
「……泊まっていかない? もう真っ暗よ」
窓の無い閉鎖空間でもパチュリーは時間の概念を狂わせてはいないらしい。
その事に関心しつつも、魔理沙は遠慮するよ、と断った。
そして来た時とは逆に、お酒や部屋を片付け始めた。
それなりに長い時間をここで過ごしていたらしい。
途中で読んだ本や拝借しようとした本を棚にしまった。
「今日は楽しかったぜ。たまにはいいだろ、こういうのも」
「……そうね」
少し寂しそうにパチュリーは微笑む。
「それじゃ、またな」
図書館の扉を開けたとき、パチュリーは魔理沙の背中に問いかけた。
「ねぇ、魔理沙。魔理沙は魔法使いにならないの?」
魔理沙は魔法使いじゃない。
ただの人間。
すぐに死んじゃう人間。
刹那の存在。
瞬く存在。
別れは、そう、早い。
「……そうだな。まだ楽しい事ばっかりなんだ。だから」
魔理沙は振り返る。
「生きるのに飽きたら、魔法使いになるぜ」
まるで少年の様に魔理沙は笑った。
その微笑みにパチュリーもつられ、微笑みを浮かべる。
「ん。魔理沙らしいわ」
その言葉を聴いて、魔理沙は手を振り、図書館を後にした。
~☆~
紅魔館を出れば、すっかり日が落ちた世界。
箒にまたがり、夜空へと舞い上がる。
星々の瞬きと煌きを仰ぎながら、魔理沙はまだ満面の笑みを浮かべていた。
「命短し恋せよ乙女。そして、魔法使い……ね。さて、明日は何しようかな」
魔理沙の毎日はまだまだつづく。
それが長くなるのか、刹那となるかは、魔理沙次第。
煌く夜空を渡りながら、魔理沙は思う。
今日は甘くて、それでいてちょっと苦味があるカルアミルクみたいな一日だったぜ。
「明日はアリスと八海山でも飲み交わすかぁ!」
ぶらほわディズ、これにておわり。
甘くて、美味しくてぇ、ちょっぴりほろ苦いアルコール分。
なんかパチュリーに似合った飲み物だなぁ、というかなんとうか。
魔理沙らしい、ちょっとニヤニヤできた美味しい作品でした。
ごち。
読んでても温かい目と穏やかなニヤニヤ(おい)でいられますね
自分もいつかはこういう小説書けるように努力しますwwww
でわwwwwww。
カクテルは凄まじく種類がありますからね。私はパチュリーと同じく、甘ったるいのが好きですがw
気づけ!気づくんだ、パチュリー!!
2種類の全く別の味のするお酒をパチェと魔理沙にたとえてるのかと深読みしてさらにニヤニヤがww
…かるーあみるくで某サークルが頭に出たのは自分だけでないと信じたい
子供と大人の考えが交差するような良いお話だと思いました。カウンターでグラスを回している少女たちをイメージしてしまいましたよ。w
とても良かったです。
にしても、酔ったパチェさんがかわええ・・・
生きるのに飽きたら魔法使いになるって魔理沙の言葉が印象的でした。
なんだかすごい「らしい」作品でした。ご馳走様でした。
マリ&パチュって,すごくいい飲み友達だと思います。
カルアミルクに負けない甘い話。ご馳走様でした。