「師匠。私には、まだ切れぬものがありましょうか!」
剣の腕に、少しの自信を持ち始めたある日の妖夢。一人素振りをしている最中に、師である妖忌が自分の前に現れたので、自らの実力の程を訊ねてみた。
「ないわけがあるか」
一蹴である。
「な、ならば、何が足りぬのかお教えください」
「聞くまでもなかろう。何もかもが足らぬ」
「そ、そんな」
やや気落ちする妖夢。そんな妖夢の側に立ち、妖忌は話を始める。
「……そうよのう。では一つ、話を聞かせよう」
空を見上げつつ、遠い昔を語るかのように。
「そう、あれは二年前のことだ」
「結構最近ですね」
妖夢のツッコミスキルが少し上がった。
しかし、そんなものを妖忌は気にしない。
「儂は、あれほど何も切れぬ事を恐怖したことはない」
「切れぬ事を恐怖!?」
まさか師匠にそんなことがあったのなんて、と、妖夢は驚きに目を見開いた。
「そうじゃ。あの時に儂は、何の準備も整っておらんかった」
「はぁ」
真面目な話と思い、真摯に耳を傾け始める。するとそんな妖夢に、妖忌は軽く頷いてみせた。
「そこでじゃ、三対一の状況に陥り、儂は指一本動かせなくなった」
「二年前の師匠がですか!?」
どんな状況だったのだろう。三対一、何も切れない。そう考えただけで、妖夢は背筋にゾクリと冷たいものが走るのを感じる。
「そうじゃ。儂の手が揃うのは、どう上手く事が運んだとして、あと二手先じゃった」
「はい……手が揃う?」
と、どこかうろんげな言葉が現れた。
「だというのに、既に他の三人のテンパイはほぼ確定しておった」
「麻雀の話ですか!」
妖夢の緊張感台無しである。
真剣に聞いていただけに、オチを受けてのショックは計り知れない。
「うむ。幽々子様と藍殿はリーチを、そして紫殿は確実に高目を張っておった」
「どんな面子で麻雀打ってるんですか!」
その面子が麻雀をすることより、その面子に妖忌が入り込んでいることが驚きの妖夢である。
「そこで、儂の手牌はほぼ全員の本命。初めてじゃった、暗カンで乗ったドラ6を恨んだのは」
「普通に考えれば運は良かったんですね」
「いや、あの場であの手牌、むしろツキは尽きていた」
「上手いこと言いますね」
若干、手牌がどんなものだったのか気になる。が、そこまで妖忌は詳しく説明もない様子で、妖夢も訊ねるのを諦めた。
「けれど、何かを切らねばならん。そこで儂は、手に抱えていたドラを捨てた」
「そ、それで?」
剣とは話が変わったことに気付いたというのに、なんだかんだで妖夢は師匠の話を真面目に聞いてしまう。根が真面目なのだ。
「なに、見事に藍殿の親の跳満に振り込んだものよ」
「駄目じゃないですか!」
妖夢、未だ師の麻雀の腕前を知らず。
「……ふっ、妖夢。まだまだ若いな」
「え?」
穏やかに風が流れ、妖忌の髪が優しく揺れる。
「幽々子様の数え役満と、紫殿の大四喜に振り込まなかっただけマシだというものじゃ」
「どんなレベルの麻雀やってたんですか!」
口にしてから、妖忌は口惜しそうに頭を掻いた。
「……あれさえなければ、二位に甘んずることもなかったというのに」
「えーっ!? ビリじゃないんですかぁ!」
驚きの連続。
「その面子でそれだけ振り込んで二位だったんですか!?」
「役満に振り込むことは避けたからのう」
「だからどんな頂上決戦なんですか!?」
見たいような、見るのも恐いような。妖夢はそんな感想を抱いた。
「良いか、妖夢。お前はまだまだ未熟じゃ」
「……あの、それは剣の腕がですか? それとも麻雀の腕がですか?」
「麻雀じゃ」
「あ、やっぱり」
ピシリと、手刀が妖夢の頭に入る。
「痛っ!」
「お主は剣も麻雀も、どっちも素人と変わらぬ程に未熟じゃよ」
それは、師から弟子へのかなりキツイ科白だった。
「し、素人は言い過ぎではないですか?」
「何。剣の道は遠く果てがない。それを知らぬは未熟者よ」
「うぅ……」
妖夢のプライドがズタズタである。
一応妖夢も、麻雀の役だけは憶えている。ただし、捨て牌で相手の手牌を読むことは不可能に近いレベルだ。
「儂の書庫に入門書がある。せめて点数計算くらいはものにしてみせよ」
「うぅ、符の計算が難しい……」
書物を読んで麻雀を学ぶということが、妖夢には億劫に思えた。
その書物が外の世界から入り込んだもので、実は全て漫画で紹介されているものだといいうことを、妖夢はまだ知らない。
「けれど、別に麻雀に関しましては、それほど重要ではないかと」
「喝っ!」
「わっ!」
突然叫ぶ妖忌。何を怒られたのか判らず、妖夢はびくりと飛び上がってしまった。
睨む師の目を見ながら思う。何事も疎かにしてはいけない、きっとこれはそういうお怒りなのだと。
「良いか、麻雀は剣の道に通ずるのじゃ!」
「えーーーーー!?」
想定外にも程があった。
「初めて聞きましたよ!?」
「未熟者め」
師はカッカッと笑う。
と、どこか厳しかった表情が和らぎ、妖忌は闊達に微笑んだ。
「では、ついてこい。剣の道、そして麻雀の道というものを教えてやる」
「はっ、はい!」
まだ麻雀と剣の共通点が、切るという言葉以外何一つ掴めていない妖夢であった。けれど、師の言うことを素直に受け、真面目に師の背を追う。
二人は揃い、白玉楼の一室へと向かった。
「幽々子様、妖夢を引っ張って来ましたぞ」
「あら、ご苦労様。さぁ、紫。麻雀やりましょう。今度は負けないわよ」
「ふふ。せめて振り込まないようになってから言って欲しいわね」
そこには、八雲紫、西行寺幽々子が席について待っていた。
その場の雰囲気に、あっという間に妖夢は呑まれてしまう。そして呆けるままに席に着くと、妖忌が二つの賽を振るう。出た数字は8。左に座るは、未だ呆けている妖夢。
そして、師匠が妖夢の手に賽を握らせると、妖夢はハッと我に返った。
「……まさか」
「ほれ妖夢、お前が親じゃ。賽を振れ」
にやにやとした己の祖父の表情に、全てを悟る。
「ただの面子集めだったんですかぁ!?」
妖夢の絶叫が部屋を満たす。そしてそんな妖夢を、にこにこと見つめる幽々子と紫。騙されたなどと愚痴をこぼしながら、強敵に囲まれて麻雀を打つこととなった。
回は周り、あっという間に妖夢の親は流れ、妖忌の親場となる。
その回に、妖夢は自分にとって美味しい牌を引き続け、開始三巡でイーシャンテンに。
「あっ」
六巡目、妖夢はその牌でテンパイ。
「り、リーチです!」
すかさずリーチを掛け、牌を切りつつ千点棒を置く。
しかし、ここで老人、小さく口元で笑う。
「……未熟者め」
そして、そう一言だけ呟いた。心底楽しそうに。
妖夢「ロン、字一色です師匠」
幽々子「・・・」←2位
紫「・・・」←3位
妖忌「・・・」←最下位
妖夢「師匠・・・」←逆転1位
↑ていうのが頭に浮かんだ(笑)
麻雀は初心者だけど大好きです!!
ハイレベルにも程があるだろwww
麻雀については全く知らないけど楽しめました。
けれど、その上で楽しんでいただけたようで有り難い限りです♪
『21:24:07』さんのいうような展開も面白いですね。なんだかんだで妖夢が優勝♪
ちなみに私は、孫可愛さにバレバレの待ちに振り込む妖忌のパターンと、問答無用で全員がロンする極悪な三人のパターンを考えました♪
あかん、妖忌がツバメ返しするところまで見えちまった・・・
なんだか、家族でのほのぼの麻雀って感じ
それにしても,それまであの三人を向こうに回して
トップを走ってたって....
...妖忌さん,あんたさすがだよ!!