Coolier - 新生・東方創想話

陽気な妖忌 ~切れるものなどなにも無い場合~

2008/02/28 05:31:26
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「師匠。私には、まだ切れぬものがありましょうか!」

 剣の腕に、少しの自信を持ち始めたある日の妖夢。一人素振りをしている最中に、師である妖忌が自分の前に現れたので、自らの実力の程を訊ねてみた。

「ないわけがあるか」

 一蹴である。

「な、ならば、何が足りぬのかお教えください」
「聞くまでもなかろう。何もかもが足らぬ」
「そ、そんな」

 やや気落ちする妖夢。そんな妖夢の側に立ち、妖忌は話を始める。

「……そうよのう。では一つ、話を聞かせよう」

 空を見上げつつ、遠い昔を語るかのように。

「そう、あれは二年前のことだ」
「結構最近ですね」

 妖夢のツッコミスキルが少し上がった。
 しかし、そんなものを妖忌は気にしない。

「儂は、あれほど何も切れぬ事を恐怖したことはない」
「切れぬ事を恐怖!?」

 まさか師匠にそんなことがあったのなんて、と、妖夢は驚きに目を見開いた。

「そうじゃ。あの時に儂は、何の準備も整っておらんかった」
「はぁ」

 真面目な話と思い、真摯に耳を傾け始める。するとそんな妖夢に、妖忌は軽く頷いてみせた。

「そこでじゃ、三対一の状況に陥り、儂は指一本動かせなくなった」
「二年前の師匠がですか!?」

 どんな状況だったのだろう。三対一、何も切れない。そう考えただけで、妖夢は背筋にゾクリと冷たいものが走るのを感じる。

「そうじゃ。儂の手が揃うのは、どう上手く事が運んだとして、あと二手先じゃった」
「はい……手が揃う?」

 と、どこかうろんげな言葉が現れた。

「だというのに、既に他の三人のテンパイはほぼ確定しておった」
「麻雀の話ですか!」

 妖夢の緊張感台無しである。
 真剣に聞いていただけに、オチを受けてのショックは計り知れない。

「うむ。幽々子様と藍殿はリーチを、そして紫殿は確実に高目を張っておった」
「どんな面子で麻雀打ってるんですか!」

 その面子が麻雀をすることより、その面子に妖忌が入り込んでいることが驚きの妖夢である。

「そこで、儂の手牌はほぼ全員の本命。初めてじゃった、暗カンで乗ったドラ6を恨んだのは」
「普通に考えれば運は良かったんですね」
「いや、あの場であの手牌、むしろツキは尽きていた」
「上手いこと言いますね」

 若干、手牌がどんなものだったのか気になる。が、そこまで妖忌は詳しく説明もない様子で、妖夢も訊ねるのを諦めた。

「けれど、何かを切らねばならん。そこで儂は、手に抱えていたドラを捨てた」
「そ、それで?」

 剣とは話が変わったことに気付いたというのに、なんだかんだで妖夢は師匠の話を真面目に聞いてしまう。根が真面目なのだ。

「なに、見事に藍殿の親の跳満に振り込んだものよ」
「駄目じゃないですか!」

 妖夢、未だ師の麻雀の腕前を知らず。

「……ふっ、妖夢。まだまだ若いな」
「え?」

 穏やかに風が流れ、妖忌の髪が優しく揺れる。

「幽々子様の数え役満と、紫殿の大四喜に振り込まなかっただけマシだというものじゃ」
「どんなレベルの麻雀やってたんですか!」

 口にしてから、妖忌は口惜しそうに頭を掻いた。

「……あれさえなければ、二位に甘んずることもなかったというのに」
「えーっ!? ビリじゃないんですかぁ!」

 驚きの連続。

「その面子でそれだけ振り込んで二位だったんですか!?」
「役満に振り込むことは避けたからのう」
「だからどんな頂上決戦なんですか!?」

 見たいような、見るのも恐いような。妖夢はそんな感想を抱いた。

「良いか、妖夢。お前はまだまだ未熟じゃ」
「……あの、それは剣の腕がですか? それとも麻雀の腕がですか?」
「麻雀じゃ」
「あ、やっぱり」

 ピシリと、手刀が妖夢の頭に入る。

「痛っ!」
「お主は剣も麻雀も、どっちも素人と変わらぬ程に未熟じゃよ」

 それは、師から弟子へのかなりキツイ科白だった。

「し、素人は言い過ぎではないですか?」
「何。剣の道は遠く果てがない。それを知らぬは未熟者よ」
「うぅ……」

 妖夢のプライドがズタズタである。
 一応妖夢も、麻雀の役だけは憶えている。ただし、捨て牌で相手の手牌を読むことは不可能に近いレベルだ。

「儂の書庫に入門書がある。せめて点数計算くらいはものにしてみせよ」
「うぅ、符の計算が難しい……」

 書物を読んで麻雀を学ぶということが、妖夢には億劫に思えた。
 その書物が外の世界から入り込んだもので、実は全て漫画で紹介されているものだといいうことを、妖夢はまだ知らない。

「けれど、別に麻雀に関しましては、それほど重要ではないかと」
「喝っ!」
「わっ!」

 突然叫ぶ妖忌。何を怒られたのか判らず、妖夢はびくりと飛び上がってしまった。
 睨む師の目を見ながら思う。何事も疎かにしてはいけない、きっとこれはそういうお怒りなのだと。

「良いか、麻雀は剣の道に通ずるのじゃ!」
「えーーーーー!?」

 想定外にも程があった。

「初めて聞きましたよ!?」
「未熟者め」

 師はカッカッと笑う。
 と、どこか厳しかった表情が和らぎ、妖忌は闊達に微笑んだ。

「では、ついてこい。剣の道、そして麻雀の道というものを教えてやる」
「はっ、はい!」

 まだ麻雀と剣の共通点が、切るという言葉以外何一つ掴めていない妖夢であった。けれど、師の言うことを素直に受け、真面目に師の背を追う。
 二人は揃い、白玉楼の一室へと向かった。

「幽々子様、妖夢を引っ張って来ましたぞ」
「あら、ご苦労様。さぁ、紫。麻雀やりましょう。今度は負けないわよ」
「ふふ。せめて振り込まないようになってから言って欲しいわね」

 そこには、八雲紫、西行寺幽々子が席について待っていた。
 その場の雰囲気に、あっという間に妖夢は呑まれてしまう。そして呆けるままに席に着くと、妖忌が二つの賽を振るう。出た数字は8。左に座るは、未だ呆けている妖夢。
 そして、師匠が妖夢の手に賽を握らせると、妖夢はハッと我に返った。

「……まさか」
「ほれ妖夢、お前が親じゃ。賽を振れ」

 にやにやとした己の祖父の表情に、全てを悟る。

「ただの面子集めだったんですかぁ!?」

 妖夢の絶叫が部屋を満たす。そしてそんな妖夢を、にこにこと見つめる幽々子と紫。騙されたなどと愚痴をこぼしながら、強敵に囲まれて麻雀を打つこととなった。

 回は周り、あっという間に妖夢の親は流れ、妖忌の親場となる。
 その回に、妖夢は自分にとって美味しい牌を引き続け、開始三巡でイーシャンテンに。

「あっ」

 六巡目、妖夢はその牌でテンパイ。

「り、リーチです!」
 
 すかさずリーチを掛け、牌を切りつつ千点棒を置く。
 しかし、ここで老人、小さく口元で笑う。

「……未熟者め」

 そして、そう一言だけ呟いた。心底楽しそうに。
 大崎屋平蔵です。五回目です。

 えーっと、なんかふと妖夢の科白を見て思い付いたネタです。
 書き終えてから思ったことは、もうちょっと長くしても良かったかなぁ、でした。

 麻雀の用語がチラホラありますが、判らなかった方には申し訳ないです。麻雀好きなんです。
 でも、勝負場面が書けるほど上手くもないので、ここ以後の勝負とかは書けませんので、続きはご容赦ください。

 あまりに楽しかったので、寝る間を惜しんで書きすぎました。これからはもう少しゆっくりと書くと思います。主に長編を。

追記
「派手じゃなければ役じゃない。リーチは度胸だぜ!」って言葉を入れられなくて残念。
大崎屋平蔵
[email protected]
http://ozakiya.blog.shinobi.jp/
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コメント



0.1140簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
自分は麻雀のルールはまったく知りませんが、それでも陽気な妖忌の雰囲気と妖夢とのやりとりがとても良かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
妖忌「そんなに早くリーチするから上がれんのじゃ(北を捨てる)」
妖夢「ロン、字一色です師匠」
幽々子「・・・」←2位
紫「・・・」←3位
妖忌「・・・」←最下位
妖夢「師匠・・・」←逆転1位


↑ていうのが頭に浮かんだ(笑)
麻雀は初心者だけど大好きです!!
3.90名前が無い程度の能力削除
みょんと私のツッコミがマジでシンクロしましたw
ハイレベルにも程があるだろwww
4.80名前が無い程度の能力削除
妖夢が良い感じですね!
麻雀については全く知らないけど楽しめました。
10.無評価大崎屋平蔵削除
 あぁ、やっぱり判らない方が多かったですか、申し訳ないです。
 けれど、その上で楽しんでいただけたようで有り難い限りです♪

『21:24:07』さんのいうような展開も面白いですね。なんだかんだで妖夢が優勝♪

 ちなみに私は、孫可愛さにバレバレの待ちに振り込む妖忌のパターンと、問答無用で全員がロンする極悪な三人のパターンを考えました♪
12.70三文字削除
絶対この面子で打ちたくねええええww
あかん、妖忌がツバメ返しするところまで見えちまった・・・
14.60御魂 心削除
妖忌が愉快すぎてイメージ総崩れだ、どうしてくれるwwwww
16.70名前が無い程度の能力削除
麻雀は全く分らないけど
なんだか、家族でのほのぼの麻雀って感じ
23.100名前が無い程度の能力削除
まさに肉を切らせてってやつですかw>ドラ切り(決して安くはないが)安め振込み
それにしても,それまであの三人を向こうに回して
トップを走ってたって....
...妖忌さん,あんたさすがだよ!!