Coolier - 新生・東方創想話

三人のイカレる乙女(作戦迷走~そして終末へ)

2008/02/19 05:50:56
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*凄まじく時間が開いており恐縮ですが、このお話は作品集36および41掲載「三人のイカレる乙女」シリーズの続編にして完結編のようです。
 




時はまさに世紀末

澱んだ図書館で奴らは出会った――





<1>

「あの……クッキー、全部食べちゃいましたけど……」
「その意味ありげな目線は何かしら。私が一番食べてたとでも言いたいの?」
「私は別にパチュリー様の体重がどうなろうと関知しません。今は本を取り返す作戦に集中しよう、って事を言いたいんです」
「……さり気無く、どこ見てるのよ」
「パチュリー様のお腹のあたりです」
「なに見てんだよ! 見んなよう!」
「急に田舎のチンピラみたいなリアクションをするのはやめて下さいよ」
「もしもーし? 霊夢聞こえる? こちらアリスです……もしもし?」

相変わらず、相手からの返事は一向に帰ってこない。
霊夢との通信がつながらない上に、パチュリーと小悪魔はたわいも無い会話を始める始末。
どことなくダレた空気が、作戦本部室(仮設)に漂い始めていた。
なんとか軌道を修正しようと、アリスが水晶玉を弄びつつポツリとこぼす。

「やっぱり、返事が無いわ。このままずっとこの調子だとまずいわね……どうする?」
「そうね……まったく、霊夢は何をしてるのかしら。お米はあくまで成功した場合の報酬だと言うことを失念されては困るわ」

霊夢はケチって取っておいたお饅頭を魔理沙に掠め取られて、ショック状態に陥っている。いわゆるステータス異常だ。
だが、そんな状況を誰が予測できるだろうか。
いかに頭脳明晰な図書館連合とは言え、作戦実行のチャンスに賞味期限の切れかけた和菓子が影響を及ぼすとは想像もしていなかった。

「うーん、向こうの状況が分からないままに動くのは心配です。やっぱり神社に探りを入れに行ったほうが良いのでは?」

小悪魔がそう口にした次の刹那、突如として4人目の人物がテーブルに現れた。

「――ところで皆さん」
「ひゃあっ!?」

いつの間にやって来たのか、平然と椅子に腰掛けて3人に混ざりこんでいたのはお馴染みメイド長。

「びっくりさせないでよ、もう……で、何の用かしら? もしかして、咲夜が気を利かせて神社まで状況を探りに行ってくれるの?」
「私にはこの館を美しく保つという仕事がありますので……皆さんに見て頂きたいのは、これです」

凛とした表情でそう言い終えると、咲夜はずいっと何かをテーブルの中央へ向けて突き出した。

「……湯呑み?」
「咲夜って、日本茶も飲むの? てっきり紅茶派とばかり思ってたわ」
「急に飲みたくなったのです。あるいはお嬢様がそのように仕向けたのかも知れませんわ。光栄なことです」

従者に「お前は日本茶を飲みたくなる。それも突然に!」と運命操作をかける主人。素晴らしいカリスマの具現である。王の中の王と言えよう。
と、キョトンとした表情で湯飲みを見つめていた小悪魔が声を上げた。

「あっ、茶柱が立ってますよ」

にやりとした表情を浮かべる咲夜。

「……ありがとう。そう、私が皆さんに見て頂きたかったものはこれなのです」
「茶柱が、何か?」
「何か? ってパチュリー様。縁起が良いではありませんか」
「まあ、それはそうかもね」
「ほらほら、貴女も見て」
「あ、うん……」

にやにやしたまま、咲夜はアリスにも湯呑みを突き出してきた。

「ああ……立ってるわね」

3人のリアクションに満足したのか、咲夜は意味も無く手元で湯呑みを3回転半ほど回して頷くと一瞬にして姿を消した。
能力の無駄遣いである。

「…………」
「………………」
「……………………」

三者三様に沈黙。

「私、最近になって咲夜のキャラクターが分からなくなってきたわ」
「ちょっと変わった人ですよね」
「略すと変人ね」

再び、短い沈黙。

「あー……えーっと、私たちは何の話をしていたんだったかしら?」
「えーっと……茶柱が……?」

と、テーブルの上に置かれた水晶玉から微かな物音が聞こえた。
何かをコツコツと叩いているような、軽くて硬質な音だ。
3人は音に気付くと、ぱっと顔を見合わせた。

「今の、聞こえた?」
「ええ、聞こえたわ。霊夢が水晶玉のことを思い出してくれたのかしら」
「なら、これで作戦続行ですね!」
「試しに呼びかけてみましょう」

パチュリーが手を伸ばし、水晶玉を引き寄せる。

「もしもし、こちらパチュリーよ。霊夢、聞こえるかしら?」
「――あら? 最近の水晶玉は喋るのかしら。凝ってるわね」

「…………?」
「………………?」
「……………………?」

再び、三者三様に沈黙。

「水晶玉の向こうに誰かがいるのは確かなようだけど……聞き間違いかしら。今の声、霊夢じゃないような気がするわ」
「じゃあ、今のは誰です?」

小首を傾げるパチュリーと小悪魔。

「今の声……もしかして」

ふと思い至るところがあったのか、アリスは顔を上げた。
神社によく顔を出す人妖のうち、この状況で考えられる候補を頭の中で挙げて推測していく。
萃香は今の声のような喋り方ではないし、声の質がもう少し幼い感じだ。
レミリアが顔を出すのは昼間ではなく夜なので除外される。
取材に来た文、ということもなさそうだ。
そうなると、可能性が高いのは……

「アリス、今のが誰か分かったの?」
「スキマさんのお出まし、かしら」
「えっ、それって――」

「――へえ、最近の水晶玉は相談事までするのね。いかにも、私は八雲紫よ」



   作 戦 オ ワ タ !!



三人の脳内に、瞬時にその5文字が極太明朝体で表示された。はーい、お疲れさんでした。解散解散!
よりにもよって、何故この大切な状況下で彼女と絡まねばならんのか。何がどうなってるのか、運命の神様に小一時間ほど問い詰めたい。
幻想郷において、八雲紫の登場とはファンタズム級ハプニングの前触れとの見解が有力である。
これは明らかに何かが起こる予兆だ。名探偵がチェックインしたのと同じホテルに泊まるくらい確実だ。
パチュリーに至っては光の速さで諦観の境地に入ってしまったらしく、魔道書を枕代わりにうたた寝するフリを始めてしまった。

「なぜ彼女が水晶玉を持ってるんです?」
「状況がますます分からなくなったわ。何がどうなってるのかしら……」
「…………(諦めて寝たフリ。完全に投げている)」
「とりあえず、向こうの状況を聞くくらいはしてみませんか?」
「そ、そうね」

不貞寝に入った図書館長の肩をちょんちょんと突つきながら、アリスと小悪魔は“邪悪系困ったちゃん”とのコミュニケーションを試みる。

「もしもし? 出来るだけ小さな声で応答願います。こちらはアリス・マーガトロイド。どこで水晶玉を手にしたの?」
「あらあら、誰かと思えば霊夢のお友達ね……この玉なら、神社の縁側の下に落ちてたわよ」
「なぜ縁側の下なんかに?」
「それは分からないけど……私、いつも神社に忍び込む時は縁側の下にスキマを開けるのよね。今日もいつも通りに顔を出したら、
 コレが目の前に落ちてたの」
「そうなの……霊夢ったら、いつ落としたのかしら」
「あら、これは霊夢が持つべきものだったの? だけど今は、ちょっと渡せそうにないわね」
「えーっと、今あなたは神社のどこら辺にいるの? それから、霊夢はどんな様子かしら」
「今は天井板の間にスキマを開けて、そこから居間の辺りを見てるところよ。霊夢は……魔理沙に抱かれて目を閉じてるみたいね。妬けちゃうわ」

いつも縁側の下からだの、天井板から覗き見だのと、手馴れた感じを窺わせる。どうやら霊夢のプライベートを日頃から観察しているようだ。
さらには、妙に誤解を招く表現の仕方。わざとなのか天然なのか、判然としないところが彼女の厄介さの一因である。
この会話をレミリア辺りが聞いていたら、魔法の森で近日中に大規模災害が発生することは確実だったろう。
あるいは、私にも一緒に覗かせろと迫ったかもしれない。

「なっ……! そ、その状況をもう少し詳しく。A、B、Cで表現するとどの辺りかしら? 早急に応答願います」
「そうねえ……あっ、顔が近づいたわね。これからAに入る準備段階といったところかしら。霊夢はもう、心ここにあらずといった感じね。やーらしー」

こいつワザとじゃねえのか、と勘繰りたくなるほどに誤解を招く実況中継である。
まるで、遠足前の集会で「バナナはおやつに入りますか?」と聞いてくる子供のような挑発的態度が感じられるのもタチが悪い。
しかし不貞寝に入っていたパチュリーは、この一言で瞬時にして戦線に復帰した。分かりやすい女だ。

「(がばっ)蔵書を盗むばかりか、淫行にまで及ぶとは不届き千万! 焼くぞコラァ!!」
「ふぉおおおおおおおーう!! ガチレズふぉおおおおおおおお!!」
「パチュリー様、アリスさん、落ち着いて下さい。作戦内容とまったく関係ないことじゃないですか。冷静になりましょう!」
「白昼堂々破廉恥な! 魔理沙ァ……ブン屋にチクって社会的に抹殺してやるぞ!!」
「霊夢は幻想郷の公共物よ! それを一人で……独占禁止法違反だわ!」
「あらあら、何だかそっちは賑やかね。じゃあ、私からも質問いいかしら? この水晶玉と霊夢と、どんな関係があるの?」

さり気無く話が本筋に戻りつつある。パチュリーとアリスはまだ奇声を発しているので、仕方なく小悪魔が水晶玉を手に取った。

「あっ、通信代わりました。私は紅魔館の図書館で司書をしているものです……実はですね、その――」
「ああ、あなたも見たいの? 霊夢と魔理沙の(ピー)」
「別に見たくないですよ! 実はですね――」

かくかくしかじか。

「――なるほどねえ。それであなたたちが徒党を組んでお米をダシに霊夢をいいようにこき使い、魔理沙を陥れようとしている、と。素敵な筋書きね」
「人聞きの悪い表現をしないで下さい。確かに認めざるを得ない点もありますが、これは必要悪です」
「まあ、話を聞く限りでは悪いのは魔理沙みたいだし。あなたたちの気持ちも、分からないではないわ……あっ」
「どうしました?」
「霊夢がいきなり起き上がったのよ。これは何かありそうね」

背後で奇声やら呪詛やらを発し続けていた2人は急に正気に戻り、紫と通話している小悪魔ににじり寄った。

「こちらアリス。霊夢の様子を詳細に伝えて下さい。それはもう詳しすぎるくらいに」
「こちらパチュリー。その水晶玉を2人の方へ悟られぬように向けて、音を拾って下さい」
「あなたたち、マトモなんだかおかしいんだか分からないわよ……ガッ……ぅゎぁ」

呆れた様子の紫の声の陰で、何やら不穏な音が聞こえてきた。
興味津々といった様子のパチュリー、アリスに流されたのか、結局小悪魔も耳をそばだてて通信に集中している。

「……がたがた……なにを……あっ、やめ……」

1HIT!

「これは攻守交替と見て良いのかしら。もちろん性的な意味で」
「パチュリー様、永遠亭で脳を診てもらいましょう。今からすぐに」

「……ねぇー! 死ぬのだぁー!! ……ぅゎぁれいむつょぃ」

2HIT! 3HIT! 4HIT!
ガッ! ゴキッ! ビチャッ!

「……なんだか、妙に物騒な物音がしないかしら。直前まで良い雰囲気だったとは思えないわね」
「それはほら、きっとそういう趣向のプレイなのよ」
「パチュリー様、ご自重下さい」

物騒な物音に混ざって、どうも只事ではなさそうな生々しい声も聞こえてくる。

「こちらパチュリー。どうもただならぬ気配を感じるのですが、どのような状況でしょうか?」
「端的に言うと」
「ええ」
「霊夢が馬乗りになって魔理沙を殴り続けてるわね。手元に落ちてた湯呑みで」
「ええ」
「湯呑みに赤黒い液体が付着しているわ」
「ええ」
「……ああ、もうやめて! 魔理沙のHPはとっくにゼロよ!」
「ほほーう」

紫の通信を聞いていたパチュリーは唇の端を嫌らしく歪めると、ぐっと親指を立ててアリスたちに言い放った。

「同胞諸君。正義は行われた」
「え? ……ちょっと、急にどうしたのパチュリー」
「パチュリー様、そろそろ普通のテンションに戻ってください……」
「今の話を信用するとしたら、またとない好機ね。魔理沙は霊夢に攻撃されて、意識を失っているらしいわ」
「意識だけで済む話なんですか? 湯呑みに赤黒いナニが付いてるとか聞こえたんですが」
「……どうもスキマさん登場以降の展開が唐突すぎて、話についていけないわ」
「そもそも、巫女さんが人を殴り殺すなんて。信心も何もあったものじゃないですよ」

……どうやら、すでに小悪魔の脳内では魔理沙の顔写真だけモノクロになっているようだ。安らかに眠れ。
そして不幸なことに、作戦の立案者かつ主要メンバーであるにも関わらず、アリスは場の展開に置いて行かれつつあった。
比較的まともな感性の持ち主であったことが災いしたようだ。
どうも幻想郷では、その場の勢いに乗ってしまう奴ほど日々を楽しんでいる傾向が見受けられる。

「ちょっと待って、魔理沙の様子を確認してもらうわ」
「はあ……」
「こちらパチュリー。魔理沙の状態はどのような感じですか? どうぞ」
「なんだか私、いつの間にか巻き込まれてるような気がするわねえ……ああ、魔理沙はね――わあ、グロっ!」
「むっ、どうしたの?」
「ちょっと表現し辛いわね。何と言うか、首から上が“魔理沙”から“もと魔理沙”に変わっていると言うか……」


(背景:白々しい花畑の画像)


まさか饅頭一つでこんな事になろうとは、魔理沙も思ってもみなかっただろう。
意識を取り戻した直後、突如態度を豹変させた霊夢に驚いているうちに右フックをブチ込まれたのち組み敷かれ、
気付いた時には湯呑みでしこたま殴られていた。
錯乱状態に陥った霊夢は「柔らかい薄皮を剥がすのもオツ」「つぶ餡よりこし餡が好み」「賞味期限なんてあってもなくても同じ」などと
脈絡のない独り言を繰り返し、必死に助けを求める魔理沙の懇願を軽やかにスルーして見せた。
その表情には、つい先ほど「神社に匿ってあげる」と口にしたときのような慈悲深さ(注:本心は打算まみれ)は欠片も無かった。
月並みな表現ではあるが、食い物の恨みは恐ろしいとしか言いようがない。
天井板の隙間で紫が恐れおののいていることも知らず、霊夢はテンポ良く湯呑みを振り下ろし続けるのだった。

「私をあまり怒らせない方が良いぞ……当分2人っきりでここに住むのだからなァ」

5HIT! 6HIT! 7HIT! 8HIT COMBO!

どうなる、蔵書奪還作戦。





<2>

さて、神社の縁側では……。
霊夢が快調にコンボのヒット数を伸ばしていた。
攻撃はますますエスカレートし、ついには湯呑みから箸へと得物をチェンジするに至っている。
魔理沙だったもの(首から上のみモザイク処理)は力なく転がったまま、微動だにしない。
穏やかな昼下がりに似つかわしくないバイオレンスな一幕だった。
こんな形でメインキャラが一人居なくなるとは、実に悲しい話である。
しかし、お饅頭一つでそこまで本気にならなくても良いと思うのだが。懐の小さい奴は損をするぞ。

「アイ・オールウェイズ・ウォンティッド・ア・シング・コールド・ツナサシミー!」

相も変わらず攻撃を続けようと、霊夢は意味不明な奇声を発しつつ箸を振り上げた。
さようなら魔理沙、こんにちは小町。せめて三途の船旅はゆったりとした気分で楽しんで欲しい……
メインキャラ死亡を目前にして、神社には白黒テレビで戦隊物を見るかの如き物悲しい空気が漂っていた。
さようなら魔理沙、よろしくねヤマザナドゥ。

「シャアッ!」

♪きゅぴーん!

「パリイ!」

三途の船旅、および小町のガイドに関してもう少し詳しい記述をしようかと思ったのだが、ここで魔理沙が突如意識を取り戻した。
いつの間にか手元に手繰り寄せた箒で、霊夢の一撃を受け流す。古より伝わるポピュラーな武技の一つだ。
ベクトルをずらされた箸は霊夢の手を離れ、畳に勢いよく突き刺さった。

「……………………」
「……………………」

双方ともに沈黙。お互いに、どこか会話を再開させ辛い空気が漂った。
かたや頭が血まみれ、かたや息を荒らげて馬乗り。気まずいなどという次元ではない。

「……あら、私は何を?」
「どうしたんだよ霊夢。何をって、私と熱いベーゼを交わしていたらついつい興奮してしまい、霊夢が私の
 プリティフェイスを湯呑みで殴りつけたんじゃないか。“美しいものほど壊したくなるのよッ!”って叫びながら」

完全にキャラ崩壊。もはや二次設定どころの騒ぎではない。
プリティフェイスなどという単語が東方シリーズ本編に登場する確率は、妹紅が主人公のスペランカーが発売されるよりも低いであろう。
それ以前に、会話にもツッコミどころが多すぎて対応に困ってしまう。もはや記憶障害の域に達しているではないか。

「そう。なるほど……プリティフェイスじゃあ、仕方ないわね」
「そうだな、熱いベーゼなら仕方ないな」
「ところでプリティ魔理沙、そこに置いてあった私のお饅頭知らない?」
「饅頭? いや、知らないな」
「あら、そう。きっと私たちの熱い抱擁を直視できなくなって逃げたのね」
「ははは。和菓子の身で覗き見とは感心しないな。近頃の饅頭はやんちゃで困る」
「ふふふ」

日本語を話せ、ここは幻想郷だ。
普通に会話している二人だが、霊夢。あんた魔理沙が血まみれな件については完全スルーですか。




<CM>

くるくるくるくる……ぱしっ!

「ナインボール、ゲットよ!(前方を指差しつつ)」

氷精も楽しめる安心設計。
紳士淑女の社交場、紅魔館ビリヤード倶楽部へ、貴方もぜひご来場下さい。





<3>

さて、天井に開いた微かなスキマの中では。
色んな意味で頭の悪い霊夢と魔理沙のやり取りを、紫が息を呑みつつ見つめていた。

(……霊夢、まさか接近戦の鬼だったなんて。萃香と互角のガチ性能じゃないの)

魔理沙の派手な流血をスルーしている辺り、やはり彼女もどこかずれている。

「――もしもし、こちらパチュリー。先程から通信が途絶えていますが、何かあったのかしら? どうぞ」
「信じられない、魔理沙が蘇ったわ。驚異的な生命力ね」
「――チッ」
「いま、舌打ちしたかしら?」
「いいえ、何も……」

紫は指先で水晶玉を弄びながら、やれやれと息を吐いた。
どうやら自分に関わる人妖たちは、例外なく性格の歪んだ妙な連中ばかりのようだ。
自分が特に歪んでいることを完全に棚に上げた思考である。自己分析は難しい、という好例だ。
それはさておき、どうも嫌な予感がする。このまま魔法使いたちに関わり続けていたら、妙な騒ぎに巻き込まれそうな気がするが……。
まあ多少の騒動ならば楽しめるだけの心の余裕は持っているつもりだが、なにせ相手がこのメンツである。異様な展開にならぬとも言い切れない。
自分が場を掻き乱せるなら存分に楽しみたい。しかし、自分のペースを乱されるのは遠慮したいところだ。

(うーん、このまましらばっくれて消えちゃおうかしら)

そうだ、せっかくだから二人の前に姿を現して、この水晶玉を霊夢に渡してしまおう。
もちろん、魔理沙にパチュリー達の企みも全てバラすというおまけ付きで。これならそこそこ楽しめそうだ。

(ふふふ、私ったらナイス。これで後はスキマからのんびりと騒ぎを鑑賞できるわね)

邪悪な思いつきに嫌らしい笑みを浮かべながら、紫が行動を起こそうとしたその時。

「もしもし、こちらパチュリー。ちょっと良いかしら?」
「はいはい、なあに?(あ、しまった)」

ここでパチュリーからの通信を無視すればよかったのに、つい紫は返事をしてしまった。

「いま、霊夢と魔理沙は何をしてるの?」
「えーっとね……」

スキマから二人の様子を窺う。
霊夢はまだお饅頭の記憶から逃れられないらしく、幽鬼の如き動きで居間の辺りをうろついている。
一方、魔理沙は額からダラダラと血を流したまま、境内にいる猫とじゃれ合っていた。
思惑や駆け引きの欠片も感じられない光景である。

「霊夢はうわ言を呟きながら戸棚を開け閉めしてるわね。魔理沙は猫と遊んでるわ」
「霊夢は……どう? さっき小悪魔が話してた作戦について覚えてそうな雰囲気かしら?」
「私の主観で言わせて貰うと、とてもそうは見えないわね。さっきの会話を聞いていたけど、お饅頭がどうとか言ってたわよ」
「くっ、魔理沙をいきなり殴ったり、猫と遊んだり……いったい二人の間に何があったのかしら。予期せぬ事態だわ!」
「……よく状況が掴めないけど、私が深く関わるのもなんだから、これで失礼すr」
「……はっ、なるほど。解ったわ」
「ん、何かしら?(帰るタイミングを逃した)」


「お饅頭と言うのは、おっぱいの暗喩ね?」


パチュリー発狂のお知らせ。そしてさり気無く同意を求める質問口調。

♪ポン! ♪ポン!(ウィンドウが開いた)

*エラーが発生しました。
*お饅頭=おっぱい.txtへの変更を保存しますか?
*通知:思考回路エラー
*この淫靡な想像は正しくアンインストールされなかった可能性があります。
*問題が発生したため、「三人のイカレる乙女3」を終了します。
*koumakan-byoujyaku-murasaki/moyashi.brainが見つかりません。
*終了しない場合は、紅魔館のレミリアさんに連絡してください。
*警告:思考回路が春状態か、不安定になっています。
*“パチュリー自重”の実行にエラーがあったか、キャンセルされました。
*正常思考モードのドライバがknowledgeファイル内に存在していません。
*このプログラムはエロい想像を行ったので強制終了します。


「おっぱ……えっ? もしもし、どうしたの!?」
「どうしておっぱいが二つ付いているのか、貴女は考えたことがないって言うのっ!?」
「もしもし、何を言っているの? 正気に戻りなさい!」
「目に見えるもの(バストサイズ)を感じずに……目に見えぬもの(揉み心地)を感じられるとでも言うの!?」
「さっきから何を言って――」
「どうしておっぱいが」
「それは今聞いたばかりよ」

当然ながら、それは愛と希望を分かち合うためである。
しかし突然の素っ頓狂な発言に驚いている紫には、そこまで察するほどの余裕はなかった。


*心の余裕不足のため「何でもないわ、気にしないで」を起動できません。
*倫理発言規定エラーです。パットチョウリ(ミスタイプ)を再起動してください。
*この脳味噌から応答がありません。ビジー状態か、ツッコミ待ちか、または停止しています。
*間違った発想のプログラムを読み込もうとしました。
*フォルダ“別にエロいことばかり考えてるわけじゃないのよ”へ移動できませんでした。
*レイジィトリリトンアクセスエラーです。
*“そこまでよ!”の実行にエラーがあったか、キャンセルされました。
*このプログラムは相も変わらずエロい想像を行ったので小悪魔が強制終了します。


「もぽえ! ……いや、ごめんなさい。やっぱり何でもないわ」

パチュリー再起動のお知らせ。
分厚い本のカドで殴ったような嫌な音が一瞬聞こえたが、気のせいだろうか。
かすかに「ご自重下さい」「落ち着いて」という小悪魔とアリスの声も聞こえる。

「スキマさん。突然だけど、私から折り入って頼みがあるの」
「ふう……何だか嫌な予感がするんだけど、まあ聞いておくわ」
「適当な所までで良いから、しばらく霊夢の代わりに私達の作戦に協力してくれないかしら」
「ええっと、急に言われても心の準備が……(あらあら、やっぱりね)」
「出来てる?」
「出来てない」
「貴女なら難しいことじゃないでしょう? ちょっと姿を隠しながら、こちらが指示するミッションをこなしてくれれば良いの」
「ミッションって?」
「そうね……じゃあ手始めに、足止めから行きましょうか。魔理沙がいつも乗ってる箒があるでしょう? あれをへし折ってちょうだい」

さらりと鬼畜じみた要求をするパチュリー。

予想通り、妙な展開になってきた。
さて、どうしたものか。ここで適当に姿をくらますのも楽で良いが、パチュリー達に「途中で逃げた」と思われるのも少し悔しい。
まあ偶然とは言え、乗りかかった船。少しくらい協力して、彼女らに貸しを作っておくのも悪くないかも知れない。

「うーん……しょうがないわねえ。まあ面白そうではあるし、良いわ。協力しましょう」


*文々。ニュース速報:八雲 紫さんに死亡フラグが立った模様。なお、このフラグ発生による地震などの恐れはありません。


「ありがとう、感謝するわ。では、これより作戦実行に移る。準備は良いかしら?」
「はいはい」
「では、これより貴女はコードネーム“パープル2”と名乗ってちょうだいね。私のことは“パープル1”と読んでくれれば良いわ」
「どうして本名を伏せるの? 別に平気なんじゃ……」
「こういうのは、雰囲気や気持ちが大事だと思うから」
「そういうものかしらね」
「イメージカラーが同じ者同士、上手くやりましょう。まあアレよ、“技の1号・力の2号”みたいなものと思ってくれれば」
「なるほど……」

微妙に言いくるめられている紫。
かすかに「作戦オワタ」「ここまで来たら、もう勢いよ」という小悪魔とアリスの声も聞こえる。
ひどい言われようだ。せっかく協力すると言うのに……。
よし、こうなったら着実に任務を遂行して頼れる一面をアピールするとしよう。
紫はスキマから素早く視線を走らせると、縁側に放置されている箒を確認した。

「こちらパープル2。目標を視認、これより作戦行動に入る(何だかんだでノリノリ)」
「こちらパチュ……パープル1。了解、成功を祈る」

紫はスキマをもう一つ、縁側のそばに出来るだけ細く開いてそろそろと手を伸ばした。
一度スキマの中に箒を引っ張り込んで、魔理沙たちに悟られないうちに安全に手繰り寄せようという魂胆である。
幸い、相も変わらず血だらけの魔理沙は気付いていない様子だ。霊夢はと言うと、
箪笥の上に置かれている木彫りの熊(もちろん鮭を咥えている)を一心不乱に撫で回している。感付かれる可能性は低い。

(よし……これはチャンスね。今のうちに)

紫は迷い無く腕を伸ばし、箒の柄を掴んだ。そのまま腕を素早く引っ込めて、瞬時にスキマを閉じる。

「こちらパープル2。目標の回収に成功したわ」
「こちらパープル1。上手く行ったようね、ではその勢いでバキッとよろしく」
「了解」

天井に開いたスキマの中に浮遊しながら、紫は箒に手をかけた。
魔理沙に怨みはないが、これも場の空気を盛り上げるため……致し方ない(自分の行為を正当化している)。
所詮は人間が使う道具、これくらいちょろいもんだわ!

(せいっ!)

胸の内で気合を入れると、両手で握り締めた箒を思い切りひん曲げる。
あっさりと箒は折れる……と思ったのだが。

(……あら?)

予想以上に硬い。両手がぷるぷると震える。

「もしもし、パープル2だけど……箒が思ったよりも硬いみたいなの」
「こちらパープル1。貴女の力で何とかならないかしら?」
「うーん……ちょっと待ってて」

紫は箒をもう一度両手でしっかりと持つと、気合の叫びを発しつつ膝頭を叩き付けた。

「タイガァー!!」

ばきっ!

「おぐぅぅ……ッ」

結論から言うと、折れなかった。
箒を取り落とし、膝を抱えて悶絶する紫。

「もしもし、パープル2どうしたの?」
「折れ……なかったわ……」
「何をしたの?」
「ちょっと……タイガーニーを……」
「タイガー?」
「藍が以前言ってたのよ、“タイガー”って叫びながら膝蹴りすれば、大抵の奴は倒せるって」
「でも、無理だったのね?」
「私、どうすれば……」

「ちょっと良いかしら」

と、ここで空気になりかけていたアリスが通話に出た。
(皆さん、忘れないで下さいね。アリスもメインキャストの一人です。小悪魔のことも忘れないであげて下さい)
彼女達の一生は人間より遥かに長いとは言え、その貴重な一時をこんな益体も無い作戦のために費やしているのだ。
人妖みな兄弟、博愛は美徳。応援してもバチが当たると言うことはないだろう。

「こちらアリス。あなたは色んな境界をいじれるんでしょ?」
「そうだけど」
「じゃあ、その箒の“柔と剛の境界”とかを調整したら良いんじゃない?」
「……はっ!」
「どうかしら」
「貴女、けっこう頭良いわね」
「貴女は、けっこう抜けてるみたいね」
「――プツッ(通信途絶)」
「あ、落ち込んじゃったみたい」

紫はひどく傷ついた。

(何よ、私のことバカにして……私は曲がりなりにもファンタズムのボスなのよ!)

怒りを込めて“柔と剛の境界”をいじると、再び箒を両手で支えて膝蹴りを叩き込んだ。
もちろん、先程と同じく無駄に気合の叫びを発することも忘れない。
こればかりはマヨヒガで藍や橙と家族間コミュニケーションをとる際に付いてしまったクセなので、今さら直せないのだ。

「ア゙ァァァイ!」

ぺきっ!

先程の苦闘が嘘のように、魔理沙愛用の一品はあっけなくへし折れた。

「こちらパープル2。目標をスプラッシュ」
「パープル2、ナイスキル!(三人からの賞賛)」
「こちらパープル2。以降、別命あるまで待機に入r――」

紫は硬直した。

――細い細い、スキマの向こう側。
ふっとこちらに向き直った魔理沙と、目が合ったような気がしたのだ。

紫は光の速さでスキマを閉じた。

「もしもし、こちらパープル1。何かあったの?」
「こちらパープル2。魔理沙と目が合った……かも知れないわ」
「何ですってー!?」
「くっ、隠密行動は完璧だったはずなのに。どうして」

そりゃあアンタ、タイガーだのア゙ァァァイだのと奇声を発していたからじゃないですかね。
しかしその場においては、冷静なツッコミを入れられる者はいなかった。悲劇は常に挑戦者達に付きまとうものだ。
早くも作戦破綻の兆候が見え隠れしている。

「流石ね……霊夢並みの勘の鋭さ。敵ながら天晴れと言うほかないわ」

アリスもそろそろツッコめば良いのに。場の空気に飲まれてしまったのだろうか。

「こちらパープル1。魔理沙の足を奪ったのは良いとして、少し慎重になった方が良いのかも知れないわね。
 貴女の気のせいならそれに越したことはないけれど、箒は適当にそこら辺に遺棄して、暫く様子を見ましょう」
「スキマの中に隠したままじゃダメなの?」
「貴女の関与を疑っている恐れが生じたから、何か物が消えたらスキマに放り込んだせいだと解釈される可能性があるわ。
 ここは敢えて、いずれ見つかりそうな場所にこっそり戻しておいた方が良いのかも……ほら、折れた箒を見たら霊夢が
 作戦のことを思い出してくれるかも知れないし」
「そう……分かったわ。箒は適当に遺棄しておくわね」

パチュリーの論理も、どこかズレつつある。
小悪魔は先が見えたと感じたのか、隣で小さく溜め息を吐いた。





<CM>

「弱いカマキリほど、よく喋るようだな」
「いや、あの……私はホタルなんだけど」

世紀末⑨世主伝説・北斗の橙。

毎週金曜日、夜七時からマヨヒガTVで絶賛放映中です!

「お前は、もう毘沙門天」





<4>

「なあ、霊夢」
「ん、どうしたの?」
「今そこの辺りで、微かに変な叫び声が聞こえたんだが……」
「えっ、叫び声? どんな?」
「“大河”とか、“愛”とか、そんな感じの」
「へえ……気のせいじゃない?」
「神社を彷徨う自縛霊とかじゃないか?」
「まさか。まだ明るいし、そうそう霊なんて出ないわよ……幽々子とかじゃなければの話だけどね」

魔理沙は訝しげに首をかしげると、猫を抱いたまま縁側にごろり、と横になった。

「なあ、霊夢」
「ん? 今度は何?」
「どうも、私は何か大事な用事があってここへ来たような気がするんだけどなあ……」
「大事な用事? そんなのあったかしら」
「上手く思い出せないんだ」

そりゃあ、あれほど激しく脳を揺さぶられたら忘れても無理は無いだろう。

「何だったかなあ……」

猫はにゃあにゃあと愛嬌を振りまいていたが、するりと魔理沙の腕から抜け出して卓袱台の下で丸くなった。
もう一度捕まえるのも面倒だったので、寝転がったまま猫の動きを目で追っていた魔理沙だったが――

「ん? 何か落ちてる」

猫のそばに、手紙らしき紙片が落ちているのに気が付いた。

「手紙か?」

起き上がるのも面倒だ、と寝た姿勢のままもぞもぞと身をよじり、紙片に手を伸ばす。
そんな魔理沙の様子を見て、霊夢は苦笑した。

「まったく、物臭ね」
「霊夢に言われたくないぜ……っと、よし。届いた」

紙片を掴み取った魔理沙はひょいっ、と上体を起こす。

「やっぱり手紙か。えーっと、なになに」

掴み取った紙片は、ピンクの可愛い花柄の便箋であった。

「なんだこりゃ。“最近、抱いてくれないのね”? こりゃあ一体……いいいッ!?」

魔理沙は眼を見開いた。



――――はじあまして。こっそりおまえをファッキン! わたしの特技は、おまえの大仏にホウ酸爆弾でジェノサイカタッ!
ぬすんだばいくで安全的虐殺のモノマネをミツツッピ川。こっそりおまえをファッキン! 賽の河原で、あなたにあいたい。
靴下ブルースは思ったよりも「そして家の周囲を、黒猫たちがうろつき始めた……!!」
いつになったら、ご両親に奈良のミツツッピ大仏のことを紹介して下さるのでしょうか? 「そして沢山の怪しげな記号!」
ぬすんだばいくで安全的虐殺のモノマネをミツツッ「こっ、これは危険だわ!」
「それに、この唐突な子猫の写真……」賽の河原でジェノサイカタッ! 河原で河原で河原で河原で
「赤い文字から、子猫の怨念のようなものを感じるわ……」
ご両親に私のことをファッキン! 「ご両親の魂を青森県へ連れ去って、ジェノサイカタって言うんだ」こっそりおまえを奈良の大仏――――



「あ……あああ……!!!」



凄まじい勢いで、魔理沙の記憶に邪悪な意志の奔流が流れ込んで来る。
それはもはや意志や言葉などを凌駕した、禍々しい呪詛のようでもあった。

「そうか……何故こんな大事なことを……私は忘れていたんだ……!」
「ちょっと、急にどうしたのよ魔理沙」
「霊夢」
「ん、何?」
「私は命を狙われていたんだ。どうして今までこんな重大な事を忘れていたのかはさっぱり説明できんが、このまま放っておいたら私の魂は青森県に」
「え? ちょっとちょっと、急に何を――」
「これを見てくれ!」

有無を言わさぬ勢いで、魔理沙は立ち上がると霊夢の眼前に便箋を突きつけた。

「ちょっと落ち着いて――えええッ!?」

霊夢は眼を見開いた。



れ、霊夢ぅーっ! スーパーコシヒカリよ! ケヒヒヒヒヒヒヒヒ。ファ、ファイナルアンサー!
「……しばらく神社に世話になるぜ」カモン魔理沙、神社にステイヒア! 博麗神社でトゥギャザーしようぜ!
ねえ魔理沙、しばらくここで私と一緒に生活して様子を見ない? この相手は只者じゃないわ。
これを書いた何者かは多重人格者かも知れないわ! 「私の魂を青森県へ連れ去って、どうしようって言うんだ」
「こっ、これにも隠された意図がっ!?」ヒィッ! 猫の怨念! これは何らかの呪詛じゃないかしら。「やっぱり危ないのか!?
私はこれからどうしたら良いんだ?」最近、抱いてくれないのね。鏡の前で×××たくさんの人生のモノマネを賽の河原。
奈良の大仏にホウ酸爆弾でジェノサイカタッ! はじあまして。するとご両親に奈良の大仏が貼られていたのを見つけたんだよ!



「ほ……ほああああああああああああ!!!」



凄まじい勢いで、霊夢の記憶に輝ける米俵の祝福が流れ込んで来る。
それはもはや博麗大結界や巫女の仕事などを超越した、成し遂げるべき使命の証であった。

「そうね……何故こんな大事なことを……私は忘れていたのかしら……!(主に台所事情的な意味で)」
「霊夢も、思い出してくれたか?」
「魔理沙(もといターゲット)」
「何だ?」
「あんたは命を狙われているわ。どうして今までこんな重大な事を忘れていたのかはさっぱり分からないけど、取り敢えず神社に居れば安全よ(nice rice.)」
「そうか! 本当に有難いぜ。きっと霊夢なら思い出してくれると信じてたんだ」
「念のため、今夜は一緒に寝るわ!(フヒヒ……逃がさないわよ……)」

有無を言わさぬ勢いで、霊夢は魔理沙をぎゅっと抱きしめた。

ふにふに。

巫女服とサラシ越しではあったが、あるんだか無いんだか分からない程度の胸が魔理沙に密着する。
もちろんこれは、本来の使命を思い出した霊夢の策略なのだが……蘇った友情と記憶、そして胸の感触に咽び泣く魔理沙に、そんな事が分かるはずもなかった。


*文々。ニュース速報:記憶がそこそこ戻ったため、再び本文中で副音声として博麗 霊夢さんの本心が表示されます。
               また、霧雨 魔理沙さんが霊夢さんの胸の感触により発情しました。
               なお、この発情による交通ダイヤの乱れ等はありません。


「魔理沙……怖がらないで、大丈夫。どんな奴らが来たって追い返してやるわ(いけないいけない、作戦のことを忘れていたみたいね)」
「霊夢……オゥ、カミントゥ・マイ・バディ! イエス!」
「ちょっと、落ち着いて。まだ日も明るいうちからそんな……そういうコトは夜のお楽しみに取っておくものよ(魔理沙発情のお知らせ)」
「フゥゥ……ハァァ……」
「あっ、そうだ。折角だから、今日は一緒にお風呂に入りましょ(あとやっておくべき事は……そうだ、箒をへし折るんだったわね。どこに置いてあったかな)」
「トゥギャザーバスタイム! あぁぁぁぁぁセクシャルコミュニケイション! いやああああああああッ!!」
「そうだわ、今のうちに薪の準備だけでもしておいた方が良いわね。いつも薪が積んである所、魔理沙は知ってたわよね?
 ちょっと取ってきておいて貰えるかしら(これで魔理沙がここを離れた隙に箒を見つけて破壊する……ばっちりね)」
「イエス、アイ・マム!」

思惑通りに、魔理沙は匍匐前進で薪置き場へと向かっていった。
しかしアレだな、一緒に風呂に入るってだけでこの盛りっぷり。とんだお子様ね、ふふ……。
モゾモゾと去ってゆく後姿を見つめつつほくそ笑むと、霊夢は素早く周囲に視線を走らせる。

(あら、おかしいわね。確かさっきまで、そこの縁側辺りに放置されていたはずなのに)

記憶を頼りに箒を探すものの、どうも見当たらない。魔理沙がどこかに置きなおしたのだろうか?
まあ、それならそれで焦ることはない。今は精神攻撃に重点を置いて足止めし、チャンスが来たら改めてやれば良いだけのこと。
まずは私の巧みなリードで魔理沙を骨抜きに――と作戦を練りつつ縁側に腰掛けたところで、霊夢はふと顔を上げた。
一瞬視界に入った石灯籠に違和感を覚えたのである。

「ん?」

立ち上がって眼を凝らしつつ、石灯籠へと歩み寄る。
果たして、直感的に抱いた違和感は気のせいではなかった。
魔理沙愛用の箒が無惨にもへし折られ、石灯籠にぶっ刺されていたのである。

「!?(あれ? どこの誰がこんな事を……これって私がやるはずだった行動なのに)」

不可思議な前衛芸術と化した石灯籠を前に霊夢が首を捻っていると、背後でカランカランと音がした。
振り返ると、愕然とした表情を浮かべた魔理沙が薪をばら撒いている。
手はワナワナと震え、見開かれた瞳は零れ落ちんばかり。シリアスなシーンにも応用の効く、ナイスリアクションだ。

「なあ……霊夢。この石灯籠に良く似た珍妙なオブジェは何だ?」
「それが、よく分からないの。私もいま気が付いたところで……(状況がどうも掴めないけど、まあ良いわ。流れに任せましょう)」
「何か刺さってるけど、ちょっと見ていいか?」
「え、ええ……」
「あ……あああ……そん……な……」
「魔理沙?」

石灯籠に歩み寄った魔理沙の顔色は、明らかに尋常ではない。
霊夢が見かねて声をかけようとしたが、それはすぐさま絶叫に掻き消された。


「ほああああああああああああああああ!! ベアトリーチェエエエエエエエエエエエッ!! 
 おわあああ、おわあああああああああああああああー!!!!!」


突然の豹変にポカーンとしている霊夢の前で、魔理沙はトレードマークの黒い帽子を投げ捨て声高に宣言する。

「――リミッター、解除!」

「まっ、魔理沙どうしたのよ!(なによ急に。ここまで凄いリアクションを取る魔理沙は初めて見るわ)」
「ベアトリーチェが……があああああああああッ! クソがああああああッ!! 何処のどいつがこんな狼藉ををををおおおわあああああ!!!」

再び絶叫を上げると、魔理沙は石灯籠に連続頭突きをキメ始めた。高橋名人や、知床半島のクマゲラも瞠目するほどの猛烈な連打。
粉末状になった破片がぱらぱらと舞い散る。

「ベアトリ、トトリ、ベアリー、トリチェビュアォッ!!(←興奮しすぎて噛んでしまった)シャアアアアラアアアッ!!」
「魔理沙やめて! 血が出てるじゃないの……ちょっと、正気に戻りなさいってば!(←湯呑みでしこたま殴ったことを綺麗さっぱり忘れている)」

思わず制止に入った霊夢であったが、トランス魔理沙はいとも容易くそれを振りほどき、アクションを連続高速正拳突きへと移行させた。
あまりに速い連打のせいか、目視では拳の動きすら認知できない。

「魔理沙……(なんというインファイターぶり……萃夢想でこんな技を使われていたら60fpsを維持できなくなるところだったわ)」

ものの十数秒で、石灯籠は粉末の山へと姿を変えてしまった。
ハアハアと肩で息をしながら、接近戦の鬼は無言で帽子を拾い上げる。

「魔理沙、今のはいったい?(まあ落ち着けって)」
「――ああ、すまない霊夢。少し取り乱してしまったぜ……今はちょっと“俺魔理沙”のリミッターを外していたんだ」
「その……ベアトリーチェというのは?(少しどころの騒ぎじゃないでしょ)」
「この箒の名前だよ。長い付き合いだったんだが……こんな形で別れることになるなんてな。とても残念だぜ」

悲しげにそう答えると、魔理沙は折れた箒を拾い上げた。
なお、霊夢が“俺魔理沙”や“リミッター解除”については完全にスルーしているが、これは正しい判断である。
以降もこれらに関する詳細な説明は無いので、どうかお気になさらず。

「その……もう、直せそうにないの?」
「ああ。見たところ、妙な力の込め方でもしたのか破損部分が捩れてる。もう無理だろうな」
「そう……その、何て言ったらいいか(ま、良く分かんないけど箒は壊れたみたいね。ラッキーだわ)」

霊夢外道。
なんとも悲しく罪深い話ではあるが、全ての女は生まれながらにして女優なのだ。
と、魔理沙が俯いてプルプルと震え始めた。

「あれ、どうしたの?」
「(無言。しゃがみこんでプルプル震えている)」
「魔理沙?」
「う……ぎゃああーっ!! ごが、ごががあっ!! い、いてぇぇーっ! おぐ、おぐう」
「ちょっとちょっと、今度はなに?」

頭を抱えて悶絶し、転げまわる魔理沙。さっきからあれこれと忙しい女である。
オーバーリアクションの連続に、どうして良いものか困ってしまった霊夢は所在無さげにしていたが、
一分ほどして魔理沙は何事も無かったかのように立ち上がった。

「さっきのは何だったの?(どうしよう、魔理沙のキャラが掴めなくなってきたわ)」
「“俺魔理沙”のリミッターを解除すると、一定時間は魔法に頼らなくとも身体能力を飛躍的に向上させることが可能だ。しかし(中略)負荷が(以下略)」
「なるほど。とても分かりやすい説明台詞ありがとう(ダメだこいつ、早くなんとかしないと)」

本人の口から説明してもらえると、こちらとしても大いに助かる。

「しかし誰がこんなことを……この箒、かなり硬くてちょっとやそっとじゃ壊れないのになあ」
「きっとゴルゴムの仕業よ!(よく分かんないし、適当にはぐらかしとこっと)」

見切り発車。今の霊夢のためにあるような言葉だ。

「ゴルゴム……それが私の命を狙っている連中の名前なのか?」
「かもしれないわ。幻想入りした悪の組織は他にも色々あるらしいから、確かなことは言えないけど(今は適当に話を繋いでおこうかしら)」
「ベアトリーチェの敵だ。どんな奴らであれ、会ったら容赦はしないぜ……」
「ね、魔理沙。リミッターがどうこうとかはひとまず置いておいて、気分転換にお風呂でもどう?(何か忘れてるような気がするけど……
 取り敢えず魔理沙を神社から出さなければ良い訳よね。お風呂なら確実に時間を稼げるわ)」
「トゥギャザーバスタイム!? ワッツ?」
「魔理沙、今日のあんたは本当に情緒不安定ね(フランドールと良い勝負だわ。自慢にならない話だけど)」

――箒が勝手に壊れていたのはさておいて、後の自分の仕事は足止めくらいだろう。
そう判断した霊夢は土まみれの魔理沙を手っ取り早く風呂へと連れ込み、着実な時間稼ぎに移ろうと考えていた。

しかしここから、作戦は妙な迷走を見せ始めるのである。





<CM>

「死ぬがよい」

フランドール・スカーレットさん公式推薦!
超外道鬼畜弾幕。“怒首領病弱(どどんぱちゅ)”ただいま鋭意開発中。

初夏 完成予定です。もう暫くお待ち下さい! ――caved!!!!





<5>

「――こちらパープル2。暫く監視を続けていたけど、二人の様子が変わったわ」
「こちらパープル1。さっきから拾ってくれていた音声を聞いていたけど、霊夢は作戦のことを思い出したと見て良さそうね」
「あと、折った箒を灯篭に刺しておいたら魔理沙が発狂したのよ。あれはちょっと驚いたわ」
「魔理沙は普段からけっこう変だから、特に気にすることもないわよ。それで、いま二人はどこへ移動したの?」
「ああ、お風呂に入るって言ってたわよ」
「なるほど……ではここから先、霊夢の演技次第ではかなりの時間を確実に稼げるわね。では、こちらは魔理沙宅を移転させる作業に移ります」
「了解。じゃあ私は顔を出すタイミングを掴めないから、待機しつつ適当に二人の入浴でも覗いておくわ」
「了解。成功を祈る」

通信を終えたパチュリーはニヤリと笑うと「よっこいしょ」と立ち上がった。

「アリス、小悪魔……いよいよ魔理沙宅の差し押さえに入るわ」
「一時はどうなるかと思ったけど、案外うまく行ってるわね。ここからが勝負所ではあるけれど」
「どうも、まだ嫌な予感がするのですが……こうなったら、出来るところまでやるしかないですね」
「そうよ、私達は一蓮托生。図書館の平和を取り戻すために集った同志――さあ、差し押さえ開始よ!」
 
三人は魔法図書館の奥部、まだ本棚も並んでいない伽藍とした一角へと移動した。
床には先日から描かれていた複雑な魔法陣が見て取れる。
陣を囲むようにして立ったパチュリー達は、すっと片手を掲げると瞳を閉じた。

「では、始めるわ。二人とも準備は良い?」
「大丈夫、行けるわ」
「こちらもOKですよ」
「……詠唱、開始」

「キリサメ」
「マリサ」
「オトリヨセ!」

♪ぺかーっ……(適当なSE)

きりさめ まりさの おうちが あらわれた!(これといった描写も無く唐突に)

厳かに呪文を唱え終えた三人は、眩い光が収まるのを待ってからそろそろと眼を開ける。
なお、「呪文に関してちょっと言いたい事がある」という諸兄もいらっしゃる事とは思うが、どうか軽く流して頂きたい。
正直言って、作者の疲れが窺える出来であることは百も承知である。

「あら、急ピッチで組み上げた陣ではあったけど……一発で出来たわね。これは驚いた」
「流石はパチュリーね」
「え、ちょっと待って下さい。パチュリー様、この魔方陣と呪文、適当に作ったんですか?」
「長い詠唱文は嫌いなのよ。ほら、喘息が出たら困るでしょ?」
「まあ色々とツッコミ所はありますが、上手く行ったから良いですかね……」

一言で言うと……実にシュールな光景だった。
なにせ、建築物の中にもう一つ建築物が納まっているのだから。
咲夜が拡げてくれた空間とは言え、どこか無理のある窮屈さを感じさせる。

「あっ、少し待って。家捜しに入る前に、一応いまの霊夢たちの様子を聞いておいた方が良いんじゃない?」
「それもそうね。ではパープル2に訊ねてみましょう」

アリスからの提案を受けたパチュリーは懐から水晶玉を取り出すと、耳に宛がった。

「……もしもし、こちらパープル1。応答願います」
「がたごと……はぁはぁ……」
「もしもし? パープル1、返事をして」
「霊夢の……育ちかけの……」
「もしもし、もしもし?」
「何をぐずぐずしてるのよ! さっさとサラシを取って……ああ、ごめんなさい。こちらパープル2。何かしら?」
「ずいぶん長いあいだ脱衣所にいるのね。他にすることはないのかしら、まったく……」
「うふふ、失礼。でも、どうして脱衣所だと分かったの?」
「浴室と脱衣所とでは、微妙に音の質が違うわ。それに微かに聞こえる衣擦れの音……まだ脱いでる途中ね?」
「――やるわね、貴女」
「ふふふふふ……貴女もね」

ビシガシグッグッ!(ソウルシスターの契りのイメージ音声です)

「ちょっと……パチュリー? 話が脱線してるんじゃ……」
「ご自重下さい」
「ああ、ごめんなさいね。本題を忘れるところだったわ。二人の様子はどう?」
「脱いでる」

なんと簡潔な答えだ……感嘆を禁じえない!
主がこんな奴だと知ったら藍と橙はどう思うか……同情を禁じえない!
覇王翔吼拳を使w(ry

「いやまあ、それは分かるけど……霊夢はどう? ちゃんと魔理沙を引き付けてくれてる?」
「そうね、概ね良好よ。あ、いま完全に脱ぎました。装備品は手ぬぐいのみです、どうぞ」
「パープル2、貴女いきなり活き活きとしてきたわね」
「ふふふ……そうでもないわよ。そっちは? もう魔理沙の家は移転させたの?」
「さっき成功したところよ。これから家捜しに入るつもり。じゃあ安心して始めても良いのね?」
「はいはい、大丈夫よー」
「……まったく、度し難いわね」

それはパチュリー、あんたもだ。
アリスと小悪魔は“突っ込みソウルシスター”となっていたようだが、共に沈黙を守っていた。
堅実な選択である。

「では始めましょう。張り切って家捜しを――エレメンタルハーベスター」

うぃぃぃぃぃぃぃぃぃん、がりがりがりがり……。

急に図書館の奥部が、土建作業現場の如き空気に包まれた。
ドアは暫くして、呆気なく真っ二つとなる。正義のガサ入れの幕が、ここに切って落とされたのだ。

「突入!」
「了解!」

三人は快活な笑顔を浮かべながら(なんとパチュリーまで笑っている)、混沌の魔窟へと踏み入った(やっていることは少々アレだが)。

「さあ、ちゃっちゃと済ませましょう。三人で手分けすれb……ば……あら?」

パチュリー硬直。

「ここまで来たら勝ったもどうぜn……ハラキリ岩の上で音叉が生瞬きすると良いらしいわっ。要ハサミね、61!」

アリス錯乱。

「ついに正義が行われるんですね、ワクワクしてきましt……すいません、やっぱり故郷へ帰ります」

小悪魔リタイア発言。



き た な す ぎ て ば ん ざ い し ち ゃ う !



うん、ごめん。正直甘く見てた。
部屋の中の様子は、文章のみでは表現し尽くせない。上手く比喩に使えそうな言葉も思い浮かばない。
婉曲的に表現すると、小悪魔は先日の宴会で酔っ払った紫にスキマを繋げられて、
自分の鼻の穴からバドワイザーが出てきた時に匹敵するほどの衝撃を受けていた。

パチュリーの顔色は普段以上に蒼白であり、感情の起伏が一切感じられない。
アリスの瞳からは、いち早くハイライトが消えた。
そして小悪魔はと言うと、学割申請の用紙に必要事項を書き込み始めた(実家には電車で帰るのだろうか。それ以前に、彼女は学生だったのか)。

黙り込む三人。

しかしここで、アリスの瞳に理性の輝きが戻った。ネバーギブアップだ! 

「ねえ、元気出して二人とも……ここまで来たんだから、あとは気持ちの問題よ。なんなら邪魔なものはロイヤルフレアで燃やしちゃえば良いじゃない」

励ますためとは言え、何気に際どい発言である。他に慰め方は無いのか。
しかしアリスのフォローも空しく、二人の瞳からもハイライトが消えつつあった。

「……ねえ、ちょっと?」
「\(^o^)/」

バネ仕掛けのようにいきなり顔を上げると、何を思ったかパチュリーはグリコのポーズを取りながら走り始めた。
これは明らかに尋常ではない。こんなアクティブなパチュリーなど見たくない。
小悪魔は俯いたまま、ブツブツと「宇宙刑事ギ○バン」のテーマを口ずさんでいる(どこで覚えたのだろうか)。
三人の間にも、魔理沙の部屋を凌駕するほどのカオスが忍び寄りつつあった。こりゃもうアレかな、作戦中止かな。

「待って、落ち着いてパチュリー! 気持ちは分かるけど、本文中に顔文字を使うのはルール違反だからダメよ!」
「できる……できる……私は負けないわ。ここまで来たんだもの……負けないわ……!
 できる……そうよ、私はできる。私はできる。できる……できる! できるできるできるできるできるできるぅ Ok, I can do it!」
「パチュリーったら!」
「パチュリー様」
「あっ、良かった。正気に戻ったのね? 諦めるのは早いわ、少しでもやってみましょうよ」
「つい先程……I can do itと仰いましたね?」
「あの……もしもし」
「私の知っているパチュリー様は、そんな前向きなこと言いません。正直がっかりですよ」
「I can do it. I can do it. I can do it……」
「さてはニセモノですね? ちょっと私に背中を向けて、そのくたびれたネグリジェもどきを脱いで下さい。背中にファスナーが付いてないか確認します」
「二人とも、お願いだから正気に戻ってよ!(半泣き)」

と、ここで通信が入った。空気を読まないパープル2からである。

「――ぶつっ、ざざ……こちらパープル2。スニーキングポイント(浴室のスノコの隙間)に到着したわ。うふふ」
「…………………………」
「もしもし、どうしたの? パープル1、聞こえてる?」
「らりるれろ! らりるれろ!! らりるれろ!!!」
「もしもし、もしもーし?」

(通信終了)





<6>

せっかく良いモノが見られたからパープル1に教えようと思ったのに、当の彼女は意味不明な発言を残して通信を切ってしまった。

(やれやれ、何があったのかしら。まあ私もここまで付き合う義理は無いっちゃあ無いんだけど……もう少しだけ覗いてから帰ろうかしらね)

か細く開けたスキマから外を覗きつつ、紫はポツリと呟くのだった。

「若さって……眩しいわね(特に発展途上のおpp)」

何を思ったか珍しくシリアスな表情でキメる彼女であったが、シーンがシーンだけに全く様になっていなかった。



かぽーん。

「なあ、霊夢。何だか悪いな、こんなに一緒に居てもらっちゃって……」
「魔理沙、変なものでも食べたの? 人に気を使うなんてらしくないわよ(本心からの言葉)」
「ひどっ」
「まあそれは置いといて……ちょっと温いわね」
「ん、そうか? 私はこれくらいが好みだけどな」
「私は少し熱いくらいが好きなの(私は熱いお湯に馴染んでるけど、魔理沙はそうでもない。のぼせさせて時間を稼ぐ……我ながら策士ね!)」
「年寄りじみてるな、霊夢は」
「うるさいわねー」
「……じゃあ、ちょっと火加減強くするか」

さらりとそう言うと、魔理沙はどこからともなく愛用のミニ八卦炉を取り出して見せた。

「え? ……何するつもり? 普通に薪を足すんじゃないの? それ以前に、今それどこから出したの?(嫌な予感が)」
「どこって、乙女のポケットからだぜ」
「日本語でおk(まさか、もうのぼせ始めてるのかしら? それなら手間が省けて良いけど……)」
「まあ細かいことは気にしない。ちょっと待っててくれ、薪よりは確実に早く熱くなるぜ」

そう語りつつ、魔理沙はミニ八卦炉を火元へと近づけた。

「この前、アリスん家の風呂場でも試したら上手く行ったんだ。まあ安心してくれ」
「どうして自分の家で試さないのよ(アリスも気の毒に……)」
「何かあったら、家が壊れるのが嫌だからに決まってるだろ」
「あんたはつくづく性根が腐ってるわね」
「ははは」
「別に誉めてないわよ」
「あ」

つるっ、かちっ。――きゅいいいいいいい……ん

「……ん、何?」
「湯の水気で手が滑ったみたいだぜ」
「え、ちょっと魔理沙?(反射的に湯船から上がりながら)」
「霊夢」
「……何よ」
「先に言っとくが」
「うん(そこはかとなく悪夢の予感!)」
「正直、すまんかった」


*文々。ニュース速報:つい先程、博麗神社の方角で、かなり大規模なマスタースパークらしき光の柱が確認されました。
               神社近辺の人妖の安否は詳細不明です。
               なお、このマスタースパークによる津波の心配はありません(なにせ海がありませんからね)。



――にゅるん。

光が収まった浴室では、スキマから這い出た紫がぽつねんと立ち尽くしていた。
霊夢と魔理沙の姿は、どこへ消えたのか全く見当たらない。

「若さって眩しいけど……眩しすぎるのも考え物ね」

しみじみとそう呟くと、紫は脱衣所へと足を運ぶ。
そこには、主を失った二人分の衣服が寂しげに鎮座していた。

「でも、そんな一瞬の輝きにこそ掛け替えのない価値があるものよ。例えて言えば、人間は短めに切った太めのうどん。
 妖怪は長い蕎麦みたいなものだから……あら、今の比喩は我ながら詩的ね」

いや、別にそうでもない。

「霊夢、そして魔理沙。思いっきり生きるのよ……輝け青春」

なにやら先達のメッセージっぽいたわ言を口にしつつ、何故か二人の衣服を回収する紫。

「じゃあ、せっかくだから……この服一式は貰っていくわ。どうしようかな、保存しておくか……あの古道具屋に売りさばくか……」

コンバット越前じみた語り口で陰謀を口にする。
パチュリーはパチュリーで色々と問題だが、やはり幻想郷一の困ったさんは紫で決定のようだ。

「あら、そう言えば。この水晶玉、結局霊夢に渡せなかったわね。ごめんなさいね、パープル1」

紫の人差し指の上で回る水晶玉が、いまだ燃え続ける風呂釜の炎に照らされてきらりと光った。

「そして……アリス、小悪魔。貴女たちの肩にも、魔法図書館の未来はかかっているみたいよ。頑張ってね……それじゃ、ばいばーい」

――にゅるん。


*文々。ニュース速報:八雲 紫さんが死亡フラグをグレイズしました。





<7>

さて、ここで舞台は再び紅魔館に戻る――とは言っても、薄暗い図書館の奥ではない。
穏やかな日差しを浴びている正門付近である。

「ふぁぁーあ……っ(こうも天気が良くて静かだと、眠くなっちゃうなあ)」

のどかな空気にあてられたのか、門番長の美鈴は大きな欠伸をしつつ腕を伸ばした。
ともすれば密着しそうになる上目蓋と下目蓋の仲を騙し騙し妨害しつつ、何とはなしに上空を見つめてみる。

「平和ねー」
「――美鈴の欠伸を見てたら、こっちまで眠くなっちゃうわ」
「あ、咲夜さん。お疲れ様です」
「美鈴も、お疲れ様」

いつの間にか横に立っている咲夜。
だがこれしき、紅魔館ではよくある事。いちいち驚くようなものでもない。

「ひと休み、ですか?」
「ええ。今日はそこそこ作業がはかどっているから」
「いい天気ですよね。きっと日が暮れたら、見事な月夜になりますよ」
「そうね。お嬢様も喜ぶかしら」

のんびりと会話を続ける二人だったが、ふと美鈴がかなた上空を指差した。

「ん? 何でしょう、あれ」
「あら本当。何か飛んでるわね……かなりのスピードみたいよ」
「鳥にしては大きいし。侵入者って感じもしませんが、妙ですね。念のためです、用心しましょう」

ひゅー……

「あれっ?」
「真正面から館に直撃しそうなコースに見えるんだけど、気のせいかしら?」
「気のせいじゃ……なさそうですね」
「美鈴、行きましょ」
「了解です」

上空へと様子を見に行く二人。
謎の飛行物体は、かなりの速度で紅魔館方面へ向かってくる。

「かなり速いわ。スピードを殺すことは難しそうね」
「止められないなら、進路をずらすのが無難です。タイミングを合わせて、あの物体に力をぶつけましょう」

慎重に待ちの姿勢に入る咲夜と美鈴。
飛行物体が接近してくるにつれて、輪郭が次第にはっきりとしてきた。
どうやら肌色の生物らしきものが確認できる。

「……リトルグレイ!?」
「え? 宇宙人なんですか、あれは」
「なんとなく人型に見えるわ。ますます怪しいわね……来るわよ!」

タイミングを見計らった咲夜が時間を遅延させる。
二人が同時に、飛行物体の側面へと回りこむ。
そして、渾身の蹴りを叩き込んだ。見事なコンビネーションと言えよう。
悪魔の館・紅魔館に住む者たちは見目麗しいメイドやらチャイナ娘に見えるものの、
その真の姿は泣く子も黙る戦闘のプロフェッショナルなのだ。
未確認飛行物体に物理法則を凌駕したヤクザキックをブチ込む程度、朝飯前である。

「そぉい!!」

べこっ。

「やったわね!」
「バッチリです!」

ぐっ、と親指を立てる二人。
実に爽やかな光景であった――――

ひゅー……

「あら?」
「ん?」

がっしゃん。ぎゃー。

「……もろに建築物に突っ込んだような音がしましたね」
「……おかしいわね、確かに進路は変わったはずなのに」
「見に行ってみましょう」
「そうね」



見回りのメイドや門番隊たちに聞いてみたところ、飛行物体は本館棟に突っ込んだわけではなさそうだ。

「本館棟じゃないなら一安心ですが、明らかにどこかに突っ込んだ感じでしたよねえ……」
「あっ、あっちを見て。皆が集まってるわよ」
「うーん、嫌な予感がします」
「確かにね。でも私、紅魔館で“素敵な予感”なんてものを感じた覚えはほとんどないわよ」
「それを言っちゃあおしまいですよ、咲夜さん」

益体も無い会話をしつつ、二人は人だかりに近づく。
メイドや門番隊たちだけでなく、どこから湧いて出たのかチルノや大妖精も混ざっている。

「……皆、何かあったの?(あくまで、いま騒ぎを知りましたよ、といった感じで)」
「かなり大きな物音がしていたけど……(咲夜に合わせてとっさの演技)」
「あっ、お二人とも丁度良かった。あれを見てください!」

「あ」
「う」

メイドの一人が指差すほうを見てみると、外壁の一部に思い切り大きな穴が開いていた。

「咲夜さん、あれは……!?(やっちまいましたね!)」
「美鈴、これは一大事だわ!(良かれと思ってやったのにね!)」

素早くアイコンタクトを交わす二人。さて、どうしたものか――

「お嬢様が起きてくるまでに、適当に補修しましょう」
「私も同意見よ。そこら辺のベニヤ板で平気かしら」
「あっ、じゃあ私達が倉庫から持って来ますよ。あとは私達にお任せくださ……」

門番隊の数人が倉庫へ向かおうとした、その時。
激しい物音とともに、何かが穴から飛び出してきた。

一斉に引いた人波の中心に落下する物体。
それは、どこからどう見ても全裸の人間であった。

ぐちゃっ。がばっ。

「誰か力を貸してくれっ! 私はゴルゴムに命を狙われているんだ!(全裸で)」
「救命阿!(全裸で)」

やせいの まりさ と れいむ が とびだしてきた!



「……………………(周囲の全員)」



ちゅんちゅん。小鳥達ののどかな囀りが、何故か今は耳に痛い。

「ヌーディストの身で紅魔館に乱入とは感心しないわね。近頃の全裸はやんちゃで困る(やった! 二人とも……私より小さいわ!)」
「違うんだ咲夜、これは悪の組織との闘いで生じた、ちょっとした不幸なんだ。詳しい話は後でするから、取り敢えず何か服を」
「私には、全裸で高速飛行するような友人はいないわっ」

「博麗の巫女に、こんな趣味が……」
「違うの美鈴、これは不幸な事故なの。詳しい話は後でするから……ただ私はお米が欲しいだけなの!(動転したあまり墓穴を掘っている)」
「とても……残念だわ……」
「美鈴っー!!」

やせいの まりさ と れいむ は なかまにしてほしそうに こちらを みている!

なかまに くわえますか?

   →<はい>
    <いいえ>

♪ぴぴっ(カーソル移動音)

    <はい>
   →<いいえ> 

しばし呆然とした表情を浮かべたまま固まっていた紅魔館の皆さんであったが、
みな一様に顔を合わせて頷きあうと、素早く輪を作って魔理沙と霊夢を取り囲み、じわじわと追い詰め始めた。

「え? 何だ? 何をするつもりだお前ら。そうか分かったぞ……お前らがゴルゴムなんだな! くそっ、よくも私のベアトリーチェを(錯乱)」
「う……うう……私、もうお嫁に行けないわ……(錯乱)」

たわ言には一切耳を傾けずに、紅魔館の皆さんは着実に包囲網を狭めると二人を「よっこらせ」と担ぎ上げる。

「3……2……1……」

「テイク・オフ!!」

「いやああああああああッ……」
「ほあああああああああッ……」

魔理沙と霊夢は綺麗にエコーのかかった悲鳴を上げながら、再び穴の中へと吸い込まれていった。

「――さて。みんな、元の持ち場に戻りましょうか」
「そうですね、何も見なかったことにしておきましょう」
「そう言えばあそこって、魔法図書館の辺りじゃない?」
「そうよね。図書館では妙な騒ぎがよく起きるから困るわ」
「気にしたら負けよね」
「それにしても、パチュリー様にヌーディストの知り合いがいたなんて。引きこもりの割りに、妙な人脈があるのね」
「図書館なら、無理して私たちが補修しなくても良いわね(なにげに問題発言)」
「どうせ、また近いうちに変な騒ぎが起きて吹き飛んだりするに決まってるわよ」

口々に好き勝手な事を言いつつ散っていく、メイドや門番たち。
流石に妙な展開には慣れているらしく、平和な午後に空から裸の娘さんが降って来ても全く動じない。
あるいは、それは「まともな感性」を既に失っている表れであるのかも知れない。
しかし、それならそれで仕方ない。
そう。「気にしたら負け」である。とても良い言葉だ。
幻想郷というイカレた世界で生きていくには、開き直ると言う姿勢が極めて重要なのだ。

人波が引いたのち、騒ぎの現場には咲夜と美鈴だけが残った。

「不幸な事故だったようですね」
「そうね」
「まあ、私達も良かれと思ってやったことですし」
「そうね、そうよね。それに……ほら、本館棟じゃなくて図書館だから」

一体、日頃から魔法図書館はどれだけひどい扱いを受けているのだろうか。
曲がりなりにも貴重な知識の宝庫のはずなのに……。
二人が無言で穴を見つめていると、穴の奥から絶叫と爆音が微かに聞こえてきた。

「何か、ひと悶着始まったみたいですね」
「そうみたいね」
「……止めに行かないんですか? 咲夜さん」
「美鈴こそ、行かないの?」
「図書館は門じゃないんで……」
「私も、司書じゃないから……」
「なるほど。つまり、お互い職務に忠実だってことですね」
「良いことじゃない。私たちは労働者の鑑ね!」
「あははははは、咲夜さんったら……」
「ふふふふふふ、やあねえ美鈴……」
「あはははははははははははははははは」

朗らかに笑いあう美女二人。
その後ろでは、悲鳴や爆音が絶え間なく響いている。

――――結局のところ、紅魔館は今日も平和だった。





<FINAL>

錯乱状態に陥ったパチュリーと小悪魔を泣きながらなだめていたアリス。
彼女が我に返ったのは、凄まじい衝撃に吹き飛ばされて一瞬意識を失ったあとだった。

(いったい……何が? そう言えば、発電の実験を手伝った時もこんな目に遭った気がするわ……)

よいしょ、と上半身を起こしたところ、どうにも頭が重い。
ふるふると首を振ると、頭に引っかかっていたらしき魔理沙の服(おおかたベッドの上にでも放置されていたものだろう)が落ちてきた。

(なんだか私って、貧乏くじばっかり引いてるような気がする……もう、帰りたい……)

腹いせに服を引っつかんで壁に投げつけると、アリスはよろよろと立ち上がる。
何が起きたかさっぱりだが、どうせロクなことでは無いだろう。
しかし現状を把握しておかないことには、適切な行動を取ることは難しい。
アリスにとって「現状を知ること」「考えること」はとても重要な要素だ。
いかなる状況、あるいは苦境に立たされようと決して思考を放棄しない心を持つこと――それがアリスの目標であった。

(さっきから、パチュリーと小悪魔の様子がおかしいままね。きっとドクター永琳が開発した、
 人格を崩壊させる闇の新薬が秘密裏に散布されたに違いないわ)

いやいや。考えるのは大いに結構だが、アリスさん。貴女もおかしくなりかけていますよ。
それはさて置き、アリスがデビルドクター永琳に胸中で怒りの炎を燃やしていたところ、背後から誰かに肩を叩かれた。
何事か、と反射的に振り返るアリス。
そこに立っていたのは、先程まで宇宙刑事ソングを熱唱していた小悪魔だった。
瞳にはハイライトが戻り、確かな理性を感じさせる静かな光が宿っている。

「良かった、無事だったのね。正気に戻ったの?」
「……アリス・マーガトロイドさんですね」
「ええ、そうだけど……」
「私は全銀河統一警察機構の潜入捜査官・グパヤマです。シポムニギ支部から配属されてきましt」

台詞を最後まで聞くことなく、小悪魔の手を振りほどいてアリスは走り去った。

(一瞬でも期待した私がバカだったわ!)

ガラクタの山を掻き分けて、魔理沙宅から脱出する。
せっかく魔方陣まで作って他人の家を盗んでおいてから言うのもなんだが、もう蔵書を取り戻すどころの話ではなくなりつつある。
そもそも、さっきの衝撃は一体何なのか。
新たな勢力の介入だろうか? 
パチュリーの姿が見当たらないのも気になる。意識を失う直前までは、近くに立っていたはずなのだが……。

「パチュリー? パチュリー、どこにいるの?」
「私はここよー……」

弱々しい声が聞こえた方へと急ぐと、壁際に転がっているパチュリーを見つけることが出来た。
すぐさま駆け寄り、抱き起こしてやる。

「大丈夫? えーっと、身体と頭と両方」
「けほっ……ええ、もう大丈夫よ。小悪魔は?」
「彼女も無事よ、安心して。ただ、頭の方がまだ正常に戻っていないみたい」
「そう……あの子は普段が至ってマトモな分、一度おかしくなると長引くタイプなの。大目に見てあげてね」
「ところで、一体なにが起こったの? さっき物凄い衝撃が……ん? 妙に明るいわね」
「――あれを見て」

パチュリーが指差した先。窓のない大図書館が妙に明るくなった原因、それは――壁に豪快に開いた大穴であった。
そして大穴のそばに、何かが蹲っているのが見えた。あれは何だろうか。
帯電でもしているのか、その周囲にはバチバチと光の帯が踊っている。

「なに、あれは!?」

思わず仰け反るアリスに、静かに応える声があった。まだ発狂したままの小悪魔……ではなく、全銀河統一警察機構の潜入捜査官・グパヤマさんである。

「あれはターミネーターです。まさか幻想郷にまで攻め込んでくるとは」
「知っているの小悪魔!? じゃなくて、えーっとグパヤマさん(気にしたら負け! 気にしたら負け!)」
「未来から送り込まれる殺戮サイボーグで、転送されてくる際には何故か全裸なのです。まず彼ら彼女らは、周囲の人間から衣服を奪うところから……」
「あっ、見て! 立ち上がるわよ」

♪だだんだんだだん! だだんだんだだん! だだんだんだだん! だだんだんだだん! たららーらーららー……(立ち上がった)

「くっ、二体同時に送り込んでくるとは」
「……いや、あの。ターミネーターだっけ? 私には魔理沙と霊夢に見えるんだけど」
「二人とも、下がって!」
 
アリスの冷静な疑問をよそに、パチュリーは片腕を突き出すとスプリングウィンドを放った。

「誰か服をウボァー」
「ここはどこなのオウァー」

ポカーンとしているアリスをよそに、ターミネーター(仮称)は穴の外へと吹き飛ばされて消えていった。
それを見届けると、パチュリーは意味不明な決めポーズを取りながら口上を述べた。

「スプリングウィンド、フォー・ジャスティス」
「もしもし……パチュリー?」
「何かしらアリス。今ので分かったでしょう、もはや猶予はない……一刻も早く家捜しを終えなくては」
「えっ、ああ……それはそうね(気にしたら負け!)」

必死になって現実を受け入れようと戦い続けるアリス。涙ぐましい努力である。
そう、いつ如何なる時も思考を放棄してはならない……考えればきっと、道は開けるはずだ。
今は蔵書を探し出すことに集中しよう。余計なことは何も考えずに、最善の結果を求めて――

「改めて、突入!」
「りょうか――」

「いやああああああああッ」
「ほあああああああああッ」

もう一度カオスの家に踏み込もうと体の向きを変えていたアリスの背中に、叫びつつ舞い戻ってきたターミネーター(仮称)が激突した。
背中を向けた状態で咄嗟にかわせるはずもなく、もつれるようにして玄関を突き抜け家の中に突っ込んでいく。
悲鳴を上げる余裕すら無かったのか、この一瞬の惨劇においてアリスは全くの無言だった。

「あら、アリス?」

ワンテンポ遅れて反応するパチュリー。
アリスを助けに行くかと思いきや、ここでまた彼女は素っ頓狂な行動に出た。
何を思ったのか小悪魔に歩み寄ると、片手でその頭を鷲掴みにしたのである。

「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ……マーキュリポイズンッ!」

パチュリー外道。
至近距離から放たれた魔法弾幕は余すところ無く小悪魔の頭に命中する。
ガクガクと頭を痙攣させながら吹き飛ぶ小悪魔。エクソシストも裸足で逃げ出すホラーシーンであった。
何を思ってパチュリーは突然の凶行に及んだのだろうか。もはや完全に展開が読めない。
哀れな小悪魔は勢い良く壁まで吹き飛び、数回転がると動かなくなった。

「貴女の気持ち、私にも分からなくはないわ。現実に疲れたのよね?」

穏やかな笑みを浮かべつつ、ひどくダウナーな台詞を吐くパチュリー。
今の今まで忘れかけていたが、彼女は本来「陰」の人である(人でもないけど)。
ちょっと覗きや陰湿な作戦に関わると、テンションが上がるに過ぎないのだ。

「でも、私を甘く見ない事ね。私は魔女として生き始めた百年ほど前から、既に――現実に疲れ果てている!!」

そんなに格好良く言うようなことでも無かろうに。

「でも、一人で疲れていくのは物悲しいわ。さあ、目を覚ましなさい小悪魔。そしてもっと一緒に現実に疲れましょう……ねっ!」

力なく転がる小悪魔につかつかと歩み寄ると、パチュリーは手にした魔道書のカドで小悪魔の頭を叩いた(斜め45度)。

「小悪魔、再起動せよー」
「……………………あれ、どうしたんですパチュリー様。それに私、どうして寝てるんでしょう」
「――気にしないで良いのよ。そういう貴女の都合の良いところ、私好きだわ」

小悪魔は都合の良い女なんですよ。
あなた、軽蔑しますか?

「どうも記憶が曖昧で……あの、私は何をしてたんでしたっけ?」
「魔女狩りをしている途中だったのよ」
「パチュリー様だって魔女じゃないですか」
「魔女にもアウトとセーフがあるのよ」
「どんな魔女がアウトなんですか?」
「そうね……そう、例えば」

魔理沙の家から破壊音が鳴り響く。霊夢と、相も変わらず裸の魔理沙が飛び出してきた。
霊夢はどこで時間を稼いだのか、いつの間にやらちゃっかり服を着ている(当然魔理沙のものだが)。

「いま出てきた裸の方。あれがアウトな魔女」
「なるほど」

霊夢と魔理沙に続いて、殺気立った表情のアリスも姿を現した。

「パチュリー、小悪魔……気をつけて! その二人、やっぱりターミネーターじゃないわ。本物の魔理沙と霊夢よ!」

今さら何を言っているんだ。



何がどうなったのか、脱線・迷走のはてに今回の作戦関係者が一同に会することとなった。
霊夢の表情はどこか虚ろである。現状を把握して、作戦の失敗(=お米を貰えない)を悟ったのだろうか。
いっぽう魔理沙は、あまりと言えばあまりな超展開に頭がついて来ていない様子であった。

「馬鹿な!? 箒を破壊された今、魔理沙はここへは来れないはず……一体どうやってここまで来たの?」

と、ここで首謀者の一人がうっかりNG発言をしてしまった。実に残念な展開である。

「ちょっと待って。パチュリー、いま物凄い墓穴を掘らなかった?」

アリスの冷静な指摘も、もはや手遅れだ。

「……ん? パチュリー、今なんて言った。どうして私の箒が壊れたことを知って……まさか、お前の差し金か!?」
「ふふ……ふふふ……ばれてしまっては仕方が無いわね。そうよ、それは私の計画の一部!」
「何故だ。何故、そんな非道なことをする? 胸が痛まないのか?」
「この程度で痛むような胸など不要。私にはただ、終わりなき知への求道行為があれば良い……貴女はその邪魔になるのよ、魔理沙」
「くそっ、この外道め!」
「何とでも言うが良いわ。幻想郷の意志……サイレント魔女リティも、貴女が断罪されることを望んでいる。
 なにせ文々。新聞のアンケートコーナーにそう書いてあったのだから。これは大衆の決断でもあるのよ」
「あんな新聞の内容を鵜呑みにするとは、知の求道者が聞いて呆れるな。私が邪魔とは、いったいどういう了見だ」
「死ぬまで借りる、を繰り返すのが迷惑だって言ってるのよ。いい加減に真人間になりなさい!」
「そりゃあ私だって、真面目に大人の階段を登るつもりでいたぜ。だけど、思ったよりも急勾配で1段目からキツかったんだ。わかってくれ」
「この窃盗犯め……社会的に抹殺してやる!」

突っ込みどころ満載のやり取りが交わされる中、作戦の完全なる破綻を悟ったアリスと小悪魔、霊夢は手を繋いでダンスを始めていた(現実逃避)。
残念だったね、霊夢。
お疲れ様、アリスと小悪魔。
どうせこの世の九割は理不尽で出来ている。どんなに頑張ったって、上手く行かないこともあるさ。

「私の箒をへし折るように仕向けたのか」
「実際に折ったのは、パープル2こと八雲 紫よ」
「まさか、私の家に夜な夜な妙な脅迫状を送りつけていたのもお前なのか」
「それはアリスよ」
「恥ずかしくないのか!? そんな陰湿な真似をして。私の身を案じて神社に匿うと言ってくれた霊夢を見習えよ!」
「あ、それはお米目当ての演技だから」

完全にヤケクソになったパチュリー、ネタバレ全開である。
神社での優しい対応までもが嘘だったと知った魔理沙は、込み上げる怒りを抑えきれずに霊夢に詰め寄った。

「霊夢、私をだましてたのか!」
「わんぱくでも良い。逞しく育って欲しい」
「落ち着け霊夢。私と会話のキャッチボールをしようぜ」
「できればコシヒカリがいいわ」
「霊夢? なあ、死んだ魚みたいな眼をするなよ。何か辛いことでもあったのか?」
「そのころエルサルバドルでは――」
「おい、聞いてるのか霊夢!」

「無駄よ。霊夢は当分のあいだ再起不能……言葉など届きはしない」

「パチュリー、貴様ぁぁぁッ!!」
「怒りたいのはこっちの方よ。さあ、今から10数える間だけ待ってやるわ。骨壷に詰め込まれたゴキブリの屍体のように絶望的な
 あの掘っ立て小屋の中から、私の愛読書を1冊でも見つけ出したら――そうね、図書館内に魔理沙専用のVIPルームを作っても良いわ」
「VIPルーム程度じゃ割に合わないな。永久ゴールドメンバーカードも付けてくれ」

「10……」

「アリスさん、霊夢さん。一緒に逃げましょう……ここはもうダメです」

「9……」

「霊夢、しっかりして! 私よ、アリス。私が分かる?」

「8……」

「どうも、レミリア・スカーレットよ。マッパの霊夢が降って来たと聞いて寝起きのまま飛んできました(音速遅すぎ)」

「7……」

「私はフランドール・スカーレット。ターミネーターとかいう奴と弾幕ごっこが出来ると聞いて、飛んできたわよ!(虚偽情報に踊らされたようです)」



 

「ヒャア、がまんできねぇ。ロイヤルフレアだ! ♪燃っえっだっすよーなー! あっつい魔法!」





「え」
「ちょっ」

アリスと小悪魔は絶叫を上げようと、大きく口を開けた――――





“Bibliomania Inferno (Part-2)”is End.

-GAME OVER-
超遅筆SS書き・しかばねと申します。
もう「初めまして」と書いたほうがいいレベルの遅筆ぶりですね……。
恥ずかしながら、また帰って参りました。
ここしばらく慌しかったもので……って、これは前にも使った言い訳ですね。

2006年の12月に生まれたこのバカ話、ここにようやく終結となりました。
書いては消し、書いては消しを繰り返している間に風神録が出たりと、時間は容赦なく過ぎて行きました。
当初はここまで長くなるとは思ってもみませんでした。何事にも、計画性は大事ですね。

また何か書けるだけのネタとエネルギーが溜まったら、顔を出させて頂きたいと思います。
書いた私自身でもフォローできないほどバカで無茶な話ですが、少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、またお会いできる事を祈りつつ…………
しかばね
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コメント



0.1890簡易評価
2.70煉獄削除
ちょ、最後のほうビショップじゃないですか!w
それはそうと前編と後編に分割したほうが良かったかも。
3.90削除
イカれているのは幻想郷よりあんたの頭の中だッ! この片っ端から突っ込んで行ってはとても突っ込みきれない凄まじいエネルギーに心から敬意を表する。
5.90名前が無い程度の能力削除
何というカオスw まぁ魔理沙は自業自得ですなw
7.70名前が無い程度の能力削除
ようやくこの戦いに終止符が!!……打たれたのか打たれてないのかw
8.100名前が無い程度の能力削除
作 戦 オ ワ タ からずっと笑いっぱなしだった
9.80名前が無い程度の能力削除
待ち続けたかいがありました
パチュリーと小悪魔の再起動方法は一緒かw
ただ、咲夜さんと美鈴による迎撃の効果が中途半端になったのは何故?
10.100名前が無い程度の能力削除
いやこれは凄いwwwつい過去作品も読んでしまった。
次の作品も楽しみにしてますよ!
11.100名前が無い程度の能力削除
盛大に笑いました
13.100名前が無い程度の能力削除
まってたよ~~!!楽しかったです!!次もがんばってください!!
15.40名前が無い程度の能力削除
みんなはっちゃけ過ぎw六人のイカレる乙女に改名した方がいいかもw
やけくそになって舞台裏を覗かせるようなネタは、面白いけど乱発には向かないと思いました。
19.100名前が無い程度の能力削除
チルノ「でゅーびすかーぶ!」
20.100名前が無い程度の能力削除
こ、こりゃあ、何だ? ここは幻想郷なのか?(褒め言葉)
24.90名前が無い程度の能力削除
こいつら……イカレてやがる!
25.20名前が無い程度の能力削除
ネタを詰め込みすぎな上に話がすぐ横にそれすぎ。
正直読みずらい。
26.無評価名前が無い程度の能力削除
ここまで壊れてくると爽快感が凄いw
もっとやれ!
29.80ぐい井戸・御簾田削除
大作お疲れ様でした!次も楽しみにしてますよ!
そして黄金の顔芸魔法使い吹いたw
何気に咲夜さんと美鈴(駄目な方向での)連携が結構好き。
33.100名前が無い程度の能力削除
腹筋がロイヤルフレアした
41.90名前が無い程度の能力削除
最後のほうの霊夢とアリスと小悪魔が手を繋いでダンスを踊ってたって
ところで噴出してしまったww
42.90名前が無い程度の能力削除
>>「私をあまり怒らせない方が良いぞ……当分2人っきりでここに住むのだからなァ」
ムwwwwwwスwwwwwwwカwwwwwww
46.80名前が無い程度の能力削除
後半gdgdかな・・・
51.50名前が無い程度の能力削除
ネタが少々しつこいような気がしました。そこまでやらなくてもギャグ要素としてはだと思いますよ。
なんだかよくわからなかったです。まあ面白かったですけど・・・
59.80名前が無い程度の能力削除
面白かったです。アリス苦労人だなぁ。
60.80名前が無い程度の能力削除
なんというMGS…