Coolier - 新生・東方創想話

アリスと人形達の宴

2008/02/16 08:40:53
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※人形達の性格が勝手に捏造されて描写されています。
 ほぼオリキャラ化していますので、苦手な方はご注意をば。





















「・・・・・・はぁ。」

アリス・マーガトロイドは机に伏せながら、

うずたかく積み上げられた手紙の山を見てため息をついた。

すべてが同じ内容。

あて先はまだ書かれていない。

当然だ。

書いた本人である私が、まだ記入していないのだから。

出すべきか、やめるべきか。

アリスは悩む。

ここまで書いたのだから、当然出すべきである。

しかし、アリスはその手紙の山を机の中に乱暴に放り込んだ。

そこでアリスは、自分の行動が去年とまったく同じだったことに気付く。

そして再び、机に伏せながらため息をつくのだった。

泣きそうだった。



            * * *



「アリスの様子はどうだった?」

「・・・・・・伏。」

「まさに見たまんまねぇ。」

「その情景が目に浮かぶようなのよネッ!」

暗がりの部屋の中で、少女達の話し合う声が聞こえる。

しかし、その部屋に人影はない。

あるのは、小さな人形が4体。

・・・いや、5体。

中央に置かれた丸テーブルの上に寄り添うように4体が置かれており、

離れた窓際にもう1体、ぽつんと人形が寝かされている。

その中央の4体のうちの1体が、不意にすっくと立ち上がった。

糸もゼンマイ仕掛けもない人形が。

「由々しき事態ね。」

立った人形は、あろうことか腕を組んで首をかしげたのだ。

しかし、それを見ても誰一人として驚かない。

当然だ。

それを見て驚くような人間は、この部屋には居ない。

居るのは、その人形と同様に、命を吹き込まれた人形達だけだ。

「京、アリスの机の手紙の枚数は?」

「二十五枚。」

指された京人形は片手を挙げて答えた。

彼女は京。

唯一の和服姿で、喋るときは極限まで言葉を削った漢字だけ。

よくわからない不思議な子だ。

「去年と同じパターンねぇ。」

困ったようにうなだれる倫敦人形。

彼女は倫敦。

優しくて面倒見のいい性格で、人形達の中のお姉さん役。

いつもにこやかで、協調性にあふれた人柄だ。

「きっと今年も一枚も出さないつもりなのよネッ!」

今度はオルレアン人形が不機嫌そうに腕を組んだ。

彼女はオルレアン。

いつも元気いっぱいで、・・・というか元気が有り余っていて。

~のネッ、が口グセな変な子。

「せっかく招待状を作ったのにね。

 また一人で迎えるつもりなのかしら、誕生日。」

最後に、先ほど立ち上がった上海人形が盛大なため息をつく。

彼女は上海。

人形達のリーダー的な存在で、いつもみんなを先頭で牽引していくタイプ。

「まったく、アリスにも困ったものなのよネッ。」

「誕生日を一人で過ごすなんて、あまりにもかわいそうだわ。

 なんとかしてあげたいけど・・・。」

倫敦は本当に心配そうに扉を見つめる。

扉の向こう側はアリスの部屋だ。

「私もなんとかしてあげたいけど、しょうがないじゃない。

 アリス友達いないんだもん。」

「わっ、わあああ!! 上海シーッなのよネッ!!」

オルレアンが慌てて上海の口を塞ぎ、

京が扉の方にすっ飛んでいった。

京は音を立てずに扉を開けると、

廊下の左右をささっと素早く確認し、

再びそっと扉を閉じた。

「無問題。」

ホッと一同胸を撫で下ろす。

今の発言がアリスに聞こえていたりしたら、

それはもう大惨事である。

これ以上ないほどに的確なトドメの一撃だ。

「もう、発言には気をつけて欲しいのよネッ!

 上海はいつもどこか抜けてるのよネッ!」

「・・・ごめん。」

しょんぼりうなだれる上海の頭を、倫敦が優しく撫でる。

「はいはい。なにも問題なかったんだからいいわ。

 それよりどうするの、上海?」

促されて、上海は再び顔をあげた。

リーダーがこんな失敗でいつまでもクヨクヨしているわけにはいかないのだ。

「この際しょうがないわね。私達で祝ってあげるのはどうかしら?

 京はどう思う?」

「・・・推奨。」

京は短くそう一言。

「・・・・・・え~っと、賛成でいいのかな? いいのよね?」

「是。」

「賛成ね。首を縦に振っているということは賛成なのね?

 賛成決定! オルレアンは?」

京は強引に賛成にしたことにして、今度はオルレアンに振る。

「上海にしてはいい提案なのよネッ。異論はないのよネッ。」

「よし。倫敦?」

「ふふっ、よくできました。」

上海は照れくさそうにはにかむと、

ぱんっ、と大きく手を打ち鳴らした。

「それじゃあ、今年のアリスの誕生日は私達でお祝いすることに決定ね!

 アリスの誕生日は3日後だから、それまでに各自プレゼントを用意すること。

 みんな了解?」

「了解!」

「了解なのよネッ!」

「是。」

3人が揃って頷くと、上海は満足げに頷き返した。

そして今度は、窓の方に向き直って声を上げた。

「蓬莱、聞いてたわよね!? 了解?」

窓際に寝そべる蓬莱人形は、我関せずといった態度で昼寝を決め込んでいた。

彼女は蓬莱。

団体行動を強制されることを良しとせず、常に単独で行動しようとする一匹狼。

そこの窓辺は彼女の指定席だ。

大抵そこで寝ているか、寝転がりながら窓の外を眺めるか、寝ているかしている。

「蓬莱!?」

上海がさらに大きな声を上げると、

蓬莱は寝転がったまま手だけで、ひらひらと返事を返した。

それは了解したという意味なのか。

うるさいから黙れという意味なのか。

「いい? 確かに言ったからね!?」

上海はそれを了解の意味と強引に解釈して、

責任をしっかり蓬莱に乗せてやった。

「・・・ワタシあいつ嫌いなのよネッ!

 協調性というものが感じられないのよネッ!」

「否。」

「なんでそこで首を振るのよネッ!」

「まあまあ。蓬莱には蓬莱のペースがあるのよ。」

「上海、時間。」

「そうね。時間が惜しいわ。各自準備に取り掛かりましょう!」

上海の号令で、各々準備のために散っていった。

蓬莱は相変わらず窓辺に寝そべったままだった。



                        * * *



「こんにちわ~。」

来客が来たようだ。

八雲 藍は洗濯物を畳む手を止めると、玄関へと向かった。

がらがらと玄関の戸を開けて、藍は目を丸くした。

来客が予想よりはるかに小さくて、宙に浮いていたからである。

来客は人形だった。

「突然の訪問申し訳ありません。あっ、これはつまらないものですが。」

「あ、ああ。これはかたじけない。」

おまけに礼儀正しかった。

藍は人形相手に滑稽なほど頭を下げると、人形よりも大きな包みを受け取った。

中身は人形焼だった。

実にシュールだ。

「あっ、いや。これは玄関先で失礼した。とりあえず上がってくれ。」

「お気遣いありがとうございます。お邪魔致しますわ。」

とりあえずその人形を客間に通すと、座布団に座るように薦めた。

人形が座布団に座ると、ちゃぶ台に隠れて完全に見えなくなった。

「・・・すまない。ちゃぶ台の上に座ってくれて構わない。」

「まあ、すみません。それでは失礼して。」

ちょこんとつつましくちゃぶ台の上に座る人形。

お茶は出すべきなのだろうか。

とりあえず出したら、湯飲みが身長の半分ほどもあった。

後悔した。

相手は礼儀正しいのになぜこれほどまでにやりにくいのか・・・。

「それで、本日はどのようなご用件で?」

「申し遅れました。わたくし、倫敦と申します。

 実は、藍さんにケーキの作り方を教えていただきたいのです。

 藍さんは子供好きな方だとうかがったものですから。」

「ええ、まあ子供好きというか。橙好きというか。というか橙好き。かわいいよ橙かわい

 ・・・・・・失礼した。私などでよければ、僭越ながら協力させていただこう。」

「ありがとうございます。宜しくお願い致しますわ。」



                        * * *



「ねえ、倫敦。」

「あら、上海。どうしたの?」

「倫敦って、編み物とか出来る?」

「出来るわよ。教えて欲しいの?」

「・・・うん。アリスにセーターを贈ろうかと思って。」

「あら、手編みなんて素敵ね。いいわ、一緒に頑張りましょう。」

「ありがとう!」



                        * * *



目の前を人形が浮いていた。

別に私の頭がおかしくなったわけではない。

人形が目の前に浮いていて、なにか言いたげに半眼で私を見つめているのである。

じぃーっと。

「・・・あの、なにか用?」

「霊夢、弥好。」

「えっと、ニーハオ。なんで中国語?」

わけがわからなかった。

和服の人形が中国語で挨拶である。

・・・やっぱり私の頭がおかしくなったのかもしれない。

博麗 霊夢は本気で自分の頭が心配になった。

「進呈物探索中。」

「はぃ? 進呈物?

 ・・・プレゼントのことかしら。プレゼントを探してるの?」

「是。」

「是!? なにその斬新な返事!?

 首を縦に振ったから肯定なのかしら?」

そうか、是非の是か。ということは肯定の意味なのか。

というかなぜこいつはひたすら漢字で喋ろうとするのか。

ひょっとして漢字でしか喋れないのか?

わけがわからない。

「え、えっと、どういったものがいいのかしら?」

「・・・・・・。」

人形は答えない。

聞き方が悪かったのか?

「わ、私がもらって嬉しいものとかでいい?」

「是。」

首を縦に振った。

肯定だ。

どうやら人形から言葉を聞き出すよりも、

YESかNOかの二択で聞いたほうがいいみたいだ。

早くもコツを掴み始めている自分がなぜだかとても悲しい。

「なにかあったかしら・・・。」

早いところお暇していただきたいので、結構必死になって探す。

随分昔になくした磁気ブレスレットとかが見つかってなんだか懐かしかったが、

今はそれどころではない。

「こ、こんなんでいいかしら?」

「・・・多謝。」

「ああ、うん。どういたしまして。」

人形は満足げに頷く。

これからの季節に欠かせないものではあるが、

果たしてプレゼントを貰う相手に必要なものかどうか・・・。

「というか、誰にプレゼントする気なの?」

「・・・・・・。」

人形は答えない。

わずかに返答に困ったそぶりを見せた後、

霊夢に一礼してからふわふわと去っていった。

別に人形が答えなかったことに腹は立たなかった。

相手はアリスだろうことがなんとなくわかったからである。

なぜかって?

そりゃあ、アレはアリスの人形で間違いないだろうし。

人形はきっと、答えたくても答えられなかったのだ。

・・・アリスの名前がカタカナだったから。多分。



                        * * *



「・・・うぅ、うまくできない。」

「ほ、ほら、セーターって作るのすごく難しいのよ!

 初心者の上海にはちょっとハードルが高かったのかも知れないわね!」

「そ、そうなのかな? 私がぶきっちょだからじゃないのかな?」

「最初は誰だってそういうものよ。

 少し難易度を下げて、マフラーにしましょうか。

 大きさは若干小さくなるけど、大切なのは気持ちよ。」

「・・・そ、そうよね!

 マフラーならコートと一緒にコーディネイトできるしね!」

「そうよ! 頑張りましょう!」



                        * * *



今度、咲夜に蚊取り線香を持ってこさせよう。

パチュリー・ノーレッジは不機嫌そうに顔をしかめながらそう思った。

本棚の周りを鬱陶しい虫が飛んでいる。

猫イラズでは効果がなかったようだ。

しかしながら、よく見るとそれは虫ではなく人形だった。

今度、人形取り線香を作ろう。

そんなものがあるのかどうかは知らないが、

これだけの蔵書があるこの図書館ならばきっとあるに違いない。

その人形は本棚の一冊に目を留めると、左右を注意深くうかがいながらそれを抜き取った。

「トゥーイージーなのよネッ!」

「なにが?」

人形の首根っこを捕まえてやると、人形は大げさなくらいに跳ね上がった。

どこぞの河童からヒントを得た光学迷彩魔術を使えば造作もないことである。

「び、ビックリさせないで欲しいのよネッ!!」

「そうね。あなたもうんざりさせないでくれる?」

なんだこいつは。

動く人形、という時点でアリスが連想される。

こいつはアリスの差し金か。

「ま、どうでもいいわ。

 それより、紅魔館に侵入してきたなら当然、覚悟は出来てるんでしょうね?

 悪いけど全壊しても弁償はしないわよ。」

「ふ、ふんっ! 上等なのよネッ!

 暗室栽培のもやしごとき、片手でへし折ってやるのよネッ!!」

暗室栽培のもやし・・・。

「そう。あなた私よりも遥かに強いみたいだから、私も全力で胸を借りさせてもらうわ。

 日符『ロイヤル―――」

「ま、待つのよネッ!!

 こちらの対応に不備があったことを認めるのネッ!!

 ごめんなさいなのよネッ!!」

・・・弱っ。

半泣きでペコペコ謝ってくる人形を、パチュリーは本気で哀れに思った。

一体なんなんだこいつは。

「まったく。なんの目的でここに忍び込んだのかしら。」

「あんたが知る必要はないのよネッ!」

パチュリーは人形を捕まえたまま机に戻ると、

そこに詰まれた本の山から一冊の本を抜き出した。

人形を掴んだ手を離さずに、それを器用に開く。

「さて、愛国心が強くて口の堅い軍人さんと消極的に仲良くなる方法はっと・・・。」

「それどう見ても拷問の本なのよネッ!!

 ちょっとアグレッシブすぎると思うのよネッ!!」

「そう。じゃあ話してくれるかしら?」

「今の時代、情報がタダで手に入ると思わないことネッ!

 相応の対価を要求するのネッ!」

「釘でいうと何本分くらいかしら?」

「50本は軽いのネッ!!」

「あんたの小さい手には50本も刺さらない。」

「だからなんの話をしているのネッ!?

 お願いだからページをめくるのをやめて欲しいのよネッ!!」

パチュリーは盛大にため息をつくと、開いていた本を机に戻した。

こいつと話していると非常に疲れる。

さっさと出て行ってもらいたい。

まさか、これはアリスの開発した、スパイ型の相手を疲労させる目的の新型スペルなのだろうか。

だとしたら驚異的な効果である。

早急に対策を練らなければ。

「で、あんたの目的は何?」

「明日がアリスの誕生日なのよネッ。

 アリスのためにプレゼントを探していたのネッ。

 ワタシにはグリモワールくらいしか思いつかなかったのネッ。」

「グリモワールは安い物じゃないのよ。はいそうですかとあげられないわ。」

「そ、それはわかっているのネッ。」

「そうよね。だからこうしてコソコソ盗みに入ったのよね。」

「か、借りるだけなのよネッ!!」

「聞き飽きた。」

パチュリーはこめかみを押さえて首を振った。

プレゼント用なのに借りるだけって・・・。

一体どういう言い訳だこれは。

こいつの脳みそは宇宙にでもつながっているんじゃないだろうか。

「・・・パチュリー、怒ってるのネ?」

「言うまでもないわ。」

かくっと、人形の首が折れた。

さっきまでのうるささが嘘のように、うなだれたまま動かない。

パチュリーが手を離すと、空中に静止したまま、まるで時間が止まったかのようだ。

「・・・ごめんなさいなのよネ。他を当たるのよネ。」

人形はうなだれたまま、なにかに連れ去られるかのようにのろのろと宙を滑っていく。

自業自得だ。

自業自得だが・・・、

「・・・他に当てはあるの?」

「ないのよネ・・・。」

「どうするつもり?」

「今日はまだまだ長いのよネッ。見つかるまで探すのよネッ。」

「見つからなかったら?」

「明日もまだちょっと時間あるのよネッ。最低でも誕生会に間に合えばいいのよネッ。」

「それでも見つからないかもよ?」

「それだけ時間があれば、幻想郷の主要なところは一通り周れるはずなのよネッ。」

「あんた、幻想郷中を探すつもり? バカじゃないの?」

「バカなのよネッ。バカだからこれくらいしか出来ないのよネッ。

 でもバカだから楽観的観測しか出来ないのよネッ!

 きっと途中でそのうち見つかるのよネッ!」

・・・まったく、今日は厄日だ。

読書の邪魔は入るわ、うるさいわ、頭痛は始まるわ・・・。

とにかくこの頭痛の種から一秒でも早く離れたかった。

そう、ただそれだけだ。

それ以上の他意はない。

「・・・本、これでいい?」

「で、でも、安い物じゃないのよネッ!?」

「ええ。誰がタダであげるって言ったのよ。

 当然請求するわ。出世払いでね。」

「・・・・・・人形は出世しないのよネ。」

「知ってるわ。」



                        * * *



「・・・・・・靴下にしよっか。」

「・・・・・・うん。」



                        * * *



そしてアリスの誕生日当日。

「アリス、アリス、こっちなのよネッ!」

「ちょ、ちょっとオルレアン? 一体なんなのよ。」

オルレアンに引っ張られて、アリスは居間まで移動させられた。

居間の扉を開けると、そこはまるで別世界だった。

「・・・こ、これは?」

壁一面に、折紙で作った輪っかが繋げられてぶら下がっていた。

照明には中央の一つだけ赤セロファンが張ってあって、ほんのりと赤く照らされている。

そして中央には倫敦と京と上海。

窓辺の指定席には蓬莱の姿もあった。

「アリス、誕生日おめでとうなのよネッ!!」

「ちょっと、みんなで一斉にって言ったでしょ!?」

「まあまあ上海、いいじゃないの。」

「祝。」

アリスは呆然としたまま、促されるままにテーブルに着いた。

「みんなが、私の誕生日を?」

「そうなのよネッ! ちゃんとプレゼントも用意したのよネッ!」

「私からいいかしら?」

倫敦は一度台所に引っ込むと、

自分の体よりも大きな箱を抱えて持ってきた。

よたよたと、危なっかしい手つきでテーブルの中央に置く。

「・・・開けてもいい?」

「もちろんよ、アリス。」

アリスが箱を開けると、周囲から驚きの声が沸いた。

ケーキだった。

大きなホールケーキ。

中央には『誕生日おめでとう アリス』の文字が書かれたプレート。

その横にはアリスの形を模した小さな人形まで添えられている。

その小さな体で、よくこれほどまでのものを作れたものだ。

「・・・素敵。ありがとう倫敦。」

「次はワタシなのよネッ!」

今度はオルレアンが、手に持った四角い包みを自慢げに差し出した。

中身は本だった。

グリモワール。

それも、相当に貴重なものであることがわかった。

「パチュリーにもらったのよネッ!」

「パチュリーに? ・・・そうなの。

 ちゃんとお礼は言った?」

「・・・・・・い、言ったのよネッ!」

「そう。それじゃあ明日改めて、一緒にお礼を言いに行きましょう。」

「ま、まあ別に構わないのよネッ!」

お礼を言い忘れたであろうことは明白だったが、

アリスは特に追求はしなかった。

「次。」

次は京がプレゼントを取り出した。

小さい。

小さくて薄い。

一体なんだろう、これは。

え~っと、これは・・・?

なにやらマスクのような?

「え、えっと、京? これはなにかしら?」

「花粉症防止マスク。」

こ、これはまた随分と実用性の高いものを・・・。

アリスは別に花粉症ではなかったが、とりあえずありがたくいただいておいた。

こういうのは気持ちが大事だ。

・・・それよりも、なにか強烈な違和感が―――

「「ってカタカナ喋ったァ!?!?」」

「・・・・・・変?」

「全然普通なのよネッ! むしろようやく普通になったのよネッ!!」

驚愕の新事実発覚である。

なんと京はカタカナも喋れたのだ。

・・・じゃあなんで漢字だけで喋ろうとするのだろう?

謎は深まるばかりだった。

「あ、ありがとう、京。

 次は、上海かしら?」

アリス達が一斉に上海に注目した。

ところが、

上海は、居たたまれなさそうに顔を伏せるばかりだった。

一体どうしたのだろうか。

アリスは心配そうに上海に声を掛ける。

「上海? 大丈夫? どこか調子が悪いのかしら?」

上海の顔を覗き込むと、

上海は今にも泣き出しそうだった。

「ごめんなさい、アリス・・・。

 セーター作ろうと思ったけど、結局完成しなかったの。

 頑張ったけど間に合わなかったの。

 みんなもごめんなさい。

 私が言い出したのに、私だけがこんなことで・・・。

 ごめんなさい、ごめんなさい・・・。」

「上海・・・。」

アリスは戸惑った。

上海は今にも泣き出してしまいそうなほどつらそうなのに、

自分が触れてしまえば余計に傷ついてしまうと思った。

どうしようもない・・・。

その上海の肩に、そっと倫敦が触れた。

「ねえ、アリス。

 今回のアリスの誕生会は、もともと上海が考えたものだったの。

 上海がアリスの誕生会をしようって言い出したから、今この誕生会があるのよ。

 だからね、

 このケーキも。

 このグリモワールも。

 この、・・・・・・えっと、花粉症防止マスクも。

 みんな私たちからのプレゼントであると同時に、上海からのプレゼントでもあるのよ。

 だから、アリス。」

アリスは上海をそっと抱えあげると、

赤ん坊にするように胸元で優しく抱きしめた。

「そうなの。頑張ったのね、上海。ありがとう。」

「アリス、アリスっ・・・!」

これで4体の人形達のプレゼントが出揃った。

ところが、ここにはもう1体人形がいた。

蓬莱人形だ。

蓬莱がプレゼントを用意した気配はまったくなかった。

誕生会の開始数時間前にふらっと出かけていったが、

結局帰ってきたときは手ぶらだった。

ただ散歩に行っていただけなのだろう。

誕生会が開かれているその間にも、蓬莱はただ外を眺めているだけだった。

「結局、蓬莱はプレゼントを用意しなかったのネッ!」

「オルレアン、やめなさい。」

「でも、倫敦! 納得いかないのよネッ!」

オルレアンの言葉に、蓬莱がようやくこちらを向いた。

「・・・・・・届くかどうかはわからない。

 私と同じで気まぐれだからな。」

「・・・どういう意味なのよネ?」

蓬莱は答えなかった。

その一言だけを言って、再び窓の外に目を戻していた。

それ以上のやり取りを背中で拒否している。

「アリス! そんなことよりケーキなのよネッ!」

「う、うん。そうね、切り分けちゃいましょうか。」

アリスが用意されたナイフを手に取ると同時、

「来客。」

―とんとんっ

ドアがノックされた。

玄関だ。

一瞬早く京がそれに反応した。

誰だろう。

といっても、ここに来そうなのはあいつしかいないが。

どうせまた気まぐれでここに来たのだろう。

私の誕生日など、あいつが覚えているはずもない。

「よう、アリス。邪魔してもいいか?」

「・・・やっぱり魔理沙だったのね。なにか用?」

来客の霧雨 魔理沙はとても意外なことを聞かれたかのように驚いた。

まるでそんなことを聞かれるとは想定していなかったかのよう。

「何言ってるんだよ、アリス。今日お前の誕生日だろ?

 わざわざプレゼントを持参して祝いに来てやったんだぜ?」

「は?」

いや、

いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやまさかそんな・・・。

魔理沙が私の誕生日なぞ、覚えているはずがない。

たしかに、以前さり気なく伝えたことはあるが・・・。

「ほら、プレゼント。」

「あ、うん。」

少し大きめな袋を開けると、フェルトの生地やらレースやら、

そんな素材が沢山入っていた。

魔理沙は奥の居間の様子を覗きながら、

「まったく、よく出来た人形達だな。

 それで新しい服でも作ってやれよ。」

それにアリスは、自信に満ちた顔で頷いた。

「でしょう? 私の自慢よ。

 さ、入って。寒かったでしょ。」

ケーキを切る前でよかった。

アリスはケーキを切り分ける。

自分の分。

上海の分。

倫敦の分。

京の分。

オルレアンの分。

蓬莱の分。

そして、魔理沙の分。

期せずして奇数になってしまったため、均等に切り分けるのが大変だった。

同時に、そのわずらわしさが最高に心地よかった。

「ほら、蓬莱。こっちに来いよ。お前の分のケーキもあるぜ?」

魔理沙の呼びかけに、窓辺の蓬莱は手を振って答える。

「席がない。」

そう、席は人数分しかなかった。

魔理沙座っているその席が、本来蓬莱が座る席である。

「席ならあるぜ。」

ぽんぽん、と魔理沙が自分の膝を叩く。

それに、蓬莱は顔を真っ赤にして答えた。

「・・・冗談はやめてくれ。」

「冗談じゃないからやめる必要はないな?」

「・・・・・・わかったよ。」

蓬莱はふてくされたようにそう短く答えると、

魔理沙の膝の上にちょこんと収まった。

「あら、魔理沙は蓬莱がお気に入りなのかしら。」

「まあな。」

魔理沙は笑って答えながら、

膝の上の蓬莱の頭をわしわし掻き回す。

「あ、頭を掻き回すな! 髪が乱れる!」

「はっはっは、照れるな照れるな!」

こうして、2人と5体の誕生会は遅くまで続き、

その日のアリス邸は、いつもよりずっと長く明かりが点いていた。

































―とんとんっ

「おっ、来客か?」

「邪魔するぞ、魔理沙。」

「おおう? お前はアリスの所の、・・・上海か?」

「蓬莱だ。」

「おう、そうか。で、なにか用か?」

「今日はアリスの誕生日だ。知っていたか?」

「・・・・・・し、知ってたぜ。」

「そうか。じゃあ忘れていたんだな。」

「・・・・・・ぐうの音もでないぜ。」

「そうだろうと思った。そのために私がここにきたんだからな。」

「それを伝えに来たのか?」

「そうだ。3時間後にうちでアリスの誕生会をやる。

 プレゼントを持参して出席してくれ。」

「わ、わかったぜ。正直悪かったと思ってる。」

「それと、もう一つ頼みがある。」

「おう、なんだ?」

「今日、私がここに来たことは誰にも言うな。特にアリスには、絶対に。」

「・・・どういう意味だ?」

「魔理沙はアリスの誕生日を忘れずに覚えていたから誕生会に出席した。

 私は誕生会の前にふらっと散歩に出ていただけだ。ここには来ていない。

 そういう意味だ。」

「・・・なんでそんなことを?」

「アリスは、魔理沙が自分の誕生日を忘れずに祝いに来てくれたということのほうが喜ぶ。

 誕生日を忘れていて、私に言われてようやく思い出した、なんて答えは望まない。」

「でもそれじゃあ、お前が報われないだろ。」

「何度も言わせるな。

 アリスの望みは私の活躍なんかじゃない。

 お前が誕生日を覚えていてくれたことだ。

 私が報われるかどうかはどうでもいい。

 本当にアリスに悪いと思っているのなら、覚えていたことにしておけ。」

「・・・・・・お前、本当にアリスのことが好きなんだな。」

「それは違う。」

「・・・?」

「人より少しだけアリスのことをよく知っている、というだけのことだ。」

「・・・・・・。」

「・・・何だ?」

「・・・・・・かわいいな、お前。」

「あ、頭を掻き回すな! 髪が乱れる!」






「・・・なあ、アリス。蓬莱のことなんだが―――」
「よく出来た、いい子でしょう?」
「・・・・・・ああ、まったくだよ。」

投稿16発目。
前回の亜兎が人気が良かったので調子に乗った感が否めない。
駄目な人は注意書きで帰ってくれてる、・・・かな?
ちなみにニーハオの漢字は『弥好』ではないですよ。
実際の漢字は変換できないので、似ている漢字を使いました。お察しください。
ともあれ、これを読んでいるアナタ。
今回はアリスの誕生会に出席してくれてありがとう。
最後に僕からのプレゼントです。
どれでも好きな子を選んでください。

上海人形   :みんなのまとめ役だが、おっちょこちょいでぶきっちょ。アリスの『責任感』が核。
倫敦人形   :上海よりもまとめ役向きだが、上海のために一歩引いた態度を取る。アリスの『協調性』が核。
京人形    :漢字ばっかりで喋りたがる不思議ちゃん。別に平仮名も喋れる。アリスの『可能性』が核。
オルレアン人形:~のネッ!が口癖。お調子者だが気は小さい。バカだけど頑張り屋。アリスの『虚栄心』が核。
蓬莱人形   :クールでドライな一匹狼。でもやることは粋。窓際が指定席。アリスの『自己犠牲』が核。

誰もあげないけどなァ!!(まさに外道)


リクしていただけるのは嬉しいのですが、それに必ずお答えできるとは限りません。
書くに値するネタが思いつけばいいのですが、僕のしょぼい脳みそでは思いつくとは限りません故。
もちろん、思いつけば優先的に書くように致します。
ご了承くださいませ。
暇人KZ
http://www.geocities.jp/kz_yamakazu/
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コメント



0.2450簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
人形一体ずつしっかりとキャラが立っていて良いです。
しかもちゃんとマスターであるアリスの性質を受け継いでいる。
丁寧なキャラクターに読んでいて違和感がありません。
あと蓬莱カコイイです。男前。ください。
5.100削除
(何も言わずに、まずは筆者様にスペカをありったけ撃ち込んで、ついでに左右でオラオラを叩き込み、最後にナパーム弾放り込んでから)なるほど、人形ごとにアリスの個性の一部を核にしてるのか……上海のおっちょこちょいっぷりを見るとよく判る気がするなあw

あ、プレゼントは五体とも全部もらって行きますね~♪あとお人よしパチェも。
8.100時空や空間を翔る程度の能力削除
今回は人形たちですか~。
個性豊かで良かったです。

京人形で何気に幻魔鬼武者に出で来る
「綾女」を思い出してしまった・・・・(トラウマです・・・つおいし・・・
9.90三文字削除
ふと、思いついた単語がローゼ(シャンハーイ
普段、人形と言ったら上海と蓬莱くらいしか出てきませんから、この人形たちのキャラは新鮮でした。
それにしても、上海可愛いよ上海
10.90司馬貴海削除
Lunaticでしかお目にかかれない三体の人形(スペカ)は未だ取れていません……。
アリスの他に私にもその優しさをください…… orz
11.80名前が無い程度の能力削除
キャラ立て、展開、長さと、今まで読んだアリスの人形物の中で一番良かったです。
13.80名前が無い程度の能力削除
人形達が、仲間(人形)や主(アリス)以外と普通に会話できるって珍しい・・・と思いながら読みましたが、これはこれでよかったです。
また彼女たちの話を読んでみたいです
・・・しかし、なんだ。上海人形より京人形の方が美鈴と会話しやすそうだなw
15.80名前が無い程度の能力削除
京人形のしゃべり方で思い出したけど、FFⅧの風神が普通にしゃべりだした時は感動した^^蓬莱が素晴らしすぎる^^
18.90初めてコメントするものです削除
 アリスや魔理沙に霊夢、藍だけでなく人形達のキャラ性も素晴らしい・・・特に蓬莱。格好良すぎます。
 人形・・・どれかなんて選べないじゃないか!!
19.100名前が無い程度の能力削除
どの人形もいいキャラしててかわいかったです。アリスの心を核にしているって設定も凄くいいと思いました。
あと、蓬莱は絶対やってくれると思ってました!最高です!!!
23.100名前が無い程度の能力削除
人形の設定が秀逸なだけでなく、SS自体も読みやすくて内容が纏まっており、気がつくと、ぐいぐい世界観に引き込まれていました。後書きにある「アリスの持つ、心の要素が核になっている」っていう設定も素敵です。むしろ、ココで完全にやられましたよ。良作SSをありがとうございました。

あと…蓬莱、貴女は少し男前過ぎる!やってくれると最後まで信じてたら、まさその通りで、不覚にもホロリときたのよネッ!
24.90名前が無い程度の能力削除
暇人さんの作品はこれまで全部読んできましたが、どんどん上手になっているのを感じます。テンポが良くて、爽やかな後味で、読んで良かったと思いました。
これからも注目してますので、頑張って下さい。

要望:暇人さんに萃香主役の作品を書いてもらいたいなぁ~
26.100SAM削除
可愛い人形たちに囲まれて、アリスは幸せ者ですね。

五体の人形とその性格から戦隊ヒーローを連想してしまいました……
32.90bobu削除
主人思いのいい人形たちですね。
5体全部のキャラが立ってる。
次はオリキャラが厄で雛の話なんて書いてもらえたらななんてw
次回も楽しみにしてます、ありがとうございました。
33.90名前が無い程度の能力削除
人形達が可愛すぎですよ~
魔理沙人形になって五人全員とイチャコラしたいなぁ。
34.無評価暇人KZ削除
いつもお米ご馳走様です。美味しくいただいています。
よく見れば、以前にもお米をいただいている方がいらっしゃるようで、毎度ご馳走様です。
なんだかリクが寄せられているようですな。
萃香は完全に想定外でした。ネタのストックがないので思いつき次第ということで。
で、厄がオリキャラってどういうことでぃすか?
お時間いただけるようなら仔細を僕のサイトの掲示板なりメールなりに書き殴ってくださいませ。
ここで会話するのはあまりよくないので。
37.90蝦蟇口咬平削除
すばらしい!すばらしい人形たちです。一人くだs(ryu
49.80名前が無い程度の能力削除
蓬莱かっこいい!
個性のある人形たち、皆かわいいな~
58.80名前が無い程度の能力削除
それぞれの人形がアリスの心を核にしてるのか、面白い。
60.100irusu削除
京と蓬莱は特にお気に入りです。
67.90名前が無い程度の能力削除
オルレアン可愛いなー パーティーまでプレゼントを探すと言ったくだりは笑いと涙が出ました
68.100名前が無い程度の能力削除
蓬莱かっこいい!
霊夢は花粉症防止マスクが欲しいのか?
76.100絶望を司る程度の能力削除
蓬莱マジかっこいいわ