<1>
「……今週減った蔵書の量は?」
「非常に申し上げにくいですが、33冊。新記録です」
ランプの明かりが頼りなさげに揺れる、図書館の片隅。
手元の台帳を浮かない顔で捲りつつ、小悪魔が申し訳なさそうにパチュリーの問いに答える。
「その、何と申し上げれば良いのか……私が至らないばっかりに」
「いえ、あなたは良くやってくれているわ。気にしないで」
「今日だって帽子の中や懐に本を入れているところを見計らって後ろから飛び掛り、広辞苑のカドで100回くらい殴ったんですよ? それなのに」
「まったく、しぶとい奴ね」
何の話かといえば、図書館の平穏を少しずつ、だが確実に蝕んでいる一人の女――霧雨魔理沙についてであった。
小悪魔の言う通り、彼女らとて現状に甘んじているわけではない。
あれこれと防犯対策を練ってはいたし、「おおっと手が」と言いつつ広辞苑のカドで後頭部を打ち据える、
新しい推理小説の栞に犯人の名を書き込んでおく……くらいのことは日常的にやっていた。
だが――相手が悪かった。
どうやら魔理沙というのは、相手が反抗し、自らが苦境に立たされるほどに燃えてくる人種のようだったのだ。
SかMかはっきりしないというのはさて置いて、厄介なことこの上ない。
パチュリーたちが妨害行為に燃えれば燃えるほど、魔理沙の窃盗テクにも磨きがかかっていたのである。
「このままではイタチごっこが続くばかりです。本当に何とかしないと……ここしばらくは、ちょっとひどいですよ」
「そうよね。まあ確かに、順当に行けば魔理沙のほうが私たちより先に天寿を全うするんでしょうけど……
死ぬまで借りる、を連発されていたらたまった物じゃないわ」
「続きが気になる本に限って、いいところで続刊を持ち去るんですよね。あれはワザとじゃないでしょうか」
「……性根の悪さがにじみ出てるわね。魔理沙らしいわ」
小悪魔の言葉に賛同したのは、魔理沙と同じく図書館のお得意様になったアリスだった。
ここ最近では、一層ひどくなった蔵書持ち出し被害の愚痴をパチュリーたちから聞かされるのが日課である。
アリスはテーブルの端で魔術理論書に顎を乗せ、二人の話に聞き入っていた。
「魔理沙はあの性格だし、言って聞くようなタマじゃないものね」
「言って分かって下さるなら、私たちだって無駄な労力を使わずに済むのですが」
一箇所だけがドス黒く変色した広辞苑を弄びつつ、小悪魔がポツリとこぼす。
「やっぱり、防戦一方だから良くないんじゃないかしら。攻めの姿勢を見せてみたらどう?」
「攻めの姿勢、とは?」
「うーん……奪われたら奪い返す、というのが王道だけれど」
「それなら先日、小悪魔に取り立てに行って貰ったわ。でも、結果は芳しくなかったの」
「ゴネられたの? それともシラを切られたとか?」
「それが……小悪魔、アリスに先日のことを話してちょうだい」
「はあ」
小悪魔は蔵書減少にブレーキをかけ、あわよくば奪われた本を少しでも取り戻そうと使命感に燃えつつ魔理沙宅へ向かった。
「ここがあの女のハウス……すいませーん、ご在宅でしょうか? 文々。新聞社支部のものですがー」
ドアを叩きつつ、ちょっと声色を変えた小悪魔は適当な身分をでっち上げた。
「あー、新聞? それならこの前も言ったろ、ウチは遠慮しとくぜって」
「簡単なアンケートなのでお時間は取りません。あ、今なら石鹸とか差し上げますよ」
「じゃあ石鹸だけ貰っとくぜ……って、うおっ!?」
「魔理沙ァー!! てんめええええッ!!」
眼光一閃。
魔理沙がほんの少しドアを開けた瞬間を、小悪魔は見逃さなかった。
わずかな隙間に素早く足を押し込むと、流れるような動作で身体をこじ入れる。
そのまま隠し持っていた愛用の広辞苑に手をかけ、少ないスペースを無駄にすることなく流麗なフォームで振りかぶった。
パチュリーから伝授された、図書館に住まうものの嗜みである。
「こっ、小悪魔!?」
「ええ度胸しとるのうワレェ! タマぁ取ったるけんのう……シャアッ!!」
反射的に身をよじる魔理沙。
次の刹那、轟音とともに振り下ろされた英知の結晶は、魔理沙の脇にあった靴入れを容赦なく粉砕した。
「ななな何すんだ!! どういうつもりだよ!?」
「……あっ、私としたことが。すいません、少し興奮していたようです(ちっ、インパクトをずらされました)」
いきなりの展開に面食らい、及び腰になっている魔理沙にいけしゃあしゃあと返す小悪魔。
粉々になった靴入れの破片を踏みしめつつ、平然とした仕草で室内へと足を踏み入れる。
「ああっ、靴の中に木片が……っておい、何しに来たんだよ?」
「まだ分からないのですか。パチュリー様に代わって、あなたが持ち去った蔵書を取り返しに来たんですよ」
「――ほう……ついに攻めの姿勢を見せることにしたわけか。ご苦労なことだぜ」
「むっ、何ですその余裕は? さあ、これ以上家具を粉砕されたくなかったら持ち出した本を返して下さい!」
「玄関が木屑まみれになったのは予想外だったが……まあいいぜ。取り返したかったら好きにすればいい――出来るものなら、な」
ふてぶてしい態度で余裕を崩すことのない魔理沙。
小悪魔はそんな彼女の様子を少々訝しんだが、相手が動きを起こさないのを良いことに家捜しを始めた。
いや――始めようとして、固まってしまった。
この室内を表現するための言葉が見つからない。
うず高く積み上げられたガラクタ混じりのマジックアイテムの山は窓を塞がんばかりにそびえ立ち、
箪笥や本棚の上の雑貨や積み本は、崩壊寸前の絶妙なバランスで辛うじて形を保っている。
ベッド(と推測される四角いスペース)の上には適当に折りたたまれた衣類が店開きをしており、シーツの地の色さえ分からない。
そして床の上にはフラスコやらビンやらが散乱しており、「足の踏み場もない」という言葉を絵に描いたかのような情景が広がっていた。
絶望的なまでの混沌。
こんなに散らかった部屋で、人間は生活できるのだろうか。
「これは……!!」
「ほら、どうした? 本を取り返すんじゃなかったのか?」
ニヤニヤと笑いながら小悪魔を見つめる魔理沙。
小悪魔は目に付いたところに積まれていた本を一冊、手に取ってみる。
しかしそれは図書館の蔵書ではない、愚にもつかない類の古文書でしかなかった。
焦った小悪魔はガラクタの山を掻き分け、懸命に奪われた本を捜し求める。
だが彼女が奮闘すればするほど、部屋がカオスっぷりを増して行くばかりだった。
「こんな、こんなのって……」
「ご苦労さんだぜ。そうだ、一つ良いことを教えようか」
「な、何ですか」
「借りてきた本がどこにあるのか……もはや私にも分からん!」
愕然とした表情で、非情な言葉に聞き入る小悪魔。
彼女の手から、拾い上げられていたフラスコが音を立てて落ちた。
「これで分かったろ? お前にも、私にも……そしてパチュリーにも。本のありかは分からないんだぜ」
「ちくしょう……ちくしょう……っ……地区Showー!!」
どんな催し物だろうか。
それはさておき、ヤケになった小悪魔は泣きながら魔理沙に殴りかかる。
が、床に放置されていたドロワーズに足を取られてバランスを崩してしまった。
「おおっと危ない。家具も一つ壊されちまったし、物騒なお客さんにはそろそろお引取り願うぜ」
魔理沙は小悪魔の一撃をかわすと玄関へと蹴り出し、ミニ八卦炉を取り出して――
「……私がお話できることは、以上です」
「どこからツッコめば良いのかしら」
額に汗を浮かべつつ、アリスは小悪魔の話を聞き終えた。
「家捜しに入っても、盗み出した当人にさえ本のありかが分からないって言うのよ。ひどい話だと思わない?」
「あの部屋は異常です。あんな所で生活している魔理沙さんの感覚を疑います」
「そう、そんなに……私が以前訪ねたときも、お世辞にも綺麗と言える部屋じゃなかったけど。さらにひどくなってるのね」
「そんなこんなで、このままでは行方不明になる本が増える一方なの。攻めに転じようとしても、相手がその調子では……」
実に気の毒な話だ。
図書館を利用するものの一人として、何か彼女らに協力できることがあれば良いのだが……
ふとアリスは、適当に思いついたことを口に出してみた。
「じゃあ、こんなのはどうかしら」
「えっ?」
「魔理沙の家を丸ごと盗んで、そこから本だけじっくり探す、とか……それで、ついでに価値のありそうなものを頂戴して
仕返ししてやれば良いのよ」
ぽかーん、とした表情でこちらを見るパチュリーと小悪魔。
やはり適当な思いつきなど言わない方が良かったか。
――なーんてね、そんなこと出来ないわよね……と続けようとしたアリスだったが……
二人はぽん、と手を打つと、同時にアリスを見つつこう言った。
「その発想は無かった!!」
「――なーんてね……えっ、本気にしたの!?」
こうして、図書館コンビと常連さん1名(結局巻き込まれた)による蔵書奪還作戦が展開されることになったのである。
<2>
「家を盗むとなると、かなり大掛かりな話になるわね」
「ですね。色々と考えなくてはいけません」
「えーっと、言い出した私が言うのもなんだけど。本当にやるの?」
「もちろんよアリス。あなたのアドバイスはとても有意義だった……そうよね、みみっちい攻めなんてするべきじゃなかった。大きく出ないとね」
「目標物ではなく、それを含めた環境そのものを奪う……良い作戦です。是非やりましょう」
パチュリーと小悪魔は妙にノリノリである。
アリスは二人が本気にするとは思っていなかったので面食らったが、勢いで参戦するという話の運びになってしまった。
「まず、魔理沙が自宅にいては実行できないわね。なんとかして長時間、家から追い出す作戦が必要になるわ」
「どこか他所に長居させれば良いんでしょうけど……どうしましょうか」
「他所と言っても、ここへ来られては元も子もないわよね。適当な脅迫状でも出して、まずは動揺を誘ったらどうかしら」
「脅迫状ね。ナイスアイデアだわ、アリス」
薄暗い図書館の中ということもあり、実に陰湿な作戦会議だった。
アリスも何だかんだ言いつつ、真面目に参加している。
「その脅迫状ですが、どうしましょうか? 魔理沙さんは心臓に毛が生えてるタイプでしょうから、並みの脅迫で動揺するとは思えませんけど」
「うちの蔵書に、脅迫状の書き方とかあったかしら?」
「うーん……ちょっと覚えがないですね」
「いざ書くにしても、筆跡を知られている人が書いたら見破られてしまう危険性があるわね」
「出来れば、書き方のクセを知られていない複数人の文字を組み合わせて作ると良いでしょうね。新聞の切抜きを使うとか」
「なるほど……まずは脅迫状作りね。試しに、私は人形達に書いてもらってみるわ」
「では、こちらは館の皆に当たってみる。切れ味のある脅迫状を作りましょう」
こうして、この日の作戦会議は終了した。
さて、作戦会議から数日後。
魔理沙が紅魔館から帰ったのを見計らって、3人が集まった。
「分かってはいたけれど、本当に図太い奴だわ……でもまあ、これで作戦にも熱が入るというものよね」
「館の皆さん、快く頼みを引き受けて下さいました。これがその成果です」
小悪魔が懐から封筒を取り出す。
さわやかに脅迫状を書く奴らが住まう館。流石、悪魔の居城はさりげなくクレイジーである。
「まずは美鈴さんの脅迫状です」
「どれどれ……」
<脅迫状1:作者 紅美鈴>
?在情况正在乘坐。
在厚无耻的上道德心正在缺少。
人的道路也反取的行的身体,反正是。
?自己想到的不是在安全的地点。
如果在有坐危的眼睛了来,?忙?的人?个有??
是后悔自己的犯了的。
如果然后一身都是后悔死好?。
化在?血想作。
?已經死了!!
「なるほど……美鈴、大陸出身らしく漢字攻めで来たわね」
「なにげに犯、死とか血とか、危険な連想をさせる文字も混ざっていますね」
「得体の知れない不気味さがあるわね。変換しきれてない部分とか」
「では次に、咲夜さんの脅迫状を見てみましょう」
<脅迫状2:作者 十六夜咲夜>
Aは合鍵 こっそり入る
Bは爆弾 おまえを逝かす
Cはチョッパー 肉切り包丁
Dは電ノコ 肉ひきちぎる
Eは永眠 人生終了
Fはファッキン この×××め!
Gは虐殺 ジェノサイカタッ!
Hはホウ酸 ゴキブリ殺す
Iは石積み 賽の河原で
Jは……
「…………(半泣き)」
「…………あなたのとこのメイド長、ストレスでも溜まってるんじゃ……」
「す、素晴らしい出来栄えですね!」
<脅迫状3:作者 スカーレット姉妹>
はじあまして。おほようごぎいます。
わたしが小指の先と雨傘の隙間でミツツッピ川を渡ったころ、
庭にはたくさんのピラニアが干されていまJた。
そんなアTタの特技は、死にかけの深海魚のモノマネです。
靴下の臭いをかぐと、わたしのタマツイはふざけやがってテメエぶっ死ろすぞ!!
(中略/字が汚くて読み取れない)
殺ね。殺んでしまえ。ついさっきバルサンを焚きました。
奈良の大仏は思ったよりも犬きかったです。
そんなワタツのマイムーブは㍊鏡の前でhPa半笑いの練習お㍊することです。
めなたにあいたい。いま、おへやおでて、ぬすんだばいくではしりだしまつた。
あなたのおうちがみえてくると、わたすのしんぞうわばくはつしそうです。
聞こえるカイ? おれのブルース(インクが不自然に赤く滲んでいる)
「…………!!」
「これが、ゆとり教育の弊害なのね……!!」
「書いてくれと頼んだ私が言うのもアレですけど、これコメントしづらいですよね」
頼まれたら事情を深く聞くこともなく、快く脅迫状を書く奴ら。
しかも、その出来が見ての通りのもの(館主姉妹の作品が一番ひどい)。
紅魔館の将来は、非常に不安なものと言わざるを得ない。
「さすがは悪魔の館ね……住人達のセンスが並大抵ではないことは十分に理解できたわ。
ここでダメ押しとして、私からはこれを提供させてもらうわね」
ひとしきり脅迫状を見つめたアリスは、そう言って懐から真っ黒な封筒を取り出した――――
「……うちの人形の中で、最もサイコな隠し玉。グランギニョルが書いた力作よ」
<3>
「さて、脅迫状は完成したわね」
「はい。適当に切り貼りして繋ぎ合わせたものですが、予想以上にサイコな出来です」
アリスが帰宅したのち、脅迫状の仕上げを引き受けたパチュリーと小悪魔はせっせと作業に勤しんで作品を完成させた。
奪われた蔵書を取り戻し、図書館に平穏を取り戻すにはもっと建設的な方法もあるように思われるのだが……。
根が陰湿なのかちょっとズレているのか、二人は心から真剣に脅迫状を作成したのである。
「あとはこれを悟られぬように魔理沙のもとへ届けるとして……」
「次の手はどうしましょうか?」
「私に考えがあるわ。そうね……明日にでも、霊夢にここへ来てもらいましょう。
レミィが今夜辺りにまた神社へ行くでしょうから、そのときに伝えてもらえるよう頼んで」
「霊夢さんですか? 図書館には縁遠い人選ですね」
「でも、今回の魔理沙包囲網には欠かせない存在なの。のちのち重要になるポジションよ」
他人の手を借りるのに、自分から出向かず相手に来させる。
出不精の鑑のような発想だ。
私はこうはならないように気をつけよう、と小悪魔は肝に銘じた。
「でも、霊夢さんは見返りがないと動かないような気がしますが……」
「咲夜に言って、米袋の一つや二つでも積ませれば楽勝じゃないかしらね」
「……笑顔で尻尾を振るイメージが、容易に湧きました」
清貧を地で行く霊夢の台所は、かなりの部分で紅魔館を始めとした知人・友人たちに助けられている。
一芝居うつだけで食材が手に入るなら、彼女とて嫌な顔はしないだろう。
今回の作戦で霊夢に担当して欲しいのは、「魔理沙の行動を制限する」という役割である。
3人で話し合って決めた、行動制限プランを含めた内容は以下の通りだ。
なお、以下の内容に対するツッコミは一切受け付けない。
①脅迫状を送りつける数日前から、魔理沙宅に様々な波状攻撃を仕掛けておく。
なお安全を考慮して、波状攻撃は遠隔操作および連絡が可能なアリスの人形達が担当する。
万が一、魔理沙に気づかれそうになった時には自爆する覚悟で臨んでもらう。
(ピンポンダッシュ、寝ている時間帯にしつこく窓を叩く、くさやの干物を投げ入れる、黒猫をうろつかせるetc.)
②脅迫状を受け取り、少し揺さぶりをかけたところで霊夢が「私が匿うから心配しないで」と優しく声をかける。
(念のため、魔理沙が声をかけそうなもう一人――つまりアリスは、魔理沙が相談に来た場合に冷たくあしらう様な行動を取る)
③魔理沙陥落。霊夢と一緒に博麗神社へ→その後、パチュリーの不思議な魔法で魔理沙の家をまるごと盗む。
(霊夢には、魔理沙が<自主規制>な展開を期待するような言動をとりまくってもらう。時間稼ぎのための策だ)
④霊夢の思わせぶりな行動連発による精神攻撃。
(たまには一緒にお風呂入る?/怖いなら一緒に寝ようか?etc.)
⑤魔理沙発情。脅迫を受けていたことをさっぱり失念。
⑥夜の神社でギシギシアンア<自主規制>←ならなかったらならなかったで何とかするが、そうなった方が面白い。
もし<自主規制>な展開にならなかった場合は、霊夢のアドリブで凌いでもらう(事故を装って魔法のほうきをへし折るetc.)
⑦その隙に、盗んだ家の中を心行くまで家捜し。金目になりそうなものは香霖堂に売りさばき、
値打ちのありそうなマジックアイテムは没収。奪われた蔵書を、草の根分けても探し出す。
⑧以降の展開は、可能性によって分岐する。
GOOD END→蔵書を無事取り戻す。何事もなかったかのように魔理沙の家を魔法の森に戻し、以降はシラを切り続ける。
BAD END→混沌の部屋から蔵書を救い出すことは出来なかった。腹いせに、魔理沙の家にロイヤルフレア。炎を囲み、皆で輪になって踊る。
TRUE END→蔵書を取り戻す、という正義のもとに一つになったパチュリー、小悪魔、アリスは戦いの果てにカラテの極意に目覚め、
幻想郷を侵略せんとする邪悪な意志との戦いに旅立つ(2007年夏・劇場公開予定)。
霊夢の行動次第では、家捜しに割ける時間が大幅に変化することが予想される。
アリスの人形達による波状攻撃(ただの嫌がらせだ)を含めて、勇敢かつ臨機応変な対応が求められるだろう。
「では、言伝の内容を書いておいて下さいね。あとで咲夜さんにでも渡しておきますから」
「了解よ」
<4>
「……で、私に頼み事っていうのは何かしら?」
さて、翌日の昼下がり。
咲夜→レミリアというルートを経てパチュリーからの頼みを知った霊夢は、埃っぽい空気に顔をしかめながらも図書館にいた。
当初は「厄介事はごめんだわ」と渋っていたのだが、レミリアに同行していた咲夜が手品の如く米袋を目の前に置いたところ、態度を豹変させたのである。
「まったく……しょうがないわねえ」と言いつつも本能的に米袋を抱え込む霊夢の姿を見て、レミリアたちは哀れみの涙を流したという。
「わざわざ呼び出してごめんなさい。今回の話と言うのは……そう、あなたにしか出来ないことなのよ」
「ほほう? で、その内容とやらを聞かせてよ」
こほん、とわざとらしく小さな咳をしたパチュリーは、ひどく真剣な面持ちで言い放った。
「――――魔理沙を発情させて欲しいの」
「帰る」
「パチュリー様、説明が簡潔すぎます!」
「そうだったかしら?」
いまいち分かりかねる、といった表情のパチュリーの脇では、帰ろうと踵を返した霊夢を小悪魔が必死に押し止めていた。
「すいません、たまにパチュリー様は淫靡なうわ言を口走るクセがあるんですっ!」
「どんなクセだそれは」
「今のはうわ言じゃないわよ。これからするのは真面目な話なんだから」
「ほほう? じゃあ、その真面目な話とやらを聞かせてよ」
「魔理沙を発j」
「おおっと、手が!」
引き続き淫靡な発言を繰り返そうとしたパチュリーの頭に、小悪魔が鋭い一撃を叩き込む。
「もぽえ」
「話がややこしくなるじゃないですか。少し黙ってて下さい!」
奇怪な悲鳴とともにテーブルに沈んだパチュリーを見下ろしつつ、小悪魔は手馴れた動作で広辞苑を懐に仕舞い込んだ。
「え、ええっと……(今の辞書、どう見ても懐に入るサイズじゃないわ。それに、今の一撃……予備動作が全く見えなかった。恐ろしい娘!)」
「ああ、失礼しました。お話と言うのは、こういうことなんです」
テーブルに突っ伏したまま、得体の知れない色の液体を溢れさせるパチュリーをさて置き。
小悪魔は「蔵書奪還作戦」立案の背景と、霊夢の協力を仰ぎたい旨を(パチュリーの原案よりは多少マトモに)伝えた。
「――なるほど……。ここの事情はあまり知らなかったけど、それは傍迷惑な話よね」
「でしょう?」
がば、と起き上がり霊夢の言葉に同調するパチュリー。思ったよりも回復が早い。
「で、脅迫を受けて動揺する魔理沙がとっさに声をかけようとする相手と言えば……」
「私よりも、アリスの方が良いんじゃないの? ほら、あの二人は何だかんだ言って良いコンビじゃない」
「パチュリー様、まずは顔面の不気味な液体を早く拭き取って下さい」
「ああ、これは失礼(ふきふき)……アリスも私たちの作戦に協力しているの。それに、あなたの方が咄嗟にある事ない事言うのが得意そうだと思って」
「誉めてるのか貶してるのか、分かんないわね」
微妙な表情でお茶をすする霊夢。
「まあ、お米を目の前にして思わず引き受けるっぽいことは言ってしまったし……分かったわ、協力する」
「ありがとうございます! 霊夢さんの協力が得られれば心強いですよ」
「最悪の場合は、事故のふりをして魔理沙のほうきをへし折っても構わないわ。とにかく作戦実行中は、魔理沙に飛ばれてはまずいのよ」
「しかしまあ、魔理沙がここまであんたたちの恨みを買っていたとはねえ」
「これは怨恨とか、そんな小さいスケールの話じゃないわ。図書館に生きるものが行うべき正義なのよ!」
「そうです。正義です!」
正義ねえ……とお茶をすする霊夢の前で、パチュリーと小悪魔は「Justice! Justice!」と声を掛け合いながら肩を組んでステップを踏み始めた。
病弱と言う話の割にはやたらとアクティブだなあ、とか
本を盗られないようにする前に、本気で館に入れないように頑張ってみたらどうかなあ、とか色々と思うところはあったが、
お米を貰えるなら黙っておこう、と霊夢は思うのだった。
彼女とて馬鹿ではない。さまざまな騒動に関わるうち、「黙る」ことを覚えたのだ。
<5>
混沌の部屋でうたた寝をする魔理沙。
薄暗い部屋でニヤニヤ笑いを浮かべるパチュリーと小悪魔。
嫌がらせプランを練るアリスと人形達。
縁側にて、「引き受けない方が良かったかなあ」と思いつつお茶をすする霊夢。
蔵書奪還作戦、実行の時は静かに迫りつつあった――――
To be Continued.
Next Episode is “Bibliomania Inferno”
とりあえずTRUE ENDにツッコミたくて仕方ないが受け付けませんか・・・残念。
>魔理沙発情
吹いた。
続きが楽しみです。
グランギニョルの脅迫状とは。
特に⑥番シナリオでそうなったら面白いルート熱望www!
展開が楽しみでする
小悪魔、なかなか恐ろしい事をするね
それに耐えられる魔理沙、君、何者だい?