夜の迷いの竹林は、昼間の姿とはまるで別物だ。
風が通れば笹の葉が揺れ、どこからともなく虫の声が響く。
だがその音すら、耳に届くころには霞んでいた。
――息が苦しい。身体が重い。
少年は竹の幹にもたれながら、ゆっくりと呼吸を整えていた。 本来なら、今頃は永遠亭の寝台に横たわっているべき時間だ。
「....ちょっと、だけだし」
夜風に当たりたかった。
満天の星空を、久しぶりに見たかった。 ほんのわずかな願いが、いつのまにか竹林の奥へと彼の足を運ばせていた。
そしてその時だった。
ちらちらと、小さな火が見えた。
竹と竹の隙間から、赤く揺れる焚き火の光。 誰かが、こんな場所で夜を過ごしているらしい。
近づいていくと、火のそばに座る少女の姿があった。
赤い瞳に、白い髪。
どこか無表情で、静かな横顔。 焚き火の明かりに照らされて、彼女はぽつりと口を開いた。
「....あんた、永遠亭の患者だろ。迷ったのか?」
少年は少しだけ驚いたが、素直に頷いた。
「うん。星が見たくて.....ちょっと抜け出しただけだったんだけど」
「で、案の定迷ったってわけか。まったく.....困ったやつだ....」
少女は立ち上がらず、棒の先で焚き火をつついた。火の粉が空に舞う。
「座れよ、夜の竹林は甘く見ると帰れなくなる」
「....ありがとう」
少年は焚き火の向かいに腰を下ろした。
火の温かさが、じんわりと体に沁みる。
「僕、名前は言わないよ。どうせすぐいなくなるし」
「へぇ、潔いな。まあ、こっちも名乗るほど愛想よくないし」
けれど少女は、間を置いてから呟くように言った。
「藤原妹紅。ここの住人みたいなもんだ」
「.....“ふじわらのもこう”?ああ、永遠亭の人が言ってた。『変な不老不死の女が竹林に住んでる』って」
「変なって余計だろ。ま、事実だけど」
ふっと笑ったような、笑っていないような表情。 少年は焚き火を見つめながら、ぽつりと口を開いた。
「永遠はどうだ? ....楽しいか?」
その言葉に、妹紅は一瞬だけ動きを止めた。
「....地獄だよ」
「....そっか」
それっきり、しばらく言葉はなかった。
火のはぜる音だけが、静かに響いていた。
それでも、妙な心地よさがあった。 誰かと黙って火を囲むことが、こんなに穏やかだなんて、知らなかった。
「ねぇ、妹紅さん」
「“さん”はやめろ。」
「じゃあ....妹紅」
「....何だよ」
「また、話してもいい?」
妹紅は少しだけ顔を伏せ、竹の葉を足先でかさりとかき回した。
「....好きにしろ」
その夜、少年は妹紅と話したことを夢みたいだと思った。 でも、火のぬくもりと風の匂いだけは、ずっと身体に残っていた。
その日から、少年はときどき妹紅のもとを訪れるようになった。
もちろん永遠亭の誰にも告げずに――うさぎたちが、過剰に心配するからだ。 たまに道に迷いかけることもあったが、不思議と妹紅の焚き火の場所は、すぐ見つかった。 まるで、煙が呼んでいるみたいだった。
「竹林って、ずっと同じ景色なのに、日によって雰囲気が違うよね」
ある夜、少年は火を見つめながらそう呟いた。
「風向き、月の明るさ、音の反響....自然ってのは、案外気まぐれなんだよ」
妹紅はそう言って、竹の枝を一本手に取ると、火の中にくべた。 細い枝は、あっという間にパチパチと赤く燃え尽きる。
「人間も、気まぐれ?」
「まあな。だから、すぐ飽きる」
「....君も、僕に飽きる?」
その言葉に、妹紅は顔をしかめた。
「そういうの、嫌いだ。別れの準備みたいな言い方は、つまらない」
「ごめん。....でも、もう長くないのは本当なんだ」
少年は、どこか淡々としていた。 それが強がりか、悟りか、妹紅には分からなかった。
「だからさ、僕は君に頼みたいんだ」
「何を?」
「僕の話、全部覚えててくれない?死んだあと、君の中に僕が生きてたら....少しは“生きた”ことになると思うから」
焚き火が、ぱち、と小さく爆ぜる。
「....私は、記憶力が良くないぞ」
「そうなの?」
「長く生きすぎると、時間が希釈される。百年くらい前のことは、霞みがちになる」
それでも、と妹紅は呟いた。
「話くらいは聞いてやる。だから、好きに喋れよ」
少年は頷いた。
そして、語り始めた。 自分の好きな本のこと。永遠亭の廊下の木のきしむ音。 子どもの頃に見た桜並木。 家族のこと。笑った日、泣いた日、誰にも話さなかった夜の夢のこと。
妹紅は黙って聞いていた。否定も、慰めもしなかった。 ただ、焚き火の向こうにいる少年の声を、しっかりと耳に刻みつけていた。
「....ねぇ、妹紅」
「ん?」
「君は、ひとりが寂しくないの?」
その問いに、妹紅はすこしだけ間を置いた。
「慣れてる。....でも、ふとした時、忘れてたはずの顔が浮かんだりする」
「それって、寂しいってことだよ」
「かもな」
妹紅は、枝を火に投げ入れる。火の粉が舞い上がる。
「でもまあ、こうして誰かと話すのも、悪くない。....たまには」
少年は、ほんの少しだけ笑った。
「じゃあ、話を続けてもいい?」
「聞くって言ったろ」
焚き火が、音もなくゆれていた。 この夜が、永遠であればいいと――少年は思った。
竹林に少年の姿はなかった。 焚き火の跡だけが、少しだけ風に揺れていた。
「....あいつ、もう来られないんだな」
妹紅は一人つぶやいた。 少年と最後に言葉を交わしてから、四日が過ぎていた。 風の匂いが変わり、虫の声も少なくなった――秋が近い。
永遠亭を訪れるつもりはなかった。 だがその夜、彼女はいつになく落ち着かない心を抱えて、気づけば建物の近くに立っていた。
月明かりの中、静まり返った建物の縁側。 裏手に回ると、少し開いた窓から、少年の部屋が見えた。
灯りは落とされていた。 その代わり、薄明かりの中、少年の横顔が布団の上に浮かんでいる。 目は閉じられていたが、浅く速い呼吸が、生の名残を訴えていた。
「....来たのか」
声がした。目を閉じたまま、少年が呟いた。
「やっぱり、来てくれると思ってた」
「....なんで分かった」
「焚き火の匂いがしなかったから」
妹紅は、ふっと鼻で笑った。 窓辺に腰を下ろし、竹林から持ってきた細い枝を一つ手に持った。
「今日、話せることは少ないかもしれない」
「いいさ。....聞いてるだけで、落ち着く」
しばらく、言葉はなかった。
夜風が、窓から静かに入り、妹紅の白い髪を揺らす。
少年の顔は青白く、まるで半透明の人形のようだった。 けれどその目元は、不思議と穏やかだった。
「君は、きっとこれからもずっと生きるんだろうね」
「そういう性質だからな」
「なら、お願いがあるんだ」
少年の声は、風に溶けそうなほど弱かった。
「僕のこと....たまに思い出して。思い出すだけでいいから。僕の話、覚えてて」
「....お前の声は、火と一緒に焼きついてる。忘れろって言われても無理だ」
妹紅は、枝を一本、床の上に置いた。 焚き火に使っていた竹。 いつもの夜の名残りを、今ここに届けるように。
「お前は、ここにいた。ちゃんと生きてた」
「....うん」
その返事が、最後だった。
しばらくして、少年は静かに息を引き取った。
それを見届けた妹紅は、何も言わずに立ち上がった。 窓から月を仰ぎ、深く一度だけ呼吸をした。
そして、小さく呟いた。
「さよなら、なんて言わないよ」
季節は何度か巡った。 風が緑を揺らし、やがて葉は赤く染まり、白く積もった。 それでも妹紅は、変わらず竹林の奥で焚き火を続けていた。
火は、夜ごとに燃えた。 小さな焚き火。
何の目的もない、ただの炎。 けれどその向こうには、誰かの記憶が残っていた。
ある夜、永遠亭の鈴仙が妹紅を訪ねてきた。
「....あんたって、本当に奇特ね。毎晩こんな所で何してるのよ」
「火を見てるだけだよ」
妹紅は言った。
「ここに来る子がいた。火を見るのが好きだった。――短命な子でね」
鈴仙は黙った。彼女も知っていた。 あの少年の病室で、いつも静かに本を読んでいた姿。 ある日、ふと姿を見なくなったこと。
妹紅は続けた。
「話をした。笑ったり、泣いたり。....それだけ。でも、確かに生きてた」
「....ふうん」
鈴仙は焚き火を見つめる。
「それで、ずっと火を焚いてるってわけ?」
「そうだな。誰かを忘れないってのは、こういうことかもしれない」
風が吹いて、炎が揺れる。
記憶というものは、時に重く、時に薄れる。 だが、この火だけは――今日も確かにそこにあった。
妹紅は、夜になるたび竹を折り、火を起こし、少年と過ごした夜の空気を再生するように焚き火を囲んだ。
それは儀式ではなかった。慰霊でもない。 ただ、彼女なりの「約束の果たし方」だった。
そしてある夜、火を見つめていた妹紅は、ふと呟いた。
「なぁ、そっちは、どうだ?」
返事はない。 けれど、火の奥から吹いた風が、妙に心地よかった。
妹紅は少しだけ笑って、竹の枝を火にくべた。
「....忘れてないさ。お前の話は、ちゃんと残ってる」
その時、竹林の向こうで一瞬だけ、少年の笑い声が聞こえたような気がした。
気のせいかもしれない。
だが、それでよかった。
火は、今日も灯っている。 それが、永遠に生きる者と、短く生きた者との――確かな絆だった。
――息が苦しい。身体が重い。
少年は竹の幹にもたれながら、ゆっくりと呼吸を整えていた。 本来なら、今頃は永遠亭の寝台に横たわっているべき時間だ。
「....ちょっと、だけだし」
夜風に当たりたかった。
満天の星空を、久しぶりに見たかった。 ほんのわずかな願いが、いつのまにか竹林の奥へと彼の足を運ばせていた。
そしてその時だった。
ちらちらと、小さな火が見えた。
竹と竹の隙間から、赤く揺れる焚き火の光。 誰かが、こんな場所で夜を過ごしているらしい。
近づいていくと、火のそばに座る少女の姿があった。
赤い瞳に、白い髪。
どこか無表情で、静かな横顔。 焚き火の明かりに照らされて、彼女はぽつりと口を開いた。
「....あんた、永遠亭の患者だろ。迷ったのか?」
少年は少しだけ驚いたが、素直に頷いた。
「うん。星が見たくて.....ちょっと抜け出しただけだったんだけど」
「で、案の定迷ったってわけか。まったく.....困ったやつだ....」
少女は立ち上がらず、棒の先で焚き火をつついた。火の粉が空に舞う。
「座れよ、夜の竹林は甘く見ると帰れなくなる」
「....ありがとう」
少年は焚き火の向かいに腰を下ろした。
火の温かさが、じんわりと体に沁みる。
「僕、名前は言わないよ。どうせすぐいなくなるし」
「へぇ、潔いな。まあ、こっちも名乗るほど愛想よくないし」
けれど少女は、間を置いてから呟くように言った。
「藤原妹紅。ここの住人みたいなもんだ」
「.....“ふじわらのもこう”?ああ、永遠亭の人が言ってた。『変な不老不死の女が竹林に住んでる』って」
「変なって余計だろ。ま、事実だけど」
ふっと笑ったような、笑っていないような表情。 少年は焚き火を見つめながら、ぽつりと口を開いた。
「永遠はどうだ? ....楽しいか?」
その言葉に、妹紅は一瞬だけ動きを止めた。
「....地獄だよ」
「....そっか」
それっきり、しばらく言葉はなかった。
火のはぜる音だけが、静かに響いていた。
それでも、妙な心地よさがあった。 誰かと黙って火を囲むことが、こんなに穏やかだなんて、知らなかった。
「ねぇ、妹紅さん」
「“さん”はやめろ。」
「じゃあ....妹紅」
「....何だよ」
「また、話してもいい?」
妹紅は少しだけ顔を伏せ、竹の葉を足先でかさりとかき回した。
「....好きにしろ」
その夜、少年は妹紅と話したことを夢みたいだと思った。 でも、火のぬくもりと風の匂いだけは、ずっと身体に残っていた。
その日から、少年はときどき妹紅のもとを訪れるようになった。
もちろん永遠亭の誰にも告げずに――うさぎたちが、過剰に心配するからだ。 たまに道に迷いかけることもあったが、不思議と妹紅の焚き火の場所は、すぐ見つかった。 まるで、煙が呼んでいるみたいだった。
「竹林って、ずっと同じ景色なのに、日によって雰囲気が違うよね」
ある夜、少年は火を見つめながらそう呟いた。
「風向き、月の明るさ、音の反響....自然ってのは、案外気まぐれなんだよ」
妹紅はそう言って、竹の枝を一本手に取ると、火の中にくべた。 細い枝は、あっという間にパチパチと赤く燃え尽きる。
「人間も、気まぐれ?」
「まあな。だから、すぐ飽きる」
「....君も、僕に飽きる?」
その言葉に、妹紅は顔をしかめた。
「そういうの、嫌いだ。別れの準備みたいな言い方は、つまらない」
「ごめん。....でも、もう長くないのは本当なんだ」
少年は、どこか淡々としていた。 それが強がりか、悟りか、妹紅には分からなかった。
「だからさ、僕は君に頼みたいんだ」
「何を?」
「僕の話、全部覚えててくれない?死んだあと、君の中に僕が生きてたら....少しは“生きた”ことになると思うから」
焚き火が、ぱち、と小さく爆ぜる。
「....私は、記憶力が良くないぞ」
「そうなの?」
「長く生きすぎると、時間が希釈される。百年くらい前のことは、霞みがちになる」
それでも、と妹紅は呟いた。
「話くらいは聞いてやる。だから、好きに喋れよ」
少年は頷いた。
そして、語り始めた。 自分の好きな本のこと。永遠亭の廊下の木のきしむ音。 子どもの頃に見た桜並木。 家族のこと。笑った日、泣いた日、誰にも話さなかった夜の夢のこと。
妹紅は黙って聞いていた。否定も、慰めもしなかった。 ただ、焚き火の向こうにいる少年の声を、しっかりと耳に刻みつけていた。
「....ねぇ、妹紅」
「ん?」
「君は、ひとりが寂しくないの?」
その問いに、妹紅はすこしだけ間を置いた。
「慣れてる。....でも、ふとした時、忘れてたはずの顔が浮かんだりする」
「それって、寂しいってことだよ」
「かもな」
妹紅は、枝を火に投げ入れる。火の粉が舞い上がる。
「でもまあ、こうして誰かと話すのも、悪くない。....たまには」
少年は、ほんの少しだけ笑った。
「じゃあ、話を続けてもいい?」
「聞くって言ったろ」
焚き火が、音もなくゆれていた。 この夜が、永遠であればいいと――少年は思った。
竹林に少年の姿はなかった。 焚き火の跡だけが、少しだけ風に揺れていた。
「....あいつ、もう来られないんだな」
妹紅は一人つぶやいた。 少年と最後に言葉を交わしてから、四日が過ぎていた。 風の匂いが変わり、虫の声も少なくなった――秋が近い。
永遠亭を訪れるつもりはなかった。 だがその夜、彼女はいつになく落ち着かない心を抱えて、気づけば建物の近くに立っていた。
月明かりの中、静まり返った建物の縁側。 裏手に回ると、少し開いた窓から、少年の部屋が見えた。
灯りは落とされていた。 その代わり、薄明かりの中、少年の横顔が布団の上に浮かんでいる。 目は閉じられていたが、浅く速い呼吸が、生の名残を訴えていた。
「....来たのか」
声がした。目を閉じたまま、少年が呟いた。
「やっぱり、来てくれると思ってた」
「....なんで分かった」
「焚き火の匂いがしなかったから」
妹紅は、ふっと鼻で笑った。 窓辺に腰を下ろし、竹林から持ってきた細い枝を一つ手に持った。
「今日、話せることは少ないかもしれない」
「いいさ。....聞いてるだけで、落ち着く」
しばらく、言葉はなかった。
夜風が、窓から静かに入り、妹紅の白い髪を揺らす。
少年の顔は青白く、まるで半透明の人形のようだった。 けれどその目元は、不思議と穏やかだった。
「君は、きっとこれからもずっと生きるんだろうね」
「そういう性質だからな」
「なら、お願いがあるんだ」
少年の声は、風に溶けそうなほど弱かった。
「僕のこと....たまに思い出して。思い出すだけでいいから。僕の話、覚えてて」
「....お前の声は、火と一緒に焼きついてる。忘れろって言われても無理だ」
妹紅は、枝を一本、床の上に置いた。 焚き火に使っていた竹。 いつもの夜の名残りを、今ここに届けるように。
「お前は、ここにいた。ちゃんと生きてた」
「....うん」
その返事が、最後だった。
しばらくして、少年は静かに息を引き取った。
それを見届けた妹紅は、何も言わずに立ち上がった。 窓から月を仰ぎ、深く一度だけ呼吸をした。
そして、小さく呟いた。
「さよなら、なんて言わないよ」
季節は何度か巡った。 風が緑を揺らし、やがて葉は赤く染まり、白く積もった。 それでも妹紅は、変わらず竹林の奥で焚き火を続けていた。
火は、夜ごとに燃えた。 小さな焚き火。
何の目的もない、ただの炎。 けれどその向こうには、誰かの記憶が残っていた。
ある夜、永遠亭の鈴仙が妹紅を訪ねてきた。
「....あんたって、本当に奇特ね。毎晩こんな所で何してるのよ」
「火を見てるだけだよ」
妹紅は言った。
「ここに来る子がいた。火を見るのが好きだった。――短命な子でね」
鈴仙は黙った。彼女も知っていた。 あの少年の病室で、いつも静かに本を読んでいた姿。 ある日、ふと姿を見なくなったこと。
妹紅は続けた。
「話をした。笑ったり、泣いたり。....それだけ。でも、確かに生きてた」
「....ふうん」
鈴仙は焚き火を見つめる。
「それで、ずっと火を焚いてるってわけ?」
「そうだな。誰かを忘れないってのは、こういうことかもしれない」
風が吹いて、炎が揺れる。
記憶というものは、時に重く、時に薄れる。 だが、この火だけは――今日も確かにそこにあった。
妹紅は、夜になるたび竹を折り、火を起こし、少年と過ごした夜の空気を再生するように焚き火を囲んだ。
それは儀式ではなかった。慰霊でもない。 ただ、彼女なりの「約束の果たし方」だった。
そしてある夜、火を見つめていた妹紅は、ふと呟いた。
「なぁ、そっちは、どうだ?」
返事はない。 けれど、火の奥から吹いた風が、妙に心地よかった。
妹紅は少しだけ笑って、竹の枝を火にくべた。
「....忘れてないさ。お前の話は、ちゃんと残ってる」
その時、竹林の向こうで一瞬だけ、少年の笑い声が聞こえたような気がした。
気のせいかもしれない。
だが、それでよかった。
火は、今日も灯っている。 それが、永遠に生きる者と、短く生きた者との――確かな絆だった。
妹紅がちょっと投げやりなところがよかったです
少しでも覚えていてもらえたら少年も浮かばれるだろうと思いました