サアサアと空が泣いている。
ポタポタと傘を叩く音が聞こえている。
私は音が嬉しくなって傘をクルクルと回した。チリンチリンと、髪留めの鈴が鳴る。稗田の御屋敷に行って仕事をした後、サアサアと降ってきた雨に傘を差して遊ぶ。
「あめあめ、ふれふれ、かあさんが……」
ふふふ、と楽しくなって私は歌いながら早足で歩いていく。
「ちょっと小鈴、待ってってば!」
バシャバシャと後ろから急いで走ってくる音が聞こえる。
私は止まってそちらを見るのゼエゼエと言っている阿求がいた。
「阿求どうしたの?」
「忘れ物!さっき渡したお土産忘れているわよ!」
稗田の御屋敷で貸本をしていると阿求のばあやから時々お土産を貰えたりする。雨の前の急ぎ足で私は忘れていたんだと思う。有難く持ってきてもらった栗まんじゅうを受け取り、阿求に聞く。
「鈴奈庵に来る?おまんじゅう二人で少し分けてさ、おしゃべりしない?」
「別にいいけど……?」
不思議そうな顔をする阿求。まあいいや、ただ私は阿求とおしゃべりしたいだけだから。
阿求と隣で歩きながら話しかける。
「雨って不思議じゃない?」
「雲の塊から出る水の事じゃないの?」
そんな風情もないことを言うのだから私は顔をしかめる。
「確かにそうだけどさ、空が泣いているように見えない?」
「うーん、そんな風には思ったことないけど……でも一理あるわね」
「そうよね。雨って人間に操作なんて出来ないものだから余計に不思議に見えるのよね。もしも誰かが操作しているのなら私はそれに物申したくなるわ」
「それはどうして?もし、そんなものがあったとしても文句を言いに行くのは違うんじゃないの?」
「時々はいいけど梅雨の季節に物申したいだけよ、あんな湿気のある季節は嫌じゃない」
雨は好きでも、ジメジメしている季節は好きじゃない。
「それ毎年言ってないかしら……」
阿求は遠い目になる。記憶を掘り出しているのだろうか?頭を人差し指でコンコンと軽く叩いている。
「うん、毎年梅雨の季節について文句言っているわね」
「べっつにーそれでいいじゃん。私が梅雨が嫌いなだけだし」
「まあいいけど……」
迷惑はかけていないのでそれでいいかなって。
話すことがなくて雨足が強くなってきてザアザアと傘を酷く叩く音が響く。
「小鈴、とりあえず中入ろっか」
気がついたら鈴奈庵の前まで来ていた。いつの間に来ていたんだろう。話すのに熱中しすぎていたのだろうか。
「うん、入ろ」
軒先で傘をバサバサと水をきる。そうして中に入っていく。
「ただいまー阿求連れてきたー」
両親は奥の方で仕事しているのか聞こえていないみたいだ。まあいいや、とりあえずおもてなしするか。
「とりあえず阿求、座ってて」
「それじゃあ失礼するわね」
「お茶入れてくるから待ってて。適当に本とか読んでてくれていいし」
「いつも通りね、分かったわ」
そう言って阿求はなにか本を探しに行った。私はお茶の準備をする。いつも通りの日々が私はふふと笑う。そうしてすぎていく時間がとても贅沢なように感じる。
そんな事を考えながら私はお茶を入れきっていつもの席に持っていく。
コト、と阿求の前に置いてキメ顔で言ってやる。
「お嬢さん、お茶どうだい?」
「あはは、何それ、面白いじゃない!」
あははと、阿求は転げそうになるほど笑う。
「そんなに笑わなくていいじゃない……!」
そんな事言いながら私も笑ってしまうので二人の笑い声が響く。
ふう、と二人で落ち着いてお茶を飲む。
「話変わるんだけどさ、阿求って雨好き?」
「ふふ、そうね……好きか嫌いとか言われたら嫌いかも。本も濡れるし、どこにも行けないから」
「そうなんだ、阿求はそんなになんだね。梅雨は嫌いだけど雨は私は好きかな。サアサア降る雨、シトシト濡れる地面、雨の匂い。そんなのが好き」
阿求は楽しそうにまた笑った。私も笑う。
「そうやって好きなものならいいね」
サアサアと降っていた雨は止んで雲の隙間から光が差し込んでくる。
「あっ、虹だ」
そう言ったのはどちらだったんだろうか、私たちは光り輝く七色に見惚れてしまう。
「虹、綺麗ね。小鈴はどう思う?」
「綺麗よ……阿求の笑顔みたい」
そう言うとボッと顔が赤くなる阿求。ふふ、不意打ち成功!
「小鈴、あんたねえ〜」
「阿求、いひゃいひゃい」
ほっぺをつねられて、赤い顔のままの阿求はふいっとそっぽ向いた。顔から手を離される。
「痛いなあー」
「小鈴が余計なこと言うからでしょうに」
「へへ、本当にそう思ったんだもん、なら言うしかないよね?」
「ほんとにこの小鈴は……」
呆れたような顔の赤い阿求はどこか嬉しそうに思った。
空が泣く時は少しだけ嬉しくなる。楽しそうな顔を思い出せるから。まあ少しくらい困らせてもいいよね?ね、阿求。
ポタポタと傘を叩く音が聞こえている。
私は音が嬉しくなって傘をクルクルと回した。チリンチリンと、髪留めの鈴が鳴る。稗田の御屋敷に行って仕事をした後、サアサアと降ってきた雨に傘を差して遊ぶ。
「あめあめ、ふれふれ、かあさんが……」
ふふふ、と楽しくなって私は歌いながら早足で歩いていく。
「ちょっと小鈴、待ってってば!」
バシャバシャと後ろから急いで走ってくる音が聞こえる。
私は止まってそちらを見るのゼエゼエと言っている阿求がいた。
「阿求どうしたの?」
「忘れ物!さっき渡したお土産忘れているわよ!」
稗田の御屋敷で貸本をしていると阿求のばあやから時々お土産を貰えたりする。雨の前の急ぎ足で私は忘れていたんだと思う。有難く持ってきてもらった栗まんじゅうを受け取り、阿求に聞く。
「鈴奈庵に来る?おまんじゅう二人で少し分けてさ、おしゃべりしない?」
「別にいいけど……?」
不思議そうな顔をする阿求。まあいいや、ただ私は阿求とおしゃべりしたいだけだから。
阿求と隣で歩きながら話しかける。
「雨って不思議じゃない?」
「雲の塊から出る水の事じゃないの?」
そんな風情もないことを言うのだから私は顔をしかめる。
「確かにそうだけどさ、空が泣いているように見えない?」
「うーん、そんな風には思ったことないけど……でも一理あるわね」
「そうよね。雨って人間に操作なんて出来ないものだから余計に不思議に見えるのよね。もしも誰かが操作しているのなら私はそれに物申したくなるわ」
「それはどうして?もし、そんなものがあったとしても文句を言いに行くのは違うんじゃないの?」
「時々はいいけど梅雨の季節に物申したいだけよ、あんな湿気のある季節は嫌じゃない」
雨は好きでも、ジメジメしている季節は好きじゃない。
「それ毎年言ってないかしら……」
阿求は遠い目になる。記憶を掘り出しているのだろうか?頭を人差し指でコンコンと軽く叩いている。
「うん、毎年梅雨の季節について文句言っているわね」
「べっつにーそれでいいじゃん。私が梅雨が嫌いなだけだし」
「まあいいけど……」
迷惑はかけていないのでそれでいいかなって。
話すことがなくて雨足が強くなってきてザアザアと傘を酷く叩く音が響く。
「小鈴、とりあえず中入ろっか」
気がついたら鈴奈庵の前まで来ていた。いつの間に来ていたんだろう。話すのに熱中しすぎていたのだろうか。
「うん、入ろ」
軒先で傘をバサバサと水をきる。そうして中に入っていく。
「ただいまー阿求連れてきたー」
両親は奥の方で仕事しているのか聞こえていないみたいだ。まあいいや、とりあえずおもてなしするか。
「とりあえず阿求、座ってて」
「それじゃあ失礼するわね」
「お茶入れてくるから待ってて。適当に本とか読んでてくれていいし」
「いつも通りね、分かったわ」
そう言って阿求はなにか本を探しに行った。私はお茶の準備をする。いつも通りの日々が私はふふと笑う。そうしてすぎていく時間がとても贅沢なように感じる。
そんな事を考えながら私はお茶を入れきっていつもの席に持っていく。
コト、と阿求の前に置いてキメ顔で言ってやる。
「お嬢さん、お茶どうだい?」
「あはは、何それ、面白いじゃない!」
あははと、阿求は転げそうになるほど笑う。
「そんなに笑わなくていいじゃない……!」
そんな事言いながら私も笑ってしまうので二人の笑い声が響く。
ふう、と二人で落ち着いてお茶を飲む。
「話変わるんだけどさ、阿求って雨好き?」
「ふふ、そうね……好きか嫌いとか言われたら嫌いかも。本も濡れるし、どこにも行けないから」
「そうなんだ、阿求はそんなになんだね。梅雨は嫌いだけど雨は私は好きかな。サアサア降る雨、シトシト濡れる地面、雨の匂い。そんなのが好き」
阿求は楽しそうにまた笑った。私も笑う。
「そうやって好きなものならいいね」
サアサアと降っていた雨は止んで雲の隙間から光が差し込んでくる。
「あっ、虹だ」
そう言ったのはどちらだったんだろうか、私たちは光り輝く七色に見惚れてしまう。
「虹、綺麗ね。小鈴はどう思う?」
「綺麗よ……阿求の笑顔みたい」
そう言うとボッと顔が赤くなる阿求。ふふ、不意打ち成功!
「小鈴、あんたねえ〜」
「阿求、いひゃいひゃい」
ほっぺをつねられて、赤い顔のままの阿求はふいっとそっぽ向いた。顔から手を離される。
「痛いなあー」
「小鈴が余計なこと言うからでしょうに」
「へへ、本当にそう思ったんだもん、なら言うしかないよね?」
「ほんとにこの小鈴は……」
呆れたような顔の赤い阿求はどこか嬉しそうに思った。
空が泣く時は少しだけ嬉しくなる。楽しそうな顔を思い出せるから。まあ少しくらい困らせてもいいよね?ね、阿求。
こういうのでいいんですよねこういうので
ご馳走様でした、面白かったです。
眩しいくらいの雨上がりでした
素晴らしかったです