Coolier - 新生・東方創想話

有閑少女隊その26 執事長とオムライス

2025/04/29 18:15:30
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「何してんだ?」

「まぁ、色々とご縁があって何日かこちらで執事の真似事をさせていただいているのさ」

 紅魔館のエントランスホールで博麗霊夢と霧雨魔理沙、東風谷早苗のいつもの三人を出迎えたのはメイド長、十六夜咲夜とナズーリンだった。

 ナズーリンが居ることもそうだが、そのいつもとは違う格好に魔理沙は当然疑問をぶつけた。

「真似事なんてとんでもございません。完璧な執事でいらっしゃいます」

 咲夜の感想に三人は改めてナズーリンを見る。
 頭にはいつものように丸っこいネズミの耳があるが、かっちりとした燕尾服からは尻尾がちょろりと出ていて、白い手袋をはめている。そして黄色い蝶ネクタイ。
 その姿を早苗がじっと見ている。

「ちょっと、お願いがあります」

「ほう、珍しいな。なんだね?」

 早苗のナズーリン嫌いは根が深い。自分から話しかけることなどほとんど無いのにましてはお願いとは。

「アハッ! って言ってみてください」

「……キミは、それがどれほど危険な行為か分かっているのかね?」

「それでナズーリンさん、ホントのところは何故?」

 ナズーリンをそれなりに慕っている霊夢が珍しく普通に疑問を口にした。

「咲夜殿には色々と助けられているからそろそろ恩返しを、と思ってね」(拙著【恋するカラクリ人形】を参照)

「その恩返しが執事なのか?」

「まぁ、所詮はごっこ遊びのようなものなのだけどね」

「いえいえ、館内の業務が見違えるように改善されております。さすがでございます」

 スーパーメイドがすかさずフォローを入れた。
 そしてそれは確かな成果だったのだ。

 ―――†―――†―――†――― 

 何日か前、紅魔館にナズーリンから手紙が届いた。
 その内容とは『そちらの都合の良い時、お手伝いに伺いたい』とのことであった。
 十六夜咲夜を通じて紅魔館、レミリア・スカーレットから、あちらの世界の数々の物品を融通してもらっていたナズーリンが対価として労働を提供するという意味である。

 通称紅魔館組のレミリア、フランドール、咲夜、他にもチョットだけパチュリー・ノーレッジもナズーリンに恩義を感じており、対価などは望んでいないが、せっかくの申し出なので受けることにした次第である。
 実のところ一番乗り気だったのは咲夜メイド長だったりする。

 その後、書簡のやり取りの結果、三日後に来館、勤務は十日間となって勤務七日目の本日、ヒマな三人娘がやって来たのだ。

 ちなみにメイド長、侍女長、執事、家令などの使用人の上下関係や権限などは時代や地域によって様々なのでここでは割愛させていただくのでご容赦願います。

 小さな賢将の実務能力を全く疑っていないレミリアは執事として働いてもらうことに決めた。もちろんどこからも異論は無い。
 命令系統をハッキリさせるため、咲夜を同格とし、美鈴や妖精メイド、ゴブリン達への命令権を与えた。
 咲夜と同格と言っても、機微に聡いナズーリンは彼女への『報・連・相』をこまめにすることでスムースな業務を行なっていた。

 最も数の多い妖精メイド達のシフト調整、掃除のチェック表や食材の在庫管理、業務の申し送りフォーマットの導入など、効率を上げる技はナズーリンにかかればお茶の子さいさい(今はあんまり使わない言い方かな……)であった。
 紅魔館の財務の深いところまではあえて踏み込まなかったが、複式簿記の運用方法を指導された咲夜からの好感度はドドンとアップしたのは間違いない。

 ―――†―――†―――†――― 

「それで皆さん、当館への来訪の目的は?」

 灰色の執事が丁寧に訊ねた。

「ウマいもん食べさせてもらおうと思ってさ」

「ちょっと、魔理沙さん! ぶっちゃけすぎですよ!」

「そうよ魔理沙、はしたないわよ」

「はしたない? はしたないと言ったか? オマエが?」

「【幻想郷はしたない選手権】で優勝間違いなしの霊夢さんが……」

「アンタたちタンコブぐらいじゃすまさないわよ!」

 ナズーリンの手前、お上品ぶりたかった霊夢だが最早手遅れであった。

「用件は分かったけど、どうするかねメイド長殿?」

「お嬢さまに確認しないことにはなんとも」

「そうだね、ご当主に聞いてくるとしよう。メイド長殿はお客様のお相手を頼むよ」

「かしこまりました。よろしくお願いいたします」

 優雅に頭を下げるパーフェクトメイド。

「……咲夜殿、今は同僚なのだからもっとフランクにして欲しいな」

「いえ、クセのようなものです。お気になさらず」

「まぁ、良いか。行ってくるね」

 ネズミの執事が階段を上っていくのを確認した後、三人娘に向き直る十六夜咲夜さん。眉が気持ち吊り上がっていますね。

「貴方たち、お嬢さまが寛容だからといってあまり調子にのっていると痛い目に合うわよ」

「お、おい、態度が変わり過ぎじゃないか?」

「変わると言うか、いつもに戻った感じですね」

「ふん、ナズーリンさんの前だからネコ被ってただけでしょ」

「……ネズミの前でネコ被るって、なんだか変ですよね」

「早苗、どうでもいいことに喰いつくなよ」

「あら? ナズーリンさんの前で態度が変わるのは霊夢、貴方も同じでしょ?」

 咲夜が霊夢を煽る。

「うっ アンタとはその理由が違うわよ……多分」

「私にとってナズーリンさんは尊敬できる万能の英雄、紅魔の騎士なのよ」

「スゴい持ち上げ方だな」

「わ、私だって【あの御方】を慕っているわ!
 褒めてくれるし、お賽銭くれるし、差し入れくれるし」

「こちらは何だかスケールが小さいですね」

「ご当主の許可が出たよ」

「うおっ 早いな」

 いつの間にか紅魔の執事が戻っていた。

「お嬢さまのお許しが出たのなら仕方ありませんね。
 皆さん、昼食はオムライスがメインですが、よろしゅうございますか?」

「ネコ被るの早いわね」

「確かに早かったけど、今はそこじゃないぜ。オムライスって簡単に作れるのか?」

「そう言えばお店でしか見かけませんね」

「私、見たことはあるけど、食べたことないわ」

「それほど難しくはないが幻想郷では一般的ではないね」

「あちらの世界では専門店もあるくらいポピュラーでしたけどね」

「あの薄い玉子を焼くのが難しそうね。しかも包むんでしょ?」

「貴方たちも作ってみる?」

 咲夜の問いかけに三人は顔を見合わせた。

「興味はあるわね」

「オシャレ洋食ですよね、チャレンジしたいです」

「よし、やってみるか」

「話はまとまったようだね。咲夜殿、私は昼食までフランドール様のところに居るから後を頼むよ」

「承知しました。では皆さん厨房に行きましょう」

「「「おーーー」」」

 ―――†―――†―――†――― 

 四人と別れ三階の居室区画へ向かうナズーリンは執事業務の他に当主の妹であるフランドール・スカーレットの話し相手兼教育係も請け負っている。

 ノックをして扉の前で名乗る。

「フランドール様、ナズーリンでございます」

 入室の許可を待ってから扉を開く。

「あ、あの、ネズミの騎士様、よろしくお願いします」

 幼さはあるが極上の美貌を持つ悪魔の妹、フランドール・スカーレットがネコ足椅子に行儀よく座っている。

「フランドール様。この姿でいるときの私は紅魔館の執事でございますれば、どうか『ナズーリン』と呼び捨てになさってください」

 フランにとってネズミの騎士は命の恩人であり、姉との関係を大幅に改善してくれたヒーローなのである。

「え、でも」

「フランドール様、場合によっては貴族のふるまいを求められます。私で練習なさいませ」

「う、うん」

「本日は算学でございます。予習はされましたか?」

「ちょっとだけ……難しいよ。苦手かも」

「ふむ、学問にも得手不得手はございましょう。しかしフランドール様は算学を十分理解されねばなりません」

「どうして?」

「算学は時間と空間と数量を理解するための基礎学問です。そして力学、物理学等に繋がります。
 ご自身の魔力が及ぼす力学的熱量を把握し理解してください。それはすなわちコントロールすることになります」

「……力のコントロール」

「はい。長き生の貴方は修めておくべきものです」

「……そうか、そうなんだね!」

 フランの心の何かにヒットしたようだった。 

「私、頑張ります!」

「結構なことです。では、教本を開いてください」

 やさしく微笑むナズーリン。お勉強が始まった。

 ―――†―――†―――†――― 

「オムライスって茶巾寿司が元だってホントか?」

「そう言う通説もあるみたいですね」

「薄焼き玉子の中に味付きご飯ってことなら親戚みたいなもんかしら」

「この国が発祥だとも聞いたぜ」

「ウチが発祥と謳うお店はいくつかあるみたいですがこの国が始まりなのは確かみたいですね」

「それじゃ洋食とは言えないのかしら。咲夜、そこんとこどうなのよ」

「別に洋食ってことで良いんじゃない?」

「おい、雑だな」

「意外です、お料理にはこだわりがありそうなのに」

「もちろんこだわりはあるわよ。でも発祥地による分類には意味は無いと思っているの」

「ふーん、よくわかんないわ」

「例えばA発祥の料理とB発祥の料理を組み合わせたらそれはどちらが元になるのかしら?」

「……ふーん、今度は少しわかったわ」

 オムライスは洋食屋だけではなく中華料理屋でも扱っている店はあるし、そば屋でメニューに載っていることだってある。

「あんま細かいこと言っても仕方なさそうだな」

「それより早く作りませんか、咲夜さん」

「貴方たちが無駄話しているからでしょうが」

 ―――†―――†―――†――― 

「ところでフワフワトロトロタイプですか? かっちり焼き上げタイプですか?」

「ふわふわとろとろってどうゆうことなんだ?」

「玉子がフワフワの状態でライスに乗っかっていて、ナイフでスイーって切ると中からトロトロって玉子がライスに広がっていくんです」

「うーん、よくわからんぜ」

「まったくわかんないわ」

「咲夜さん! わかりますよね?」

 早苗が言いたいのは【たい●いけん】の【タン●ポオムライス】だろうが、あれは最近のメニューなので二人が知るはずもない。

「貴方が言いたい玉子、オムレットの状態はイメージできるけど作ったことは無いわね」

「あの説明でイメージできるのかよ」

「スゲーわね」

「作れないんですか?」

「そうは言わないけど紅魔館では作らないわ」

「何故です?」

「お嬢さま方に料理を提供する時は、作ってからサーブするまでに時間がかかることが多いわ。
 その玉子の状態って出来立てじゃないとキレイにトロッと広がらないと思うの」

 確かにお嬢様方お貴族様のお食事は席についてからもなんやかんやと時間がかかるものだ。
 時間とともに玉子に熱が入り過ぎると広がらずに残念な感じになりそうだ。ちょうど良いタイミングは難しい。

「……それではかっちり焼いたスタンダードタイプしかないですね」

 残念そうな早苗を見て咲夜は考える。
 この三人相手ならこの場で出来立てを食べさせることは可能だろうが、なにせ作ったことが無いタイプの玉子料理だ。ぶっつけ本番で失敗するところなど決して見せたくはない。料理人の矜持である。

「それでは作っていくわ。まず材料ね」

・鶏モモ肉……百五十グラム(一枚の半分)
・タマネギ……半分
・マッシュルーム……四個
・白米……二合分
・ケチャップ……百五十グラム
・バター……三十グラム
・塩コショウ

・玉子……十二個

「これが四人前ね」

「お前も食べるのか?」

「前にも言ったけど貴方たちは一応お客様でしょ? お客様と一緒に食事をする使用人はいないわ」

「じゃあ、残りの一人前「早い者勝ちですね!」

 早苗が喰い気味で突っ込んできた。

「……別に良いけどな」

「鶏モモは賽の目、タマネギはみじん、マッシュルームはスライス、玉子は四つのボウル三個ずつ割って」

「私、鶏肉やるわよ」

「タマネギ刻みまーす」

「マッシュルーム……二人ともマッシュルームだぞ?」

「シイタケじゃないから構わないわよ」

「ですね」

「お前たちのシイタケ嫌いはなんなんだよ!」

 やいやい言いながらも下ごしらえは慣れたものだ。

「準備できたぜ!」

「チキンライスは二人前分で作って、仕上げの玉子は一人分ずつ作るわよ」

「切った具は半分にしておいてね」

「アンタはやらないの?」

「仕上げの玉子のところ一人ずつちゃんと見てあげるからそっれで良いでしょ」

「玉子か、やっぱそこだよな」

「よろしくお願いします!」

「フライパンは二枚同時で行きましょう。誰がやるの?」

「そうだよな、さすが紅魔館のキッチン、焜炉がたくさんあるぜ。私やるぜ」

「私もやります」

「玉子割ってかき回しておくわ」

「まずは油引いてタマネギからね。炒まったら次は鶏肉」

 ジャージャージャッジャッ 軽快な調理音。

「鶏肉にも火が通ったらケチャップ投入、少し火を弱めてケチャップの水分を飛ばすのよ。そうしないとご飯がベチャッとなるから」

「どのくらい飛ばすんだ?」

「赤からこげ茶になるくらいまでね」

「もう大丈夫そうでーす」

「次はマッシュルームを入れるけど、これは軽く炒めるので良いわ」

 ジャワージャワージャワー

「ご飯を加えて切るように混ぜるの。練るように混ぜるとお米がつぶれてしまうから注意して。塩コショウを振って味見をしながら整えて」

「早苗、いつもの調子で味見してたらチキンライス無くなるぜ?」

「わ、わかってますよ」

「全体にケチャップの色がついたくらいでチキンライスは完成よ」

「おっしゃー!」

「できましたー!」

 ―――†―――†―――†――― 

「さて、いよいよ玉子ね」

「さっきのより小さめのフライパン使いますからね」

「んー、これ、オムライスの縦幅くらいかな?」

「ちょうどそのくらいね」

「その濡れ布巾なんですか?」

「途中でフライパンをこの上に置いて冷ますのよ」

「へえー、細かいんだな」

「霊夢、玉子は白身を切るように混ぜてくれたかしら?」

「もちのろんよ。玉子は少しは得意だからね」

「それぞれに塩を二摘まみ入れておいて」

「もー、混ぜてるときに一緒に言いなさいよ」

「それでは最初は私がお手本を見せます。中火でバターを溶かします。決して焦がさないように」

「焦げそうだったら?」

「濡れ布巾の上に乗せて冷まして」

「溶けましたね」

「玉子液を一気に入れます」

 ジョワーー

「おおおー」

「縁(ふち)から固まるのが見えたら菜箸で小さな円を素早く描きながらかき落としてフライパンもゆすりながら全体をグルグルかき回すの!」

 グルグルグルグルッ! ガシャガシャガシャ!

「うおっ 箸もフライパンも随分と速く動かすんだな!」

「こりゃ激しいわね」

「うわー両手、違う動きをあんなに速くするんですか。私、出来ますかね~」

「少し固まってきたら布巾に乗せて冷ますわよ」

 ジューッ

「ここでもかき回して固まり具合を確認ね。そして再度火に戻してさらにゆすってかき混ぜます!」

 グルグルグルグルッ! ガシャガシャガシャ!

「斜めにして動かなくなったくらいでまた布巾、これで終了」
 
「アグレッシブなんだなー」

「こりゃ忙しいわね」

「えーと、こうして、こうして、こうですか?」

「玉子の上にチキンライスを乗せます。ちょうどオムライスの形にね。真ん中じゃなくて下寄りにね」

 ひょいひょいとチキンライスを盛っていく。

「フライパンを立て気味にして上側の玉子をこうやってライスにかぶせるのよ」

 ぺたん、とかぶるとチキンライスが隠れてオムライスっぽくなった。

「んー、なんか形がなー」

「完全な紡錘形ではありませんねえ」

「別に良いんじゃない? お腹に入れば一緒だし」

 フィニッシュがイマイチと言われメイド長の片眉が吊り上がる。

「いいこと貴方たち、これが一番簡単な包み方なの。今後研鑽を積んだのならお店に出しても恥ずかしくないくらいの作り方を教えてあげるから今日は基礎の基礎をマスターしなさい! 分かったら返事!」

「「「イエス! マム!」」」

 ―――†―――†―――†――― 

―――霊夢、もっと全体的に丁寧に!―――
―――早苗、箸を速く!左手が止まってるわよ―――
―――魔理沙、貴方は速すぎるわ、落ち着いて!―――

 そんなこんなでなんとかオムライスは無事完成した。
 そして―――

「ケチャップで色々書くんだろ? ハートマークとか、
メッセージとか」

「お店ではそんなサービスがあるらしいですね」

「咲夜は何書くんだ?」

「そういったおふざけはいたしません」

「なんか書いてやりゃいいのに」

「レミリア、喜ぶと思うわよ」

 霊夢のアドバイスに人差し指を顎に当て考え込んでいる主人に忠実なメイドさん。

「そうねえ。……アリかしら。洋菓子用の絞り器を使えば細かく書けそうよね」

「それなら今回作った分で練習してみたらいいんじゃないか?」

「自分で書くんじゃないの?」

「自分が食べるオムライスに自分で書くのはなんだか恥ずかしいですよね」

「確かに他人に書いてもらうから良いってこともあるわね。咲夜? お願いして良い?」

「そうね、やってみましょうか」

「なあ、それぞれ他人へのメッセージをリクエストしてみないか?」

「その方がサプライズ感ありますよね」

「二人とも咲夜にこっそり伝えようぜ。私は霊夢へのコメント、霊夢は早苗の分、早苗は私のでいこうぜ」

 ごにょごにょ(ちょっとごそごそタイム)。

「ふむふむ。皆さんのリクエスト、確かに承りました」

 そしてケチャップで書き上げた三人分のオムライスのコメントは―――

・霊夢=【殺戮者】 
・魔理沙=【女の敵】 
・早苗=【能天気】 

「漢字は結構大変だったわ。さあ、召し上がれ」

 咲夜に促される三人だが、自分のオムライスに書かれたコメントを睨みつけている。

「アンタがどう思ってるのか分かったわよ」

「そりゃコッチのセリフだぜ」

「どうにも納得いきません!」

「まぁ、皆さん、食事は楽しくするものだよ」

 いつの間にかやって来たナズーリンの前にもオムライスが置かれている。ちなみに咲夜が手づからナズーリンために作ったものだ。使用人設定は一時休憩らしい。

 いただきます、の唱和をして四人とも食べ始める。

「これって、チキンライスがキモなんじゃない?」

「でも、玉子と一緒に口にすると格別だぜ」

「残っている一皿は私がいただきますからね」

「やはり咲夜殿のオムライスは至高だね」

「恐れ入ります」

 概ね成功し、かなり美味しかったようだ。

 ―――†―――†―――†――― 

「では最後に秘伝の紅魔館特製【セクシーオムライス】を教えましょう」

「なにそれ?」

「スゴく頭の悪そうなネーミングだな」

「……教える気がなくなったわ」

 片眉を吊り上げ不快を示す咲夜さん。

「魔理沙さんのバカーッ! さ、咲夜さん! 気になります! ね? 霊夢さんもですよね?」

「そお? 別にどーでもいーけど」

「……この件は無しね」

「ああーーーっ!」

 頭を抱える早苗だったが、セクシーオムライスの話はこれっきりとなった。

 ―――†―――†―――†――― 

 姦しい三人組が帰った後ーーー

「あのね咲夜どの」

「なんでしょう? ナズーリンさん」

「先ほどの【セクシーオムライス】とはどんなモノなのだろうか?」

「気になりますか?」

「ま。まぁ、少しはね」

「特別な材料、技術を使うものではありません」

「むう、そうなんだ」

 ちょっとがっかり顔のネズミ執事。

「私が裸エプロンでオムライスを作る、それだけです」

 ちょっとこれは大事案だ。

「ほほほほ、ホントかい!?」

 カブリッと噛みつくエロネズミの賢将。

「冗談でございます」

「はえ?」

「ハナからそんなモノはございません」

「……そうなんだ」

 今度はあからさまにガッカリ顔だ。

「それほどご希望でしたらやってみましょうか?」

「え? ……ホント?」

「さすがに紅魔館ではできませんから、お寺に出向きましょう」

「それなら…………いやいやいやいやダメだダメだ!
 そ、それはマズいって、大変なことになるよ!」

 寅丸星が大大大大爆発しそうだ。

「冗談でございます」

「んへ?」

 面白いように翻弄されている。

 しかしナズーリンはこの冗談を慎重に吟味した。
 何かの間違いでこの話が某ご本尊の耳に入ったら拗ねるだけでは収まらないと思ったからだ。

「あのね、この冗談は他言無用に願いたいんだけど」

「左様ですか」

「ちなみにジェスチャーも無しだよ(拙著【恋するカラクリ人形】を参照→くどい)

「承知いたしました」

 すまし顔のメイド長に一抹の不安はあるものの納得するしかないナズーリンであった。
 だが、十六夜咲夜の裸エプロンが脳裏から離れず、その夜はなかなか寝付けなかったとさ。



       閑な少女たちの話    了
久しぶりの投稿です。5/5例大祭は【う09ab】で参加します。
新刊はダメでしたが、秋の紅楼夢には【有閑少女隊総集編 5巻】を出します!
この作品はその一発目です。
23の(サンドウィッチ)、24(朝ごはん)、25(コロッケ)は投稿せずに刊行してしまったので当サイトの規定上、アップできませんので総集編その4をお求めください(笑)
当日は既刊を少し持っていきます。

くたびれた書き手ですが、多分まだ細々と書いていきたいのです。
よろしければお付き合いください。 紅川寅丸
紅川寅丸
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