Coolier - 新生・東方創想話

博麗の呪い3〜春を歩く少女〜

2025/04/19 20:45:59
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その日、わたしは風に誘われるように、街の片隅に足を運んでいた。
どこか懐かしい匂いがした。
それは花の香りでもなく、雨上がりの土の匂いでもない。
もっとずっと、遠い記憶の底にある
“春そのもの”の気配だった。
 
小さな公園。
風が吹き抜け、桜の花びらが舞っている。
人の気配は少ない。
けれど、そこに一人の少女がいた。
赤と白のワンピース。
黒髪をふわりと揺らし、ベンチに腰掛けて、空を見上げている。
その横顔を見た瞬間、わたしの胸に強い衝撃が走った。
 
霊夢
 
言葉にしなくても、脳がそう叫んでいた。
けれど、もちろん違う。
彼女は“あの子”ではない。
ここは幻想郷ではなく、現代の東京の外れ。
すべては終わったはずなのに、どうして彼女はそこにいるのだろう?
 
わたしは自然と、隣のベンチに腰を下ろしていた。
少女はちらりとわたしを見て、柔らかく笑った。
「こんにちは。風、気持ちいいですね」
「ええ....春は、やっぱりいいものね」
言葉を交わしたのは、それだけだった。
けれど、あまりにも自然で、懐かしくて
わたしは、自分が誰なのかさえ忘れそうになっていた。
 
「あなたは、よくここに来るのかしら?」
「うん。学校の帰りとか、休みの日とか。
静かで、落ち着くから。なんだか、ここにいると“自分が戻ってくる”気がして」
少女は空を見上げながら言った。
その横顔は、やっぱり“霊夢”だった。
微笑みの角度も、手の置き方も、呼吸のリズムまでも。
でも、彼女は霊夢ではない。
けれどわたしの目には、どうしてもそう見えてしまった。
 
「あなた、名前は?」
ふと、わたしは尋ねた。
自分でも、なぜそんなことを聞いたのか分からない。
少女は笑って、言った。
「名前ですか?ちょっとおかしな名前なんです」
「教えてくれる?」
「....『れい』っていうんです。漢字は違うんですけどね」
わたしの呼吸が、少しだけ止まった。
少女は気づかず、続けた。
「“霊”とか“冷”とか、“零”とか。そういう意味じゃないですよ。でも、先生が言ってました。“名前って、音に記憶が宿るんだ”って」
「音に、記憶が....」
「はい、だからもしかしたら、私の名前もどこかで誰かが、もう一度つけてくれたのかもって、ちょっとだけ思ってるんです」
少女は、照れくさそうに笑った。
わたしは、何も言えなかった。
ただ、その笑顔を見つめていた。
 
春風が吹いた。
髪が舞い、桜の花びらが彼女の肩に落ちた。
その瞬間、確かに感じた。
この子は、“あの子”ではない。
でも、“あの子の続きを生きる者”かもしれない。
そう思えた。
 
少女が立ち上がった。
「そろそろ、行きますね。....お話、ありがとうございました」
「こちらこそ」
少女は、鞄を持ち、軽く会釈してから歩き出す。
その後ろ姿を、わたしはいつまでも見送っていた。
 
そして、ひとりごとのように呟いた。
「....霊夢。やっぱりあなたは、“消えなかった”のね」
 
風が、頷くように吹いた。
世界は変わり、幻想郷は終わった。
けれど....
霊夢の魂はたしかに春とともに、今も歩いている。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
博麗の呪いは、これにて完結です。
読者の皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。
他にも作品をあげておりますので、読んでいただけると嬉しく思います。
Mr
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コメント



0.簡易評価なし
1.100名前が無い程度の能力削除
良かったです
2.無評価名前が無い程度の能力削除
1、2話は話として面白みはあるだけに最終話が蛇足感強いなあって思いました
3.無評価夏後冬前削除
書きたいもののイメージがしっかりしてる方だな、と感じました。まだ肩に力が入ってる印象が強いので、読み手に伝わる自然な塩梅を覚えればすごく伸びると思います。将来性に期待大です。
4.100名前が無い程度の能力削除
まずは完結おめでとうございます。物語を終わらせるって、想像以上に大変だと思います。もっと『間の物語』を読みたいな、とも思いました。ご馳走様でした、面白かったです。