――さあ、どうぞおかけになって。狭いところですが。
「あの……此処に来れば助かるって聞いて……それで……」
――助かる……ですか。つまりあなたは現在危険な状態である、と、そういうことですね?
「……はい」
――何があったのか、御説明願えますか?
「あの、では……これを見て……いや、見たらマズイから……ええと……話だけで信じて貰えるか、解らないですが……」
――見たらマズイ、とは?
「“それ”を見た人間が……死にます」
――あら。
「友人が……次々に……死にました。それに、関わったヤツまで……」
――なるほど、結構です。見せて貰えますか?
「え、だから……」
――それでも見たいのです。大丈夫、“それ”で私が死んでもあなたのせいではありませんし、あなたのせいにするつもりもございません……それに、私に見せればそれだけあなたの寿命が延びるのでは?
「!! ど、どうしてそれを……」
――この類の特徴ですよね。いちいち一人ずつ処していく。そうすることで、恐怖を、後悔を、焦燥を、諦観を、絶望を積み重ねていく……何が楽しいのだか。
「…………」
――うふふ、お気になさらず。わたしは好奇心旺盛なんです。それに、あなたに助言するには全て識らなければいけません。
「で、ですが……本当に、みんな……みんな死にました。本当なんです。中にはあなたのように見せてくれ、と言う人もいて、それで……」
――あなたは“いいひと”ですねえ……。まあ、ともあれお見せ下さい。良いじゃないですか、私が見たいと言ったのです。解った上で、言ったのです。あなたにとってはどう転がってもお得な話、そうでしょう?
「そ、そこまで仰ってくれるなら、じゃあ……あ、あれ……何処にやったかな……」
――おいそれと人の目に触れないよう、鞄の奥深くに閉じ込めた。そんなところでしょうか? 大丈夫、落ち着いて探してください……ああ、その鍵付きポケットとかも調べた方がいいのでは?
「あ、そうだ、こっちに入れたんだった……どうしてこの鞄が鍵付きだと?」
――今、視えましたから。
「そ、そうですか……それで、鍵を……仰る通り、奥に……ちょっと、待ってくださいね」
――結構ですよ。ゆっくり探してください。焦らず、慌てず……。ああ、探しついでといってはナンですが、質問させてくださいな。何処でその写真を撮ったのですか?
「え、ええと……芦邏河トンネルの入り口です」
――怪奇スポットで有名なところですね。そういえば、あなたは……見たことがあるなあと思っていたのですが、動画共有サイトで有名な御方ではないですか? パーティを組んで廃墟探訪、みたいな。
「…………はい」
――あらあら、有名人と会えました。あの手の動画サイトの収益って相当イイと聞きますが実際どうなのですか? 見た印象のまま、楽な商売ではないと怒られそうですが。
「いえ、楽ですよ。あんなのアタリさえすれば誰でも稼げます。運が六割、宣伝三割ってトコだと思います。普通に働いている人達の方がよっぽど大変だと思う」
――うふふ、インタビュー慣れしたお答え。本当に儲かる商売なのですねえ……尤も、軌道に乗れば、というのは本当のようですが。あなたはそれも半信半疑、と。
「…………ぼくは自分で宣伝もしなかったし、編集もしませんでしたから」
――あなたはなにをされていたのですか?
「怖がり役……ですね。ぼくは怖がりで、臆病なんです。みんな、それをおもしろがってあちこち連れ回してくれて……」
――悪趣味なことですねえ……ああ、すいません、あまり話したくない内容だったでしょうか。
「いえ……」
――そんならあなたは御立派に活躍されているではないですか。編集も、宣伝も大事ですが、やっぱり一番大事なのは主演俳優でしょう?
「主演だなんて、そんな……ぼくはただ怖がり続けて、逃げ続けただけです……今も、こわくてこわくて仕方ない……いっそ、死ねれば良いのに……って思うのに、それができない……意気地なしなんです」
――お察ししますわ。あなたは優しそうだから。
「そんな……あ、と、取れました……あの、本当に見るのですか?」
――ええ、気になさらずに、どうぞお寄越しになって。
「…………解りました」
――ああっと、写真を見てはいけません。あくまでこちらにだけ視えるように。けして、もう、写真を覗き込んではいけません。あなたはもう、後が無いので。此方に翳す感じで……。
「……? わ、わかりました……これ、でよろしいですか?」
――裏返しですよ。
「あっ、す、すいません……これ、で、いいですか?」
――はい、結構です……眼は閉じたままにした方がよろしいでしょう……お友達と外灯もない山道で、暗いトンネルで集合写真ですか……青春ですねえ。
「……二人、二人死んでしまいました」
――亡くなったお友達の首が消えていくのですね。
「……その通りです。ああ、見えてしまったのですね。じゃあ……ぼく等以外の……」
――黒髪を振り乱した山刀をもった女。これがあなたの言う“それ”ですね?
「……ああ……! そうです。見えてしまったら、確実に……」
――まあまあ、落ち着いて。ところで……気を確かに、けして眼を開けずに聞いて欲しいのですが……ふたりのお友達がお亡くなりになったとのことですが……さんにん……ですね。残念ながら。
「……! 伊沢……伊沢の首も取れているのですか!? あいつは高名なお寺でお祓いを受けている筈なんです、泊まりっきりで!」
――じゃあもろとも、でしょうかね。
「そんな……小林、目黒、伊沢……みんな……」
――お察しします。
「……伊沢はぼくのことを心配して、一緒に来ないかって誘ってくれたんです。それなのに、ぼくは……」
――お気を確かに。さて、それは兎も角もっと辛いことを聞こうと思いますが、大丈夫ですか? ひつようなことなので。
「……は、はい」
――では、小林氏はどのように亡くなったのですか?
「……最初の犠牲でした。次の収録のネタが浮かぶまで自由行動といって別れて……次の日に、車に轢かれて……」
――轢いた犯人は?
「解りません。小林は泥酔し、人気のない山道で……との事だったので。もしかしたら、呪いの女に……」
――成る程。警察も泥酔による不可解行動として深く追求しなかった、と。
「はい、はい、その通りです」
――次の犠牲者は……目黒さんでしたか?」
「はい……目黒は、転落死でした。小林の突然の訃報を聞いて皆が集まって、それから通夜の準備だとかイロイロ話して、いったん解散したその夜に……」
――何処で?
「O県山間にある廃墟となったラブホテル跡だったそうです。睡眠薬を大量に飲んでいたらしくて」
――どうしてそんな場所にいたのでしょうね……やはり、呪いでしょうか。
「呪いだと思います……だって、そんな変な場所にいるなんてヘンですよね……」
――なるほど、そして、最期は伊沢さん。
「はい……背中をメッタ刺しにされて、自宅で……」
――成る程……ところで、あなたは他にわたしのようなものに相談をしたのですか?
「はい、霊媒師さんと、お坊さんを頼りました……しかし、次々に……」
――霊媒師さんは?
「自宅で首を絞められていたそうです」
――お坊さんは?
「清めの水桶に顔を突っ込まれていたそうです」
――成る程……ところで小林さんの死因は感電死でしたよね?
「そうです……どうして風呂場でドライヤーなんて使ったんだろう……酔っ払っていたとはいえ……」
――きっと呪いのせいでしょう。こわいことですね。
「こわい……だから、なんとか助かりたくて……」
――此処の噂を聞いて、やってきた……のですよね。正直に仰って良いのですよ。案外、スッキリしているって。
「そ、そんなこと思ってません……」
――あなたの動画が好きで、よく見ているのです。あなたがひたすら危険な場所におどけながら特攻し、酷い目に合って笑いを誘う……そんな悪趣味な動画を。本当にお嫌なら、どうして逃げなかったのですか?
「…………」
――ああ、すいません。あなたのことをよく識らないと、あなたに道を示せないのですよ。商売柄、でしょうかね。御気分がすぐれなければ言わなくても結構ですよ。
「……確かにぼくは虐められていたかもしれない。あいつらの玩具だったかもしれない。でも、必要とされていたのは確かなんです」
――友達のため、だと?
「……いいえ、自分のため、です。ぼくは意気地なしです……誰かに必要とされている自分を意識しないと、自分が保てなかった」
――卑下しなくても……人間なんて、みんなそんなものですよ。
「だけどぼくは、友達が死んだって聞いても怖くて怖くて、助けたいだなんて思えなくて、助かりたいとしか思えなくて……!」
――それも当然でしょう。自分を護るのは一番大事なことですから。
「だけど…………」
――だけど、自分が選んだ“こわいこと”がまさか本当に起きるなんて?
「……!」
――うふふ、図星……ですか?
「な……なんで……」
――あなたの動画のファンだって言ったじゃ無いですか。あなた達が紹介した怪奇スポットはどこも調べましたよ。どこも曰くなんてない、単純にひとけのないところ。ですが“仕事”はし易かったでしょうねえ。
「…………」
――あらあら、そんな怖い顔で睨まないでください。わたしはむしろ、あなたのような方をこそ救いたいと思っているのですから。
――どういうことでしょうか?
「そろそろ写真を見てくださいな。いま、どのようになっていますか?」
――あれっ……? だれ、この子……?
「あなたのうしろにいますよ」
「あの……此処に来れば助かるって聞いて……それで……」
――助かる……ですか。つまりあなたは現在危険な状態である、と、そういうことですね?
「……はい」
――何があったのか、御説明願えますか?
「あの、では……これを見て……いや、見たらマズイから……ええと……話だけで信じて貰えるか、解らないですが……」
――見たらマズイ、とは?
「“それ”を見た人間が……死にます」
――あら。
「友人が……次々に……死にました。それに、関わったヤツまで……」
――なるほど、結構です。見せて貰えますか?
「え、だから……」
――それでも見たいのです。大丈夫、“それ”で私が死んでもあなたのせいではありませんし、あなたのせいにするつもりもございません……それに、私に見せればそれだけあなたの寿命が延びるのでは?
「!! ど、どうしてそれを……」
――この類の特徴ですよね。いちいち一人ずつ処していく。そうすることで、恐怖を、後悔を、焦燥を、諦観を、絶望を積み重ねていく……何が楽しいのだか。
「…………」
――うふふ、お気になさらず。わたしは好奇心旺盛なんです。それに、あなたに助言するには全て識らなければいけません。
「で、ですが……本当に、みんな……みんな死にました。本当なんです。中にはあなたのように見せてくれ、と言う人もいて、それで……」
――あなたは“いいひと”ですねえ……。まあ、ともあれお見せ下さい。良いじゃないですか、私が見たいと言ったのです。解った上で、言ったのです。あなたにとってはどう転がってもお得な話、そうでしょう?
「そ、そこまで仰ってくれるなら、じゃあ……あ、あれ……何処にやったかな……」
――おいそれと人の目に触れないよう、鞄の奥深くに閉じ込めた。そんなところでしょうか? 大丈夫、落ち着いて探してください……ああ、その鍵付きポケットとかも調べた方がいいのでは?
「あ、そうだ、こっちに入れたんだった……どうしてこの鞄が鍵付きだと?」
――今、視えましたから。
「そ、そうですか……それで、鍵を……仰る通り、奥に……ちょっと、待ってくださいね」
――結構ですよ。ゆっくり探してください。焦らず、慌てず……。ああ、探しついでといってはナンですが、質問させてくださいな。何処でその写真を撮ったのですか?
「え、ええと……芦邏河トンネルの入り口です」
――怪奇スポットで有名なところですね。そういえば、あなたは……見たことがあるなあと思っていたのですが、動画共有サイトで有名な御方ではないですか? パーティを組んで廃墟探訪、みたいな。
「…………はい」
――あらあら、有名人と会えました。あの手の動画サイトの収益って相当イイと聞きますが実際どうなのですか? 見た印象のまま、楽な商売ではないと怒られそうですが。
「いえ、楽ですよ。あんなのアタリさえすれば誰でも稼げます。運が六割、宣伝三割ってトコだと思います。普通に働いている人達の方がよっぽど大変だと思う」
――うふふ、インタビュー慣れしたお答え。本当に儲かる商売なのですねえ……尤も、軌道に乗れば、というのは本当のようですが。あなたはそれも半信半疑、と。
「…………ぼくは自分で宣伝もしなかったし、編集もしませんでしたから」
――あなたはなにをされていたのですか?
「怖がり役……ですね。ぼくは怖がりで、臆病なんです。みんな、それをおもしろがってあちこち連れ回してくれて……」
――悪趣味なことですねえ……ああ、すいません、あまり話したくない内容だったでしょうか。
「いえ……」
――そんならあなたは御立派に活躍されているではないですか。編集も、宣伝も大事ですが、やっぱり一番大事なのは主演俳優でしょう?
「主演だなんて、そんな……ぼくはただ怖がり続けて、逃げ続けただけです……今も、こわくてこわくて仕方ない……いっそ、死ねれば良いのに……って思うのに、それができない……意気地なしなんです」
――お察ししますわ。あなたは優しそうだから。
「そんな……あ、と、取れました……あの、本当に見るのですか?」
――ええ、気になさらずに、どうぞお寄越しになって。
「…………解りました」
――ああっと、写真を見てはいけません。あくまでこちらにだけ視えるように。けして、もう、写真を覗き込んではいけません。あなたはもう、後が無いので。此方に翳す感じで……。
「……? わ、わかりました……これ、でよろしいですか?」
――裏返しですよ。
「あっ、す、すいません……これ、で、いいですか?」
――はい、結構です……眼は閉じたままにした方がよろしいでしょう……お友達と外灯もない山道で、暗いトンネルで集合写真ですか……青春ですねえ。
「……二人、二人死んでしまいました」
――亡くなったお友達の首が消えていくのですね。
「……その通りです。ああ、見えてしまったのですね。じゃあ……ぼく等以外の……」
――黒髪を振り乱した山刀をもった女。これがあなたの言う“それ”ですね?
「……ああ……! そうです。見えてしまったら、確実に……」
――まあまあ、落ち着いて。ところで……気を確かに、けして眼を開けずに聞いて欲しいのですが……ふたりのお友達がお亡くなりになったとのことですが……さんにん……ですね。残念ながら。
「……! 伊沢……伊沢の首も取れているのですか!? あいつは高名なお寺でお祓いを受けている筈なんです、泊まりっきりで!」
――じゃあもろとも、でしょうかね。
「そんな……小林、目黒、伊沢……みんな……」
――お察しします。
「……伊沢はぼくのことを心配して、一緒に来ないかって誘ってくれたんです。それなのに、ぼくは……」
――お気を確かに。さて、それは兎も角もっと辛いことを聞こうと思いますが、大丈夫ですか? ひつようなことなので。
「……は、はい」
――では、小林氏はどのように亡くなったのですか?
「……最初の犠牲でした。次の収録のネタが浮かぶまで自由行動といって別れて……次の日に、車に轢かれて……」
――轢いた犯人は?
「解りません。小林は泥酔し、人気のない山道で……との事だったので。もしかしたら、呪いの女に……」
――成る程。警察も泥酔による不可解行動として深く追求しなかった、と。
「はい、はい、その通りです」
――次の犠牲者は……目黒さんでしたか?」
「はい……目黒は、転落死でした。小林の突然の訃報を聞いて皆が集まって、それから通夜の準備だとかイロイロ話して、いったん解散したその夜に……」
――何処で?
「O県山間にある廃墟となったラブホテル跡だったそうです。睡眠薬を大量に飲んでいたらしくて」
――どうしてそんな場所にいたのでしょうね……やはり、呪いでしょうか。
「呪いだと思います……だって、そんな変な場所にいるなんてヘンですよね……」
――なるほど、そして、最期は伊沢さん。
「はい……背中をメッタ刺しにされて、自宅で……」
――成る程……ところで、あなたは他にわたしのようなものに相談をしたのですか?
「はい、霊媒師さんと、お坊さんを頼りました……しかし、次々に……」
――霊媒師さんは?
「自宅で首を絞められていたそうです」
――お坊さんは?
「清めの水桶に顔を突っ込まれていたそうです」
――成る程……ところで小林さんの死因は感電死でしたよね?
「そうです……どうして風呂場でドライヤーなんて使ったんだろう……酔っ払っていたとはいえ……」
――きっと呪いのせいでしょう。こわいことですね。
「こわい……だから、なんとか助かりたくて……」
――此処の噂を聞いて、やってきた……のですよね。正直に仰って良いのですよ。案外、スッキリしているって。
「そ、そんなこと思ってません……」
――あなたの動画が好きで、よく見ているのです。あなたがひたすら危険な場所におどけながら特攻し、酷い目に合って笑いを誘う……そんな悪趣味な動画を。本当にお嫌なら、どうして逃げなかったのですか?
「…………」
――ああ、すいません。あなたのことをよく識らないと、あなたに道を示せないのですよ。商売柄、でしょうかね。御気分がすぐれなければ言わなくても結構ですよ。
「……確かにぼくは虐められていたかもしれない。あいつらの玩具だったかもしれない。でも、必要とされていたのは確かなんです」
――友達のため、だと?
「……いいえ、自分のため、です。ぼくは意気地なしです……誰かに必要とされている自分を意識しないと、自分が保てなかった」
――卑下しなくても……人間なんて、みんなそんなものですよ。
「だけどぼくは、友達が死んだって聞いても怖くて怖くて、助けたいだなんて思えなくて、助かりたいとしか思えなくて……!」
――それも当然でしょう。自分を護るのは一番大事なことですから。
「だけど…………」
――だけど、自分が選んだ“こわいこと”がまさか本当に起きるなんて?
「……!」
――うふふ、図星……ですか?
「な……なんで……」
――あなたの動画のファンだって言ったじゃ無いですか。あなた達が紹介した怪奇スポットはどこも調べましたよ。どこも曰くなんてない、単純にひとけのないところ。ですが“仕事”はし易かったでしょうねえ。
「…………」
――あらあら、そんな怖い顔で睨まないでください。わたしはむしろ、あなたのような方をこそ救いたいと思っているのですから。
――どういうことでしょうか?
「そろそろ写真を見てくださいな。いま、どのようになっていますか?」
――あれっ……? だれ、この子……?
「あなたのうしろにいますよ」