阿求に何か贈ってやろうか、なんて考え出して小一時間経っていた。
喜びそうなものってなんだろうかなんてこと思って堂々巡りを重ねている。
あいつの喜びそうなものって分かんないや、適当に短歌でも送ってやるか?いやなんで短歌なんて思ったんだろう。恋文でも送る訳でもないのに。
そんなこと考えでぼっと私は赤くなる。いや恋文……って古すぎるでしょ?短歌に気持ちを乗せるなんてなんか楽しそうに思えてきたので私は一つしたためてみる。
花が散る 消えてなくなる さくら花
なお散らずとも ここにあるのみ
なんか暗くない?なんか違うでしょう。あいつに贈るんだったらもっと明るいのにしなきゃ。
海を見た 無いものを見る その瞳
空虚を見つつ 手を伸ばすなり
ええ……なんで海?いやこれも違う。あいつに贈るのに適してなんかいない。
阿求が笑ってくれたらいいんだから。笑う、笑う……そうだ!
サラサラと私はひとつ句を書いていく。うん。これがいい。
ならなんか一緒に贈るものも考えようかな、と思って書いた一句を満足して置いておく。
一緒に贈る物、なんかあるかなとか思って、自室に戻る。
自室の文机の上に予備の鈴の髪留めが置いてあった。あれ私、こんなところに置いたっけな。
手の中でチリンと鳴る鈴を見ていいことを思いついた。ふふ、聞いて驚け!これを根付けにして贈ったら喜ぶかな?思いついたからやるしかない。髪留めの鈴を一つ取って、机の上に置く。
部屋に置いていた紐を出してきて、編み始める。そこそこの形になったから根付けになるように鈴をつける。よし、こんな感じかな?白の根付け紐に輝く鈴を付けることが出来た。
……喜んでくれるかな?
「ううん、絶対喜んでくれるはず!」
少し不安になったけどそう言って不安を吹き飛ばす。
店の席に座って私はさっき書いた句を折って紙に入れる。そうして「稗田阿求様」って書いて、紙の中に鈴も入れて落ちないようにしっかり止めた。これなら阿求以外に開けられないだろうと思って私は郵便局に出しに行った。自分で持っていくのは少し恥ずかしすぎたので。
~*~
「阿求様、ご友人からお手紙ですよ」
ばあやから私に渡されたのは、小鈴の文字で書かれた私宛の手紙。手紙にしては少し分厚いような……
「ありがとうばあや」
そう言って私は受け取る。チリンと紙の中から音が鳴る。
……?何が入っているんだろうか。
「ばあや、私は部屋でこの手紙を開けてきますね」
「ええ、いってらっしゃいませ、阿求様」
そう言って私は部屋へと戻っていく。チリン、チリンと何が鳴っている。でもこの音を私は聞いたことがあるような。頭の中の引き出しを開けるとこの音の正体は小鈴の髪留めの鈴の音だった。どうしてこの中から鳴るのだろうか。それを不思議に思いながら部屋に着いて私は文机の前に座って、一度手紙を机の上に置く。
「小鈴、変なもの入れていたら容赦しないわよ……」
そんなことを言いながら私はどきどきしながら慎重に外紙を開けた。
チリン、と出てきたのは鈴の根付け。あら可愛い。
「これ小鈴の……」
どうして根付けなんだろうか。まあいいけども……可愛いし、どこかにつけるなら普段の鞄とかに付けるのもいいだろうなと思う。そうして中の手紙の方に手をつけて開く。
…………小鈴、あんたね…………
手紙、もとい短歌と鈴の根付けを持って私はそのまま走り出す。門番に外へ出ると言って私は走る。こんなの言われたら文句の一つも言いたくなるじゃない……!
ぜえぜえ言いながら私は鈴奈庵に着く。
バンと戸を開けて叫ぶ。
「小鈴いる!?」
「うわあっ!? 何!?」
開け放った音に飛び上がって持っていた本を落とす小鈴。
「どうしたの阿求、そんなに息上がって……」
「あんたね……」
短歌の書かれた紙を前に突き出す。
「あ、それ届いたんだ」
「なんでそんなに恥ずかしいこと言葉に乗せられるのよ!?」
「え、阿求怒って……」
「違うわよ! 嬉しいけどこっちまで恥ずかしくなるのよ!」
なんでこんなに恥ずかしくなるような(悪くない意味で)短歌が書けたのよ!?
「えへへ、怒ってないなら良かった。鈴の根付けもどうだった?」
「好きよこう言うの。でもこれ小鈴の髪留めでしょう?」
「阿求に贈りたかったから作ったんだよ」
そう笑顔になる小鈴。うぐぅ、なんでそんなに嬉しいこと言ってくれるのよ。
「ありがとう、小鈴、私嬉しかったわ。でも恥ずかしいから言うなら言葉にして欲しいかな」
「……えー、それはやだな。紙で書く言葉の方が美しくない?」
「小鈴、私が一度見たものを忘れないことを忘れてないかしら」
「……あ」
間抜けな顔をした小鈴は徐々に顔が赤くなる。
「忘れてた……でもその言葉を阿求はずっと覚えてられるもんね」
「いやまあそうだけど」
「それなら嬉しいからいいかな」
「いや声にしてくれる方が嬉しいんだけど!」
主に私が声ごと覚えていられるから!
*
阿求の机に置いた短歌の書かれた紙は風に吹かれて表になる。
鈴が鳴る 君に届けと なおも鳴り
気づいた君の ほころぶ笑顔
喜びそうなものってなんだろうかなんてこと思って堂々巡りを重ねている。
あいつの喜びそうなものって分かんないや、適当に短歌でも送ってやるか?いやなんで短歌なんて思ったんだろう。恋文でも送る訳でもないのに。
そんなこと考えでぼっと私は赤くなる。いや恋文……って古すぎるでしょ?短歌に気持ちを乗せるなんてなんか楽しそうに思えてきたので私は一つしたためてみる。
花が散る 消えてなくなる さくら花
なお散らずとも ここにあるのみ
なんか暗くない?なんか違うでしょう。あいつに贈るんだったらもっと明るいのにしなきゃ。
海を見た 無いものを見る その瞳
空虚を見つつ 手を伸ばすなり
ええ……なんで海?いやこれも違う。あいつに贈るのに適してなんかいない。
阿求が笑ってくれたらいいんだから。笑う、笑う……そうだ!
サラサラと私はひとつ句を書いていく。うん。これがいい。
ならなんか一緒に贈るものも考えようかな、と思って書いた一句を満足して置いておく。
一緒に贈る物、なんかあるかなとか思って、自室に戻る。
自室の文机の上に予備の鈴の髪留めが置いてあった。あれ私、こんなところに置いたっけな。
手の中でチリンと鳴る鈴を見ていいことを思いついた。ふふ、聞いて驚け!これを根付けにして贈ったら喜ぶかな?思いついたからやるしかない。髪留めの鈴を一つ取って、机の上に置く。
部屋に置いていた紐を出してきて、編み始める。そこそこの形になったから根付けになるように鈴をつける。よし、こんな感じかな?白の根付け紐に輝く鈴を付けることが出来た。
……喜んでくれるかな?
「ううん、絶対喜んでくれるはず!」
少し不安になったけどそう言って不安を吹き飛ばす。
店の席に座って私はさっき書いた句を折って紙に入れる。そうして「稗田阿求様」って書いて、紙の中に鈴も入れて落ちないようにしっかり止めた。これなら阿求以外に開けられないだろうと思って私は郵便局に出しに行った。自分で持っていくのは少し恥ずかしすぎたので。
~*~
「阿求様、ご友人からお手紙ですよ」
ばあやから私に渡されたのは、小鈴の文字で書かれた私宛の手紙。手紙にしては少し分厚いような……
「ありがとうばあや」
そう言って私は受け取る。チリンと紙の中から音が鳴る。
……?何が入っているんだろうか。
「ばあや、私は部屋でこの手紙を開けてきますね」
「ええ、いってらっしゃいませ、阿求様」
そう言って私は部屋へと戻っていく。チリン、チリンと何が鳴っている。でもこの音を私は聞いたことがあるような。頭の中の引き出しを開けるとこの音の正体は小鈴の髪留めの鈴の音だった。どうしてこの中から鳴るのだろうか。それを不思議に思いながら部屋に着いて私は文机の前に座って、一度手紙を机の上に置く。
「小鈴、変なもの入れていたら容赦しないわよ……」
そんなことを言いながら私はどきどきしながら慎重に外紙を開けた。
チリン、と出てきたのは鈴の根付け。あら可愛い。
「これ小鈴の……」
どうして根付けなんだろうか。まあいいけども……可愛いし、どこかにつけるなら普段の鞄とかに付けるのもいいだろうなと思う。そうして中の手紙の方に手をつけて開く。
…………小鈴、あんたね…………
手紙、もとい短歌と鈴の根付けを持って私はそのまま走り出す。門番に外へ出ると言って私は走る。こんなの言われたら文句の一つも言いたくなるじゃない……!
ぜえぜえ言いながら私は鈴奈庵に着く。
バンと戸を開けて叫ぶ。
「小鈴いる!?」
「うわあっ!? 何!?」
開け放った音に飛び上がって持っていた本を落とす小鈴。
「どうしたの阿求、そんなに息上がって……」
「あんたね……」
短歌の書かれた紙を前に突き出す。
「あ、それ届いたんだ」
「なんでそんなに恥ずかしいこと言葉に乗せられるのよ!?」
「え、阿求怒って……」
「違うわよ! 嬉しいけどこっちまで恥ずかしくなるのよ!」
なんでこんなに恥ずかしくなるような(悪くない意味で)短歌が書けたのよ!?
「えへへ、怒ってないなら良かった。鈴の根付けもどうだった?」
「好きよこう言うの。でもこれ小鈴の髪留めでしょう?」
「阿求に贈りたかったから作ったんだよ」
そう笑顔になる小鈴。うぐぅ、なんでそんなに嬉しいこと言ってくれるのよ。
「ありがとう、小鈴、私嬉しかったわ。でも恥ずかしいから言うなら言葉にして欲しいかな」
「……えー、それはやだな。紙で書く言葉の方が美しくない?」
「小鈴、私が一度見たものを忘れないことを忘れてないかしら」
「……あ」
間抜けな顔をした小鈴は徐々に顔が赤くなる。
「忘れてた……でもその言葉を阿求はずっと覚えてられるもんね」
「いやまあそうだけど」
「それなら嬉しいからいいかな」
「いや声にしてくれる方が嬉しいんだけど!」
主に私が声ごと覚えていられるから!
*
阿求の机に置いた短歌の書かれた紙は風に吹かれて表になる。
鈴が鳴る 君に届けと なおも鳴り
気づいた君の ほころぶ笑顔
顔が真っ赤になってそうな阿求がかわいらしかったです
恥ずかしいからってダッシュで来ちゃうのがとてもよかったです
狭い里でわざわざお手紙出すのがエモいですね~と思ったら爆速で家に殴り込みにいくの良かったです
小鈴ちゃんは真っ直ぐで良い