Coolier - 新生・東方創想話

第17話 運命の翼に還る

2024/09/26 23:05:15
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「恐らくあそこよ。先程の大波と爆発で大分分かりやすいわ。」
「ええ、間違い無いでしょう。しかし……ここまでの実力とは。畜生界も荒れに荒れたわね。」
永琳と豊姫は迫り来る組員を蹴散らしながら、着々と目的地に向かっている。依姫は饕餮を抱えての戦闘だったが、そこは神降ろしの力でゴリ押しして突破した。敵を殲滅させ、一段落したところで、足を急がせた。
三人は爆心地へと向かい、大きなクレーターを覗いた。そこには幻想郷に住む者達の亡骸が無数に転がっていた。心臓がなかったり、喉を損傷していたり、酷い時には誰だか分からない程原型を留めていない。
「惨い。全員やられた様ね。ここは全力でぶつかった方がいいわよ、依姫。」
「はい、姉様。さ、永琳さんも早く……」
依姫が声を掛けるが豊姫に口を抑えられ、遮られてしまった。永琳の腕にはかつての主人の遺体が抱き締められていた。そして永琳の頬を涙がつたる。当然だ。家族よりも縁が深かった親友を殺された事実は、永琳の心を嫌という程抉った。そしていじりがいのあった助手や、薬品を勝手に持ち出しイタズラをする兎ももう居ない。仲間を失い、この世界の運命に嘆く永琳を、二人は黙って見るしかなかった。
突然後ろから、肩を叩かれ永琳は振り返る。その人物は豊姫でもなく、依姫でもない。
「よう、永琳。随分来るのが遅かったな。そいつらについては……残念としか言いようがない。だが、私達にもやるべき事があるのは事実だ。そこでお前がグスグス泣いているのをそいつらが許すと思うか?私も丁度慧音を殺されたところだ。敵討ち、手伝ってくれ。一緒にあいつをぶっ飛ばそう。」
そこにはノースリーブの妹紅が、永琳の肩を擦りながら寄り添っていた。失った者は戻らない、泣いても喚いても再び話す事は無い。妹紅も永琳もそれを痛感している。妹紅が手を差し伸べると永琳は立ち上がり、決意で心を満たした。豊姫と依姫もホッとし、今も暴れ狂う人間の元へ向かおうとする。
「やれやれ。三大組長共は厄介な魔物を育ててしまった様じゃな。」
ボロボロになった残夢は、遺体を見て独り言を呟く。どうやら致命傷は免れたらしく、その証拠に撃ち抜かれた筈の心臓も完治していた。しかし完全復活とまでは行かず、足元が疎かだ。すぐさま永琳は応急処置を施し、数分もすれば残夢は完全復活に近い状態になった。かくして残夢を含め五人は、今も雷が堕ちる黒雲へと足を踏み入れる。




大陽はまずこいしの懐に潜り込み、リアルゴで仕留めようとした。だがここで魔理沙の遠方支援により、体制が崩れてしまった。背中から煙が立つが、大陽はお構い無しに動き続ける。今度は妖夢を狙った様で、妖夢も負けじと剣技を放った。それに合わせる様に、大陽も剣技を被せる。
『弦月斬』
『新月 輪舞曲』(しんげつ ロンドン)
互いの剣が交じる度火柱が立ち、こいしは次第に不意打ちが出来なくなっていた。立体的に舞い、目を外せば死。霊夢も参戦するが、大陽に容赦なく瓦礫に吹っ飛ばされる。
「フンッ、ハアアアア!血がたぎってきたぞ!行くぞ!白玉楼剣術指南役兼庭師、魂魄妖夢!博麗の巫女、博麗霊夢!えーとそれから……霊長類最強の魔法使い、霧雨魔理沙!」
そう言って大陽の手先に白い落雷が堕ちる。落雷から現れたのは、恐らく村正よりも長い矛だった。その矛は帯電しており、まさに雷槍と呼ぶべきだろう。
「おいおい、私は除け者かよ。寂しいな、とりあえずハグでもさせてくれ。」
魔理沙は瓶を投げ、霊夢と妖夢の支援を続ける。割れた瓶からは蜘蛛の巣の様な粘っこい糸が放出され、大陽の動きを止めようとする。大陽はかいくぐろうと姿勢を低く保つが、霊夢に肩を針で突かれ糸にはまった。
「ええーい!お姉ちゃんの敵ぃーー!」
こいしは弾幕をしっちゃかめっちゃかに放ち、大陽にぶつける。思った以上に広範囲だったので、霊夢達は危うく巻き添えをくらいかけた。
こいしが弾幕を止めると、空から雨が降ってきた。だがこれは以上だと霊夢は察する。基本的に畜生界は雲一つない空なので、雨が降ったりするのはおかしい事だ。空を見上げると黒雲が立ち込み 、そこには豆粒サイズの大陽もいた。大陽はスペルカードを手に取り、霊夢達に矛先を向ける。
大厄災『雷神連撃・黒電矛』
辺り一帯に雷が降り注ぎ、矛の攻撃、加えてサムサラブラスターの連撃や水素爆発により、更地となった荒野を地獄絵図に変えた。妖夢は最初に落雷をくらい、感電して下へ下へと落ちていく。魔理沙が受け止めるも箒に落雷が当たり、魔理沙もまた下へ下へと落ちていった。霊夢は二人をキャッチし、地面にゆっくり落とすと、再び落雷とレーザーを捌き続けた。右に左にと落雷やレーザーを避けるが、どうやっても近付ける自信が無い。弾幕の密度が濃く、どう避けていったらいいのかさっぱりだった。戸惑う霊夢に追い討ちをかけるように、落雷とレーザーが霊夢に向けて集中砲火された。霊夢は一瞬死を覚悟したが、その心配はすぐになくなった。大陽の頭上には妖夢を抱えたこいしが飛んでおり、こいしが手を離すと妖夢は電気を帯びた一撃をお見舞いする。楼観剣が頭部に命中すると、見事スペルブレイクとなり、大陽は死んだ街の方のビルに突っ込んで行った。



やはり油断は禁物らしい。スペルカードを打っても、死角からは容易くスペルブレイクされてしまう。俺は瞬時にデスクの瓦礫から脱出し、がらんどうのオフィスに向かう。すると吹っ飛ばされた穴の方から妖夢が舞い降り、白楼剣と楼観剣をギラつかせた。天井が3~4mぐらいのオフィスだが、剣を交えるのには丁度良かった。妖夢は攻防しながら質問していく。
「先程貴方は全てを失ったと言っていましたね。私も小さい頃、師匠と離れ離れになりました。例え全てを失っても、周りを頼って一から出直すのが正解だったんじゃないですか?!それがその体中の傷の結果だったとしても、他を当たり、諦めなければ良かったんじゃないですか。それが出来るのが人間でしょう?!」
体中の傷と言われ、俺は赤くなった包帯を結び直した腕をみる。いつの間にか包帯の結び目が解け、体全体にある古傷の一角を顕にしていた。どうやらもう隠す必要は無いみたいだ。残りの片方の腕の包帯も解いて、リアルゴを握る。
「ああ、そうだな。どんな人生だろうと更生(リセット)は効くもんだ。だが俺は完全に失敗した。俺は人としての道を踏み外し、更生(リセット)を自ら拒絶した。いいか。俺が死んだのは当然の報いだ。真犯人はどこにも居ない。やれと言われた事すらできない人間に、学業が身についていない人間に、人権は無い。それに、この問題は俺自身が解決しなければならない。自業自得でこうなったんだ。他人に助けを乞う筋合いは無い。この傷も全て……俺が悪い。」
妖夢を蹴り飛ばし、その質問に答える様にサムサラブラスターで追い討ちをかける。妖夢はダメージを負うも近くの背の低いビルに着地した。そこに霊夢とこいしも到着し、屋上に上がった大陽を見上げる。
「あいつを殺されたのに、このまま終わると思うか?お前達の行動には理解できない。やはり、止めれる内に止めるのを学んだ方がいい。何故なら、これまでに類をなさない弾幕を仕掛けるんだからな!」
ST『ディザスター・ストーム・バレル』
手を空に掲げた瞬間、空全体にサムサラブラスターが出現し、手を振り下ろすと辺りを埋め尽くす様にレーザーが発射された。文明の発展を象徴するビルや廃車、コンビニ、レストラン、あらゆる物を破壊し尽くすのを感じられる。霊夢はシールドを張り近付いて来るが、背後に出現したなまくら刀によって腕が使い物にならなくなった。その隙にサムサラブラスター数匹が集中砲火し、霊夢を地の底へと叩きつける。だがその瞬間に、霊夢は俺の懐に潜り込みスペルカードを発動させた。
霊符『夢想封印』
霊夢の手からは巨大な陰陽玉が出現し、俺を岩場の瓦礫へと叩きつけた。俺が集中砲火で叩きつけた様に。頭がフラフラし、気分が悪い。頭部からも出血し、視界が赤く染る。それと同時に俺の意識も遠のいていった。



[お前は必要無い。]
[生まれて来なければよかった。]
[人間として恥とも思わない下等生物。]
[いつも周りと違う捻くれ者。]
[勉強も出来ない癖にいきがるな。]
[お前は一体何のために産まれたんだ?人様に迷惑をかけるぐらいなら死んでくれ。今を生きる人に邪魔だ。]
[結局言い訳ばっかして逃げてるだけじゃん。]
[才能の欠けらも無い。早く消えるか死んでくれ。]
最初に死にたいと思ったのは何年前だろうか。もう物心ついた頃から思っていた。だが十数年経てど死んでいない自分に段々嫌気がさしてきた。何も出来ない自分が嫌いだった。誰かと話す時、すぐに見栄を張る自分が嫌いだった。勉強が出来ない自分が嫌いだった。すぐに言い訳をして逃げていた自分が嫌いだった。毎日こんな事を考えて生きていた。だがこんな人生に転機が訪れる。それはゲームだった。ゲームは他人より出来たし、毎シーズンランキングに名前が載っていたほどだ。この成果もあってか、少しは友達も増えたし、ミジンコ以下のコミュ力も付いてきた。ここなら自分を変えれるかもしれない。毎日苦しい思いで生きる必要が無くなるかもしれない。そう思った矢先だった。
俺の母親は厳しい人だった。子供の頃箸の持ち方が違えば怒鳴るし、言う事を聞かなかったら、暗い部屋に閉じ込められて一晩中泣いた記憶がある。ある日家に帰れば、そこにはバキバキになったゲーム機があった。
「こんな物は将来何の役にも立たない!つまらない夢見てないで勉強しなさい!頭が悪い癖にゲームなんてするな!このクソ男!」
そう言われて俺はぶたれた。その瞬間、頭が真っ白になった。夢や希望が目の前で砕かれ、諦めさせるのは苦痛と言う言葉すら生ぬるい。限りない喪失感と自己否定感が発生し、幻聴が聞こえる。いつも部屋の四つ角で、知らない人が言ってくる。話していた友達も、今では別のグループに入って、メッセージのやり取りからはブロックされていた。
あの時、俺の中の何かが壊れた。自分には生きる意味も資格も無い。そう悟り、台所の包丁を自室に持っていく。後は即死しないよう、体中を自分の手で滅多刺しにした。あの刃はとても痛く、寂しく、辛かった。人は自殺すれば地獄で殺人罪として扱われ、一生人間に転生することは無い。だが正直どの生態に生まれ変わっても、クソはクソのままだ。何にも生まれ変わりたくない。少なくともこの世界にはもう生まれ変わりたくない。そんな事も考えながら、俺は誰にも看取られる事無く、自室で静かに事切れた。



どのくらい気絶していただろうか。俺は崩れたばかりの、瓦礫の中をかき分ける。光の線が差し込み、ようやく起き上がる事が出来た。あんな悪夢は久々だ。極力夢は見たくないのだが、その原因はこれにあった。不機嫌ながらも服の土埃を払い、丁度降りてきた霊夢の目線に合わせる。あれをくらって生きているのには少々驚きだが、片腕を負傷し頭部からの出血が酷くなっており、霊夢の赤い服に血が下垂れた。俺達は互いに無言で構え、弾幕と肉弾戦を繰り広げる。霊夢も負傷しているとはいえ、俺もかなりのダメージを負っており、勝利には困難を極めるだろう。だが着実に勝利へと近付いている。もう霊夢は限界だ。次の一手で決まる。霊夢が足元を崩した瞬間、俺は霊夢のもう片腕を切り落とそうと刃を振るう。
「ゼウスよ、我が剣に断罪の雷を!」
突然後方から聞き覚えの無い声が聞こえて俺は後ろを向くが、そこには依姫が帯電した刀を所持しており、刀は間も無くして俺の左腕を突いた。電気に関しては問題ないが、ここで霊夢に隙を作る事になり、俺は霊夢の全力の攻撃を受ける。
『夢想天生』
大量の弾幕は捌ききれず、俺はまたもや何処ぞのベジタブルの様に岩に突っ込む。しかし先程の様に深くめり込むのではなく、右半分が埋まっただけだ。すぐさま脱出し、もう一度霊夢にとどめを刺そうと起き上がる。だが残念な事に、そこからは豊姫と永琳の弾幕が襲いかかり、全身が埋まる羽目になった。もう動ける余力すらない。ただのサンドバッグ人形となった俺に追い討ちをかける様に、霊夢は腹パンを当てようとしてくる。
「まあ、こうなるよな。」
俺は腹パンを受け、吐血しながら喋る。



霊夢はずっと違和感を持っていた。何故自分達の攻撃を避けているのか、そして何故スペルカードすら『分かっている様に』避けれるのか。中には霊夢自身も避けるのに苦労したスペルカードもあったが、大陽は大方くらってはいたが初見で見切っていた。次いでに、とどめを刺した時のあのセリフ。まるで最初から何もかも分かっていた様な口調だ。霊夢はお祓い棒を大陽の首元に当て、質問を投げかける。
「アンタ、さっきのあれはどうゆう事?予めくらう事が分かっていた様な……まるで未来予知が使える様な口調だったけど。」
「ハハッ、でもお前からしたらこの展開は馴染みが薄いだろう。それでもお前は俺を殺そうとした。……………少し話そうか。」
大陽は今も出血しており、白いシャツも斬れて真っ赤に染まっている。そう、霊夢は今かつてないほどの緊張感を抱いていた。それは単なる妖怪退治ではなく、人を殺したという罪悪感に見舞われていた。以前里の人間が妖怪化し脳天をカチ割った事はあるが、今度は完全な妖怪化ではなく人の部分が残っている。だからと言って殺さないと紫は救えない。どっちつかずの霊夢を見て、赤い唇を動かして大陽は話を進める。
「お前達なんかには理解できないだろうな。だろ?生まれながら力を持ち、死ぬ時に、生きててよかったと思うような奴らに。何故俺が諦めるようになったか知りたいか?何故俺は、"怠け者"になったのか?」
ふぅ、と一息つき、大陽は瞳をゆっくり閉じる。
「意味が無い。夢や希望は何があっても砕け散り、ゼロに戻る。俺達人間は、神だと勘違いしている運命にひれ伏す為に存在している。そしてどれだけ努力しようが抗おうが、結局は結果が全てだ。俺のような奴は成功者達の冒険を彩るキャラクターとして振る舞う為だけに存在しているにすぎない。これを聞いて何か感じることは無いか?俺達がなんかしでかしたか?他者の命を踏みつける様な行動をとったか?それとも、成功者にとっての喜びが人の不幸なのか?ハッ、クソ喰らえだ。何時になったらハッピーエンドになるんだろうな。こんなクソ野郎でもどこかで幸せになれると言う、期待は元からなかったんだろう。仕方ない。それが世の中だ。」
大陽は静かに語り、深く深呼吸する。彼にとっては、人生は退屈そのものだっただろう。霊夢はそう察し、段々と冷たくなっていく大陽を見ていた。
「……何か、言い残す事は?」
「そうだな。俺を殺すのは、お前じゃないって事かな。」
突然霊夢の背後にサムサラブラスターが交差に設置され、霊夢の四肢を狙い撃ちする。だが戦いが開始した時と比べて、レーザーのスピードが遅い。霊夢は易易と躱し、お祓い棒を再度構えた。しかし待てど待てど追撃が来る事は二度となかった。
「なるほど。アンタを殺すのは私じゃなくて失血死って事ね。」
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SABAMESI
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