Coolier - 新生・東方創想話

部屋と装束と吸血鬼

2024/07/01 17:13:08
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縁側に立ち、半欠けの月を見やりつつ、想う。
どうやって、お帰りなさいをしようかしら。
抱きつく?
にこにこ待っている?
それともしおらしく、嫋やかにしてみようか。
いや、隠れて脅かすのも楽しそうだ。
巫女の反応が、どれを選択しても楽しめる。
半欠けにやや満たぬ月は、銀の光を少しばかりひかえめに注いでいる。
雲の少ない夜だ。それだけ陰も濃くなっている。
悪戯を選んだ吸血鬼は、縁側から少しだけ離れ、陰に身を潜める。爛と輝く紅いほむらだけは隠しようがないが、まあそれも御愛敬。
身を潜めてうひひと笑みを零していると、すうっと……あの子が降り立った。
夜空から音も無く現れた博麗の巫女は、そのまま縁側まで来て靴を脱ぐ。

――そのすがた

紅の巫女衣装が尚紅く、夥しい赫に染まっていた。
白い肌のあちこちが獣傷に紅く裂かれ、いくつかはどす黒く変色していた。
特に左肩、大きな傷の上には博麗の札。強制的に治癒を促進させ、欠損をふさぐ、つなぐものであると聞いたものが貼られている。
頬にも、しばらく残りそうな程の傷。
巫女装束の血濡れは自分のものと、相手のもの、そういうことなのだろう。
満身創痍の少女。
痛々しい有り様。だのに相貌は凛とした巫女の侭で……黒水晶を想わせる、あの綺麗な瞳の瞳孔が開ききっていた。

ああ、ようかいをころすかおをしている。

レミリアは、息をするのも忘れ、その圧倒的な美しさに見蕩れていた。
何処の三下妖怪かは識らぬが、幻想郷の枠から外れたのか。
愚かであり、羨ましくある。
もしも話す機会があったら聞いてみたいものだ。

「ねえ、巫女にころされるのって、どんなきもち?」

魔王の密かな欲望は、時折こうして現れる。
すぐに首を小さく振って、悪戯っぽく、喉が震えないよう注意しながら明るい声を絞り出す。

「れーいむっ」

――は、と。
霊夢は誰もいないと認識していた場所に、誰かが、いいや、愛らしい吸血鬼の恋人がいたことに気が付いた。
そちらを向く。

――黒瞳に、ひとの光が灯る。

――紅瞳から、妖しの畏れが消える。

「なんだ、きてたの」
「霊夢」
「……なに?」

レミリアは、問答もせずに、両手を拡げる。

「おいで」
「――」

霊夢は静かに二、三歩、近付いてきて、両膝を折って抱きついた。
つよくつよく、抱き返す。

「……つかれた」
「……うん」

少女が身体を預けてくる。
吸血鬼は、黒髪の間からのぞくうなじに一度だけ生唾を飲み込んで、それから少女を横抱きに抱え上げた。

「まずは手当て、それからごはんとおふろね」
「ふふっ…お任せするわ」

くすぐったそうに霊夢は笑い、それから甘えるように頬を寄せてきた。
……先までの、研ぎ澄まされた刃のような気配はもう何処にもない。

それはうつくしいけれど、霊夢、とても折れやすいものよ。

声には出さず、脱衣場へと向かっていく。
彼女は、折れることを躊躇わない。何度でも折られ、その度に鍛え直していき、より鋭い切っ先を持つのだろうから。
肉はそれでいいだろう。けれど、こころはどうなの?
その疑問と向き合うには、まだ答えが遠かった。

***

「手酷い怪我は食い千切られた左肩くらいか。あとはしばらく休めば治るでしょう……人間って、不便よね」
「あんたたちが便利すぎなのよ……不便な方が、生きているって実感できるわ」

一通りの世話を終え、寝床でふたり重なる。
霊夢は驚くほど素直で、レミリアの甲斐甲斐しい世話の全てを受け入れてくれた。

「いつもなら、皮肉の一つも吐くのにね」
「そりゃ怪我人なんだから世話人の言うことは聞くわよ。 まるで私が偏屈者みたいに言わないで」

頬を膨らませて抗議する霊夢。
先までの剣呑はどこにいったのやら、今夜はいつにまして可愛らしい。はて、機嫌を良くするなにかあったのかしらん。
細かいことは考えず、霊夢の黒髪を優しく撫でつつ布団を掛けてやる。
その気配に、すぐに気が付かれた。

「どこにいくの」
「どこって……帰るよ。霊夢が寝たら。怪我人を相手になにをするでもなし、お茶も、ごはんも用意できたしね」

言葉が終わる前に、手首を握られた。
――それだけで、伝わる。

「……おきたとき、おはようって言ってあげようか?」
「……ううん」
「……怪我してるじゃない」
「あんたはその方が嬉しいでしょ?」
「いやそういう趣味はあまりないよ。私が好きなのは霊夢の血潮」
「意味は同じじゃないの」

……やっぱり、助平扱いされたことには不満が残る。
おたがいさまじゃないかしらん。
もそもそと霊夢の寝床に潜り、少しばかり苦労して着せた寝装束の胸元を、開ける。
布団の作る暗闇のなかなのに、浮かび上がる少女の双丘は、はっとするほどに白く、なだらかな曲線が仄かな色香を匂わせる。
だけど獣傷は情け容赦なく、そこにも無惨に奔っていた。
布団の中から、頭上の隙間を覗き込む。
……行燈の光を受け、黒水晶が此方に向かって瞬いていた。

「……ねえ、やっぱりおはなしだけにしない? 身体の傷が痛々しくて」
「だからよ。あんたの傷で上書いて」
「――――」

その言葉は痛烈に過ぎる。
一撃で、理性が崩壊した。
牙を剥き、乳房へと奔らせる。
それが肌に沈もうとする前、霊夢はただ一言。

「わたしがこうしていられるじかんはそんなにながくないよ」

とだけ、言った。

「そんなの関係ないよ。しわくちゃのお婆ちゃんからだって、吸ってやるんだから」
「ええ……本気?」
「あったりまえじゃない」

柔肉に牙が沈む。
は、ぁ、と、巫女の息が上擦る。
赤子の如く乳を吸う。
吸っているのは血潮だが、これって乳とあまり変わらないと、いつだか魔女から聞いたことがある。

「せいぜい衰えないようにするわ。でも……」
「でも?」

霊夢は、喘ぎながら続けた。

「終わるなら、あんたに吸われながらというのも、良いかもね」

なんてひどいことばだろう。
呪詛よりもずうっと質の悪い鎖。

「終わるなら……霊夢がいい」
「うん、知ってる」

いつか終わるなら、貴女がいいわ。
ふたりは静かに微笑み合うのだった。

おわり
お久しぶりです
しばし文章書きから離れていたのでリハビリがてら書きました
一番好きなものを書くのが一番良い効果がありますね。
レミ霊は至高
……えっちな部分はあれど、ガチ性描写とまではいかないから大丈夫だよね……?
ちなみにタイトルネタは愛する貴女の為と続くアレです
まんぼ
https://www.pixiv.net/users/63277
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コメント



0.簡易評価なし
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.90夏後冬前削除
なんか紅魔郷ってもしかしたらついこの間出たのかもしれんと思えるほど鮮やかでございました
3.100南条削除
面白かったです
かいがいしくお世話してるレミリアがかわいらしかったです
4.100名前が無い程度の能力削除
濃密でした。良かったです。