Coolier - 新生・東方創想話

紅白くはふこ

2023/05/20 02:26:26
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それは或る雪の日のことだった。
白く染まった木の上に、またしても私は無様を晒している。

「くっそ……痛ェ……く、くひひ……ざまぁねぇや……」

打ち出の小槌――とかいう宝物の噂を聞いた。
ソイツがあれば、この世の全てをひっくり返せるのかもしれないと。
弱者による弱者のための弱者だけの楽園を――。
その知啓をもった、妖魔本とやらを得る為に、追った相手がマズかった。
里人の癖に異能を持ち、空を飛び、此方の弱さを見切ったら、たちまち殺しにかかってきた。
まったくまったく、可能性を見付けた途端にコレか。
夢も希望もありゃしない。
身体から、力がドンドン抜けていく様な感覚。
背中に喰らった霊撃の傷は、見えないけれど、致命のようだ。
言うなれば、存在の核が傷付いた。そんな手応えがあった。
ああ、これは今度こそ終わったな、もうダメだな。ツイてなかったな。もっと上手く立ち回るべきだったな。
折角これからやらなきゃいけないことができたというのに、悪巧みの最初の最初、第一歩目で躓きスッ転んで、豆腐の角に頭をぶつけて御臨終とは実に無様。
眼を閉じ口に笑みを作り、身体を捕らえる木の枝に身を委ねて眠ることとする。

「まあ、私らしいっちゃ、らしいよな」
「そうねえ」
「!?」

嫌だ、もう目を開けないぞ。
木の枝に引っ掛かった辺りで、堕ちきれなかった辺りで嫌な予感はしていたんだ。
だけど、私の終わりは私だけのものじゃなきゃいけないだろう。
なんで見も知らぬ、訳の解らぬヤツに二回も三回も好き勝手されなきゃならんのだ。
目を開けるなよ、私。
開けたら最後、三回目の悪夢が私を襲う。
いい加減にしてくれ、私はもう、終わったのだ。

「いい加減、放っておいてくれよ……」
「やーよ」

ばきん、と音がして、落下の感覚。刹那の後、ふわりとした感覚。
ああ、今度は触れもしなくなったのか。
化物じみた巫女の、化物じみた成長に舌を巻く。

「畜生、ホントお前、なんなんだ……」
「そりゃあこっちの台詞よ。なんだって私の視界に入ってくるのさ」
「あぁ?」
「凄んだってダメよ。あんたの魂胆なんかバレバレなんだから」
「なんだ魂胆って、私に腹づもりなんてない」
「どうだか」

背中に、凄まじい熱さを感じた。
なんだ、これ。
言うなれば、命を押し付けられたかの様な感触。

「私は……お前に助けてくれなんて言ってない」
「嘘吐き」
「言ってないったら言ってねぇ! 天地神明に誓って言ってないわ!」
「はーっ……あのさぁ、たまには言えないの?」
「?」
「ありがとう、よ。いい加減、学習して欲しいわ」
「誰が言うもんかよ」
「あっそ」

脱力感が止まった。
命の漏出が止まった、そんな感じ。
もう流石に三回目となれば諦観も早い。木に凭れかかりつつ、聞く。

「妖怪助けて何がしたいんだ?」
「妖怪を助けたわけじゃないわ」
「?」
「あんたが最初に言ったのよ「無念だ」って。少しは残念を晴らせたのかと思ったのだけど、あんたは其処の枝に引っ掛かっている度、何か遣り残した顔してる」
「……」
「私は幻想郷(ここ)のそういったなんやかんやを見届ける役目なんだってさ。主だって人間のそれを護るべきなのかもだけど――まぁどっちだっていいかなと思って」
「なんだそりゃあ、ワケの解らんお前は……」
「しょうがないでしょ、私だって解んないもん」

顔を上げる。
微笑む巫女の顔があった。
一年くらいか。逢う度に成長を窺えるその姿。
こいつはそうか、まだコイツも道の過程にあるものか。

「なあ、私がお前の前を走っていたのか、お前が前だったのか?」
「私が後よ。あんたの後を追いかける格好になっていた」
「なんで?」
「偶然……としか言えないなあ」

巫女は小さな手を、或る方向へと向け指差した。
――私を調伏しかけた異能者の死骸。
遠く離れた一際高い木の枝の、百舌の早贄になっていた。

「……人間だぞ?」
「いんや、その道を外しかけていた」
「ああ、そういうことか」

私がコイツと逢う理由。
それはそうだ、私が求めるものを手に入れたヤツがコイツの獲物であっただけのこと。
であれば、事が上手く運べば私もコイツに……?

「多分、それはない」

どきりと心の臓が高鳴った。
コイツは人の心を読めるのか。いいや、そんなわけはないか。
私が、余程にビビった顔になっていたのだろう、情けない。
死ぬことなど、少しも怖れていない。
その筈なのに。
私は……まさかコイツに?
まさかだろう。

「あんたはそのままでいればいいのよ。そうであるべきだと思う」
「ンなこと言われるまでもない。だが、そうする理由はどうしたって自分じゃわからんのだ」
「自分のことなのに解らない事なんて、いくらでもあるものよ、きっと」

ご尤もだ。
己を制御できないことこそがその理由。
世界をひっくり返すことを、弱者救済を辞めることなどできはしない。
レゾンデトルは崩せない。

「それじゃあ、そのままでいくとする。だから、繰り返すし、止まらん」
「それじゃあせめて、私の見えないとこで野垂れ死んでね。見えたら助けちゃうの。身体が勝手に動くのよ。嫌々ながら助けているの。ああ、いやだいやだ」
「ふっざけんなよコイツ……嫌々ながら助けられてるのはこっちだっつうの……!」

ふふ、と笑う巫女。
釣られて、喉が震えてしまう。
そんなことあっちゃいけないのに、快かった。

「瓜子姫の真似事は、そろそろ終わりにしなさいな」
「……真逆だろ、お前がそっちかよう……」
「?」
「まあいいや、それじゃあ今度こそ、お前に見つからずに死ぬるとするわ」
「ええ、そうして頂戴……多分もう、無理だけどね」
「?」
「縁ってのを舐めたらいけないって事」

巫女は立ち上がる。
何故か、これが最後と直感した。
だけどもそれがなんの最後かは、解らない。
良縁奇縁、悪縁妙縁。滅茶苦茶に結ばれた糸は解きにくいものだ。
だから、最後くらいは選別だ。

「おい」
「?」
「……ありがとう、志半ばで逝くのは、やっぱり腹立たしいわ」
「どういたしまして」

巫女はそれ以上何も言わず、立ち上がった。
だからこっちも何も言わずに顎だけで会釈した。

雪降る曇天の空へと飛び上がる紅白金魚。
見上げる内に、あっという間に消えてしまった。

「あ……何者なのか、聞くの忘れた」

まあいいか、きっとまた、いずれ。

おわり
某ついったやりとりから思い浮かんだネタを書き殴りました
チビ霊夢のおぞましさみたいのを書くつもりだったのですが、それは恐らく色んな人が掘り下げていると思ったので程々にしときました

まんぼ
https://twitter.com/manmanbou
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コメント



0.200簡易評価
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
4.100名前が無い程度の能力削除
貴賤なくその場の感情に沿って動く霊夢とひねくれまくっている正邪のからみが面白かったです。これも縁、なんとなく綺麗だと感じました。
5.100南条削除
面白かったです
正邪は相変わらず悪運が強い
7.100のくた削除
運がいいのか悪いのか。命は拾ってるからいいのかな。
おぞましいのも、ちと見たかった
8.80夏後冬前削除
3回連続でファンブル引いたみたいな感じなの逆に持ってる正邪だなって思いました