Coolier - 新生・東方創想話

闇なる覚醒

2023/05/13 01:41:19
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博麗神社__

巫女である博麗霊夢は、異変解決に向かおうとしていた。

異変解決というか、単なる妖怪退治だ。妖怪が人を喰ってしまったらしい。
ここ数日で5人もだ。はっきり言って異常って事なので、霊夢自ら動くことになった。

目撃情報によると、その妖怪は黒い塊にも見えたらしい。恐らくは...ルーミアだ。

常闇の妖怪。常に惰性で生きていて、目的もなく1日中彷徨ってる。人喰い妖怪ではあるんだけど、そんな頻繁に食べる事は無かったはずだ。なんなら1年に1人くらい。ありがたいが、すごい少ない。

「まぁ、ルーミアなら苦戦する事も無いでしょうね。ちょちょいのちょいよ。」
「ちぇ。私も行きたかったぜ。」

巫女である霊夢と仲良く話をしているのが、霊夢と同じく異変解決のスペシャリストで、魔法使いである霧雨魔理沙だ。

異変解決や妖怪退治は基本的に霊夢にお願いされるが、霊夢の次に依頼を受けるのが魔理沙だ。正確には、神社を直接訪れた人の依頼を掻っ攫ってるだけ。悪気が無いからタチが悪い。

別に、複数人で異変解決に向かってはいけないとか決まりは無いのだが、ルーミア相手に2人がかりはあまりに可哀想では無いかと思い、1人で行こうとしたんだが、

「やっぱ私も行く!」
「えぇ...相手は別にレミリアとか永琳じゃ無くてルーミアよ?どう考えても2人目の出番は無いと思うけど。」
「それでも良いよ。ここ最近暇だったんだ。」

魔理沙が駄々をこねるので、結局2人で行く羽目になった。



この時、もし魔理沙と一緒に行ってなかったら・・・霊夢は明日を過ごせて無かったかもしれない。

❇︎

ルーミア探しは夕方から始めた。ルーミアは陽の光を嫌うので日中は見つけづらいのだ。

程なくして、遠目にルーミアを見つけた。いつもの雰囲気だ。のほほんとしていて、何を考えてるか分からない。元から神社付近で活動してる事が多かったので、簡単に見つけられた。

「ルーミア!止まりなさい!」
霊夢が大声で叫ぶ。気付いたのか、こっちを不思議そうに首を傾げて見つめている。

「霊夢に魔理沙。どうしたの?」
「どうしたの?じゃ無いわよ。アンタが最近人を喰いまくってるって聞いたから懲らしめに来てあげたのよ。」
霊夢がお祓い棒を取り出して構える。

しかし、ルーミアの反応は2人の予想を裏切った。

「え?人だなんて、もう半年以上喰ってないわよ?」
「は?そんな馬鹿な、みんな噂してるぞ。黒い塊に喰われかけたって。」
「うーん...私じゃ無いんだけどなぁ。今だってお腹空いてるもん。」

途端に、ぐううぅぅ と音が鳴る。えへへ...と、ルーミアが恥ずかしそうに笑った。
「うーん?一体どう言うことよ。あーもぉ分からないから退治退治!」
いきなりの退治宣言にルーミアが動揺する。
「え!?ちょ、ちょっと!?私じゃ無いわよ!?」
「知らないわよ!アンタ以外に暗闇を使える奴がいるなら考えてやるわ!霊符『夢想封印』!」
物凄い勢いで霊夢のお得意のホーミング弾がルーミアを襲う。
「わっ。わっ。」

が、この時点で気付くべきだった。ルーミアの動きがいつもより素早い。
普段なら全弾直撃する夢想封印を6発中4発も避けたのだ。残り2発のうち1発は腹に直撃。もう1発は・・ルーミアのリボンを掠めて焼いてしまった。

「いったぁ〜...」
ルーミアが呻き声を漏らして気絶する。
「なんだ、一瞬で終わっちまったな。残念だ。」

そうして油断した魔理沙が気絶したルーミアに近づく。


ふと、
一瞬霊夢は、周囲の空気が震えたのを感じた。異常な強さの妖気もだ。
(な、何...?今のは。)

妖気はすぐに無くなったが、違和感を感じる。
まるで、やられたフリをした肉食獣が、獲物を逆襲するスキを伺ってるかのような。
誰かに狙われている感覚が全身を刺す。

まだ、終わっていない。

本能が導き出した答えだ。理屈は分からない。現にルーミアは気絶してるし、他にはこの空中に人はいない。

その時、何故かルーミアの指先が動いたのを霊夢は見た。
「っ!魔理沙逃げて!」

夢符『夢想亜空穴』で魔理沙の近くへ跳ぶ。そのままお祓い棒を水平に構え__

ガキィィン!!
剣を打ち合わせたような凄まじい音がした。霊力でお祓い棒をコーティングしてなければ一瞬で切り裂かれてただろう。
見ると、ルーミアの手には漆黒の剣が握られていた。

「くくっ。よくぞ私の一撃を察知出来た。流石、博麗の巫女は違うな。」
ルーミア''だった人''が口を開いた。が、話し方はまるで別人だ。戦闘モードのレミリアってこんな話し方するよな__と、変な事を考えてしまっていた。

とはいえ、霊夢の脳内は大混乱だ。魔理沙も同じだろう。訳の分からなそうな顔して、目の前の新たな敵に脳死でミニ八卦路を向けている。

1発だけとは言え、夢想封印には退魔の力がある。並の妖怪では1、2発で致命傷になるのに。弱小妖怪であるはずのルーミアが耐えれるはずがない。

そもそも、目の前の奴は本当にルーミアか?中身だけ入れ替わったかのようだ。強さ、話し方が別人でしか無い。

「あ〜気持ちい!久しぶりに外の空気を吸ったよ。血が騒ぐ。ここは幻想郷か?私の人格を封印したあの巫女はもういないのか?残念だ。今こそ復讐の時だったというのに。」

人格...ルーミアは元々二重人格だったのか?まるで神様みたいだ。和と荒。普段のルーミアを和とするなら、今は完全に荒の方のルーミアだ。

「やぁやぁ。自己紹介が遅れたね。何せ300年程封印されぱなっしだったからねぇ。私の名前はルーミア。と、言っても君らの知ってるのは大人しい方か。ふむ...EXルーミアとでも呼んでくれればいい。」

結構おしゃべりな性格らしい。色々と喋っている。
「よ、よろしく...」「よろしくだぜ...」
挨拶されたので挨拶し返す。敵意がある訳じゃ無いのか?

「しかしね、私はこう見えて今機嫌が悪い。封印されぱなっしで身体が鈍ってるんだ。イライラしている。君達には、私のサンドバッグにでもなってもらおうか。」
「ふ、ふざけるなよ!人をなんだと思って__!」
魔理沙が憤る。
しかし、先程の膨大な妖力と魔力。コイツは恐らくとんでもなく強いだろう。

私が魔理沙の隣に立つ。
「魔理沙。油断しないで。コイツはルーミアなんかじゃ無い。レミリアと戦ってる位の感覚で臨んだ方が良いわ。」
「!...分かった。」
私の一言で、魔理沙もこいつの強さを認識し始めたらしい。

「霊符『夢想封印』!」
大量のホーミング弾がルーミアを襲う。先手必勝。
弾がルーミアにぶつかる。当たったか___?と思うのもつかの間。
「邪剣『シャドウブレード』」

一太刀で私の弾が全て切り裂かれた。
「くっ__!」
そのままルーミアが詰める。
「遅いぞ。」
「しまっ__」
ザシュッ!
鈍い感触がする。あークソ。斬られた。右の脇腹から血が滴り落ちる。幸い傷は浅い。

「霊夢!」
心配した魔理沙が駆け寄ってくる。私1人じゃマジで危なかったかもな。

「天儀『オーレリーズソーラーシステム』!」
魔理沙の攻撃。オートエイムで自動で敵を撃ち抜く魔法陣を合計8個出現させる。
一つ一つの感覚がまばらで弾速も速く、初めて私に使われた時はかなり苦戦した覚えがある。

「小賢しいな。」
その私でさえ苦戦した弾幕も、彼女はいとも容易く躱し、時に切り刻む。

「くっそ...認めたく無いけど、これはレミリアよりはるかに強いぞ。」

この異常な強さ。ただの妖怪とは思えない。
「アンタ、元々は神様だったりしたの?」
そう聞くと、奴が驚いた顔をした。
「そうだ。遥か昔は妖怪に信仰されていた神様だった。今じゃ信仰されなくなって落ちぶれてしまったけどな。」

その言い方はまるで、昔の方が強いと言っているようだった。今でさえとてつもなく強いと言うのに。

「妖怪にも結局種族的なカーストがあるのだよ。ほら、妖怪の山なんか良い例だろう。」
妖怪の山は、名前の通り妖怪たちが跋扈している危険な山だが、主に河童<天狗<鬼の順でカーストが存在する。
明確な主従関係とは違い、武力で支配されてるようなものだ。嫌になるのも無理ないかもしれない。
「そんな時に生み出された存在が私__ルーミアだ。弱き妖怪をも救ってくれるよう、弱い妖怪が揃って強く信仰した。何もかもが見えない暗闇って言うのは、闇夜を好む妖怪ですら恐れる。過去には吸血鬼を闇の中に閉じ込めた事もある。しばらくしたら、死んでたよ。夜の王が、闇に恐れをなしたのだ。妖怪が恐れを抱く事は、精神的な存在である妖怪にとって致命傷となるのだ。」

ルーミアが淡々と自身の事について説明する。やっぱりコイツは神様だったのだ。それも鬼すら倒せるように信仰された怪物神だ。

「そんなあんたが、なんで封印されたんだ...?」

魔理沙が聞いた途端、EXルーミアが怒りを露わにした。
「あの時の博麗の巫女だよ...」
「何だと?」
「忘れはしないさ!300年前、今の4世代前の博麗の巫女が私の存在を脅威と判断した。別にそれだけなら良いさ!当時の巫女は...あろうことか妖怪たちを従えたのだ!人間でありながら、まして博麗の巫女なのに妖怪を従えるなどふざけているにも程がある!」
「べ、別に良いんじゃないか?だって、巫女は人間だ。お前みたいなバケモノ相手に、当時はスペルカードも無かったと言うのに互角の対決なんて出来っこ無いさ。」
魔理沙がフォローなのか分からない事を言う。
そんな魔理沙をギロリと睨みながらルーミアは続けた。
「奴らは何人で私を攻撃してきたと思う?」
「さ、さぁ5人位__」
「100人だ。」
「...え?」
「博麗の巫女、巫女の仲間の人間4人、鬼30人、吸血鬼10人、天狗50人、その他の妖怪5人。合計100人だ。...これが人間と神との実力差を埋めているだけだと?ふざけるな!!」
当時の事を思い出しているのか、ルーミアの心は怒りで埋まっていた。
「汚い、穢らわしい思想だ!人間は妖怪を恐れる。博麗の巫女や退治屋が妖怪を倒す。それだけの関係で良いのだ。だが、退治はされようと人間が妖怪の上に立ってしまってはダメだ。それは許されない。だが、当時の巫女は...その意味が全く分かっていなかった。」

霊夢にも、ルーミアが言いたい事は分かる。妖怪と人間の関係は、自然の摂理と同義なのだ。変わってしまっては、どちらかが滅びる。当時の巫女は分かってなかったらしい。もしかしたら、霊夢以上に怠惰な巫女だったのかもしれない。


「でも、やっぱり神様には並大抵の妖怪じゃあ勝てないわよ。」
「鬼と吸血鬼が並大抵の妖怪とでも?それに、君たちはあの紅い館の主人であるレミリアが洩矢諏訪子に勝ってる事を知ってるだろう。サシでも吸血鬼相手に神は負けかけるのだ。それが10人。勝てるものか。」

フン。と鼻を鳴らし、ルーミアがそっぽを向く。

「結局私は鬼に取り押さえられ、当時の博麗の巫女に人格を封印された。そして、巫女達の手で人工的に生み出された人格が、今のルーミアだ。私はこの世界が好きだった。だが、奴らに取り押さえられ、人格を封印された後は怨みと憎しみで満ちていた。君たちは、元の人格のルーミアに聞いていたね。人を喰っただろうって。」

ハッとする。目撃情報がルーミアに似てるわけだ。犯人はルーミアであって、ルーミアでは無かった。

「そうだ。私だろう。私の邪念体がルーミアから離れて、勝手に人を襲ってしまった。本当に申し訳ない。」
ルーミアが頭を下げて謝罪する。

霊夢は、複雑な気持だった。かなり昔の話とは言え、自分の前任者に当たる人がそんな汚い手を使うような人だったのだ。そりゃ、もしかしたらホントに当時は里への被害が出てて、ヤバかったから仕方なくやったのかもしれない。でも、多分それは無い。EXルーミアは、人を食べてしまったことに対して、あんなに律儀に謝ってきた。人を喰らうことに躊躇いがないくらい喰っていたら、謝る事は絶対に無い。

「うーん、分かったのは良いけど、里の人たちに退治する事を約束しちゃったのよ...そんな話を聞いた後では凄いやりづらいけど、良いかしら?」

「お、おい霊夢...」
そこはいつもみたいに適当に退治したふりにしとけよ!って思ったけど、あくまで霊夢は一度しっかり退治するつもりらしい。

「ふむ...構わないよ。ただし、全力で抵抗させてもらうよ?」
そう言うと、ルーミアの姿が闇に包まれた。暫くして出てきたが、その姿は普段の姿とはかけ離れていた。霊夢と同じ背丈くらいの少女になっていたのだ。髪は魔理沙以上に長い美しい金髪のロングヘアーだった。
「それが、本来のあなたなのね。」
「そうだ。私の本当の姿だ。...さぁ、決闘と行こうか!私は強いぞ!」
「望むところよ!行くわよ、魔理沙!」
「あぁ!」


❇︎


闇夜の空中で、3人の少女が激戦を繰り広げる。
夜こそ妖怪の本分だ。人里でも無いのに、夜にこんなに目立つ行動をしていたら、誰かしら妖怪に見つかって襲われる事だろう。
しかし、誰1人として彼女達に近づく事は無かった。それくらい、近寄れない波動を感じ取れるのだ。

「神技『八方鬼縛陣』!」
ルーミアを中心に四方八方にお札がばら撒かれる。それらは段々柱状に形成されていき、ルーミアを強力な結界に閉じ込める。
魔理沙のマスタースパークすら防ぐ程、この結界の耐久性は強いはずなのだが...
「剣舞『つるぎのまい』」
自身の闇で作られた二刀流剣が流れるように結界を傷つける。
「くっ...!そんな馬鹿な...!」
「光撃『シュート・ザ・ムーン』!」

霊夢が結界で閉じ込めている間に魔理沙が下からスペルを発動する。数多のレーザーが敵を撃ち抜くスペルだ。
真下からの攻撃というのは対処が非常に難しい。驚いたことに、ルーミアは自分の足元に闇を広げるだけで魔理沙の攻撃には気にも止めず結界への攻撃を再開した。

それから数秒経った後、ようやく魔理沙は気付いた。自分の撃ったはずのレーザーが一つたりとも出てこないのだ。何故だと思い魔理沙は下へ見に行った。するとどうだろう。魔理沙のレーザーはルーミアの闇の中に吸い込まれていた。
「ウッソだろ...」
あまりのルーミアの強さに絶句した。得意のレーザーもこれでは役に立たない。

霊夢の方へ顔を向けると、霊夢はかなり辛そうな顔をしていた。予想以上にルーミアの攻撃が苛烈で、結界の維持で精一杯なのだ。

「邪牙『シャドウバイト』!」
トドメの一撃で、霊夢の結界を打ち破った!
「くっ...」

この衝撃で霊夢が怯む。この隙をルーミアは見逃さない。腕を伸ばすと、真っ直ぐ霊夢の喉へと刃を向けて跳ぶ。
「魔符『アステロイドベルト』!」
「チッ。」
そこへ魔理沙がスペルで割り込んだ。大型の星型弾に阻まれ、ルーミアの攻撃は失敗した。
が、まだルーミアの攻撃は止まない。
「闇符『オープン・ザ・ゲート』」
正面に闇を展開したかと思うと、そこから魔理沙が撃ったハズのレーザーが出てきた!
「うわっ!あっぶね!」
予想外の攻撃に反応が遅れた。が、間一髪、魔理沙と霊夢は攻撃を躱した。
どうやら、闇に吸収された物は自分で使う事が出来るらしい。
「どうだ。これが私の『闇を扱う程度の能力』だ。」
 ただ操るのでは無く、道具のように扱う。なるほど、能力も強くなってるようである。


「魔理沙、私がスペルでアイツの気を散らす。その間に1発カマしちゃいなさい。」
霊夢が隣に並びながら顔も向けず、小声で話しかけてきた。ルーミアからは呼吸が荒くなってるだけに見える。
「分かった。頼むぜ。」
魔理沙も了承する。

「はあっ!」
霊夢が声と共にルーミアに突撃する。右手に持ったお祓い棒をルーミアに打ち付けようとする。剣で止められた。そこまでは分かってたので、左脚でルーミアの腹を蹴る。
「ぐっ...!」
これは防げず、ルーミアが思わず呻く。
今が好機と見た霊夢は魔理沙に伝えた作戦を実行する。
「霊符『夢想封印・散』!」
霊夢が大量にお札を投げる。それらはルーミアを囲むように配置されると、1拍置いてルーミア目掛けて突撃してくる!
「鬱陶しい!」
再び『つるぎのまい』でひたすらにお札を斬り捨てる。
が、それこそが霊夢の思惑だと言うのにルーミアは気付かない。
ルーミアの背後には、既に魔理沙が回り込んでいた。
「行くぜ...私の全力だ!魔砲『ファイナルマスタースパーク』!」
魔理沙のとっておきのスペルが火を吹く!マスタースパークよりも数倍も火力の高い、まさしく魔砲と言う名が相応しいスペルだ。
「しまっ__」
ルーミアが光に飲み込まれる。


「やったか!?」


あ、フラグじゃん__
とか思うのも束の間。


マスタースパークが通った後には闇弾が置かれていた。普段のルーミアとは比べ物にならないほど大きい。
「ははっ。使っちゃったよ。邪壁『ダークガード』。これは1枚しか無いんだ。」

霊夢は絶句した。こいつ、こんな強いのにボム持ちかよ。1枚しか無いっぽいけど。

2人が唖然としてる間に、ルーミアは闇をしまい、再び距離を詰める。元のルーミアと違って、接近戦が得意みたいだ。
今度の標的は霊夢では無く魔理沙だ。
「うわっ、私!?ちょちょちょ、___」
慌てて魔理沙が背を向けて逃げる。魔法使いに接近戦なんて、普通出来るわけがない。
(クソ、こういう時何も出来ねえ。白蓮の魔法でも学ぼっかな...)
と考えていた魔理沙だが、ルーミアの位置を確認するため減速しながら後ろを向いたのが失敗だった。
「っ!?」
ルーミアはすぐ後ろ__2m程後ろにまで追従してきていた。驚くべき事に、幻想郷最速の文を追う事が出来るくらいの速さの魔理沙を、軽々しく追ってきたのである。いや、追いついた。の表現の方が正しいか。既にルーミアは剣を前に突き、勝利を確信した笑みを浮かべた。
魔理沙が慌てて身をひねるが、ルーミアの剣が届く方が早かった。

ズブッ___
「う!?ぐ......」

剣は、魔理沙の右胸に刺さっていた。


❇︎


「魔理沙っ!」
霊夢が、悲鳴に近い声をあげる。
手遅れだった。人間の体は脆い。深い斬り傷を負えば、それだけで死んでしまう可能性がある。

魔理沙は、そのまま地上の森の中に落ちて行った。
「そんな...!」
「さぁ、1人は片付けてしまった。サシになったな。」
幾度となく強力な妖怪を相手に戦い、勝ってきたEXルーミアにとっては、敵の生死はあまり気にしていないのかもしれない。
それに、ルーミアはスペルカードルールを破ってはいない。スペルカードルールで死んでしまう人も、中にはいるのだ。力を抑えた弾幕でも、当たりどころが悪ければ致命傷になる。異変を解決しに行く人なら、常にそのリスクとも戦ってる訳だ。霊夢だって異変解決に失敗して戦死してしまうかもしれないと、常々思ってる。敵に負けるつもりは毛頭無いが、それは絶対では無い。魔理沙だってその考えは持っているだろう。その覚悟はしているだろう。ルーミアが悪いわけでは無いのだ。今回は弾幕が剣になっただけ。ただそれだけだ。誰も悪く無い。

いや、誰も悪く無いのか...? 本当に...?

疑いの心が心の中で響く。

いつもみたいに形だけの退治で問題なかったのでは無いか。私がわざわざ戦闘を申し込むような事したから魔理沙が傷付いたのではないか。
霊夢の心の中は、後悔と自虐の念が強くなっていた。

「闇刃『ミッドナイトスラッシュ』!」

霊夢の心の葛藤を他所に、ルーミアは攻撃してくる。それをすんでの所で躱わす。

今は考えるな。目先の敵の事だけ考えろ。私もやられてしまったら、それこそ魔理沙に顔向け出来ないではないか。

だから、私は、最強のスペルを使う。

絶対に負けない、最強のスペルを。

「『夢想転生』!」

集中する。このスペルは強力故に、少しでも動揺があると効果を失いかけてしまうのだ。
夢想転生。この名前は魔理沙が名付けてくれた。私もこの名前を気に入っている。あらゆる物から’’浮く''事で、自身を実態無い者にする最強のスペルカードだ。今、私を攻撃できるものはいない。

「なんだ、そのスペルカード...まるで幽霊みたいではないか。」
ルーミアが見た事ないスペルに動揺する。
「闇符『ダークサイドオブザムーン』」
どうやら小さいルーミアのスペルも使えるらしい。が、その密度は比べものにならなかった。
弾幕は全て私を通過して、虚しく後ろへ流れてくいく。
「ふ〜ん、なるほど。実態が本当に無いのか。参ったな...今の博麗の巫女がそんなに強いとは。」
私はひたすらにルーミアを直接狙う、所謂自機狙いのお札を投げつけまくった。一発当たれば最後、蜂の巣だ。 が、ルーミアは簡単に全てを躱していく。
「しかし残念だ!攻撃が単純すぎる!数が多かろうと、これを避けるのは簡単すぎる!」
ギリッと歯噛みをする。その通りだ。この状態でできる行動には、実は限度がある。それに、私の霊力も無尽蔵では無い。いつかは途切れてしまう。そしたらおしまいだ。
その時一瞬、魔理沙がルーミアに刺された瞬間の映像がフラッシュバックした。
思い出すな。思い出すな。必死に念じるも、その度に脳裏に焼き付く。
「...ふん。」
瞬間、ルーミアが疾風の速度で私に近づくと、さっきのお返しとばかりに強力なキックを浴びせてきた。
当たるわけ無いと慢心していたのが仇となったか。
ガッ!
「がはっ!」
鈍い音を立てて私に命中した。あぁ、集中出来ていないのだ。霊力が乱れた。余計な事は考えない方が良い。幸い、さっきの一撃で魔理沙の映像は消えていった。

その時、目の前に一枚の銀のコインが投げ上げられ、私の目の前を通過した。
「えっ...」
誰の仕業かすぐには理解出来なかったが、やがて、誰がやったのか、そしてその意図を理解した。
「...オーケー魔理沙。今度こそ決めちゃいましょう。」

コインの主はもちろん魔理沙だ。良かった。下で生きているらしい。後は魔理沙を頼って、もう一度作戦に出る。

私は夢想転生を解く。
「どうした?それでは私を倒せないと踏んだか?」
「いいや?ハンデよハンデ。あれじゃあ可哀想だから。」
どうせなら挑発しておく。相手を怒らせると前後不覚に陥らせる事が出来る。私と魔理沙の策もハマりやすくなるだろう。

私は一旦、ルーミアに背を向けて逃走する。
「あ?逃げるなよ!」
逃げてはいない。これは誘いだ。さっきコインが投げ上げられた位置は覚えてる。八の字を描きながら、さも移動したように感じさせる。実際は、一歩後ろに引いたのと何ら変わらない。

「霊符『夢想封印・散』!」
先ほどと同じ、相手を撹乱させられるスペル。夢想封印がいつもよりバラバラに襲ってくるし、爆発範囲が広く、対処が困難なのだ。このスペルは。
「あーもう鬱陶しい!」
案の定ルーミアはちょっとキレてる。
そこへ第二のスペルを作り上げる。
「神技『八方龍殺陣』!」
八方鬼縛陣よりも強力な結界系スペルだ。キレイにルーミアを閉じ込める。
「クソ、出せこの野郎!」
気のせいか口悪くなってない?
「邪牙『シャドウバイト』!」
ガキィィン! ...ヒビが入った。
ヤバいこっちもあんまり持たない!速く魔理沙!
「む?何がおかしい。」
ん...?顔に出てただろうか。
「まだ、サシでは無かったみたいよ?」
「は?何言ってるんだ。魔理沙はもう動ける訳__!」
その時、下から魔力をチャージする音が聞こえた。聞き慣れた音。マスタースパークの音。
「馬鹿な、地上からここまでは5mはある!そんな簡単に当たる訳!」
「いや、当たるわ。」
私は断言する。これこそ、信頼出来る友の形では無いだろうか。

「アイツは、大事な所で外すような奴じゃ無い。」

そう言った瞬間、極太の光の柱が打ち上がった。

「「当たれぇぇ!!」」

私と魔理沙の思いが重なる。

それに応えるように、マスタースパークは結界に閉じ込められているルーミアを直撃した。


❇︎


「って事があったのよ。ほんっとに大変だったわ。」
「へぇ。このルーミアがねぇ。面白いじゃない。」
「ルーミアさんって強かったんですね!ビックリです!」
「いや、それほどでも...」

あれから数日後。異変は収まり、ひとまずは平和になった。
しかし、ルーミアの人格は消えなかった。正確には本物の二重人格になった。
ある日はいつものおっとりとしたルーミア。ある日はダークでカッコイイ印象を与えさせる神としてのルーミア。
しかし、本人は困ってないようだった。元から紅いリボンの封印は弱まっていて、最近はルーミア自身の力も強まっていたのだと言う。ルーミアにとっては、どちらも自分自身だし、どうでもいいのだろう。
あの時の種明かしをすれば、魔理沙が打ち上げたコイン。あれは、マスタースパークの軸を表していた。 あの日、殆ど風は吹いてなかったので、コインが風に流される事は無い。あのコインは魔理沙からのメッセージだったのだ。
「この位置に誘導してくれ」って。

あの時の話を、たまたま神社に来ていた早苗とレミリアに話した。2人とも驚いてくれていた。レミリアはルーミアと戦いたがっていたし、早苗はルーミアのダークなオーラに惹かれていた。

魔理沙は、永遠亭に見せに行ってなんとか無事だった。マスタースパークの反動で穴の空いた肝臓が破裂しかけていて、危なかったらしい。ほんっと、こういう時だけ、永琳は頼りになる。ちなみに私も、ルーミアの蹴りで肋骨に2本ヒビが入ってたらしい。危ない危ない。

とにかく、結果として2人とも無事で良かった。
いつかは死ぬであろうこの命。私は、まだ生きてやるべき事が沢山あるみたいだ。
もちろんアイツも。

そうして空を見上げると、箒に跨った白黒の魔法使いがこっちへ近づいてきたのが見えた。
思わず、私は手を振って魔法使いを迎える。

今日も平和でありますように。
どうも、メアみょんです。

う〜ん、オチてるのかな。これは。
実は作者、オチというものがあまり分かっていません。((え

EXルーミアの二次設定を知った頃、第一に「はぇ、面白いな」って思いました。いつかEXルーミアを使って作品を書いてみたいとか思ってましたが、夢叶いましたね笑

EXルーミアのスペルや能力は当然オリジナルです。ネーミングセンスが無ぇとか、厨二病とか言わないでくださいよ。仕方ないじゃ無いですか。闇を操るってもう厨二病だろ!そんな奴のスペルの名前とか厨二病で当たり前だろ!
仕方がないじゃ無い、仕方がないじゃ無い___

ごほん。EXルーミアのキャラ設定、変じゃ無いと良いのですが。EXルーミア登場から戦闘前までの所は、やり直しを重ねた文なので何か引っ掛かりがあるかもしれません。どうしても気になったら、コメントにて指摘をお願いします。

個人的に戦闘場面はそれなりに詳しく書いたつもりなのですが、伝わってるといいです。
前回のコメディ作品と打って変わって、戦闘物作品になって驚いた人もいるのでしょうか。前回の感想読ませていただきました。面白かったという感想が多く、非常に嬉しかったです。
感想、お待ちしてます。
メアみょん
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コメント



0.180簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
懐かしい感じがしました。EXルーミアの打破方法にオリジナリティがもっとあるとより面白くなった気がします。
3.100南条削除
面白かったです
EXルーミアをものすごく久しぶりに見た気がしました
ひと悶着あってからの後日談がとてもよかったです
5.無評価メアみょん削除
コメ返
>2 多分EXルーミアが流行ったのってかなり前ですもんね。自分はまだ東方好きになって2年なので、色んな設定に今更ながら刺激を受けます。 そうですねぇ、確かに討伐方法はもう少し捻りたかったですね。実はこの討伐方法、とある漫画から影響を受けました。コインを投げたりするシーンは、完全オリジナルですけどね。

>3 他のEXルーミアの作品も見させていただいたんですけど、下手すりゃ10年前位でずっと空白だったので、本当に凄く久しぶりに触れられたのかもしれません。戦いが終わった後の後日談は必要だよなって思って投稿直前に付け足しました。投稿した時間が時間で深夜テンションだったのて、雑になってないかが不安でしたが、問題無かったようで安心です。

お二人とも、感想ありがとうございます。これからの励みにもなるので嬉しいです。
次は、シリアスコメディ(??)な作品を作る予定です。話をまとめる事が出来れば。
7.90まるくん削除
楽しみながら読ませてもらいました。短編小説でもしっかり伏線があったり、戦闘シーンもギリギリなものになっていてワクワクしながら読んでいました。ルーミアのスペカ名もよかったと思います。読んでて違和感とかなかったですし、読んでるときはどっかの二次創作から持ってきたスペカ名かなって思ったぐらいのクオリティでした。
9.100あよ削除
とても面白かったです!
これまであまり戦闘系の話は読んでこなかったんですが、メアみょん様の持ち味である(と私が勝手に思っている)表現や構成の上手さがよく生かされているというか何というか…、とても引き込まれました。
書いてくださりありがとうございます。