Coolier - 新生・東方創想話

お主何者

2022/11/22 22:57:51
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「なんでこんな服着ないといけないんですかぁ」
 霊夢がぐちぐち文句を言う。服屋の主人は土下座せんばかりの勢いでへりくだる。
「何卒何卒お願いします。どうしてもうちを宣伝しないと潰れてしまうのです。小さな娘と病気の妻がいて……」
「永遠亭に行けばいいんじゃないのぉ?」
 霊夢も妙になめくさったような口調で喋るが、服装に引っ張られているようでもある。端的にいってギャルのような、露出が多くてかわいらしい服装。スカートじゃなくて短パンになるので空を飛ぶ時に下着を気にしなくていいのはいいのだが、足を見せるのはだいぶんはずかしい。
「やっぱり……嫌だわ。私なんてこんな柄じゃないから、こんな……未来風みたいなの……」
「とんでもない! あなたほど似合ってる人は他にいませんよ! なあ?」
「うん、お姉ちゃん、かわいいよ」
 服屋の娘が合わせたように言う。娘自身もこの服屋の男が一世一代を賭けて仕入れたその未来風の……令和~~って感じの衣装を着ている。
「ありがとう、あなたもかわいいよ」
 おそろいの服のようになった霊夢は答えたものの、こういう服を子供に着せるのはどうかとも思った。霊夢自身ですらちょっと早いような気がする。それを考えると、自分が断ったら、この主人が次はどうしようとするか、あまりよくない予感がしてくる。
 それに魔理沙の方がどう見ても似合うんじゃないか? こいつは魔理沙のこと知らないのか、それとも理由があるのか。あの子が着るのなら喜んで見物に行くのにな……。
「それで、私は何をすればいいのよ」
「人里の近くで飛んだり歩いたりしてくださったらいいですよ。弾幕勝負でもいいですよ(むしろ歓迎)。射命丸さんに撮影もお願いしていますので……」
「げっ、本気? 嫌すぎ、やめていい?」
「どうかお願いします。何卒何卒」
 土下座してくる男にげんなりした霊夢。こんなところに招かれて入ってしまったのが間違いだった。今度は小さな子に呼ばれてもついていかないようにしよう。そもそもまず、なぜ着た?
 霊夢自身もかわいいと思ってしまったからしょうがない。しばらく諦めるしかないようだ。お金ももらえるから仕事と割り切って我慢しよう。よく見れば露出度とか、普段の格好と五十歩百歩な気もしなくもない。むしろ下がってる部分もある……かもしれない。いや普段の格好は神事のためのものだから、これとは全然違うんだ、たぶん。もちろん由緒の正しいもので……どこかの誰かの趣味とかじゃないはずだ。
 服屋から離れて、街を練り歩く。ただ歩いているだけだが、注目度がすごいように感じる。だが、霊夢はその気になれば人の視線を避けて歩くことができる。とんとんとんと軽やかに歩きながら、彼女は思った。意味ないじゃん。それじゃ歩いてる意味がないじゃん。難易度が一つあがった。つまり、影だけは見せればいいのだ。この衣装は目に入るが、私だと気づかせないようにする。視点誘導だ。いったい何の仕事なんだか。

「おや、霊夢さん? こんにちは。今日の格好すごくかわいいですね」
 人通りの中から声がした。ばかなっ、気づかれるなんて……と思って見ると、それは阿求だった。
「こんにちは。ちょっと、今忙しいので失礼してもいいかしら」
「なんでですか、すごく興味深いんですが、詳しくお話を聞いてはだめですか?」
 霊夢は思い出す。そういえば、宣伝というのはただ見せるだけでなく、うちのものであることをちゃんとアピールしてくださいねと言われていたが、それは当然である。今の状態だと話してる間も足を止められないので、忙しくてしょうがない。阿求が興味を持ってくれたのなら、その誘いに霊夢は乗ることにした。不特定多数に見られるより、一人の金持ちでしょう。多分。

 霊夢さん見てると忙しそうに動いてて私は目が回ってしまいます、とか阿求と話しながら歩くとすぐに彼女の家についた。阿求邸というのか、まあ非常に大きくて上品なお宅である。
 応接室に通されて座っていると、もう霊夢はめんどくさくなって視線を避けなくなったので、働いている家の人がちらちらと見てくるのがわかる。まあ、不特定多数に見られるよりはいいのだ。
「阿求には私が一生懸命視線避けてるのが見えてしまってたのね」
「私は目に写ったものを憶えてしまうので、視線というより完全に見えなくならないと気がついちゃいます」
「そうなんだ。って、あんまりそんな克明に覚えられたらはずかしいんだけど」
 小首をかしげる阿求。
「よかったら、お話を聞かせてください」
 霊夢は出されていた上等なお茶を一口飲んだ。ちょっと苦い。霊夢は急に両手を挙げ、何かを吐き出すように少し情けない声を上げた。
「いやね、あのね、私には多分向いてないのよ。何が向いてるのかって言われると困るけど、こういう商売っ気がなくて」
「商売ですか?」
「見てよこの服、かわいいでしょ?」
「すごくかわいいし、なんだか新しい気がします」
「私に着こなせているのかしら?」
「よくお似合いですよ」
 霊夢はちょっと照れたように顔を伏せた。
「私って、まあみんな知ってる通り、地味でしょう?(周りにいる奇天烈な連中と比べて) だから、私がこれでかわいいなら、他のみんなが着たらもっとかわいいわけなのよ」
「そうなんですね。確かに霊夢さんは外見上は私たち庶民に一番近いですからね(実態は化け物なのはさておいて)」
 だけど、肝心の性格が、笑顔を振りまきアピールするようなことをしない。それができたら当然のように売れるだろうと阿求も思う。けど、ただ年寄り連中は眉をひそめるかもしれない。露出がちょっと多いかなと。
「でも、今日は素敵ですよ、霊夢さん。いつも素敵だけど。私も着てみたいなって思いました」
「えっ、いいの?」霊夢は驚いた。「あなたみたいな日本伝統の塊みたいな子が、こんな非国民な格好するような自由があるの?」
「自由はないですけど、こっそり買って着る自由はありますよ。まあ、家の中に隠しておくだけでも、私の心は楽しくなれるのかもしれません」
 にこにこ笑顔の阿求に霊夢は涙ぐんだ。
「あんた普段ろくに楽しいことないのねえ」
「なんて失礼な。楽しくてしょうがない人生ですよ」
 霊夢の直感が冴え、それはさすがに嘘だと看破した。それがわかっても大したこっちゃないかもしれないが。
「悩みがあったらいつでも言っていいからね」
「そこまで子供扱いにしなくても大丈夫ですよ」

 阿求は例の呉服屋に後で勝手に行くそうなので、霊夢は阿求邸を辞して、街角をうろうろする作業に戻った。なんだかんだで、ひとり営業に成功したのか、我ながら意外と才能があったのかな、と自信を持ったし、私が売り出してるこの服も案外変でもないのかなあとも思った。そう思わせたのが阿求の優しさとか気遣いでないことを祈りたいが。
 さすがに堂々とではないものの、普通に歩いてみる。センスがあまりにも令和で幻想郷から見ると未来すぎるのを除けば本当にかわいくとも思うので嬉しい気持ちになる。
「霊夢ちゃん、かわいい」と通りすがりの女の子が裾を引っ張った。
「あっ、だめよ。引っ張らないで。これ首が飛んでくぐらい値段高いから。あとそこ引っ張ったらずれちゃうから……」
 ずれる、と霊夢が言った途端、近くの男がみんなちらっとそちらを見た。しかしその見られる前に霊夢は視線を回避した。まったく他愛もない。だが急に彼女が消えたせいで、女の子が泣いてしまった。その子が泣くとどこからか他の砂利共も集まってきた。
 どうしたの、どうしたのと口々に尋ねるが女の子の答えは要領を得ない。どうしたということもないんだよなあ、まして私はただ歩いただけでなんにもしてないし、と霊夢は思った。無駄に騒ぎたがる子供たちと、それには興味を持たない大人。歩いただけだった霊夢はそのまま歩き去っていった。
 と思いきや、やはり気が引けたのか、反対側からテレポートで戻ってきた。
「よしよし、びっくりしたね。泣かない、泣かない」
 頭を撫でてやると、ぎゅっとまた体いっぱいでしがみついて、すぐに笑った。
「かわいい」
 やれやれと、しばらくはその女の子とついでに他の子のされるがままになった。

 精神的にかなり疲れたのでもう神社に帰りたいが、この服はどうすればいいのか、洗濯して返せばいいのか。システムがよくわからない。買い取れとか言ってきたら彼女は怒りで店を破壊し尽くしてしまうかもしれない。
「練り歩いてきたけど、これでよかったの? 宣伝になった? この服はどうしたらいいの?」
「おお、博霊さん、ありがとうございます」
 呉服屋の主人が元気よく答えたが、何か焦りの様子を霊夢は感じた。間が悪かったのかな。よく見たら客がひとりいるようだ。
「って、霖之助さんか、珍しいね」
 それは霊夢もよく知っている、道具屋の森近霖之助であった。
「ん? 霊夢か。阿求さんに面白い服があるからぜひ見に行くといいと言われてね……」
「これのこと? そんなに気に入ったのか、阿求……まあいいか」
 ここにもともと着ていたいつもの服を置いたままにしてあるので、霊夢は奥に入ってそれに着替え直す。なんだかこういうとこで着替えるのってはずかしいような気もしたが、まあ買い物客はみんなやっていることだろうから。
「じゃあ、おじさん、これどうお返ししたらいい? 洗濯して返そうか?」
「いえいえ大丈夫ですよ、こちらで回収させて頂きますから」
 主人は妙に他人行儀というか、事務的な口調で喋る。最初に土下座してきたような勢いが別人のようだ。
「おい! 博霊さんにお茶を出してくれ!」
 主人が怒鳴ると、奥さんが慌てて出てきた。確か病気と聞いていたような気がしたが、幸い病気の人はいなかったようだ。
 まあ、いいや。気になることはあるものの、生来ののんきさで霊夢はお茶とお菓子を遠慮なくもらうことにした。今日は暖かい日だし、のんびり帰ってもいいだろう。
 しかしあまり良いお茶でもないし景色も良くない。なんとなく寒々しい庭だ。そういうのはいけないと思うのだが、さっき阿求にもお呼ばれしたからちょっと比べてしまった。だからそれがいけないっつうの、と霊夢は首を振った。不思議そうにここの娘さんがそれを見ている。思ったけど、この服は小さい子の方がむしろ憧れてるみたい。そう思えばお姫様っぽく見えなくもない。にしてはだいぶ動きやすさが重視されてる気もするけど、でもそれも子供向けといえばそうか。いや、私は子供じゃないぞ!
 そういえば、射命丸が写真撮るんだっけ、と霊夢は思い出した。気が付かなかったけど、撮ってたのかな? あいつはいつの間にか撮るのはうまいからな、肖像権って言葉を理解しているのかな。まあ、そのことも含めたら十分な仕事をしただろう。でも一応写真は確認したいな……。
 そんな感じでぼんやり考えていたら、主人がやってきて急に土下座してきた。本物の土下座だ。
「わっ、いったいどうしたんですか。子供さんが見ていますよ」
「まことに申し訳ありませんでした。この服は差し上げさせてください」
「いや、なんのことだかわからないんです」
 霖之助が顔を出して、参ったなという顔をして、主人に頭を上げさせた。
「まあまあ、後は僕から話しておきますので、とりあえずあちらに行っててください」
「はあ……」
 なんだかむしろホッとしたように主人は娘を連れて表に消えた。霖之助は霊夢のそばに腰を下ろした。
「あー……とはいえどういえばいいか……」
「いったいなんなの? 私がなんかやっちゃいましたか?」
「いや、君は何も悪くはないよ。全部主人が悪いんだ。まあ、簡単に言うと、ちょっとよくない方法で小金稼ぎをしようとしてみたいだったから、少し指摘させてもらっただけなんだ」
「よくない方法って? もうちょっと具体的に……私にはそのお金は来るの?」
「来ないし来ても嬉しくないと思うな。まあ、本人に言えないような悪巧みだから、あんまり知らない方がいい。よくそんなツテがあったものだとは思うけど」
 霊夢はまったくピンとこなくて不思議そうにしているが、ともかくむりやり納得してもらった。
 霖之助が見たのは要するにこうである。霊夢が脱いだ衣服をその手で主人に渡した。主人はそれを受け取った。受け取った瞬間に、その道具の用途が変わったのである。
 こっ、この変態野郎……となるところかもしれないが、霖之助は軽く問い詰めると、自分から勝手に尻尾を出し、どうやら変態は別にいて、主人の方の行動はあくまで金銭的な欲の皮が突っ張ってた結果だということがわかった。さすがに幻想郷でそこまで趣味が高度化しているわけでもなかったようで(霖之助も決して詳しい訳では無い)、まあ罪は重くないと判断した。
「服は結局霊夢に進呈するそうだよ」
 言われて霊夢は迷惑そうにした。
「もらったところで私は着ませんよ」
「着なくてももらってくれないと、行き場がないんだ。付喪神になってしまうぞ。それに、物自体は悪くなかっただろう? そのうち流行になるかもしれないよ」
 霊夢は困ってしまって「ああどうしようかなあ」とつぶやいてしばらく考えた。それからまた口を開いた。
「霖之助さんはどう思いました?」
「自分はそういうファッションはよくわからないんだけど、質がいいものではあるよ」
「そうじゃなくて」ムッとしたような表情で、霖之助の顔を覗き込むようにして霊夢は追求した。「私がさっき着てたのを見て、何か感じたりしませんでしたか? 霖之助さん自身は」
「あ、ああ……かわいいと思ったよ」
「そうですか」
 答えを聞いて、霊夢は少し機嫌をよくしてうちに帰った。全体的に見ると彼女にとって今日はなかなか良い日だった。
それはともかく、すっごく久しぶりに投稿してしまいまして、特に深く考えずに楽しんでいただければ幸いです。
頂いた感想はほんとに伏して読ませていただきます。ありがとうございますありがとうございます。
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こしょ
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コメント



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面白かったです。恥ずかしがったり、子供にやさしかったり、とかく霊夢がかわいかったです
5.100南条削除
面白かったです
かわいらしかったのでとにかく良しでした