……ようやく、寝てくれましたか。
ふふ、菫子さん。体は随分と大きくなったのに、寝顔はあのころと何も変わらない、あどけなくて可愛い顔なんですね。
あらあら、私、菫子さんの頭を撫でちゃいました。暖かくて、心地良いんですね、誰かの頭を撫でるのって。髪が手をするすると抜けていくのが、なんだかとても気持ちいい。自分の髪を自分で撫でてもこうは思わないでしょうに。それとも、他でもない貴方だからなんでしょうか。
知ってますか?
人間が眠らずにいられるのなんて、せいぜい一週間が限界なんですよ。
貴方が幻想郷に来られなくなってから、もう三年。貴方は眠れなくなったんじゃない。ただ、幻想郷に行くことができなくなっただけ。貴方の夢は幻想郷で、幻想郷に行けなくなって、そして夢を見なくなった。それを貴方は、眠っていないと勘違いしていただけ。
どうですか、久しぶりの景色は。幻想郷の人達は。
眠りながらもそんな優しげで嬉しそうな笑みを浮かべるあたり、随分と楽しんでいるようで何より。その笑顔を少しくらい私に向けてくれたら、私も嬉しいのですが。
……私、貴方に嘘を付きました。
貴方が見ているその景色は、ただの幻想。本物の幻想郷ではありません。
私が貴方に施したのは、催眠。魔法でも、不思議な力でもない、ただの暗示による催眠。貴方が見ているのは、菫子さんの頭の中だけの世界。私の言葉と貴方の想いが作り出した、脳裏で再生される夢の一つに過ぎないのです。
だから、みんなただのまがい物。菫子さんがここに来られるようになる前から、一人で戦いそして幻想郷を見つけた貴方にこんなものを見せるのは、もしかしたら酷い冒涜なのかもしれません。
ですが、それでも。
それでも、貴方が喜んでくれるのなら。その笑顔を私に見せてくれるのなら。私に見たいと言って頼ってくれるのなら。
私は、いつだって貴方に催眠を掛けてあげましょう。仮初の幻想郷と貴方を繋ぐ、道となりましょう。
だから、私を貴方の傍においてくれませんか。
たとえ貴方が私を、夢を見るためだけの道具として扱おうとも、私は貴方の傍にいたいのですよ、我が愛しい人よ。
語りが見事で惹き込まれました。とても良かったです。
耳から入る言葉を眼で視るのも良いですね。
菫子はこういう終わりを迎えそうな気もする一方、やっぱり誰かが菫子に会いに行くのかなあと思ったりもして、ドレミーの動きがよかったですね。
有難う御座いました。
起きるとあらかた忘れちゃうのかな?