Coolier - 新生・東方創想話

現日記

2020/07/14 21:09:19
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〇月×日 到達時刻 13:00

 なんでもさっき、人里で子供が行方不明になったって連絡がレイムッチのところにあったらしい。人里の外でその子供の持ち物が見つかったから、妖怪に攫われた可能性もあるからって、レイムッチが捜査協力を依頼されたって。プチ異変ってやつなのかな。
 私も、レイムッチといっしょに行くことにした。
 レイムッチには「人数は多いほうが色々と便利」「私もレイムッチを手伝いたい」とかいろいろ言ったけど、結局はそんなの建前で、ただレイムッチについていきたかっただけ。不謹慎かもしれないけど、面白そうって思ったから、ついていった。
 結局、人里の外へ一人で遊びに行った子供が、小さな崖から落ちて気を失っていただけ。ケガも大したことなくて、とりあえずは無事だった。ホッとしたのが半分、妖怪退治とか見れなくて残念、というのが半分という感じ。なんにせよ、無事でよかった。






 目を覚ますと、教室にはまばらにしか人がいなかった。時計を見ると既に放課後で、教室に残っているのは雑談中の数人だけだった。
 あちゃあ、と思わず手で顔を覆う。声にもならない音が口から漏れたのが自分でも分かる。どうやら昼休み明けから5時間目、6時間目と寝たまま過ごしてしまったようだ。別に授業が受けられなかったとか教師からの評価がとか、そんなことは別に気にも留めてないけど、ちょっとした気恥ずかしさを感じてしまう。まあ、この時幻想郷ではちょっとした事件を追っていたわけだし、途中で起こされるよりは都合が良かった、かもしれない。
 とはいえ、今日はこれ以上この教室に残る理由もない。さっさと荷物を片付けて、教室を出て……、さて、今日はどうしようか。レイムッチ用に洋菓子でも買っていこうか、……ああ、もう家に帰るのも面倒だし、いっそのこと部室で朝まで幻想郷にいようかな。どうせ一人暮らしだし、家に帰らなかったところで咎める人なんていないし……。
 教室を出るときに残っていた生徒が何か言ってきたような気がしたが、私には何も聞こえなかった。考え事をしていたからかもしれないし、どうせ聞こえたところでろくなこと言ってないだろうから脳が勝手にフィルタをかけてくれたのかもしれない。
 何にせよ、変に突っかかってきたり関わろうとしてこないのならそれでいい。例えそれが気遣いや遠慮からではなく「気味の悪いやつに関わりたくない」という忌避の心からの反応であったとしても。
 自分でも思わず口元が緩むのが分かる。だって、これこそ私が望んだ他者からの扱いなんだから。目元が潤むのをこらえなきゃならなくなるくらいには、この腫物のような扱いが、この胸をキリキリと締め付けようとしてくる情動が大好きなんだから。
「……ちょっと部室にでもよるか」
 誰もいない廊下で、一人つぶやく。例え誰かがいたところで、こんな私の声なんて誰の耳には届かないだろうけど。
 部室、といっても部室棟の空き部屋をこっそり改造して作った、私だけが知る秘密の部屋。扉は板と釘で開かないようにして、ドアノブには『老朽化のため立入禁止』と書かれたボードがぶら下がっていて、下の階のトイレから瞬間移動でもしないと入れないような、まさに私だけの秘密の部室。
 もし私以外の人間がここを見つけて、入ることが出来たなら、そいつを秘封倶楽部に入れてやってもいい……かもしれない。
 部屋の中には水晶玉や水晶ドクロ、本棚いっぱいのオカルト本、マントに3Dプリンターで作った銃、座るもの皆尊大な性格に変えそうな豪勢で派手な椅子と、統一性のあるゴタゴタ感。実に私好みだ。
 昔はこの椅子に座って、水晶ドクロや3Dプリンター銃を手の中で弄びながらオカルト本を読むのが好きだった。オカルト本を読みながら、ここではない何処かに思いを馳せていた。いつか自分も行くんだって、そう思ってた。
 「ムー大陸の神秘」、「超能力入門」、「日本伝承録」……何となく、棚に並ぶ本を適当に手に取り、尊大な椅子に腰掛けて肘をつきながらパラパラとページを流し読みする。
 世間では眉唾物として扱われていたこれらも、かつての私は立派な参考書だったし、オカルトボールの製作もこれらが無ければ成すことは出来なかったかもしれない。
 勿論ここに書かれている情報は信憑性の低いものも多く、有益な情報なんてほんの一握りだった。
 それでも、きっとこの本を書いたのは、誰かがここではない何処かを求めて、この世界の謎を研究した、そんな人たちなんだと思う。真剣かどうかはともかくとして、自分が成しえなかった願いを誰かに託すために、その軌跡を記したのだろう。
 けど……、幻想郷に行き来出来るようになってから、どうも色褪せて薄っぺらく感じてしまうようになった。本の中身も、学校も、何もかも。退屈なこの現実は、違う世界に到達という目標すら叶えてしまった今の私にはあまりにも退屈に過ぎる。
 本をテーブルの上に投げ捨て、肘置きに肘をついてふんぞり返る。吹奏楽の笛の音と、どっかの運動部の掛け声が聞こえてくる。ホント、この世界は喧しくて仕方がない。どこにいたって、誰かの人の声が聞こえてくる。
 本を読む手を止めると、すぐに瞼が重くなるのを感じる。現実で過ごす時間は日に日に減っている気がする。きっと本当の自分はあっちで、こっちは一時の帰宅、仮初の居場所に過ぎないんだって、最近はそう思う。
 そうして私はまた、幻想郷へと足を運ぶんだ……。




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