「それが、私の過去。私の目が視えなくなった経緯」
こいしは懐かしい顔をして遠くの方を見る。燐は聞き惚れていたのだが、ようやく口を開くとこんなことを問うた。
「だから、あのメダルを?」
燐が指したのは食器棚の上に置かれていた十字のメダルのようなものだった。
「うん、あの功績が認められてね。騎士鉄十字章を総統閣下から授与されたの」
燐は意外なるこいしの過去を知って、圧倒されたようであった。
その時である。
部屋の扉をノックする音が響いた。
「お燐、居るのね? 入るわよ」
その音の主はこいしの姉であり、燐の主人である古明地さとりであった。
「全く、こんな所で油売って。仕事が溜まってるのよ?」
溜息を吐きながら腕を組むさとり。それに対し燐はまた一つ謎を抱いた。
「……私も国防軍に所属していたのか。ですって? 全く、こいしの法螺話に乗せられたのかしら」
心を読んで呆れたように話すさとり。燐は肩透かしを食らったように崩れそうになった。
「えっと、つまり……?」
「全部こいしの妄想よ。昔っから私達はこの地霊殿に住んでいたわ。国外になんて出たことすらないわよ」
「じゃ、じゃあ! あの勲章は!?」
燐はさとりの言に反論するように尋ねる。だが、これにもさとりは極めて冷静に答えた。
「無縁塚で拾ってきたものでしょう。何でもかんでも拾ってくるんだから、もう」
燐は思わず振り返ってこいしを見た。
こいしはただちろっと舌を出して戯けるのみであった。
――全く、読めない人だ
燐はそう思いながらさとりと共にこいしの部屋を後にした。
最後まで読むとほんとにこいしって感じで良かったです
先へ先へ引きずるように進行する状況が、後から振り返ってみるとこちらを丸め込もうとする話術の妙を感じさせるようで、これもにくい。
地霊殿メンバーが今までどういう経歴をたどってきたのか、この点に思いをはせるのは楽しいですねえ、よかったです。
こんな話がすらすら出てくるこいしちゃんのトーク力が高すぎて笑えました