Coolier - 新生・東方創想話

ハルトマンの妖怪少女

2019/05/18 00:17:44
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「なんでそうなるのよ!!」
 火焔猫燐が廊下を歩いているとどこかの一室からそのような少女の怒号が響いてきた。
 燐は何事かと思いその音のした方に駆け出してみると、そこは主人の妹の部屋だった。
「違うでしょ! これはポーランドの反逆のせいで、ボリシェビキ共にそんな知能あるわけないじゃない!!」
 燐は少し躊躇った。この扉を開けるべきか否か。
 開ければこの激怒の渦に巻き込まれてしまうだろう。しかしもしかしたら何か問題が起きているのかもしれない。
 その逡巡の結果、――ああ、好奇心は猫を殺すとはよく言ったものだ。
 燐は閉ざされた箱の中が気になって仕方なくなってしまい、その扉を開いてしまったのだ。
「どうかしましたか、こい――」
 恐る恐るといった具合に扉の中を覗きこんだ燐の顔に直後厚い本の背表紙が直撃した。
「あ……」
 何かを投げた後のような姿をしている古明地こいしが困惑の声を上げる。
 本を顔で受けた猫と元凶の少女の間に気まずい沈黙が流れた。そしてしばらくした後に、こいしがゆっくりと口を開いた。
「……ご、ごめんね。お燐」
「……」
 燐は何も言わず、ただ涙目で訴えた。この頃には「何か埋め合わせをして貰わねば割に合わない」と考えていた。
 こいしもそれに気づいていたのか、はたまた単に気まずいからか。紅茶を淹れるから座ってて、と言いそそくさと紅茶を取りに行ったのである。
 お燐は床に落ちた本を手に取って椅子に座ると、改めてその本の題を見た。
「帝国崩壊……?」
 どうやらそれはとある国の繁栄と衰退を描いた戦記小説の様だった。
「その内容があまりにも酷かったから投げちゃったのよ、ごめんね。お燐」
 こいしが謝罪の言葉とともに紅茶を淹れて戻ってきた。燐の好きなスコーンも一緒だ。
「まあそれはいいですけど。……なんでこんな本をお読みに?」
「あれ、お燐は私の過去を知らないんだっけ?」
 こいしがとぼけたように答える。
「知らないも何も、あたいこいし様のこと全然知りませんよ。いつもはぐらかされちゃいますし」
 燐は紅茶に口を付けながら少し拗ねてみせた。
「あはは、ごめんごめん。それじゃあちょっとだけ話してあげる。あれは、少し昔のこと――」

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