わたしがいま打っているのはちいさな金槌である。鉄を打つ残響が頭蓋に響く。ぎんぎん。街医者に頼まれて作っているが、奇妙なものだ。お金がもらえるので文句はないが、こんなにアタマがちいさくて軽い槌を何に使うのだろう?
「これはねえ、脚気検査に使うんですよ」
この病気にかかると死ぬらしい。それを見つけるのに使う道具を私は作っている。すると私は妖怪でありながら人間の暮らしに役立つものを作っていることになる。うーん、悩ましい。巫女の針を鍛えたこともあるし、人間の為に鍛冶するのははじめてではが、こう人間に与してばかりでは妖怪としての畏怖畏敬を失うのではないか?
「そんなもの、いままでも無かったじゃない」
鍛えられた針を見定めながら巫女が意地悪を言う。妖怪として存在意義を人間代表に聞く私も私だが――
「だれもあんたなんかこわがってないわよ。割り切って暮らしなさい」
「そんなあ」
巫女は針を受け取ると私に報酬代わりの免罪符を手渡した。これがあれば人里で商売しても取りつぶされない。
「やくざな商売だあ」
「とんだ言いがかりね。なんならもっとやくざらしく取引しましょうか?」
いけない、藪をつついた! 私は飛んで竹林へ赴き、悩み半分あきらめ半分でくだんの槌を納品した。
「どうもありがとう。脚気は命に係わる病気だからね、診断にも気を遣うのよ」
「死ぬ病気が金槌でわかるんですか?」
「大腿四頭筋反射よ。膝の下をたたくと健常なものは足が跳ね上がるけれど、脚気にかかっていると反応が悪いの」
医者が私の膝を打ったがわたしはびくともしない。
「まあ、あなたは妖怪、それも付喪神でもともと生き物じゃないからね」
よかった、私は大病していないらしい。
「どうしたらこの病気になって死ぬんですか?」
「ビタミンの欠乏ね。野菜嫌いがなるわ」
「なんだあ、それじゃあ霊夢は死なないよ。青物ばっかり食べてるんだもの」
「ふふ、そうね。もし彼女が白米と鳥ばかり食べるようになったら、脚気でしぬかもね」
私は頭の中でそろばんをはじいてみた。私が毎日神社にコメと鶏を届けると仮定すると、明らかに金が足りない。忌々しい巫女を死なすには、いよいよ人里で本格的に金物屋鍛冶屋を開くしかなさそうだ。人間の為に。はあ。ため息が出る。
「先生、あの、他にも金物ご入用じゃあございませんか?」
「これはねえ、脚気検査に使うんですよ」
この病気にかかると死ぬらしい。それを見つけるのに使う道具を私は作っている。すると私は妖怪でありながら人間の暮らしに役立つものを作っていることになる。うーん、悩ましい。巫女の針を鍛えたこともあるし、人間の為に鍛冶するのははじめてではが、こう人間に与してばかりでは妖怪としての畏怖畏敬を失うのではないか?
「そんなもの、いままでも無かったじゃない」
鍛えられた針を見定めながら巫女が意地悪を言う。妖怪として存在意義を人間代表に聞く私も私だが――
「だれもあんたなんかこわがってないわよ。割り切って暮らしなさい」
「そんなあ」
巫女は針を受け取ると私に報酬代わりの免罪符を手渡した。これがあれば人里で商売しても取りつぶされない。
「やくざな商売だあ」
「とんだ言いがかりね。なんならもっとやくざらしく取引しましょうか?」
いけない、藪をつついた! 私は飛んで竹林へ赴き、悩み半分あきらめ半分でくだんの槌を納品した。
「どうもありがとう。脚気は命に係わる病気だからね、診断にも気を遣うのよ」
「死ぬ病気が金槌でわかるんですか?」
「大腿四頭筋反射よ。膝の下をたたくと健常なものは足が跳ね上がるけれど、脚気にかかっていると反応が悪いの」
医者が私の膝を打ったがわたしはびくともしない。
「まあ、あなたは妖怪、それも付喪神でもともと生き物じゃないからね」
よかった、私は大病していないらしい。
「どうしたらこの病気になって死ぬんですか?」
「ビタミンの欠乏ね。野菜嫌いがなるわ」
「なんだあ、それじゃあ霊夢は死なないよ。青物ばっかり食べてるんだもの」
「ふふ、そうね。もし彼女が白米と鳥ばかり食べるようになったら、脚気でしぬかもね」
私は頭の中でそろばんをはじいてみた。私が毎日神社にコメと鶏を届けると仮定すると、明らかに金が足りない。忌々しい巫女を死なすには、いよいよ人里で本格的に金物屋鍛冶屋を開くしかなさそうだ。人間の為に。はあ。ため息が出る。
「先生、あの、他にも金物ご入用じゃあございませんか?」
いいオチでした
最後の落ちがよかったです