Coolier - 新生・東方創想話

■今こそ、分かれ目■

2018/03/22 00:00:37
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【数日後:山道】





「ぁ ぁ…ぁ…ぁ ぁ ぁぁ どうしよう どうしよう どうしよう…!!?」


半狂乱になって懸命に走ろうとする舞を、重くなった右半身が地面に引きずり降ろすかの様にのし掛かり、一層彼女の平静を奪う

こんな時、一番傍にいて安心させてくれる筈の彼女はいないも同然だ

一緒にいる事には、いる いつもの様に一緒にいるのに今はいない
件の里乃こそが、舞の右半身を重くしている張本人なのだ


胸元の抉れた切り傷と舞の手との隙間から流れ出た血で服を染め上げた里乃の眼に光は無く、呼吸は空っ風の様に細く弱い
舞に運ばれるがままに頭をガクガクと揺らしていた


「里…、乃ぉ 里乃ぉ…!何か喋ってよぉ ねぇ…!?」


意識はあるのか無いのか…いずれにせよ反応は帰って来ない 当然自力で動こうとしない里乃を引き摺ったまま長い事走り続けた為に、息も苦しく足も痛い
加えて、自分まで胸が痛い 昔からどちらかが怪我や病気、心的な不良で苦しむ時には相方も似た様に苦しんだのだ 今更疑問に思う事ではない

それでも、すぐ真横にある彼女に呼び掛けずにはいられなかった

彼女を助けたい願いと、一人になりたくない絶望に駆られるままに、舞は逃走と呼び掛けを止められずにいた


僕らを追い求める人なんて、誰もいないのに



*****
迂闊ではあった

いつもの様に、夜道を歩く無難そうな通行人から食べ物を頂こうと脅かしに掛かった時の事だ

通行人は驚いた それはもう、二人が期待した以上に激しく…発狂した
闇夜の中から飛び出し脅す二人に何を見たのか、通行人は破裂したのではないかと思える程の絶叫を上げ

持っていた山仕事用の手斧を投げ付けたのだ

全く動かずか、或いは里乃が舞を庇ってか
いずれにせよ、手斧の刃は狙い澄ましたかの様に里乃の胸元に深く食い込んだ

息はあるため致命傷では無い様だが、肉と肉の間に異物が刺し込まれた時の音と震動が頭にこびりついて離れない

体温とそう変わらない温かさの流血を浴びた事もそっちのけで彼女を支え、獣道を引き返した


通行人は「化け物だぁぁ!?」と叫び走り去った様だが、とても構っていられなかった
*****



「はぁ…!ぅぁあ…!ぁぁあ…!?里、 …ッ乃ぉ…!!」


がむしゃらに走り続けた果てに、舞は真っ暗闇のただ中に流れる川辺で足を止めた

幸いにもと言うべきか、幾分続けた夜の生活のおかげで夜目は利く
空に星が出ていて、それが水面に映る位ならば充分だ


彼女を支えたまま、一緒に腰を降ろす

頭がフラフラする 血の気が足りない
何より息が苦しい 流石に走り過ぎたか


「里乃ぉ…!里っ…ぁあどうしよう どうし、…ぁそうだ血ぃ止めないと…」


迷わず左の袖を…ぁあもう右手が上手く動かない…千切り、傷口を努めて優しく拭った
それだけの事であげる苦しげな呻き声に、自分も新たな痛みを感じた

切れ端が真っ赤に染まるまでそうは掛からなかったが、後から後から血は押し寄せて来る
それでもとにかく一通り拭うとまた袖を千切り、包帯代わりに胸に巻き、縛り、上から手で押さえた


…ダメだ まるで手当てになった気がしない


(どうしよう…薬草なんかは里乃を連れて取りに行けないし…医者どころか人のいる平野も遠いし…)


こんな事なら、手斧を投げ付けた男に事情を話して手伝わせるべきだったか


…いや


(どうせ、手伝っちゃくれなかったろうな…)


あの時の男の目
今までに散々見てきた、自分達を遠ざけたがる者の目だ

あの状況から声を掛けたとしても、二人に寄り添う形の結果は得られなかっただろう




(…なんで…?)


傷口を押さえ、頭を撫でてやりながら、暗闇の中で白く静かになっていく里乃の顔を見つめ続けた

里乃以外のものなんて、見たくもなかった

けれど、こんな里乃はもっと見たくなかった


「里乃…!里乃ダメっ息して…!!」


(なんで皆…僕達を、…)



自分達が普通でない事なんて、最初から分かっていた

どう見ても、僕達は“他”とは違ったのだから

だが…それが悪い事とは思わなかったし、苦しさも恥ずかしさも微塵も無かった

大好きな人と片時も離れず、一緒にいられる事が本当に幸せだったのだから

僕達は、誰よりも特別な存在だった筈なのに


「里っ…、ッはぁ は 、ぁ…はっ…」


なのに、“他”が僕達を間違ったものだとし、不快の権化の様に見なし、不幸で歪な存在だと決め付け勝手に憐れむのだ

悔しかった 「そんな事はない!」と喉から血が出るまで叫んで回りたかった

そうしなかったのは、ひとえに里乃が「気にしなくていい」と言ってくれたからで
彼女になだめられ、説き伏せられ、僕と一緒にいられればそれでいいと言ってもらえたからで


「里 乃…息…  るしぃ…」


嗚呼、里乃 里乃 僕は君がいなくちゃどうにもならないんだ
君がいてくれなきゃ夜道も怖くて歩けない 出会した人を脅す事も出来ない 茸だって味がしなくて食べられないし、踊りも踊れやしない

そして…人が恐い

恐れ、気味悪がり、軽蔑し、殺意さえ向けてくる他人が、恐い
まともじゃない者と見られるのが恐い

本当なら、耳を塞いで走って逃げ回り、一生どこかに隠れていたい位なのに


君と一緒なら、僕達だけならば、それがまともな世界だったのに

君がいたから、もう少し頑張れると思えたのに


(里乃、が…いなくなったら…もう、僕、何も 何も…)


いよいよ血の気が引いて来た
頭が回らない 身体が寒さに軋み、痛い

抱き寄せる里乃に分け与える体温も、与えて貰う体温も無い

そして、胸が痛い


(…里乃…)


今までずっと ずっと一緒にいたんだ 今更離れ離れになれるとはこれっぽっちも思えない
このまま彼女が帰って来ないなら、自分も後を追う事となるだろう
それが自分の望みでもあるが、自然な成り行きとしてそうなるとしか思えなかった
その事に一切の恐れや抵抗は無く、むしろ望ましくさえ思う


(…でも…)


こんなにも寒くて痛くて淋しい死に方が、僕達の終わりなのか?

里乃はこんなにも苦しんでいるのに 僕はこんなにも悔しい思いをしているのに

こんな終わり方で、死んだ後も二人で一緒に幸せになれるのだろうか


僕達は、こんな終わり方をしなければならない程に憐れな存在だったのか


「…うっ…ひぅ、ぐ…」


苦しい 悔しい 悔しい 寒い 嫌だ 痛い

こんな こんな所で

まだ、里乃と行きたい所も、食べたい物も、沢山あるのに

まだ もっと ずっと、踊っていたいの に

こんな 所で


苦しい




「あーこりゃ酷いな肺まで届いてる… と言うか刺さった物抜いちゃったの?まぁ知識が無いんじゃ仕方無いか…」



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