「寒い」
霊夢がガタガタと震えながら鼻をすする。
「寒いなら萃香みたいに部屋で待ってればいいって言ったろ。今からでも戻るか?」
わたしだって寒くないわけではない。しかしとある目的のため、こうして寒空の下、妖怪の山に足を踏み入れているのだ。一応毛編みのマフラーや手袋など最低限の防寒具は着ているがやはり寒いものは寒い。
「魔理沙、あんた私がここに来るまでどれだけ歩いたと思ってるの。今から帰るってことは、ここまで必死に寒い思いをして歩いてきた努力を無駄にするということよ」
「へいへい。妙なところでまじめな奴だな、霊夢は」
わたしも霊夢もその気になれば飛んで移動することはできる。しかし今は冬の真っただ中だ。ただでさえ寒風が身に染みるというのに、加えて雪まで降っている。
そんな中で空を飛ぶと体も冷えるし顔も真っ赤になってしまう。そういうわけでわたし達は徒歩で目的地の妖怪の山へと向かっているのだ。
ふと、わたしは空から降りてくる白い何者かに気づいて足を止めた。
「みろよ霊夢。寒い中頑張って仕事をしている奴もいるみたいだぜ。あれを見るとわたし達もこう、頑張って歩こうって気になるだろ?」
「……むしろ早くぬくぬくの部屋で丸まっていたいと感じるわね」
わたし達の前に降り立った、顔を真っ赤にして震える白狼天狗に、霊夢はより体を身震いさせた。やはり飛ばずに歩いてきたのは正解だったようだ。
「あ、あなた達! ど、どどどどういった用件で山には、入るのですか、ずぴ……」
強気な語気でも鼻をすすりながらじゃ台無しだ。わたしはできるだけ労う態度を見せつつ、鼻かみを手渡しながら言った。
「お勤めご苦労さん椛、寒いところ邪魔して悪いな。今日はにとりにちょっと用があるんだ」
「あ、ありがとうございます……にとりさん、ですか? ズピーっ!」
「ああ。頼んでいたコタツの修理がそろそろできてるんじゃないかと思ってな」
そう、わざわざわたし達がこんな寒空の下、けっして近くない妖怪の山まで歩いてきたのは、にとりを訪ねるためだ。
◆
はじまりは少し前。まだ冬も入りたてだったころ、博霊神社の霊夢の部屋には毎年恒例の大きなコタツが出されることになった。
家族用にしても大きすぎる作りだが、これが出されると冬が来たと感じる博霊神社の風物詩ともいえる立派なものだ。
しかしそれが、
「私がいっちばーーん!」
「あ、こら萃香! 最初にコタツに入るのは家主と相場が決まっているでしょ!」
「そんなの知らな……なあ霊夢、このコタツ温くないぞ」
「え、嘘……やだ、本当じゃない」
故障していた。天寿を全うしたのかただの不良なのか素人のわたし達では判断がつかず、仕方なく幻想郷で最も道具の修理に長けたにとりに頼むことになったのだ。
ちなみに、にとりは中々にちゃっかりした奴なので、修理を頼む時はお土産を持っていくのが決まりなのだが――
「萃香、あんたが行ってきなさい。元上司のあんたが行けばにとりもきっと喜んで、ただで修理してくれるはずよ」
という霊夢の文字通り鬼のような一言によって無料での修理が可能となったのだ。
◆
事情を説明すると、椛はそういうことなら、と納得してくれた。
「というか山の神社に人が行き来しやすくするために、哨戒任務は控えるんじゃなかったのか?」
山に守矢三柱が居座って以降は、参拝客を大事にするということで、決められたルートなら人が通っても追い返さないという決まりが、神社と天狗側でなされていたはずだ。わたし達が歩いている道も当然その参拝道の範囲なので、本当なら見逃されてしかるべきなのだ。
「あ、それなんですが、霊夢さんと魔理沙さんだけは何があっても目を離すなというお達しが上の方から出てまして」
「なに? 霊夢はともかくわたしもか?」
「ちょっと、魔理沙はともかく私もなの?」
わたしと霊夢が同時に言った。心外だぜ。お淑やかを地で行くわたしがなんで目をつけられているんだ。
「はい、えっとこの前の守矢主催での宴会でお二人がかなり無理な飲み方をされたからだと……」
「……記憶にないぜ」
「……記憶にないわね」
酔いがさめた時、なぜか回りに妖怪たちが倒れ伏していてなぜかわたしと霊夢以外の全員がボロボロでなぜかそれ以降山の神社の参拝客の人数が減ったみたいだが記憶にないのだから仕方がない。
「とにかく、にとりさんのところへは私もついていきますからね、いいですね」
「まあ、にとりと仲がいい椛がついてきてくれるんなら構わないぜ」
同行者が一人増え、わたし達はにとりの暮らす工房へ向かい、山の中腹の脇道へと入っていった。
◆
やがて澄んだ川に隣接した建物が見えてくきた。
でかでかと“河童工房”なんて書かれているそこが、にとりが作業をするときの工房だ。
わたしも魔法使いの端くれなので工房は持っているが、にとりのと違い、本や研究材料ばかりが散らばっている。一方でにとりの工房は何に使うのかよくわからない金属の部品や数種類ものニッパーやドライバーなど、別の意味で散らかっている。
こういった知的好奇心を刺激する場所は大好物なので、よく遊びにきているが、大体何に使うのかわからないまま終わる。一応にとりも用途を説明してくれるが、わたしにとってにとりが話す言葉は異国の言葉のように難解だ。
「おーいにとりー! 頼んでたコタツだけど直ってるかー!」
三人を代表してわたしが声を上げる。しかし返事は聞こえない。作業中なのかと思ったが、それなら金属をこすり合わせたようなチュイイイイインという音が聞こえてくるはずだ。
「にとり、入るぞー」
そういってドアノブに手をかけると、何の抵抗もなく開いた。これ以上は不法侵入になるが、わたしはあまりそういうのを気にしない性質なのでずかずかと入る。続いて霊夢、椛と続く。わたしが言うのもなんだがコイツらも他人の家に入るという行為に躊躇いがまったく無いらしい。
とにかくわたし達は工房を進んでいった。中は結構広い造りになっていて、一部屋だけのわたしの工房とは大違いだ。どうやら作業ごとに部屋を変えているらしい。
作業音はやはり聞こえない。
「まったく、まさかどこかほっつき歩いているんじゃないでしょうね」
「にとりさんは作業に没頭したら終わるまで食事もとらない人ですし、大丈夫だと思いますけど」
「ええっと、アイツの作業場はこっちか」
三者三様に言いながら、工房の中を歩く。前に来た時同様、中には様々なものがちらかり、興味を惹かれるものもちらほらある。わたしはにとりに会ったら、どれか一つ貸してもらおうと心に決めた。
「おーい! にとりー! ここなんだろ、入るぞー」
そしてわたしは何気なく、適当な作業場の扉の一つを開いた。開いてしまった。
その扉を開いた瞬間、中から漏れ出した暖かい空気がわたし達の全身を包み込んだ。さっきまでの寒空に震えていた体が徐々にほぐれていく。まるで春先の温暖な気候がこの狭い空間内にだけ訪れたかのような感覚。
わたしは思わず膝から地面に崩れ落ちた。後ろを見ると霊夢や椛も同じように倒れこんでいる。それほどまでに暴力的な暖かさだったのだ。
「あー! ちょっと! 入るなら早く扉を閉めてよ! 寒いじゃんか!」
そんなわたし達に声がかけられた。顔を上げると、まるでぬいぐるみのように布団にくるまった河城にとりが、入り口を指さしている。
わたしは反射的に扉を閉めた。暖気が抜け出す場所がなくなったことで、余計に体がポカポカとしてくる。
「あれ? 魔理沙に霊夢、それに椛じゃないか。どうしたんだい突然」
にとりがまるで芋虫のように布団にくるまったまま這ってくる。見るからにだらけたその姿に、霊夢が立ち上がって言った。
「ど、どうしたもこうしたもないわよ! あんたうちのコタツほったらかしてこんな暖かい場所でサボってんじゃないわよ!」
「さ、サボってなんかいないさ! ほら、そこに……」
にとりが指さした場所に目を向けると、確かにいつものコタツがおかれていた。にとりが直したというなら、きっと直っているのだろう。しかし今気になるのはそんなことじゃない。
「なあにとり、なんでこの部屋こんなにあったかいんだ?」
「そうですよ! コタツの中でもないのに」
わたしと椛の疑問に、にとりが「ああ」とうなずく。
「エアコン入ってるからね。それでこの部屋はあったかいんだよ。ほら、私って寒いの苦手じゃん。水の中にいる時はそこまで寒さを感じないんだけど、陸にあがるとね。だから冬の間はこうやって暖かくしてるんだ。大変だったんだよ、自家発電機まで自作してさ」
「えあこん?」
またにとりの口からよくわからない言葉が出た。だが、ようするにそのエアコンというやつがこの部屋の暖かさを維持している正体なのだろう。
よく見るとこの部屋は畳張りで、簡易台所やトイレなど、工房というよりはただの部屋のようだ。何か作業をする空間とも思えないので、本当に暖まるだけの場所らしい。
「でもちょうどよかったよ。この寒い中コタツ届けるのも大変だったからさ、それ直っているから持っていっても大丈夫だよ」
「……だ」
「え? ごめん霊夢、なんだって?」
「いやだ、って言ったのよ! こんな寒空の下に出られるわけないでしょ! 私は今日から冬の間はここで暮らすわ!」
霊夢はそう言うと畳の床にズカっと寝そべった。
「ちょ、困るよ霊夢! あんまり広い部屋じゃないんだから居座られるとくつろげなくなるだろ! 魔理沙もなんか言ってやってよ!」
「あ、にとり、ここのミカンいただいてるぜ」
「あーーーー! 後三個しかないミカン大切に食べようと思っていたのにーーーー!」
「にとりさん、将棋盤ありませんか? この前の対局の続きしましょうよ」
「なに寝そべって居座る気満々になってんのさ椛! 哨戒任務放棄だぞ!」
「今の任務は霊夢さんと魔理沙さんのお目付なのでサボってませんよサボって……むにゃむにゃ」
「寝るなーー! 寝るなら帰れーー!」
にとりの叫びが多少うるさいがわたし達はもう外に出る気にはなれなかった。
人間一度贅沢を覚えてしまうと元の生活には戻れなくなるというやつだ。それは妖怪も一緒だったようで。
◆
その後、博霊神社にもエアコンを設置するという話でどうにかわたし達を家に帰すことに成功したにとりだったが、人の噂に戸は立てられず、話が波及し、幻想郷の各所にエアコンが設置されることになったらしい。
「こうなりゃヤケだよ! エアコンだろうが自家発電機だろうがいくらでも作ってやろうじゃないかーーーー! その代わり全員キュウリは大量に用意しとくんだぞーーーー!」
そんな悲痛な叫びと共に、にとり工房は冬場、大盛況を迎えることになった。
霊夢がガタガタと震えながら鼻をすする。
「寒いなら萃香みたいに部屋で待ってればいいって言ったろ。今からでも戻るか?」
わたしだって寒くないわけではない。しかしとある目的のため、こうして寒空の下、妖怪の山に足を踏み入れているのだ。一応毛編みのマフラーや手袋など最低限の防寒具は着ているがやはり寒いものは寒い。
「魔理沙、あんた私がここに来るまでどれだけ歩いたと思ってるの。今から帰るってことは、ここまで必死に寒い思いをして歩いてきた努力を無駄にするということよ」
「へいへい。妙なところでまじめな奴だな、霊夢は」
わたしも霊夢もその気になれば飛んで移動することはできる。しかし今は冬の真っただ中だ。ただでさえ寒風が身に染みるというのに、加えて雪まで降っている。
そんな中で空を飛ぶと体も冷えるし顔も真っ赤になってしまう。そういうわけでわたし達は徒歩で目的地の妖怪の山へと向かっているのだ。
ふと、わたしは空から降りてくる白い何者かに気づいて足を止めた。
「みろよ霊夢。寒い中頑張って仕事をしている奴もいるみたいだぜ。あれを見るとわたし達もこう、頑張って歩こうって気になるだろ?」
「……むしろ早くぬくぬくの部屋で丸まっていたいと感じるわね」
わたし達の前に降り立った、顔を真っ赤にして震える白狼天狗に、霊夢はより体を身震いさせた。やはり飛ばずに歩いてきたのは正解だったようだ。
「あ、あなた達! ど、どどどどういった用件で山には、入るのですか、ずぴ……」
強気な語気でも鼻をすすりながらじゃ台無しだ。わたしはできるだけ労う態度を見せつつ、鼻かみを手渡しながら言った。
「お勤めご苦労さん椛、寒いところ邪魔して悪いな。今日はにとりにちょっと用があるんだ」
「あ、ありがとうございます……にとりさん、ですか? ズピーっ!」
「ああ。頼んでいたコタツの修理がそろそろできてるんじゃないかと思ってな」
そう、わざわざわたし達がこんな寒空の下、けっして近くない妖怪の山まで歩いてきたのは、にとりを訪ねるためだ。
◆
はじまりは少し前。まだ冬も入りたてだったころ、博霊神社の霊夢の部屋には毎年恒例の大きなコタツが出されることになった。
家族用にしても大きすぎる作りだが、これが出されると冬が来たと感じる博霊神社の風物詩ともいえる立派なものだ。
しかしそれが、
「私がいっちばーーん!」
「あ、こら萃香! 最初にコタツに入るのは家主と相場が決まっているでしょ!」
「そんなの知らな……なあ霊夢、このコタツ温くないぞ」
「え、嘘……やだ、本当じゃない」
故障していた。天寿を全うしたのかただの不良なのか素人のわたし達では判断がつかず、仕方なく幻想郷で最も道具の修理に長けたにとりに頼むことになったのだ。
ちなみに、にとりは中々にちゃっかりした奴なので、修理を頼む時はお土産を持っていくのが決まりなのだが――
「萃香、あんたが行ってきなさい。元上司のあんたが行けばにとりもきっと喜んで、ただで修理してくれるはずよ」
という霊夢の文字通り鬼のような一言によって無料での修理が可能となったのだ。
◆
事情を説明すると、椛はそういうことなら、と納得してくれた。
「というか山の神社に人が行き来しやすくするために、哨戒任務は控えるんじゃなかったのか?」
山に守矢三柱が居座って以降は、参拝客を大事にするということで、決められたルートなら人が通っても追い返さないという決まりが、神社と天狗側でなされていたはずだ。わたし達が歩いている道も当然その参拝道の範囲なので、本当なら見逃されてしかるべきなのだ。
「あ、それなんですが、霊夢さんと魔理沙さんだけは何があっても目を離すなというお達しが上の方から出てまして」
「なに? 霊夢はともかくわたしもか?」
「ちょっと、魔理沙はともかく私もなの?」
わたしと霊夢が同時に言った。心外だぜ。お淑やかを地で行くわたしがなんで目をつけられているんだ。
「はい、えっとこの前の守矢主催での宴会でお二人がかなり無理な飲み方をされたからだと……」
「……記憶にないぜ」
「……記憶にないわね」
酔いがさめた時、なぜか回りに妖怪たちが倒れ伏していてなぜかわたしと霊夢以外の全員がボロボロでなぜかそれ以降山の神社の参拝客の人数が減ったみたいだが記憶にないのだから仕方がない。
「とにかく、にとりさんのところへは私もついていきますからね、いいですね」
「まあ、にとりと仲がいい椛がついてきてくれるんなら構わないぜ」
同行者が一人増え、わたし達はにとりの暮らす工房へ向かい、山の中腹の脇道へと入っていった。
◆
やがて澄んだ川に隣接した建物が見えてくきた。
でかでかと“河童工房”なんて書かれているそこが、にとりが作業をするときの工房だ。
わたしも魔法使いの端くれなので工房は持っているが、にとりのと違い、本や研究材料ばかりが散らばっている。一方でにとりの工房は何に使うのかよくわからない金属の部品や数種類ものニッパーやドライバーなど、別の意味で散らかっている。
こういった知的好奇心を刺激する場所は大好物なので、よく遊びにきているが、大体何に使うのかわからないまま終わる。一応にとりも用途を説明してくれるが、わたしにとってにとりが話す言葉は異国の言葉のように難解だ。
「おーいにとりー! 頼んでたコタツだけど直ってるかー!」
三人を代表してわたしが声を上げる。しかし返事は聞こえない。作業中なのかと思ったが、それなら金属をこすり合わせたようなチュイイイイインという音が聞こえてくるはずだ。
「にとり、入るぞー」
そういってドアノブに手をかけると、何の抵抗もなく開いた。これ以上は不法侵入になるが、わたしはあまりそういうのを気にしない性質なのでずかずかと入る。続いて霊夢、椛と続く。わたしが言うのもなんだがコイツらも他人の家に入るという行為に躊躇いがまったく無いらしい。
とにかくわたし達は工房を進んでいった。中は結構広い造りになっていて、一部屋だけのわたしの工房とは大違いだ。どうやら作業ごとに部屋を変えているらしい。
作業音はやはり聞こえない。
「まったく、まさかどこかほっつき歩いているんじゃないでしょうね」
「にとりさんは作業に没頭したら終わるまで食事もとらない人ですし、大丈夫だと思いますけど」
「ええっと、アイツの作業場はこっちか」
三者三様に言いながら、工房の中を歩く。前に来た時同様、中には様々なものがちらかり、興味を惹かれるものもちらほらある。わたしはにとりに会ったら、どれか一つ貸してもらおうと心に決めた。
「おーい! にとりー! ここなんだろ、入るぞー」
そしてわたしは何気なく、適当な作業場の扉の一つを開いた。開いてしまった。
その扉を開いた瞬間、中から漏れ出した暖かい空気がわたし達の全身を包み込んだ。さっきまでの寒空に震えていた体が徐々にほぐれていく。まるで春先の温暖な気候がこの狭い空間内にだけ訪れたかのような感覚。
わたしは思わず膝から地面に崩れ落ちた。後ろを見ると霊夢や椛も同じように倒れこんでいる。それほどまでに暴力的な暖かさだったのだ。
「あー! ちょっと! 入るなら早く扉を閉めてよ! 寒いじゃんか!」
そんなわたし達に声がかけられた。顔を上げると、まるでぬいぐるみのように布団にくるまった河城にとりが、入り口を指さしている。
わたしは反射的に扉を閉めた。暖気が抜け出す場所がなくなったことで、余計に体がポカポカとしてくる。
「あれ? 魔理沙に霊夢、それに椛じゃないか。どうしたんだい突然」
にとりがまるで芋虫のように布団にくるまったまま這ってくる。見るからにだらけたその姿に、霊夢が立ち上がって言った。
「ど、どうしたもこうしたもないわよ! あんたうちのコタツほったらかしてこんな暖かい場所でサボってんじゃないわよ!」
「さ、サボってなんかいないさ! ほら、そこに……」
にとりが指さした場所に目を向けると、確かにいつものコタツがおかれていた。にとりが直したというなら、きっと直っているのだろう。しかし今気になるのはそんなことじゃない。
「なあにとり、なんでこの部屋こんなにあったかいんだ?」
「そうですよ! コタツの中でもないのに」
わたしと椛の疑問に、にとりが「ああ」とうなずく。
「エアコン入ってるからね。それでこの部屋はあったかいんだよ。ほら、私って寒いの苦手じゃん。水の中にいる時はそこまで寒さを感じないんだけど、陸にあがるとね。だから冬の間はこうやって暖かくしてるんだ。大変だったんだよ、自家発電機まで自作してさ」
「えあこん?」
またにとりの口からよくわからない言葉が出た。だが、ようするにそのエアコンというやつがこの部屋の暖かさを維持している正体なのだろう。
よく見るとこの部屋は畳張りで、簡易台所やトイレなど、工房というよりはただの部屋のようだ。何か作業をする空間とも思えないので、本当に暖まるだけの場所らしい。
「でもちょうどよかったよ。この寒い中コタツ届けるのも大変だったからさ、それ直っているから持っていっても大丈夫だよ」
「……だ」
「え? ごめん霊夢、なんだって?」
「いやだ、って言ったのよ! こんな寒空の下に出られるわけないでしょ! 私は今日から冬の間はここで暮らすわ!」
霊夢はそう言うと畳の床にズカっと寝そべった。
「ちょ、困るよ霊夢! あんまり広い部屋じゃないんだから居座られるとくつろげなくなるだろ! 魔理沙もなんか言ってやってよ!」
「あ、にとり、ここのミカンいただいてるぜ」
「あーーーー! 後三個しかないミカン大切に食べようと思っていたのにーーーー!」
「にとりさん、将棋盤ありませんか? この前の対局の続きしましょうよ」
「なに寝そべって居座る気満々になってんのさ椛! 哨戒任務放棄だぞ!」
「今の任務は霊夢さんと魔理沙さんのお目付なのでサボってませんよサボって……むにゃむにゃ」
「寝るなーー! 寝るなら帰れーー!」
にとりの叫びが多少うるさいがわたし達はもう外に出る気にはなれなかった。
人間一度贅沢を覚えてしまうと元の生活には戻れなくなるというやつだ。それは妖怪も一緒だったようで。
◆
その後、博霊神社にもエアコンを設置するという話でどうにかわたし達を家に帰すことに成功したにとりだったが、人の噂に戸は立てられず、話が波及し、幻想郷の各所にエアコンが設置されることになったらしい。
「こうなりゃヤケだよ! エアコンだろうが自家発電機だろうがいくらでも作ってやろうじゃないかーーーー! その代わり全員キュウリは大量に用意しとくんだぞーーーー!」
そんな悲痛な叫びと共に、にとり工房は冬場、大盛況を迎えることになった。
みんな優しくて文字通りにあったかい話
という感じの、ほのぼのとした良い作品でした
にとりの部屋にみんなが居座ろうとするところがらしいですね