目をあけて一番最初に見たのは天井。普段通り。
「おはよう霊夢」夏の暑さから浮いて見える微笑み。
「……紫」
「なあに?」
普段なら疎ましい声が、今は安心する。
蝉の声が響いている。風鈴の音が聞こえる。世界に色がある。
「……なんでもない」
まだ寝転んだまま。起きなくてもいいかな。
「白昼夢にとらわれるなんて霊夢もモテモテね」
ああ、やっぱり疎ましいかも……。
「今は、夢じゃないって言い切れるの?」口に出して怖くなった。現実はどこにあるのか。そもそも現実とは何か。それすら理解していないのだ。
「どっちでもいいじゃない」紫は微笑んでいた。「私にとってここは現実。そこにあなたを連れてきただけよ」
私は紫から顔をそらした。この威圧感は、昔から苦手だ。
「私はね、霊夢。あなたがいればどこだって関係ないのよ」
紫は私の顔を覗きこんでくる。それを避けようと顔を傾けていくが、限度がある。すぐに真正面に捉えられてしまった。
ほとんど覆いかぶさってきた紫の肩を遠くへ押しやろうとした。でも、その手は紫に掴まれて、地面に押し返されてしまった。
両手が地面に押さえつけられて、ほぼ押し倒された状態になる。
「何する気よ……」ああ、嫌な予感がする。
「別に?」
そう言うと紫は少し舌を出した。そのまま私の首もとへ。
「――ッ」
首筋に冷たい感触が走る。首の上の方から下の方へ。紫の舌がだんだんと私の体を這いまわっていく。
他の部位より首は少し湿り気を得た。少し粘着質のある唾液で。
手足をジタバタさせて抵抗するが、効果は薄かった。
「暴れなくたっていいじゃないの」紫の微笑み。それから恐怖を感じる。
「夜はまだはじまってもいないのよ」
紫の目に魔性を見た。
ただこのリズムはちょっと自分には強すぎたかな