ガレージでいつものように、アリスのミニをメンテナンスする。
ドレンボルトを取って、オイルを抜いて、ワッシャは捨てる。
オイルを抜いている間にオイルとワッシャ、エレメントを探す。
オイルは事前に注文した。
エレメントもそうだ。
それらは段ボール箱に入ったものがすぐに見つかった。
ワッシャはネジなんかと一緒に棚にストックがあったはず。
ドレンボルトワッシャと書かれた小さな引出を開けた。
ない
おかしい
前回、なくなっていたら発注するはずだ。
引出を引き抜いて、引出の箱を確かめる。
ない
下の引出に落ちたに違いない。
周辺の引出を片っ端から開けてみたがやはりない。
冷や汗が流れる。
私がごそごそとワッシャを探していると、アリスが気づいて、ガレージの中に入って来た。
「どうしたの」
「いや、なんでもないよ」
「顔に何かあったって書いてあるわ」
「ワッシャ発注するの忘れちゃった」
「馬鹿ねぇ、さっさと買ってきなさい」
「どこに」
「外の品の卸をやってるのなんて、あそこしかないでしょう」
「私にあそこに行けっていうのか?」
「ええ。行けって言ってるわ」
「アリス、コブラ貸すから、行ってきてくれないか?」
「私を使い走りに使うなんて、舐めたことを言うのね」
「じゃぁ、どうするんだよ」
「仕方ないから一緒に行ってあげるわ」
「どうしてもアリスだけじゃだめか」
「ダメよ」
「なんでもするからさ」
「なんでも・・・。そうね、じゃぁ、私のお人形になりなさい。これから毎日、私の指定するお洋服を着るって約束すれば今回だけは行ってあげてもいいけど」
「毎日?いつまでだ?」
「死ぬまでに決まってるでしょ。大丈夫、あなたが年を取っても、ちゃんと似合うお洋服を作ってあげるから」
「そりゃないぜ」
「じゃぁ、さっさと行ってきなさいよ」
私はためらいつつも、アリスに聞いた。
「一緒についてきてくれるんだろうな」
「ええ、行ってあげるわ」
アリスは子供をなだめるように言った。
私が躊躇していると、アリスはコブラのエンジンを勝手にかけて暖気し始めた。
私はつなぎから着替えて仕方なく助手席に乗った。
アリスは丁寧に運転して里に向かってコブラを走らせた。
道中、私は考えた。
どうしろっていうんだ。
発注するときも電話ですれば一発なのだが、電話するのが嫌でわざわざ手紙で発注している。
支払いや受け取りも郵便の現金書留で払い、局留めで品物を受け取るようにしている。
私的な手紙が入っていることもあったが、それは焼き捨てた。
私はあいつと会わないように、声を躱さないように徹底的に配慮してきた。
それを、私の長年の苦労を・・・。
あそこに行くのは8年ぶりぐらいだと思う。
どんな顔をして、あそこに行けばいいというのだ。
考えれば考えるほどカッコ悪い。
悪いのはあいつだ。
でも、事態を悪化させているのは私だ。
店に入ってなんて言えばいい。
“ドレンボルトワッシャをくれ”か?
まぁ、そうしよう。
それ以外に言う言葉なんて見当たらない。
あいつがいなければいいなぁ。
アリスや霊夢の話では小僧が一人で店番をしていることもあるという。
私はその幸運を願った。
人間はこういうときだけ神に祈る。
例え、神様が山の山頂にいる、おおざっぱな奴だとしてもだ。
里の端に着くと、私はアリスに引っ張られるようにして、その店に向かった。
店の名前は霧雨商会。
親父が紫と妙に仲が良く、外の品物の卸を独占して行っている。
食料品からドレンボルトワッシャまでなんでも扱うのが霧雨商会だ。
普通だったら紫に直接お願いし、いちいち嫌味を言われ、弱みを握られるところを、親父が仲介して仕入れてくれる。
まぁ、品物によっては紫に断られることもあるが、大概は大丈夫だ。
なんで紫が親父と商売をしているのかはなぞだ。
私が幼いころ、たまに紫が酒とつまみを持って訊ねてきた記憶がある。
親父にあの人は誰と聞いたことがあるが、仕入れ先の御嬢さんと言っていた。
そのため、私は最近まで紫が妖怪であることに気が付かなかった。
なんでいつも一緒にお酒を飲むのと聞くと、それは紫が自分に惚れているからだと言って紫と母に殴られていた。
今考えると酒も飲んでいたので、冗談だと分かるが、それにしても娘の前でそんなことを言うなんて最低の父親だ。
そんな私の心情を全く考えずにアリスは店の敷居を跨いだ。
私もアリスの背中に隠れて店の中に入っていく。
店の中は私の記憶と変わらなかった。
「いらっしゃい。」
親父の声だ。最悪だ。
「何かお探し・・・。」
親父の声が不自然に途切れると椅子が倒れる音がした。
「あぁ、もう!」
アリスは大股で、いつも親父が座って、帳簿とにらめっこをしていた席に近づく。
私がそっとその席を見ると親父は気絶し、上海と蓬莱に脇を支えられていた。
アリスは椅子を立てると「魔理沙、気付け薬とブランデー持ってきて」と言った。
「ああ、分かった」
私は久しぶりに自分の家に上がった。
この建物は住居兼用で、一階の一部が店舗で、奥と2階は住居だ。
商品をストックする倉庫は別にある。
店舗の奥には台所と居間があり、私は居間の棚からブランデーとグラスを、救急箱から気付け薬を取りだした。
場所は変わっていなかった。
「あら、魔理沙お帰り。どうしたの、そんなの持って」
台所から母が顔を出し、私がただ寺子屋から帰って来たかのように言った。
「親父が倒れたんだ」
「あなたが帰って来たからでしょ」
「だろうな」
「もう、しょうがないんだから」
「そうだな」
「ごはんは食べてくの」
「いや、すぐ帰るよ」
「あら、そう」
そういっても、母は飯をアリスと自分の分まで作るであろうことは容易に想像がついた。
というより、すでに作られていてもおかしくはなかった。
私が店舗に戻ると、父は椅子に座らされていた。
アリスに気付け薬を渡すと、瓶を開けて親父に嗅がせた。
親父は2,3度うなってから目を開けた。
私はグラスにブランデーを注ぎ「ブランデーだ」私はそう言って親父に飲ませた。
親父はグラスを掴み、一気にブランデーを飲み乾した。
「済まない、落ち着いたよ。しかし、本当に魔理沙か」
親父はそういって、自分の頬をつねった。
「夢ではないようだな。何の用だ。お前がここに来るんだから相当の用だろう」
「ドレンボルトワッシャがほしいんだ。6個ぐらい」
「ミニのだな」
私がうなずくと、親父は立ち上がり、小さな車のスペアパーツが仕舞われている棚に向かった。
その姿は懐かしかった。
あらためて店に立つと、ここでさまざまなことを教えてもらったことに気が付いた。
親父や河童、里の様々な職人から品物の種類やその機能、特徴について教えてもらった。
店の経営や商品の管理についてもだ。
ワッシャの場所なんて親父に取って貰わなくても覚えていた。
いや、ワッシャだけじゃない。
もし、配置が変わっていなければ、ここにあるすべての商品の場所とその値段を言える気がした。
親父はやはり私の記憶と変わらない場所からワッシャを取りだすと、ファイルを取り出して値段を確認した。
確か、一個250円。
8か月前に注文したときに昔から変わらないのは確認していた。
物の値段は覚えておけと言ったのは親父だ。
それはいつの間にか、私の習慣になっていた。
親父は「1500円」と言った。
私は金を払った。
「お前がわざわざ買いに来るなんて思わなかった」
「一大事だからな」
「在庫の管理はちゃんとしておけと言っておいただろ」
「出来の悪い娘で悪かったな」
「いや、そんなことは無い。自慢の娘だ」
親父はここで一度区切った。
「お前がよければいつでも来い。あいつが心配している」
「心配してるのはお前だろ」
私はワッシャをポシェットに突っ込み、店の入り口に向かって足早で歩いた。
「悪かった」
店を出かかった私に、親父はそう言った。
「また来てやる。部品を買いにな」
私は振り向きもせずにそう言い残して、里の端に向かって走った。
コブラに乗り込み、エンジンをかけると少し落ち着いた。
アリスはゆっくりと歩いて戻ってくると助手席に収まった。
「行くぜ」
「安全運転でね」
家に帰るととりあえず、ワッシャを棚にしまうことにした。
先ほどと同じドレンボルトワッシャと書かれた引出を開ける。
そこには新品のワッシャが2個入っていた。
私は自分の愚かさに気が付いた。
初めから仕組まれていたのだ。
知らなかったのは私と親父だけだろう。
「アリス。これはなんだ?隠してたのか?」
ワッシャを持ってアリスに詰め寄った。
アリスはガレージの庇に机といすを出して、本を読んでいた。
「あったの?私はそんなの知らないわ」
アリスは白々しくそう言うと、空になった紅茶のポットを持って母屋に入っていった。
蛇足
時間は魔理沙が霧雨商会を出たところまで戻る。
「はぁ。あなたね、さっきちゃんと謝っておけば、魔理沙と一緒に食事できたのに」
とあきれた顔のアリスが言った。
「済まない。急だったからな」
「昨日FAXしても結果は同じだったと思うけど」
「急激に魔理沙分過多の状態に陥ったら、正常に話せなくもなる」
「あなたね、論理的なこと言ってるつもりかもしれないけど、内容は娘ともまともに会話できない、ただのダメ親父よ」
「済まない」
アリスが魔理沙を追って店を出ようとすると、魔理沙の父親が声をかけた。
「アリスさん」
「なによ?出かけの女性に声をかけるのがブームなのかしら」
「ありがとう」
アリスはため息をついて「また来るみたいだから、次はうまくやりなさいよ」と言った。
魔理沙の父親は静かに頷いて「魔理沙をよろしく頼む」と言った。
彼は椅子に座ったままアリスを見送ると、リキュールグラスにブランデーを注いだ。
「いけないんだ。こんな時間から飲んで」
「いつから見てた」
「あなたが、魔理沙が来ていることに半信半疑でほっぺたをつねっているところから」
「初めからだな」
「あなたったら、娘相手にしどろもどろになっちゃって。おかしかったわ」
「仕方ない、久しぶりに会ったんだ。お前もだろ」
「私は買い物のときとかにちょくちょく会ってたし、お茶をしたこともあったわ」
「そうなのか」
「そうよ。今度、買い物行ってみる?」
「いや、俺はここで待つよ」
なんだ、買い物を任せられると思ったのにとつぶやいた。
魔理沙の母親は勝手に店の看板をCloseにして扉の鍵を閉めた。
「今日は飲んじゃったし、店仕舞いにしましょ。私にも一杯頂戴」
「お前が飲むのか」
「お祝いでしょ。父親が8年ぶりに娘と話した」
魔理沙の父親はブランデーを一気に飲み干すと、空いたリキュールグラスになみなみとブランデーを注いだ。
ドレンボルトを取って、オイルを抜いて、ワッシャは捨てる。
オイルを抜いている間にオイルとワッシャ、エレメントを探す。
オイルは事前に注文した。
エレメントもそうだ。
それらは段ボール箱に入ったものがすぐに見つかった。
ワッシャはネジなんかと一緒に棚にストックがあったはず。
ドレンボルトワッシャと書かれた小さな引出を開けた。
ない
おかしい
前回、なくなっていたら発注するはずだ。
引出を引き抜いて、引出の箱を確かめる。
ない
下の引出に落ちたに違いない。
周辺の引出を片っ端から開けてみたがやはりない。
冷や汗が流れる。
私がごそごそとワッシャを探していると、アリスが気づいて、ガレージの中に入って来た。
「どうしたの」
「いや、なんでもないよ」
「顔に何かあったって書いてあるわ」
「ワッシャ発注するの忘れちゃった」
「馬鹿ねぇ、さっさと買ってきなさい」
「どこに」
「外の品の卸をやってるのなんて、あそこしかないでしょう」
「私にあそこに行けっていうのか?」
「ええ。行けって言ってるわ」
「アリス、コブラ貸すから、行ってきてくれないか?」
「私を使い走りに使うなんて、舐めたことを言うのね」
「じゃぁ、どうするんだよ」
「仕方ないから一緒に行ってあげるわ」
「どうしてもアリスだけじゃだめか」
「ダメよ」
「なんでもするからさ」
「なんでも・・・。そうね、じゃぁ、私のお人形になりなさい。これから毎日、私の指定するお洋服を着るって約束すれば今回だけは行ってあげてもいいけど」
「毎日?いつまでだ?」
「死ぬまでに決まってるでしょ。大丈夫、あなたが年を取っても、ちゃんと似合うお洋服を作ってあげるから」
「そりゃないぜ」
「じゃぁ、さっさと行ってきなさいよ」
私はためらいつつも、アリスに聞いた。
「一緒についてきてくれるんだろうな」
「ええ、行ってあげるわ」
アリスは子供をなだめるように言った。
私が躊躇していると、アリスはコブラのエンジンを勝手にかけて暖気し始めた。
私はつなぎから着替えて仕方なく助手席に乗った。
アリスは丁寧に運転して里に向かってコブラを走らせた。
道中、私は考えた。
どうしろっていうんだ。
発注するときも電話ですれば一発なのだが、電話するのが嫌でわざわざ手紙で発注している。
支払いや受け取りも郵便の現金書留で払い、局留めで品物を受け取るようにしている。
私的な手紙が入っていることもあったが、それは焼き捨てた。
私はあいつと会わないように、声を躱さないように徹底的に配慮してきた。
それを、私の長年の苦労を・・・。
あそこに行くのは8年ぶりぐらいだと思う。
どんな顔をして、あそこに行けばいいというのだ。
考えれば考えるほどカッコ悪い。
悪いのはあいつだ。
でも、事態を悪化させているのは私だ。
店に入ってなんて言えばいい。
“ドレンボルトワッシャをくれ”か?
まぁ、そうしよう。
それ以外に言う言葉なんて見当たらない。
あいつがいなければいいなぁ。
アリスや霊夢の話では小僧が一人で店番をしていることもあるという。
私はその幸運を願った。
人間はこういうときだけ神に祈る。
例え、神様が山の山頂にいる、おおざっぱな奴だとしてもだ。
里の端に着くと、私はアリスに引っ張られるようにして、その店に向かった。
店の名前は霧雨商会。
親父が紫と妙に仲が良く、外の品物の卸を独占して行っている。
食料品からドレンボルトワッシャまでなんでも扱うのが霧雨商会だ。
普通だったら紫に直接お願いし、いちいち嫌味を言われ、弱みを握られるところを、親父が仲介して仕入れてくれる。
まぁ、品物によっては紫に断られることもあるが、大概は大丈夫だ。
なんで紫が親父と商売をしているのかはなぞだ。
私が幼いころ、たまに紫が酒とつまみを持って訊ねてきた記憶がある。
親父にあの人は誰と聞いたことがあるが、仕入れ先の御嬢さんと言っていた。
そのため、私は最近まで紫が妖怪であることに気が付かなかった。
なんでいつも一緒にお酒を飲むのと聞くと、それは紫が自分に惚れているからだと言って紫と母に殴られていた。
今考えると酒も飲んでいたので、冗談だと分かるが、それにしても娘の前でそんなことを言うなんて最低の父親だ。
そんな私の心情を全く考えずにアリスは店の敷居を跨いだ。
私もアリスの背中に隠れて店の中に入っていく。
店の中は私の記憶と変わらなかった。
「いらっしゃい。」
親父の声だ。最悪だ。
「何かお探し・・・。」
親父の声が不自然に途切れると椅子が倒れる音がした。
「あぁ、もう!」
アリスは大股で、いつも親父が座って、帳簿とにらめっこをしていた席に近づく。
私がそっとその席を見ると親父は気絶し、上海と蓬莱に脇を支えられていた。
アリスは椅子を立てると「魔理沙、気付け薬とブランデー持ってきて」と言った。
「ああ、分かった」
私は久しぶりに自分の家に上がった。
この建物は住居兼用で、一階の一部が店舗で、奥と2階は住居だ。
商品をストックする倉庫は別にある。
店舗の奥には台所と居間があり、私は居間の棚からブランデーとグラスを、救急箱から気付け薬を取りだした。
場所は変わっていなかった。
「あら、魔理沙お帰り。どうしたの、そんなの持って」
台所から母が顔を出し、私がただ寺子屋から帰って来たかのように言った。
「親父が倒れたんだ」
「あなたが帰って来たからでしょ」
「だろうな」
「もう、しょうがないんだから」
「そうだな」
「ごはんは食べてくの」
「いや、すぐ帰るよ」
「あら、そう」
そういっても、母は飯をアリスと自分の分まで作るであろうことは容易に想像がついた。
というより、すでに作られていてもおかしくはなかった。
私が店舗に戻ると、父は椅子に座らされていた。
アリスに気付け薬を渡すと、瓶を開けて親父に嗅がせた。
親父は2,3度うなってから目を開けた。
私はグラスにブランデーを注ぎ「ブランデーだ」私はそう言って親父に飲ませた。
親父はグラスを掴み、一気にブランデーを飲み乾した。
「済まない、落ち着いたよ。しかし、本当に魔理沙か」
親父はそういって、自分の頬をつねった。
「夢ではないようだな。何の用だ。お前がここに来るんだから相当の用だろう」
「ドレンボルトワッシャがほしいんだ。6個ぐらい」
「ミニのだな」
私がうなずくと、親父は立ち上がり、小さな車のスペアパーツが仕舞われている棚に向かった。
その姿は懐かしかった。
あらためて店に立つと、ここでさまざまなことを教えてもらったことに気が付いた。
親父や河童、里の様々な職人から品物の種類やその機能、特徴について教えてもらった。
店の経営や商品の管理についてもだ。
ワッシャの場所なんて親父に取って貰わなくても覚えていた。
いや、ワッシャだけじゃない。
もし、配置が変わっていなければ、ここにあるすべての商品の場所とその値段を言える気がした。
親父はやはり私の記憶と変わらない場所からワッシャを取りだすと、ファイルを取り出して値段を確認した。
確か、一個250円。
8か月前に注文したときに昔から変わらないのは確認していた。
物の値段は覚えておけと言ったのは親父だ。
それはいつの間にか、私の習慣になっていた。
親父は「1500円」と言った。
私は金を払った。
「お前がわざわざ買いに来るなんて思わなかった」
「一大事だからな」
「在庫の管理はちゃんとしておけと言っておいただろ」
「出来の悪い娘で悪かったな」
「いや、そんなことは無い。自慢の娘だ」
親父はここで一度区切った。
「お前がよければいつでも来い。あいつが心配している」
「心配してるのはお前だろ」
私はワッシャをポシェットに突っ込み、店の入り口に向かって足早で歩いた。
「悪かった」
店を出かかった私に、親父はそう言った。
「また来てやる。部品を買いにな」
私は振り向きもせずにそう言い残して、里の端に向かって走った。
コブラに乗り込み、エンジンをかけると少し落ち着いた。
アリスはゆっくりと歩いて戻ってくると助手席に収まった。
「行くぜ」
「安全運転でね」
家に帰るととりあえず、ワッシャを棚にしまうことにした。
先ほどと同じドレンボルトワッシャと書かれた引出を開ける。
そこには新品のワッシャが2個入っていた。
私は自分の愚かさに気が付いた。
初めから仕組まれていたのだ。
知らなかったのは私と親父だけだろう。
「アリス。これはなんだ?隠してたのか?」
ワッシャを持ってアリスに詰め寄った。
アリスはガレージの庇に机といすを出して、本を読んでいた。
「あったの?私はそんなの知らないわ」
アリスは白々しくそう言うと、空になった紅茶のポットを持って母屋に入っていった。
蛇足
時間は魔理沙が霧雨商会を出たところまで戻る。
「はぁ。あなたね、さっきちゃんと謝っておけば、魔理沙と一緒に食事できたのに」
とあきれた顔のアリスが言った。
「済まない。急だったからな」
「昨日FAXしても結果は同じだったと思うけど」
「急激に魔理沙分過多の状態に陥ったら、正常に話せなくもなる」
「あなたね、論理的なこと言ってるつもりかもしれないけど、内容は娘ともまともに会話できない、ただのダメ親父よ」
「済まない」
アリスが魔理沙を追って店を出ようとすると、魔理沙の父親が声をかけた。
「アリスさん」
「なによ?出かけの女性に声をかけるのがブームなのかしら」
「ありがとう」
アリスはため息をついて「また来るみたいだから、次はうまくやりなさいよ」と言った。
魔理沙の父親は静かに頷いて「魔理沙をよろしく頼む」と言った。
彼は椅子に座ったままアリスを見送ると、リキュールグラスにブランデーを注いだ。
「いけないんだ。こんな時間から飲んで」
「いつから見てた」
「あなたが、魔理沙が来ていることに半信半疑でほっぺたをつねっているところから」
「初めからだな」
「あなたったら、娘相手にしどろもどろになっちゃって。おかしかったわ」
「仕方ない、久しぶりに会ったんだ。お前もだろ」
「私は買い物のときとかにちょくちょく会ってたし、お茶をしたこともあったわ」
「そうなのか」
「そうよ。今度、買い物行ってみる?」
「いや、俺はここで待つよ」
なんだ、買い物を任せられると思ったのにとつぶやいた。
魔理沙の母親は勝手に店の看板をCloseにして扉の鍵を閉めた。
「今日は飲んじゃったし、店仕舞いにしましょ。私にも一杯頂戴」
「お前が飲むのか」
「お祝いでしょ。父親が8年ぶりに娘と話した」
魔理沙の父親はブランデーを一気に飲み干すと、空いたリキュールグラスになみなみとブランデーを注いだ。
ブログ等でやると誰にも注目されないから自分の足場として二次創作の形をとっているだけの作品でした。