ふむ、と八百屋さんの店先で咲夜は首を傾げました。
どうにも、今夜のおかずで悩んでいるようです。そこに、後ろから声をかける者がやってきます。
「やあ、今日は大根が安いみたいだね」
「あらどうも」
後ろからやってきたのは八雲藍でした。
藍も同様に、今晩のおかずを思考しながら八百屋へとやってきた次第です。
二人はここの常連さんで、よく出会ってはお献立の相談などを中心に井戸端会議を開催している仲です。
「大根ねえ。ポトフにでも入れてみようかしら」
「ポトフ、いいねえ。手抜きでかつおいしい料理だ。橙がはふはふと食べている姿が可愛らしいんだ」
「あらそれはいいわ。お嬢様と妹様もはふはふしてくれないかしら」
などと他愛の無い話が今日も続いています。
ひとしきり八百屋さんでの会議を堪能したあと
買い物を済ませ二人は巷で人気のカフェーに場所を移し
またも本格的に会議を開催するようです。
従者にはこういう息抜きも大事なのです。
「そういえば」
ことん、と藍がコーヒーのカップをテーブルに置きました。
すぐさまウエイトレスが二人の机までやってきて、おかわりを注ぎます。
「ここはサービスが良いわね」
「まあメイド服の客が来たら対応も丁寧になるもんかと」
「なるほど納得。それで?」
「ああ、紫様がな、最近またなにか企んでいるみたいなんだ」
藍は語ります。
どうにも最近、主人の様子がおかしい。
具体的には
寝起きがいつもより悪い。
ご飯をいつもより食べる。
活動時間が短くなっきている。
瞑想の時間が長い、など。
一緒に住んでいる藍にしか気づけない程度の、小さな変化でした。
「まるで、これから大きなことをするから妖力を溜めている、みたいな」
「……」
「咲夜?」
「ああ失礼。なんというか、お嬢様もそんな感じね。最近、といってもここ数週間だけど外出が減った。
食事よりも、血を求める方が増えたわね」
「ほう」
「例えば、妙な理由で急にパーティを開くくらいなら問題ないんだけど……
ああそういえば、昔はいろんなことでパーティを開いていたのよねえ」
「紫様も、妙なことを考えていなければ良いのだけど」
しばらくの沈黙の後、藍と咲夜は同時にため息をつきます。
お互いそれに気づいたようで、目を合わせて苦く笑いました。
「主人が何をするのかしらないが」
「それを支えるのは私達」
「苦労するのは私達、まったく」
「困ったものね。お嬢様も、あなたの主人も」
従者たちはまた、大きくため息をつきました。
これから起きるであろう、どうも面倒な、主人のわがままを思い浮かべながら。
とうほうほんわか劇場
「刹那と運命に導かれた混沌世界」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
すんだ、あおい空がきれいな日でした。お日さまは今日もぽかぽかと里をあたためてくれます。
今日は、さとのもちつき大会の日。大人も、こどもも、ようかいも
みなおもちを食べようと、さとにあつまってきます。
はくれいの巫女さんも、その子供も、れいがいではありません。
「霊夢、おもち楽しみ?」
「きなこ!」
巫女のお母さんにつれられ歩いてきたのは霊夢ちゃん、としは5つになります。
霊夢ちゃんは、おもちが楽しみで楽しみでしようがないようです。
はないきをぷすぷすとふきだしながら
お母さんの手をとって、ぴょんぴょんジャンプをくりかえしています。
「でもね霊夢。おもちを食べるには、搗かなきゃいけないのよ。頑張りましょうね」
「きなこ! おしるこ!」
お母さんは霊夢ちゃんに話しかけますが、霊夢ちゃんはぜんぜん聞いていません。
きっとあたまの中はおもちでいっぱいなのでしょう。
そこに、きれいな黒いかみのけをゆらし、手をふりながら女の子がやってきました。
その娘の名前は魔理沙ちゃん。おとしは霊夢ちゃんといっしょ、5つです。
「おうい、おうい」
「あら、魔理沙ちゃん。いっつも元気ね」
「みこかあちゃん! わたしはいっつも元気だぜ!」
魔理沙ちゃんはいつもどこでも元気な女の子です。
おさげをゆらし、えがおをかがやかせながら
ぴょんぴょんとジャンプをしています。
「霊夢、久しぶりだな!」
「そうね。ねえねえ魔理沙はどうやっておもちたべたい?
私はきなこといそべとおぞうにとおしるこ」
「ううん? そんなことより霊夢、ちょっとこっち来てみろよ! こっち、おもしろいぜ」
魔理沙ちゃんはぐいぐいと霊夢ちゃんの手を引きます。
霊夢ちゃんはいちどお母さんの方を向きますが
お母さんはにこりと笑い、いってらっしゃいと霊夢ちゃんのあたまを一度だけなぜるのでした。
そうすると、霊夢ちゃんの顔に、笑顔のお花が咲きます。
「霊夢、はやくはやく!」
「なによ、あせんないでよ!」
霊夢ちゃんはそう言いますが、わくわくして仕方がないようです。
手足をばたばたと慌ただしく動かして魔理沙ちゃんを追いかけます。
二人はこうして、いつも冒険をします。
魔理沙ちゃんが霊夢ちゃんの手を引いてはしって。
霊夢ちゃんは文句を言いながら魔理沙ちゃんを追いかけていきます。
そうしてキズだらけになって帰ってくるのを、いつもお母さんにおこられてしまうのですが
もちろんやめる気はありません。
なぜならふたりは冒険が大好きだからです。
「巫女様、ウチの魔理沙がどうも」
「あら御道具屋さん。二人は仲がいいですねえ、良かった」
「魔理沙も今日を楽しみにしてみたいです。昨日の晩なんて興奮してなかなか寝付けなくて」
「あらあら」
「それでは巫女様、慧音先生や里の者達があちらでお待ちです」
「そうですね。挨拶に参りましょう」
しだいに、大人は大人たちの輪を。
子供は子供たちのわをつくっていきます。
さてさて、魔理沙ちゃんはどんなおもしろいことを見つけたのでしょうか。
「霊夢、ほら」
「なによ。なんでこそこそししなきゃいけないのよ」
草むらをがさがさとかきわけ、ふたりは向こう側の様子をうかがいます。
魔理沙ちゃんがゆびをさす先には、大人と子供が一人ずついました。
大人はすごく背がたかく、とてもながくあかいかみの毛を携えています。
その大人にしがみついて、うしろにかくれている子供は、すきとおるようなぎん色のかみの毛をふるふるとゆらしています。
ふたりはお揃いのおさげをしています。きっととても仲が良いのでしょう。
どんな会話をしているのでしょうか。
「ほら、あっちに咲夜さんと同じくらいの子がいっぱいいますよ。入ってきてはどうですか」
「……いい」
「なぜですか? とても楽しそうですよ、ほら」
「……めーりんのとこがいい」
そのぎん色のかみの子、咲夜ちゃんはふるふると首をふります。
背のたかいあかいかみの大人、めーりんの服をぎゅっとつかんで、はなそうとしません。
「困ったなあ。咲夜さん、私、餅つきのお手伝いを頼まれているんですよ。
ほら、お嬢様も言っていたでしょう。里の子どもたちと遊んできなさいって。きっと楽しいですよ」
「や、めーりんのとこがいいもん」
「うーん困ったなあ」
めーりんは困っていました。
なぜならめーりんは、”やかたのおじょうさま”にめいれいを出されていらからです。
その命令とは、咲夜ちゃんを里の子どもたちと遊ばせること。
そして一人でもお友達を作ること。
けれどもそんな事情をちっとも知らない咲夜ちゃんは、めーりんから離れようとしません。
「霊夢、すごいだろ」
「なにが?」
「なにがって、わかんないのかよ。あいつら、”やかたのおじょうさま”の手下だぜ。おっかないなあ」
「”やかたのおじょうさま”?」
「霊夢、知らないのか。”やかたのおじょうさま”ってのは里のみんなのうわさになってる、おそろしいやつなんだ。
みずうみの近くにでっかいやかたがあるだろ?
そこのやかたってすっごいぶきみで、だれが住んでるかもわからないんだ。
あのちっこいのははじめて見たけど、あのおっきいあかいのはパパがよく買いものに来るっていってたから知ってるんだ。
なんでも、何につかうのかわからない、『ちゅうしゃき』とか
『ほうたい』とか、『ストロー』とかいっぱい買ってくんだぜ。ぶきみだろ」
「それをおいてるあんたの家の方がぶきみな気もするけど」
魔理沙ちゃんは小さく身震いをしますが、霊夢ちゃんは気にしていません。
隠れているしげみからめんどうくさそうに立ち上がり、こう叫びます。
「ねえあんた!」
「お、おい霊夢! まずいって」
「こっち来なさいよ。いっしょにおもちをどうやって食べるかかんがえましょうよ。
わたしはきなこ!」
「あ、ほら! 咲夜さん、きな子さんが呼んでいますよ」
「お、おい…… 霊夢……」
咲夜ちゃんを引き連れめーりんは笑顔でふたりの元へ走っていきます。
咲夜ちゃんは必死に抵抗しますが、もちろんめーりんにはかないません。
たちまち引っぱられて、二人のわに入っていくのでした。
「じゃあまた後で。おみやげ話、期待してますよ」
めーりんも走って大人たちの輪に入っていきます。
のこされたのは
よだれを垂らした霊夢ちゃんと
いぶかしげな表情を浮かべている魔理沙ちゃんと
気まずそうにスカートの端をつまむ、咲夜ちゃんの三人ぽっちです。
「めーりん……」
「あいつは行ったか。……おいおまえ、”やかたのおじょうさま”の手下だな」
「……え?」
「魔理沙、別になんだっていいじゃない。だいじなのは他のやつよりどれだけおもちを食べられるかよ。
ここは協力して、ひとつでも多くのおもちを手に入れる方法をあみだすしかないわ」
「みんながうわさしてたぞ。”やかたのおじょうさま”たちには近づかないほうがいいって。
おまえんち、いっつも何をしてるんだよ」
「べ、べつに何もへんなことなんてしてないわ。
おじょうさまは、ちょっとわがままだけどみんなと仲良くしたくて、いろいろとやっているけど……」
「まあなんだっていいや。おまえ、いくつだよ」
「6さい……」
「ふうん。わたしももうちょっとで6つだから同い年だな。
ちょっとだけ年上だからってえらそうなこというなよ」
「そ、そんなことしないわ。あたしだって、めーりんに言われてしかたなく……」
「なんだと? 私たちが楽しみにしているおまつりをしかたなくだって?
ばかにしやがって。霊夢、わたしはこんなやつと遊ぶのいやだぞ。
さっきいたあいつだって本当はいやいや参加してるんだ。
だいいちなんでお前、かみが黒くないんだよ。かみが黒くないやつは不良なんだぞ」
魔理沙ちゃんは、咲夜ちゃんをぎろりとにらみつけます。
いっしゅんひるんでしまいますが、咲夜ちゃんもまけてはいません。
好きな人をばかにされたままではいられないのです。
握りこぶしをつくり、すぐに魔理沙ちゃんに言いかえします。
咲夜ちゃんはめーりんやおじょうさまが大好きなのです。
「やめてよ! めーりんのわるくちは言わないで」
「めーりん? へんな名前だな」
「ねえねえこうやって草をかむれば別人に見えないかしら。そうしたらおもちが二人分もらえるわ」
「やめて! 怒るわよ!」
「怒ればいいじゃないか、やーいやーい、不良不良!」
「あ、おもちが出来るまで時間があるわ。
それまでにちょっと運動しておなかをへらさない? きっともっとおいしく食べられるわ」
「やめてったら!」
「やめないぜー」
「ねえねえおもち!」
女三人寄れば姦しいとは言いますが、それに年齢などは関係無いようです。
三人は、ぎゃんぎゃんと怒鳴り合っています。
そんな騒がしい三人のもとへ、一人の大人が歩いてきました。
どうやら魔理沙ちゃんのパパのようです。
「お、魔理沙。新しいお友達か?」
「あ、ぱ、パパ。う、うんそうだぜ。さっき仲良くなったんだ」
「そうかそうか、それは良い事だ。ほらお前ら。紅魔館の方から差し入れをもらったぞ。
みんなで仲良く分けるんだ。あと一時間もすれば餅つきを始められるからな」
魔理沙ちゃんのパパはきれいなつつみを置いて、また戻っていきました。
魔理沙ちゃんと霊夢ちゃんはいそいでそのつつみをあけます。
出てきたのはなんと!
両手いっぱいのとても美味しそうなクッキーでした。
ふわりと三人の鼻にあまいにおいが漂います。
まあるいのや、お星様、鳥のような形をしたもの、様々な形のクッキーは
魔理沙ちゃんと霊夢ちゃんの目にはきっと宝石箱のように見えたのでしょう。
二人は頬を赤らめ、目の星を輝かせ、体で喜びを表現します。
「うわあすげえ。いい匂いがするぜ! やったあ」
「あ、あ、魔理沙のお父さんありがとう! 私、魔理沙のお父さんだいすきになったわ!」
「あ、これ……」
はちみつのあまーい香り。
バターのコクのある香り。
チョコレートのちょっぴりおとなな香り。
魔理沙ちゃんと霊夢ちゃんはその誘惑につられ
パクパクとクッキーをほおばっていきます。
「あんたはひらないの? もぐもぐ」
「おい霊夢、”やかたのおじょうさま”の手下なんてほっとけって。
こんなに美味しいんだからふたりで食べちゃおうぜ」
「あ、それ、あの」
「ダメよ魔理沙、食べ物はみんなで食べるときがいちばんおいしいのよ。私はみんなで食べたいわ。
ちなみににばんめはおとなにかくれてこっそりつまみぐいするとき。
はい、あなたも。あ、そういえばあなたの名前を聞いていなかったわ。私は霊夢」
「ありがとう、あなたは霊夢、きな子じゃなかったのね。あたしは咲夜。実は、そのクッキーをつくったのもあたしなの」
「げ」
「ほんとに? 驚いたわ! 咲夜、あなたはすごいやつね」
霊夢ちゃんはクッキーをもぐもぐしながら咲夜ちゃんの手をとりジャンプします。
霊夢ちゃんはおいしいものを食べることがとても好きなのです。
なので、おいしいものをつくる人も大好きなのです。
霊夢ちゃんは咲夜ちゃんをいたく気に入りました。
しかし、魔理沙ちゃんは納得がいきません。
はしっこの方で、一人でぶうたれています。
「咲夜、咲夜! そんけいするわ。こんなに美味しいものを作れるなんて!
しかもこんなにたくさん! まだ子どもなのに!」
「なれれば簡単なのよ。霊夢にだって作れるわ」
「わたしが?! わたしがこんなおいしいの作れるようになったらきっと一日じゅう作ってるわ!
あ、でも一日じゅう作っていたら食べる時間がなくなっちゃうわね。どうしよう。ねえ魔理沙?」
「う、うるさいな。そんなの食べながら作ればいいだろう」
「さすが魔理沙! あ、咲夜。こいつは魔理沙よ。とてもあたまがいいの。なんだって知っているのよ」
「ふん、わたしはこいつとなんか仲よくならないぜ。
きっとクッキーだってこいつが作ったと知らなかったら食べなかったもんな」
「こんなにおいしいのに? 本当に? ならわたしが食べてあげる」
「……いや、まあ、ちょっとなら食べてやってもいいけど」
「あなたは魔理沙ね。ふうん、あくしゅはしないわ。あなたはいじわるだもん」
「なにおう! ふん、やっぱり”やかたのおじょうさま”の手下だな!
霊夢がなんと言おうとわたしはこいつがきらいだ」
「こっちもよ。気が合うのね、魔理沙」
「気やすく呼ぶな! 不良!」
目と目のあいだでぱちぱちと火花を散らしているふたりをよそに
霊夢ちゃんはクッキーをぺろりとたいらげてしまいした。
魔理沙ちゃんは最後にとっておいた星形のチョコレートチップ・クッキーも食べられてしまったので
霊夢ちゃんを怒鳴りつけます。
「ああ! 霊夢、おまえ全部食べるやつがあるか!」
「あら魔理沙はいらないんじゃないの? ねえ霊夢、おいしかった?
きっとまたつくって持ってくるわ。今はケーキのべんきょうしているの」
「ケーキ?! ケーキなんて、そんなのもう、あれじゃない、しあわせなやつじゃない!
じゃあ咲夜、今度うちにきて作りなさいよ! きっとそれがいいわ」
「霊夢のうち…… う、うん……」
「だめなの?」
「え、と。あたしはいいんだけれど、おじょうさまがいいって言うかな……」
「じゃあいっぱいたのみなさい。わたしがうまくいくコツを教えてあげるわ」
「なにそれ? おしえておしえて!」
「まず、地べたに寝転んでね……」
霊夢ちゃんが何やらおかしな事を教えているようですが
仲良くなったのは間違いないようです。
もっとも、魔理沙ちゃんはどうもおもしろく無いようですが。
さあ、もちつき大会までもうすぐというところ。しかし、どうも里のみんなの様子がおかしいようです。
三人はかんぽっくりを足にはめたまま、みんなの所へ駆け寄ります。
「どうしたのかな、みんなざわざわしてるぜ」
「咲夜のクッキーでも食べそこねたんじゃあないの? だれかさんみたいに」
「ふふふ、霊夢、おもしろいこと言うのね」
「へえ、そんなやつがいるのか。きっとそいつはたいそうかわいくてキュートなんだろうな」
「霊夢、かわいいとキュートは同じいみなのよ」
「そうなんだ、咲夜は英語もくわしいのね」
「……ふん」
魔理沙ちゃんは二人へ「ひにく」を言ってみましたが
二人のまえにはそれすらも通用しません。
思わずこんなことを言ってしまいます。
「なんだよお前ら、そんなこと言うやつはもう遊んでやらないぞ、ふん!」
「あ……」
「あ、魔理沙、ちょっと! どこいくのよ。”おもちいっぱいだいさくせん”には魔理沙のちからも必要なのよ」
「そんなもの知るか! じゃあな!」
「あーおもちがー……」
「……」
いやみを言われていた魔理沙ちゃんはすっかりおこってしまいました。
里のこどものわへと走り去っていきます。
「……お、おこらせちゃったかな」
「そうね、おもちのとりぶんが減ったわ」
「そうじゃなくて……ええと、いいの?」
「なにがよ」
「魔理沙、おこっていたわ、あやまらなきゃ」
「いいのよ。最初にいじわるしたのは魔理沙なんだから。咲夜はひがいしゃなのよ。
どうどうとしてればいいのよ」
「……そうだけど」
「それよりも、なにがあったのか聞いてみましょ」
「う、うん」
霊夢ちゃんと咲夜ちゃんは、ちかくに居た半袖坊やに事情を尋ねます。
すると、驚きの結果が待ち受けていました。
「ええ?! おしょうゆがなくなった? 」
「うん、おいらたちがさっき鬼ごっこしてたらぶつかって全部こぼしちゃったんだ。へへ」
「なんであんた偉そうなのよ! でもそれってちょっとだけなんでしょ?
だってもちつき大会の材料は、みんなのおうちからもちよってくる決まりだから
おしょうゆはいっぱいあるはずよ」
「うん、だからみんなの家のおしょうゆ全部こぼしちゃって。へへ」
「なんてことしてくれるのよ!」
「ぐ、ぐるじい」
「ちょ、ちょっと霊夢、くびをしめるのはダメよ」
咲夜ちゃんのおかげで半袖坊やは九死に一生を得ましたが
霊夢ちゃんの様子はじんじょうではありません。
だって、おもちにおしょうゆは必須なのですから。
「霊夢、おちついて。あなたさっき、きなこが一番ていってたでしょ」
「でも、おしょうゆだって美味しいのよ!
私はまっしろにまっくろをひたして食べたいの!
だいこんおろしにおしょうゆをまぜてそれと一緒に食べるのだって美味しいし
おもちとおしょうゆはベストカップルなのよ!」
「霊夢は欲張りねえ……」
「ああもう、なんてことなの。もう世界ははめつだわ」
「お、大げさよ。あ、そういえば」
「なに?! 咲夜、おしょうゆのありかを知っているの!」
咲夜ちゃんは霊夢ちゃんに説明します。
今朝、咲夜ちゃんはおやしきでクッキーを作る時に
”びちくしつ”におしょうゆがたくさんあったことを。
「咲夜! 咲夜!」
「な、なあに」
霊夢ちゃんはまたも、咲夜ちゃんの手を取りジャンプをします。
「でかしたわ! あなたは今日のNVPよ!」
「え、そう、ありがとう。えぬぶいぴー?」
「さあ、あなたのおうちにいきましょう。ここから遠いの?」
「え、ええ? 15ふんも歩けばつくと思うけど……」
「じゃあすぐね。おうふくで、ええと、くりあがって、さんじゅっぷん。
さんじゅっぷんがふたつでいちじかんだから、じゅうぶんね。もちつき大会には間に合うわ」
「え、二人で行くの?!」
「そうよ。だって、おとなたちはほら」
霊夢ちゃんは大人たちの輪を指さします。
みんな、忙しそうに準備に追われているようです。
霊夢ちゃんのお母さんも、魔理沙ちゃんのお父さんも、めーりんも
みんなで協力して餅つきの準備をしています。
「それに、考えてみてよ咲夜。みんなおしょうゆがなくて困っている時に
私達がさっそうとおしょうゆをもってくるの。みんな褒めてくれるわ。
きっとごほうびにおもちもたあんと食べられる」
「……」
咲夜ちゃんは想像します。
皆が困っている所を助け、里の人達から褒められる姿を。
そして、めーりんはそのことをおじょうさまに言うでしょう。
そうしたら、きっとおじょうさまも咲夜ちゃんを褒めてくれるはずです。
なぜなら咲夜ちゃんは、おじょうさまから「困った人は助けるように」と
つね日頃から言われているからです。
「……いく」
「決まりね。じゃあ、みちあんないをお願い」
「わかった。でも霊夢、もしかしたらようかいにあっちゃうかもしれないわ」
「ふふん、そんなのもんだい無いわよ」
そういうと霊夢ちゃんは自信満々にポッケから折り紙を取り出します。
そうして近くにあった木の棒を拾い、折り紙を張り付けていきます。
そう、霊夢ちゃんはあの博麗の巫女様の一人娘なのです。
「霊夢、それはなあに?」
「これはおはらい棒よ。お母さんは妖怪とたたかうとき、この棒をもってたたかうの。
私のお母さん、すっごく強いのよ」
「へえ…… すごいなあ」
ぺたぺたと木の棒に白い折り紙をはりつけ、無事におはらい棒が完成しました。
咲夜ちゃんは感心したように、霊夢ちゃんを眺めます。
「これでもし、妖怪にばったりあったとしてもだいじょうぶ。私がはらってあげるわ」
「霊夢、すごいわ。あたしと同じくらいの年なのに、もうようかいたいじが出来るのね」
「ふふん、まあね。じゃあいくわよ。咲夜のいえにしゅっぱーつ!」
「おー!」
そうして二人は両手大きくあげ、冒険の旅に出発したのでした。
「げほ、げほ。首を絞めるなんてらんぼうだなあ。
それにしてもおしょうゆなら、うちにくればいいのに」
半袖坊やはそういって、ふたりの背中を見送ります。
霊夢ちゃんは目の前のおしょうゆのことですっかりむちゅうになってしまい
里におしょうやさんがあることも、半袖坊やがおしょうゆやさんの子供であることも
すっかりと忘れてしまっているのでした。
里から出ると、すぐ先に川が流れていて
その川に沿ってしばらく歩いて行くと、おやしきが見えてくる
咲夜ちゃんはそう説明しました。
「へえ、あんがい近いのね」
「うん、ふだんはめーりんとこの川沿いとか、みずうみのあたりでさんぽしてるんだ」
そういってふたりは川沿いを歩いていきます。
ときおり川ではねる魚を眺めながら。
道端に生えている花の話をしながら。
お互いの家族の話、おうちのはなし。
はじめてあった二人の話は尽きません。
「それでね、おかしいのよ。私のお母さんたら一人でおまんじゅうを20個も食べたあとに
『夕ごはんはおもいっきりたべたいからごはんを5合も炊きましょう』なんて言うのよ!
私たち二人で5合も食べられるわけ無いのに!」
「あはは、霊夢のお母さんってすごいのね。うちもね、めーりんの作る肉まんがおいしくて
このあいだめーりんは40個も作ったのにパチュリーさまがはんぶんいじょうも食べちゃったのよ!」
「そのパチュリーって人も食いしんぼうなのねえ…… あ!」
「あ、あれ? もうおやしきだ」
話すのに夢中になってるうちに、もうおやしきの前に到着していました。
ふたりはきょとんした後に、お互いの顔を見合わせて笑い合います。
そうこうしているうちに、門の前にたっている妖精さんが話しかけてきました。
「あれ、咲夜ちゃんおかえりなさい」
「あ、花ちゃん。ただいま。でも、すぐにいってきます。おしょうゆを取りに来ただけなの」
「おしょうゆ? そうなの。あれ、貴方は?」
「ええと、私は」
「あ、霊夢ダメ。私に紹介させて。あのね花ちゃん、この娘は霊夢。私のおともだちなの!」
「え、おともだち? 咲夜ちゃんのお友達? ええ、なんですって!」
妖精さんはそれを聞くと大きく飛び跳ねます。
それもそのはず。紅魔館の大きな悩みのひとつに
『咲夜ちゃんに人間の友達がいない』というものがあるからです。
今回のもちつき大会に参加する理由の一つに、そのこともありましたが
まさかこんなに簡単に解決するとは思わなくて、妖精さんは飛び上がって喜びます。
妖精さんは咲夜ちゃんと霊夢ちゃんの頭を交互に撫ぜてから、いそいでおじょうさまのもとへ
駆けていくのでした。
「咲夜の家族っておもしろいわね」
「……べ、べつに。ふつうよ。は、はやく、おだいどこに行こう」
咲夜ちゃんはかおを伏せ、霊夢ちゃんの手を取り早歩きでキッチンへと向かっていきます。
家族のことを何かといわれるのは、何故かちょっぴり恥ずかしいからです。
霊夢ちゃんはおやしきの中に入ると、おもわずおおきな声をあげてしまいました。
なぜなら、見るものすべてがとっても大きいからです。
きょろきょろとおやしきを見回し、いろいろな質問を咲夜ちゃんへなげかけます。
「ねえねえ、お部屋がいっぱいあるわ。なんで?」
「うちはいっぱいお手伝いさんがすんでいるの。だから部屋がいっぱいあるのよ」
「ろうかがすっごく広い! うちのいまくらいあるわ! なんで?」
「ええと、わかんないけど、人がいっぱいいるからかな。あ、あとまんなかはおじょうさまが通るから
あたし達は端っこを歩かなければいけないの」
「ははあん。わかったわ。おじょうさまはとっても大きいのね。
だからこんなにものがおおきいのよ。きっとそうだわ」
「……ううん。おじょうさまは、ええと、言うとおこられるんだけど、ちっちゃいのよ」
「へ、ちっちゃいの?」
「う、うん。ないしょよ。さあ早くいきましょう」
霊夢ちゃんは、なぞは深まるばかりねえなどとつぶやきながら
咲夜ちゃんに手をひかれて進んでいきます。
手をひかれながらも、霊夢ちゃんはあれはなんだ、これはなんだ、と咲夜ちゃんへ質問しますが
咲夜ちゃんはどうにも顔が赤くなるのがおさえられないので、適当に返答します。
なんとなく、自分のおうちが変に思われているような気がしてならないのです。
その後霊夢ちゃんは、キッチンのことも、びちくしつのことも、妖精さんたちの休憩室のことも
いっぱい質問しました。
けれども咲夜ちゃんは答えません。
急いで歩いたので、あっという間にびちくしつへとたどり着きました。
「ねんがんのおしょうゆをてにいれたわ!」
「ほら、もうおしょうゆが手に入ったから、はやくかえろう」
「えーもうちょっといいじゃない。ちょっとたんさくさせてよ」
「だ、だめ! ほら、もちつき始まっちゃうから」
「あ、そうね。もちつきがはじまっちゃったらもともこもないわね。早くかえりましょう」
「じゃあ咲夜、こんどまたあそびに来ていい? 今度は魔理沙もつれてくるわ。あいつ、ぜったい大喜びするから」
「霊夢はいいけど……」
「あ、そっか、魔理沙とケンカしてたわね。じゃあかえったらなかなおりしましょう。
そうしたら遊べるわ。ね?」
「えー……? そういうものなのかなあ」
「あ、ところであそこにあるむらさきいろのパンツは」
「も、もう。早くいくよ」
そう言って、咲夜ちゃんは霊夢ちゃんのおしりを押して館の外へ向かいます。
お醤油の瓶はとても大きく、持って歩くのはなかなか骨がおれますが
ふくろにいれ、順番こで持っていく作戦でなんとか二人は運んでいきます。
おやしきを出発した二人は行きの道と同じように、おしゃべりをしながら川沿いを歩いていきます。
おしゃべりに夢中になっていれば、きっとすぐに人里へつくはずです。
しかし、そうはいかないのがセオリーです。
行きはよいよい帰りはこわい。
「ひっひっひ。いい獲物、みいつけた」
おしゃべりに夢中になっているせいで
その忍び寄る影に、二人は気づくことは出来ませんでした。
~~
「まったく、霊夢はは、”やかたのおじょうさま”の手下なんかと遊びやがって。ぶつぶつ、ぶつぶつ」
「おうい、魔理沙」
「あ、パパ。クッキーはもうない?」
「あれか、あれは紅魔館の方が持ってきてくれたやつでな。
すっかり人気でもう無くなってしまったよ」
「ちえー」
「ところで霊夢ちゃんをみていないか? 巫女様が探していたんだ」
「霊夢? ふん、あんなことのやつ知らないぜ」
「うーん、そうか。じゃあ見かけたら教えてくれ。わかったな」
「はいはーい」
魔理沙ちゃんは適当な返事をし、ふたたび里の子どもたちとの鬼ごっこに戻りました。
しかし、どうにも面白くありません。
魔理沙ちゃんは鬼ごっこが得意なので、いつもは何人も逃げる役をつかまえるのですが
きょうは一向に捕まえられません。
思わず、ふてくされてしまいます。
「あーもう! これもぜんぶ霊夢と咲夜のせいだ! あいつら、どこにいきやがった。
もういちど文句をいってやらないと私の気がすまないぞ」
「あ、あの子たちだったら」
「ん、なんだ。ああ、しょうゆ屋か。あいつらがどこに行ったか知っているのか?」
「うん、さっき里の外に出て行っていたよ」
「なんだと!」
魔理沙ちゃんは思わず声を上げてしまいました。
里の外に出る行為は、大人たちから禁止にされている行為の一つで
いつも厳しく言い聞かせされているからです。
「なんで、でも、行けないはずだ。
さとのでいりくちには、みはりの人が立っているはず……
あ、あれ? なんでだ! だれもいない……」
そう、いつも通りなら里の出入り口には見張りが居るはずです。
しかし、今日は里の人総出のもちつき大会。
見張りも全員もちつきの準備をしているのです。
「ど、どうしよう、まずいぜ。霊夢と咲夜、だいじょうぶかな……」
魔理沙ちゃんは青ざめて、ぶるりと震えてしまいます。
人間を食べる妖怪。
人間をさらう妖怪。
魔理沙ちゃんは里の子供なので、そういう妖怪について大人からよーく注意されているのですが
反対に、霊夢ちゃんや咲夜ちゃんは里の外の妖怪について、何も知らなかったのです。
「……だめだ。たすけないと、あいつらは知らないんだ。
いまごろ、おそわれてるかもしれない……」
魔理沙ちゃんは、拳を握りしめました。
「わたしが、いかなきゃ!」
魔理沙ちゃんは、里の外に駆けて行きました。
その時です。
「あれ?」
川の側にはなぜか大根の皮が落ちていました。
しかもなぜか、大根の皮がうまく剥かれて『こっち』のような文字を作っています。
「こっち、こっちに二人が居るのかな」
魔理沙ちゃんはその大根の皮を目印に、二人の後を追いかけました。
~~
「それでね、おじょうさまが言ったのよ。『なっとうにわさびもいけるものね』って」
「ふんふん、さんこうになるわ」
「それでめーりんが真似してわさびをかけたんだけど……ひゃっ!」
「ん、どうしたの?」
「霊夢、今あたしのうなじさわった?」
「さわってないわよ。だって今わたしがおしょうゆを持つばんだからそんなのできっこないわ」
「あれえー……?」
「まあいいじゃない。それで、わさびはどうなったのよ」
「ああ、ええとね。めーりんが……」
「ふんふん……ってうわ!」
「え?」
「咲夜、いまわたしのわきにさわった?」
「え? さわっていないわ」
二人ははてなマークを頭にうかべ、顔を見合わせます。
まるで、二人ではない誰かがこの場にいるような、そんな気がします。
咲夜ちゃんは体を少しだけ震わせます。
「へんなの。気にしないことにしましょ。それより咲夜、こうかん」
「う、うん。ねえ、なんかこわいわ。霊夢、ほんとうにようかいがきてもだいじょうぶなのよね」
「もちろんよ。あんしんしなさい」
「ひっひっひ、本当にそうかな?」
ぴたりと霊夢ちゃんと咲夜ちゃんの動きが止まりました。
ふたりとも、背中からじんわりと汗が吹き出てくるのがわかります。
二人は後ろから聞こえてきた見知らぬ声に恐怖していました。
霊夢ちゃんはおもわずおしょうゆを落としてしまい
咲夜ちゃんは目尻に涙が溜まってきます。
「れ、れいむ……」
「さ、さ、さくや、おちついて、せ、せーので、いっきにはしるわよ」
「……う、うん」
「せ、せーのっ!」
「させるかー! うらめしやーっ!」
「「ひゃああああ!」」
そう、後ろから離れてきたのは妖怪でした。
そして、二人の腕はその後ろからきた妖怪に掴まれてしまいました!
二人は振り払おうにも、がっしりと掴まれているため身動きできません。
「ひ、ひいい!」
「あわわ、あわあわ」
「ああ、この子たちすごい驚いてるう。久しぶりだから気持ちいい……!」
妖怪は身を捻って悦に浸ります。
ときおり体をびくんびくんと震わせながら顔をとろけさせています。
この間もずっと腕を掴まれているので、霊夢ちゃんと咲夜ちゃんは逃げようにも逃げられません。
「れ、れいむ、ど、どうしよう……」
「あ、そうだ、あれ、あの、おはらい棒があるから……」
霊夢ちゃんはわきに忍ばせておいたお祓い棒を取り出します。
「あふう、おふう、びくんびくん」
「こ、こらようかい!」
「なに? いま余韻に浸っているところなんだけど」
「こ、これでおまえを、たいじしてやる!」
霊夢ちゃんはお祓い棒を妖怪の目の前に掲げます。
一瞬、間が空きますが、次の瞬間、妖怪の顔が急に青ざめました。
掴んでいた腕も外して怯えています。
「げ、それは!」
「あ、び、ビビってるわ。咲夜、もうだいじょうぶよ。こいつビビってる!」
「れ、霊夢、がんばれ!」
「あんた、巫女だったのね! どうりでわきが出ていると思ったら!」
「そうよ! くらえ、おはらいこうげき!」
霊夢ちゃんはお祓い棒を振りかぶり、妖怪めがけて思い切り振り下ろしました。
ぺしり、と乾いた音がして、妖怪のあたまにお祓い棒がぷち当たります。
しかし、叩いたあとに何も起きないので微妙な空気が流れます。
「ん? あれ、きかない?」
「……あれ? いたくない」
「……れいむ……」
霊夢ちゃんは怪訝そうに、今度は何度も、妖怪の頭めがけてお祓い棒を振り下ろしました。
「あ、あれ? なんで、なんできかないのよっ。くらえっくらえっ」
「いて、いて。なあんだ、あんたぜんぜん大したこと無いじゃない」
妖怪は霊夢ちゃんが叩きつけているお祓い棒をひょいとうばいとり
しげしげとそれを見つめます。
そして、鼻でふっと笑いました。
霊夢ちゃんのおはらいこうげきは一切通用していないようです。
「お、おかしいわ。お母さんがつかうと、ようかいなんていちげきなのに! ちょっと、私のおはらいぼうかえしてよ!」
「れ、れいむ、はやくにげよう!」
「ふふふ、にがさないよ。巫女だと思ったけど
どうやらそれはわちき(キャラ作り一人称)の思いすごしだったようね」
じりじりと妖怪は二人にせまっていきます。
お祓い棒が効かないとわかった霊夢ちゃんはもうなすすべもなく、おろおろと取り乱しています。
咲夜ちゃんはおろおろとしている霊夢ちゃんを支えていますが
やはり自分も怖いのか、あしをがくがくと揺らしながら涙目になるしかすべはありません。
「ひっひっひ。もっと恐怖をたべさせてちょうだいな」
「……あ、あう、どう、どうしよ」
「れいむ、はやく、にげ……」
「うははーもっと恐怖をおくれー! うらめしやー!」
妖怪が二人にとびかかる、その時でした。
ごつんっ!
生々しい、いかにも痛そうな音が二人の耳に入ってきます。
「あいたー! な、なにやつ、っていたた!」
「あ、あ、あたま悪そうなばかようかいめ! ふたりから離れろ!」
「魔理沙!」
「ま、まりさ……」
妖怪がふたりに襲いかかるその瞬間です。
魔理沙がなげた石が妖怪の頭にダイレクトクリティカルクリーンヒットしました。
魔理沙ちゃんはなおも石を投げ続けます。
さすがの妖怪もこれにはたじたじです。
「お前ら、私があしどめしてるうちにはやくにげろ!」
「いたい、ちょ、まじでこれ、いたいって、うひい」
二人とも魔理沙ちゃんの声を聞き、すぐさま立ち上がります。
抜け目のない霊夢ちゃんはおしょうゆも忘れずに持ちだして、魔理沙ちゃんと一緒に石をなげつけます。
「さっきはよくもやったわね! くらえっ、おんみょうだま(石)!」
「咲夜、お前もなげろ! やらなきゃやられちゃうぞ!」
「で、でも……」
「咲夜はやく! 私たちはおしょうゆを里までとどけるしめいがあるんだから! ちゃんとすいこうしなきゃダメなのよ!」
「う、うん!」
咲夜ちゃんは足元にある石を手に取り、妖怪へ思い切り投げつけました。
「お、お前らいいかげんい……へぎゃっ!」
咲夜ちゃんが投げた石は、みごと妖怪の額へと命中したのです。
これには妖怪も、戦意を喪失してしまいます。
「く、くそ、一時退却!」
ぽかんとしている咲夜ちゃんをよそに、妖怪は悔しそうに逃げて行きました。
三人は、逃げる妖怪の背中をみて、一斉に息を吐き出しました。
「咲夜! すごいわ」
「え、え?」
「咲夜、やるじゃんか! あいつ逃げていくぞ!」
「あ、あたし」
咲夜ちゃんは投げたあとに、「いたくなかったのかな」と不安になってしまいましたが
二人が喜んでいるので、なんだか嬉しくなってきました。
三人は手を取り、ジャンプし合います。
「すごいな、私たち、ようかいたいじしちゃったぜ」
「でしょ、私のおはらいぼうがきいたのよ、きっと」
「あ、はああ、よかったあ」
三人はそれぞれの反応を見せ、勝利を噛み締めます。
手を取り、ハイタッチをし、ジャンプをして
時にはこしょばせ合って、お互いを笑わせ合っておおいに喜びました。
「それにしても魔理沙、よく来てくれたわね。ありがとう」
「ふふん、こんなのよゆうだぜ」
「魔理沙、ありがとう!」
「おう、私にかかればこんなもの…… って」
「うん?」
「いや、だって、私たち喧嘩してたのに」
「あ、そうね。魔理沙、仲直りしなさい。仲直りすれば、きっと良いことが起きるわ」
「なんだよそれ」
「……」
ほら、と魔理沙ちゃんは霊夢ちゃんに促されます。
魔理沙ちゃんはすこしきまずそうに頬をかき、口を開きます。
「咲夜、いじわるしてごめん」
「ううん、全然気にしていないわ。あたしこそ、ごめんなさい。
霊夢のうちでまたクッキーを作るから魔理沙も食べにきてね」
「……ああ。あの、また、あれ」
「うん?」
「星形のチョコクッキー、あれが食べたいな」
「うふふ、絶対に作るわ」
霊夢ちゃんはうんうんと頷いて、二人をあくしゅさせます。
こうして三人は、やっと仲の良い友だちになれたのです。
「ひっひっひ。わちき(キャラ作り)復活」
安心したのもつかの間の一瞬。
さきほどの妖怪は川で顔をあらい、リフレッシュしてまた三人のもとへやって来たのです。
「不意をつかれたといえ、子供にやられるなんて妖怪の恥。
もう一回驚かしてやるのよ」
妖怪は匍匐前進で草むらをかき分け、三人に近づきます。
「ひっひっひ。いくぞう。うらめしもが!」
妖怪は決め台詞の「うらめしや」を発することは出来ませんでした。
なぜなら、後ろから何者かに口を手で防がれたからです。
妖怪はなんとかその手を外し、後ろを振り返ります。
「もがもが! 一体誰よ! 私の邪魔するのは」
「よう、楽しそうだな」
「せっかく私たちの可愛い子供を見に来たのに邪魔するなんて。
もう貴方は一度負けたのだから、あの子達は放っておいていてくれないかしら?」
妖怪は血が凍るような恐怖を覚えました。
妖怪が振り向くと、そこに居たのは
大根をかじっている小さな体で大きな翼のコウモリちゃんと
大根をかじっている胡散臭そうな紫の色の服を着たおばさんです。
その二人は終始笑顔でしたが、自分に怒りをぶつけているのがわかりました。
妖怪は二人を前に、腰を抜かしてしまいました。
「あ、あ、あなたがたは……!」
この先十数年、その妖怪を見たものは居ません。
ですがそれはまた、別のお話。
~~
「霊夢、おいしい?」
「うがが、うがうが」
もちつき大会は今年も大成功です。
霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんと咲夜ちゃんは
外に出たことで里の大人たちにしばらく叱られましたが
その後に、おしょうゆを持ってきたことを褒められて
おもちをいっぱい食べられる権利を得たのでした。
「ががが、ぶぶぶ」
「わー! みこかあちゃん! 霊夢がのどをもちに!」
「がごごごごご」
霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんが騒いでいるあいだ
咲夜ちゃんはめーりんに相談をしていました。
「ねえめーりん」
「何ですか、咲夜さん」
「今度、霊夢のうちに遊びに行っていいかしら」
「……え?!」
「ダメかなあ?」
「い、良いに決まってるじゃないですか! お嬢様も喜びます。
今日はお赤飯ですね! ひゃっほう!」
「やあねえめーりん。こんなにおもちを食べたのに家でももちごめを食べるの?」
その後、咲夜ちゃんはいっぽ大人になりました。
お嬢様に報告すると、泣いて喜ぶのは目に見えています。
ただ、お嬢様に報告するときは一悶着あったようです。
~~
「咲夜、もちつき大会は楽しかったか?」
「はい、とっても。それと、あ、あの、おじょうさま……」
「うん。なんだ?」
「あした、おともだちのおうちに遊びにいきたいんです……!」
「お、お友達? ええと、そうだなあ。ううん、でも」
「だ、ダメですか?」
「いやその、ほら、うちに呼ぶのじゃダメか? その、ちょっと不安というか」
「……な、なら」
「うん? どうした咲夜、寝転んで」
「やだやだやだ! おともだちの家にいきたい! おともだちの家にいきたいよう!」
「ど、どうした咲夜。わかったから、行っていいから落ち着いて!」
「わあい」
「あれー?」
~~
霊夢ちゃんに教わった「駄々をこねる」を行ったところ
効果はてきめんだったようです。
霊夢ちゃん、魔理沙ちゃん、咲夜ちゃん。
三人の冒険譚はこれで終わりです。
三人はいずれ、別の所で合うことになるのは、また別のお話です。
さあ、話を幻想郷に戻しましょう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ふむ、と八百屋さんの店先で咲夜は首を傾げました。
どうにも、今夜のおかずで悩んでいるようです。
そこに、後ろから声をかける者がいます。
「やあ、今日はねぎが安いみたいだね」
「あらどうも」
後ろからやってきたのは八雲藍でした。
藍も同様に、今晩のおかずを思考しながら八百屋へとやってきたというわけです。
二人はここの常連さんで、よく出会ってはお献立の相談などを中心に
井戸端会議を開催している仲です。
「ねぎねえ。おかゆにでも入れてみようかしら」
「おかゆ、いいねえ。手抜きでかつおいしい料理だ。橙がはふはふと食べている姿が可愛らしいんだ」
「あらそれはいいわ。お嬢様と妹様もはふはふしてくれないかしら」
などと他愛の無い話が今日も続いています。
ひとしきり八百屋さんでの会議を堪能したあと、二人はよく行くカフェーに場所を移し
またも本格的に会議を開催するようです。
「そういえば、この間の件なんだが……」
「主人の様子がおかしいっていう?」
「そう。やはり、どこかで何かしてきたみたいなんだ」
「薄々わかっていたわ。たぶんお嬢様と一緒に何かしたのでしょう」
「ということはそちらもやはり」
「ええ、二日前、出かけたと思ったら、鼻血をぼたぼた出しながら恍惚の表情で帰ってきたわ」
「うちもだ。まったく、一体何をしてきたのだが」
「運命の能力と、境界の能力。なにか大層なことをしでかしてそうだけど……」
「そうだなあ、なんだかんだ強大な力をもった二人のことだ。どこか別の世界にでも行ってきたりしてな」
「過去の世界とか、パラレルワールドとか?」
「あはは、まさか。でもそうだったらおもしろいな」
「そうね、うふふ」
ふたりはまさかと思いましたが
かなりの力をもった自分の主人を思い浮かべ
ありえない話ではないと感じ、汗をたらりと流しました。
「あはは」
「うふふ」
二人は無理にでも笑いあい深く考えないようにしました。
笑って忘れるのが一番、きっとそうなのです。
カフェーには二人の笑い声がひびきます。
以上、普段の幻想郷とは違う、別のお話でした。
『とうほうほんわか劇場 「刹那と運命に導かれた混沌世界」』
終わり
どうにも、今夜のおかずで悩んでいるようです。そこに、後ろから声をかける者がやってきます。
「やあ、今日は大根が安いみたいだね」
「あらどうも」
後ろからやってきたのは八雲藍でした。
藍も同様に、今晩のおかずを思考しながら八百屋へとやってきた次第です。
二人はここの常連さんで、よく出会ってはお献立の相談などを中心に井戸端会議を開催している仲です。
「大根ねえ。ポトフにでも入れてみようかしら」
「ポトフ、いいねえ。手抜きでかつおいしい料理だ。橙がはふはふと食べている姿が可愛らしいんだ」
「あらそれはいいわ。お嬢様と妹様もはふはふしてくれないかしら」
などと他愛の無い話が今日も続いています。
ひとしきり八百屋さんでの会議を堪能したあと
買い物を済ませ二人は巷で人気のカフェーに場所を移し
またも本格的に会議を開催するようです。
従者にはこういう息抜きも大事なのです。
「そういえば」
ことん、と藍がコーヒーのカップをテーブルに置きました。
すぐさまウエイトレスが二人の机までやってきて、おかわりを注ぎます。
「ここはサービスが良いわね」
「まあメイド服の客が来たら対応も丁寧になるもんかと」
「なるほど納得。それで?」
「ああ、紫様がな、最近またなにか企んでいるみたいなんだ」
藍は語ります。
どうにも最近、主人の様子がおかしい。
具体的には
寝起きがいつもより悪い。
ご飯をいつもより食べる。
活動時間が短くなっきている。
瞑想の時間が長い、など。
一緒に住んでいる藍にしか気づけない程度の、小さな変化でした。
「まるで、これから大きなことをするから妖力を溜めている、みたいな」
「……」
「咲夜?」
「ああ失礼。なんというか、お嬢様もそんな感じね。最近、といってもここ数週間だけど外出が減った。
食事よりも、血を求める方が増えたわね」
「ほう」
「例えば、妙な理由で急にパーティを開くくらいなら問題ないんだけど……
ああそういえば、昔はいろんなことでパーティを開いていたのよねえ」
「紫様も、妙なことを考えていなければ良いのだけど」
しばらくの沈黙の後、藍と咲夜は同時にため息をつきます。
お互いそれに気づいたようで、目を合わせて苦く笑いました。
「主人が何をするのかしらないが」
「それを支えるのは私達」
「苦労するのは私達、まったく」
「困ったものね。お嬢様も、あなたの主人も」
従者たちはまた、大きくため息をつきました。
これから起きるであろう、どうも面倒な、主人のわがままを思い浮かべながら。
とうほうほんわか劇場
「刹那と運命に導かれた混沌世界」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
すんだ、あおい空がきれいな日でした。お日さまは今日もぽかぽかと里をあたためてくれます。
今日は、さとのもちつき大会の日。大人も、こどもも、ようかいも
みなおもちを食べようと、さとにあつまってきます。
はくれいの巫女さんも、その子供も、れいがいではありません。
「霊夢、おもち楽しみ?」
「きなこ!」
巫女のお母さんにつれられ歩いてきたのは霊夢ちゃん、としは5つになります。
霊夢ちゃんは、おもちが楽しみで楽しみでしようがないようです。
はないきをぷすぷすとふきだしながら
お母さんの手をとって、ぴょんぴょんジャンプをくりかえしています。
「でもね霊夢。おもちを食べるには、搗かなきゃいけないのよ。頑張りましょうね」
「きなこ! おしるこ!」
お母さんは霊夢ちゃんに話しかけますが、霊夢ちゃんはぜんぜん聞いていません。
きっとあたまの中はおもちでいっぱいなのでしょう。
そこに、きれいな黒いかみのけをゆらし、手をふりながら女の子がやってきました。
その娘の名前は魔理沙ちゃん。おとしは霊夢ちゃんといっしょ、5つです。
「おうい、おうい」
「あら、魔理沙ちゃん。いっつも元気ね」
「みこかあちゃん! わたしはいっつも元気だぜ!」
魔理沙ちゃんはいつもどこでも元気な女の子です。
おさげをゆらし、えがおをかがやかせながら
ぴょんぴょんとジャンプをしています。
「霊夢、久しぶりだな!」
「そうね。ねえねえ魔理沙はどうやっておもちたべたい?
私はきなこといそべとおぞうにとおしるこ」
「ううん? そんなことより霊夢、ちょっとこっち来てみろよ! こっち、おもしろいぜ」
魔理沙ちゃんはぐいぐいと霊夢ちゃんの手を引きます。
霊夢ちゃんはいちどお母さんの方を向きますが
お母さんはにこりと笑い、いってらっしゃいと霊夢ちゃんのあたまを一度だけなぜるのでした。
そうすると、霊夢ちゃんの顔に、笑顔のお花が咲きます。
「霊夢、はやくはやく!」
「なによ、あせんないでよ!」
霊夢ちゃんはそう言いますが、わくわくして仕方がないようです。
手足をばたばたと慌ただしく動かして魔理沙ちゃんを追いかけます。
二人はこうして、いつも冒険をします。
魔理沙ちゃんが霊夢ちゃんの手を引いてはしって。
霊夢ちゃんは文句を言いながら魔理沙ちゃんを追いかけていきます。
そうしてキズだらけになって帰ってくるのを、いつもお母さんにおこられてしまうのですが
もちろんやめる気はありません。
なぜならふたりは冒険が大好きだからです。
「巫女様、ウチの魔理沙がどうも」
「あら御道具屋さん。二人は仲がいいですねえ、良かった」
「魔理沙も今日を楽しみにしてみたいです。昨日の晩なんて興奮してなかなか寝付けなくて」
「あらあら」
「それでは巫女様、慧音先生や里の者達があちらでお待ちです」
「そうですね。挨拶に参りましょう」
しだいに、大人は大人たちの輪を。
子供は子供たちのわをつくっていきます。
さてさて、魔理沙ちゃんはどんなおもしろいことを見つけたのでしょうか。
「霊夢、ほら」
「なによ。なんでこそこそししなきゃいけないのよ」
草むらをがさがさとかきわけ、ふたりは向こう側の様子をうかがいます。
魔理沙ちゃんがゆびをさす先には、大人と子供が一人ずついました。
大人はすごく背がたかく、とてもながくあかいかみの毛を携えています。
その大人にしがみついて、うしろにかくれている子供は、すきとおるようなぎん色のかみの毛をふるふるとゆらしています。
ふたりはお揃いのおさげをしています。きっととても仲が良いのでしょう。
どんな会話をしているのでしょうか。
「ほら、あっちに咲夜さんと同じくらいの子がいっぱいいますよ。入ってきてはどうですか」
「……いい」
「なぜですか? とても楽しそうですよ、ほら」
「……めーりんのとこがいい」
そのぎん色のかみの子、咲夜ちゃんはふるふると首をふります。
背のたかいあかいかみの大人、めーりんの服をぎゅっとつかんで、はなそうとしません。
「困ったなあ。咲夜さん、私、餅つきのお手伝いを頼まれているんですよ。
ほら、お嬢様も言っていたでしょう。里の子どもたちと遊んできなさいって。きっと楽しいですよ」
「や、めーりんのとこがいいもん」
「うーん困ったなあ」
めーりんは困っていました。
なぜならめーりんは、”やかたのおじょうさま”にめいれいを出されていらからです。
その命令とは、咲夜ちゃんを里の子どもたちと遊ばせること。
そして一人でもお友達を作ること。
けれどもそんな事情をちっとも知らない咲夜ちゃんは、めーりんから離れようとしません。
「霊夢、すごいだろ」
「なにが?」
「なにがって、わかんないのかよ。あいつら、”やかたのおじょうさま”の手下だぜ。おっかないなあ」
「”やかたのおじょうさま”?」
「霊夢、知らないのか。”やかたのおじょうさま”ってのは里のみんなのうわさになってる、おそろしいやつなんだ。
みずうみの近くにでっかいやかたがあるだろ?
そこのやかたってすっごいぶきみで、だれが住んでるかもわからないんだ。
あのちっこいのははじめて見たけど、あのおっきいあかいのはパパがよく買いものに来るっていってたから知ってるんだ。
なんでも、何につかうのかわからない、『ちゅうしゃき』とか
『ほうたい』とか、『ストロー』とかいっぱい買ってくんだぜ。ぶきみだろ」
「それをおいてるあんたの家の方がぶきみな気もするけど」
魔理沙ちゃんは小さく身震いをしますが、霊夢ちゃんは気にしていません。
隠れているしげみからめんどうくさそうに立ち上がり、こう叫びます。
「ねえあんた!」
「お、おい霊夢! まずいって」
「こっち来なさいよ。いっしょにおもちをどうやって食べるかかんがえましょうよ。
わたしはきなこ!」
「あ、ほら! 咲夜さん、きな子さんが呼んでいますよ」
「お、おい…… 霊夢……」
咲夜ちゃんを引き連れめーりんは笑顔でふたりの元へ走っていきます。
咲夜ちゃんは必死に抵抗しますが、もちろんめーりんにはかないません。
たちまち引っぱられて、二人のわに入っていくのでした。
「じゃあまた後で。おみやげ話、期待してますよ」
めーりんも走って大人たちの輪に入っていきます。
のこされたのは
よだれを垂らした霊夢ちゃんと
いぶかしげな表情を浮かべている魔理沙ちゃんと
気まずそうにスカートの端をつまむ、咲夜ちゃんの三人ぽっちです。
「めーりん……」
「あいつは行ったか。……おいおまえ、”やかたのおじょうさま”の手下だな」
「……え?」
「魔理沙、別になんだっていいじゃない。だいじなのは他のやつよりどれだけおもちを食べられるかよ。
ここは協力して、ひとつでも多くのおもちを手に入れる方法をあみだすしかないわ」
「みんながうわさしてたぞ。”やかたのおじょうさま”たちには近づかないほうがいいって。
おまえんち、いっつも何をしてるんだよ」
「べ、べつに何もへんなことなんてしてないわ。
おじょうさまは、ちょっとわがままだけどみんなと仲良くしたくて、いろいろとやっているけど……」
「まあなんだっていいや。おまえ、いくつだよ」
「6さい……」
「ふうん。わたしももうちょっとで6つだから同い年だな。
ちょっとだけ年上だからってえらそうなこというなよ」
「そ、そんなことしないわ。あたしだって、めーりんに言われてしかたなく……」
「なんだと? 私たちが楽しみにしているおまつりをしかたなくだって?
ばかにしやがって。霊夢、わたしはこんなやつと遊ぶのいやだぞ。
さっきいたあいつだって本当はいやいや参加してるんだ。
だいいちなんでお前、かみが黒くないんだよ。かみが黒くないやつは不良なんだぞ」
魔理沙ちゃんは、咲夜ちゃんをぎろりとにらみつけます。
いっしゅんひるんでしまいますが、咲夜ちゃんもまけてはいません。
好きな人をばかにされたままではいられないのです。
握りこぶしをつくり、すぐに魔理沙ちゃんに言いかえします。
咲夜ちゃんはめーりんやおじょうさまが大好きなのです。
「やめてよ! めーりんのわるくちは言わないで」
「めーりん? へんな名前だな」
「ねえねえこうやって草をかむれば別人に見えないかしら。そうしたらおもちが二人分もらえるわ」
「やめて! 怒るわよ!」
「怒ればいいじゃないか、やーいやーい、不良不良!」
「あ、おもちが出来るまで時間があるわ。
それまでにちょっと運動しておなかをへらさない? きっともっとおいしく食べられるわ」
「やめてったら!」
「やめないぜー」
「ねえねえおもち!」
女三人寄れば姦しいとは言いますが、それに年齢などは関係無いようです。
三人は、ぎゃんぎゃんと怒鳴り合っています。
そんな騒がしい三人のもとへ、一人の大人が歩いてきました。
どうやら魔理沙ちゃんのパパのようです。
「お、魔理沙。新しいお友達か?」
「あ、ぱ、パパ。う、うんそうだぜ。さっき仲良くなったんだ」
「そうかそうか、それは良い事だ。ほらお前ら。紅魔館の方から差し入れをもらったぞ。
みんなで仲良く分けるんだ。あと一時間もすれば餅つきを始められるからな」
魔理沙ちゃんのパパはきれいなつつみを置いて、また戻っていきました。
魔理沙ちゃんと霊夢ちゃんはいそいでそのつつみをあけます。
出てきたのはなんと!
両手いっぱいのとても美味しそうなクッキーでした。
ふわりと三人の鼻にあまいにおいが漂います。
まあるいのや、お星様、鳥のような形をしたもの、様々な形のクッキーは
魔理沙ちゃんと霊夢ちゃんの目にはきっと宝石箱のように見えたのでしょう。
二人は頬を赤らめ、目の星を輝かせ、体で喜びを表現します。
「うわあすげえ。いい匂いがするぜ! やったあ」
「あ、あ、魔理沙のお父さんありがとう! 私、魔理沙のお父さんだいすきになったわ!」
「あ、これ……」
はちみつのあまーい香り。
バターのコクのある香り。
チョコレートのちょっぴりおとなな香り。
魔理沙ちゃんと霊夢ちゃんはその誘惑につられ
パクパクとクッキーをほおばっていきます。
「あんたはひらないの? もぐもぐ」
「おい霊夢、”やかたのおじょうさま”の手下なんてほっとけって。
こんなに美味しいんだからふたりで食べちゃおうぜ」
「あ、それ、あの」
「ダメよ魔理沙、食べ物はみんなで食べるときがいちばんおいしいのよ。私はみんなで食べたいわ。
ちなみににばんめはおとなにかくれてこっそりつまみぐいするとき。
はい、あなたも。あ、そういえばあなたの名前を聞いていなかったわ。私は霊夢」
「ありがとう、あなたは霊夢、きな子じゃなかったのね。あたしは咲夜。実は、そのクッキーをつくったのもあたしなの」
「げ」
「ほんとに? 驚いたわ! 咲夜、あなたはすごいやつね」
霊夢ちゃんはクッキーをもぐもぐしながら咲夜ちゃんの手をとりジャンプします。
霊夢ちゃんはおいしいものを食べることがとても好きなのです。
なので、おいしいものをつくる人も大好きなのです。
霊夢ちゃんは咲夜ちゃんをいたく気に入りました。
しかし、魔理沙ちゃんは納得がいきません。
はしっこの方で、一人でぶうたれています。
「咲夜、咲夜! そんけいするわ。こんなに美味しいものを作れるなんて!
しかもこんなにたくさん! まだ子どもなのに!」
「なれれば簡単なのよ。霊夢にだって作れるわ」
「わたしが?! わたしがこんなおいしいの作れるようになったらきっと一日じゅう作ってるわ!
あ、でも一日じゅう作っていたら食べる時間がなくなっちゃうわね。どうしよう。ねえ魔理沙?」
「う、うるさいな。そんなの食べながら作ればいいだろう」
「さすが魔理沙! あ、咲夜。こいつは魔理沙よ。とてもあたまがいいの。なんだって知っているのよ」
「ふん、わたしはこいつとなんか仲よくならないぜ。
きっとクッキーだってこいつが作ったと知らなかったら食べなかったもんな」
「こんなにおいしいのに? 本当に? ならわたしが食べてあげる」
「……いや、まあ、ちょっとなら食べてやってもいいけど」
「あなたは魔理沙ね。ふうん、あくしゅはしないわ。あなたはいじわるだもん」
「なにおう! ふん、やっぱり”やかたのおじょうさま”の手下だな!
霊夢がなんと言おうとわたしはこいつがきらいだ」
「こっちもよ。気が合うのね、魔理沙」
「気やすく呼ぶな! 不良!」
目と目のあいだでぱちぱちと火花を散らしているふたりをよそに
霊夢ちゃんはクッキーをぺろりとたいらげてしまいした。
魔理沙ちゃんは最後にとっておいた星形のチョコレートチップ・クッキーも食べられてしまったので
霊夢ちゃんを怒鳴りつけます。
「ああ! 霊夢、おまえ全部食べるやつがあるか!」
「あら魔理沙はいらないんじゃないの? ねえ霊夢、おいしかった?
きっとまたつくって持ってくるわ。今はケーキのべんきょうしているの」
「ケーキ?! ケーキなんて、そんなのもう、あれじゃない、しあわせなやつじゃない!
じゃあ咲夜、今度うちにきて作りなさいよ! きっとそれがいいわ」
「霊夢のうち…… う、うん……」
「だめなの?」
「え、と。あたしはいいんだけれど、おじょうさまがいいって言うかな……」
「じゃあいっぱいたのみなさい。わたしがうまくいくコツを教えてあげるわ」
「なにそれ? おしえておしえて!」
「まず、地べたに寝転んでね……」
霊夢ちゃんが何やらおかしな事を教えているようですが
仲良くなったのは間違いないようです。
もっとも、魔理沙ちゃんはどうもおもしろく無いようですが。
さあ、もちつき大会までもうすぐというところ。しかし、どうも里のみんなの様子がおかしいようです。
三人はかんぽっくりを足にはめたまま、みんなの所へ駆け寄ります。
「どうしたのかな、みんなざわざわしてるぜ」
「咲夜のクッキーでも食べそこねたんじゃあないの? だれかさんみたいに」
「ふふふ、霊夢、おもしろいこと言うのね」
「へえ、そんなやつがいるのか。きっとそいつはたいそうかわいくてキュートなんだろうな」
「霊夢、かわいいとキュートは同じいみなのよ」
「そうなんだ、咲夜は英語もくわしいのね」
「……ふん」
魔理沙ちゃんは二人へ「ひにく」を言ってみましたが
二人のまえにはそれすらも通用しません。
思わずこんなことを言ってしまいます。
「なんだよお前ら、そんなこと言うやつはもう遊んでやらないぞ、ふん!」
「あ……」
「あ、魔理沙、ちょっと! どこいくのよ。”おもちいっぱいだいさくせん”には魔理沙のちからも必要なのよ」
「そんなもの知るか! じゃあな!」
「あーおもちがー……」
「……」
いやみを言われていた魔理沙ちゃんはすっかりおこってしまいました。
里のこどものわへと走り去っていきます。
「……お、おこらせちゃったかな」
「そうね、おもちのとりぶんが減ったわ」
「そうじゃなくて……ええと、いいの?」
「なにがよ」
「魔理沙、おこっていたわ、あやまらなきゃ」
「いいのよ。最初にいじわるしたのは魔理沙なんだから。咲夜はひがいしゃなのよ。
どうどうとしてればいいのよ」
「……そうだけど」
「それよりも、なにがあったのか聞いてみましょ」
「う、うん」
霊夢ちゃんと咲夜ちゃんは、ちかくに居た半袖坊やに事情を尋ねます。
すると、驚きの結果が待ち受けていました。
「ええ?! おしょうゆがなくなった? 」
「うん、おいらたちがさっき鬼ごっこしてたらぶつかって全部こぼしちゃったんだ。へへ」
「なんであんた偉そうなのよ! でもそれってちょっとだけなんでしょ?
だってもちつき大会の材料は、みんなのおうちからもちよってくる決まりだから
おしょうゆはいっぱいあるはずよ」
「うん、だからみんなの家のおしょうゆ全部こぼしちゃって。へへ」
「なんてことしてくれるのよ!」
「ぐ、ぐるじい」
「ちょ、ちょっと霊夢、くびをしめるのはダメよ」
咲夜ちゃんのおかげで半袖坊やは九死に一生を得ましたが
霊夢ちゃんの様子はじんじょうではありません。
だって、おもちにおしょうゆは必須なのですから。
「霊夢、おちついて。あなたさっき、きなこが一番ていってたでしょ」
「でも、おしょうゆだって美味しいのよ!
私はまっしろにまっくろをひたして食べたいの!
だいこんおろしにおしょうゆをまぜてそれと一緒に食べるのだって美味しいし
おもちとおしょうゆはベストカップルなのよ!」
「霊夢は欲張りねえ……」
「ああもう、なんてことなの。もう世界ははめつだわ」
「お、大げさよ。あ、そういえば」
「なに?! 咲夜、おしょうゆのありかを知っているの!」
咲夜ちゃんは霊夢ちゃんに説明します。
今朝、咲夜ちゃんはおやしきでクッキーを作る時に
”びちくしつ”におしょうゆがたくさんあったことを。
「咲夜! 咲夜!」
「な、なあに」
霊夢ちゃんはまたも、咲夜ちゃんの手を取りジャンプをします。
「でかしたわ! あなたは今日のNVPよ!」
「え、そう、ありがとう。えぬぶいぴー?」
「さあ、あなたのおうちにいきましょう。ここから遠いの?」
「え、ええ? 15ふんも歩けばつくと思うけど……」
「じゃあすぐね。おうふくで、ええと、くりあがって、さんじゅっぷん。
さんじゅっぷんがふたつでいちじかんだから、じゅうぶんね。もちつき大会には間に合うわ」
「え、二人で行くの?!」
「そうよ。だって、おとなたちはほら」
霊夢ちゃんは大人たちの輪を指さします。
みんな、忙しそうに準備に追われているようです。
霊夢ちゃんのお母さんも、魔理沙ちゃんのお父さんも、めーりんも
みんなで協力して餅つきの準備をしています。
「それに、考えてみてよ咲夜。みんなおしょうゆがなくて困っている時に
私達がさっそうとおしょうゆをもってくるの。みんな褒めてくれるわ。
きっとごほうびにおもちもたあんと食べられる」
「……」
咲夜ちゃんは想像します。
皆が困っている所を助け、里の人達から褒められる姿を。
そして、めーりんはそのことをおじょうさまに言うでしょう。
そうしたら、きっとおじょうさまも咲夜ちゃんを褒めてくれるはずです。
なぜなら咲夜ちゃんは、おじょうさまから「困った人は助けるように」と
つね日頃から言われているからです。
「……いく」
「決まりね。じゃあ、みちあんないをお願い」
「わかった。でも霊夢、もしかしたらようかいにあっちゃうかもしれないわ」
「ふふん、そんなのもんだい無いわよ」
そういうと霊夢ちゃんは自信満々にポッケから折り紙を取り出します。
そうして近くにあった木の棒を拾い、折り紙を張り付けていきます。
そう、霊夢ちゃんはあの博麗の巫女様の一人娘なのです。
「霊夢、それはなあに?」
「これはおはらい棒よ。お母さんは妖怪とたたかうとき、この棒をもってたたかうの。
私のお母さん、すっごく強いのよ」
「へえ…… すごいなあ」
ぺたぺたと木の棒に白い折り紙をはりつけ、無事におはらい棒が完成しました。
咲夜ちゃんは感心したように、霊夢ちゃんを眺めます。
「これでもし、妖怪にばったりあったとしてもだいじょうぶ。私がはらってあげるわ」
「霊夢、すごいわ。あたしと同じくらいの年なのに、もうようかいたいじが出来るのね」
「ふふん、まあね。じゃあいくわよ。咲夜のいえにしゅっぱーつ!」
「おー!」
そうして二人は両手大きくあげ、冒険の旅に出発したのでした。
「げほ、げほ。首を絞めるなんてらんぼうだなあ。
それにしてもおしょうゆなら、うちにくればいいのに」
半袖坊やはそういって、ふたりの背中を見送ります。
霊夢ちゃんは目の前のおしょうゆのことですっかりむちゅうになってしまい
里におしょうやさんがあることも、半袖坊やがおしょうゆやさんの子供であることも
すっかりと忘れてしまっているのでした。
里から出ると、すぐ先に川が流れていて
その川に沿ってしばらく歩いて行くと、おやしきが見えてくる
咲夜ちゃんはそう説明しました。
「へえ、あんがい近いのね」
「うん、ふだんはめーりんとこの川沿いとか、みずうみのあたりでさんぽしてるんだ」
そういってふたりは川沿いを歩いていきます。
ときおり川ではねる魚を眺めながら。
道端に生えている花の話をしながら。
お互いの家族の話、おうちのはなし。
はじめてあった二人の話は尽きません。
「それでね、おかしいのよ。私のお母さんたら一人でおまんじゅうを20個も食べたあとに
『夕ごはんはおもいっきりたべたいからごはんを5合も炊きましょう』なんて言うのよ!
私たち二人で5合も食べられるわけ無いのに!」
「あはは、霊夢のお母さんってすごいのね。うちもね、めーりんの作る肉まんがおいしくて
このあいだめーりんは40個も作ったのにパチュリーさまがはんぶんいじょうも食べちゃったのよ!」
「そのパチュリーって人も食いしんぼうなのねえ…… あ!」
「あ、あれ? もうおやしきだ」
話すのに夢中になってるうちに、もうおやしきの前に到着していました。
ふたりはきょとんした後に、お互いの顔を見合わせて笑い合います。
そうこうしているうちに、門の前にたっている妖精さんが話しかけてきました。
「あれ、咲夜ちゃんおかえりなさい」
「あ、花ちゃん。ただいま。でも、すぐにいってきます。おしょうゆを取りに来ただけなの」
「おしょうゆ? そうなの。あれ、貴方は?」
「ええと、私は」
「あ、霊夢ダメ。私に紹介させて。あのね花ちゃん、この娘は霊夢。私のおともだちなの!」
「え、おともだち? 咲夜ちゃんのお友達? ええ、なんですって!」
妖精さんはそれを聞くと大きく飛び跳ねます。
それもそのはず。紅魔館の大きな悩みのひとつに
『咲夜ちゃんに人間の友達がいない』というものがあるからです。
今回のもちつき大会に参加する理由の一つに、そのこともありましたが
まさかこんなに簡単に解決するとは思わなくて、妖精さんは飛び上がって喜びます。
妖精さんは咲夜ちゃんと霊夢ちゃんの頭を交互に撫ぜてから、いそいでおじょうさまのもとへ
駆けていくのでした。
「咲夜の家族っておもしろいわね」
「……べ、べつに。ふつうよ。は、はやく、おだいどこに行こう」
咲夜ちゃんはかおを伏せ、霊夢ちゃんの手を取り早歩きでキッチンへと向かっていきます。
家族のことを何かといわれるのは、何故かちょっぴり恥ずかしいからです。
霊夢ちゃんはおやしきの中に入ると、おもわずおおきな声をあげてしまいました。
なぜなら、見るものすべてがとっても大きいからです。
きょろきょろとおやしきを見回し、いろいろな質問を咲夜ちゃんへなげかけます。
「ねえねえ、お部屋がいっぱいあるわ。なんで?」
「うちはいっぱいお手伝いさんがすんでいるの。だから部屋がいっぱいあるのよ」
「ろうかがすっごく広い! うちのいまくらいあるわ! なんで?」
「ええと、わかんないけど、人がいっぱいいるからかな。あ、あとまんなかはおじょうさまが通るから
あたし達は端っこを歩かなければいけないの」
「ははあん。わかったわ。おじょうさまはとっても大きいのね。
だからこんなにものがおおきいのよ。きっとそうだわ」
「……ううん。おじょうさまは、ええと、言うとおこられるんだけど、ちっちゃいのよ」
「へ、ちっちゃいの?」
「う、うん。ないしょよ。さあ早くいきましょう」
霊夢ちゃんは、なぞは深まるばかりねえなどとつぶやきながら
咲夜ちゃんに手をひかれて進んでいきます。
手をひかれながらも、霊夢ちゃんはあれはなんだ、これはなんだ、と咲夜ちゃんへ質問しますが
咲夜ちゃんはどうにも顔が赤くなるのがおさえられないので、適当に返答します。
なんとなく、自分のおうちが変に思われているような気がしてならないのです。
その後霊夢ちゃんは、キッチンのことも、びちくしつのことも、妖精さんたちの休憩室のことも
いっぱい質問しました。
けれども咲夜ちゃんは答えません。
急いで歩いたので、あっという間にびちくしつへとたどり着きました。
「ねんがんのおしょうゆをてにいれたわ!」
「ほら、もうおしょうゆが手に入ったから、はやくかえろう」
「えーもうちょっといいじゃない。ちょっとたんさくさせてよ」
「だ、だめ! ほら、もちつき始まっちゃうから」
「あ、そうね。もちつきがはじまっちゃったらもともこもないわね。早くかえりましょう」
「じゃあ咲夜、こんどまたあそびに来ていい? 今度は魔理沙もつれてくるわ。あいつ、ぜったい大喜びするから」
「霊夢はいいけど……」
「あ、そっか、魔理沙とケンカしてたわね。じゃあかえったらなかなおりしましょう。
そうしたら遊べるわ。ね?」
「えー……? そういうものなのかなあ」
「あ、ところであそこにあるむらさきいろのパンツは」
「も、もう。早くいくよ」
そう言って、咲夜ちゃんは霊夢ちゃんのおしりを押して館の外へ向かいます。
お醤油の瓶はとても大きく、持って歩くのはなかなか骨がおれますが
ふくろにいれ、順番こで持っていく作戦でなんとか二人は運んでいきます。
おやしきを出発した二人は行きの道と同じように、おしゃべりをしながら川沿いを歩いていきます。
おしゃべりに夢中になっていれば、きっとすぐに人里へつくはずです。
しかし、そうはいかないのがセオリーです。
行きはよいよい帰りはこわい。
「ひっひっひ。いい獲物、みいつけた」
おしゃべりに夢中になっているせいで
その忍び寄る影に、二人は気づくことは出来ませんでした。
~~
「まったく、霊夢はは、”やかたのおじょうさま”の手下なんかと遊びやがって。ぶつぶつ、ぶつぶつ」
「おうい、魔理沙」
「あ、パパ。クッキーはもうない?」
「あれか、あれは紅魔館の方が持ってきてくれたやつでな。
すっかり人気でもう無くなってしまったよ」
「ちえー」
「ところで霊夢ちゃんをみていないか? 巫女様が探していたんだ」
「霊夢? ふん、あんなことのやつ知らないぜ」
「うーん、そうか。じゃあ見かけたら教えてくれ。わかったな」
「はいはーい」
魔理沙ちゃんは適当な返事をし、ふたたび里の子どもたちとの鬼ごっこに戻りました。
しかし、どうにも面白くありません。
魔理沙ちゃんは鬼ごっこが得意なので、いつもは何人も逃げる役をつかまえるのですが
きょうは一向に捕まえられません。
思わず、ふてくされてしまいます。
「あーもう! これもぜんぶ霊夢と咲夜のせいだ! あいつら、どこにいきやがった。
もういちど文句をいってやらないと私の気がすまないぞ」
「あ、あの子たちだったら」
「ん、なんだ。ああ、しょうゆ屋か。あいつらがどこに行ったか知っているのか?」
「うん、さっき里の外に出て行っていたよ」
「なんだと!」
魔理沙ちゃんは思わず声を上げてしまいました。
里の外に出る行為は、大人たちから禁止にされている行為の一つで
いつも厳しく言い聞かせされているからです。
「なんで、でも、行けないはずだ。
さとのでいりくちには、みはりの人が立っているはず……
あ、あれ? なんでだ! だれもいない……」
そう、いつも通りなら里の出入り口には見張りが居るはずです。
しかし、今日は里の人総出のもちつき大会。
見張りも全員もちつきの準備をしているのです。
「ど、どうしよう、まずいぜ。霊夢と咲夜、だいじょうぶかな……」
魔理沙ちゃんは青ざめて、ぶるりと震えてしまいます。
人間を食べる妖怪。
人間をさらう妖怪。
魔理沙ちゃんは里の子供なので、そういう妖怪について大人からよーく注意されているのですが
反対に、霊夢ちゃんや咲夜ちゃんは里の外の妖怪について、何も知らなかったのです。
「……だめだ。たすけないと、あいつらは知らないんだ。
いまごろ、おそわれてるかもしれない……」
魔理沙ちゃんは、拳を握りしめました。
「わたしが、いかなきゃ!」
魔理沙ちゃんは、里の外に駆けて行きました。
その時です。
「あれ?」
川の側にはなぜか大根の皮が落ちていました。
しかもなぜか、大根の皮がうまく剥かれて『こっち』のような文字を作っています。
「こっち、こっちに二人が居るのかな」
魔理沙ちゃんはその大根の皮を目印に、二人の後を追いかけました。
~~
「それでね、おじょうさまが言ったのよ。『なっとうにわさびもいけるものね』って」
「ふんふん、さんこうになるわ」
「それでめーりんが真似してわさびをかけたんだけど……ひゃっ!」
「ん、どうしたの?」
「霊夢、今あたしのうなじさわった?」
「さわってないわよ。だって今わたしがおしょうゆを持つばんだからそんなのできっこないわ」
「あれえー……?」
「まあいいじゃない。それで、わさびはどうなったのよ」
「ああ、ええとね。めーりんが……」
「ふんふん……ってうわ!」
「え?」
「咲夜、いまわたしのわきにさわった?」
「え? さわっていないわ」
二人ははてなマークを頭にうかべ、顔を見合わせます。
まるで、二人ではない誰かがこの場にいるような、そんな気がします。
咲夜ちゃんは体を少しだけ震わせます。
「へんなの。気にしないことにしましょ。それより咲夜、こうかん」
「う、うん。ねえ、なんかこわいわ。霊夢、ほんとうにようかいがきてもだいじょうぶなのよね」
「もちろんよ。あんしんしなさい」
「ひっひっひ、本当にそうかな?」
ぴたりと霊夢ちゃんと咲夜ちゃんの動きが止まりました。
ふたりとも、背中からじんわりと汗が吹き出てくるのがわかります。
二人は後ろから聞こえてきた見知らぬ声に恐怖していました。
霊夢ちゃんはおもわずおしょうゆを落としてしまい
咲夜ちゃんは目尻に涙が溜まってきます。
「れ、れいむ……」
「さ、さ、さくや、おちついて、せ、せーので、いっきにはしるわよ」
「……う、うん」
「せ、せーのっ!」
「させるかー! うらめしやーっ!」
「「ひゃああああ!」」
そう、後ろから離れてきたのは妖怪でした。
そして、二人の腕はその後ろからきた妖怪に掴まれてしまいました!
二人は振り払おうにも、がっしりと掴まれているため身動きできません。
「ひ、ひいい!」
「あわわ、あわあわ」
「ああ、この子たちすごい驚いてるう。久しぶりだから気持ちいい……!」
妖怪は身を捻って悦に浸ります。
ときおり体をびくんびくんと震わせながら顔をとろけさせています。
この間もずっと腕を掴まれているので、霊夢ちゃんと咲夜ちゃんは逃げようにも逃げられません。
「れ、れいむ、ど、どうしよう……」
「あ、そうだ、あれ、あの、おはらい棒があるから……」
霊夢ちゃんはわきに忍ばせておいたお祓い棒を取り出します。
「あふう、おふう、びくんびくん」
「こ、こらようかい!」
「なに? いま余韻に浸っているところなんだけど」
「こ、これでおまえを、たいじしてやる!」
霊夢ちゃんはお祓い棒を妖怪の目の前に掲げます。
一瞬、間が空きますが、次の瞬間、妖怪の顔が急に青ざめました。
掴んでいた腕も外して怯えています。
「げ、それは!」
「あ、び、ビビってるわ。咲夜、もうだいじょうぶよ。こいつビビってる!」
「れ、霊夢、がんばれ!」
「あんた、巫女だったのね! どうりでわきが出ていると思ったら!」
「そうよ! くらえ、おはらいこうげき!」
霊夢ちゃんはお祓い棒を振りかぶり、妖怪めがけて思い切り振り下ろしました。
ぺしり、と乾いた音がして、妖怪のあたまにお祓い棒がぷち当たります。
しかし、叩いたあとに何も起きないので微妙な空気が流れます。
「ん? あれ、きかない?」
「……あれ? いたくない」
「……れいむ……」
霊夢ちゃんは怪訝そうに、今度は何度も、妖怪の頭めがけてお祓い棒を振り下ろしました。
「あ、あれ? なんで、なんできかないのよっ。くらえっくらえっ」
「いて、いて。なあんだ、あんたぜんぜん大したこと無いじゃない」
妖怪は霊夢ちゃんが叩きつけているお祓い棒をひょいとうばいとり
しげしげとそれを見つめます。
そして、鼻でふっと笑いました。
霊夢ちゃんのおはらいこうげきは一切通用していないようです。
「お、おかしいわ。お母さんがつかうと、ようかいなんていちげきなのに! ちょっと、私のおはらいぼうかえしてよ!」
「れ、れいむ、はやくにげよう!」
「ふふふ、にがさないよ。巫女だと思ったけど
どうやらそれはわちき(キャラ作り一人称)の思いすごしだったようね」
じりじりと妖怪は二人にせまっていきます。
お祓い棒が効かないとわかった霊夢ちゃんはもうなすすべもなく、おろおろと取り乱しています。
咲夜ちゃんはおろおろとしている霊夢ちゃんを支えていますが
やはり自分も怖いのか、あしをがくがくと揺らしながら涙目になるしかすべはありません。
「ひっひっひ。もっと恐怖をたべさせてちょうだいな」
「……あ、あう、どう、どうしよ」
「れいむ、はやく、にげ……」
「うははーもっと恐怖をおくれー! うらめしやー!」
妖怪が二人にとびかかる、その時でした。
ごつんっ!
生々しい、いかにも痛そうな音が二人の耳に入ってきます。
「あいたー! な、なにやつ、っていたた!」
「あ、あ、あたま悪そうなばかようかいめ! ふたりから離れろ!」
「魔理沙!」
「ま、まりさ……」
妖怪がふたりに襲いかかるその瞬間です。
魔理沙がなげた石が妖怪の頭にダイレクトクリティカルクリーンヒットしました。
魔理沙ちゃんはなおも石を投げ続けます。
さすがの妖怪もこれにはたじたじです。
「お前ら、私があしどめしてるうちにはやくにげろ!」
「いたい、ちょ、まじでこれ、いたいって、うひい」
二人とも魔理沙ちゃんの声を聞き、すぐさま立ち上がります。
抜け目のない霊夢ちゃんはおしょうゆも忘れずに持ちだして、魔理沙ちゃんと一緒に石をなげつけます。
「さっきはよくもやったわね! くらえっ、おんみょうだま(石)!」
「咲夜、お前もなげろ! やらなきゃやられちゃうぞ!」
「で、でも……」
「咲夜はやく! 私たちはおしょうゆを里までとどけるしめいがあるんだから! ちゃんとすいこうしなきゃダメなのよ!」
「う、うん!」
咲夜ちゃんは足元にある石を手に取り、妖怪へ思い切り投げつけました。
「お、お前らいいかげんい……へぎゃっ!」
咲夜ちゃんが投げた石は、みごと妖怪の額へと命中したのです。
これには妖怪も、戦意を喪失してしまいます。
「く、くそ、一時退却!」
ぽかんとしている咲夜ちゃんをよそに、妖怪は悔しそうに逃げて行きました。
三人は、逃げる妖怪の背中をみて、一斉に息を吐き出しました。
「咲夜! すごいわ」
「え、え?」
「咲夜、やるじゃんか! あいつ逃げていくぞ!」
「あ、あたし」
咲夜ちゃんは投げたあとに、「いたくなかったのかな」と不安になってしまいましたが
二人が喜んでいるので、なんだか嬉しくなってきました。
三人は手を取り、ジャンプし合います。
「すごいな、私たち、ようかいたいじしちゃったぜ」
「でしょ、私のおはらいぼうがきいたのよ、きっと」
「あ、はああ、よかったあ」
三人はそれぞれの反応を見せ、勝利を噛み締めます。
手を取り、ハイタッチをし、ジャンプをして
時にはこしょばせ合って、お互いを笑わせ合っておおいに喜びました。
「それにしても魔理沙、よく来てくれたわね。ありがとう」
「ふふん、こんなのよゆうだぜ」
「魔理沙、ありがとう!」
「おう、私にかかればこんなもの…… って」
「うん?」
「いや、だって、私たち喧嘩してたのに」
「あ、そうね。魔理沙、仲直りしなさい。仲直りすれば、きっと良いことが起きるわ」
「なんだよそれ」
「……」
ほら、と魔理沙ちゃんは霊夢ちゃんに促されます。
魔理沙ちゃんはすこしきまずそうに頬をかき、口を開きます。
「咲夜、いじわるしてごめん」
「ううん、全然気にしていないわ。あたしこそ、ごめんなさい。
霊夢のうちでまたクッキーを作るから魔理沙も食べにきてね」
「……ああ。あの、また、あれ」
「うん?」
「星形のチョコクッキー、あれが食べたいな」
「うふふ、絶対に作るわ」
霊夢ちゃんはうんうんと頷いて、二人をあくしゅさせます。
こうして三人は、やっと仲の良い友だちになれたのです。
「ひっひっひ。わちき(キャラ作り)復活」
安心したのもつかの間の一瞬。
さきほどの妖怪は川で顔をあらい、リフレッシュしてまた三人のもとへやって来たのです。
「不意をつかれたといえ、子供にやられるなんて妖怪の恥。
もう一回驚かしてやるのよ」
妖怪は匍匐前進で草むらをかき分け、三人に近づきます。
「ひっひっひ。いくぞう。うらめしもが!」
妖怪は決め台詞の「うらめしや」を発することは出来ませんでした。
なぜなら、後ろから何者かに口を手で防がれたからです。
妖怪はなんとかその手を外し、後ろを振り返ります。
「もがもが! 一体誰よ! 私の邪魔するのは」
「よう、楽しそうだな」
「せっかく私たちの可愛い子供を見に来たのに邪魔するなんて。
もう貴方は一度負けたのだから、あの子達は放っておいていてくれないかしら?」
妖怪は血が凍るような恐怖を覚えました。
妖怪が振り向くと、そこに居たのは
大根をかじっている小さな体で大きな翼のコウモリちゃんと
大根をかじっている胡散臭そうな紫の色の服を着たおばさんです。
その二人は終始笑顔でしたが、自分に怒りをぶつけているのがわかりました。
妖怪は二人を前に、腰を抜かしてしまいました。
「あ、あ、あなたがたは……!」
この先十数年、その妖怪を見たものは居ません。
ですがそれはまた、別のお話。
~~
「霊夢、おいしい?」
「うがが、うがうが」
もちつき大会は今年も大成功です。
霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんと咲夜ちゃんは
外に出たことで里の大人たちにしばらく叱られましたが
その後に、おしょうゆを持ってきたことを褒められて
おもちをいっぱい食べられる権利を得たのでした。
「ががが、ぶぶぶ」
「わー! みこかあちゃん! 霊夢がのどをもちに!」
「がごごごごご」
霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんが騒いでいるあいだ
咲夜ちゃんはめーりんに相談をしていました。
「ねえめーりん」
「何ですか、咲夜さん」
「今度、霊夢のうちに遊びに行っていいかしら」
「……え?!」
「ダメかなあ?」
「い、良いに決まってるじゃないですか! お嬢様も喜びます。
今日はお赤飯ですね! ひゃっほう!」
「やあねえめーりん。こんなにおもちを食べたのに家でももちごめを食べるの?」
その後、咲夜ちゃんはいっぽ大人になりました。
お嬢様に報告すると、泣いて喜ぶのは目に見えています。
ただ、お嬢様に報告するときは一悶着あったようです。
~~
「咲夜、もちつき大会は楽しかったか?」
「はい、とっても。それと、あ、あの、おじょうさま……」
「うん。なんだ?」
「あした、おともだちのおうちに遊びにいきたいんです……!」
「お、お友達? ええと、そうだなあ。ううん、でも」
「だ、ダメですか?」
「いやその、ほら、うちに呼ぶのじゃダメか? その、ちょっと不安というか」
「……な、なら」
「うん? どうした咲夜、寝転んで」
「やだやだやだ! おともだちの家にいきたい! おともだちの家にいきたいよう!」
「ど、どうした咲夜。わかったから、行っていいから落ち着いて!」
「わあい」
「あれー?」
~~
霊夢ちゃんに教わった「駄々をこねる」を行ったところ
効果はてきめんだったようです。
霊夢ちゃん、魔理沙ちゃん、咲夜ちゃん。
三人の冒険譚はこれで終わりです。
三人はいずれ、別の所で合うことになるのは、また別のお話です。
さあ、話を幻想郷に戻しましょう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ふむ、と八百屋さんの店先で咲夜は首を傾げました。
どうにも、今夜のおかずで悩んでいるようです。
そこに、後ろから声をかける者がいます。
「やあ、今日はねぎが安いみたいだね」
「あらどうも」
後ろからやってきたのは八雲藍でした。
藍も同様に、今晩のおかずを思考しながら八百屋へとやってきたというわけです。
二人はここの常連さんで、よく出会ってはお献立の相談などを中心に
井戸端会議を開催している仲です。
「ねぎねえ。おかゆにでも入れてみようかしら」
「おかゆ、いいねえ。手抜きでかつおいしい料理だ。橙がはふはふと食べている姿が可愛らしいんだ」
「あらそれはいいわ。お嬢様と妹様もはふはふしてくれないかしら」
などと他愛の無い話が今日も続いています。
ひとしきり八百屋さんでの会議を堪能したあと、二人はよく行くカフェーに場所を移し
またも本格的に会議を開催するようです。
「そういえば、この間の件なんだが……」
「主人の様子がおかしいっていう?」
「そう。やはり、どこかで何かしてきたみたいなんだ」
「薄々わかっていたわ。たぶんお嬢様と一緒に何かしたのでしょう」
「ということはそちらもやはり」
「ええ、二日前、出かけたと思ったら、鼻血をぼたぼた出しながら恍惚の表情で帰ってきたわ」
「うちもだ。まったく、一体何をしてきたのだが」
「運命の能力と、境界の能力。なにか大層なことをしでかしてそうだけど……」
「そうだなあ、なんだかんだ強大な力をもった二人のことだ。どこか別の世界にでも行ってきたりしてな」
「過去の世界とか、パラレルワールドとか?」
「あはは、まさか。でもそうだったらおもしろいな」
「そうね、うふふ」
ふたりはまさかと思いましたが
かなりの力をもった自分の主人を思い浮かべ
ありえない話ではないと感じ、汗をたらりと流しました。
「あはは」
「うふふ」
二人は無理にでも笑いあい深く考えないようにしました。
笑って忘れるのが一番、きっとそうなのです。
カフェーには二人の笑い声がひびきます。
以上、普段の幻想郷とは違う、別のお話でした。
『とうほうほんわか劇場 「刹那と運命に導かれた混沌世界」』
終わり
妖怪に怯える人間だけでなく妖怪を退治する人間も幻想郷には必須なので、紫からしたらその困難な役割を担ってくれる霊夢や魔理沙は可愛くて仕方ないのかな。
レミリアは普段咲夜に甘えつつ、ここぞという時は絶対咲夜を甘やかしてるに違いない。
大根を齧って脅すお嬢様と紫さんを想像して笑ってしまったw
子どもたちの性格が三者三様で読んでいて楽しかったです。
子ども時代の冒険って楽しいですよね。
小傘ちゃんの驚かせっぷりも楽しませていただきました。