「あれ?霊夢、これなんだ?」
時間はお昼すぎ、場所は博麗神社の縁側、普通の魔法使い霧雨魔理沙は、私の近くに見慣れない板が立てかけられているのに気づいたらしい。こういう所にはいつも目ざとい。
「えーと、なになに 膝枕30分 100円? えっお前そこまでお金に…」
「違うわよ!!」
どうやら目の前で大げさなリアクションをとっている魔法使いは失礼な勘違いをしているらしい、まぁ確かに誤解するのも無理はないと思うが、そこまでお金に困っているように見えるだろうか?
「ほう、それじゃ、なんでこんなもんおいているんだ?」
「この前、チルノに膝枕をせがまれてね、やってあげたんだけど」
「珍しいな、お前がそんなことするなんて膝蹴りの間違いじゃないのか?」
「あの日は暑かったのよ、魔理沙も覚えているでしょ?秋の神様がストライキでも起こしたのかと思ったわ」
「ああ、三日前にそんな日があったような気が…」
「五日前よ」
「ああ、それそれ、惜しかったな、二文字は合ってた」
時々適当という言葉はこいつのためにあるんじゃないかと思う。
「…そんときに運悪くほかの妖精も見ていたらしくてね、『私も、私も』ってわらわら集まって来たのよ」
「人気者じゃないか」
「おかげさまで一日中座りっぱなしだったのよ、…まぁそん時はすぐ飽きるだろうと思ってたから『あー腰が痛い』ぐらいにしか思って無かったんだけど」
「そうはならなかったって訳か」
「ここ最近ずっとよずっと、多分今日もそろそろ集まってくるわ」
「あはは、それは災難だったな。で、それがどうしてそれがこれにつながるんだ?まさか妖精から毟ろうなんて思ってないんだろう?」
魔理沙は完全に他人事だと割り切って楽しんでいるみたいだ、意地悪そうな笑みを顔に貼り付けている。今日妖精が来たら魔理沙にけしかけてやろうか。
「当たり前じゃない、妖精がお金なんて持っているわけないでしょ」
「ん?じゃどういうことだ?」
「逆よ、逆、持ってないから、膝枕しなくて済むのよ」
「なるほど、断る理由を作ったってことか」
「そういう事、我ながら冴えているわ」
「さすがだな~霊夢、じゃ、はいこれ」
「…なによ?これ」
「何って、二百円だよ、流石にお金くらいは知ってるだろ?」
「…賽銭箱はあっちよ」
「何言ってんだよ、私が最初のお客さんになってやろうとしてるんだ」
「はぁ!?あんた、話聞いてなかったの?膝枕したくないから立札まで用意したってさっきって言ったばっかりじゃない!」
「残念、もう料金は払っちまったからな」
いつの間にか帽子を脱いだらしい魔理沙の頭が私の膝の上に乗っていた、膝を揺すって落とそうとしたがどうもうまくいかない。
「いやー昨日徹夜で研究してたから眠くてな、ちょどいい枕が見つかって良かったぜ」
「布団なら向こうに敷いてあげるからどきなさいよ」
「いやーこれはいいな、妖精達がハマるのもわかるぜ、霊夢の足って細いのになんでこんなに柔らかいんだろうな」
「ちょ、やめ!さするのやめなさいよ!!」
どうやら私の話は魔理沙の脳内には届かないらしい、だったら耳なんて通さずに直接脳に刺激を与えるしかないようだ。
「こんのっ!いい加減にしないと、この陰陽玉がって…魔理沙?」
どれほど疲れがたまっていたのか知らないが、もうすでに魔理沙は寝息を立て始めていた。規則的に金色の髪が上下している、まさか数秒で眠りに落ちるとは。
「はぁ…これじゃ今日も動けないじゃない」
構えていた陰陽玉をしまい、膝の上の少女の方を見る。そういえばこんな近くで魔理沙の顔を見たことは無かった気がする。いつもの小憎たらしい笑顔は消え、とても安らかな顔をしている。元々線が細いのに加え、ふわふわの金髪の中に埋まっている顔は白くて、儚げな印象だった。
(黙ってれば可愛いのにねぇ、絶対損してるわあんた)
ちょっぴり悔しかったので、金髪で遊ぶことにしよう
…そう思った矢先、後ろから、ガタンっと大きな音がする。
「ご、ごめんなさい、お邪魔したわね」
アリスだった。
「わ、わたしは何も見てないわ!!えーっと、二人がそういう関係だなんて誰も言わないでおくから」
いつの間にか神社に来ていたらしいアリスは明らかに矛盾しているセリフを吐く。
「してない誤解を解くほど、めんどうくさい事はないと思うわ」
「なーんだ、バレてたの…少しくらい慌てると思ったのに」
「あんたがあんな物音立てるヘマなんてするわけないじゃない、どうせ最初から見てたんでしょ?」
ちょっとわざとらしすぎたからしら?なんて言いながらアリスがこっちに来る。今日はどうやらお菓子を持ってきてくれたらしい、右手のバスケットからいい匂いがする。
「はいこれ、お土産のクッキー、一応日持ちはするように作ってはいるけど早めに食べてね」
「わざわざ、ありがと。今はコレのせいで動けないから自分の分のお茶は自分で用意してくれないかしら、いつもの場所にあるから」
「その必要はないわ …上海!」
アリスがそう呼びかけると後ろからバックを持った人形が出てくる。紅茶でももって来たのだろうか?用意がいいさすがアリスだ。
「はいこれ」
そう思っていた私の頭は、上海人形の手の中で鈍く光っている硬貨を見て止まる。
「いやー私も昨日は徹夜だったのよ、というわけで失礼するわね」
私の混乱している頭が再稼働する前にアリスはそそくさ隣に座ってきた。魔理沙の頭を少し押しのけて、自分の頭をそこに差し込む、魔理沙は少し嫌そうな顔をしていた。
「ちょ、ちょっと」
「あらあら、魔理沙には良くて私にはダメって訳?やっぱりそういう関係なんじゃ?」
「違うわよ!」
「ふふ、どちらにしろもう動けないんだからもう一人増えても変わんないでしょ?」
ああ、この顔はもう何を言っても無駄だ、ヘタをすれば魔理沙より頑固なんだから
「…ああもう、好きにしなさい」
「ふふ、ありがとう霊夢」
今まで意地悪そうな顔をしていた膝の上の金髪二号が無邪気に笑う、あまりに幸せそうな顔に毒気を抜かれてしまいそうだ。
「ねぇ霊夢、すごい発見をしたわ」
「ん?どうしたの?」
「したから見ると霊夢って一段と可愛く見えるわ」
「……寝言は寝てから言いなさい」
「ふふ、それじゃおやすみなさい」
こいつはさらっと爆弾を落としていくから油断できないのを忘れていた。紅魔館の図書館にも悪魔がいるが、コイツの方がよほど悪魔っぽい。
そんな悪魔も数分としないあいだに眠ってしまい、天使のような寝顔を浮かべている。早く災いの元となった立札を取り除かなければ、また増えてしまうそう巫女の勘が告げているので、今のうちに取ろうとする…
が、どうやらアリスが寝るときに邪魔だったらしく手が届かない所に除けてしまったらしい。
…もしもこれが今の状況を考えての行動だったらアリスは悪魔でも生ぬるいかもしれないと思った。
復讐も兼ねて二人の金髪の髪を結びつけて遊んでいると、またもや後ろからガタっという音がする。
「ご、ごめんなさい、お邪…」
「そのくだりはさっきアリスとやったわ」
「あら、そうなの」
少し残念そうなレミリアがスーっと飛んでくる、悪魔の話をしていたら本物が来るとは。どうして私の周りにはこう面倒事を起こそうとする奴が多いのだろうか。
「あら、今日は咲夜と一緒じゃないのね?」
「ええ、元々外出の予定はなかったから今はお仕事中よ。たまたま私の『面白い運命レーダー』が反応したから来てみれば、予想以上に面白そうね。一人ででも来て正解だったわ」
今の発言のせいで元々胡散臭い能力が、さらに胡散臭くなった。レミリアが言っていることが真実ならこれほど無駄な能力の使い方はないだろう
「…はぁ」
「ふふ、嬉しそうな顔ね、そんなに私に会いたかったのかしら?」
「あんたは、一度辞書で嬉しそうの意味を調べたほうがいいわ、立派な図書館が泣いているわよ」
「私は本より実践を大事にするタイプなのよ、そういうのはパチェがやってくれるの」
「親友に恵まれてるのね」
「そうね、パチェは幸せ者ね」
レミリアは噛み合わせる気のない会話をしながらポケットをゴソゴソしている。これは嫌な予感がする。
「というわけではいこれ」
小さい手に握られているのは今日何回も見た硬貨、どうやら目ざとく看板を見つけたようだ。この硬貨も賽銭箱の中で見つけられればすごく嬉しいのに今は会いたくない…
「見ての通りもう満員よ、諦めてくれないかしら」
「ええ、だからここで我慢しようと思うの」
レミリアはそういうと私の隣にちょこんと座ると私の肩に頭を乗せる。何が『だから』なのかわからないが、どうやら肩枕にするようだ。
「膝枕は残念だったけれど、これもなかなかね、気に入ったわ」
「勝手に気にいられても困るんだけど」
「霊夢、これは光栄なことなのよ?胸を張りなさい」
「はぁ…そんなことより、ここって案外日当たりいいわよ、大丈夫なの?」
「基本的には直射日光じゃなければ問題ないわ、それにこの前咲夜が香霖堂から面白いものを買ってきてね」
「面白いもの?」
「そうそう、『ひやけくりいむ』って言っていたかしら?あれ塗ったら日に当たっても大丈夫になったわ、少しベタベタするのがたまにキズだけど。多分高尚な魔術師が作ったのね、あんまり期待して無かったのだけれど、すごい効き目だわ」
確か早苗が前に持ってきた化粧品にそんなのがあった気がする。たかが化粧品で最大の弱点を克服したと知ったら横の吸血鬼と中世の吸血鬼ハンターはどんな顔をするだろうか。
「そうだ、ここも借りるわよ」
そういうとレミリアは手をとって自分の指を絡める。
「何してんのよ」
「いいじゃない、減るものでもないんだから」
「使える手が減るじゃない」
「使わなければいいじゃない、…ふぁ~」
身勝手な吸血鬼があくび一つ。こういう仕草も絵になるからレミリアはずるいと思う、気を抜いたら見とれてしまう、なんて言ったら信じるだろうか。
「吸血鬼の起きている時間帯じゃないから少し寝るわ」
「棺桶にでも入ってればいいのに」
「ここのほうが心地良いいのよ、それじゃおやすみなさい霊夢」
活動時間じゃないならおとなしく家で寝てればいいのに、こいつは何を考えてここに来たんだろうか。
パシャ
そんなことを考えているとシャッター音が響く
「あやややや、いつも記事のネタの提供ありがとうございます、今日もまたお世話になります霊夢さん」
「提供した覚えなんてないわ、あんたが勝手に『とって』いくだけでしょ?はぁ…記事でもなんでもしていいからこいつらなんとかしてくれないかしら」
「そんな事したら焼き鳥にされてしまいますよ」
やれやれとでも言いたげな動きをする文、こいつも変なレーダーでももっているのだろうか?
「そーいえば霊夢さん」
「なによ」
「私が記事にする上で真実を報道することを重要視していることは知っていますよね?」
「へーそれは私の人生始まって以来の衝撃の事実だわ」
「やっぱり、真実を報道するには極力自分も体験しなくてはなりません…ということで」
4人目の面倒事が目の前に降り立つ、どうせこいつも…。
「はいこれ」
外れて欲しい予想に限っては当たる、人生ってそんなものかもしれない。
「なーに悟ったような顔しているんですか?まぁいいです、それじゃあ失礼しますよっと」
文がレミリアの反対側の肩に頭を乗せる。手つきがいやらしかったのでつねってやったら引っ込んでいった。
「あ~これはいいですね、霊夢さんのぬくもりが伝わってきますし、それになにより風に乗って霊夢さんの甘い匂いがするのもグッドです」
「やめろこの変態天狗」
「おほぉ、さらに罵ってくれる機能付きですか、これはしびれますね」
「はぁ…無視がお好みかしら」
「そっけない霊夢さんも素敵ですねえ」
この変態天狗はある意味無敵かもしれない。
「どうせもあんたも徹夜かなんかして眠いんでしょ?」
「あやややや、いつの間に霊夢さんは覚り妖怪になったんですか?私の乙女ティックな気持ちもバレてしまいますねぇ」
「うるさい、さっさと寝ろ」
「いやー記事作りが忙しくてですね、もう少し楽しんでいたかったんですが…眠気が…」
「はいはい、お休み」
「おやすみなさいです」
…なによ、あんたの方がいい匂いじゃない
ゲフン!
全くこいつらはここを宿やか何かと勘違いしているのではないのだろうか?眠たいのであれば家でおとなしくしていればいいのに
「霊夢さ~んいらっしゃいますか?」
これで五人目、この声は早苗みたいだ、どうしてこういう時に限って来客が来るのだろうか
…どうせ本人に聞いても『守矢の奇跡がなせる技です!!』とかなんとか言うんだろうな
「今動けないから縁側までまわって」
「は~い、分かりました」
こっちまで気が抜けそうになるくらいのんきな返事だ、早苗らしい。とてとてという足音が近づいてくる。
「お待たせしました霊夢さんって…これ、どんな状況何ですか?」
「私が知りたいわ…」
頭が痛くなってくるような状況だが、このまま放っておくと早苗がかわいそうなので軽く説明する。
が、当の本人は立札を見ながら『はー』やら『へー』やら気の抜けた返事しか返さない、ちゃんと聞いているのだろうか?相変わらずマイペースだ
「つまり、私もお金を払えば霊夢さんとイチャイチャできるってことですね」
どうやら聞いていなかったらしい。早苗は私が止める前に懐からガマ口を取り出し、私に硬貨を差し出してくる。
「はい!霊夢さん」
「…はぁ、今更あんただけダメなんて言わないけど、どこも空いてないわよ」
「んー?そうですねー…それじゃ背中をお借りします!」
そういうと早苗はひょこひょこと私の後ろに回り、背中合わせで座る
「…それって楽しいの?」
「はい!背中越しに霊夢さんの心音が伝わって来て、その、なんというか…安心します」
「そんなもんなの?」
「そんなものです」
早苗は変わった子ではあるが今日も絶好調みたいだ。
「どうせあんたも徹夜か何かして寝不足なんでしょ?寝てもいいわよ」
「……?常識からして徹夜なんして他人の家に遊びに行くのでしょうか?」
まさか早苗に常識を説かれるとは、早苗が言ってることは至極真っ当だと思うのだが、すごく理不尽な気持ちだ
「とは言えそれはとても魅力的な提案ですね、しばらくお背中お借りしますね」
なんだ結局ねるんじゃないか
「お休み早苗」
「おやすみなさい、霊夢さん」
あたたかい…、少し早苗が言ったことが分かった。
これで五人目、流されるままに増えていく、両手に花なんて言葉もあるが、今の私は花に埋もれて身動き取れないって感じだ。仕方ない、こいつらが目を覚ますまで…
(じー)
目が合った
そうだコイツのことを忘れていた。いつも膝枕をねだってくる妖精の一人がこちらをじっと見つめている。どうやら見慣れない光景にどうしようか考えているみたいだ。
空いている方の手で立札のほうを指して見る。このために用意したのだ、妖精だけでも止めてみせる。
(?)
しまった、どうやら文字が読めないようだ。私の作戦ははじめから失敗していたらしい。しかし、諦めない
「お金が必要なのよ」
文字が読めなければ話せばいい、当然の理だ
(………!!)
どうやら分かってくれたようだ、しきりに頷いている
(ごそごそ、ガサガサ)
?…何をしているのだろうか?
「あい、どうど」
はい、どうぞ?…なんだろうこの綺麗な石は、受け取れってことだろうか。取り敢えずもらってみるか
(にっ!)
受け取ると満面の笑顔で抱きついてきた、どうやらさっきのはお金の代わりだったらしい。胸くっついた妖精は幸せそうに頬をすり寄せて来る、どうやらこれもお気に召したらしい。あーこれは次回から膝枕だけでは済みそうにないな。
しばらく嬉しそうにはしゃいでいた妖精は、次第にウトウトし始めた、どうやらこの子もおねむみたいだ
「あんたも寝る?」
(こくっ)
はぁ…私も寝ようかな
――――――――――――――――
―――――――――――――
―――――――
私が目を覚ましたのはすっかり日が傾いた時刻だった。私にまとわりついていた奴らはいなくなっており、代わりに硬貨が置いてあった、どうやら延長料金らしい、なにげに律儀なやつらだ。
「あ~今日も結局何もできなかったわね」
どうせ何もしないのだけどね…ってのは置いといて、取り敢えずこの元凶の立札を始末することから始めようか。
「あら、おもしろそうな事が書いているわね」
神出鬼没のスキマ妖怪、まさか最後になって来るとは
「…紫、もう今日は店じまいよ、私の膝にはもう誰ものせる気はないわ」
ずっとまとわり疲れていたからか、微妙に体が痛い。
「ふふ、わかったわ、それじゃこうしましょうか」
「え?」
体がふわっと浮き、何か柔らかい物に着地する。
「立札には『誰が』膝枕するかは書いていないわよね、私が貴方に膝枕させてもらうわ」
どんな理屈だそれは。
「お疲れ様霊夢、今日も博麗の巫女としては百点だったわよ」
「…その採点基準おかしいんじゃないの」
「巫女としては落第点だけど、博麗の巫女としては百点よ」
「いい加減ね」
「本当に素直じゃないんだから、まぁいいわ、それじゃお休みなさい、霊夢」
「…ん」
さっきさんざん寝たからもういいわ、というセリフは心の中だけでつぶやくことにした。
………案外される側『も』悪くない、そう思った。
時間はお昼すぎ、場所は博麗神社の縁側、普通の魔法使い霧雨魔理沙は、私の近くに見慣れない板が立てかけられているのに気づいたらしい。こういう所にはいつも目ざとい。
「えーと、なになに 膝枕30分 100円? えっお前そこまでお金に…」
「違うわよ!!」
どうやら目の前で大げさなリアクションをとっている魔法使いは失礼な勘違いをしているらしい、まぁ確かに誤解するのも無理はないと思うが、そこまでお金に困っているように見えるだろうか?
「ほう、それじゃ、なんでこんなもんおいているんだ?」
「この前、チルノに膝枕をせがまれてね、やってあげたんだけど」
「珍しいな、お前がそんなことするなんて膝蹴りの間違いじゃないのか?」
「あの日は暑かったのよ、魔理沙も覚えているでしょ?秋の神様がストライキでも起こしたのかと思ったわ」
「ああ、三日前にそんな日があったような気が…」
「五日前よ」
「ああ、それそれ、惜しかったな、二文字は合ってた」
時々適当という言葉はこいつのためにあるんじゃないかと思う。
「…そんときに運悪くほかの妖精も見ていたらしくてね、『私も、私も』ってわらわら集まって来たのよ」
「人気者じゃないか」
「おかげさまで一日中座りっぱなしだったのよ、…まぁそん時はすぐ飽きるだろうと思ってたから『あー腰が痛い』ぐらいにしか思って無かったんだけど」
「そうはならなかったって訳か」
「ここ最近ずっとよずっと、多分今日もそろそろ集まってくるわ」
「あはは、それは災難だったな。で、それがどうしてそれがこれにつながるんだ?まさか妖精から毟ろうなんて思ってないんだろう?」
魔理沙は完全に他人事だと割り切って楽しんでいるみたいだ、意地悪そうな笑みを顔に貼り付けている。今日妖精が来たら魔理沙にけしかけてやろうか。
「当たり前じゃない、妖精がお金なんて持っているわけないでしょ」
「ん?じゃどういうことだ?」
「逆よ、逆、持ってないから、膝枕しなくて済むのよ」
「なるほど、断る理由を作ったってことか」
「そういう事、我ながら冴えているわ」
「さすがだな~霊夢、じゃ、はいこれ」
「…なによ?これ」
「何って、二百円だよ、流石にお金くらいは知ってるだろ?」
「…賽銭箱はあっちよ」
「何言ってんだよ、私が最初のお客さんになってやろうとしてるんだ」
「はぁ!?あんた、話聞いてなかったの?膝枕したくないから立札まで用意したってさっきって言ったばっかりじゃない!」
「残念、もう料金は払っちまったからな」
いつの間にか帽子を脱いだらしい魔理沙の頭が私の膝の上に乗っていた、膝を揺すって落とそうとしたがどうもうまくいかない。
「いやー昨日徹夜で研究してたから眠くてな、ちょどいい枕が見つかって良かったぜ」
「布団なら向こうに敷いてあげるからどきなさいよ」
「いやーこれはいいな、妖精達がハマるのもわかるぜ、霊夢の足って細いのになんでこんなに柔らかいんだろうな」
「ちょ、やめ!さするのやめなさいよ!!」
どうやら私の話は魔理沙の脳内には届かないらしい、だったら耳なんて通さずに直接脳に刺激を与えるしかないようだ。
「こんのっ!いい加減にしないと、この陰陽玉がって…魔理沙?」
どれほど疲れがたまっていたのか知らないが、もうすでに魔理沙は寝息を立て始めていた。規則的に金色の髪が上下している、まさか数秒で眠りに落ちるとは。
「はぁ…これじゃ今日も動けないじゃない」
構えていた陰陽玉をしまい、膝の上の少女の方を見る。そういえばこんな近くで魔理沙の顔を見たことは無かった気がする。いつもの小憎たらしい笑顔は消え、とても安らかな顔をしている。元々線が細いのに加え、ふわふわの金髪の中に埋まっている顔は白くて、儚げな印象だった。
(黙ってれば可愛いのにねぇ、絶対損してるわあんた)
ちょっぴり悔しかったので、金髪で遊ぶことにしよう
…そう思った矢先、後ろから、ガタンっと大きな音がする。
「ご、ごめんなさい、お邪魔したわね」
アリスだった。
「わ、わたしは何も見てないわ!!えーっと、二人がそういう関係だなんて誰も言わないでおくから」
いつの間にか神社に来ていたらしいアリスは明らかに矛盾しているセリフを吐く。
「してない誤解を解くほど、めんどうくさい事はないと思うわ」
「なーんだ、バレてたの…少しくらい慌てると思ったのに」
「あんたがあんな物音立てるヘマなんてするわけないじゃない、どうせ最初から見てたんでしょ?」
ちょっとわざとらしすぎたからしら?なんて言いながらアリスがこっちに来る。今日はどうやらお菓子を持ってきてくれたらしい、右手のバスケットからいい匂いがする。
「はいこれ、お土産のクッキー、一応日持ちはするように作ってはいるけど早めに食べてね」
「わざわざ、ありがと。今はコレのせいで動けないから自分の分のお茶は自分で用意してくれないかしら、いつもの場所にあるから」
「その必要はないわ …上海!」
アリスがそう呼びかけると後ろからバックを持った人形が出てくる。紅茶でももって来たのだろうか?用意がいいさすがアリスだ。
「はいこれ」
そう思っていた私の頭は、上海人形の手の中で鈍く光っている硬貨を見て止まる。
「いやー私も昨日は徹夜だったのよ、というわけで失礼するわね」
私の混乱している頭が再稼働する前にアリスはそそくさ隣に座ってきた。魔理沙の頭を少し押しのけて、自分の頭をそこに差し込む、魔理沙は少し嫌そうな顔をしていた。
「ちょ、ちょっと」
「あらあら、魔理沙には良くて私にはダメって訳?やっぱりそういう関係なんじゃ?」
「違うわよ!」
「ふふ、どちらにしろもう動けないんだからもう一人増えても変わんないでしょ?」
ああ、この顔はもう何を言っても無駄だ、ヘタをすれば魔理沙より頑固なんだから
「…ああもう、好きにしなさい」
「ふふ、ありがとう霊夢」
今まで意地悪そうな顔をしていた膝の上の金髪二号が無邪気に笑う、あまりに幸せそうな顔に毒気を抜かれてしまいそうだ。
「ねぇ霊夢、すごい発見をしたわ」
「ん?どうしたの?」
「したから見ると霊夢って一段と可愛く見えるわ」
「……寝言は寝てから言いなさい」
「ふふ、それじゃおやすみなさい」
こいつはさらっと爆弾を落としていくから油断できないのを忘れていた。紅魔館の図書館にも悪魔がいるが、コイツの方がよほど悪魔っぽい。
そんな悪魔も数分としないあいだに眠ってしまい、天使のような寝顔を浮かべている。早く災いの元となった立札を取り除かなければ、また増えてしまうそう巫女の勘が告げているので、今のうちに取ろうとする…
が、どうやらアリスが寝るときに邪魔だったらしく手が届かない所に除けてしまったらしい。
…もしもこれが今の状況を考えての行動だったらアリスは悪魔でも生ぬるいかもしれないと思った。
復讐も兼ねて二人の金髪の髪を結びつけて遊んでいると、またもや後ろからガタっという音がする。
「ご、ごめんなさい、お邪…」
「そのくだりはさっきアリスとやったわ」
「あら、そうなの」
少し残念そうなレミリアがスーっと飛んでくる、悪魔の話をしていたら本物が来るとは。どうして私の周りにはこう面倒事を起こそうとする奴が多いのだろうか。
「あら、今日は咲夜と一緒じゃないのね?」
「ええ、元々外出の予定はなかったから今はお仕事中よ。たまたま私の『面白い運命レーダー』が反応したから来てみれば、予想以上に面白そうね。一人ででも来て正解だったわ」
今の発言のせいで元々胡散臭い能力が、さらに胡散臭くなった。レミリアが言っていることが真実ならこれほど無駄な能力の使い方はないだろう
「…はぁ」
「ふふ、嬉しそうな顔ね、そんなに私に会いたかったのかしら?」
「あんたは、一度辞書で嬉しそうの意味を調べたほうがいいわ、立派な図書館が泣いているわよ」
「私は本より実践を大事にするタイプなのよ、そういうのはパチェがやってくれるの」
「親友に恵まれてるのね」
「そうね、パチェは幸せ者ね」
レミリアは噛み合わせる気のない会話をしながらポケットをゴソゴソしている。これは嫌な予感がする。
「というわけではいこれ」
小さい手に握られているのは今日何回も見た硬貨、どうやら目ざとく看板を見つけたようだ。この硬貨も賽銭箱の中で見つけられればすごく嬉しいのに今は会いたくない…
「見ての通りもう満員よ、諦めてくれないかしら」
「ええ、だからここで我慢しようと思うの」
レミリアはそういうと私の隣にちょこんと座ると私の肩に頭を乗せる。何が『だから』なのかわからないが、どうやら肩枕にするようだ。
「膝枕は残念だったけれど、これもなかなかね、気に入ったわ」
「勝手に気にいられても困るんだけど」
「霊夢、これは光栄なことなのよ?胸を張りなさい」
「はぁ…そんなことより、ここって案外日当たりいいわよ、大丈夫なの?」
「基本的には直射日光じゃなければ問題ないわ、それにこの前咲夜が香霖堂から面白いものを買ってきてね」
「面白いもの?」
「そうそう、『ひやけくりいむ』って言っていたかしら?あれ塗ったら日に当たっても大丈夫になったわ、少しベタベタするのがたまにキズだけど。多分高尚な魔術師が作ったのね、あんまり期待して無かったのだけれど、すごい効き目だわ」
確か早苗が前に持ってきた化粧品にそんなのがあった気がする。たかが化粧品で最大の弱点を克服したと知ったら横の吸血鬼と中世の吸血鬼ハンターはどんな顔をするだろうか。
「そうだ、ここも借りるわよ」
そういうとレミリアは手をとって自分の指を絡める。
「何してんのよ」
「いいじゃない、減るものでもないんだから」
「使える手が減るじゃない」
「使わなければいいじゃない、…ふぁ~」
身勝手な吸血鬼があくび一つ。こういう仕草も絵になるからレミリアはずるいと思う、気を抜いたら見とれてしまう、なんて言ったら信じるだろうか。
「吸血鬼の起きている時間帯じゃないから少し寝るわ」
「棺桶にでも入ってればいいのに」
「ここのほうが心地良いいのよ、それじゃおやすみなさい霊夢」
活動時間じゃないならおとなしく家で寝てればいいのに、こいつは何を考えてここに来たんだろうか。
パシャ
そんなことを考えているとシャッター音が響く
「あやややや、いつも記事のネタの提供ありがとうございます、今日もまたお世話になります霊夢さん」
「提供した覚えなんてないわ、あんたが勝手に『とって』いくだけでしょ?はぁ…記事でもなんでもしていいからこいつらなんとかしてくれないかしら」
「そんな事したら焼き鳥にされてしまいますよ」
やれやれとでも言いたげな動きをする文、こいつも変なレーダーでももっているのだろうか?
「そーいえば霊夢さん」
「なによ」
「私が記事にする上で真実を報道することを重要視していることは知っていますよね?」
「へーそれは私の人生始まって以来の衝撃の事実だわ」
「やっぱり、真実を報道するには極力自分も体験しなくてはなりません…ということで」
4人目の面倒事が目の前に降り立つ、どうせこいつも…。
「はいこれ」
外れて欲しい予想に限っては当たる、人生ってそんなものかもしれない。
「なーに悟ったような顔しているんですか?まぁいいです、それじゃあ失礼しますよっと」
文がレミリアの反対側の肩に頭を乗せる。手つきがいやらしかったのでつねってやったら引っ込んでいった。
「あ~これはいいですね、霊夢さんのぬくもりが伝わってきますし、それになにより風に乗って霊夢さんの甘い匂いがするのもグッドです」
「やめろこの変態天狗」
「おほぉ、さらに罵ってくれる機能付きですか、これはしびれますね」
「はぁ…無視がお好みかしら」
「そっけない霊夢さんも素敵ですねえ」
この変態天狗はある意味無敵かもしれない。
「どうせもあんたも徹夜かなんかして眠いんでしょ?」
「あやややや、いつの間に霊夢さんは覚り妖怪になったんですか?私の乙女ティックな気持ちもバレてしまいますねぇ」
「うるさい、さっさと寝ろ」
「いやー記事作りが忙しくてですね、もう少し楽しんでいたかったんですが…眠気が…」
「はいはい、お休み」
「おやすみなさいです」
…なによ、あんたの方がいい匂いじゃない
ゲフン!
全くこいつらはここを宿やか何かと勘違いしているのではないのだろうか?眠たいのであれば家でおとなしくしていればいいのに
「霊夢さ~んいらっしゃいますか?」
これで五人目、この声は早苗みたいだ、どうしてこういう時に限って来客が来るのだろうか
…どうせ本人に聞いても『守矢の奇跡がなせる技です!!』とかなんとか言うんだろうな
「今動けないから縁側までまわって」
「は~い、分かりました」
こっちまで気が抜けそうになるくらいのんきな返事だ、早苗らしい。とてとてという足音が近づいてくる。
「お待たせしました霊夢さんって…これ、どんな状況何ですか?」
「私が知りたいわ…」
頭が痛くなってくるような状況だが、このまま放っておくと早苗がかわいそうなので軽く説明する。
が、当の本人は立札を見ながら『はー』やら『へー』やら気の抜けた返事しか返さない、ちゃんと聞いているのだろうか?相変わらずマイペースだ
「つまり、私もお金を払えば霊夢さんとイチャイチャできるってことですね」
どうやら聞いていなかったらしい。早苗は私が止める前に懐からガマ口を取り出し、私に硬貨を差し出してくる。
「はい!霊夢さん」
「…はぁ、今更あんただけダメなんて言わないけど、どこも空いてないわよ」
「んー?そうですねー…それじゃ背中をお借りします!」
そういうと早苗はひょこひょこと私の後ろに回り、背中合わせで座る
「…それって楽しいの?」
「はい!背中越しに霊夢さんの心音が伝わって来て、その、なんというか…安心します」
「そんなもんなの?」
「そんなものです」
早苗は変わった子ではあるが今日も絶好調みたいだ。
「どうせあんたも徹夜か何かして寝不足なんでしょ?寝てもいいわよ」
「……?常識からして徹夜なんして他人の家に遊びに行くのでしょうか?」
まさか早苗に常識を説かれるとは、早苗が言ってることは至極真っ当だと思うのだが、すごく理不尽な気持ちだ
「とは言えそれはとても魅力的な提案ですね、しばらくお背中お借りしますね」
なんだ結局ねるんじゃないか
「お休み早苗」
「おやすみなさい、霊夢さん」
あたたかい…、少し早苗が言ったことが分かった。
これで五人目、流されるままに増えていく、両手に花なんて言葉もあるが、今の私は花に埋もれて身動き取れないって感じだ。仕方ない、こいつらが目を覚ますまで…
(じー)
目が合った
そうだコイツのことを忘れていた。いつも膝枕をねだってくる妖精の一人がこちらをじっと見つめている。どうやら見慣れない光景にどうしようか考えているみたいだ。
空いている方の手で立札のほうを指して見る。このために用意したのだ、妖精だけでも止めてみせる。
(?)
しまった、どうやら文字が読めないようだ。私の作戦ははじめから失敗していたらしい。しかし、諦めない
「お金が必要なのよ」
文字が読めなければ話せばいい、当然の理だ
(………!!)
どうやら分かってくれたようだ、しきりに頷いている
(ごそごそ、ガサガサ)
?…何をしているのだろうか?
「あい、どうど」
はい、どうぞ?…なんだろうこの綺麗な石は、受け取れってことだろうか。取り敢えずもらってみるか
(にっ!)
受け取ると満面の笑顔で抱きついてきた、どうやらさっきのはお金の代わりだったらしい。胸くっついた妖精は幸せそうに頬をすり寄せて来る、どうやらこれもお気に召したらしい。あーこれは次回から膝枕だけでは済みそうにないな。
しばらく嬉しそうにはしゃいでいた妖精は、次第にウトウトし始めた、どうやらこの子もおねむみたいだ
「あんたも寝る?」
(こくっ)
はぁ…私も寝ようかな
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私が目を覚ましたのはすっかり日が傾いた時刻だった。私にまとわりついていた奴らはいなくなっており、代わりに硬貨が置いてあった、どうやら延長料金らしい、なにげに律儀なやつらだ。
「あ~今日も結局何もできなかったわね」
どうせ何もしないのだけどね…ってのは置いといて、取り敢えずこの元凶の立札を始末することから始めようか。
「あら、おもしろそうな事が書いているわね」
神出鬼没のスキマ妖怪、まさか最後になって来るとは
「…紫、もう今日は店じまいよ、私の膝にはもう誰ものせる気はないわ」
ずっとまとわり疲れていたからか、微妙に体が痛い。
「ふふ、わかったわ、それじゃこうしましょうか」
「え?」
体がふわっと浮き、何か柔らかい物に着地する。
「立札には『誰が』膝枕するかは書いていないわよね、私が貴方に膝枕させてもらうわ」
どんな理屈だそれは。
「お疲れ様霊夢、今日も博麗の巫女としては百点だったわよ」
「…その採点基準おかしいんじゃないの」
「巫女としては落第点だけど、博麗の巫女としては百点よ」
「いい加減ね」
「本当に素直じゃないんだから、まぁいいわ、それじゃお休みなさい、霊夢」
「…ん」
さっきさんざん寝たからもういいわ、というセリフは心の中だけでつぶやくことにした。
………案外される側『も』悪くない、そう思った。
霊夢総受け、とても良いもので御座いましたw
超ほのぼのした。書いてくれてありがとうございますありがとうございます。
あいされいむばんざ~い
妖精の子も可愛い
そして1000円で5時間も霊夢が膝枕してくれると気付いて博麗神社を探す俺。
愛されいむはいいものだ
何はともあれ、あいされいむは素晴らしいものです