「赤と黒どっちだ?」
「赤!」
「残念、はずれー」
「じゃあ、これは?」
「うーん、赤!」
「せいかーい」
「次は?」
「次も赤!」
「わ、ジョーカーだ」
「こんなの当たらないよ」
授業が終わった後の寺子屋では、2人の女の子がトランプで遊んでいた。
背の低いおかっぱ頭の子が香苗、それより少し大きくて茶色っぽい癖毛の子が乃利である。
やっていたゲームは、単純に次に引くカードが赤か黒かを当てるゲームだ。
「ねぇ香苗ー、紅いお館の噂、聞いた?」
「紅いお館?」
「紅いお館の吸血鬼って、運命を操れるんだって」
「えー、嘘っぽい」
「本当らしいよ。占いやっても、絶対当たるらしいし」
「乃利ちゃん、占いとか好きだもんね」
「もし本当に運命操れるなら、わたしの運命も変えてほしいなぁ」
「どんなふうに?」
「うーーん。毎日綿菓子食べられるとか」
「あ! それいい! でも、わたしカルメラの方がいいかも」
「えー、綿菓子の方がいいよ」
「でも、運命なんか操れるわけないじゃん」
「神様とかなら操れるもん! 絶対!」
ぎゅっ、と両手を握りながら「絶対!」と乃利が強調する。
「本当に乃利ちゃん、神様とか、紅いお館の吸血鬼が操れると思ってるの?」
「だって、吸血鬼に神様だよ?」
「博麗のお姉ちゃんにボコボコにされてるのに?」
「博麗のお姉ちゃん、人間じゃないもん」
「でも、運命操れるなら、ボコボコにもされないんじゃない?」
「うーー、そ、それは手加減してるだけだもん!」
だんだん苦しくなってきた乃利が呻きながら言う。
「じゃあ、もし運命操れなかったら、乃利ちゃんのこと、こちょばしてもいい?」
「えーーっ、なんでわたしがこちょこちょされないとダメなのよ?」
「だって、嘘ついたってことだもん! 嘘ついたらいけないんだよ!」
「絶対できるもん!」
「じゃあ、嘘だったらこちょばすから」
「いいもん! でも、どうやって調べるの?」
「もし、運命操れるなら、絶対トランプが赤か黒か当てられるはず!」
「おー! なるほど! 香苗、頭いい!」
「えへへー」と香苗が笑う。
「おーい、そろそろ閉めるから、香苗も乃利も帰れー」
「「はーい」」
慧音に言われて、二人は帰り支度を始める。
その帰り道、乃利は少しだけ後悔していた。
「香苗にこちょこちょされるの、嫌だなー」
思わず言い返しちゃったけど、ただの噂だったのに。
ぎゅっと自分の体を抱きしめながら乃利は家路を急ぐのだった。
☆☆☆
「ねーねー、あなたは本当に神様なの?」
「おう。神様だとも」
香苗に訪ねられた諏訪子は「むん」と腕を組みながら言った。
「それで、あなたが吸血鬼?」
「そうさ。わたしは吸血鬼だ」
同じように尋ねられたレミリアがキラリと犬歯を光らせる。
まったく怯えることなく尋ねる香苗の横で、乃利は「もし本当だったらどうしよう」などと震えているが、実はまったく問題ない。
なんせ、慧音についてきてもらった現在地は博麗神社。
博麗のお膝元で、妖怪が人間に手出しできるわけなどないのだ。
「ねーねー、魔理沙お姉ちゃん。この2人、本当に神様と吸血鬼なの?」
「一応自称神様と自称吸血鬼だな。本当かはしらないが」
「えー、やっぱり怪しいよー。背もわたしたちと同じくらいだし」
「わたしも、実際本当に神様と吸血鬼なのか、怪しいと思ってるけどな」
霊夢に頼まれて、諏訪子とレミリアを連れてきた魔理沙が2人をからかうように言う。
頼んだ霊夢は、慧音とお茶を飲みながら談笑中だ。
「ちょっと魔理沙。どこからどう見たって、わたしは立派な神様でしょうが!」
「そうよ魔理沙! こんな立派な吸血鬼がどこに居るって言うのよ!」
「いや……、落ち付けって、おまえ等。そんなんじゃ本当に怪しくなってくるって」
「これが落ち着いてなんか居られるかって言うのよ! ねぇ、レミリア」
「そうよ。吸血鬼の誇りにかけて、魔理沙に認めさせるわ!」
「あのー、神様さんと、吸血鬼さん?」
「「はーい」」
乃利に話しかけられたとたん、騒いでいた諏訪子とレミリアがビンと正座をして返事をする。
「えっと、吸血鬼さんは紅いお館の吸血鬼さんですか?」
「いかにも、わたしが紅魔館のレミリア・スカーレットよ」
「それじゃあ、紅い館の吸血鬼さん。運命を操れるって、本当ですか?」
「ほう……。どうして、そう思ったんだい?」
「それは……、ちょっと噂で聞いたから」
「それじゃあ、諏訪子も呼んだのは?」
「魔理沙お姉ちゃんが、神様連れてきてくれるって言ったから……。神様なら運命も操れると思って」
「ふーん、なるほどねぇ」
レミリアがスッと目を細めて乃利の様子を観察する。
「それで、もしわたしたちが運命を操れたら、どうするつもりだい?」
しばしの沈黙のあと、諏訪子が言った。
「えっと、毎日カルメラ食べられるようにするとか」
「ちょっと! それ、わたしの方よ! 乃利のお願いは、綿菓子じゃなかったの?」
「え……、だってわたしカルメラでもいいし。香苗ちゃん、カルメラの方がいいんでしょ? それならわたしもカルメラでいいよ?」
「そんなのダメよ。わたしだけ得するなんて。それならカルメラだけじゃなくて、綿菓子も毎日食べられるようにしないと」
「わたしはいいよ。香苗ちゃんがいいなら」
「もう、いっつも乃利はそうなんだから!」
諏訪子とレミリアをそっちのけで騒ぎ続ける2人。
その様子を見て、魔理沙も含めた3人は、小さく笑った。
吸血鬼と神様、人間3人の部屋の中で、子供たちの賑やかな声だけが響き続ける。しばらく2人の口論が続いた後、魔理沙は静かに部屋を出ていった。
「それで、お二人さんは、どうやってわたしたちが運命を操れるか試すつもりだい?」
ようやく収まったころ、レミリアが尋ねた。
「あ、忘れてた。乃利、ちゃんともってきた?」
「もちろん。ちゃんと持ってきたよ」
そう言って、香苗がポケットからトランプを取り出す。
「吸血鬼さん、このトランプ、赤ですか? 黒ですか?」
よくトランプを切った後、一枚をレミリアの前に置いて香苗が尋ねた。
「うーん…………そうねぇ。黒」
「じゃあ、開きますよ」
香苗が小さな手でトランプをひっくり返す。
現れたのは、ハートの4だった。
「吸血鬼さん、はずれじゃないですか! やっぱり運命操れるっていうの嘘だったんですか?」
「まだ操れるとは言ってないんだけどねぇ。それに、操れたって、たまには外すことだってあるさ」
「それじゃあ、神様、このトランプは赤ですか? それとも黒ですか」
今度は諏訪子の前にトランプを置いて、香苗が尋ねる。
「赤! 神が言うんだから間違いないわ!」
自信満々に答える諏訪子。
後ろでは、乃利が両手を合わせて必死に正解を祈っている。
だが、めくられたカードは無情にもスペードの9だった。
「乃利ー、やっぱり嘘だったんじゃないのー?」
「そ、それは吸血鬼さんも神様も、まだ調子が出ないだけというか……」
「ずっとこのまんまだったら、本当にこちょばすから」
「絶対に操れるはずだもん!」
乃利は必死に吸血鬼と神様の復調を願ったが、その願いは届くことはなかった。
片っ端から外し続け、挙げ句の果てには「赤か黒!」と言った瞬間ジョーカーが現れた。
結局トランプ54枚すべてがめくられるまで、神様も吸血鬼も、1枚たりとも当てることができなかった。
「乃ー利ー、やっぱり嘘だったじゃん。運命なんか、操れっこないんだよ」
「わ! ちょっと香苗ちゃん!」
香苗に抱きつかれ、乃利が小さく悲鳴をあげる。
「まぁー、さすがに運命を操るなんてねぇ」
「わたしみたいな神様でも無理だよ。できるなら、カルメラとか綿菓子くらいは食べられるようにしてあげたいけど」
吸血鬼と神様が「うんうん」とうなずきながら言う。
「というわけで、乃利ちゃんは嘘ついたってことで、思いっきりこちょばすから」
「ちょ、香苗ちゃんやめて!」
「だーめー。嘘ついた子にはお仕置きしないと」
「おーい、おもしろいもの持ってきたぜー」
香苗が乃利をくすぐろうとした瞬間、魔理沙がいろいろなものを持って入ってきた。
「え! おもしろいものってなに? って、乃利逃げちゃだめだよー」
香苗が魔理沙に気をとられた瞬間に、乃利が素早く香苗の腕から抜け出す。
「ま、ちょっと見てなって。これからは、魔法使い霧雨魔理沙様の時間だぜ」
大仰なことを言ってから、魔理沙が次々と怪しげなものを用意する。
香苗と乃利にわかるのは水とザラメくらいで、ほかには、怪しげな白い粉と、白くて粘り気のある液体があった。
「まず、魔法の液体と、魔法の粉を混ぜるだろ」
粉と液体を小さな茶碗の上で混ぜて、魔理沙はゆっくりと練っていく。だんだん固まってきて白いペーストのようなものができる。
「これ、なに?」
「これは魔法の薬。今食べちゃうと呪われるから気をつけた方がいいぜ」
魔理沙の言葉に、香苗がコクンとうなずく。
「それじゃあ、こっからが本番だ」
魔理沙はお玉を用意するとザラメと水を入れて、ミニ八卦炉で暖める。しばらくするとザラメが溶け初めて、甘い香りが漂ってくる。
ふつふつと沸いたところで火から下ろすと、魔法の薬をを少し箸にとった。
「いよいよ魔法を使うぜ?」
魔理沙の言葉に、じっとお玉に顔を近づける香苗と乃利。
魔理沙は魔法の薬を水とザラメの入ったお玉に入れて、しばらくかき混ぜる。
「なにも……わっ!」
5秒ほどの沈黙のあと、お玉の中身が、何かが生きているかのように膨らみ始めた。10秒ほどで膨らみ切って、カルメラができあがる。
「あとは一回冷やしてから、軽く暖めれば」
水で濡らした布巾でお玉の底を冷やしたあと、お玉を軽く暖めると、カルメラがお玉からはずれる。
「これ、本当にカルメラ?」
「本当にカルメラだぜ。乃利もやってみるか?」
「え! わたしにもできるの?」
「運命は操れなくても、カルメラをつくる魔法くらいなら使えるぜ?」
「でも、わたし魔法は使えないよ?」
「魔法の粉と液体があれば大丈夫だぜ。ここに書いておくから、お母さんに頼めば用意してくれると思うぜ?」
魔理沙が香苗に一枚の紙を渡す。
そこには卵白や重曹などの言葉が書いてあった。
「わたし、読めないよ」
「慧音のところでちゃんと勉強をしてれば、そのうち読めるようになるさ。だから、ちゃんと勉強もするんだぜ?」
「うん。わかった」
「それじゃあ、魔法の勉強の時間だ」
真剣な顔で魔理沙からお玉を受け取り、乃利がカルメラを作り始める。
「香苗ちゃんは、いいお友達を持ったね」
「わ! 神様」
「乃利ちゃん、いい子だね」
「うん。わたし自慢のお友達だもん」
「じゃあ、今度は乃利ちゃんに内緒で、守矢神社ってところにくるといいよ」
「守矢神社?」
「そうしたら……、乃利ちゃんの大好きな綿菓子を作る魔法、教えてあげるから」
諏訪子は香苗にこっそり耳打ちした。
「神様、それ、本当?」
「本当だとも」
「運命操るみたいに嘘つかない?」
「絶対つかない」
「もし、嘘だったら、こちょばしてもいい?」
「いいよ」
「じゃあ、行く。でも、守矢神社ってどこにあるの?」
「妖怪の山だから、慧音とかに連れてきてもらった方がいいね」
「それなら、美鈴でも出そうか?」
「レミリア、いいの?」
「咲夜でもいいんだけど、さすがに刺激が強いだろうし」
「咲夜はね。いきなり妖怪の山についてたら、絶対香苗ちゃんがびっくりするもんね」
「美鈴なら、ちょうどいいからな」
「美鈴さんって人が迎えに来てくれるの?」
「うん。香苗ちゃんのところまで。一緒にうちまでおいで」
「危なくない?」
「美鈴と一緒なら大丈夫さ」
「じゃあ、今度神様のところまで行くね!」
諏訪子と香苗が指切りをして約束する。
「はい、これ香苗ちゃんの分」
ちょうど指切りをしたところで、乃利が香苗にカルメラを持ってきてくれた。
「乃利の分は?」
「わたしの分もちゃんとあるよ。あと、神様も吸血鬼さんの分も」
乃利が「どうぞ」と言いながら、諏訪子とレミリアにもカルメラを渡していく。
「カルメラなら、喉が渇くから飲み物用意した方がいいわよ」
「あ、博麗のお姉ちゃんだ」
「はい、これ香苗ちゃんの分」
霊夢が香苗に少し冷ましたお茶を渡す。
全員がカルメラとお茶を手に取って、ちょっと賑やかなお茶会だ。
神様、吸血鬼、半獣、巫女、魔法使い、人間の子供2人の団欒。
「そういえば、乃利って、博麗のお姉ちゃんのこと人間じゃないって言ってたんだよ」
香苗の発言に子供と霊夢以外の全員が吹き出し、お腹を抱えて笑う。
「あの……、それは博麗のお姉ちゃんが強いってことを言いたくて……」
乃利があわててフォローしようとするが、実は追い打ちになっていることに本人は気づいていない。
霊夢も子供相手にはいつものように強権を発動することはできない。
珍しく一方的に攻撃を受ける霊夢を中心に、賑やかなお茶会は夕暮れまで続いていった。
「赤!」
「残念、はずれー」
「じゃあ、これは?」
「うーん、赤!」
「せいかーい」
「次は?」
「次も赤!」
「わ、ジョーカーだ」
「こんなの当たらないよ」
授業が終わった後の寺子屋では、2人の女の子がトランプで遊んでいた。
背の低いおかっぱ頭の子が香苗、それより少し大きくて茶色っぽい癖毛の子が乃利である。
やっていたゲームは、単純に次に引くカードが赤か黒かを当てるゲームだ。
「ねぇ香苗ー、紅いお館の噂、聞いた?」
「紅いお館?」
「紅いお館の吸血鬼って、運命を操れるんだって」
「えー、嘘っぽい」
「本当らしいよ。占いやっても、絶対当たるらしいし」
「乃利ちゃん、占いとか好きだもんね」
「もし本当に運命操れるなら、わたしの運命も変えてほしいなぁ」
「どんなふうに?」
「うーーん。毎日綿菓子食べられるとか」
「あ! それいい! でも、わたしカルメラの方がいいかも」
「えー、綿菓子の方がいいよ」
「でも、運命なんか操れるわけないじゃん」
「神様とかなら操れるもん! 絶対!」
ぎゅっ、と両手を握りながら「絶対!」と乃利が強調する。
「本当に乃利ちゃん、神様とか、紅いお館の吸血鬼が操れると思ってるの?」
「だって、吸血鬼に神様だよ?」
「博麗のお姉ちゃんにボコボコにされてるのに?」
「博麗のお姉ちゃん、人間じゃないもん」
「でも、運命操れるなら、ボコボコにもされないんじゃない?」
「うーー、そ、それは手加減してるだけだもん!」
だんだん苦しくなってきた乃利が呻きながら言う。
「じゃあ、もし運命操れなかったら、乃利ちゃんのこと、こちょばしてもいい?」
「えーーっ、なんでわたしがこちょこちょされないとダメなのよ?」
「だって、嘘ついたってことだもん! 嘘ついたらいけないんだよ!」
「絶対できるもん!」
「じゃあ、嘘だったらこちょばすから」
「いいもん! でも、どうやって調べるの?」
「もし、運命操れるなら、絶対トランプが赤か黒か当てられるはず!」
「おー! なるほど! 香苗、頭いい!」
「えへへー」と香苗が笑う。
「おーい、そろそろ閉めるから、香苗も乃利も帰れー」
「「はーい」」
慧音に言われて、二人は帰り支度を始める。
その帰り道、乃利は少しだけ後悔していた。
「香苗にこちょこちょされるの、嫌だなー」
思わず言い返しちゃったけど、ただの噂だったのに。
ぎゅっと自分の体を抱きしめながら乃利は家路を急ぐのだった。
☆☆☆
「ねーねー、あなたは本当に神様なの?」
「おう。神様だとも」
香苗に訪ねられた諏訪子は「むん」と腕を組みながら言った。
「それで、あなたが吸血鬼?」
「そうさ。わたしは吸血鬼だ」
同じように尋ねられたレミリアがキラリと犬歯を光らせる。
まったく怯えることなく尋ねる香苗の横で、乃利は「もし本当だったらどうしよう」などと震えているが、実はまったく問題ない。
なんせ、慧音についてきてもらった現在地は博麗神社。
博麗のお膝元で、妖怪が人間に手出しできるわけなどないのだ。
「ねーねー、魔理沙お姉ちゃん。この2人、本当に神様と吸血鬼なの?」
「一応自称神様と自称吸血鬼だな。本当かはしらないが」
「えー、やっぱり怪しいよー。背もわたしたちと同じくらいだし」
「わたしも、実際本当に神様と吸血鬼なのか、怪しいと思ってるけどな」
霊夢に頼まれて、諏訪子とレミリアを連れてきた魔理沙が2人をからかうように言う。
頼んだ霊夢は、慧音とお茶を飲みながら談笑中だ。
「ちょっと魔理沙。どこからどう見たって、わたしは立派な神様でしょうが!」
「そうよ魔理沙! こんな立派な吸血鬼がどこに居るって言うのよ!」
「いや……、落ち付けって、おまえ等。そんなんじゃ本当に怪しくなってくるって」
「これが落ち着いてなんか居られるかって言うのよ! ねぇ、レミリア」
「そうよ。吸血鬼の誇りにかけて、魔理沙に認めさせるわ!」
「あのー、神様さんと、吸血鬼さん?」
「「はーい」」
乃利に話しかけられたとたん、騒いでいた諏訪子とレミリアがビンと正座をして返事をする。
「えっと、吸血鬼さんは紅いお館の吸血鬼さんですか?」
「いかにも、わたしが紅魔館のレミリア・スカーレットよ」
「それじゃあ、紅い館の吸血鬼さん。運命を操れるって、本当ですか?」
「ほう……。どうして、そう思ったんだい?」
「それは……、ちょっと噂で聞いたから」
「それじゃあ、諏訪子も呼んだのは?」
「魔理沙お姉ちゃんが、神様連れてきてくれるって言ったから……。神様なら運命も操れると思って」
「ふーん、なるほどねぇ」
レミリアがスッと目を細めて乃利の様子を観察する。
「それで、もしわたしたちが運命を操れたら、どうするつもりだい?」
しばしの沈黙のあと、諏訪子が言った。
「えっと、毎日カルメラ食べられるようにするとか」
「ちょっと! それ、わたしの方よ! 乃利のお願いは、綿菓子じゃなかったの?」
「え……、だってわたしカルメラでもいいし。香苗ちゃん、カルメラの方がいいんでしょ? それならわたしもカルメラでいいよ?」
「そんなのダメよ。わたしだけ得するなんて。それならカルメラだけじゃなくて、綿菓子も毎日食べられるようにしないと」
「わたしはいいよ。香苗ちゃんがいいなら」
「もう、いっつも乃利はそうなんだから!」
諏訪子とレミリアをそっちのけで騒ぎ続ける2人。
その様子を見て、魔理沙も含めた3人は、小さく笑った。
吸血鬼と神様、人間3人の部屋の中で、子供たちの賑やかな声だけが響き続ける。しばらく2人の口論が続いた後、魔理沙は静かに部屋を出ていった。
「それで、お二人さんは、どうやってわたしたちが運命を操れるか試すつもりだい?」
ようやく収まったころ、レミリアが尋ねた。
「あ、忘れてた。乃利、ちゃんともってきた?」
「もちろん。ちゃんと持ってきたよ」
そう言って、香苗がポケットからトランプを取り出す。
「吸血鬼さん、このトランプ、赤ですか? 黒ですか?」
よくトランプを切った後、一枚をレミリアの前に置いて香苗が尋ねた。
「うーん…………そうねぇ。黒」
「じゃあ、開きますよ」
香苗が小さな手でトランプをひっくり返す。
現れたのは、ハートの4だった。
「吸血鬼さん、はずれじゃないですか! やっぱり運命操れるっていうの嘘だったんですか?」
「まだ操れるとは言ってないんだけどねぇ。それに、操れたって、たまには外すことだってあるさ」
「それじゃあ、神様、このトランプは赤ですか? それとも黒ですか」
今度は諏訪子の前にトランプを置いて、香苗が尋ねる。
「赤! 神が言うんだから間違いないわ!」
自信満々に答える諏訪子。
後ろでは、乃利が両手を合わせて必死に正解を祈っている。
だが、めくられたカードは無情にもスペードの9だった。
「乃利ー、やっぱり嘘だったんじゃないのー?」
「そ、それは吸血鬼さんも神様も、まだ調子が出ないだけというか……」
「ずっとこのまんまだったら、本当にこちょばすから」
「絶対に操れるはずだもん!」
乃利は必死に吸血鬼と神様の復調を願ったが、その願いは届くことはなかった。
片っ端から外し続け、挙げ句の果てには「赤か黒!」と言った瞬間ジョーカーが現れた。
結局トランプ54枚すべてがめくられるまで、神様も吸血鬼も、1枚たりとも当てることができなかった。
「乃ー利ー、やっぱり嘘だったじゃん。運命なんか、操れっこないんだよ」
「わ! ちょっと香苗ちゃん!」
香苗に抱きつかれ、乃利が小さく悲鳴をあげる。
「まぁー、さすがに運命を操るなんてねぇ」
「わたしみたいな神様でも無理だよ。できるなら、カルメラとか綿菓子くらいは食べられるようにしてあげたいけど」
吸血鬼と神様が「うんうん」とうなずきながら言う。
「というわけで、乃利ちゃんは嘘ついたってことで、思いっきりこちょばすから」
「ちょ、香苗ちゃんやめて!」
「だーめー。嘘ついた子にはお仕置きしないと」
「おーい、おもしろいもの持ってきたぜー」
香苗が乃利をくすぐろうとした瞬間、魔理沙がいろいろなものを持って入ってきた。
「え! おもしろいものってなに? って、乃利逃げちゃだめだよー」
香苗が魔理沙に気をとられた瞬間に、乃利が素早く香苗の腕から抜け出す。
「ま、ちょっと見てなって。これからは、魔法使い霧雨魔理沙様の時間だぜ」
大仰なことを言ってから、魔理沙が次々と怪しげなものを用意する。
香苗と乃利にわかるのは水とザラメくらいで、ほかには、怪しげな白い粉と、白くて粘り気のある液体があった。
「まず、魔法の液体と、魔法の粉を混ぜるだろ」
粉と液体を小さな茶碗の上で混ぜて、魔理沙はゆっくりと練っていく。だんだん固まってきて白いペーストのようなものができる。
「これ、なに?」
「これは魔法の薬。今食べちゃうと呪われるから気をつけた方がいいぜ」
魔理沙の言葉に、香苗がコクンとうなずく。
「それじゃあ、こっからが本番だ」
魔理沙はお玉を用意するとザラメと水を入れて、ミニ八卦炉で暖める。しばらくするとザラメが溶け初めて、甘い香りが漂ってくる。
ふつふつと沸いたところで火から下ろすと、魔法の薬をを少し箸にとった。
「いよいよ魔法を使うぜ?」
魔理沙の言葉に、じっとお玉に顔を近づける香苗と乃利。
魔理沙は魔法の薬を水とザラメの入ったお玉に入れて、しばらくかき混ぜる。
「なにも……わっ!」
5秒ほどの沈黙のあと、お玉の中身が、何かが生きているかのように膨らみ始めた。10秒ほどで膨らみ切って、カルメラができあがる。
「あとは一回冷やしてから、軽く暖めれば」
水で濡らした布巾でお玉の底を冷やしたあと、お玉を軽く暖めると、カルメラがお玉からはずれる。
「これ、本当にカルメラ?」
「本当にカルメラだぜ。乃利もやってみるか?」
「え! わたしにもできるの?」
「運命は操れなくても、カルメラをつくる魔法くらいなら使えるぜ?」
「でも、わたし魔法は使えないよ?」
「魔法の粉と液体があれば大丈夫だぜ。ここに書いておくから、お母さんに頼めば用意してくれると思うぜ?」
魔理沙が香苗に一枚の紙を渡す。
そこには卵白や重曹などの言葉が書いてあった。
「わたし、読めないよ」
「慧音のところでちゃんと勉強をしてれば、そのうち読めるようになるさ。だから、ちゃんと勉強もするんだぜ?」
「うん。わかった」
「それじゃあ、魔法の勉強の時間だ」
真剣な顔で魔理沙からお玉を受け取り、乃利がカルメラを作り始める。
「香苗ちゃんは、いいお友達を持ったね」
「わ! 神様」
「乃利ちゃん、いい子だね」
「うん。わたし自慢のお友達だもん」
「じゃあ、今度は乃利ちゃんに内緒で、守矢神社ってところにくるといいよ」
「守矢神社?」
「そうしたら……、乃利ちゃんの大好きな綿菓子を作る魔法、教えてあげるから」
諏訪子は香苗にこっそり耳打ちした。
「神様、それ、本当?」
「本当だとも」
「運命操るみたいに嘘つかない?」
「絶対つかない」
「もし、嘘だったら、こちょばしてもいい?」
「いいよ」
「じゃあ、行く。でも、守矢神社ってどこにあるの?」
「妖怪の山だから、慧音とかに連れてきてもらった方がいいね」
「それなら、美鈴でも出そうか?」
「レミリア、いいの?」
「咲夜でもいいんだけど、さすがに刺激が強いだろうし」
「咲夜はね。いきなり妖怪の山についてたら、絶対香苗ちゃんがびっくりするもんね」
「美鈴なら、ちょうどいいからな」
「美鈴さんって人が迎えに来てくれるの?」
「うん。香苗ちゃんのところまで。一緒にうちまでおいで」
「危なくない?」
「美鈴と一緒なら大丈夫さ」
「じゃあ、今度神様のところまで行くね!」
諏訪子と香苗が指切りをして約束する。
「はい、これ香苗ちゃんの分」
ちょうど指切りをしたところで、乃利が香苗にカルメラを持ってきてくれた。
「乃利の分は?」
「わたしの分もちゃんとあるよ。あと、神様も吸血鬼さんの分も」
乃利が「どうぞ」と言いながら、諏訪子とレミリアにもカルメラを渡していく。
「カルメラなら、喉が渇くから飲み物用意した方がいいわよ」
「あ、博麗のお姉ちゃんだ」
「はい、これ香苗ちゃんの分」
霊夢が香苗に少し冷ましたお茶を渡す。
全員がカルメラとお茶を手に取って、ちょっと賑やかなお茶会だ。
神様、吸血鬼、半獣、巫女、魔法使い、人間の子供2人の団欒。
「そういえば、乃利って、博麗のお姉ちゃんのこと人間じゃないって言ってたんだよ」
香苗の発言に子供と霊夢以外の全員が吹き出し、お腹を抱えて笑う。
「あの……、それは博麗のお姉ちゃんが強いってことを言いたくて……」
乃利があわててフォローしようとするが、実は追い打ちになっていることに本人は気づいていない。
霊夢も子供相手にはいつものように強権を発動することはできない。
珍しく一方的に攻撃を受ける霊夢を中心に、賑やかなお茶会は夕暮れまで続いていった。
霊夢って種族は博霊の巫女だよね。人間超越しちゃってるもんね。
どうやら何者かに運命を操られたようだ
誰か止めて
諏訪子様は「早苗」と「香苗」で何か懐かしさを覚えられたりなさってるのでしょうか。
人それぞれの好みがありますが、私はカリスマやノブレス・オブリージュを保持した
おぜう様が好きです。
とても面白かったです。