Coolier - 新生・東方創想話

春近

2015/02/15 22:26:11
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さて、もう旧暦でも新年に入ったところ。
これからは暖かくなる一方、のはずなのだが、まだまだ寒い。先日雪が降ったばかり。
最近里では新しいものや、外の風習が流行っているらしい。博麗神社では豆まきの代わりとして豆料理祭りをやったという。そんな今時の事情はさておき、僕、森近霖之助は大人しく店先で豆をまいていた。
福を呼びたいのはもちろんのこと、曰く付きの品ばかりのこの店は、本当に鬼に出て行ってもらわないと大変なことになる可能性があるのである。
が、しかし、外のお酒かなんかが偶然入るとその鬼が買いに来たりして、しかも払いがかなり良かったりするのだから、(鬼の財宝も使い道があまりないようだ)どうしようもない。
結局気の無い声で三回ずつ外と内に豆をまけば、軒先の木に巣を作った親スズメが食べに来るという有様であった。
この寒いのに育児とは大変だね、と声をかけたが、チラリと僕を見たかと思えば、こちとら忙しいのよとばかりに食事に戻った。ご近所さんの冷たいあしらいに少し挫けかけたが、なんとか立ち上がる。図々しいご近所さんのことだ、ご飯の続きを求めて家に上がりこんで来かねない。もうすぐ庭先で雛の可愛い鳴き声を聞くことができるだろう、などと慰めのような考えを巡らせつつ、僕はさっさと店内へ引き上げることにしたのだった。



それから十日ほど、客足もなくしばらく。今日も僕は暇…もとい悠々自適の生活を送っている。
少し日差しが暖かい昼頃。緑茶を飲みながら本を読んでいると、表からドタバタと音がする。主が誰かはもう明らかだ。ため息をつきながら本を閉じるのと、ドアが勢いよく開くのが同時だった。
「よう、香霖!邪魔するぜ!」
「やあ、魔理沙。お邪魔はいいが、もう少し邪魔にならないかどうか気を使って欲しいものだ。ここはお店だし、僕だっていつも暇というわけではないんだよ?」
気だるげに本を置きながら向き直ると、魔理沙は全く信用していない顔である。
「ふーん、で、今は?」
「全然。見ての通り、ガラガラだよ。」
「ガラガラ?蛇でも飼い始めたのか?」
「どっちかっていうと鳥類かな。閑古鳥。」
「ああ、軒先の木に一匹だけデカイ雛がいたな。あれカッコウか。」
子スズメたちの運命は想像するだけ虚しいので考えないでおくとしよう。場を制するのは所有者でなく所有を主張する者だというのはこの世の理らしい。
魔理沙も箒を立てかけ帽子を置くと、売り物の椅子を引いてきていつものように腰かけた。(結構前から売れ残っているヤツである。)
「さて、何用だい?」
「用がなくちゃ来ちゃいけないのか?」
「ないこともないだろう?」
「まあ、それもそうだな。」
彼女はちょっと身を乗り出した。
「なあ、香霖。一つ問題を出そう。
ここに砂糖の袋と塩の袋が同じだけある。どちらもこぶしぐらいの大きさだな。
ただ中は同じ白い粉なんで、見た目じゃあんまり区別がつかない。」
「いや、結晶の形からわかるだろ?」
「そ、そうか?」
ちょっと面食らったような感じだったが、彼女は話を戻した。
「とにかくなんとなく砂糖っぽいほうとなんとなく塩っぽいのがあるが確証がない。
さて、どっちを舐めてみる?」
「舐めることは確定なんだな」
「それが手っ取り早いだろ。で、どっちだ?」
うーん。とんちか何かだろうか。とりあえず素直に考えよう。
「塩っぽい方、かな。」
「そ、そうか。」
ちょっと気落ちしたように見える。
「で、なんでだ?」
「いや、結局残った砂糖っぽいやつの方も確かめたくなるだろう?だったら先に塩を舐めておけば砂糖の甘さが引き立っていいというわけさ。」
僕的には名回答のつもりだったのだが、魔理沙はなにやら嬉しそうに机から身を乗り出してどやしてきた。
「なるほどな。このくいしんぼさんめ!」
「くいしんぼではないよ。少量をしっかり味わうんだ。美食家と言ってくれ。」
頰をつっつかれそうだったので椅子に深く腰掛けて回避すると、魔理沙は満足そうに立ち上がった。
「まあよかったぜ。なら問題ないだろ。」
「何がだい?」
「さてと、なんかいいもんはないかなーっと」
尋ねたが魔理沙は聞かぬフリで店内を物色し始めた。それが本当の目的かと一瞬思ったが、かといって何か真剣に探してるようでもなかった。
ほどなくして、おっ、これいいな、と何がいいのかよくわからない外界の人形を取り出した。
「ふなっしー人形」とかいう、なにやら気持ちの悪い顔をした人型の梨の人形である。
魔理沙が興味のある品とも思えない。
「さてと、お代だが…」
「お、いつもみたいに『借りてくぜ』で持っていかないのかい?」
魔理沙にしては珍しい。本当に。
「どっちかってと貸してくんだぜ。」
そういうと彼女は懐をさぐって何かを取り出すと、
「ほらこれだ。」
と言ってこっちに投げた。
投げたと言っても狭い店内。距離なんてそんなにはない。難なくキャッチして見てみると小さな包み紙に入った何かだった。
一体何かと開こうとすると、魔理沙はさっと後ろを向いて帽子へ手をかけた。
「さて、用も済ましたし帰るか。」
「え、もう帰るのか?」
ああ、と返事をしながら魔理沙は箒を取る。帽子をかぶりながら扉を開けて、もうすっかりお帰りになるといったご様子だ。
「じゃあまた、だぜ。」
「あ、ああ。」
ダラダラと長居しないのも珍しい。いや、そうでないにしても帰るのが早すぎるだろう。今日の魔理沙は特別変である。彼女特有の直球さというか、率直さがないのだ。
訝しむ僕を尻目に、少々慌てているのか緊張しているのか、少しカクカクした様子の魔理沙だったが、外へ出ようとする直前、何かを思い出したように、振り返ってこんなことを言った。
「時に香霖、里では今こんな言葉が流行ってるらしいぜ。」
なぜかガッツポーズを決める。
「『倍返しだ!』ってな。」
そういうと扉が閉まった。窓から飛んでいく姿が見える。全く、嵐のようだった。
本当に変なものだと思いつつ、気になる包み紙を開いた。そこにあったのは少し歪な形をした星型だのハート型だののこげ茶色の塊達だった。

「チョコレート、か。」
そういえばそういう風習があると聞いたことがある。外の世界では、2月の14日には、恋する少女が意中の男性にチョコレートをプレゼントして想いを伝えるという。
里でも去年話題になったかならなかったか。魔理沙が話していたのを覚えている。
しかしそこら辺は外の世界でも微妙な人間関係の機微があるのだろう。友チョコだの義理チョコだの、本命以外にもチョコをあげたりするらしい。
このチョコは形と作りの荒さから察するに、魔理沙の手作りのようだった。
甘いもの好きの魔理沙のことだ。何かと気が向いて、自分で作ってみたら余ったとかだろう。形の歪さを微妙に手直しした感が見えの張り具合を示している。
さて、と一息ついて、僕は立ち上がり倉庫へ向かった。紅茶かコーヒーがあったはずである。やはり洋物には洋物が合うだろう。外来もののカップもあったはずである。

その後倉庫をひっくり返して、最終的に選んだのは紅茶だった。
一口飲んで落ち着いたところで、いざ試食である。
本人が甘いもの好きなのだ。さぞや大量の砂糖が使われているだろう。砂糖は前は希少品だったが、最近は若干値が張るものの、入手が難しく無くなったというのも、里でこの行事が流行った一因と推測できる。

さて、食べてみるかな。




ちょっと歪んだハートのをつまみ上げ、思い切って口に放り込んだ。













その瞬間の口の中の悲劇たるやここ四半世紀屈指のものだった。一瞬にして口いっぱいに広がる苦味のあるしょっぱさ。しょっぱいを通り越して100%体に毒である。


「あのうっかりさんめ…。」


僕はしっかりと倍返ししてやろうと決心した。

そう、ちょうど一ヶ月後ぐらいに。
1日遅れたあ!
しょうがないじゃない。その日に思いついたんだもの。
どうも、星鍛冶鴉です。
久々の投稿で、色々とボロがありそうですが是非ご指摘お願いします。
カッコウって意外と怖いのね。
星鍛冶鴉
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コメント



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1.100名前が七つある程度の能力削除
概要通り、ほのぼのとした雰囲気が良かったです!
4.80奇声を発する程度の能力削除
良い感じの雰囲気でした
7.90手乗り霜削除
まずは誤字指摘を。
>僕的には名回答のつもりだったのだか、
の部分で「か」のところ、恐らく「が」ではないかと思います。
では感想を。
とても爽やかな気分で読ませて頂きました。
可憐な魔理沙も良いですね。では、一か月後を楽しみにしております。