Coolier - 新生・東方創想話

寂しい時~ Imperishable Night

2014/09/27 04:06:22
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鈴仙とてゐ 満月怖い、戦争怖い、皆怖い



「ダメ……やめっ……いやぁっ!」



 自分の叫び声で目を覚ます。呼吸は荒く、汗でシャツがべっとりと張り付いて気持ち悪い。今日もまた眠れない。満月の日はいつもそうだ。

 寝る前に前もって準備していた水差しから水をコップに注ぎ、一気に流しこむ。



「……ごめんなさい」



 無意識に謝罪の言葉が溢れる。こうなったらもう止まらない。これでも地上に降りてすぐよりは幾分かはマシになっている。姫や師匠に迷惑をかけるほど暴れるわけではなくなった。でも相変わらず満月の日は念の為に前もって胃の中は空っぽにしてある。

 もう地上に下りて一年近く経つというのに、私は未だに月に囚われている。



「ごめんなさい……」



 部屋の隅で耳をふさぎ、膝を抱えて小さくうずくまる。そんなことをしても無駄なのに。これ以上どこにも逃げられないというのに。



「ごめんなさい……」



 私は救われない。全てを見捨てて逃げてきたのだから。



「ごめんなさい……」



 助けなんて呼べるはずがない。私は助けるべき仲間を裏切ったのだから。



「ごめんなさい……」



 そう、これは自業自得なのだ。



「ごめんなさい……」
「夜中にさぁ、うるさいんだけど。ちょっと時間考えてくれない?」
「ごめんなさい……」
「はぁー……ちょっと聞いてる?」
「ごめんなさい……」
「鈴仙!」



 顔を掴まれてそのまま持ち上げられる。気が付くと隣の部屋で寝ていたはずのてゐがいた。いつの間にいたのだろうか。



「……てゐ?」
「大丈夫だから落ち着いて。ほら深呼吸」



 何も考えずにてゐの言うとおりにする。ほんの少しだけかもしれないけど楽になった気がする。



「大丈夫だよ。ここにはあんたを責める奴はいないから」
「……」
「そんなに自分を責めなくてもいいんだよ」



 そう言っててゐが私を抱きしめる。そしてあやすように優しく撫でる。



「大丈夫だよ」
「――――――くせに」
「うん?」
「何も……知らないくせに……」



 だがこの優しさに甘えてはいけない。私にはそんな資格はない。



「そうだね、私は何も知らない。だって話してくれないもん」
「てゐには……関係ない……」
「うーん……まぁたしかに月にいた頃のことなら私は無関係だね」
「じゃあ放っておいてよ!」



 そう言っててゐを突き飛ばす。見た目通り軽い身体は予想以上の勢いをつけて襖を越えて庭まで飛んで行く。



「あっ……わ、私の問題なんだから……」
「……」



 ゆっくりと立ち上がったてゐが再び私のところまで歩いてくる。暗くなっていてその表情はよく見えない。



「わ、私は」
「大丈夫」



 そう言って再びてゐが私を抱きしめる。



「昔のことは私には関係ない。でも今の鈴仙が苦しんでいるのは見過ごせない」
「……どうして?どうしてそんなに私に構うの?」
「鈴仙のことが大切だから」
「……私は……てゐが思っているよりずっとひどいやつだよ?」
「私のほうがひどいやつだから大丈夫だよ。大丈夫、何も心配いらないよ。何があっても私は鈴仙の味方でいてあげる。過去の罪だって私が許してあげる」



 てゐの言葉を受け入れてはいけない。頭では分かっているのに、心は求めてしまっている。一度溢れてしまった涙は最早止まらない。



「……ダメだよ。それじゃあ何の解決にもなっていない。この優しさに甘えるのは間違っている」
「大丈夫。間違っていてもいいじゃない、誰もが常に正しい訳じゃないんだから。確かに本来私は鈴仙を助けちゃいけないのかもしれない。でもそんなの関係ないよ。私は嘘をついてでも、騙してでも鈴仙を助けるから。最後まで鈴仙を騙し通したとしても、それでも私が鈴仙を救ってあげる。だから大丈夫だよ」



 そうして夜が更けていった。朝までてゐが私を抱きしめていてくれていたおかげで地上に来て以来、初めて満月の日に眠ることが出来た。


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